(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本開示は概して、チャネル情報に基づいてビームを方向づけて送る(たとえばビームフォーミング)に関している。例として、本開示の一部の実施形態は、意図した送信源(たとえば、受信デバイスと通信する意図をもつ基地局)をもち、一部の実施形態では、1つの干渉源(たとえば異なる基地局または別の干渉信号の発生源)をもつ、無線ローカルエリアネットワーク(WLAN)システムのコンテキストで記載されている。しかし、本開示は、マルチ送信源システム(たとえばWMAN、WiMAX、BLUETOOTH(登録商標)、および/または、3GPP LTE)のいずれかにおける任意の数の干渉源に対しても利用可能である点を理解されたい。加えて、本開示は、有線通信パス(たとえば電力線、電話線、同軸ケーブル)に対しても適用可能である。
【0020】
多入力多出力(MIMO)システムは、様々な環境においてリンクの信頼性およびスループットを高めるために利用可能である。ビームフォーミングを適用することで、特定のデバイスへの適切な方向に(たとえば、基地局から移動局へ)ビームを方向付けることで、MIMOシステムを向上させることができる。ビームを受信デバイスに方向づけることで、受信信号電力を上げて、存在しうる干渉電力を低減させることができる。たとえば、意図している受信デバイスが、高電力信号(たとえば、高い信号対干渉雑音比(SINR))を受信している間に、他のデバイスは雑音に見えてしまう低電力(たとえば低いSINR)で信号を受信する場合があり、他のデバイスが信号を無視する場合がある。
【0021】
受信デバイスは、意図している送信源に関するチャネルの推定値を計算してよい。受信デバイスは、計算された推定値または圧縮フィードバックを、意図している送信源に、フィードバック信号として送信することができる。送信源は、このフィードバック信号の情報を利用して、ビームの性質を変更し、これによりビームの形状を変更して、すべての干渉パターンを相殺する。直接チャネル推定フィードバックシステムの技術およびその機能は、Lee等に対する2009年1月30日に提出された米国特許出願第12/363,047号明細書(代理人整理番号MP2438)、Lee等に対する2010年6月18日に提出された米国特許出願第12/818,430号明細書(代理人整理番号MP3336)に詳述されており、これらの全体をここに参照として組み込む。
【0022】
ここで記載する、「ビームフォーマー」という用語は、ビームの発信側のことであり(たとえば無線ネットワークポイント)、「ビームフォーミー」という用語は、ビームフォーマーからビームを受信する受信デバイスのことである(たとえばクライアントデバイス)。ビームフォーミーも、他の送信源(干渉源と称される)からの干渉パターンを受信する場合がある。
【0023】
図1は、本開示の一実施形態によるビームフォーミングシステム100を例示する。ビームフォーミングシステム100は、送信源110、受信デバイス120、および干渉源130を含んでよい。送信源110(つまりビームフォーマー)は、受信デバイス120との間でデータの送受信を行う、無線ネットワークのアクセスポイントであってよい。
【0024】
送信源110は、特定のデバイスに信号を送信する任意の数のアンテナ112(通常は2以上)を含んでよい。たとえば、送信源110内の処理回路(不図示)を利用して、アンテナ112に提供される信号の特徴を変更して、信号およびビームの送信を特定の様式に成形することができる。より詳しくは、送信時に、複数のアンテナ11
2を含んだビームフォーマーが、トランスミッタの各アンテナの信号の位相および相対振幅を制御して、各アンテナが生成する波面の建設的および破壊的な干渉のパターンを形成する。この建設的および破壊的な干渉のパターンが、各アンテナからの波の組み合わせで形成されるビームを成形して、ビームを特定の方向に方向付ける(たとえば受信デバイス120に向けて方向づける)。
【0025】
より詳しくは、送信源110は、アンテナ11
2を利用してビーム150を生成してよい。円形の代わりに、ビーム150は、他の部分より一部分にフォーカスした楕円形状を有してもよい。ビーム150の形状は、短軸幅152を持ってもよい。通常の場合、ビーム幅はなるべく小さくして、所望のレシーバにビームを方向づけることができるようにすると好適である。他方で、ビーム幅は、アンテナ数およびアンテナの設定の関数であることから、ビーム幅をどのくらい小さくできるか、には制約がある。通常はアンテナ分離が大きいほど、得られるビーム幅が小さくなる。しかしトランスミッタは性質上、物理空間が限られているので、アンテナ同士が一定の距離離れて位置することになり、これによって、アンテナが形成できるビーム幅の最小値が決められてよい。
【0026】
