特許第6019494号(P6019494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019494
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】自動車用ドアチェック装置
(51)【国際特許分類】
   E05C 17/22 20060101AFI20161020BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   E05C17/22 A
   B60J5/04 K
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-222519(P2011-222519)
(22)【出願日】2011年10月7日
(65)【公開番号】特開2013-83056(P2013-83056A)
(43)【公開日】2013年5月9日
【審査請求日】2014年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000148896
【氏名又は名称】三井金属アクト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【弁理士】
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100087893
【弁理士】
【氏名又は名称】中馬 典嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100086726
【弁理士】
【氏名又は名称】森 浩之
(72)【発明者】
【氏名】中込 克己
(72)【発明者】
【氏名】西條 俊久
【審査官】 小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−316299(JP,A)
【文献】 実開昭62−063370(JP,U)
【文献】 実開平07−014058(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05C 17/22
B60J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のドアまたは車体のいずれか一方に固定されるケースと、
一端部が前記ドアまたは前記車体のいずれか他方に揺動自在に枢着されると共に、前記ケースを挿通するリンクと、
前記リンクの他端部に固定され前記ドアの全開時に前記ケースが当接する全開ストッパと、
前記ケース内に設けられ前記ドアの開閉動作に伴って前記リンクの外表面を摺接するシューと、
前記ケース内に設けられ前記シューを前記リンクの前記外表面に向けて付勢する弾性部材とを備え、
前記リンクは、折り曲げた2枚の板材の背面同士を一部の領域を除いて溶着した形態であって、前記外表面の一部を形成する前記一端部側の一端側薄板面と、前記一端側薄板面に連続し、前記他端部の方へいくにしたがって前記2枚の板材の板厚方向の寸法が大となるように一定の角度で傾斜する前記外表面の一部を形成する一端側傾斜面と、前記一端側傾斜面の頂上から前記他端部側へ向けて平坦に延伸し前記寸法が前記一端側薄板面よりも大である前記外表面の一部を形成する厚板面と、前記厚板面に連続し前記他端部の方へいくにしたがって前記寸法が小となるように傾斜する他端側傾斜面と、前記他端側傾斜面の麓に連続し前記全開ストッパが固定される他端側薄板面と、前記2枚の板材の背面同士が互いに離間する領域である前記一端側傾斜面、前記厚板面及び前記他端側傾斜面のうち、前記一端側傾斜面の全域及び前記厚板面における前記他端側傾斜面に隣接する前記一部の領域を除いた領域の幅方向の中央部分の背面同士が互いに接触するように陥入する凹部とを有し、
前記一端側傾斜面の傾斜角をθ、前記シューと前記傾斜面との間に作用する静止摩擦係数をμとした場合、前記シューが前記一端側傾斜面上にあっても、前記ドアを任意の開度位置に保持し得るように0<tanθ<μの関係とし、
