特許第6019451号(P6019451)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6019451
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】神経締め具
(51)【国際特許分類】
   A22B 3/08 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   A22B3/08
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-20477(P2016-20477)
(22)【出願日】2016年2月5日
【審査請求日】2016年4月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515308899
【氏名又は名称】ジャパンシーフードトレーディング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】230101177
【弁護士】
【氏名又は名称】木下 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100180079
【弁理士】
【氏名又は名称】亀卦川 巧
(72)【発明者】
【氏名】清水 義弘
(72)【発明者】
【氏名】平松 一人
【審査官】 豊島 ひろみ
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭53−22557(JP,Y2)
【文献】 特開2009−261351(JP,A)
【文献】 特開2008−253237(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A22B 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚の脊椎の神経弓門内に挿入される線状部を有する神経締め具において、
前記線状部の少なくとも一部は、複数本の線材が捻られて構成されていることを特徴とする、
神経締め具。
【請求項2】
前記線状部が、前記線材に複数本の毛部材が挟持されて構成されるブラシ部を具える、請求項1の神経締め具。
【請求項3】
前記ブラシ部が前記線状部の前記神経弓門に挿入される側の端から設けられている、請求項2の神経締め具。
【請求項4】
前記毛部材が前記線状部の径方向360°の範囲で設けられている、請求項2又は3の神経締め具。
【請求項5】
前記ブラシ部が前記線状部の軸方向の一定範囲に設けられ、
前記毛部材が、前記線状部の前記神経弓門に挿入される側の端から他端に向かうに従って長くなっている、請求項2から4のいずれかの神経締め具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚の鮮度を維持するためのいわゆる神経締めに使用される器具に関し、具体的には、生魚の脊髄を貫き通す、柔軟性のある線状の器具(以下、単に、「神経締め具」という。)に関する。
【背景技術】
【0002】
魚の身は、魚が死んだ後、大まかに4段階に亘り変化することが知られている。まず、魚が死んだ直後、魚の身は生きているときとほぼ同じ生身の状態である。その後、死後硬直が起こることにより、魚の身は固くなり、次いで、死後硬直が解けることにより、魚の身は緩む。そして、最終的に、魚の身は腐敗する。
【0003】
魚の身が死後硬直を起こすのは、生命活動のエネルギー源であるアデノシン3リン酸(ATP)が体内の分解酵素等によってアミノ酸に分解されることによるものであり、魚の身が緩むのは、タンパク質分解酵素(プロテアーゼ)により、筋原繊維の構造が脆弱化するためと考えられている。これらの分解反応の到来は、魚の場合、牛、豚、鶏に比べて極めて早いことが分かっている。
【0004】
魚の鮮度を維持するためには、ATPの分解反応の到来、すなわち、死後硬直の到来を遅らせ、魚の身を生化学的に活きている状態、すなわち、ATPが筋肉中に存在している状態を維持することが求められる。従来、魚の死後硬直の到来を遅らせるために、魚の脊椎の神経弓門内(以下、単に、「神経弓門内」ということもある。)に通る脊髄を傷付け又は破壊・除去するという方法が採られてきた。この処理により脊椎神経の暴走(神経暴走)を抑制し、魚の死後に起こる神経暴走由来の筋肉痙攣による筋肉中のATPの消費を抑える事が死後硬直の到来を遅らせるという基本原理である。
【0005】
神経弓門内に通る脊髄を傷付け又は破壊・除去するために、従来、線状の神経締め具が使用されており、このような神経締め具を開示するものとして、例えば、特許文献1,2に示されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−253237号公報
【特許文献2】特開2009−261351号公報
【0007】
特許文献1には、神経弓門内に挿入される、尖端部を具える断面角形の線状部材が開示されており、尖端部の反対側の端部に、魚の鱗を取るためのヘラ部又は魚の腹内部を洗浄するためのブラシ部を設けた神経締め具が開示されている。
【0008】
特許文献2には、神経弓門内に挿入し、脊髄を破壊・除去するための線状の神経締め具であって、その全長に亘る表面に滑り止め部を形成したものが開示されており、当該滑り止め部は神経締め具の先端方向に向かう複数の棘部(進行方向に対して凹凸断面が順方向となるもの)とすることができるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、魚の神経弓門の断面形状は完全な円形ではなく、また、魚の種類によって形状が異なる。一方で、同じ種類の魚であっても、個体差があるため、その形状は一定のものではなく、単体の魚で見ても、神経弓門は頭側から尾側に向かって細くなっているので一定の大きさではない。