受信デバイス120は、移動デバイス、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、タブレットコンピュータ、PDA,ネットワークアダプタ、またはその他の任意の、送信源110との通信に利用できる適切なデバイスであってよい。受信デバイス120は、ビーム150を受信するために1以上のアンテナ122を有してよい。受信デバイス120の位置に応じて、受信デバイス120が受信することが意図されている信号に干渉する信号を発生させる1以上の干渉源130が存在している場合がある。たとえば、複数のアクセスポイントは、受信デバイス120の位置している特定の領域に重なる信号を生成する場合がある。受信デバイス120が、アクセスポイントのうちの1つと通信してよく、特定の領域に近づいている信号を持つ他のアクセスポイントが、受信デバイス120が通信するアクセスポイントの信号と干渉する場合がある。
【0027】
特に、干渉源130は、1以上のアンテナ132を持つ場合がある。干渉源130は、別の送信源、雑音、別の受信デバイス、または、送信源110が送信する信号と重なる信号を送信する可能性のあるその他のソースであってよい。干渉源130は、ある領域160上でビーム150と重なりうるビーム140を生成してよい。ビーム150の形状は、領域160内で干渉信号またはビーム140と重なった結果、送信源110が意図していなかったような形状に変化する場合がある。したがい、ビーム150の信号対干渉雑音比(SINR)が、干渉信号またはビーム140が生じさせた干渉によって低減する場合もある。
【0028】
1つの干渉源130しか示されていないが、任意の数の干渉源が存在する可能性がる点を理解されたい。各干渉源は、送信源110が意図しているビーム150の形状に影響しうる干渉信号を生成する場合がある。特に、送信源110は、ビーム150と干渉しうる各干渉源130が発生する信号のチャネル特徴を有していない場合があるので、適切にビーム150を受信デバイス120に成形して方向付けることができない場合がある。
【0029】
本開示の一実施形態では、受信デバイス120が、送信源110に関するチャネル推定値を計算してよい。一部の実施形態では、受信デバイス120はさらに、干渉源130に関するチャネル推定値を計算してもよい。一部の実装例では、受信デバイス120が、干渉源130に関するチャネル推定値を、送信源110に関するチャネル推定値を利用して計算してもよい。たとえば、受信デバイス120は、予期される信号に、送信源に関するチャネル推定値を乗算した値を、受信信号から減算して、干渉源のチャネル推定値を得ることができる。干渉源130は、1つの干渉源として図示され、説明されるが、干渉源130は、様々な別の位置にあってよい任意の数の干渉源であってもよい。
【0030】
受信デバイス120は、送信源120および/または干渉源130のチャネル推定値を表すフィードバック信号を、送信源110に送信してよい。受信デバイス120は、複数のフィードバック信号を、たとえばアンテナ122を利用して同時に送信してよい。
図3から
図6に関して説明するが、受信デバイス120からのフィードバック信号が、送信デバイス110が、ビーム150の形状を変更するために利用されるステアリングマトリックスVを計算する際に利用する圧縮チャネル状態情報を含んでよい。一部の実施形態では、圧縮チャネル状態情報が、ステアリングマトリックスVを計算する際の一組の角度を含んでよい。
【0031】
送信源110は、受信デバイス120から受信したフィードバック信号に基づいてビーム150の形状を変更して、任意の干渉(雑音を含む)を相殺することができる。たとえば、送信源110は、受信デバイス120から受信するフィードバック信号、および、送信源110のメモリに格納されているデータに基づいて、等価チャネルマトリックス(受信デバイス120により計算されている)に対応するチャネル推定値を計算してよい。特に、送信源110は、ビーム150の特徴を変更して干渉を相殺するために、任意の公知のチャネル推定計算技術を利用してよい。
【0032】
一部の実施形態では、送信源110は、推定された等価チャネルマトリックスおよびチャネルの相互関係に基づいて、ビーム150の特徴を変更して干渉を相殺するために、様々なプリコード技術(たとえば特異値分解またはトムリンソン−原島プリコード法)を利用することができる。一部の実装例では、送信源110は、フィードバック信号を逆方向チャネルで受信してよい。この場合には、送信源110は、受信したフィードバック信号に基づいて逆方向チャネルのチャネル推定値を計算して、チャネルの相互関係を利用して、順方向チャネルのチャネル推定値を計算してよい(たとえば、逆方向チャネルの推定値に、行列転置を行うなどして)。
【0033】
図2は、本開示の一実施形態によるビームフォーミングシステム200を例示する。システム200に示されているように、送信源110は、ビーム150(
図1)の特徴を変更して、干渉源を相殺して、ビーム220を、受信デバイス120に向けて送信する。特に、ビーム150の特徴は、幅152を小さくするよう変更されてよい。または、ビーム150の特徴を、ビームが電力を増すように(たとえばSINRが高くなるように)変更して、干渉ビーム140を相殺することができる。複数の送信アンテナによるビームフォーミングは、各アンテナの利得(たとえばマグニチュードおよび位相)を変化させることで達成することができる。アンテナ利得を変化させると、ビームの方向、幅および電力に影響を与えることができる。