前記シューは、前記外表面のいずれの位置にあっても前記シューと前記リンクの前記外表面との間に作用する静止摩擦力により前記ドアを任意の位置に保持可能で、かつ前記ケースが前記全開ストッパに当接した位置にある場合、前記厚板面における前記所定の領域に位置し、前記他端側傾斜面に落ち込まないことを特徴とする自動車用ドアチェック装置。
【請求項2】
前記2枚の板材をステンレス板とし、前記シューの材質を黄銅、ポリアセタール又はアラミド繊維とし、前記シューと前記2枚の板材との間に作用する静止摩擦係数を略0.3としたことを特徴とする請求項1記載の自動車用ドアチェック装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体に開閉可能に支持されるドアを任意の開度位置に保持可能な自動車用ドアチェック装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用ドアチェック装置においては、基端部が車体に揺動可能に連結されるリンクと、ドア側に配置され、弾性部材の付勢力によりリンクの外表面に押し付けられるシューとを備え、ドアの開閉動作に伴ってシューがリンクの外表面を摺接し、シューとリンクの外表面とが互いに接触する接触面に作用する摩擦力によって、ドアを所定の開度位置に保持可能にしている(例えば、特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公昭62−24692号公報
【特許文献2】特許第4392658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の発明においては、シュー(特許文献1においては、摺動子)がリンク(同じく、アーム)に形成した隆起部の頂上平面に乗り上げている状態でのみ、シューとリンクの外表面との間に作用する静止摩擦力によってドアを保持する構成であるため、ドアを限られた範囲の開度位置だけしか保持することができない。
【0005】
特許文献2記載の発明においては、リンク(特許文献2においては、レバー)の外表面をシューが一定の付勢力で摺接可能な平坦面として、シューとリンクの外表面との間に生じる静止摩擦力によって、シューがリンクに対して保持される構造としているため、ドアを任意の開度位置で保持できる利点がある反面、ドアの開閉操作力が一定であるため、ドアの開閉操作に減り張りの無いものとなってしまい、ドアの開閉操作が良好なものとは言い難い。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、ドアの開閉操作に減り張りがあって、かつドアを任意の開度位置で保持可能な自動車用ドアチェック装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、上記課題は、次のようにして解決される。
(1)自動車のドアまたは車体のいずれか一方に固定されるケースと、一端部が前記ドアまたは前記車体のいずれか他方に揺動自在に枢着されると共に、前記ケースを挿通するリンクと、前記リンクの他端部に固定され前記ドアの全開時に前記ケースが当接する全開ストッパと、前記ケース内に設けられ前記ドアの開閉動作に伴って前記リンクの外表面を摺接するシューと、前記ケース内に設けられ前記シューを前記リンクの前記外表面に向けて付勢する弾性部材とを備え、前記リンクは、折り曲げた2枚の板材の背面同士を一部の領域を除いて溶着した形態であって、前記外表面の一部を形成する前記一端部側の一端側薄板面と、前記一端側薄板面に連続し、前記他端部の方へいくにしたがって前記2枚の板材の板厚方向の寸法が大となるように一定の角度で傾斜する前記外表面の一部を形成する一端側傾斜面と、前記一端側傾斜面の頂上から前記他端部側へ向けて平坦に延伸し前記寸法が前記一端側薄板面よりも大である前記外表面の一部を形成する厚板面と、前記厚板面に連続し前記他端部の方へいくにしたがって前記寸法が小となるように傾斜する他端側傾斜面と、前記他端側傾斜面の麓に連続し前記全開ストッパが固定される他端側薄板面と、前記2枚の板材の背面同士が互いに離間する領域である前記一端側傾斜面、前記