(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019468
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】波長選択光スイッチ装置
(51)【国際特許分類】
G02F 1/31 20060101AFI20161020BHJP
G02F 1/01 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
G02F1/31
G02F1/01 D
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-199170(P2012-199170)
(22)【出願日】2012年9月11日
(65)【公開番号】特開2014-56004(P2014-56004A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】591102693
【氏名又は名称】サンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084364
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 宜喜
(72)【発明者】
【氏名】桜井 康樹
【審査官】
廣崎 拓登
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/056987(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0067611(US,A1)
【文献】
特開2006−106633(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00 − 1/13
1/137− 1/141
1/21 − 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の入出力ポートを有し、WDM信号光が入射光として加えられる光入出力部と、
前記光入出力部より入力される入射光を波長毎に空間的に異なる角度に分離すると共に、異なる方向からの出射光を合成して前記光入出力部に出力する偏波面無依存型の波長分散素子と、
前記波長分散素子によって分離された光を集光する集光素子と、
前記集光素子を介して入射された入射光をその偏光成分に応じて分離して第1,第2の光ビームとし、その一方の偏光方向を回転させることによって偏光方向をそろえると共に、第1,第2の反射光のうち同一波長の出射光の一方の偏光方向を回転させて合成する偏波分離器と、
波長に応じて展開されたx軸方向と、これに垂直なy軸方向から成るxy平面に展開された入射光を受光する位置に配置され、xy平面に格子状に配列された多数の画素を有し、y軸方向に連続する複数の画素の位相を変化させることによってその画素の屈折率特性を変化させ、波長毎に反射方向を変化させる空間位相変調素子と、
前記空間位相変調素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによって各波長毎に位相シフト特性を変化させ、各波長毎に異なった方向に光を反射する空間位相変調素子駆動部と、を具備し、
前記集光素子は空間位相変調素子の面に達する光がどの位置でも互いに平行となるように結像するテレセントリック光学系の集光素子であり、
前記空間位相変調素子の面上でのWDM信号光の1チャンネル当りの波長分散方向の物理長をdとし、1チャンネル当りの波長分散方向のビーム半径をwlとすると、d/wl>6としたことを特徴とする波長選択光スイッチ装置。
【請求項2】
前記波長分散素子の角度分散をdθ/dν、前記集光素子に入射する波長分散方向のビーム半径をwfとすると、
dθ/dνとwfとの積を、0.06(rad./GHz・μm)以上としたことを特徴とする請求項1記載の波長選択光スイッチ装置。
【請求項3】
前記集光素子は、集光レンズ又は凹面鏡のいずれか一方である請求項1又は2記載の波長選択光スイッチ装置。
【請求項4】
前記空間位相変調素子は、
2次元に配列された多数の画素を有するLCOS素子であり、
前空間位相変調素子駆動部は、波長選択特性に応じて各画素に印加する電圧を制御するものである請求項1〜3のいずれか1項記載の波長選択光スイッチ装置。
【請求項5】
前記偏波分離器は、
入射光を偏光方向に応じて第1,第2の光ビームに分離する偏光ビームスプリッタと、
分離した一方の光の偏光方向と他方の光の偏光方向にそろえる波長板と、を具備する請求項1〜4のいずれか1項記載の波長選択光スイッチ装置。
