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特許6019343プラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法及び成膜方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019343
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】プラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/515 20060101AFI20161020BHJP
   C23C 16/26 20060101ALI20161020BHJP
   H05H 1/24 20060101ALI20161020BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C23C16/515
   C23C16/26
   H05H1/24
   G11B5/84 B
【請求項の数】6
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-166888(P2012-166888)
(22)【出願日】2012年7月27日
(65)【公開番号】特開2014-25114(P2014-25114A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年6月8日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】595152438
【氏名又は名称】株式会社ユーテック
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【弁理士】
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 利行
(72)【発明者】
【氏名】本多 祐二
(72)【発明者】
【氏名】田中 正史
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩二
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−515541(JP,A)
【文献】 特表2002−535490(JP,A)
【文献】 特開平04−180569(JP,A)
【文献】 特開2010−007126(JP,A)
【文献】 特開2000−226657(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/00−16/56
G11B 5/84
H05H 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された第1及び第2のアノードと、
前記チャンバー内に配置された第1及び第2のカソードと、
前記チャンバー内に配置される被成膜基板を保持する保持部と、
前記第1及び第2のアノードに電気的に接続された第1の直流電源と、
前記第1及び第2のカソードに電気的に接続された交流電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバー内を排気する排気機構と、
第1のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加し、第2のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加するように制御する制御部と、
を具備し、
前記被成膜基板の一方の面が前記第1のアノード及び前記第1のカソードに対向するように配置され、前記被成膜基板の他方の面が前記第2のアノード及び前記第2のカソードに対向するように配置され、
前記制御部は、前記第1及び第2のアノードの両方同時に前記第1の電圧が印加されることがなく、前記第1及び第2のアノードの両方同時に前記第2の電圧が印加されることがないように制御され、
前記第2の電圧は0Vより大きく、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きく、前記第2の電圧は、前記第1の電圧の1〜50%の電圧であり、
前記制御部は、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上100Hz以下の範囲の周波数で繰り返し、
前記制御部はシーケンサを有し、前記シーケンサによって前記周波数の制御を行うことを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項2】
請求項において、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部に保持された前記被成膜基板と前記第1のアノード及び前記第1のカソードそれぞれとの間の空間を覆うように設けられ、フロート電位とされる第1のプラズマウォールと、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部に保持された前記被成膜基板と前記第2のアノード及び前記第2のカソードそれぞれとの間の空間を覆うように設けられ、フロート電位とされる第2のプラズマウォールと、を具備することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記保持部に保持された前記被成膜基板に電気的に接続された第3の直流電源を具備することを特徴とするプラズマCVD装置。
【請求項4】
請求項1乃至のいずれか一項に記載のプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法において、
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を前記保持部に保持し、
前記チャンバー内で前記第1及び第2のカソードそれぞれと前記第1及び第2のアノードそれぞれとの間の放電により前記原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させて炭素が主成分である保護層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【請求項5】
チャンバー内に配置された第1及び第2のアノードと第1及び第2のカソードを有するプラズマCVD装置を用いて基板に成膜する成膜方法において、
前記プラズマCVD装置は制御部を有し、前記制御部はシーケンサを有し、
前記チャンバー内に前記基板を、その一方の面が前記第1のアノード及び前記第1のカソードに対向するように、且つその他方の面が前記第2のアノード及び前記第2のカソードに対向するように配置し、
第1のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
第2のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で前記原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
前記第1及び第2のタイミングに前記第1及び第2のカソードに交流電圧が印加されており、
前記第1及び第2のアノードの両方同時に前記第1の電圧が印加されることがなく、前記第1及び第2のアノードの両方同時に前記第2の電圧が印加されることがなく、
