【実施例】
【0058】
[実施例1]
〈高分子量シルクフィブロイン水溶液の製造(1)〉
乾燥精練済繭(200g)を、50質量%塩化カルシウム水溶液(1000g)に投入し、オートクレーブ内において、135℃で30分間の加熱を行い、乾燥精練済繭を塩化カルシウム水溶液に溶解させ、シルクフィブロイン/塩化カルシウム水溶液(1100g)を得た。
【0059】
得られたシルクフィブロイン/塩化カルシウム水溶液(360g×3本)を、内液として、透析膜(製品名:透析膜36/32エーディア社製 型番UC36−32−100,材質:セルロース;直径28mm,平面幅44mm,長さ45cm)に注入し、流水を外液として、中性塩溶解工程で使用した塩類が外液中から検出されなくなるまで、96時間の透析を行い、シルクフィブロイン水溶液(2760g)を得た。
【0060】
得られたシルクフィブロイン水溶液を、90℃で50分間の加熱を行った後、氷水を用いて5℃前後まで急速に冷却し、夾雑タンパク質等の凝集物を沈殿させ、メンブレンフィルター(製品名:デプスカートリッジフィルター,アドバンテック社製;型番TCPD−01A−D1FE,材質:ポリプロピレン,孔径1.0μm)を用いて凝集物を除去し、シルクフィブロイン溶液(2480g)を得た。以下、このシルクフィブロイン水溶液を「シルクフィブロイン水溶液A」という。
【0061】
〈濁度〉
シルクフィブロイン水溶液Aの濁度を以下の方法により測定した。
濁度計(WATER ANALYZER−2000型,日本電色工業社製)を用いて、JIS K 0101:1998「工業用水試験方法」の「9.4 積分球濁度」に従って濁度を測定した。その結果、シルクフィブロイン水溶液Aの濁度は29度であった。
【0062】
〈曇り度(ヘーズ、全光透過率、拡散透過率、平行光線透過率)〉
シルクフィブロイン水溶液Aの曇り度を、ヘーズメーター(HZ−V3,スガ試験機社製)を用いて測定した(測定方式:TMダブルビーム方式、測定方法:全光線透過率に対する拡散透過率の割合で算出)。その結果、ヘーズ10.23%、全光線透過率94.57〜94.60%、拡散透過率9.64〜9.70%、平行光線透過率84.87〜84.96%であった。
【0063】
〈粘度〉
シルクフィブロイン水溶液Aの粘度を、デジタル粘度計(BASE Plus L,アタゴ社製)を用いて測定した(測定方法:回転式粘度測定)。その結果、粘度は1.0〜2.0mPa・sの範囲であった。
【0064】
〈衛生試験〉
一般細菌(生菌)数(標準寒天平板培養法)は100以下/g、大腸菌群(BGLB(ブリリアント・グリーン乳糖ブイヨン)法)は陰性/2.22g、黄色ブドウ球菌(平板塗抹培養法)は陰性/0.01gであった。
【0065】
〈濃度および固形分収率の算出〉
シルクフィブロイン水溶液A(100g)を、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥し、凍結乾燥品を得た。凍結乾燥機の棚温度条件は、凍結を−40℃で1時間、一次乾燥を70℃で14時間、二次乾燥を40℃とした。
得られた凍結乾燥品の質量を測定し、フィブロイン水溶液Aの濃度を算出したところ、6.0質量%であった。
また、原料である乾燥精練済繭に対する固形分回収率は、70.9質量%であった。
【0066】
〈シルクフィブロインの重量平均分子量の測定〉
シルクフィブロイン水溶液Aに含まれるシルクフィブロインの重量平均分子量(Mw)をゲルろ過クロマトグラフィー(GFC:Gel Filtration Chromatography)法により測定した。GFCの条件は以下のとおりとした。
【0067】
液体クロマトグラフ:LC−10(島津製作所社製)
分離カラム:Shim−pack(登録商標) Diol−150(島津製作所社製)