【0034】
たとえば、送信源110は、短軸幅152より小さい短軸幅210をもつビーム220を生成することができる。こうすると、干渉ビーム140とビーム220との間に重なりがなくなる、または、些細な重なりのみが生じるようになるので、受信デバイス120でビーム220のSINRが低減されない。
【0035】
一部の実施形態では、受信デバイス120は、ビームを送信源110に方向づけることができる。これは、送信源110に関して説明した技術を利用することで行うことができる。たとえば、送信源110も同様に、送信源110が受信した信号に関するチャネル推定値および干渉を表すフィードバック信号を受信デバイス120に送信してよい。受信デバイス120は、このフィードバック信号に基づいて、送信源110に送信されたビームを成形して、電力(たとえばSINR)を増加させたり、データのアップリンク(たとえば受信デバイスからアクセスポイントへの送信のこと)の信頼性を高めたりしてよい。
【0036】
一部の実装例では、送信源110および受信デバイス120はそれぞれ2つのアンテナを有しており、2x2のMIMOシステムが形成される。
図3は、本開示の一実施形態による2x2のビームフォーミングシステム300を示す。送信源3−110は、第1のアンテナ3−112aと、第2のアンテナ3−112bとを含み、信号を受信デバイス3−120に向けて送信する。受信デバイス3−120は、第1のアンテナ3−122aと第2のアンテナ3−122bとを含み、送信源3−110のアンテナ3−112aおよび3−112bからの信号を受信する。点線に示すように、第1の送信アンテナ3−112aが送信した信号は、受信アンテナ3−122aおよび3−122b両方で受信され、第2の送信アンテナ3−112bが送信した信号も、受信アンテナ3−122aおよび3−122b両方で受信される。
【0037】
上述したように、送信デバイス3−110は、各送信アンテナ3−112aおよび3−112bの信号の位相および相対振幅を制御して、各アンテナが生成する波面に、建設的および破壊的な干渉のパターンを生じさせる。この建設的および破壊的な干渉のパターンは、各アンテナからの波の組み合わせにより形成されたビーム(つまり波)を成形し、このビームを特定の方法に方向づける(たとえば、受信デバイス3−120に向けて)。
【0038】
M個のアンテナを持つ送信源と、N個のアンテナを持つ受信デバイスとの間の順方向チャネルは、チャネル状態マトリックスH:N×Mとして記述することができる。
図3に示す2x2のビームフォーミングシステム300では、Hが2x2である。信号s:M×1が、送信源3−110によって送信される。受信デバイス3−120が受信する信号は、以下の数式で表すことができる。
【数1】
ここで、y:N×1は、受信信号のベクトルであり、Q
steer:M×Nは、送信アンテナ3−11
2を受信アンテナ3−122にマッピングするステアリングマトリックスまたは空間マッピングマトリックスであり、n:N×1は、加法性雑音ベクトルである。Q
steerは、チャネル情報(たとえばチャネル状態マトリックスH)に基づいて、信号指向性を増させ、SINR利得を増させ、空間ダイバーシティ利得を活用することができるように決定されてよい。送信源3−110は、ステアリングマトリックスQ
steerを、信号sに適用して、信号を受信デバイス3−120に向かわせ、または、
図2に関して説明したようにビームを変更させてよい。例である2x2のシステム300では、受信信号y:2×1が、以下のように定義される。
【数2】
【0039】
ステアリングマトリックスQ
steerを決定するためのチャネル状態情報を維持するために、送信源3−110は、受信デバイス3−120から、上述したようにフィードバック信号を受信する。受信デバイス3−120は、アンテナ3−122a、アンテナ3−122b、および1以上の他のアンテナ(不図示)の任意の組み合わせからフィードバック信号を送信する。送信源3−110は、アンテナ3−112a、アンテナ3−112b、および1以上の他のアンテナ(不図示)の任意の組み合わせから、フィードバック信号を受信する。
【0040】
フィードバック信号は、完全なチャネル状態マトリックスHおよび/またはステアリングマトリックスQ
steerであっても、チャネル状態マトリックスHおよび/またはステアリングマトリクスQ
steerを計算する際に基づいてよい値を含む圧縮信号であってもよい。特に、一部の実施形態では、ステアリングマトリックスQ
steerは、ステアリングマトリックスQ
steerを解くプロセスで受信デバイス3−120が生成する一組の角度から計算可能なユニタリ行列である。
【0041】
図4は、ステアリングマトリックスQ
steerを計算する際の元になる一組の角度を計算する受信デバイス4−120を示す。受信デバイス4−120は、受信回路402、送信源のチャネル推定回路404、特異値分解回路406、フィードバック送信回路408、およびメモリ410を含む。