厚板面及び前記他端側傾斜面のうち、前記一端側傾斜面の全域及び前記厚板面における前記他端側傾斜面に隣接する前記一部の領域を除いた領域の幅方向の中央部分の背面同士が互いに接触するように陥入する凹部とを有し、前記一端側傾斜面の傾斜角をθ、前記シューと前記傾斜面との間に作用する静止摩擦係数をμとした場合、前記シューが前記一端側傾斜面上にあっても、前記ドアを任意の開度位置に保持し得るように0<tanθ<μの関係とし、前記シューは、前記外表面のいずれの位置にあっても前記シューと前記リンクの前記外表面との間に作用する静止摩擦力により前記ドアを任意の位置に保持可能で、かつ前記ケースが前記全開ストッパに当接した位置にある場合、前記厚板面における前記所定の領域に位置し、前記他端側傾斜面に落ち込まない。
【0012】
(2)上記(1)において、前記2枚の板材をステンレス板し、前記シューの材質を黄銅、ポリアセタール又はアラミド繊維とし、前記シューと前記2枚の板材との間に作用する静止摩擦係数を略0.3とする
【発明の効果】
【0013】
本発明の自動車用ドアチェック装置によると、ドアの開閉操作に減り張りがある良好な開閉操作を得ることができると共に、ドアを任意の開度位置で保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係わる第1実施例のドアチェック装置の平面図である。
図2】同じくドアチェック装置の分解斜視図である。
図3図1におけるIII−III線横断面図である。
図4】シューがリンクの傾斜面に保持されている状態を示す図3と同一部位の横断面図である。
図5】シューがリンクの厚板面に保持されている状態を示す図3と同一部位の横断面図である。
図6】シューが全開位置に保持されている状態を示す図3と同一部位の横断面図である。
図7図3におけるVII−VII線縦断面図である。
図8図5におけるVIII−VIII線縦断面図である。
図9】本発明に係わる第2実施例を示し、ドアチェック装置の横断面図である。
図10】同じく、シューが全開位置に保持されている状態を示す横断面図である。
図11】本発明に係わる第3実施例を示し、ドアチェック装置の横断面図である。
図12】本発明に係わる第4実施例を示し、ドアチェック装置の横断面図である。
図13】本発明に係わる第5実施例を示し、ドアチェック装置の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係わる実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明において、図1、3〜6及び図9〜12において下方を「前方」とし、同じく上方を「後方」とし、図3〜6、9〜12において右方を「上方」とし、同じく右方を「下方」とする。
【0016】
図1〜8は、本発明に係わる第1実施例を示す。ドアチェック装置1は、車体に枢着されるリンク4と、車体に上下方向のヒンジ軸回りに開閉可能に枢着されるドア(図示略)に取り付けられ、リンク4の上下の外表面を摺接可能な上下のシュー9A、9Bを含むチェック構造体5とを備え、リンク4とシュー9A、9Bとの間に作用する動摩擦力をもってドアの開閉動作に抵抗を付与すると共に、リンク4とシュー9A、9Bとの間に作用する静止摩擦力をもってドアを任意の開度位置に保持する。
【0017】
リンク4は、長手方向(前後方向)の前端部が車体に固定される支持ブラケット2に上下方向のシャフト3により左右方向へ揺動可能に枢着され、後部がドアに固定されるチェック構造体5の後述のケース8内に進入する。
【0018】
チェック構造体5は、前方を向く上下2本のボルト7によりドア内に固定されるケース8と、ケース8の後面の開口を閉塞するカバー11と、ケース8内に収容され、ケース8内に進入したリンク4の上下の外表面を長手方向へ摺接可能な上下のシュー9A、9Bと、ケース8内に収容されシュー9A、9Bをリンク4の上下の外表面に向けてそれぞれ付勢する上下の弾性部材をなすコイルばね10、10とを有する。さらに、必要に応じて、ドア内に進入したリンク4の外表面に塵埃等が付着しないように、リンク4の後部側を覆うダストブーツ12が設けられる。
