特許第6019412号(P6019412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019412悪性腫瘍に対する高選択的細胞毒性を有するインディルビン誘導体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019412
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】悪性腫瘍に対する高選択的細胞毒性を有するインディルビン誘導体
(51)【国際特許分類】
   C07D 405/14 20060101AFI20161020BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20161020BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20161020BHJP
   A61K 31/404 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C07D405/14CSP
   A61P35/00
   A61P43/00 105
   A61P43/00 111
   A61P35/02
   A61K31/404
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-524655(P2013-524655)
(86)(22)【出願日】2012年7月5日
(86)【国際出願番号】JP2012067153
(87)【国際公開番号】WO2013011841
(87)【国際公開日】20130124
【審査請求日】2015年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2011-156299(P2011-156299)
(32)【優先日】2011年7月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝
(72)【発明者】
【氏名】宮入 伸一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】田畑 恵市
【審査官】 三木 寛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/041954(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/117262(WO,A1)
【文献】 国際公開第2002/100401(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0111987(US,A1)
【文献】 特表2002−541244(JP,A)
【文献】 特表2009−523125(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/013168(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/051223(WO,A1)
【文献】 DALLAVALLE,S. et al,Novel 7-Oxyiminomethyl Derivatives of Camptothecin with Potent in Vitro and in Vivo Antitumor Activi,Journal of Medicinal Chemistry,2001年,Vol.44, No.20,p.3264-3274
【文献】 MLOCHOWSKI,J. et al,Derivatives of 1,10- and 4,7-phenanthrolinaldehydes and di(N,N-di-ethylamino)ethoxyphenanthrolines a,Journal fuer Praktische Chemie/Chemiker-Zeitung,1993年,Vol.335, No.7,p.623-627
【文献】 MLOCHOWSKI,J. et al,Synthesis of 2,7-fluorenone bisglycidyl ether and related compounds as potential cytostatics,Journal fuer Praktische Chemie,1990年,Vol.332, No.1,p.5-14
【文献】 Jun ADACHI, et al,Indirubin and Indigo Are Potent Aryl Hydrocarbon Receptor Ligands Present in Human Urine,The Journal of Biological Chemistry,2001年,Vol.276 No.34,p.31475-31478
【文献】 EVE D., et al.,Anti-mitotic properties of indirubin-3'-monoxime, a CDK/GSK-3 inhibitor: induction of endoreplicatio,Oncogene,2001年,Vol.20,p.3786-3797
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 405/14
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、Aは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示す)
で表されるインディルビン誘導体又はその塩。
【請求項2】
Aがメチレン基である請求項1記載のインディルビン誘導体又はその塩。
【請求項3】
1〜R4がそれぞれ独立して水素原子又はアルコキシ基である請求項1又は2記載のインディルビン誘導体又はその塩。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載のインディルビン誘導体又はその塩を有効成分とする医薬。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項記載のインディルビン誘導体又はその塩を有効成分とする悪性腫瘍治療剤。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載のインディルビン誘導体又はその塩を有効成分とするアポトーシス誘導剤。
【請求項7】
請求項1〜3のいずれか1項記載のインディルビン誘導体又はその塩、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なインディルビン誘導体又はその塩及びこれを含有する医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
がん(悪性腫瘍)は死亡原因の一位を占める疾患であり、新たな治療法が求められている。現在の悪性腫瘍治療法としては、外科療法、放射線療法、化学療法(抗悪性腫瘍剤)があるが、通常これらを組み合わせて治療が行なわれる。抗がん剤には、アルキル化剤、代謝拮抗剤、アルカロイド系抗がん剤、抗生物質抗がん剤、白金製剤、分子標的薬等が用いられているが、これら抗がん剤の治療効果は未だ十分とは言えず、また副作用の発生頻度が高いという問題がある。
【0003】
一方、インディルビンは、ヒト尿中から単離されたインドール系化合物であり、環境ホルモンの一種である2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−p−ダイオキシン(TCDD)よりもアリルハイドロカーボン受容体(AhR)に高い親和性を有することが知られている。従って、インディルビンはAhRの内因性リガンドの可能性が指摘されている(非特許文献1)。また、インディルビンは、サイクリン依存性キナーゼ(CDKs)、さらにグリコーゲン合成酵素キナーゼ−3β(GSK−3β)に作用して、細胞周期、細胞分化、神経細胞の極性形成などに影響を与えることが報告されている(非特許文献2)。これらのインディルビンの標的タンパク質は、細胞増殖に高度に関連しており、GSK−3βは最近のがん治療分子標的薬のターゲットであるチロシンキナーゼの一種である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Adachi,J.;Mori,Y.;Matsui,S.;Takigami,H.;Fujino,J.;Kitagawa,H.;Miller III,C.A.;Kato,T.;Saeki,K.;Matsuda,T.J.Biol.Chem.2001,276,31475.