移動相:10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0;0.1M NaCl含有)(和光純薬工業社製特級試薬を使用して調製した)
標準物質:ゲルろ過スタンダード(Gel Filtration Standard;ビタミンB
12およびミオグロビンを含む混合物)(バイオ・ラッド社製)
GFC法による測定の結果、Mw=27000であった。
図2Aにクロマトチャートを示す。
【0068】
〈シルクフィブロインの微細構造観察〉
シルクフィブロイン水溶液A(濃度6.0質量%)に含まれるシルクフィブロインの微細構造観察を以下に記載するとおり、走査型電子顕微鏡(SEM)により行った。
水凍結乾燥装置(AQUA FD−6500,協和社製)を用いて、氷包埋法により、シルクフィブロイン水溶液Aに含まれるシルクフィブロインのCryo−SEM観察用試料を作製した。
次に、作製したCryo−SEM観察用試料の凍結活断した断面について、ショットキー電界放出型走査電子顕微鏡(JSM−7001F,日本電子社製)を用いて、加速電圧5.0kV、倍率30000倍で観察を行った。
その結果、網目状構造を有するナノレベルの細孔(空隙)を持つ微細構造が認められた(
図2B)。なお、
図2B中、スケールバーは100nmを表す。
【0069】
水凍結乾燥装置は、試料を少量の水に入れて急冷すると、試料より先に周囲の水が凍結して試料が氷に閉じ込められて固定され、次に、氷に閉じ込めされた試料が凍る際に、試料中の水が凍りに変化する過程で膨張して圧力が上昇するため氷晶が成長せず、損傷なしに試料を凍結することができる。従来のエタノールによる上昇系列脱水が不要となり、凍結乾燥過程で有機溶媒を使用しないため、溶媒和による試料収縮を避けることができる。このため、水凍結乾燥装置を用いる試料調製方法は、精製シルクフィブロイン水溶液に含まれる水溶性シルクフィブロインの走査型電子顕微鏡(SEM)による微細構造観察に適した試料調製法である。
【0070】
〈保存安定性試験〉
《短期保存安定性》
シルクフィブロイン水溶液A(600mL)を、無菌環境にしたクリーンルーム内で、メンブレンフィルター(MF膜モジュール ULP−143,旭化成ケミカルズ社製;孔径0.45μm;PVDF(Polyvinylidene difluoride:ポリフッ化ビニリデン)膜)を用いてフィルター滅菌し、オートクレーブ済みの透明瓶(東洋ガラス製;容量250mL)2本に等量ずつ回収し、滅菌密封して短期保存安定性試験サンプルとした。
【0071】
調製したサンプルをすべて、直射日光を避け、室温(25℃)にて1週間の間保存した。その間、8時間ごとに、サンプルの性状(透明性および流動性)を目視にて観察した。
72時間経過時には全く性状の変化は認められなかった(
図2C)。
1週間経過時にも全く性状の変化は認められず、性状は安定していた。
試験終了後にサンプルの粘度を、デジタル粘度計(BASE Plus L,アタゴ社製)を用いて粘度測定したが、粘度は1.0〜2.0mPa・sの範囲であり、試験開始前から増加しておらず、ゲル化は起こっていなかった。
【0072】
《長期保存安定性試験》
シルクフィブロイン水溶液Aを、透明レトルトパウチ(スープ用無地T−18,藤森工業社製;容量180mL,透明蒸着PET12μm/NY15μm/PE80μm)6袋にそれぞれ90mLずつ注入し、ヒートシール密封して、湯煎中で90℃、20分間加熱後、室温まで冷却し、長期保存安定性試験サンプルとした(
図2D)。
【0073】
サンプル6袋を室温(25℃)で、最長1年間保存した。
サンプル6袋は、試験開始から1か月経過時、2か月経過時、6か月経過時に、サンプルの性状(透明性および流動性)を目視にて観察した。
6か月経過時にサンプル6袋中3袋を開封し、デジタル粘度計(BASE Plus L、アタゴ社製)を用いて粘度を測定した。