【0042】
受信回路402は、受信デバイス4−120の1以上のアンテナ122(
図1)に連結されていてよい。一部の実施形態では、受信回路402は、
図3に示すように2つのアンテナ122aおよび122bに連結されている。受信回路402は、様々な通信回路(不図示)を含むことで、ビーム150を介して送信源110から受け取った情報を復調およびデコードすることができる。このシステムモデルは、直交周波数分割多重化(OFDM)方式に、トーンごとに適用することができる(各キャリアに対応してy信号が受信されてよいマルチキャリアシステムなど)。
【0043】
受信回路402は、ビーム150を表しており、送信源110からの変更された出力信号s'に雑音nを加えたものに等しい信号yを受信する。受信回路402は、受信した信号yを、送信源のチャネル推定回路404に提供する。受信した信号yに基づいて、送信源のチャネル推定回路404は、送信源110に関するチャネル推定値のチャネル状態マトリックスHを計算する。送信源のチャネル推定回路404は、送信源110に関するチャネル状態マトリックスHを、特異値分解回路406および/またはメモリ410に送り、格納させる。チャネル状態マトリックスHを計算する命令は、メモリ410に格納されており、送信源のチャネル推定回路404によって取得、または実行されてよい。メモリ410は、ハードディスクドライブ、CD ROM、EPROM、FPGA,プログラム可能論理素子、フラッシュメモリ、RAM、ROM、その他の適切な電子記憶媒体を含む任意の記憶素子であってよい。
【0044】
特異値分解回路406は、チャネル状態マトリックスHを利用して特異値分解(SVD)プロシージャを実行する。特に、SVDプロシージャは、
図3を参照して上述したように送信源110がステアリングマトリックスQ
steerとして利用可能なユニタリ行列Vを生成する。一部の実施形態では、SVDプロシージャが、ステアリングマトリックスを計算する際に利用可能な一組の角度を直接生成する。この実施形態では、受信デバイス4−120は、ステアリングマトリックスVを計算する際に利用可能な圧縮値が既に生成済みなために、追加で計算またはその他の処理を実行する必要がない。
【0045】
通常の場合、チャネル状態マトリックスのSVDは以下のように表現することができる。
【数3】
本式において、Aは特異値σ
1およびσ
2を持つ対角行列である。
【0046】
一実施形態では、SVDの計算は、2段階で実行される。第1段階では、SVD回路406が、QR分解プロシージャを利用して、直交行列Qと上三角行列RとにHを分解して、SVD回路406が、SVDをRマトリックスに実行する。QR分解および/またはSVDプロシージャの命令は、メモリ410に格納されて、SVD回路406が取得、または実行してよい。一部の実施形態では、QR分解は、送信源のチャネル推定回路404または専用のQR分解回路(不図示)により実行される。QR分解は、任意の適切なQR分解プロセス(グラムシュミット法、ハウスホルダー変換、またはギブンス回転など)により実行することができる。QR分解は、以下のマトリックスQおよびRを生じる。
【数4】
【数5】
【0047】
Rマトリックスは、正の直交する実数r11およびr
22を有しており、r
12は複素数である。Rマトリックスを計算した後で、SVD回路406は、閉形式のヤコビ法を利用して、SVDをRマトリックスに行う。複素数r
12は、マグニチュードが|r
12|であり、位相または角度がφ
12である極形式で表すことができる。SVD回路406は、r
12の位相を利用して、まずは2つの回転を利用してマトリックスR
1を定義することによりRマトリックスを対角化する。
【数6】
以下に示すように、r
12の位相であるφ
12は、ステアリングマトリックスVを計算の元にすることができる2つの角度のうち1つであり、角度φ
12が、送信源110に対する圧縮ステアリングマトリックスフィードバックに含められる。
【0048】
角度φ
12を計算することに加えて、SVD回路406は、SVDで利用するためにいくつかの他の角度も計算する。
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
【0049】
以下で示すように、上で定義した角度φ
12および数式(9)を用いて計算した角度θ
vがあれば、ステアリングマトリックスvを計算するのに十分である。したがって、SVD回路406が角度θ
vを計算すると、受信デバイス4−120は、角度φ
12とθ
vとを送信源110に送信することができるので、これにより送信源110には、ステアリングマトリックスVの計算に十分な情報が提供される。
【0050】
一部の実装例では、数式8により、SVD回路406が、逆正接角度およびギブンス回転だけを計算している。SVD回路406は、座標回転デジタルコンピュータ(CORDIC)アルゴリズムを利用して、数式(9)を利用して、これらの計算を行い、角度θ
