(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019342
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ガラス用合紙の製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 25/04 20060101AFI20161020BHJP
B65D 57/00 20060101ALI20161020BHJP
B65D 85/48 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
D21H25/04
B65D57/00 B
B65D85/48
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-124184(P2012-124184)
(22)【出願日】2012年5月31日
(65)【公開番号】特開2013-249552(P2013-249552A)
(43)【公開日】2013年12月12日
【審査請求日】2015年4月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】304019399
【氏名又は名称】国立大学法人岐阜大学
(73)【特許権者】
【識別番号】391064120
【氏名又は名称】長良製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085523
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 文夫
(74)【代理人】
【識別番号】100078101
【弁理士】
【氏名又は名称】綿貫 達雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154461
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 由布
(72)【発明者】
【氏名】野々村 修一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 史隆
(72)【発明者】
【氏名】家田 利一郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 静男
【審査官】
長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−188785(JP,A)
【文献】
特開昭60−181399(JP,A)
【文献】
特開2003−041498(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D57/00−59/08
81/00−81/17
85/30−85/48
85/86
D21B1/00−1/38
D21C1/00−11/14
D21D1/00−99/00
D21F1/00−13/12
D21G1/00−9/00
D21H11/00−27/42
D21J1/00−7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙の製造方法であって、前記素材に対し照射エネルギー密度が5〜30mJ/cm2、波長が250nm以下の紫外線により紫外線照射処理を施すことにより、素材中にあるアクリルアミドのC=C二重結合を切断してアクリルアミドを変質させ、ガラス基板上にガラス用合紙を敷設して上から2kgの重りを押し付けた時に転写される合紙表面の有機系汚れが、面積比で0.1%以下となるようにすることを特徴とするガラス用合紙の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高度な表面性が要求されるガラス基板の間に挿入して傷付き等の発生を防ぐことができるガラス用合紙の
製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶ディスプレイや太陽光発電用パネル等に用いられるガラス基板は、異物の付着や傷のない高度な表面性が要求されている。このため、前記ガラス基板を運搬、保管、荷役等する際には、複数枚重ね合わせた各ガラス基板の間にガラス用合紙を挿入し、ガラス基板同士の接触による傷の生成を防いでいる。このようなガラス用合紙としては、例えば、特許文献1、2に示されるように種々のものが提案されている。
【0003】
一方、液晶ディスプレイや太陽光発電用パネル等の需要の高まりやガラス基板の大型化等に伴い、合紙の需要も多くなってきており、コスト削減の観点から安価な古紙や再生紙を利用してコストの低減を図ることが検討されている。
しかし、古紙や再生紙を用いた場合は、古紙中に含まれている汚れや印刷インクや粘着性異物等の不純物が合紙からガラス基板側へ転写され、ガラス基板表面の汚れを発生させるという現象が生じた。そのため、品質を確保するには古紙や再生紙の利用をやめ、高品質なパルプ原料のみからなる紙を用いることが望ましいのであるが、コスト高になるという問題があった。
【0004】
また、前記粘着性異物の不純物については、古紙を利用した場合に、粘着テープ等の完全に固化されていない粘着成分が粘着ピッチ異物として合紙中に分散され、微細欠陥を発生させる原因の一つになっているとの指摘がある(特許文献3を参照)。
しかしながら、特許文献3では、単に、粘着ピッチ異物の含有密度を所定値以下にすると微細欠陥の発生を防止できるとの記載があるに過ぎず、粘着ピッチ異物を除去する具体的な方法については何ら記載がなく、その示唆もない。
【0005】
このように、古紙や再生紙を利用して合紙を安価に製造することと、合紙中から有機系の汚れ成分を出さないようにすることとは相矛盾しており、現時点では両者を満足できる合紙の製造方法は提案されていないのが現状である。