【非特許文献2】Damiens,E.;Baratte,B.;Marie,D.;Eisenbrand,G.;Meijer,L.Oncogene,2001,20,3786.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、新たな作用機序に基づく悪性腫瘍治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、がん治療の分子標的薬のターゲットであるチロシンキナーゼの一種であるGSK−3βやCDKsに作用することが知られているインディルビンに着目し、種々の誘導体を合成し、その癌細胞増殖抑制作用を検討してきたところ、インディルビンの3位をオキシム化し、さらにここにエポキシ基を導入したところ、該化合物が、従来から強い悪性腫瘍治療薬として知られているシスプラチンよりも強力な癌細胞増殖抑制作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、一般式(1)
【0008】
【化1】
【0009】
(式中、Aは炭素数1〜4のアルキレン基を示し、R1〜R4はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示す)
で表されるインディルビン誘導体又はその塩を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記インディルビン誘導体又はその塩を有効成分とする医薬、特に悪性腫瘍治療剤、アポトーシス誘導剤を提供するものである。
また本発明は、上記インディルビン誘導体又はその塩、及び薬学的に許容される担体を含有する医薬組成物を提供するものである。
また本発明は、上記インディルビン誘導体又はその塩の、医薬、特に悪性腫瘍治療剤、アポトーシス誘導剤製造のための使用を提供するものである。
また本発明は、悪性腫瘍治療又はアポトーシス誘導のための、上記インディルビン誘導体又はその塩を提供するものである。
また本発明は、上記インディルビン誘導体又はその塩の有効量を投与することを特徴とする悪性腫瘍治療方法又はアポトーシス誘導方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のインディルビン誘導体(1)は、悪性腫瘍細胞の増殖を強力に抑制し、悪性腫瘍治療剤として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】神経芽腫細胞であるIMR−32、SK−N−SH、LA−N−1、NB−39に対する本発明化合物(HS−2)の細胞傷害活性を示す図である。(図中、横軸は化合物濃度、縦軸は細胞生存率を示す。)
図2】神経芽腫細胞であるIMR−32に対する本発明化合物(HS−2)のアポトーシス誘導を示す図である。
図3】神経芽腫細胞であるIMR−32に対する本発明化合物(HS−2)のアポトーシス誘導を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のインディルビン誘導体は、一般式(1)で表される。一般式(1)中、Aは炭素数1〜4のアルキレン基を示すが、当該アルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ブチレン基等の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基が挙げられ、このうち、メチレン基、エチレン基がより好ましく、メチレン基が特に好ましい。
【0014】
1〜R4は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基又はアルコキシ基を示す。ここでハロゲン原子としては、塩素原子、フッ素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。アルコキシ基としては、炭素数1〜6のアルコキシ基が挙げられ、そのうちメトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
【0015】
また、R1〜R4としては、水素原子又はアルコキシ基が好ましく、特に水素原子が好ましい。
【0016】
インディルビン誘導体(1)の塩としては、塩酸塩、硝酸塩、硫酸塩等の無機塩、酢酸塩、フマル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。また、本発明のインディルビン誘導体(1)が不斉炭素原子を有する場合には、光学活性体及びラセミ体のいずれも含まれる。さらに、本発明化合物は、水和物等の溶媒和物の形態で存在してもよい。
【0017】
インディルビン誘導体(1)は、例えば次の反応式に従って製造することができる。
【0018】
【化2】
【0019】
(式中、R5はアルカノイル基を示し、Xはハロゲン原子を示し、A、R1〜R4は前記と同じ)
【0020】
すなわち、カルボン酸インドキシル類(2)及びイサチン類(3)を塩基の存在下に縮合させてインディルビン類(4)を得、これにヒドロキシルアミン又はその塩を反応させてインディルビン−3’−オキシム(5)を得、次いでこれにハロアルキルオキシラン類(6)を反応させることにより、インディルビン誘導体(1)が得られる。
【0021】
反応式中、R5で示されるアルカノイル基としては、アセチル基、プロピオニル基等が挙げられる。また、Xで示されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0022】