【0010】
上記の性質を有する魚の神経弓門の内部に挿通させる神経締め具として、特許文献1に開示されている神経締め具では、断面が角形で神経弓門の形状に合わず、神経弓門と神経締め具の隙間に脊髄が一部残存する可能性がある。神経弓門内に脊髄が残存していると神経暴走が起こり易く、ATPが消費し易いという問題が生じ得る。
【0011】
一方、特許文献2に開示されている神経締め具は、滑り止め部によって、線材の周囲の神経細胞も摩擦によって破壊されるとされている。しかし、線材の表面に滑り止め部を形成し、或いは棘状の滑り止め部を形成しても、神経弓門と神経締め具の隙間は生じるので、神経弓門内の細部に脊髄が残存する可能性があり、特許文献1の神経締め具と同様に、ATPが消費し易いという問題が生じ得る。また、線材の表面に滑り止め加工を施す必要があるため、線材として固い素材を使用し難い。このため、使用回数を重ねることにより線材が変形し易いという耐久性の問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、前述した従来技術の問題点に鑑み、耐久性があり、神経弓門内の脊髄が残存し難い神経締め具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、魚の脊椎の神経弓門内に挿入される線状部を有する神経締め具において、
前記線状部の少なくとも一部は、複数本の線材が捻られて構成されていることを特徴とする神経締め具によって前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、線状部の少なくとも一部が複数本の線材が捻られて構成され、これにより線状部の表面に凹凸が形成されるので、当該凹凸と脊髄との摩擦によって脊髄が破壊・除去され易い。また、線状部を握ったとき、当該凹凸が滑り止めの機能を果たすので、使用者にとって使い易い神経締め具とすることができる。また、線状部の表面に加工を要しないから、バネ鋼等の固い素材を使用でき、神経締め具そのものの耐久性を上げることができるとともに、シンプルな構造なので、製造し易い神経締め具とすることができる。
【0015】
また、線状部が、線材に複数本の毛部材が挟持されることにより構成されるブラシ部を具える構成とすれば、線状部と神経弓門の隙間に毛部材が入り込み、神経弓門内の細部の脊髄を破壊・除去することができるので、神経弓門内に脊髄が残存し難い。これにより、従前の神経締め具に比べて、魚の死後硬直の到来を格段に遅らせることができ、魚の鮮度をより長時間保つことができる。
【0016】
また、ブラシ部が線状部の神経弓門に挿入される側の端から設けられている構成とすれば、線状部が神経弓門に挿入された範囲で神経弓門内の細部の脊髄を破壊・除去することができるので好ましい。
【0017】
また、毛部材が線状部の径方向360°の範囲で設けられている構成とすれば、線状部に対する全方向の神経弓門内の細部の脊髄を破壊・除去することができる。
【0018】
また、ブラシ部が線状部の軸方向の一定範囲に設けられ、毛部材が線状部の神経弓門に挿入される側の端から他端に向かうに従って長くなっている構成とするのがよい。魚の神経弓門は頭側から尾側に向かって細くなっているので、本構成とすることにより、ブラシ部の形状が神経弓門全体の形状と合うから、線状部を魚の尾側の神経弓門内まで挿入し易く、且つ、頭側から尾側に亘る神経弓門内の細部の脊髄を破壊・除去し易い神経締め具とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態の神経締め具の側面図。
図2】本発明の第二実施形態の神経締め具の側面図。
図3】本発明の第二実施形態の神経締め具を使用した神経締め工程を示した図。
図4】魚の椎体の断面図。
図5】本発明の第三実施形態の神経締め具の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施例を図1〜5を参照して説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0021】
図1の神経締め具10は、魚20の脊椎24の神経弓門26内(図2,3参照)に挿入される部分である線状部12と、神経弓門26に挿入されない部分である取手部13を具える。線状部12は、弾性を具える素材、例えば、超硬ステンレス、ピアノ線、合成樹脂等で形成される線材が撚られることにより構成されている。神経締め具10では、線状部12と取手部13が同一の素材及び構成により形成されているが、これらを別々の素材又は構成で形成してもよく、特に、取手部13に別部品を取付けるなどして握り易い形状にすることもできる。なお、以下、神経弓門26に挿入される線状部12側の端を「末端」といい、神経弓門26に挿入されない取手部13側の端を「基端」という。
【0022】
線状部12は、2本以上の線材、好適には2本又は4本の線材が撚られて構成される。本構成によれば、線材が捩られることにより線状部12の表面に凹凸が形成されるので、その凹凸と脊髄28との摩擦によって脊髄28が破壊・除去され易い。
【0023】
線材が撚られることにより構成される部分は、神経弓門26に挿入される線状部12全体に対して少なくとも一部に設けられていれば、従来に比べて耐久性のある神経締め具とすることができる。しかし、神経弓門26に挿入される線状部12全体を、線材を撚って構成するのが好ましく、取手部13も同様の構成とするのがよい。線状部12又は取手部13を握ったとき、それらの表面に形成される凹凸が滑り止めの機能を果たすので、使用者にとって使い易い神経締め具10とすることができるからである。