vを計算することができる。したがって、この実施例におけるSVD回路406のハードウェア実装は、乗算器を必要としない。一部の実施形態では、SVD回路は、加算器およびシフト回路のみからなっていてよい。
【0051】
SVDプロセスによりステアリングマトリックスVを生成するために、角度θ
vおよびθ
uを利用して、マトリックスR
1を以下のように書き換えることができる。
【数11】
ここで、数式(11)を特異値σ
1およびσ
2について解くと、特異値σ
1およびσ
2が得られる。Rについて数式(6)を解くと、マトリックスRは以下のように表すことができる。
【数12】
最後に、数式(12)のマトリックスRを利用して、チャネル状態マトリックスHを以下のように表すことができるようになる。
【数13】
【0052】
数式(3)(H=UAV
H,Aは特異値σ
1およびσ
2を含む)によれば、上述した数式13は、以下のSVD因数分解マトリックスU、A、およびV
Hを提供する。
【数14】
【数15】
【数16】
【0053】
数式(16)に基づいて、ステアリングマトリックスVを、ステアリングマトリックスV
Hのエルミート共役から計算することができる。
【数17】
【0054】
故に数式(17)によって、ステアリングマトリックスVを2つの角度(φ
21およびθ
v)から計算することができる。上述したように、これら角度の両方が特異値分解を実行した直接の結果として見られる。つまり、φ
21は、r
21の角度であり、これは、数式(6)でマトリックスR
1を定義するときに決定されており、θ
vは、数式(11)でR
1を表して特異値を見つけるために利用した数式(9)で計算されている。
【0055】
一部の実装例では、送信源のチャネル推定回路404および特異値分解回路406は、同じ処理コンポーネントを利用して実装されてよい。たとえばコンポーネントは、チャネル状態マトリックスHと角度φ
21およびθ
vとを連続して計算することができる。特に、第1のクロックサイクル数の間、コンポーネントは、送信源110に関するチャネル推定値のチャネル状態マトリックスHを計算してよく、第2のクロックサイクル数の間、コンポーネントは、角度φ
21およびθ
vを計算してよい。
【0056】
一部の実施形態では、SVD回路406が、特異値Vまたは特異値σ
1およびσ
2について解かずに、数式(9)のみによって上述した計算を実行して、角度φ
21およびθ
vをフィードバック送信回路408に出力する。メモリ410は、フィードバック信号をフォーマッティングまたは送信するための命令を有しており、これらの命令は、フィードバック送信回路408によって、取得、または実行が行われてよい。特に、フィードバック送信回路408またはSVD回路406は、送信源110が利用する特定の通信システムプロトコルに従って角度φ
21およびθ
vを量子化することができる。次に、フィードバック送信回路408は、フィードバック信号を送信源110に送信する。
図3の実施形態では、フィードバック信号が、アンテナ3−122aおよび3−122bのいずれかまたは両方により送信されてよく、フィードバック信号は、逆チャネルの推定に基づいて修正されてよい。
【0057】
他の実施形態では、SVD回路406は、さらに、以下の数式に基づいて特異値σ
1およびσ
2を計算する。
【数18】
特異値σ
1およびσ
2は、さらに、フィードバック送信回路408に出力されて、フィードバック信号に含められてよい(
図4では不図示)。一部の実施形態では、SVD回路406、または、特異値σ
1およびσ
2を受信する受信デバイス4−120のその他の回路は、特異値を、高いほうから低いほうへと順序づけて、順序に変更があった場合、ステアリングマトリックスVの列を入れ替える。SVD回路406またはその他の受信デバイス回路は、順序付けられた特異値を利用して、変調符号化スキーム(MCS)の選択のために後処理(post-processing)信号対雑音比を計算することができる。たとえば、アンテナiのいずれかの信号対雑音比(SNR)は、受信信号強度(RSSI)と雑音係数(NF)との間の差分を、特異値に加えることで計算されてよい。
【数19】
次に、SNRをフィードバック送信回路408に出力して、フィードバック送信回路408が送信するフィードバック信号で、送信源110にフィードバックされてよい。
【0058】
図5は、受信デバイス120から受信した一組の角度から計算したステアリングマトリックスVに基づいて、ビームを形成するための送信源5−110を示す。送信源5−110は、受信回路502、ステアリングマトリックス展開(decompression)回路504、プリコード/ビームフォーミング回路506、送信回路508、およびメモリ510を含む。
【0059】
受信回路502は、送信源5−110の1以上のアンテナ112(
図1)に連結されていてよい。一部の実施形態では、受信回路502が、
図3に示すように2つのアンテナ112aおよび112bに連結されている。受信回路502は、受信デバイス120から受信する情報を復調およびデコードする様々な通信回路(不図示)を含んでよい。
図5に示すように、受信回路502は、受信デバイス120から角度φ