前記第2の電圧は0Vより大きく、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きく、前記第2の電圧は、前記第1の電圧の1〜50%の電圧であり、
前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上100Hz以下の範囲の周波数で繰り返し、前記シーケンサによって前記周波数の制御を行うことを特徴とする成膜方法。
【請求項6】
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した後に炭素が主成分である保護層を形成する磁気記録媒体の製造方法において、
請求項に記載の成膜方法により保護層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の両面に成膜するプラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法及び成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のプラズマCVD装置は、チャンバー内の被成膜基板の両側にイオン源を配置し、それらのイオン源に高周波パルスのプラズマ電源によって高周波電圧を印加することで、チャンバー内で原料ガスをプラズマ状態として被成膜基板の両面に加速衝突させて両面成膜する装置である。このように被成膜基板の両側でプラズマを生成させると、プラズマが相互干渉してしまい、面内均一性良く膜を形成することが困難である。そこで、プラズマの相互干渉を抑制した成膜方法を実現するためのプラズマCVD装置として、図7に示すものが提案されている。
【0003】
図7に示すように、プラズマCVD装置は、処理チャンバー10と、スイッチ9を介してバイアス電圧8への電気的接続11を有する基板ホルダー12とを含む。基板ホルダー12は処理チャンバー10内で基板14を支持する。イオン源20,22は基板14の両側に配置されている。処理チャンバー10は、伝導性があり、アースされている。処理の間、必要に応じて、電気的バイアスが基板14に印加される。
【0004】
イオン源20は陽極30および電子源を含む。電子源は、陽極30の近傍に位置するフィラメント32およびフィラメント32に接続されたフィラメントパワー源34を含む。イオン源22は陽極40ならびに陽極40の近傍に位置するフィラメント42およびフィラメント42に接続されたフィラメントパワー源44とから成る電子源を含む。フィラメントパワー源34,44は、各イオン源20,22内に電子を発生させるために、それぞれフィラメント32,42を電気的に加熱する。フィラメント32,42はそれぞれのイオン源に対する陰極として機能する。陽極30,40は、以下で説明するように、それぞれのイオン源20,22を付勢するためのパワー源50に接続されている。
【0005】
ガス源54が処理ガスを処理チャンバー10に供給する。とくに、ガス源54は陽極30,40と基板14との間の領域のイオン源20,22のそれぞれに、ガスを供給する。
【0006】
ガスが、チャンバーに連結された真空ポンプ60によりチャンバー10から排気される。ガス源54および真空ポンプ60は、チャンバー10内のガス流速および圧力の制御を可能にする。
【0007】
動作中、イオン源20,22のそれぞれは、処理ガスのイオンを形成するために、処理ガスをイオン化する。イオンは、付着またはエッチングのために、基板14に向けられる。イオン源20,22が付勢されると、処理チャンバー内の陽極30,40の近傍にプラズマが発生する。フィラメント32,42は、処理ガス分子のイオン化のための電子が、プラズマ内に供給される。イオンは、基板表面のプラズマシースを横切り、基板14の基板表面に加速される。図7のプラズマCVD装置は、基板14の両側の同時処理を可能にする。
【0008】
図7のプラズマCVD装置において、イオン源20,22は、陽極の一方のみが常に付勢されるように同期した、時間多重化法により付勢される。とくに、多重化電圧はイオン源20,22の陽極30,40に印加される。図8に示すように、陽極30,40の電圧は時間の関数で示されている。付勢電圧が時間T1,T3,T5のとき、陽極30に印加され、付勢電圧が時間T2,T4のとき、陽極40に印加される。陽極30,40に印加された電圧は、時間的に重なり合うことがなく、その結果イオン源の一方のみが常に付勢される。イオン源が交互にオンオフされ、イオン源の間のイオンとプラズマ電子の相互作用が除去される。電子は一方の陽極により、他方の陽極に交互に集められる。同期された、または時間多重化された操作により、複雑なシールド、または一方のプラズマを他方のプラズマから電気的に絶縁するためのグリッドの必要性がなくなる。
【0009】
陽極30,40に印加される交番電圧は好適に 約1kHzから約100kHzより低い周波数をもつ。一般的に、陽極電圧の周波数は、イオン源20,22内のイオンの反応回数と比較して低くあるべきである。このことは、イオン源が、陽極電圧のオンオフ時と比較して急速にオンオフに切り替わることを確実にする(例えば特許文献1参照)。
【0010】
図7に示すプラズマCVD装置の陽極30,40に1kHzから100kHzの高周波電圧を印加するパワー源50として、通常、高周波のパルスを使えるDCプラズマ電源を用いる。しかし、そのDCプラズマ電源は、作製するのに高度な技術を必要とするため、価格が高くなりがちである。
【0011】
また、図7に示すプラズマCVD装置では、図8に示すように陽極に印加する電圧の位相をずらすための位相シフターをさらに設備しなければならないが、この位相シフターは高価である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特許3930185(図1図2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の一態様は、被成膜基板の両側でプラズマを生成させてもプラズマの相互干渉を抑制できるプラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法または成膜方法を提供することを課題とする。
また、本発明の一態様は、プラズマの相互干渉を抑制できるプラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法または成膜方法をより安価に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以下に、本発明の種々の態様について説明する。
(1)チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された第1及び第2のアノードと、
前記チャンバー内に配置された第1及び第2のカソードと、
前記チャンバー内に配置される被成膜基板を保持する保持部と、
前記第1及び第2のアノードに電気的に接続された第1の直流電源と、
前記第1及び第2のカソードに電気的に接続された交流電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバー内を排気する排気機構と、
第1のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加し、第2のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加するように制御する制御部と、
