特許第6019336号(P6019336)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019336
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】防蟻用ポリエチレンシート
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/34 20060101AFI20161020BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 51/00 20060101ALI20161020BHJP
   A01N 31/14 20060101ALI20161020BHJP
   A01P 7/04 20060101ALI20161020BHJP
   A01M 29/34 20110101ALI20161020BHJP
   E04B 1/72 20060101ALN20161020BHJP
   C08L 23/04 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   A01N25/34 A
   A01N25/10
   A01N51/00
   A01N31/14
   A01P7/04
   A01M29/34
   !E04B1/72
   !C08L23/04
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-23605(P2015-23605)
(22)【出願日】2015年2月9日
(62)【分割の表示】特願2012-112892(P2012-112892)の分割
【原出願日】2012年5月16日
(65)【公開番号】特開2015-131816(P2015-131816A)
(43)【公開日】2015年7月23日
【審査請求日】2015年5月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000196750
【氏名又は名称】西本 孝一
(73)【特許権者】
【識別番号】000154727
【氏名又は名称】株式会社片山化学工業研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076484
【弁理士】
【氏名又は名称】戸川 公二
(72)【発明者】
【氏名】西本 孝一
(72)【発明者】
【氏名】安達 聖
(72)【発明者】
【氏名】小谷 佐知
【審査官】 井上 千弥子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−315332(JP,A)
【文献】 特開平07−041402(JP,A)
【文献】 特開2007−261974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
A01M
E04B
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.910g/cm3から0.930g/cm3である直鎖状低密度ポリエチレンから成る樹脂成形品に、ピレスロイド系、非エステルピレスロイド系、ネオニコチノイド系、フェニルピラゾール系、フェニルピロール系、第4級アンモニウム塩系、2,2-ジクロロアリルオキシ系から選ばれた有機系木材保存剤またはホウ酸もしくはヒバ油ら選ばれた一種以上の木材保存剤を単位面積当たり0.0091〜0.093g/m2配合して成り、厚み80〜150μmのシート状に形成されていることを特徴とする防蟻用ポリエチレンシート
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物の床下に施工する防蟻シートや電線やケーブルの被覆材等の材料として使用される防蟻性素材の改良、詳しくは、長期間にわたって優れた防蟻効果を持続できる安全性の高い防蟻用ポリエチレンシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの建築物でシロアリ被害の防止策がとられており、既知の具体策としては、防蟻剤(シロアリへの殺虫、防虫又は忌避作用を有する薬剤)を床下に散布する方法や、防蟻シート(不織布や紙、合成樹脂シート等に防蟻剤を塗布または添加したもの)を床板下面に貼り付ける方法、防蟻シートを基礎周辺に敷き詰める方法などが知られている。
