(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
種子が貯留される種子ホッパと、種子が充填される種子穴を有する播種ロールと、を備え、前記播種ロールが軸線回りに回転する過程で、前記種子ホッパから供給される種子が前記種子穴に充填されるとともに、前記種子穴に充填された種子が前記播種ロールから繰り出される播種機であって、
前記種子ホッパは、前記播種ロールへ向けて下り勾配で傾斜する底板と、前記播種ロールに臨み前記底板との間に前記種子ホッパ内の種子が流通可能な空間が形成される傾斜板と、前記傾斜板の一端と前記播種ロールの外周面との間に形成される一定の隙間と、を有し、
前記隙間は、前記種子ホッパ内の種子の粒径よりも小さく設定されることを特徴とする播種機。
【背景技術】
【0002】
種子が貯留される種子ホッパと種子が充填される種子穴を有する播種ロールとを備え、播種ロールの回転機構とポット集合体(育苗容器)の送り機構とを協働させることにより、種子ホッパから供給される種子を種子穴に充填させるとともに種子穴に充填された種子を播種ロールからポット集合体の各ポットの培養土に形成された播種穴へ繰り出す播種機が周知である(例えば「特許文献1」参照)。
【0003】
特許文献1を利用した播種機は個人向けとして、そ菜用およびビート用に2機種販売されている(例えば、電動式播種専用機「まき助」(登録商標)、日本甜菜製糖株式会社製)。一方、ビート用共同土詰播種プラント向けに自動播種機を開発する場合、個人向け既販機の能率を向上させる必要があり、要求される能率は、個人向け(既販機)で紙筒*80冊/時であるが、プラント向けでは紙筒*180冊/時で2倍以上となる。ロール式播種機の場合、能率を向上させるためには播種ロールの周速度を増加させる必要があり、播種ロールの周速度が増加しても確実に種子穴に種子を充填させる手段としては、播種ロールの径を大きくして種子ホッパ内の種子と播種ロールとの接触面積を増やすことが有効であるが、これには限界がある。
そこで、特許文献1に記載された種子繰出し式播種機の播種ロールの径を、従来の100mmから現実的な大きさである約200mmまでスケールアップさせたが、播種ロールの周速度を増加させた場合、種子の充填率の面では満足の出来る結果ではなかった。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態を添付した図を参照して説明する。なお、本実施形態に係る播種機は、紙筒移植栽培に使用されるポット集合体(育苗容器)への播種に用いられる播種機であって、種子ホッパを除く部分が、特許第5389363号明細書において開示された種子繰出し式播種機(以下「従来型播種機」という)と共通である。そこで、明細書の記載を簡潔にすることを目的に、従来型播種機と共通部分の説明は、特許第5389363号明細書を参照することとし、ここでは省略する。
【0010】
図1は、播種ロール11の回転軸12に直交する平面(以下「軸直角平面」という)による種子ホッパ1および播種ロール11の断面図である。播種ロール11は、アルミニウム合金材料からなる円柱形の本体の外周面11Aに複数個の種子穴13を切削加工することで形成される。複数個の種子穴13は、展開されたポット集合体を構成する複数個の個別ポットに対応させて配列される。ここで、播種時におけるポット集合体の送り方向を、展開されたポット集合体の縦方向と定義すると、播種ロール11における種子穴13の周方向の間隔(ピッチ)は、展開されたポット集合体における個別ポットの縦方向の間隔に対応する。
【0011】
また、播種ロール11における種子穴13の回転軸12に沿う方向の間隔は、展開されたポット集合体における個別ポットの横方向の間隔に一致する。そして、播種ロール11の回転機構とポット集合体の送り機構とを協働させて播種ロール11の回転とポット集合体の送りとを同期させることにより、播種ロール11の各種子穴13に充填された種子20(コート種子)が、展開されたポット集合体の各播種穴へ投入される。なお、播種穴は、展開されたポット集合体の各個別ポットに充填された培養土に形成されるすり鉢状の穴である。なお、播種ロール11は、アルミニウム合金材料に限定されるものではなく、例えば、プラスチック材料、鋳鉄材料等を適用することができる。