21およびθ
vを含むフィードバック信号を受信する。フィードバック信号は、さらなる情報(たとえば、受信デバイス120を特定するデータおよび/または
図4を参照して説明したように、受信デバイス120が計算した特異値またはSNR)を含んでもよい。このシステムモデルが直交周波数分割多重化(OFDM)方式に利用される場合には、キャリアごとに受信されたフィードバック信号、または、キャリアごとにフィードバック(たとえば角度φ
21およびθ
v)を含むフィードバック信号があってよい。他の実施形態では、圧縮フィードバックが、1以上の組の角度φ
21およびθ
vを含んでよく、各セットは、複数のキャリアのステアリングマトリックスを決定するために利用することができる。
【0060】
受信回路502は、フィードバック信号からの角度φ
21およびθ
vをステアリングマトリックス展開(decompression)回路504に提供する。ステアリングマトリックス展開回路504は、送信源110が受信デバイス120に送信するビームをステアリングするために利用するステアリングマトリックスVを計算する。ステアリングマトリックス展開回路504は、
図4に関して導き出した数式(17)を利用してステアリングマトリックスVを計算する。
【数30】
ステアリングマトリックス展開回路504は、ステアリングマトリックスVを、プリコード/ビームフォーミング回路506および/またはメモリ510に出力して、格納させる。ステアリングマトリックスVを計算するための命令は、メモリ510に格納され、ステアリングマトリックス展開回路504により取得、または実行されてよい。メモリ510は、ハードディスクドライブ、CD ROM、EPROM、FPGA,プログラム可能論理素子、フラッシュメモリ、RAM、ROM、その他の適切な電子記憶媒体を含む任意の記憶素子であってよい。
【0061】
プリコード/ビームフォーミング回路506は、ステアリングマトリックスVを利用して、送信回路508が受信デバイス120用に送信したビーム150をプリコードする。たとえば送信源5−110の2つのアンテナ112aおよび112bが送信する信号sは、以下のようにプリコードすることができる。
【数20】
プリコード/ビームフォーミング回路506は、必要に応じて、送信されたビーム150(
図1)の1以上の特徴を補正することができる。たとえば、プリコード/ビームフォーミング回路506は、送信されたビームの位相、周波数、電力または振幅を変更して、干渉を補償してよい。変更されたビーム220(
図2)は、受信デバイス3−120に対して、より正確に方向づけることができる。
【0062】
送信回路508は、プリコードされた信号s'を受信して、この信号s'を受信デバイス120に送信する。送信回路508は、1以上のアンテナ112(
図1)(たとえば、
図3のアンテナ2−112aおよび2−112b)に連結され、ビーム150を送信してよい。一部の実施形態では、送信回路508は、データベクトルs(メモリ510から取得されたものであってよい)を変調およびエンコードして、データベクトルを、プリコード/ビームフォーミング回路506が提供した特徴とともにビームに含めて送信する。一部の実装例では、送信回路508が、基地局または送信源のダウンリンクに利用される回路を共有してよい。
【0063】
ステアリングマトリックスvを計算するための2つの角度φ
21およびθ
vを生成するための他の特異値分解プロシージャも存在している。別の実施形態では、QR分解を実行したりRマトリックスにSVDを実行したりする代わりに、
図4に関して上述したように、SVD回路406を、チャネル状態マトリックスHの相関マトリックスBにSVDを実行するように構成してもよい。相関マトリックスBが計算されると、閉形式のヤコビ法を利用して、SVDを実行することができるようになる。SVD回路406は、以下の数式に基づいて相関マトリックスBを計算する。
【数21】
数式(21)では、
【数A】
がB
12の複素数共役であり、B
11およびB
22が正の実数である。相関マトリックスBを計算して、および/または、SVD計算を実行するための命令は、メモリ410に格納されていて、SVD回路406によって取得、または実行されてよい。一部の実施形態では、相関マトリックスBの計算は、送信源のチャネル推定回路404または専用の相関計算回路(不図示)により実行される。
【0064】
次に、特異値分解を相関マトリックスBに実行する。複素数B
12は、マグニチュードが|B
12|であり、位相または角度がφ
12である極形式で表すことができる。角度φ
12は、ステアリングマトリックスVを計算するための2つの角度のうち1つである。B21の位相を利用することで、SVD回路406は、相関マトリックスBに2つの回転を実行して、全てが正の実数であるマトリックスを生成することができる。
【数22】
上述した数式から、第2の回転行列
【数B】
がV
1として定義され、これは、後述するように、ステアリングマトリックスVを生成するために利用することができる中間マトリックスである。V、θ
vを計算するための第2の角度がθ