【0003】
また、電線やケーブルに関しても、シロアリによる食害によって断線や通信障害を起こす危険性があるため、建築物と同様のシロアリ対策が求められるが、こちらも電線類の被覆材に防蟻剤(例えば、ドリン系あるいは有機リン系の薬剤)を添加して防蟻機能を付与する技術が既に公知となっている。
【0004】
しかし、上記従来のシロアリ対策では、多量の防蟻剤を使用する必要があるため、化学薬剤による環境汚染(例えば、土壌汚染等)や、建物内で揮発した化学薬剤による居住者の健康被害(例えば、シックハウス症候群)、散布薬剤の飛散・吸引による作業者の健康被害など、多くの社会問題を引き起こす懸念がある。
【0005】
しかも、樹脂成形によって形成されるシート材や電線類の被覆材に、多量の防蟻剤を添加すると樹脂材料の成形性が悪化したり、また添加された防蟻剤によって被覆材の耐久性や電気特性が低下したりするため、多量の防蟻剤を成形時に添加することは、製造面や機能面から見ても好ましくない。
【0006】
そこで、従来においては、化学薬剤を使用しない防蟻素材として、比較的強度の低い樹脂材料(低密度ポリエチレン樹脂等)中に強度の高い材料(超高分子量のシリコーンポリマー等)を分散させたものが提案されたが(特許文献1参照)、この素材は防蟻効果を得るためにある程度の厚みが必要となるため、用途が限定されてしまう。
【0007】
一方、透湿防水シートの分野では、高密度ポリエチレン繊維を部分的に溶着して繊維同士を密に絡め合わせることで、基材である不織布シートの透湿性と防蟻性を両立させる技術も提案されているが(特許文献2参照)、こちらの素材は逆に厚みを出すことが難しいため電線類の被覆材等での使用が困難となる。
【0008】
他方、本件発明者も、以前に化学薬剤を使用しない防蟻シートとして、合成樹脂層(ポリエステルやエチレンー酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン等)の間に、金属層(アルミニウムや銀、銅、鉄、亜鉛等)を挟み込んで積層一体化したものを開発したが(特許文献3参照)、この素材も構造が複雑化する分、製造コストが高く付き易い。
【0009】
また、従来においては、防蟻剤の抜け易さを考慮して樹脂材料を選択することで、防虫作用の持続性をコントロールする技術が公知となっているものの(例えば、特許文献4参照)、樹脂材料そのものに防蟻効果を見い出して、その特性を材料の選択基準とする技術は見受けられない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平5−174635号公報
【特許文献2】特開2004−11280号公報
【特許文献3】特開2009−30272号公報
【特許文献4】特開平8−302080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記の如き問題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、長期間にわたって優れた防蟻効果を持続させることができ、また、安全性を損なう化学薬剤の使用も著しく抑制でき、しかも、用途幅も広く製造コストの面でも有利な防蟻用ポリエチレンシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために試行錯誤的に試作と実験を重ねた結果、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)からなるシートがその分子構造に起因する優れた防蟻特性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
即ち、本発明は、防蟻素材に防蟻剤や防蟻効果を有する他の材料を含有しない直鎖状低密度ポリエチレンを用いて、直鎖状低密度ポリエチレンの分子構造が有する防蟻特性を利用した点に特徴がある。なお、直鎖状低密度ポリエチレンは、密度が0.910〜0.930g/cm3で、シングルサイト触媒を用いて重合されたものであることが好ましい。
【0014】