を具備し、
前記被成膜基板の一方の面が前記第1のアノード及び前記第1のカソードに対向するように配置され、前記被成膜基板の他方の面が前記第2のアノード及び前記第2のカソードに対向するように配置され、
前記第2の電圧は0Vより大きく、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きいことを特徴とするプラズマCVD装置。
【0015】
上記のプラズマCVD装置によれば、常に被成膜基板の一方側でのみ強いプラズマを生成させ、被成膜基板1の他方側では弱いプラズマを生成させるため、プラズマの相互干渉を抑制することができる。
【0016】
(2)上記(1)において、
前記制御部は、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことを特徴とするプラズマCVD装置。
【0017】
上記(2)のプラズマCVD装置によれば、より安価にプラズマCVD装置を製造することができる。
【0018】
(3)上記(1)において、
前記制御部は、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上100Hz以下の範囲の周波数で繰り返し、
前記制御部はシーケンサを有し、前記シーケンサによって前記周波数の制御を行うことを特徴とするプラズマCVD装置。
(4)上記(1)乃至(3)のいずれか一項において、
前記制御部は、前記第1及び第2のアノードの両方同時に前記第1の電圧が印加されることがなく、前記第1及び第2のアノードの両方同時に前記第2の電圧が印加されることがないように制御することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0019】
(5)上記(1)において、
前記制御部は、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間に第3のタイミングを有し、前記第3のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの両方に前記第1の電圧を印加するように制御することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0020】
上記(5)のプラズマCVD装置によれば、被成膜基板の一方側に強いプラズマを生成させ、被成膜基板1の他方側に弱いプラズマを生成させるタイミングを設けることにより、プラズマの相互干渉を抑制することができる。
【0021】
(6)チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された第1及び第2のアノードと、
前記チャンバー内に配置された第1及び第2のカソードと、
前記チャンバー内に配置される被成膜基板を保持する保持部と、
前記第1及び第2のアノードに電気的に接続された第1の直流電源と、
前記第1及び第2のカソードに電気的に接続された交流電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバー内を排気する排気機構と、
第1のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加し、第2のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加するように制御する制御部と、
を具備し、
前記被成膜基板の一方の面が前記第1のアノード及び前記第1のカソードに対向するように配置され、前記被成膜基板の他方の面が前記第2のアノード及び前記第2のカソードに対向するように配置され、
前記第2の電圧は0Vであり、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きく、
前記制御部は、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間に第3のタイミングを有し、前記第3のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの両方に前記第1の電圧を印加するように制御することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0022】
上記(6)のプラズマCVD装置によれば、被成膜基板の一方側でのみプラズマを生成させるタイミングを設けることによりプラズマの相互干渉を抑制することができる。
【0023】
(7)上記(5)または(6)において、
前記制御部は、前記第1のタイミング、前記第3のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことを特徴とするプラズマCVD装置。
(8)上記(5)または(6)において、
前記制御部は、前記第1のタイミング、前記第3のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを10Hz以上100Hz以下の範囲の周波数で繰り返し、
前記制御部はシーケンサを有し、前記シーケンサによって前記周波数の制御を行うことを特徴とするプラズマCVD装置。
【0024】
(9)上記(1)乃至(8)のいずれか一項において、
前記第2の電圧は、前記第1の電圧の1〜50%(好ましくは10〜30%)の電圧であることを特徴とするプラズマCVD装置。
【0025】
(10)チャンバーと、
前記チャンバー内に配置された第1及び第2のアノードと、
前記チャンバー内に配置された第1及び第2のカソードと、
前記チャンバー内に配置される被成膜基板を保持する保持部と、
前記第1及び第2のアノードに電気的に接続された第1の直流電源と、
前記第1及び第2のカソードに電気的に接続された交流電源と、
前記チャンバー内に原料ガスを供給するガス供給機構と、
前記チャンバー内を排気する排気機構と、
第1のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加し、第2のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加するように制御する制御部と、
を具備し、
前記被成膜基板の一方の面が前記第1のアノード及び前記第1のカソードに対向するように配置され、前記被成膜基板の他方の面が前記第2のアノード及び前記第2のカソードに対向するように配置され、
前記第2の電圧は0Vであり、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きく、
前記制御部は、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことを特徴とするプラズマCVD装置。
【0026】
上記(10)のプラズマCVD装置によれば、被成膜基板の両側で同時にプラズマを生成させることがなく、常に被成膜基板の一方側でのみプラズマを生成させるため、プラズマの相互干渉を抑制することができる。さらに、10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で電圧印加を行うため、プラズマCVD装置をより安価に製造することができる。
【0027】