【請求項6】
前記波長分散素子は、グリズムである請求項1〜5のいずれか1項記載の波長選択光スイッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光通信分野などに用いられるLCOS(Liquid Crystal On Silicon)などの液晶素子を用いた波長選択光スイッチ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日の高度情報通信社会を支える高速大容量光ネットワークには、波長多重光通信技術が利用されている。光ネットワーク網の分岐点に相当する光ノードでは、再構成可能なアド、ドロップ機能を有するROADM(Reconfigurable Optical Add Drop Multiplexer)装置の導入が進められている。ROADM装置を実現するため、任意の波長を任意の方向に切り換える波長選択光スイッチ(Wavelength Selective Switch、波長選択光スイッチ装置ともいう)が注目されている。波長選択光スイッチでは、波長を選択し所望の出力ポートへ光ビームを偏向させる光ビーム偏向素子が用いられており、特許文献1,2にはLCOS(Liquid crystal on silicon)による回折現象を利用したものが用いられている。又特許文献3,4にはMEMS(Micro-Electro-Mechanical System) ミラーアレイの機械的変位を利用したものが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US7787720B2
【特許文献2】US7397980B2
【特許文献3】US7162115B2
【特許文献4】US6707959B2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、近年の伝送容量需要に応えるべく、伝送レートの高速化、新規変調フォーマットが盛んに研究開発されており、光ネットワークも複雑化している。このような光ネットワークにおいては、各光信号の伝送レートや変調フォーマットに対し最適なフィルタリングを実現することが求められている。
【0005】
ROADM装置では光信号は複数の波長選択光スイッチを通過するが、個々の波長選択光スイッチのフィルタ波形のエッジが急峻でないと波長選択光スイッチを通過する度に通過帯域幅が狭窄化し、受信端で信号を十分に再生できないという問題が発生する。特にこの問題は、伝送レートの高い光信号の送受信で顕在化する。この問題を解決するため、よりエッジが急峻なフィルタ波形、即ち大きなスーパーガウシアン係数を有する波長選択光スイッチ装置が望まれている。
【0006】
波長選択光スイッチ装置の伝達関数は、次式に示すスーパーガウス関数で表現できる。
IL=10・log[exp(-ln
2・(2・Δν/BW
3)
2n)] ・・・(1)
ここで、
IL:相対挿入損失(dB)
Δν:フィルタ中心周波数からのズレ量、
BW
3:3dBバンド幅
n:スーパーガウシアン係数
である。ここで
図1はスーパーガウシアン係数nを1〜6まで変化させたときの中心周波数からのずれ量に対する相対挿入損失を示すグラフである。通常の波長選択スイッチではnは3程度であった。
【0007】
波長選択光スイッチ装置では特許文献1,2に示すように空間位相変調素子としてLCOS素子が用いられる。LCOS素子のスイッチング性能は、そのスイッチングの原理から偏波依存性を有している。従って偏波依存性による光学的損失を解消するために、入力光の偏波をLCOS素子の構造で決められる所望の単一偏波に変換する光学部品が必要である。
【0008】
そして波長分散素子に偏光依存性がある場合、それによる光損失を避けるため、光学素子は波長分散素子の前に配置する必要がある。
【0009】
しかしながら、テレセントリック光学系を構成する集光レンズの手前にこの光学素子を配置すると、集光レンズには偏波分離した2本のビームが別々の位置に入射することになり、集光レンズへの入射ビーム径が集光レンズ有効径の半分以下に制限される。従ってnの値は偏光を分離し、所定方向にそろえるという操作をしない場合に比べて半分以下となってしまい、シャープな波長選択特性が得られないという問題点があった。
【0010】
本発明はこのような従来の問題点に着目してなされたものであって、シャープなフィルタ特性を実現することができる波長選択光スイッチ装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この課題を解決するために、本発明の波長選択光スイッチ装置は、複数の入出力ポートを