また、上記防蟻性素材は、直鎖状低密度ポリエチレンをシート形状に成形したものであって、この直鎖状低密度ポリエチレンの有する側鎖がシート全面に一様に分布した防蟻性ポリエチレンシートであることが望ましい。また特に、防蟻素材は、押出成形によって製造した厚み80〜250μmのシートにおいて顕著な防蟻効果を発揮する。
【0015】
そしてまた、上記防蟻性ポリエチレンシートを製造する際には、Tダイから溶融した直鎖状ポリエチレン樹脂を層流状態で面状に押し出すことで、低密度ポリエチレンの側鎖が全面に一様に分布したポリエチレンシートを成形できる。
【0016】
また、直鎖状ポリエチレン樹脂を溶媒中に溶解させて、この溶解されたポリエチレン樹脂を面状の支持体上に層流状態で流延して平面状に広げた後、溶媒を揮散させる方法によっても、上記低密度ポリエチレンの側鎖が全面に一様に分布したポリエチレンシートを成形できる。
【0017】
また他にも、環状ダイから溶融した直鎖状ポリエチレン樹脂をチューブ状に押し出した後、軟化状態の樹脂を内側から吹き込んだ圧縮空気によって膨張させるインフレーション法でも、上記低密度ポリエチレンの側鎖が全面に一様に分布したポリエチレンシートを成形できる。
【0018】
また、上記直鎖状低密度ポリエチレンに極めて少量の防蟻剤を配合することによって、直鎖状低密度ポリエチレンの経時劣化に伴う防蟻性能の減退を補うこともでき、これにより20年以上の極めて長期間にわたる防蟻効果の維持が可能となる。
【0019】
なお、防蟻剤を添加する際には、ピレスロイド系、非エステルピレスロイド系、ネオニコチノイド系、フェニルピラゾール系、フェニルピロール系、第4級アンモニウム塩系、2,2-ジクロロアリルオキシ系から選ばれた有機系木材保存剤、又はホウ酸もしくはヒバ油から選ばれた一種以上の木材保存剤を、樹脂成形品の単位面積当たり0.0091〜0.093g/m2配合すると、防蟻効果を20年以上持続させることができる。
【0020】
また更に、上記直鎖状低密度ポリエチレンから成る樹脂成形品を、厚み80〜150μmの防蟻シートとすれば、防蟻剤の体積当たりの配合量が大きくなるため、防蟻効果をより高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、直鎖状低密度ポリエチレン自体が持つ防蟻特性を利用して防蟻素材を構成したことにより、樹脂が経年劣化して機能を失うまでの長期間、防蟻効果を持続させることができる。しかも、化学薬剤の使用が殆ど不要となるため、環境汚染や居住者、作業者の健康被害を引き起こす危険も解消できる。
【0022】
また、上記直鎖状低密度ポリエチレンに対し、劣化後も防蟻効果が持続するように防蟻剤を補助的に添加する場合でも、環境や健康に影響のない極めて少量の防蟻剤を添加するだけでよいため、化学薬剤を多量に添加する従来の防蟻素材と比較して人体に対する安全性を格段に向上できる
【0023】
また更に、上記直鎖状低密度ポリエチレンは、他の熱可塑性樹脂と同様、自由な形状に成形することが可能であるため、多用途で使用することができ、また構造が複雑化することも成形性が損なわれることもないため、製造コストも低廉に抑えることができる。
【0024】
したがって、本発明により、防蟻素材が持つ基本的な防蟻性能に優れるだけでなく、自然環境や建築物の居住者、施工者にも優しく、また建築物や電線類等のシロアリ対策が必要な様々な場面で幅広く使用することができる新規の防蟻素材を提供できることから、本発明の実用的利用価値は頗る高い。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、本発明を実施するための具体的態様及び好ましい条件について説明する。
【0026】
[直鎖状低密度ポリエチレン]
直鎖状低密度ポリエチレンは、チグラー・ナッタ触媒等のマルチサイト触媒や、メタロセン触媒等のシングルサイト触媒により共重合して得られるエチレン−α−オレフィン共重合体であるが、本発明では、特に共重合されるα−オレフィンが5mol%程度までのものを直鎖状低密度ポリエチレンとして用いる。
【0027】
また、本発明で使用する直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、O.910〜0.930g/cm3とする。なお、上記触媒に関しては、重合活性が高く重合効率が優れている点、より有効な防蟻効果が発揮される点でシングルサイト触媒を用いることが好ましい。また、上記重合法としては、塊状重合や溶液重合、懸濁重合、気相重合等を採用できる。