(11)上記(1)乃至(10)のいずれか一項において、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部に保持された前記被成膜基板と前記第1のアノード及び前記第1のカソードそれぞれとの間の空間を覆うように設けられ、フロート電位とされる第1のプラズマウォールと、
前記チャンバー内に配置され、前記保持部に保持された前記被成膜基板と前記第2のアノード及び前記第2のカソードそれぞれとの間の空間を覆うように設けられ、フロート電位とされる第2のプラズマウォールと、を具備することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0028】
(12)上記(1)乃至(11)のいずれか一項において、
前記保持部に保持された前記被成膜基板に電気的に接続された第3の直流電源を具備することを特徴とするプラズマCVD装置。
【0029】
(13)上記(1)乃至(12)のいずれか一項に記載のプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法において、
非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を前記保持部に保持し、
前記チャンバー内で前記第1及び第2のカソードそれぞれと前記第1及び第2のアノードそれぞれとの間の放電により前記原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させて炭素が主成分である保護層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【0030】
(14)チャンバー内に配置された第1及び第2のアノードと第1及び第2のカソードを有するプラズマCVD装置を用いて基板に成膜する成膜方法において、
前記チャンバー内に前記基板を、その一方の面が前記第1のアノード及び前記第1のカソードに対向するように、且つその他方の面が前記第2のアノード及び前記第2のカソードに対向するように配置し、
第1のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
第2のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で前記原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
前記第1及び第2のタイミングに前記第1及び第2のカソードに交流電圧が印加されており、
前記第2の電圧は0Vより大きく、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きいことを特徴とする成膜方法。
【0031】
(15)上記(14)において、
前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことを特徴とする成膜方法。
(16)上記(14)において、
前記制御部は、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上100Hz以下の範囲の周波数で繰り返し、
前記制御部はシーケンサを有し、前記シーケンサによって前記周波数の制御を行うことを特徴とする成膜方法。
【0032】
(17)上記(14)において、
前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間に第3のタイミングを有し、前記第3のタイミングに、前記第1及び第2のカソードに交流電圧が印加され、且つ前記第1及び第2のアノードの両方に前記第1の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で前記原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜することを特徴とする成膜方法。
【0033】
(18)チャンバー内に配置された第1及び第2のアノードと第1及び第2のカソードを有するプラズマCVD装置を用いて基板に成膜する成膜方法において、
前記チャンバー内に前記基板を、その一方の面が前記第1のアノード及び前記第1のカソードに対向するように、且つその他方の面が前記第2のアノード及び前記第2のカソードに対向するように配置し、
第1のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
第3のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの両方に前記第1の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で前記原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
第2のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で前記原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
前記第1乃至第3のタイミングに前記第1及び第2のカソードに交流電圧が印加されており、
前記第2の電圧は0Vであり、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きいことを特徴とする成膜方法。
【0034】
(19)上記(17)または(18)において、
前記第1のタイミング、前記第3のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことを特徴とする成膜方法。
(20)上記(17)または(18)において、
前記制御部は、前記第1のタイミング、前記第3のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを10Hz以上100Hz以下の範囲の周波数で繰り返し、
前記制御部はシーケンサを有し、前記シーケンサによって前記周波数の制御を行うことを特徴とする成膜方法。
【0035】
(21)上記(14)乃至(20)のいずれか一項において、
前記第2の電圧は、前記第1の電圧の1〜50%(好ましくは10〜30%)の電圧であることを特徴とする成膜方法。
【0036】
(22)チャンバー内に配置された第1及び第2のアノードと第1及び第2のカソードを有するプラズマCVD装置を用いて基板に成膜する成膜方法において、
前記チャンバー内に前記基板を、その一方の面が前記第1のアノード及び前記第1のカソードに対向するように、且つその他方の面が前記第2のアノード及び前記第2のカソードに対向するように配置し、
第1のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
第2のタイミングに、前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加することにより、前記チャンバー内で前記原料ガスをプラズマ状態として前記基板に加速衝突させて成膜し、
前記第1及び第2のタイミングに前記第1及び第2のカソードに交流電圧が印加されており、
前記第2の電圧は0Vであり、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きく、
前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことを特徴とする成膜方法。
【0037】