【0019】
ケース8及びカバー11には、リンク4をケース8内に導入可能とするための通孔81及び111が設けられる。
【0020】
図7、8に示すように、上のシュー9Aは、ケース8内に進入したリンク4における上の外表面を摺接する摺接部91Aと、摺接部91Aの右側部にあって、下方へ突出してリンク4における幅方向の右側面を摺接する案内壁92Aと、摺接部91Aの左側部にあって、摺接部91Aの面よりも下のシュー9Bから離れる方向(上方)へ凹んで下のシュー9Bの案内壁92Bの上端面に対向する段部93Aとを有する。下のシュー9Bは、リンク4の下の外表面を摺接する摺接部91Bと、摺接部91Bの左側部にあって、上方へ突出してリンク4の幅方向の左側面を摺接する案内壁92Bと、摺接部91Bの右側部にあって、摺接部91Bよりも上のシュー9Aから離れる方向へ凹んで上のシュー9Aの案内壁92Aの下端面に対向する段部93Bとを有する。
【0021】
上下のコイルばね10、10は、上下のシュー9A、9Bの摺接部91A、91Bをリンク4の上下の外表面にそれぞれ付勢するようにケース8内に設けられる。
【0022】
リンク4は、2枚のステンレス製板材を上下方向へ折曲加工して背面同士を互いに溶着することにより形成される。リンク4の上下の外表面には、前端部の側にあって平坦な前側の上下の薄板面41と、後端部にあって平坦な後側の上下の薄板面42と、前側の薄板面41に連続し、後方へいくにしたがって上下方向の厚みが厚くなるように一定の角度で傾斜する上下の傾斜面44と、長手方向のほぼ中央部にあって前側の傾斜面44に連続し、薄板面41、42よりも上下方向への厚みが厚くなるように外表面が平坦な上下の厚板面43と、厚板面43の後端と後側の薄板面42とを連続させる後側の上下の傾斜面45とが形成される。
【0023】
リンク4における上下の傾斜面44及び厚板面43の幅方向の中央部分には、凹部46が長手方向に沿って連続形成される。凹部46は、シュー9A、9Bとリンク4の外表面(傾斜面44及び厚板面43)との間に作用する摩擦力を段階的に変化させるものではなく、上下の傾斜面44及び厚板面43の幅方向の中央部分の背面同士が互いに接触するように陥入することによって、上下のシュー9A、9Bが上下の傾斜面44及び厚板面43を摺接する際、上下の傾斜面44及び厚板面43の厚み方向への変形を抑止するものである。よって、リンク4における上下の傾斜面44及び厚板面43は、シュー9A、9Bとの間に作用する摩擦力が段階的に変化するような凹凸を一切形成しない形状である。
【0024】
さらに、凹部46は、シュー9A、9Bがリンク4の上下の外表面を摺接する際、リンク4の上下の外表面に付着した塵埃等を落とし込んで留めておくことが可能であると共に、落とし込んだ塵埃等を前端から排出できるように、長手方向の前端部分、すなわち傾斜面44に設けられる部分が前方へ向けて開口する。さらに、凹部46内に落とし込んだ塵埃等を下方へ向けて排出できるように、長手方向の中間部分には、上下の凹部46、46を上下方向に貫通する排出口49が設けられる。また、同じく後端部分、すなわち厚板面43に設けられる部分は厚板面43の長手方向の長さの約4/5まで後方へ延出する。したがって、上下の厚板面43における後部の約1/5の背面同士は互いに接触していない。
【0025】
リンク4における後側の薄板面42には、全開ストッパ6が固着される。全開ストッパ6は、ドアが全開位置に移動した際、チェック構造体5のカバー11の後面が当接することでそれ以上のシュー9A、9Bの後方移動を阻止して、ドアの全開位置を規制する。なお、全開ストッパ6は、カバー11の後面に直接当接する弾性部6aと、弾性部6aの後面を押させる金属部6bとにより形成される。
【0026】