【0028】
そしてまた、上記直鎖状低密度ポリエチレンを成形する際には、2種類以上の直鎖状低密度ポリエチレンをブレンドして成形することもできる。また、防蟻効果が失われない程度に、高圧法低密度ポリエチレン(HPLDPE)をブレンドして成形することもでき、これによって成形温度を下げる効果が得られる。
【0029】
一方、上記成形品の形態に関しても、シート状(防蟻シート)や筒状(電線類の被覆材)など、自由に選択することができ、また、成形方法に関しても、押出成形やプレス成形、射出成形、カレンダー成形、キャスティング成形、トランスファー成形など、種々の方法を採用できる。また、必要に応じて括剤や酸化チタン、顔料等を添加することもできる。
【0030】
また、防蟻シート用にシート状に成形する場合には、シートの厚みを50〜300μm、好ましくは80〜250μmとするのが良い。また、防蟻シートは、建築物の基礎のコンクリートスラブや割栗、目つぶし砂利等の上に敷いたり、支柱・ブロック塀の立上り部や床板下面に貼り付けて使用することができる。
【0031】
また更に、直鎖状低密度ポリエチレンをシート形状に成形する場合には、この直鎖状低密度ポリエチレンの有する側鎖がシート全面に一様に分布させることが望ましく、具体的には、Tダイから溶融した直鎖状ポリエチレン樹脂を層流状態で面状に押し出して成形するのが好ましい。
【0032】
また、上記側鎖がシート全面に一様に分布したポリエチレンシートは、上記方法以外にも、直鎖状ポリエチレン樹脂を溶媒中に溶解させて、この溶解されたポリエチレン樹脂を面状の支持体上に層流状態で流延して平面状に広げた後、溶媒を揮散させる方法によって成形できる。
【0033】
また他にも、環状ダイから溶融した直鎖状ポリエチレン樹脂をチューブ状に押し出した後、軟化状態の樹脂を内側から吹き込んだ圧縮空気によって膨張させるインフレーション法を採用して、上記ポリエチレンシートを成形することもできる。
【0034】
[直鎖状低密度ポリエチレンに添加する木材保存剤(防蟻剤)]
本発明において使用される木材保存剤としては、まず、ペルメトリン、シフルトリン、シフェノトリン、ビフェントリン、プラレトリン、アレスリン、シハロトリン、フェンバレレート、フルシトリネート、フルバリネート、シクロプロトリン、ピレトリン(除虫菊)などのピレスロイド系;エトフェンプロックス、シラフルオフェンなどの非エステルピレスロイド系;イミダクロプリド、アセタミプリド、クロチアニジン、ジノテフラン、チアメトキサムなどのネオニコチノイド系が挙げられる。
【0035】
加えて、フィプロニルなどのフェニルピラゾール系;クロルフェナピルなどのフェニルピロール系;ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、ジデシルジメチルポリオキシエチルアンモニウムプロピオネートなどの第4級アンモニウム塩系;ピリダリルなどの2,2-ジクロロアリルオキシ系なども挙げられる。
【0036】
また他にも、フェニトロチオン、プロペンタホス、シアノホス、フェンチオン、ジクロロフェンチオン、ピリミホスメチル、ダイアジノン、インキサチオン、マラチオン、チオメトン、ジスルホトン、プロチオホス、スルプロホス、プロフェノホス、ピラクロホス、ジクロルボス、ナレド、クロルフェンビンホス、プロパホス、イソフェンホス、エチオンなどの有機リン系;カルボスルファン、ベンフラカルブなどのカーバメート系;ホウ酸、八ホウ酸ナトリウム、ヒバ油なども使用できる。
【0037】
そして、上記の木材保存剤の中でも、特に人体に対する安全性の観点から、ピレスロイド系、非エステルピレスロイド系、ネオニコチノイド系、フェニルピラゾール系、フェニルピロール系、第4級アンモニウム塩系、2,2-ジクロロアリルオキシ系、ホウ酸、八ホウ酸ナトリウムまたはヒバ油を用いるのが好ましい。
【0038】
また、上記木材保存剤の配合量に関しては、直鎖状低密度ポリエチレンから成る樹脂成形品に、単位面積当たり0.0091〜0.093g/m2配合することで、防蟻効果を少なくとも20年以上持続させることができる。なお、この数値範囲は、厚み100μmのフィルムで計算すると、0.01〜0.1重量%の配合量に相当する。