(23)非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した後に炭素が主成分である保護層を形成する磁気記録媒体の製造方法において、
上記(14)乃至(22)のいずれか一項に記載の成膜方法により保護層を形成することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。
【発明の効果】
【0038】
本発明の一態様によれば、被成膜基板の両側でプラズマを生成させてもプラズマの相互干渉を抑制できるプラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法または成膜方法を提供することができる。
また、本発明の一態様によれば、プラズマの相互干渉を抑制できるプラズマCVD装置、磁気記録媒体の製造方法または成膜方法をより安価に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を模式的に示す断面図である。
図2】(A)は第1のアノード電極104aに印加される電圧と時間の関係、(B)は第2のアノード電極104bに印加される電圧と時間の関係を示す第1の制御によるタイミングチャート、(C)は第2のアノード電極104bに印加される電圧と時間の関係、(D)は第1のアノード電極104aに印加される電圧と時間の関係を示す第2の制御によるタイミングチャートである。
図3】(A)は第2のアノード電極104bに印加される電圧と時間の関係、(B)は第1のアノード電極104aに印加される電圧と時間の関係を示す第3の制御によるタイミングチャート、(C)は第2のアノード電極104bに印加される電圧と時間の関係、(D)は第1のアノード電極104aに印加される電圧と時間の関係を示す第4の制御によるタイミングチャートである。
図4】(A)は図1に示すプラズマ処理装置を用いて被成膜基板1にDLC膜10を成膜した写真、(B)は(A)に示す被成膜基板1上に成膜されたDLC膜10の膜厚を模式的に示す断面図である。
図5】(A)は図1に示すプラズマ処理装置を用いて被成膜基板1にDLC膜11を成膜した写真、(B)は(A)に示す被成膜基板1上に成膜されたDLC膜11の膜厚を模式的に示す断面図である。
図6】(A)は第1のアノードコーン104aに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャート、(B)は第2のアノードコーン104bに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートである。
図7】従来のプラズマCVD装置を模式的に示すブロック図である。
図8図7に示すプラズマCVD装置の陽極に印加する電圧と時間の関係を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下では、本発明の実施の形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0041】
<プラズマCVD装置>
図1は、本発明の一態様に係るプラズマCVD装置を模式的に示す断面図である。このプラズマCVD装置は被成膜基板(例えばディスク基板)1に対して左右対称の構造を有しており、被成膜基板1の両面に同時に成膜可能な装置である。
【0042】
プラズマCVD装置はチャンバー102を有しており、このチャンバー102内には、例えばタンタルからなるフィラメント状の第1及び第2のカソード電極(第1及び第2のカソードフィラメント)103a,103bが形成されている。第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれの両端はチャンバー102の外部に位置する第1及び第2のカソード電源(第1及び第2の交流電源)105a,105bに電気的に接続されており、第1及び第2のカソード電源105a,105bはチャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。第1及び第2のカソード電源105a,105bとしては例えば0〜50V、10〜50A(アンペア)の電源を用いることができる。第1及び第2のカソード電源105a,105bの一端はアース106に電気的に接続されている。
【0043】
チャンバー102内には、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれの周囲を囲むようにロート状の形状を有する第1及び第2のアノード電極(第1及び第2のアノードコーン)104a,104bが配置されており、第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれはスピーカーのような形状とされている。
【0044】
第1のアノードコーン104aは第1のスイッチ121aを介して第1のアノード電源(第1のDC(直流)電源)107aに電気的に接続されており、第1のDC電源107aはチャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。第1のDC電源107aのプラス電位側が第1のスイッチ121aを介して第1のアノードコーン104aに電気的に接続されており、第1のDC電源107aのマイナス電位側がアース106に電気的に接続されている。
【0045】
第2のアノードコーン104bは第2のスイッチ121bを介して第2のアノード電源(第2のDC(直流)電源)107bに電気的に接続されており、第2のDC電源107bはチャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。第2のDC電源107bのプラス電位側が第2のスイッチ121bを介して第2のアノードコーン104bに電気的に接続されており、第2のDC電源107bのマイナス電位側がアース106に電気的に接続されている。
【0046】
第1及び第2のスイッチ121a,121b、第1及び第2のDC電源107a,107bそれぞれは、図示せぬ制御部によって制御される。これにより、第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれに印加される電圧が制御される。なお、第1及び第2のDC電源107a,107bとしては例えば0〜500V、0〜7.5A(アンペア)の電源を用いることができる。
【0047】
上記の制御部は、例えば以下の第1〜第4の制御を行うものである。また、制御部はシーケンサを有しているとよい。
【0048】
[第1の制御:図2(A),(B)]
第1の制御は、第1のタイミングに、第1の直流電源によって第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加し、第2のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加するように制御し、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すものである。第2の電圧は0Vであり、第1の電圧は第2の電圧より大きい。
【0049】
以下に具体的に説明する。
図2(A)は第1のアノード電極104aに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートであり、図2(B)は第2のアノード電極104bに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートである。
【0050】