化合物(2)と化合物(3)との反応に用いられる塩基としては炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等が挙げられる。この反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒が挙げられる。反応は、室温で行うことができ、反応時間は10〜24時間でよい。
【0023】
化合物(4)にヒドロキシルアミン又はその塩を反応させて、オキシム体(5)を得る。この反応は、ピリジン、トルエン等の溶媒中加熱還流下に行うのが好ましい。
【0024】
オキシム体(5)に反応させるハロヒドリン類(6)としては、エピブロモヒドリン、エピクロルヒドリン等が用いられる。この反応は、トリエチルアミン、DBU、DABCO等の第三級アミンの存在下、ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒下、室温で行うことができる。
【0025】
かくして得られるインディルビン誘導体(1)は、後記実施例に示すように、強力な悪性腫瘍細胞増殖抑制作用を有し、また悪性腫瘍細胞に対してアポトーシス誘導能を示すことから、悪性腫瘍治療剤として有用である。
【0026】
本発明の悪性腫瘍治療剤は、ヒトを含む哺乳類の、多岐にわたる悪性腫瘍に対して有効であり、例えば咽頭癌、喉頭癌、舌癌、肺癌、乳癌、食道癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、肝臓癌、膵臓癌、胆嚢癌、腎臓癌、前立腺癌、悪性黒色腫、甲状腺癌などの上皮がん;骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫、繊維肉腫、白血病や悪性リンパ腫、骨髄腫などの非上皮がんが挙げられる。
【0027】
本発明の悪性腫瘍治療剤は、当該技術分野においてよく知られる薬学的に許容しうる担体とともに、混合、溶解、顆粒化、錠剤化、乳化、カプセル封入、凍結乾燥等により、製剤化することができる。
【0028】
経口投与用には、インディルビン誘導体(1)を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、錠剤、丸剤、糖衣剤、軟カプセル、硬カプセル、溶液、懸濁液、乳剤、ゲル、シロップ、スラリー等の剤形に製剤化することができる。
【0029】
非経口投与用には、インディルビン誘導体(1)を、薬学的に許容しうる溶媒、賦形剤、結合剤、安定化剤、分散剤等とともに、注射用溶液、懸濁液、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、吸入剤、坐剤等の剤形に製剤化することができる。注射用の処方においては、本発明の治療剤を水性溶液、好ましくはハンクス溶液、リンゲル溶液、又は生理的食塩緩衝液等の生理学的に適合性の緩衝液中に溶解することができる。さらに、組成物は、油性又は水性のベヒクル中で、懸濁液、溶液、又は乳濁液等の形状をとることができる。あるいは、インディルビン誘導体(1)を粉体の形態で製造し、使用前に滅菌水等を用いて水溶液又は懸濁液を調製してもよい。吸入による投与用には、インディルビン誘導体(1)を粉末化し、ラクトース又はデンプン等の適当な基剤とともに粉末混合物とすることができる。坐剤処方は、インディルビン誘導体(1)をカカオバター等の慣用の坐剤基剤と混合することにより製造するかことができる。さらに、本発明の治療剤は、ポリマーマトリクス等に封入して、持続放出用製剤として処方することができる。
【0030】
インディルビン誘導体(1)の投与量は、患者の症状、投与経路、体重、年令等によっても異なるが、例えば成人1日あたり1mg〜500mgであるのが好ましい。
【0031】
本発明の悪性腫瘍治療剤は、通常非経口投与経路で、例えば注射剤(皮下注、静注、筋注、腹腔内注など)、経皮、経粘膜、経鼻、経肺などで投与されるが、特に限定されず、経口投与でもよい。
【実施例】
【0032】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに何ら限定されるものではない。
【0033】
実施例1
(1)インディルビンの製造
【0034】
【化3】
【0035】
酢酸インドキシル(1.75g,10mmol)及びイサチン(1.47g,10mmol)の脱水メタノール(20mL)懸濁液にアルゴンガスを5分間吹き込んだ。反応液に炭酸ナトリウム(2.12g,20mmol)を加え、室温にて18時間撹拌した後、反応液を水(1L)に注いだ。析出した粗結晶を吸引ろ取し、粗結晶を得た。この粗結晶を1,4−ジオキサン/ヘキサンから再結晶し、インディルビン(1.81g,69%)を紫色針状晶として得た。
【0036】
H NMR(DMSO−d):δ 6.91(1H,d,J=7.3Hz,7−H),7.02(2H,m,5−H and 5’−H),7.26(1H,dt,J=7.3,1.2Hz,6−H),7.42(1H,d,J=8.1Hz,7’−H),7.58(1H,dt,J=8.1,1.2Hz,6’−H),7.66(1H,dd,J=7.1,1.2Hz,4’−H),8.77(1H,dd,J=7.8,1.2Hz,4−H),10.90(1H,s,1−H),11.02(1H,s,1’−H).