sumから計算されるが、これはSVD回路406によって以下のように計算される。
【数23】
SV回路406は、次に、θ
vを以下のように計算する。
【数24】
【0065】
ステアリングマトリックスVは、角度φ
12およびθvから計算することができるしたがい、SVD回路406が角度θ
vを計算すると、受信デバイス4−120は、角度φ
12およびθ
vを送信源110に送信して、送信源110に、ステアリングマトリックスVを計算するのに十分な情報を提供する。ステアリングマトリックスVを導き出すためには、別の中間マトリックスV
2が以下のように計算される。
【数25】
【0066】
ステアリングマトリックスVは、V
1とV
2とを乗算して計算することができる。
【数26】
【0067】
φ=−φ
12を定義することで、数式(26)におけるVの表現を、以下のように書き換えることができる。
【数27】
【0068】
このような導出に基づいて、送信源110は、角度φ
12(またはφ=−φ
12)およびθ
vを、受信デバイス120からのフィードバック信号で受信すると、
図4、および
図5を参照して記載したプロセスに類似したプロセスを利用してビームフォーミングのためにステアリングマトリックスVを計算することができるが、ステアリングマトリックスVは、数式(27)に従って計算される。
【0069】
加えて、特異値は、以下の数式に従っても計算できる。
【数28】
図4を参照して説明したように、受信デバイス120は、特異値を順序づけて、信号対雑音比を計算して、特異値および/またはSNRをフィードバック信号で送信することができる。
【0070】
一部の実施形態では、上述したプロセスは、直交周波数分割多重化方式のMIMOシステム(つまりMIMO−OFDMシステム)に適用される。MIMO−OFDMシステムは、
図1を参照して説明したもののような無線システム、または、G.hn規格等を利用するホームネットワークその他のLANシステム等の有線システムであってよい。これらシステムでは、受信デバイス120が、各サブキャリアに対して角度φ
12およびθ
vを送信することができる。多くのサブキャリアをもつOFDMシステムにとっては、各サブキャリアについての角度の送信によって、受信デバイス120が、多数のビットを送信する場合がある。ビット数を減らすために、サブキャリア分類を利用してチャネル情報をさらに圧縮することができる。チャネルのコヒーレンス帯域幅によって、近隣のサブキャリア用の角度φ
12およびθ
vが同様になり、1つのサブキャリアグループ(たとえば、2、4、または8のサブキャリアのグループ)内のそれぞれのサブキャリアについて、同じ角度φ
12およびθ
vを利用することができるようになる。
【0071】
サブキャリアがこのようにして分類されると、受信デバイス120は、グループのサイズに基づいて(たとえば2つ、4つ、または8つ置きのサブキャリアについて)、
図4に関連して説明したプロセス同様のプロセスを用いて、サブキャリアを選択するための角度φ
12およびθ
vのセットを計算することができる。ステアリングマトリックスVを解く場合のサブキャリアの選択は、いくつかの方法のうち1つで決めることができる。受信デバイス120は、サブキャリアのサブセット(たとえば2つ、4つ、または8つ置きのサブキャリア)についての信号のみを受信して、受信したサブキャリアそれぞれについて計算した角度φ
12およびθ
vをフィードバックする。この代わりに、受信デバイス120は、全てのサブキャリアから信号を受信して、サブキャリアのサブセットのみを利用して角度φ
12およびθ
vについて解いてもよい。この代わりに、受信デバイス120は、全てのサブキャリアから信号を受信して、サブキャリアそれぞれについて角度φ
12およびθ
vを解いて、たとえばサブキャリアの各グループについて角度φ
12の平均値および角度θ
vの平均値をとることで、サブキャリアの各グループの代表的角度を求めてもよい。サブキャリアの選択は、送信デバイス110および受信デバイス120に既知の、またはこれらに伝えられるプロトコルにより定義されてよい。
【0072】
受信デバイス120がサブキャリアの各グループに一組の角度φ
12およびθ
vを計算すると、受信デバイス120は、サブキャリアの各グループについての一組の角度φ
12およびθ
vを、送信源110に対してフィードバックとして送信する。フィードバックは、送信源110がどのサブキャリアについて、各一組の角度から計算したステアリングマトリックスVを適用すべきかを示していてよい。この代わりに、通信プロトコルで、各グループにおけるキャリア数と、フィードバックにおけるサブキャリアの角度の送信の順序を定義して、送信源110が、このプロトコルを参照することで、各組の角度をサブキャリアの1つのグループにマッチングすることができるようにしてもよい。
【0073】
一部のMIMO−OFDMシステムでは、一部のアンテナから送信された信号に対して循環シフトを実行する。これにより、1つのアンテナから送信されたOFDMシンボルが、別のアンテナに対してシフトされる。循環シフトは、隣接するサブキャリア同士の間の角度θ