第1の制御は、図2(A),(B)に示す0.00〜0.02秒である第1のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1のアノード電極104aに第1の電圧である0Vを印加しながら第2のアノード電極104bに第2の電圧である75Vを印加し、図2(A),(B)に示す0.02〜0.04秒である第2のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1のアノード電極104aに第2の電圧である75Vを印加しながら第2のアノード電極104bに第1の電圧である0Vを印加し、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すものである。なお、シーケンサが周波数制御を行うとよく、その場合の周波数は10〜100Hzの範囲が好ましい。
【0051】
上記の第1の制御によれば、被成膜基板1の両側で同時にプラズマを生成させることがなく、常に被成膜基板1の一方側でのみプラズマを生成させるため、プラズマの相互干渉を抑制することができる。従って、面内均一性良く膜を形成することができる。さらに、10Hz以上400kHz以下の範囲の周波数で電圧印加を行うため、プラズマCVD装置をより安価に製造することができる。
【0052】
[第2の制御:図2(C),(D)]
第2の制御は、第1のタイミングに、第1の直流電源によって第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加し、第2のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加するように制御する。第2の電圧は0Vより大きく、第1の電圧は第2の電圧より大きい。なお、第2の電圧は、第1の電圧の1〜50%(好ましくは10〜30%)の電圧であることが好ましい。
【0053】
なお、第2の制御は、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことが好ましく、前記第1及び第2のアノードの両方同時に前記第1の電圧が印加されることがなく、前記第1及び第2のアノードの両方同時に前記第2の電圧が印加されることがないことが好ましい。
【0054】
以下に具体的に説明する。
図2(C)は第2のアノード電極104bに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートであり、図2(D)は第1のアノード電極104aに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートである。
【0055】
第2の制御は、図2(C),(D)に示す0.00〜0.02秒である第1のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1のアノード電極104aに第1の電圧である75Vを印加しながら第2のアノード電極104bに第2の電圧である10Vを印加し、図2(C),(D)に示す0.02〜0.04秒である第2のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1のアノード電極104aに第2の電圧である10Vを印加しながら第2のアノード電極104bに第1の電圧である75Vを印加し、前記第1のタイミング及び前記第2のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すものである。なお、シーケンサが周波数制御を行うとよく、その場合の周波数は10〜100Hzの範囲が好ましい。
【0056】
上記の第2の制御によれば、常に被成膜基板1の一方側でのみ強いプラズマを生成させ、被成膜基板1の他方側では弱いプラズマを生成させるため、プラズマの相互干渉を抑制することができる。従って、面内均一性良く膜を形成することができる。また、10Hz以上400kHz以下の範囲の周波数で電圧印加を行うため、プラズマCVD装置をより安価に製造することができる。
【0057】
[第3の制御:図3(A),(B)]
第3の制御は、第1のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加し、第2のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加し、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間に第3のタイミングを有し、前記第3のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの両方に前記第1の電圧を印加するように制御する。第2の電圧は0Vであり、第1の電圧は第2の電圧より大きい。なお、第2の電圧は、第1の電圧の1〜50%(好ましくは10〜30%)の電圧であることが好ましい。
【0058】
なお、第2の制御は、前記第1のタイミング、前記第3のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことが好ましい。
【0059】
以下に具体的に説明する。
図3(A)は第2のアノード電極104bに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートであり、図3(B)は第1のアノード電極104aに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートである。
【0060】
第3の制御は、図3(A),(B)に示す0.01〜0.02秒である第1のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1のアノード電極104aに第1の電圧である75Vを印加しながら第2のアノード電極104bに第2の電圧である0Vを印加し、図3(A),(B)に示す0.02〜0.03秒である第3のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1及び第2のアノード電極104a,104bの両方に第1の電圧である75Vを印加し、図3(A),(B)に示す0.03〜0.04秒である第2のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1のアノード電極104aに第2の電圧である0Vを印加しながら第2のアノード電極104bに第1の電圧である75Vを印加し、図3(A),(B)に示す0.04〜0.05秒である第3のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1及び第2のアノード電極104a,104bの両方に第1の電圧である75Vを印加し、前記第1のタイミング、前記第3のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すものである。なお、シーケンサが周波数制御を行うとよく、その場合の周波数は10〜100Hzの範囲が好ましい。
【0061】
上記の第3の制御によれば、被成膜基板1の一方側でのみプラズマを生成させるタイミングを設けることによりプラズマの相互干渉を抑制することができる。従って、面内均一性良く膜を形成することができる。また、10Hz以上400kHz以下の範囲の周波数で電圧印加を行うため、プラズマCVD装置をより安価に製造することができる。
【0062】