【0012】
種子ホッパ1は、種子ホッパ1に種子20を供給するために長方形に開口した種子供給口2を有する。なお、便宜上、
図1における上下方向および左右方向を、そのまま種子ホッパ1における上下方向および左右方向と定義する。種子ホッパ1は、右下がりに傾斜した底板3、換言すると、播種ロール1へ向けて下り勾配で傾斜した底板3を有する。底板3の左端、すなわち、底板3における播種ロール11から離れた側の端は、回転軸12に沿って延びて種子ホッパ1の左側板4の下端に接続される。なお、左側板4は、回転軸12の軸線に一致する播種ロール11の軸線(以下「軸線」という)を含む垂直に配置された平面に対して平行に配置され、底板3と一体に形成される。また、本実施形態において、底板3は軸線を含む平面上に配置される。
【0013】
ここで、便宜上、
図1における播種ロール11に、0°、90°、180°および270°の軸線回りの各位置を定義する。底板3の右端、すなわち、底板3における播種ロール11に近い側の端は、軸線に沿って延びて播種ロール11の外周面11Aにおける270°から0°までの範囲の270°近傍に接触するように配置される。底板3の右端には、底板3の右端をベンディング加工することで形成されたL字形の曲げ部3Aが設けられる。また、種子ホッパ1は、左側板4に対向する右側板5を有する。右側板5の下端には、軸線に沿って一列に延びてスクレーパとして機能するブラシ14が設けられる。ブラシ14は、下端が播種ロール11の外周面11Aにおける270°から0°までの範囲の0°近傍に接触するように配置される。
【0014】
種子ホッパ1内には、底板3に対向して配置されて右下がりに傾斜した傾斜板6が設けられる。本実施形態において、傾斜板6は軸線を含む平面上に配置される。傾斜板6の右端
(一端)、すなわち、傾斜板6における播種ロール11に近い側の端は、軸線に沿って延びて播種ロール11の外周面11Aとの間に一定の隙間15が形成されるように配置される。本実施形態において、隙間15は、対象となる種子20(コート種子)の粒径よりも小さく設定される。なお、左側板4と傾斜板6の左端、すなわち、傾斜板6における播種ロール11から離れた側の端との間には、種子20が流通可能な一定の隙間7が形成される。また、傾斜板6の左端には、傾斜板6の左端をベンディング加工することで形成されたL字形の曲げ部6Aが設けられる。
【0015】
種子ホッパ1の底板3と傾斜板6との間には、種子20が流通可能な空間8が形成される。空間8は、右端が播種ロール11の外周面11Aに臨むように開口し、播種ロール11へ向けて上下方向の間隔が小さくなる楔形に形成される。換言すると、空間8は、軸直角平面による断面が開口8Aへ向けて先細りとなるように形成される。また、空間8は、開口8Aの開口幅、換言すると、底板3の右端と傾斜板6の右端との距離が、種子20の粒径よりも大きく、且つ種子20の粒径の2倍よりも小さく設定される。すなわち、開口8Aは、
図1に示される断面図において、空間8内の2個以上の種子20が同時に播種ロール11の外周面11Aに到達することがないように形成される。換言すると、開口8Aは、空間8内の右端(下端)に位置する種子20に後続の種子20が乗り上げることがないように開口幅が設定される。
【0016】
図1に示されるように、種子ホッパ1は、播種ロール11へ向かう傾斜板6上の種子20の流れを整える種子整流板9を有する。種子整流板9は、種子ホッパ1の種子供給口2の右側板5寄りの部分から傾斜板6の左右方向中央へ向けて左下がりに傾斜するように配置される。傾斜板6と種子整流板9の下端(左端)との間には、ゲート9A(隙間)が形成される。ゲート9Aのゲート高さ、換言すると、傾斜板6と種子整流板9の下端との距離は、