vを変更はせず、角度φ
12を、サブキャリアごとに回転する。角度φ
12のこの回転は、アンテナ間の循環シフトに依存している。回転は以下のように計算することができる。
【数29】
数式(29)では、T
CSが、循環シフト時間であり、FSCが、サブキャリア間の周波数分離である。プロトコルがプリコードマトリックスを定義する方法に応じて、角度φ
12の符号を、サブキャリアごとに、増やすのではなく減らしていき、数式(29)の符号を反転させてよい。
【0074】
一実施形態では、サブキャリア分類圧縮を、G.hn規格または関連する規格を利用して電力線通信ネットワークに対して適用する。ネットワーキングプロトコルは、サブキャリアの各グループに対して、そのグループの最低周波数サブキャリアである、第1のサブキャリアの角度φ
12およびθ
vを受信デバイス120により計算して、送信源110に戻すように定義する。本実施形態では、隣接するサブキャリア間の角度が、0.0981175ラジアンであってよい。サブキャリアの1つのグループについて角度φ
12を受け取ると、送信源110は、0.0981175ラジアンを、そのグループに追加される各サブキャリアに追加して、このようにして計算された角度φ
12およびフィードバック信号からの角度θ
vに基づいて、各サブキャリアのステアリングマトリックスVを計算することができる。
【0075】
図6は、本開示の一実施形態によるフィードバック情報を送信デバイスに提供するプロセス600を示す。602で、送信源が送信したビームが受信デバイスで受信される。受信されたビームは、干渉源からの干渉信号の影響を受けている可能性がある。たとえばビーム150が、送信源110(
図1)から送信されたとする。ビーム150は、送信源110の2つのアンテナ3−112aおよび3−112bによって送信され、受信デバイス120(
図3)の2つのアンテナ3−122aおよび3−122bにより受信されてよい。
【0076】
604で、送信源110と受信デバイス120との間の送信チャネルを表すチャネル状態マトリックスが、受信デバイス120で計算される。たとえば送信源のチャネル推定回路404(
図4)は、受信した信号yからの送信源110に関するチャネル推定値のチャネル状態マトリックスHを計算することができる。2x2のMIMOシステムでは、チャネル状態マトリックスHは2x2である。
【0077】
606で、受信デバイス120は、チャネル状態マトリックスHの特異値分解を実行する。SVDを実行するために、受信デバイス120のSVD回路406は、まず、チャネル状態マトリックスのQR分解を実行して、次に、結果として得られたRマトリックスのSVDを実行する(
図4を参照して説明済み)。この代わりに、上述したように、SVD回路406は、相関マトリックスB=H
HHを計算してから、結果として得られたBマトリックスのSVDを実行することもできる。一部の実施形態では(たとえば電力線システム)、雑音共分散が重要な場合もある。一部の実施形態では前には恒等行列として想定されていた雑音共分散マトリックスHが、恒等行列ではなくなる。この実施形態では、雑音共分散マトリックスHを推定して、H
eq=K
−1/2Hを計算することができる。SVD回路406は、次に、上述した方法のいずれかを利用して、HではなくてHeqのSVDを実行する。
【0078】
これらSVDプロセスのいずれかは、それぞれ数式(6)および(9)で定義した角度φ
12およびθ
vであってよい2つの角度φおよびθを生成する。送信源110のステアリングマトリックスは、数式(17)または(27)などを利用して、これらの角度φおよびθから計算されてよい。ステアリングマトリックスを計算する公式は、計算プロトコルが角度φおよびθおよびステアリングマトリックスを定義する方法に基づいて、これら公式から変更することができる。
【0079】
608で、受信デバイス120は、送信デバイス110に、フィードバック角度φおよびθを送信する。この圧縮フィードバックでは、送信デバイス110は、特異値分解プロセスから生成されるVマトリックスであってよいステアリングマトリックスQ
steerを計算することができる。送信デバイス110は、ステアリングマトリックスを、送信する信号に適用して、ステアリングされたビームを
図2に示すように送信する。610で、受信デバイス120が、送信源110がステアリングマトリックスQ
steerに基づいてステアリングして送信したビームを受信する。
【0080】
本明細書では、ビームを受信デバイスに方向付ける方法および装置を説明してきた。上述した本開示の実施形態は、例示であり限定は意図していない。さらに本開示は、特定の実装例に限定されない。たとえば上述した方法の幾つかのステップを異なる順序で(または同時に)行っても、所望の結果が得られる場合がある。加えて、本開示は、ハードウェア(たとえば特定用途向け集積回路(ASIC)またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)等)に実装することもできる。本開示は、ソフトウェアに実装することも可能である。