従って、古紙や再生紙を利用して合紙を安価に製造することができ、しかも合紙中から有機系の汚れ成分を出さないようにしてガラス基板へ有機系の汚れが転写するのを確実に防止できる新たな技術の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−248409号公報
【特許文献2】特開2007−51386号公報
【特許文献3】特開2008−143542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、古紙や再生紙を用いた場合、合紙からガラス基板へ転写される有機系の汚れの主成分は、アクリルアミドからなる炭素系粘着物であることを解明した。そして、このアクリルアミドはC=Cの二重結合を有しているが、何らかのエネルギーを付与してこのC=C二重結合を切断し、ポリアクリルアミドに変質(重合化)させれば、転写による汚れの付着が減少することを究明し、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
本発明は上記理論に基づき、従来の問題点を解決して、古紙や再生紙を利用して合紙を安価に製造することができ、しかも合紙中から有機系の汚れ成分を出さないようにしてガラス基板へ汚れが転写するのを防止することができるガラス用合紙の
製造方法を提供することを目的として完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた
本発明のガラス用合紙の製造方法は、古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙の製造方法であって、前記素材に対し
照射エネルギー密度が5〜30mJ/cm2、波長が250nm以下の紫外線により紫外線照射処理を施すことにより、素材中にあるアクリルアミドのC=C二重結合を切断してアクリルアミドを変質させ
、ガラス基板上にガラス用合紙を敷設して上から2kgの重りを押し付けた時に転写される合紙表面の有機系汚れが、面積比で0.1%以下となるようにすることを特徴とするものである。
【0010】
【0011】
【発明の効果】
【0012】
本発明では、古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙の製造方法であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施すことにより、素材中にあるアクリルアミドのC=C二重結合を切断してアクリルアミドを変質させるようにしたので、素材原料に古紙や再生紙を利用しても、汚れが合紙からガラス基板へ転写することがなくなる。
【0013】
また本発明では、紫外線照射処理を、照射エネルギー密度が5〜30mJ/cm
2の紫外線により行うので、小さいエネルギーによりアクリルアミドのC=C二重結合を効率よく切断して変質させることができるうえ、紙の素材自体が変質して汚れを発生させることもない。
【0014】
また本発明では、C=C二重結合の結合エネルギーよりも短い波長(250nm以下)の紫外線で、効率よくC=C二重結合を切断することができる。
【0015】
更に本発明では、素材中にあるアクリルアミドが変質されて、ガラス基板に押し付けた時に転写される合紙表面の有機系汚れが、面積比で0.1%以下となっているものとしたので、原料に古紙や再生紙を利用したにもかかわらず、有機系汚れの発生が少ない高品質の合紙が得られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】紫外線(172nm)を照射前と照射後の合紙を押し付けた場合のガラス基板表面を示す光学顕微鏡画像である。
【
図2】紫外線(222nm)を照射前と照射後の合紙を押し付けた場合のガラス基板表面を示す光学顕微鏡画像である。
【
図3】紫外線(308nm)を照射前と照射後の合紙を押し付けた場合のガラス基板表面を示す光学顕微鏡画像である。
【
図4】紫外線照射エネルギー密度と汚れ(面積比)の関係を示すグラフである。
【
図6】紫外線(222nm)の照射密度を5〜30mJ/cm
2とした時の合紙を押し付けた場合のガラス基板表面を示す光学顕微鏡画像である。
【
図7】紫外線(222nm)の照射密度を5mJ/cm
2未満とした時の合紙を押し付けた場合のガラス基板表面を示す光学顕微鏡画像である。
【
図8】紫外線(222nm)の照射密度を30mJ/cm
2より大きくした時の合紙を押し付けた場合のガラス基板表面を示す光学顕微鏡画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の好ましい実施の形態を示す。
本発明は、古紙や再生紙を含有する素材を利用したガラス用合紙の製造方法であって、前記素材に対し紫外線照射処理を施すことにより、素材中にあるアクリルアミドのC=C二重結合を切断してアクリルアミドを変質させるようにしたことを特徴とするガラス用合紙の製造方法である。
前記古紙や再生紙は、新聞古紙や各種の印刷物古紙や各種の紙容器古紙などに代表されるが、パルプ古紙として使用されるあらゆる古紙を対象とするものである。これらの古紙や再生紙を利用した場合は、インク由来の鉱油成分や自然分解で生じるリグノセルロース成分由来の有機系成分からなる不純物の汚れが発生し、これがガラス基板へ転写されて汚れを発生させると言われている。そして、前記汚れの発生がガラス用合紙の原料として古紙や再生紙を利用することの阻害要因となっていた。
なお、前記古紙や再生紙の使用量は100%でもよいし、バージンパルプに対し任意の量だけ添加してもよい。
【0018】
本発明者は、前記の合紙からガラス基板へ転写されて付着する有機系の汚れは、アクリルアミド(C
3H