[第4の制御:図3(C),(D)]
第4の制御は、第1のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に第1の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に第2の電圧を印加し、第2のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの一方に前記第2の電圧を印加しながら前記第1及び第2のアノードの他方に前記第1の電圧を印加し、前記第1のタイミングと前記第2のタイミングとの間に第3のタイミングを有し、前記第3のタイミングに、前記第1の直流電源によって前記第1及び第2のアノードの両方に前記第1の電圧を印加するように制御する。第2の電圧は0Vより大きく、前記第1の電圧は前記第2の電圧より大きい。なお、第2の電圧は、第1の電圧の1〜50%(好ましくは10〜30%)の電圧であることが好ましい。
【0063】
なお、第2の制御は、前記第1のタイミング、前記第3のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すことが好ましい。
【0064】
以下に具体的に説明する。
図3(C)は第2のアノード電極104bに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートであり、図3(D)は第1のアノード電極104aに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートである。
【0065】
第4の制御は、図3(C),(D)に示す0.01〜0.02秒である第1のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1のアノード電極104aに第1の電圧である75Vを印加しながら第2のアノード電極104bに第2の電圧である10Vを印加し、図3(C),(D)に示す0.02〜0.03秒である第3のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって、第1及び第2のアノード電極104a,104bの両方に第1の電圧である75Vを印加し、図3(C),(D)に示す0.03〜0.04秒である第2のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって、第1のアノード電極104aに第2の電圧である10Vを印加しながら第2のアノード電極104bに第1の電圧である75Vを印加し、図3(C),(D)に示す0.04〜0.05秒である第3のタイミングに、第1及び第2のDC電源107a,107bによって第1及び第2のアノード電極104a,104bの両方に第1の電圧である75Vを印加し、前記第1のタイミング、前記第3のタイミング、前記第2のタイミング及び前記第3のタイミングを10Hz以上400kHz以下(好ましくは10Hz以上1kHz未満)の範囲の周波数で繰り返すものである。なお、シーケンサが周波数制御を行うとよく、その場合の周波数は10〜100Hzの範囲が好ましい。
【0066】
上記の第4の制御によれば、被成膜基板1の一方側に強いプラズマを生成させ、被成膜基板1の他方側に弱いプラズマを生成させるタイミングを設けることにより、プラズマの相互干渉を抑制することができる。従って、面内均一性良く膜を形成することができる。また、10Hz以上400kHz以下の範囲の周波数で電圧印加を行うため、プラズマCVD装置をより安価に製造することができる。
【0067】
チャンバー102内には被成膜基板1が配置されており、この被成膜基板1は第1及び第2のカソードフィラメント103a,103b及び第1及び第2のアノードコーン104a,104bに対向するように配置されている。詳細には、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bは第1及び第2のアノードコーン104a,104bの内周面の中央部付近で包囲されており、第1及び第2のアノードコーン104a,104bは、その最大内径側を被成膜基板1に向けて配置されている。
【0068】
被成膜基板1は、図示しないホルダー(保持部)および図示しないトランスファー装置(ハンドリングロボットあるいはロータリインデックスデーブル)により、図示の位置に、順次供給されるようになっている。
【0069】
被成膜基板1はイオン加速用電源としてのバイアス電源(DC電源,直流電源)112に電気的に接続されており、このDC電源112はチャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。このDC電源112のマイナス電位側が被成膜基板1に電気的に接続されており、DC電源112のプラス電位側がアース106に電気的に接続されている。DC電源112としては例えば0〜1500V、0〜100mA(ミリアンペア)の電源を用いることができる。
【0070】
チャンバー102内には、第1のカソードフィラメント103a及び第1のアノードコーン104aそれぞれと被成膜基板1との間の空間を覆うように第1のプラズマウォール108aが配置され、且つ第2のカソードフィラメント103b及び第2のアノードコーン104bそれぞれと被成膜基板1との間の空間を覆うように第2のプラズマウォール108bが配置されている。
【0071】
第1及び第2のプラズマウォール108a,108bそれぞれは、フロート電位(図示せず)に電気的に接続されており、チャンバー102に対して絶縁された状態で配置されている。また、第1及び第2のプラズマウォール108a,108bは円筒形状又は多角形状を有している。
【0072】
第1及び第2のプラズマウォール108a,108bそれぞれの被成膜基板1側の端部には膜厚補正板118a,118bが設けられており、膜厚補正板118a,118bは前記フロート電位に電気的に接続されている。膜厚補正板118a,118bにより被成膜基板1の外周部分に成膜される膜の厚さを制御することができる。
【0073】
チャンバー102の外側には第1及び第2のネオジウム磁石109a,109bが配置されている。第1及び第2のネオジウム磁石109a,109bは例えば円筒形状又は多角形状を有しており、円筒形又は多角形の内径の中心は磁石中心となり、この磁石中心は第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bの略中心及び被成膜基板1の略中心それぞれと対向するように位置している。第1及び第2のネオジウム磁石109a,109bそれぞれは、その磁石中心の磁力が50G(ガウス)以上200G以下であることが好ましく、より好ましくは50G以上150G以下である。磁石中心の磁力を200G以下とする理由は、ネオジウム磁石では磁石中心の磁力を200Gまで高めるのが製造上の限界であるからである。また、磁石中心の磁力を150G以下とするのがより好ましい理由は、磁石中心の磁力を150G超とすると磁石を作るコストが増大するからである。
【0074】
また、プラズマCVD装置はチャンバー102内を真空排気する真空排気機構(図示せず)を有している。また、プラズマCVD装置はチャンバー102内に成膜原料ガスを供給するガス供給機構(図示せず)を有している。
【0075】
<成膜方法>
図1に示すプラズマCVD装置を用いて被成膜基板1にDLC(Diamond Like Carbon)膜を成膜する方法について説明する。