有し、WDM信号光が入射光として加えられる光入出力部と、前記光入出力部より入力される入射光を波長毎に空間的に異なる角度に分離すると共に、異なる方向からの出射光を合成して前記光入出力部に出力する偏波面無依存型の波長分散素子と、前記波長
分散素子によって分離された光を集光する集光素子と、前記集光素子を介して入射された入射光をその偏光成分に応じて分離して第1,第2の光ビームとし、その一方の偏光方向を回転させることによって偏光方向をそろえると共に、
第1,第2の反射光のうち同一波長の出射光の一方の偏光方向を回転させて合成する偏波分離器と、波長に応じて展開されたx軸方向と、これに垂直なy軸方向から成るxy平面に展開された入射光を受光する位置に配置され、xy平面に格子状に配列された多数の画素を有し、y軸方向に連続する複数の画素の位相を変化させることによってその画素の屈折率特性を変化させ、波長毎に反射方向を変化させる空間位相変調素子と、前記空間位相変調素子のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによって各波長毎に位相シフト特性を変化させ、各波長毎に異なった方向に光を反射する空間位相変調素子駆動部と、を具備し、前記集光素子は空間位相変調素子の面に達する光がどの位置でも互いに平行となるように結像するテレセントリック光学系の集光素子
であり、前記空間位相変調素子の面上でのWDM信号光の1チャンネル当りの波長分散方向の物理長をdとし、1チャンネル当りの波長分散方向のビーム半径をwlとすると、d/wl>6としたことを特徴とするものである。
【0013】
ここで前記波長分散素子の角度分散をdθ/dν、前記集光素子に入射する波長分散方向のビーム半径をwfとすると、dθ/dνとwfとの積を、0.06(rad./GHz・μm)以上とするようにしてもよい。
【0014】
ここで前記集光素子は、集光レンズ又は凹面鏡のいずれか一方としてもよい。
【0015】
ここで前記空間位相変調素子は、2次元に配列された多数の画素を有するLCOS素子であり、前空間位相変調素子駆動部は、波長選択特性に応じて各画素に印加する電圧を制御するものとしてもよい。
【0016】
ここで前記偏波分離器は、入射光を偏光方向に応じて第1,第2の光ビームに
分離する偏光ビームスプリッタと、分離した一方の光の偏光方向と他方の光の偏光方向にそろえる波長板と、を具備するようにしてもよい。
【0017】
ここで前記波長分散素子は、グリズムとしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
このような特徴を有する本発明によれば、偏波分離器を集光素子と空間位相変調素子との間に配置している。これによって集光素子を通過する光はs偏光成分とp偏光成分とに分離された光ではなく、全ての偏光成分を含む状態で通過させることができる。このため空間位相変調素子に加わる光ビームの幅ωlを小さくすることができ、ξパラメータを大きく、波長選択特性を改善することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1はスーパーガウンシアン関数を変化させたときの中心周波数からのずれ量に対する相対挿入損失を示すグラフである。
【
図2】
図2は本発明の第1の実施の形態による反射型の波長選択光スイッチ装置の構成要素を示す図である。
【
図3A】
図3Aは本発明の第2の実施の形態による反射型の波長選択光スイッチ装置のx軸方向から見た光学的な配置を示す図である。
【
図3B】
図3Bは本発明の第2の実施の形態による反射型の波長選択光スイッチ装置のy軸方向からの光学的な配置を示す図である。
【
図4】
図4は本発明の第2の実施の形態及び比較例による反射型の波長選択光スイッチ装置の集光レンズを通過する光を示す図である。
【
図5A】
図5Aは本発明の第2の実施の形態による波長選択光スイッチ装置に用いられる偏波分離器の第1の例を示す図である。
【
図5B】
図5Bは本発明の第2の実施の形態による波長選択光スイッチ装置に用いられる偏波分離器の第2の例を示す図である。
【
図6】
図6は本発明の第2の実施の形態による波長選択光スイッチ装置のLCOS素子に入射する光を示す図である。
【
図7A】
図7Aは本発明の第1,第2の実施の形態による波長選択光スイッチ装置の波長選択素子の構造と波長選択素子への光の入力を示す図である。
【
図7B】
図7Bはこの波長選択素子からの光の反射を示す図である。
【
図8】