本発明は、リンク4の上下の外表面とシュー9A、9Bとの間に作用する静止摩擦力をもって、ドアを任意の開度位置に保持可能とするため、本実施例においては、リンク4をステンレス製とし、シュー9A、9Bを黄銅製として、静止摩擦係数を約0.3以上になるように設定している。また、シュー9A、9Bを傾斜面44に静止摩擦力により保持可能とするため、静止摩擦係数をμとし、傾斜面44の傾斜角をθ(図3参照)とした場合、傾斜角θと静止摩擦係数μとの関係を、0<tanθ<μとしている。よって、静止摩擦係数μを0.3以上とした場合には、傾斜面44の傾斜角θは約16度以下に設定される。これに対して、従来のドアチェック装置は、シューとリンクとの間に作用する静止摩擦係数を0.1程度として、シューを傾斜面に保持できない構成となっている。
【0027】
次に、第1実施例の作用について説明する。
ドアが全閉位置にある場合には、図3に示すように、シュー9A、9Bの摺接部91A、91Bは、上下のコイルばね10の付勢力によってリンク4における前側の上下の薄板面41にそれぞれ押し付けられている。これにより、シュー9A、9Bは、リンク4の薄板面41との間に作用する静止摩擦力によって薄板面41に保持され、ドアが全閉位置にあるとき、シュー9A、9B間でのリンク4の上下方向及び左右方向へのがた付きを阻止することができる。
【0028】
ドアが全閉位置から乗降が辛うじてできる直前の開度位置(換言すると、乗降が実質的に不能な開度位置)まで開いた場合、シュー9A、9Bは、図3に示す全閉位置からリンク4の薄板面41を摺接し、薄板面41と傾斜面44との境界位置(以下、「傾斜境界位置」と記す)まで移動する。この場合には、ドアを一定の開操作力で軽く開けることができると共に、シュー9A、9Bが乗降不能範囲(全閉位置と傾斜境界位置との間の範囲)内に位置するときには、リンク4の薄板面41とシュー9A、9Bの摺接部91A、91Bとの間に作用する静止摩擦力によりドアを任意の位置に保持することが可能である。
【0029】
ドアが乗降が辛うじてできる直前の開度位置から乗降が辛うじてできる開度位置まで開いた場合、シュー9A、9Bの摺接部91A、91Bは、傾斜境界位置からリンク4の傾斜面44を上りつつ摺接し、傾斜面44と厚板面43との境界位置(以下、「厚板境界位置」と記す)まで移動する。この場合には、シュー9A、9Bが傾斜面44を上るにしたがってコイルばね10の付勢力が増大するため、リンク4の上下の外表面とシュー9A、9Bの摺接部91A、91Bとの間に作用する動摩擦力が徐々に増大し、ドア開度が大きくなるにつれて開操作力が徐々に重くなる。また、傾斜面44の傾斜角θを0<tanθ<μの関係になるようにしているため、例えば、図4に示すように、シュー9A、9Bが上下の傾斜面44の途中にあっても、シュー9A、9Bの摺接部91A、91Bと上下の傾斜面44との間に作用する静止摩擦力によってシュー9A、9Bを上下の傾斜面44に保持することができる。この結果、ドアが乗降が辛うじてできる開度範囲(シュー9A、9Bが傾斜境界位置と厚板境界位置間にある範囲)内にあっても、ドアを任意の開度位置に保持することができる。
【0030】
ドアが乗降が辛うじてできる開度位置から乗降が余裕をもってできる開度位置まで開いた場合には、シュー9A、9Bは、上下の厚板面43を後方へ向けて摺接し、例えば図5に示す位置に移動する。この場合においては、コイルばね10の付勢力が増大した状態で、かつ上下の厚板面43には摩擦力を段階的に変化させるような凹凸が一切形成されていないので、シュー9A、9Bは、リンク4の厚板面43を一定の動摩擦力をもって摺接すると共に、リンク4の上下の厚板面43に位置していても、上下の厚板面43との間に作用する静止摩擦力によって任意の位置に保持することができる。この結果、ドアが乗降が容易にできる範囲にあっても、ドアを任意の開度位置に保持することができる。
【0031】
ドアが全開位置まで開いた場合には、シュー9A、9Bは、図6に示すように、厚板面43の後端(凹部46が形成されていない部分)まで摺接し、チェック構造体5のカバー11の後面は、全開ストッパ6の前面に当接する。シュー9A、9Bが厚板面43の後端に位置している状態においては、上下の厚板面43の背面同士が互いに接触していないため、上下の厚板面43は、コイルばね10の付勢力によるシュー9A、9Bの押し付け力により互いに接近する方向へ僅かに弾性変形する。これにより、ドアが全開位置に保持されている場合には、例えば図5に示すように、シュー9A、9Bが厚板面43の長手方向のほぼ中央部に位置してドアが半開位置に保持されているときよりも、大きな力をもってドアを全開位置に保持することができる。