LRMS(EI):262([M]).HRMScalcd for C1610:262.0742,found:262.0740.
【0037】
(2)インディルビン−3’−オキシムの製造
【0038】
【化4】
【0039】
インディルビン(0.64g,2.4mmol)を脱水ピリジン(25mL)に溶解し、塩化ヒドロキシルアンモニウム(1.67g,24mmol)を加えた。反応液を2.5時間加熱還流した後、室温に戻した。反応液を水(100mL)に注ぎ、析出した粗結晶を吸引ろ取した。得られた粗結晶をメタノール/水から再結晶し、インディルビン3’−オキシム(0.60g,89%)を赤色針状晶として得た。
【0040】
H NMR(DMSO−d):δ 6.89(1H,d,J=7.8Hz,7−H),6.95(1H,dt,J=7.8,0.9Hz,5−H),7.03(1H,m,5’−H),7.13(1H,dt,J=7.8,0.9Hz,6−H),7.40(2H,m,6’− and 7’−H),8.24(1H,d,J=6.9Hz,4’−H),8.65(1H,d,J=7.8Hz,4−H),10.71(1H,s,1−H),11.75(1H,s,1’−H),13,48(1H,s,NOH).
LRMS(EI):277([M]).HRMS calcd for C1611:277.0851,found:277.0848.
【0041】
(3)インディルビン3’−(O−オキシラン−2−イルメチル)オキシム(HS−2)の製造
【0042】
【化5】
【0043】
インディルビン3’−オキシム(100mg,0.36mmol)を脱水DMF(5mL)に溶解し、トリエチルアミン(0.1mL)及びエピブロモヒドリン(0.5g,3.6mmol)を順次加えた。室温にて24時間撹拌し、水(50mL)に注ぎ、吸引ろ取することで標題化合物(HS−2)(95mg,79%)を得た。本品はTLC,NMRにおいて純品である。
【0044】
H NMR(DMSO−d):δ 2.84(1H,dd,J=4.9,2.6Hz,one of CH(O)CH),2.98(1H,t,J=4.9Hz,one of CH(O)CH),3.52(1H,m,CH(O)CH),4.55(1H,dd,J=12.4,6.1Hz,one of NOCHCH),4.82(1H,dd,J=12.4,3.5Hz,one of NOCHCH),6.97(1H,d,J=7.2Hz,7−H),7.01(1H,d,J=7.8Hz,7’−H),7.03(1H,t,J=7.8Hz,5−H),7.09(1H,dt,J=7.8,1.2Hz,5’−H),7.20(1H,dt,J=7.8,1.2Hz,6−H),7.39(1H,dt,J=7.8,1.2Hz,6’−H),7.70(1H,s,1−H),8.23(1H,d,J=7.7Hz,4’−H),8.69(1H,d,J=7.8Hz,4−H),11.56(1H,s,1’−H).
LRMS(EI):333([M]).HRMS calcd for C1915:333.1113,found:333.1113.