図8は本実施の形態によるLCOS素子の入射位置と位相シフトの関係を示す図である。
【
図9】
図9は本実施の形態による波長選択素子の相対挿入損失と中心周波数からのずれ量に対する相対挿入損失を示すグラフである。
【
図10】
図10は本実施の形態による集光レンズを通過する光とLCOS素子への入射光の径を示す図である。
【
図11】
図11はパラメータξとdθ/dν・wfとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図2は本発明の第1の実施の形態による波長選択光スイッチ装置の構成を示すブロック図である。
図2に示すように波長選択光スイッチ装置1は、少なくとも1つの入力ポート11及び複数の出力ポート12−1〜12−Nが接続される光入出力部13を有している。入力ポート11及び出力ポート12−1〜12−Nは光ファイバによって構成される。ここで入力ポート11に入力される光信号はλ
1〜λ
nまでの多数の波長が多重化された波長多重光信号(WDM信号)光とする。光入出力部13はこのWDM信号光をコリメートレンズによって平行光とするものであり、又出射光をコリメートレンズを介して出力ポート12−1〜12−Nに出力するものである。光入出力部13の出力側には光ビーム整形部14が設けられる。光ビーム整形部14は後述する空間位相変調素子の面上で光ビームの径を調整するため、入射光を光分散方向にビーム径を広げた楕円ビームに変換するよう整形し、出射光を逆変換するものである。光ビーム整形部14の出力側には偏波無依存型の波長分散素子15が設けられる。波長分散素子15は波長に応じて光を異なった方向に分散するものであり、例えば偏波無依存型の回折格子やプリズムによって実現することができる。波長分散素子15の出力側には集光素子16を介して偏波分離器17が設けられる。集光素子16は後述する空間位相変調素子の面上で光がどの位置に結像しても互いに平行となるように集光するテレセントリック光学系の集光素子である。偏波分離器17は入力ポートのWDM光をs偏光成分とp偏光成分の光ビームに分離する偏光ビームスプリッタと、分離した光ビームのいずれか一方の偏光方向を他方の偏光方向に変換する波長板とを有しており、WDM光を2本の平行な光ビームとするものである。この2本の光ビームは空間位相変調素子18に導かれる。空間位相変調素子18にはコントローラ19が接続されている。空間位相変調素子18は各波長の分散された光を受光し、各波長毎に方向を変化させて反射する素子であり、偏波依存性を有している。そして空間位相変調素子18からの反射光は偏波分離器17に戻り、偏波分離器17で合成された反射光の一方の偏光方向を回転させて合成される。偏波分離器17の出力は集光素子16を介して波長分散素子15に与えられて合成される。波長分散素子15の出力は光ビーム整形部14を介して光入出力部13の出力ポート12−1〜12−Nより出力される。尚ここでは入力ポート11と出力ポート12−1〜12−Nを用いているが、入出力を逆転させるようにして用いることもできる。
【0021】
次に第1の実施の形態をより具体化した第2の実施の形態について説明する。
図3Aはこの実施の形態によるy軸方向からの光ビーム整形部14以降の光学素子の配置を示す図、
図3Bはx軸方向からの光学的な配置を示す図である。入力ポート11と出力ポート12−1〜12−N及び光入出力部13の構成は第1の実施の形態と同様とする。尚以下の図では、p偏光成分を縦の矢印、s偏光成分を円で示している。
【0022】
この実施の形態では、波長分散素子15は波長分散素子20により構成される。波長分散素子20は入射光を波長に応じてxz平面上で異なった方向に分散すると共に、反射光を波長に応じてxz平面上で異なった方向に合成するものである。この実施の形態では波長分散素子20は回折格子とプリズムとを組み合わせたグリズム(Grism)で実現している。波長分散素子20で分散された光は集光素子16に相当する集光レンズ21に与えられる。集光レンズ21はxz平面上で分散した光を偏波分離器22を介してLCOS素子23の面上にz軸方向に平行に集光する集光素子である。
【0023】
尚
図3Aでは最長波長λ
1及び最短波長λ
n及びその中間のλ
iの波長の光を例示しているが、入射光はλ
1〜λ
nまでの間で多数のスペクトルを有するWDM信号光であるので、xy平面に沿って展開されたWDM信号光が帯状にLCOS素子23に加わる。LCOS素子23はコントローラ24からの制御によって入射光の波長毎に方向を異ならせ反射するものであり、その反射特性に応じて波長選択光スイッチの選択特性が決定される。
【0024】