【0032】
ドアを全開位置から閉じる場合には、シュー9A、9Bは、図6に示す全開位置からリンク4の上下の外表面を摺接し、ドアの開動作のときと逆の経路を辿って図3に示す全閉位置に移動する。ドアを閉じる場合も、ドアを開ける場合と同様に、シュー9A、9Bは、リンク4の外表面のどの位置にあってもリンク4の外表面との間に作用する静止摩擦力でリンク4に対して保持されるためドアを任意の開度位置の保持することができる。この場合には、シュー9A、9Bの摺接部91A、91Bが傾斜面44を下るにしたがってコイルばね10の付勢力が減少するため、リンク4の上下の外表面とシュー9A、9Bの摺接部91A、91Bとの間に作用する動摩擦力が徐々に減少し、ドアの開度が小さくなるにつれて閉操作力が徐々に軽くなる。
【0033】
上述のように、第1実施例においては、ドアを開ける場合において、ドアの開操作力は、シュー9A、9Bが全閉位置から傾斜境界位置に移動するまでは軽くかつ一定で、シュー9A、9Bが傾斜境界位置から厚板境界位置に移動するまでは徐々に重くなり、また、シュー9A、9Bが厚板面43を移動する間は重くかつ一定であることから、ドアの開動作に減り張りがあり、ドアの開操作の向上を図ることができる。また、ドアを閉める場合には、ドアの閉操作力は、シュー9A、9Bが厚板面43を移動する間は重くかつ一定で、シュー9A、9Bが厚板境界位置から傾斜境界位置に移動するまでは徐々に軽くなり、また、シュー9A、9Bが傾斜境界位置から全閉位置に移動するまでは軽くかつ一定であることから、ドアの閉動作に減り張りがあり、しかも、ドアの閉じ性に優れることから、ドアの閉操作に向上を図ることができる。
【0034】
また、シュー9A、9Bは、リンク4の外表面のどの位置にあってもリンク4に対して静止摩擦力により保持されるため、ドアを任意の開度位置に保持することが可能となる。
【0035】
図9、10は、本発明に係わる第2実施例を示す。
第2実施例におけるリンク4の上下の外表面には、一定の傾斜角θ1(図9参照)をもってリンク4の後端付近まで延出する傾斜面47が形成される。したがって、第1実施例における厚板面43に相当する部分は、傾斜面47に設けられることとなる。また、第2実施例においては、傾斜面47がリンク4の後端付近まで一定の角度で延出していること以外は、第1実施例と同一であるので、第1実施例と同一部分には第1実施例で使用した符号と同一符号を付して、詳細な説明は省略する。
【0036】
傾斜面47の傾斜角θ1は、第1実施例における傾斜面44の傾斜角θよりも小さな角度に設定される。傾斜角θ1と静止摩擦係数μとの関係は、第1実施例と同様に、0<tanθ1<μとなるように設定される。
【0037】
シュー9A、9Bは、ドアの開動作に伴って、図9に示す全閉位置からリンク4の上下の外表面を摺接し、ドアの全開位置において、図10に示すように、傾斜面47の頂上に移動すると共に、カバー11の後面が全開ストッパ6の前面に当接する。
【0038】
第2実施例は、ドアの開動作において、シュー9A、9Bがリンク4の薄板面41を摺接する場合には、第1実施例と同様に開操作力が一定であり、シュー9A、9Bが傾斜面47を摺接する場合には、全開位置に到達するまで動摩擦力が徐々に増大する。この結果、ドア開度が大きくなるにしたがって、開操作力が徐々に増大するため、ドアの開動作に減り張りがあり、ドアの開操作の向上を図ることができる。また、ドアを閉める場合には、ドアの閉操作力が全開位置から薄板面41に到達するまで動摩擦力が徐々に減少するため、ドアの閉動作に減り張りがあり、しかも、ドアの閉じ性に優れることから、ドアの閉操作の向上を図ることができる。
【0039】
また、シュー9A、9Bは、リンク4の外表面のどの位置にあっても静止摩擦力によりリンク4に対して保持されるため、ドアを任意の開度位置に保持することが可能となる。