【0076】
まず、前記真空排気機構を起動させ、チャンバー102の内部を所定の真空状態とし、チャンバー102の内部に前記ガス導入機構によって成膜原料ガスとして例えばトルエン(C)ガスを導入する。チャンバー102内が所定の圧力になった後、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれに第1及び第2のカソード電源105a,105bによって交流電流を供給することにより第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bが加熱される。
【0077】
また、被成膜基板1にDC電源112によって直流電流を供給する。また、第1及び第2のDC電源107a,107bそれぞれから第1及び第2のスイッチ121a,121bを介して第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれに直流電流を供給する。この際、第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれに印加される電圧は、制御部によって、前述した図2(A),(B)に示す第1の制御、図2(C),(D)に示す第2の制御、図3(A),(B)に示す第3の制御または図3(C),(D)に示す第4の制御のいずれかのように制御される。
【0078】
第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bの加熱によって、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれから第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれに向けて多量の電子が放出され、第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれと第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれとの間でグロー放電が開始される。多量の電子によってチャンバー102の内部の成膜原料ガスとしてのトルエンガスがイオン化され、プラズマ状態とされる。この際、第1及び第2のネオジウム磁石109a,109bそれぞれによって第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれの近傍に位置するトルエンガスをプラズマ化する領域に磁場が発生されているので、この磁場によってプラズマを高密度化することができ、イオン化効率を向上させることができる。そして、プラズマ状態の成膜原料分子は、被成膜基板1のマイナス電位によって直接に加速されて、被成膜基板1の方向に向かって飛走して、被成膜基板1の表面に付着される。これにより、被成膜基板1には薄いDLC膜が形成される。この際、被成膜基板1の表面では下記式(1)の反応が起きている。
【0079】
+e → C +xH↑ ・・・(1)
【0080】
次に、図1に示すプラズマCVD装置を用いた磁気記録媒体の製造方法について説明する。
【0081】
まず、非磁性基板上に少なくとも磁性層を形成した被成膜基板を用意し、この被成膜基板を保持部に保持させる。次いで、チャンバー102内で所定の真空条件下に加熱された第1及び第2のカソードフィラメント103a,103bそれぞれと第1及び第2のアノードコーン104a,104bそれぞれとの間の放電により原料ガスをプラズマ状態とし、このプラズマを前記保持部に保持された被成膜基板の表面に加速衝突させる。これにより、この被成膜基板の表面には炭素が主成分である保護層が形成される。
【0082】
上記実施の形態によれば、被成膜基板1の両側でプラズマを生成させて被成膜基板1の両面に成膜させるプラズマCVD装置、成膜方法及び磁気記録媒体の製造方法であっても、プラズマの相互干渉を抑制することにより、被成膜基板1の両面に成膜された膜の面内均一性を良くすることができる。
【実施例】
【0083】
(実施例1)
図4(A)は、図1に示すプラズマ処理装置を用いて被成膜基板1にDLC膜10を成膜した写真であり、図4(B)は、図4(A)に示す被成膜基板1上に成膜されたDLC膜10の膜厚を模式的に示す断面図である。図6(A)は第1のアノードコーン104aに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートであり、図6(B)は第2のアノードコーン104bに印加される電圧と時間の関係を示すタイミングチャートである。
【0084】
図4(A),(B)に示すDLC膜10を成膜した際の条件は以下のとおりである。
成膜装置:図1に示すプラズマCVD装置
被成膜基板1:メタル層付きガラスディスク
出発原料:高純度トルエン
ガス流量:3.0sccm
圧力 :0.3Pa
成膜時間:2sec×5回
カソードフィラメント103a,103b:タンタルフィラメント
交流電源105a,105bの出力:230W
DC電源107a,107bの電流:1650mA
DC電源107a,107bの電圧:最大95V,最小10V
周波数 :20Hz
第1及び第2のアノードコーン104a,104bへの電圧制御:図6(A),(B)
DC電源112の電圧:250V
【0085】
(比較例1)
図5(A)は、図1に示すプラズマ処理装置を用いて被成膜基板1にDLC膜11を成膜した写真であり、図5(B)は、図5(A)に示す被成膜基板1上に成膜されたDLC膜11の膜厚を模式的に示す断面図である。
【0086】
図5(A),(B)に示すDLC膜11を成膜した際の条件は以下のとおりである。
成膜装置:図1に示すプラズマCVD装置
被成膜基板1:メタル層付きガラスディスク
出発原料:高純度トルエン
ガス流量:3.0sccm
圧力 :0.3Pa
成膜時間:2sec×5回
カソードフィラメント103a,103b:タンタルフィラメント
交流電源105a,105bの出力:230W
DC電源107a,107bの電流:1650mA
DC電源107a,107bの電圧:95V一定
DC電源112の電圧:250V
【0087】
上記の比較例では、図5(B)に示すように、被成膜基板1の外周付近のDLC膜11の膜厚が厚くなったのに対し、上記の実施例1では、図4(B)に示すように、被成膜基板1の外周付近のDLC膜10の膜厚がほぼ一定になった。従って、被成膜基板1の両側でプラズマを生成させてもプラズマの相互干渉を抑制できることが確認された。
【符号の説明】
【0088】
1 被成膜基板
10,11 DLC膜
102 チャンバー
103a 第1のカソード電極(第1のカソードフィラメント)
103b 第2のカソード電極(第2のカソードフィラメント)
104a 第1のアノード電極(第1のアノードコーン)
104b 第2のアノード電極(第2のアノードコーン)
105a 第1のカソード電源(第1の交流電源)
105b 第2のカソード電源(第2の交流電源)
106 アース電源
107a 第1のアノード電源(第1のDC(直流)電源)
107b 第2のアノード電源(第2のDC(直流)電源)
108a 第1のプラズマウォール
108b 第2のプラズマウォール
118a,118b 膜厚補正板
109a 第1のネオジウム磁石
109b 第2のネオジウム磁石
112 バイアス電源(DC電源,直流電源)
121a 第1のスイッチ
121b 第2のスイッチ
図1
図2
図3
図6
図7
図8
図4
図5