【0024】
また、神経締め具10は、線状部12の表面に加工を要しないから、バネ鋼等の固い素材を使用できる。これにより、使用回数を重ねても変形し難いものとすることができるから、神経締め具10の耐久性を上げることができる。また、シンプルな構造であるため、製造もし易く、小型の魚用の細い径のものであっても製造し易い。
【0025】
神経締め具10の末端には、尖端部14を設けるのがよい。尖端部14が脊髄を貫くので、線状部12を神経弓門26内に入れ易いからである。尖端部14は、線状部12を末端を加工する、又は溶接等により線状部12の末端に取付ければよい。また、基端には取手部13よりも大径の柄18を設けるのがよい。柄18に手を掛けることにより、神経締め具10を簡便に引き抜くことができるからである。
【0026】
図2に示すように、線材に複数本の毛部材15を挟むことで、ブラシ部16を具えた神経締め具10aとすることができる。ブラシ部16は、線状部12の線材が撚られて構成されている部分の少なくとも一部又は全部に形成することができる。ブラシ部16は、図示しているように、線状部12の末端から基端に向けて設けられている構成とするのがよい。線状部12が神経弓門26に挿入された範囲で神経弓門26内の細部の脊髄28を破壊・除去することができるからである。
【0027】
ブラシ部16を構成する毛部材15は、柔軟性と耐久性を具える素材、一例を挙げれば、ナイロンを使用することができ、食品加工に使用しても害のない材質を使用するのがよい。
【0028】
毛部材15は、線状部12の径方向外側に向けて設けられる。そして、毛部材15は、線状部12の径方向360°の範囲で設けられていることが好ましい。後述するように、線状部12に対する全方向の神経弓門26内の細部の脊髄を破壊・除去することができるからである。線状部12の径や毛部材15の長さは、使用対象の魚によって調整すればよい。
【0029】
ここで、神経締め具10aの使用例を説明する。図3に示すように、魚20の脊椎24は、推体22が複数個連なることによって構成されている。推体22の断面図を示したのが図4である。推体22には、神経弓門26が形成され、神経弓門26の内部には、脊髄28が通っている。
【0030】
図3に示すように、神経締め具10aは、魚20の神経弓門26内に挿入されて使用される。神経締め具10aは、図示している以外に、魚20の尾側から挿入することもできるが、図示しているように、魚20の頭側から挿入するのが好ましい。特に、アイスピックのような針状の刺突具を用いて、魚20の脳及び延髄(図示省略)を貫通し、且つ、神経弓門26に連通する穿孔を開け、その穿孔から神経締め具10aを神経弓門26内に挿入するのがよい。神経締めは、通常、神経締め具10aを魚20の尾の方まで貫き通した後、複数回進退動させ、抜き取ることによって行われる。これにより、中枢神経である脊髄28が破壊・除去され、神経締めが完了する。
【0031】
ここで、神経締め具10aは、ブラシ部16を具えるので、線状部12と神経弓門26の隙間に毛部材15(図2参照)が入り込む。これにより、神経弓門26内の細部の脊髄28を破壊・除去することができるので、神経弓門26内に脊髄28が残存し難いから、魚の死後硬直の到来を格段に遅らせることができ、魚の鮮度をより長時間保つことができる。このとき、毛部材15が線状部12の径方向360°の範囲で設けられていれば、線状部12に対する全方向の神経弓門26内の細部の脊髄28を破壊・除去することができる。
【0032】
ブラシ部16を設ける線状部12に対する径方向又は軸方向の範囲は、対象となる魚の大きさによって変更することができ、図示しているような、線状部12の一部に設ける以外に、線状部12の全体に亘って設けることもできる。また、毛部材15の長さを変更することにより、ブラシ部16の形状を任意のものとすることができる。例えば、図5に示す神経締め具10bのように、毛部材15aが末端から基端に向かうに従って長くなっているブラシ部16aを具える構成とすることができる。一般に、魚の神経弓門は頭側から尾側に向かって細くなっており、ブラシ部16aの形状が神経弓門の形状と合うから、線状部を魚の尾側の神経弓門内まで挿入し易く、且つ、頭側から尾側に亘る神経弓門内の細部の脊髄を破壊・除去し易い神経締め具とすることができる。
【0033】
本発明の神経締め具を使用することができる魚は、脊椎を有する殆どの魚であり、例えば、イワシ類、アジ類、サバ類、ブリ、カンパチ、ヒラマサ等の青魚、タイ類、ヒラメ・カレイ類、ハタ類、カサゴ類、カマスなどの白身魚、カツオ・マグロ類などの赤身魚が挙げられる。また、淡水魚にも使用することができる。
【0034】
以上に説明したとおり、本発明によれば、耐久性があり、神経弓門内の脊髄が残存し難い神経締め具を提供することができる。
【符号の説明】
【0035】
10 神経締め具
12 線状部
15 毛部材
16 ブラシ部
24 脊椎
26 神経弓門
【要約】
【課題】耐久性があり、神経弓門内の脊髄が残存し難い神経締め具を提供すること。
【解決手段】本発明の神経締め具10は、魚20の脊椎24の神経弓門26内に挿入される部分である線状部12の少なくとも一部が、複数本の線材が捻られて構成されているので、線状部12の表面に凹凸が形成されるから、当該凹凸と脊髄28との摩擦によって脊髄28が破壊・除去され易く、且つ、線状部12の表面に加工を要しないから、バネ鋼等の固い素材を使用でき、神経締め具10そのものの耐久性を上げることができる。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5