図4(a)は集光レンズ21を通過する光の径を示しており、図中の略長方形状の領域が光が通過する領域である。x軸は波長分散方向であり、長方形状の左端のy軸に分散した部分が波長λ
1、右端の左端のy軸に分散した部分は波長λ
nの光が通過する領域であり、波長分散した光はこの間でほぼ連続して分散した状態となっている。
図4(b)はこれと比較して偏波方向によって2つの光ビームに入射光を分離した光を集光レンズに入射した場合を示す。このようにあらかじめ波長偏波方向で入射ビームを2つに分離してしまうと、各ビームでは波長分散方向で集光レンズ31を使用する範囲が狭くなる。
【0025】
次に偏波分離器22の具体例について、
図5A,
図5Bを用いて説明する。
図5Aは偏波分離器22Aを示しており、偏光ビームスプリッタ31,プリズム32,λ/2波長板33によって構成される。集光レンズ21によって集光される偏波分離部22Aの偏光ビームスプリッタ31に入射される。偏光ビームスプリッタ31はp偏光はそのまま通過させ、s偏光成分の光を反射するものである。偏光ビームスプリッタ31で分離された光はプリズム32に入射する。プリズム32は出力側に、プリズム32をs偏光成分の光を反射してλ/2波長板33に入射する。λ/2波長板33はs偏光成分の光をp偏光に変換するものであり、2つの光ビームの偏光方向をそろえることができる。
【0026】
次に
図5Bは偏光分離器22の他の例を示す図である。この偏光分離器22Bでは偏光ビームスプリッタはウォラストンプリズム34で実現され、入射光をp偏光とs偏光成分とに分離するものである。ウォラストンプリズム34を通過したs偏光成分はλ/2波長板33によってp偏光成分に変換される。
【0027】
本実施の形態では、空間位相変調素子18はLCOS素子23によって実現している。第2の実施の形態において、LCOS素子23に加わる光はWDM光を波長帯に応じてxy平面に展開した光である。ここでLCOS素子23は例えば波長分散方向(x方向)に1920画素、これと垂直な方向(y方向)に1080画素が格子状に配列された素子とする。この波長選択光スイッチ装置では、波長毎に反射させる方向を制御することによって、任意の波長の光を選択することができる。コントローラ24はxy平面の光の反射方向を選択波長に合わせて決定する。コントローラ24はLCOS素子23のxy方向に配列された各画素の電極を駆動することによって、x軸及びy軸方向の所定の位置の画素の特性を制御する空間位相変調素子駆動部を構成している。
【0028】
次にLCOS素子23の詳細な構成について説明する。LCOS素子23は各画素の背面に液晶変調ドライバを内蔵しているため、画素数を多くすることができる。
図7AはLCOS素子23を示す概略図であり、光が入射する面からz軸に沿ってAR層61,ガラス層62,透明共通電極63,アライメント層64,液晶65,多数の背面反射電極67を含むアライメント層66及びシリコン層68を積層して構成されている。
【0029】
LCOS素子23の入射領域に加わる光はWDM光を波長帯λ
i(i=1〜n)に応じてxy平面に展開した光である。ここで波長分散方向を
図6に示すx軸方向とすると、夫々の波長に対してy軸方向に並んだ多数の画素が対応する。そのため、LCOS素子23のある波長の光λ
iが入射するy軸方向の多数の画素に周期的に異なった電圧を与えることによって、
図8に示すようにステップ状の位相シフト関数で示され、全体としてのこぎり形状となる屈折率の変化を実現することができる。
図8では複数の画素、ここでは6画素によって位相シフト量を段階的に変化させ、この変化を周期的に繰り返すことによってブレーズ型の回折格子と同等の機能を実現するようにしている。尚、図中では直線状ののこぎり波はブレーズ型回折格子の場合であり、ステップ状の波形は多数のレベル数を有するLCOS素子の場合を示している。このように屈折率の変化によりマルチレベル光フェーズドアレイが実現でき、回折現象により例えば
図7Bに示すように反射方向を異ならせることができる。ここで位相シフト関数を適宜選択することによって入射光の屈折角度を夫々の波長毎に異なった方向に変化させることができるので、LCOS素子は特性可変型の回折格子として考えることができる。従って透明電極63と背面反射電極67との間に電圧を印加することによって各波長成分の回折角を独立に制御し、特定波長の入力光を所望の方向に反射させたり、他の波長成分の光を不要な光として回折させ、出射されない方向に光を反射させることができる。
【0030】
さてマルチレベル光フェーズドアレイの回折角度は次式(2)で示される。
sinθ