【0045】
実施例2(抗腫瘍活性(1))
抗腫瘍活性は、MTT(3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−2,5−ジフェニルテトラゾリウム ブロミド)法により測定した。
96−wellプレートにRPMI 1640培地に懸濁した腫瘍細胞(1×104cells/well)を100μL播き、24時間培養(5%CO2,37℃,飽湿条件下)した。その後、被験化合物(終濃度1×10-5〜1×10-8M)及びコントロールとしてDMSOを0.2μLずつそれぞれ添加し、48時間腫瘍細胞に作用させた。次に、0.5%MTT液を10μL加え、3時間後に反応停止液(0.04N HCl/イソプロパノール)を100μL加え反応を停止させた。よくピペッティングをした後、マイクロプレートリーダーにより570nm(top)及び655nm(bottom)における 吸光度を測定した。各検体の各濃度における細胞生存率は、コントロール群に対する百分率により求め、そこからEC50値を算出した。腫瘍細胞としては、ヒト神経芽腫細胞であるIMR−32、SK−N−SH、LA−N−1、NB−39ならびにヒト肝がん細胞HepG−2を用いた。また、非腫瘍細胞であるヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)、ヒト膵帯静脈内皮細胞(HUVEC)を用いた。
【0046】
本発明化合物(HS−2)の抗腫瘍活性を図1及び表1に示す。図1及び表1より、本発明化合物は、強力な抗腫瘍活性を有し、その抗腫瘍活性はシスプラチン(CDDP)の50〜100倍強いことが判明した。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例3(抗腫瘍活性(2))
(1)培養液
Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM,Sigma社)にウシ胎児血清(FBS)を終濃度10%となるように加え、さらにPenicillin−Streptomycin溶液(GIBCO)を0.1mg/mLとなるように加えた。
(2)試薬
Alamar Blue液は和光純薬工業製を用いた。
(3)操作
ヒト肝癌細胞株HepG2細胞をDMEM培地に懸濁し(1.0×105個/mL)、96well culture plateに100μLずつ分注した。37℃、5%CO2飽湿条件下にて培養してplateに付着させた。24時間培養後培地を吸引除去し、被験化合物を含む培地(1%DMSO含有)100μLを添加し、37℃、5%CO2飽湿条件下にて培養した。24時間培養後培地を吸引除去し、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline:PBS)で洗浄した。培地で10倍希釈したAlamar Blue試液(100μL)を各wellに添加して先と同様の条件下にて培養した。1時間後、励起波長577nm、検出波長612nmの蛍光強度を測定した。なお細胞生存率はvehicle(1%DMSO含有)添加wellの値を100%として算出した。
【0049】
(4)結果
ヒト肝癌細胞株HepG2に対する細胞傷害活性(IC50:50%傷害濃度)は、HS−2が1.0μMであり、シスプラチン(CDDP)が10μMであった。
【0050】
実施例4(アポトーシス誘導能:Hoechst33342染色法)
アポトーシス誘導能は、Hoechst33342染色法で核染色することにより試験した。
6−WellプレートにRPMI 1640培地に懸濁した細胞(IMR−32:1×105cells/well)を2mL播き、24時間培養(5%CO2,37℃、飽湿条件下)した。その後、被験化合物(終濃度1×10-5M〜1×10-7M)及びコントロールとしてDMSOを4μLずつそれぞれに添加し、24時間細胞に作用させた。次に、0.02%Hoechst 33342溶液を100μL加え、15分後に蛍光顕微鏡にて位相差像及び蛍光像を撮影し、細胞の形態変化を観察した。その結果、図2に示すように、本発明化合物(HS−2)は、0.1μMで、核の凝集化及び断片化が認められることから、IMR−32細胞に対する細胞傷害活性はアポトーシス誘導によるものであることが判明した。
【0051】
実施例5(アポトーシス誘導能:フローサイトメトリー法)
本発明化合物(HS−2)について、ヒト神経芽腫細胞であるIMR−32細胞に対するアポトーシス誘導能をフローサイトメトリーにより検出した。すなわち、6−WellプレートにRPMI 1640培地に懸濁した細胞(IMR−32:1×106cells/well)を2mL播き、24時間培養(5%CO2,37℃、飽湿条件下)した。その後、化合物(HS−2)を終濃度1×10-5M〜1×10-7Mとなるように加え、37℃、5%CO2条件下で24時間インキュベーションした。細胞をトリプシンで剥離してPBSで洗浄した後、アネキシンV−FITC及びヨウ化プロピジウム(PI)を加え、フローサイトメトリーを行った。この方法によれば、アポトーシスの初期段階の細胞はアネキシンV−FITCの蛍光のみが観察され、アポトーシスの後期段階の細胞はアネキシンVとPIの両方の蛍光が観察される。
その結果、化合物(HS−2)は濃度依存的なアポトーシス誘導能が認められ、10μMで顕著なアポトーシス誘導効果が示された。この結果を図3に示す。
【0052】
その結果、本発明化合物は、10-7Mという低い濃度から強力な抗腫瘍活性を有していた。正常細胞と比較して腫瘍細胞に活性の選択性が認められ(正常細胞におけるIC50値は、HUVEC:1.75μM NHDF:61.4μM)、この機構にはアポトーシスが関与することが示された。
図1
図3
図2