図1に示される断面図において、種子ホッパ1の貯留部10に貯留された種子20が1個づつ通過するように形成される。なお、種子ホッパ1の種子供給口には、右側板5の上端と種子整流板9の上端との間が、ゲート9Aを通過することで整流された傾斜板6上の種子20を目視するための窓として利用される。
【0017】
次に、本実施形態の作用を説明する。
播種の準備段階で、サイズが均一化された種子20(コート種子)が作業者によって種子ホッパ1内に供給される。種子供給口2から投入された種子20は、種子ホッパ1内の貯留部10に貯留される。このとき、貯留部10から零れ落ちた種子20は、左側板4と傾斜板6との間の隙間7を通って底板3と傾斜板6との間の空間8へ流入する。本実施形態では、底板3と傾斜板6との間隔が播種ロール11へ向けて狭まるように空間8を形成したので、
図1に示されるように、空間8内の種子20のうち、右端(下端)に位置する種子20のみが播種ロール11の外周面11Aに当接される。なお、種子20を隙間7から空間8へ直接供給してもよい。
【0018】
一方、貯留部10に貯留された種子20は、ゲート9Aを通過することで整流されて傾斜板6上に平坦に、換言すると、傾斜板6上を一面に広がるように並べられる。そして、傾斜板6上の種子20のうち、右端(下端)に位置する種子20は、播種ロール11の外周面11Aに当接される。なお、ゲート9Aのゲート高さをより高く設定することにより、ゲート9Aを通過した傾斜板6上の種子20が層(例えば、2層)をなすように種子ホッパ1を構成してもよい。
【0019】
播種の段階で、播種ロール11を軸線回りに
図1における時計回り方向へ一定の周速度で回転させることにより、播種ロール11の種子穴13には、底板3上の右端に位置する種子20あるいは傾斜板6上の右端に位置する種子20のいずれかが順次充填される。既に種子20が充填された種子穴13に余剰に種子20が取り込まれた場合、余剰な種子20は、ブラシ14によって種子穴13から取り除かれる。なお、播種機は、播種ロール11の外周面11Aを0°から180°までの範囲内で被うガイド板を備えており、種子穴13に充填された種子20は、播種ロール11の180°近傍の位置に到達してガイド板によるガイドが途絶えた時点で種子穴13から離脱し、展開されたポット集合体の播種穴へ投入される。
【0020】
次に、本実施形態に係る播種機(以下「本播種機」という)が奏する効果を検証するために本出願人が行った試験について説明する。ここで、
図2に示されるのは、理解を容易にするために参照する傾斜板6を備えていない従来型種子ホッパ21および播種ロール11の軸直角断面による断面図である。なお、従来型種子ホッパ21においては、
図1に示される本実施形態に係る種子ホッパ1(
図3および
図4においては「本発明種子ホッパ」と記載する)に対応する構成要素について同一の名称および符号を付与する。
【0021】
試験は、てん菜のコート種子を使用して、外径211mmの播種ロール11の種子穴13への充填率(%)を本実施形態に係る種子ホッパ1と従来型種子ホッパ21とで比較した。ここで、充填率は、1セットのポット集合体へ播種される1400粒のコート種子20のうち、播種ロール11の種子穴13に取り込まれなかったコート種子20を計数し、その計数結果(以下「欠粒数」という)に基づき算出した。また、試験は、播種ロール11の周速度(m/s)を0.078、0.093、0.108の3段階に設定し、各周速度についての欠粒数を10回(
図3におけるNo.01〜No.10)計数することで、各周速度における平均欠粒数と充填率とを算出した。
【0022】