in+sinθ
diff=k・λ/Λ ・・・(2)
ここで
q:マルチレベル数
k:回折次数
λ:波長
Λ:フェーズドアレイピッチ
θ
in:入射角度
θ
diff:回折角度
とする。
【0031】
又回折効率ηは近似的に次式(3)で表される。
η=(sin(π/q)/(π/q))
2 ・・・(3)
【0032】
又LCOS素子23の画素のピッチをpとすると、フェーズドアレイピッチΛとの間に以下の関係が成り立つ。
Λ=q・p ・・・(4)
【0033】
さて回折格子や集光レンズを使う空間光学系でのフィルタ形状の設計指標として、(5)式で表されるξパラメータが知られている。
ξ=(ν
ch・dx/dν)/(2wl) ・・・(5)
ここで
ν
ch:WDM信号のチャネル周波数の間隔
dx/dν:LCOS面上での単位周波数あたりの分散量、
wl:LCOS面上での波長分散方向のガウシアンビーム半径(1/e
2強度)
である。ここでは
図9は周波数の変化に応じた相対的な挿入損失を示すグラフであり、ξパラメータを変化させた場合を示している。ここでξパラメータを1〜6まで変化させたときには、波長選択特性は図示のようになり、これは式(1)に示すスーパーガウシアン係数nとほぼ同等と考えることができる。従って式(5)のξの値を大きく設計することで、より急峻なフィルタ形状を得ることができる。
【0034】
更に
図10に示すように
f:集光レンズ21の焦点距離
wf:集光レンズ21へ入射する波長分散方向のビーム半径
λ:波長
とすると、wlは(6)式で近似できる。
wl=(λ・f)/(π・ωf) ・・・(6)
(5)式から、ξの値を大きくするためにはwlを小さく設計すればよく、これを実現するために(6)式からwfを大きく設計するのが有効であることがわかる。
【0035】
ここで、LCOS素子23の面上での単位周波数あたりの分散量dx/dνは回折格子の角度分散dθ/dνを用いて次の(7)式で示される。
dx/dν=f・dθ/dν ・・・(7)
ここで式(6)及び(7)を式(5)に代入して次式が得られる。
ξ=(π・ν
ch・dθ/dν・ω
f)/2・λ ・・・(8)
【0036】
図11は、ν
ch=50GHz、λ=1550nmとした場合に、ξとdθ/dν・wfとの関係を示すグラフである。ここでdθ/dνとwfの積が0.06[rad./GHz・μm]となるように光学系を配置するとξ=3.0となる。
【0037】
尚、従来の波長選択光スイッチ装置は概ねξ=3.0程度である。ここでν
chを50GHzとしたのは、WDMシステムの中では最も狭いチャンネル間隔であり、チャンネル間隔が狭いほどフィルタ波形への要求が厳しくなるからである。又波長を1550nmとしたのは、WDMシステムで広く用いられているCバンドの中心値であり、波長が1520nm〜1570nmの間ではほぼ同一の値が得られる。従って一般化したξパラメータにおいては、dθ/dν・wfを0.06以上となるように角度分散と集光レンズへの入射ビーム径wfを選択することによって、従来の波形よりも優れたフィルタ形状が実現される。
【0038】
より一般的には、LCOS素子23の面上の1チャンネル当りの物理長をd(=ν
ch・dx/dν)とし、LCOS素子23の面上の1チャンネル当りのビーム半径をwlとすると、次式
ξ=d/2・wl
であり、ξ>3とするため、d/wl>6に設定することが好ましい。
【0039】
又この実施の形態では入力信号をWDM信号光としているが、WDM信号光に限らず多数の波長が重畳された光についてこの発明を適用することができる。
【0040】
又この実施の形態では集光素子を集光レンズとしているが、凹面鏡を用いて構成することもできる。又空間位相変調素子をLCOS素子としているが、MEMS素子を用いて本発明を実現することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上詳細に説明したように本発明によれば、シャープなフィルタ特性を有する波長選択光スイッチを得ることができ、WDM光のノードの主要構成要素となる波長選択光スイッチとして好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
11 入力ポート
12−1〜12−N 出力ポート
13 光入出力部
14 光ビーム整形部
15,20 波長分散素子
16 集光素子
17 偏波分離器
18 空間位相変調素子
19 コントローラ
21 集光レンズ
22 偏波分離器
23 LCOS素子
31 偏光ビームスプリッタ
32 プリズム
33 λ/2波長板
34 ウォラストンプリズム