5NO)であることを解明した。そして、この付着したアクリルアミドは、C=C二重結合を切断し、重合化することにより、ポリアクリルアミドへと変化すると、合紙からガラス基板へ転写されにくくなることを突き止めた。
前記のアクリルアミド及び重合化したポリアクリルアミドの化学式は、下記の[化1]、[化2]に示すとおりである。
【0021】
そこで本発明者は、ガラス基板へ付着する前の合紙表面におけるアクリルアミドを重合化し、ポリアクリルアミドへ変化させてしまえば、合紙からガラス基板へ転写される有機系の汚れの付着量が減少できると考えた。
そして、古紙や再生紙を含有する素材に対し、紫外線照射処理を施すことにより、素材中に含まれるアクリルアミドのC=C二重結合を切断し重合化することによって、ポリアクリルアミドへと変質させ、これにより合紙表面からガラス基板へ転写される汚れを低減させることに成功したのである。
【0022】
以下に、前記紫外線照射処理につき説明する。
ガラス基板として7×7mmの太陽電池用ガラス基板(旭硝子株式会社製)を準備して、このガラス基板上にガラス用合紙を敷設し、上から2kgの重りを押し付けた。その後、合紙を取り除き、ガラス基板の表面を光学顕微鏡で観察し転写された汚れの有無を確認した。
図1は、波長が172nmの紫外線を照射前と30分間照射後の合紙を、前記太陽電池用ガラス基板に押し付けた場合のガラス基板表面を示す光学顕微鏡画像である。
図2は、波長が222nmの紫外線の場合、
図3は、波長が308nmの紫外線の場合の同様のガラス基板表面の光学顕微鏡画像である。画像内の黒い部分は合紙から基板へ転写したアクリルアミドやポリアクリルアミドを主成分とする有機系の汚れである。
【0023】
波長172nm、222nmの紫外線を照射した合紙を用いたガラス基板においては、基板表面の黒いよごれが減少していることが確認できる。これに対し、308nmの紫外線を照射した合紙を用いたガラス基板では、黒いよごれの量には大きな変化は見られなかったことが確認できた。
【0024】
前述の[化1]に示す有機系の汚れの主成分であるアクリルアミドは、C=C二重結合を切断すると、[化2] に示すポリアクリルアミドに変質(重合化)する。このC=C二重結合の結合エネルギーは約588mJ/molであり、これとエネルギーが等しい光の波長は202nmであることから、紫外線照射により前記の変質(重合化)をさせるためには、波長が202nmと同等、若しくはそれに近い250nm以下の紫外線を照射することが好ましいことを解明した。
【0025】
図4は、紫外線照射エネルギー密度(mJ/cm
2)と汚れの面積比(%)の関係を示すグラフである。また、
図5は
図4を近似曲線で表したグラフである。グラフには、照射エネルギー密度を変化させた波長172nm、222nm、308nmの紫外線処理が施された合紙を用いた場合の測定結果がプロットしてある。
【0026】
図4より、波長172nm、222nmの紫外線を照射した合紙をガラス基板へ押し付けた場合においては、紫外線を照射していない合紙を押し付けたガラス基板上の汚れの面積比と比較して、照射エネルギー密度が5〜30mJ/cm
2において汚れの付着面積が減少していることが確認できた。一方、波長308nmの紫外線を照射した合紙を押し付けたガラス基板は、照射エネルギー密度を変化させても、紫外線照射を行っていない合紙を押し付けたものと比較して大きな変化はなかった。
【0027】
これは紫外線を照射し、合紙表面に含まれる有機系汚れの主成分であるアクリルアミドを重合化してポリアクリルアミドへ変質させることにより、合紙とポリアクリルアミドの密着性が向上する、若しくはポリアクリルアミドとガラス基板の密着性が低下することで、ガラス基板上の汚れが減少したものと考えられる。
【0028】
図6は、波長が222nmの紫外線において、照射密度を5〜30mJ/cm
2とした時の合紙を押し付けた場合のガラス基板表面を示す光学顕微鏡画像である。また、
図7は、照射密度を5mJ/cm
2未満とした時、
図8は照射密度を30mJ/cm
2より大きくした時の同様の光学顕微鏡画像である。
照射エネルギー密度が小さい(5mJ/cm
2未満)場合は十分な変質(重合化)が起こらず、汚れの転写量に大きな変化が見られないか、若しくは増加する傾向がみられた。一方、照射エネルギー密度が大きい(30mJ/cm
2より大きい)場合は、紫外線は汚れの成分だけでなくセルロースを主成分とする合紙も変質(分解)してしまい、分解した合紙の成分によるガラス基板へ転写した汚れの付着量の増加が確認できた。
以上より、前記紫外線照射処理は、照射エネルギー密度が5〜30mJ/cm
2の紫外線によりを行うことが好ましいことが判明した。
【0029】
以上のように、素材に対し紫外線照射処理を施すことにより、素材中にあるアクリルアミドのC=C二重結合を切断してポリアクリルアミドに変質させたガラス用合紙は、素材中に含まれるアクリルアミドが変質されており、ガラス基板に押し付けた時に転写される合紙表面の有機系汚れが低減されたものとなっている。
図4からも明らかなように、本発明のガラス用合紙においては、転写される合紙表面の有機系汚れが面積比で0.1%以下となっており、従来の紫外線を未照射の合紙の場合の汚れが面積比で0.12〜0.18(%)であったのに比べて十分に改善されたことが確認できた。
【0030】
なお、以上の説明では合紙を用いる対象としてガラス基板と表現したが、このガラス基板は運搬、保管、荷役等する際に、複数枚重ね合わせた各ガラス基板の間に、傷付き防止のためにガラス用合紙が挿入されるあらゆるガラス製品を意味するものである。例えば、液晶用やプラズマ用や有機EL用のディスプレイ、タッチパネル用のガラスカバー、太陽光発電用のガラスカバーやガラス基板、自動車等のフロント、リア、サイド用ガラス等、及びこれらに類する全てのガラス製品を含んでいる。