図3は、播種ロール11の周速度と欠粒数との関係を示す図表である。この図に示されるように、従来型種子ホッパ21では、播種ロール11の周速度が0.078(m/s)のときの平均欠粒数が0.3であったが、播種ロール11の周速度が高まるにつれて平均欠粒数が増大し、播種ロール11の周速度が0.093(m/s)のときの平均欠粒数は5.7(19)であり、播種ロール11の周速度が0.108(m/s)のときの平均欠粒数は7.9(26)であった。ここで、平均欠粒数における()内の数値は、播種ロール11の周速度が0.078(m/s)のときの平均欠粒数に対する比である。
【0023】
これに対して、
図3を参照すると、本実施形態に係る種子ホッパ1において、欠粒数は、播種ロール11の周速度(m/s)が0.078〜0.108の範囲内で播種ロール11の周速度に影響されないことが理解できる。そして、
図4は、播種ロール11の周速度(m/s)と播種ロール11への充填率(%)との関係を示す図である。この図から明らかなように、播種ロール11の周速度(m/s)が0.078〜0.108の範囲内で、本実施形態に係る種子ホッパ1では充填率が略100%で推移するのに対して、従来型種子ホッパ21では、播種ロール11の周速度が高まるにつれて充填率が低下する結果となった。
【0024】
本実施形態では以下の効果を奏する。
本実施形態によれば、種子ホッパ1内に播種ロール11へ向けて下り勾配で傾斜する傾斜板6を設け、底板3と傾斜板6との間に、播種ロール11へ向けて種子20が流通可能な空間8を形成して、空間8の開口8Aを播種ロール11の外周面11Aに臨むように構成した。
【0025】
これにより、種子ホッパ1内の種子20と播種ロール11との接触面積を増大させることが可能であり、播種ロール11に形成された種子穴13には、底板3上に位置する種子20と傾斜板6上に位置する種子20とのいずれかが充填される。換言すると、1つの種子穴13について、種子20を充填する機会が2度与えられる。したがって、従来型種子ホッパ21を備える播種機に対して播種ロール11の周速度を高めても播種ロール11への高い充填率を得ることが可能であり、播種能率と播種ロール11への種子20の充填率とを両立することができる。加えて、高い充填率を維持することができることから、ポット集合体(育苗容器)への播種精度が向上し、補植や間引き等の手直しを、削減あるいは廃止することが可能であり、紙筒移植栽培を合理化することができる。
【0026】
また、本実施形態に係る種子ホッパ1を小さい外径(例えば100mm)を有する播種ロール11と組み合わせた場合であっても、同様に、従来型種子ホッパ21を備える播種機と比較して播種ロール11への種子20の充填率を高める、延いてはポット集合体への播種精度を向上させることができるので、必要に応じて播種ロール11を小型化することが可能である。これにより、小規模農家に適用するように、播種ロール11、延いては播種機を大幅に軽量化することが可能であり、延いては播種機の製造コストを削減することができる。
【0027】
なお、実施形態は上記に限定されるものではなく、例えば、次のように構成することができる。
本実施形態では、傾斜板6の右端
(一端)と播種ロール11
の外周面11Aとの間に形成される隙間15を対象となる種子20(コート種子)の粒径よりも小さく設定したが、例えば、当該隙間15を種子20の粒径の1〜2倍程度に設定
した場合、傾斜板6上の種子20を隙間15を通して空間8へ供給することが可能であり、必要に応じて底板3上に種子20を補充することができる。
【0028】
播種ロール11の外周面11Aに、同一軸直角平面上に位置する種子穴13を通過して周方向へ延びる複数列の種子整列溝を配列することができる。これにより、播種ロール11への種子13の充填率をより向上させることが可能である。
【0029】
種子ホッパ1内に複数枚の傾斜板6を設けて、隣接する傾斜板6の相互間に播種ロール11へ向けて種子20が流通可能な空間8が形成することができる。これにより、1つの種子穴13に与えられる種子20の充填の機会を増やすことが可能であり、播種ロール11への種子20の充填率、延いては播種機の播種精度をより向上させることができる。