【0039】
また、防蟻シートに木材保存剤を添加する場合には、防蟻シートの厚みを80〜150μmとして、単位体積当たりの木材保存剤の配合量を多くすることにより、防蟻効果を高めるのが好ましい。そしてまた、樹脂成形品が劣化し難い環境下で使用される場合には、上記木材保存剤の配合量を減らすこともできる。
【0040】
なお、上記木材保存剤の配合方法については、樹脂の混錬時に必要量の木材保存剤を直接添加する方法でも、木材保存剤を高濃度で配合したマスターバッチを予め調製して、このマスターバッチを直鎖状低密度ポリエチレンと混錬する方法でもよく、結果的に上記配合量となるように調整されていればよい。
【実施例】
【0041】
『防蟻シートの調整例(I)』
まず、この調製例(I)では、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)と高圧法により重合させた低密度ポリエチレン(HPLDPE)とを、以下の表1の配合割合(重量比)で混合し、これを押出成形して実施例A、実施例B及び比較例Cのフィルム(厚み100μm)を調製した。
【表1】
【0042】
なお、本調製例(I)では、上記直鎖状低密度ポリエチレンに、メタロセン触媒を用いて重合させたプライムポリマー社のエボリュー(登録商標)SPを使用すると共に、高圧法により重合させた低密度ポリエチレンには、旭化成工業社のサンテック(登録商標)LDを使用した。
【0043】
また、上記実施例Aのシート材と、比較例Cのシート材の硬さ(デュロメータ硬さ)及び引張弾性率を以下の方法で測定した。まず硬さについては、JIS-K-7215(プラスチックのデュロメータ硬さ試験方法)を参考にして、デュロメータD硬さを求めた。また、試験は厚さ100μmのフィルムを重ねて厚さ約8mmにした状態で行った。試験機は、ゴム・プラスチック硬度計アスカーD型およびゴム硬度計用定圧加重器CL-150(高分子機器(株)製)を使用した。一方、引張弾性率については、引張圧縮試験機(ミネベアTECHNO GRAPH AL-50kNB)を用いて試験を行った。
【0044】
その結果、硬さ(デュロメータ硬さ)は、実施例A(LLDPE)のシート材がHDD40、実施例C(HDLDPE)のシート材がHDD35であった。また、引張弾性率は、実施例A(LLDPE)のシート材が平均値156MPa(5回測定の各値,159,166,154,150,150(MPa))、実施例C(HDLDPE)のシート材が平均値227MPa(5回測定の各値,266,213,185,192,277(MPa))であった。
【0045】
「シロアリに対する防蟻効果の確認試験[1]」
この確認試験[1]では、上記調製例(I)で製造した各シートを、縦15cm、横20cmに切り取って木の枠に挟み込み、これをシロアリの巣の中に3ヶ月間放置して、食害の結果を観察した。その結果、以下の表2に示すように、実施例A及びBの防蟻シートは、比較例Cと比較して優れた防蟻効果を有していることが確認できた。
【表2】
【0046】
『防蟻シートの調製例(II)』
次に、この調製例(II)では、以下の態様で実施例1〜5及び比較例1〜4の防蟻シートを調製した。なお、本調製例においても、直鎖状低密度ポリエチレンには、プライムポリマー社のエボリュー(登録商標)SP(密度0.925g/cm3)を使用し、また高圧法により重合させた低密度ポリエチレンには、旭化成工業社のサンテック(登録商標)LD(密度0.921g/cm3)を使用した。また、念のため付言しておくと、本発明の防蟻性シートは以下の調製例に限定されない。
【0047】
「実施例1」
メタロセン触媒を用いて重合させた直鎖状低密度ポリエチレンを押出し成形(成形温度180℃)して得られた厚み100μmの防蟻性フィルム。
「実施例2」
上記実施例1で使用した直鎖状低密度ポリエチレンと高圧法により重合させた低密度ポリエチレンを同量配合し、押出し成形(成形温度175℃)して得られた厚み100μmの防蟻性フィルム。
「実施例3」
上記実施例1で使用した直鎖状低密度ポリエチレン100重量部にイミダクロプリドを0.05重童部配合し、押出し成形(成形温度180℃)して得られた厚み100μmの防蟻性フィルム。