【0040】
図11は、本発明に係わる第3実施例を示す。
第3実施例は、リンク4の上下の外表面に形成した傾斜面47を第2実施例のものよりも若干短縮し、ドアが全開位置にあって、チェック構造体5のカバー11の後面が全開ストッパ6に当接した状態にあるとき、図11に示すように、シュー9A、9Bの摺接部91A、91Bが傾斜面47を若干乗り越えて、後側の傾斜面45に位置するようにしている。これ以外は、第2実施例と同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0041】
第3実施例においては、ドアが全開位置にあるとき、シュー9A、9Bが傾斜面47を若干乗り越えて後側の傾斜面45に位置するため、第2実施例に比して、より大きな保持力でドアを全開位置に保持することが可能となる。
【0042】
図12は、本発明に係わる第4実施例を示す。
第4実施例において、リンク4における前側の傾斜面44に連続する厚板面48は、リンク4の後端にいくにしたがって上下方向の厚みが厚くなるように傾斜する。厚板面48の傾斜角は、傾斜面44の傾斜角θよりも小さく設定される。他の構成については、前記第1実施例を同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0043】
第4実施例は、ドアの開動作において、シュー9A、9Bがリンク4の厚板面48を摺接する場合には、全開位置に達するまで動摩擦力が徐々に増大する。この結果、ドア開度が大きくなるにしたがって、開操作力が徐々に増大するため、ドアの開動作に減り張りがあり、ドアの開操作の向上を図ることができる。また、ドアの閉動作においては、全開位置から傾斜境界位置に到達するまで動摩擦力が徐々に減少する。この結果、ドア開度が小さくなるにしたがって、閉操作力が徐々に減少するため、ドアの閉動作に減り張りがあり、しかも、ドアの閉じ性に優れることから、ドアの閉操作の向上を図ることができる。
【0044】
また、シュー9A、9Bは、リンク4の外表面のどの位置にあっても静止摩擦力によりリンク4に対して保持されるため、ドアを任意の開度位置に保持することが可能となる。
【0045】
図13は、本発明に係わる第5実施例を示す。
第5実施例においては、第1〜4実施例のようにリンク4に設けた凹部46を廃止して、上下の厚板面43における幅方向のほぼ中央部分に前後方向へ長寸の長孔431、431を設ける。他の構成については、前記第1実施例を同一であるので、詳細な説明は省略する。
【0046】
第5実施例は、ドアの開閉動作に伴ってシュー9A、9Bの摺接部91A、91Bがリンク4の厚板面48を摺接する際、リンク4の外表面に付着した塵埃等を長孔431を通して確実に落下させることができる。この結果、リンク4の外表面とシュー9A、9B間に作用する摩擦力を、リンク3の外表面に付着した塵埃等の影響を受けることなく、長期に亘って初期設定の摩擦力に保つことが可能となる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、次のような種々の変形や変更を施すことが可能である。
(1)シュー9A、9Bの材質を、黄銅に代えて、ポリアセタール、またはアラミド繊維入りナイロンとする。
(2)リンク4をドア側に枢着し、チェック構造体5を車体側に配置する。
(3)弾性部材を、コイルばねに代えてゴムとする。
【符号の説明】
【0048】
1 ドアチェック装置
2 支持ブラケット
3 シャフト
4 リンク
5 チェック構造体
6 全開ストッパ
6a 弾性部
6b 金属部
7 ボルト
8 ケース
9A、9B シュー
10 コイルばね(弾性部材)
11 カバー
41、42 薄板面
43 厚板面
44、45 傾斜面
46 凹部
47 傾斜面
48 厚板面
49 排出口
81 通孔
91A、91B 摺接部
92A、92B 案内壁
93A、93B 段部
111 通孔
431 長孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
図11
図12
図13