「実施例4」
上記実施例1で使用した直鎖状低密度ポリエチレン100重量部にイミダクロプリドを0.03重量部配合し、押出し成形(成形温度180℃)して得られた厚み100μmの防蟻性フィルム。
「実施例5」
上記実施例1で使用した直鎖状低密度ポリエチレン100重量部にエトフェンプロックスを0.08重量部配合し、押出し成形(成形温度180℃)して得られた厚み100μmの防蟻性フィルム。
【0048】
「比較例1」
高圧法により重合させた低密度ポリエチレンを押出し成形(成形温度160℃)して得られた厚み100μmのフィルム。
「比較例2」
上記比較例1で使用した低密度ポリエチレン100重量部にイミダクロプリドを0.05重量部配合し、押出し成形(成形温度160℃)して得られた厚み100μmの防蟻性フィルム。
「比較例3」
エチレンビニルアセテート(酢酸ビニル10重量%含有)を押出し成形して得られた厚み200μmのフィルム(密度1.00g/cm3)。
「比較例4」
上記比較例3で使用したエチレンビニルアセテート100重量部にイミダクロプリド0.05重量部とシラフルオフェン0.05重量部とを配合し、押出し成形して得られた厚み200μmの防蟻性フィルム。
【0049】
「シロアリに対する防蟻効果の確認試験[2]」
この確認試験[2]では、上記調製例(II)で調製した各シートの防蟻効果を、以下の試験方法により確認した。
【0050】
<試験方法>
まず、各シートを円形状に切り取ってシート片を各種5枚ずつ用意する。そして、全てのシート片を60℃の恒温槽に一旦保存し、保存期間が1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、9ヶ月、12ヶ月を経過するごとにシート片を1枚ずつ取り出して、これらを下記試験に用いる。なお、60℃での保存期間6ヶ月は、常温(25℃)で保存した場合の10年間、60℃での保存期間12ヶ月は、常温(25℃)で保存した場合の20 年間に相当する。
【0051】
次に、試験に用いる器具について説明する。縦向きの2本のガラス管(内径約50mm、長さ約120mmの円筒管)を、横向きのガラス管(内径約20mm、長さ約30mmの円筒管)で連通状態に連結して成るU字状の容器に対して、予め乾燥殺菌した砂壌土を一方の縦管に底辺から40mmの高さまで詰め、更に水を散布し含水率25%の土壌とする。
【0052】
また、もう一方の縦向きのガラス管にも、砂壌土を底辺から20mmの高さまで詰め、同様に含水率25%となるように水を散布する。そしてまた、横向きガラス管にも同様の含水率に調整した砂壌土を詰め、U字状ガラス容器の下側部分が全て砂壌土で充填された状態となるようにする。
【0053】
そして、上記40mmの高さまで詰めた一方の縦管の砂壌土の上に、シート片をピッタリと円筒内壁との間に隙間が生じないように設置する。その後、設置したシート片の上に砂壌土を更に20mmの高さまで詰め、詰め終わった砂壌土の上にアカマツ木片(一辺が約30mmの立方体状のもの)を載置する。
【0054】
また更に、上記砂壌土を20mmの高さまで詰めたもう一方の縦管には、イエシロアリ(Coptotermes fo mosanous SHIRAKI)の職蟻300頭と兵蟻30頭を投入する。またここには餌用としてろ紙を細かく裁断したものも投入する。最後に、両縦管の開口部をアルミ箔で軽く閉じて(密封しない)、試験容器を28℃±2℃、相対湿度60%以上の恒温槽(暗所)に21日間静置し、白蟻の貫通状態を観察する。
【0055】
そして上記試験の結果、以下の表3に示すように、実施例1〜5の方が比較例1〜4よりも防蟻剤の量が少ないにもかかわらず、優れた防蟻効果を有していることが分かった。特に、防蟻剤の有無または配合量の条件が同じ実施例1と比較例1、実施例3と比較例2を比べれば、防蟻効果の持続性が大きく向上しているのが分かる。
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る「防蟻性素材」は、防蟻シートを製造する建材メーカーや、電線や通信ケーブルを製造する電線等メーカーにおいて大きな需要が見込まれ、特に従来の防蟻素材と比較して防蟻性能を損なわずにより低コストで製造できるメリットがあることから、産業上の利用可能性は非常に大きい。