サンプルの残り3袋は室温(25℃)での保存を継続し、試験開始から1年経過時に、サンプルの性状(透明性および流動性)を目視にて観察した。これらのうち2袋を開封し、同様にして粘度を測定した。
試験開始6か月経過時までは、6袋のサンプルはいずれも白濁や色調の変化が無かった。また、試験開始6か月経過時に測定したサンプルの粘度は1.0〜2.0mPa・sの範囲でありゲル化していなかった。
また、一般細菌(生菌)数(標準寒天平板培養法)は100以下/g、大腸菌群(BGLB法)は陰性/2.22g、黄色ブドウ球菌(平板塗抹培養法)は陰性/0.01gであった。
試験開始1年経過時には、残り3袋のサンプルはいずれも白濁や色調の変化が無かった。また、試験開始1年経過時に測定したサンプルの粘度は同様に1.0〜2.0mPa・sの範囲であり、ともにゲル化していなかった(
図2E)。
また、衛生試験結果も同様に一般細菌(生菌)数(標準寒天平板培養法)は100以下/g、大腸菌群(BGLB法)は陰性/2.22g、黄色ブドウ球菌(平板塗抹培養法)は陰性/0.01gであり、品質悪化の原因にもなる細菌などの微生物の増殖は認められなかった。
【0074】
《保存安定試験の結果》
保存安定性試験の結果、シルクフィブロイン水溶液Aは、保存安定性に優れた高分子量シルクフィブロイン水溶液であることが示された。特に、レトルトパウチ中で1年間も安定的に保存可能であった。
【0075】
〈溶解度〉
シルクフィブロインの水に対する溶解度を確認した。
シルクフィブロイン水溶液Aの凍結乾燥品(実施例2に記載の凍結乾燥品の製造方法によって製造した。)を25℃の蒸留水に少量ずつ投入し、沈殿物が生じるまで撹拌しながらゆっくりと溶かし、高濃度シルクフィブロイン水溶液を作成した。この高濃度シルクフィブロイン水溶液を、遠心分離機(2000rpm,speed 5.5,timer 5分)で遠心分離後、上清10gのフィブロイン濃度をケルダール法で測定し、その値をシルクフィブロイン溶液の溶解度とした。シルクフィブロインの溶解度は、11.6質量%であった。
【0076】
[実施例2]
〈高分子量シルクフィブロイン粉末の製造〉
実施例1で製造したシルクフィブロイン水溶液A(100g)を、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥し、凍結乾燥品を得た(
図3A、
図3B)。凍結乾燥機の棚温度条件は、凍結を−40℃で1時間、一次乾燥を70℃で14時間、二次乾燥を40℃とした。
【0077】
〈シルクフィブロインの微細構造観察〉
得られた凍結乾燥品を、シルクフィブロイン濃度が10質量%となるように、蒸留水に再溶解した。
水凍結乾燥装置(AQUA FD−6500,協和社製)を用いて、氷包埋法により、再溶解して調製したシルクフィブロイン水溶液に含まれるシルクフィブロインのCryo−SEM観察用試料を作製した。
次に、作製したCryo−SEM観察用試料の凍結活断した断面について、ショットキー電界放出型走査電子顕微鏡(JSM−7001F,日本電子社製)を用いて、加速電圧5.0kV、倍率30000倍で観察を行った。
その結果、ナノレベルの細孔(空隙)を持つ微細構造が認められた(
図3C)。なお、
図3C中、スケールバーは100nmを表す。
この微細構造は、シルクフィブロイン水溶液Aに含まれる水溶性シルクフィブロインと同様の網目状構造を有し、形態およびサイズが類似していた(
図3C)。
【0078】
[参考例1]
〈家蚕後部絹糸腺の微細構造観察〉
シルクフィブロインを産生するカイコの家蚕後部絹糸腺についても、実施例1の微細構造観察と同様の方法でCryo−SEM観察用試料を調製し、SEMによる観察を行った。
その結果、ナノレベルの細孔(空隙)を持つ微細構造が認められた(
図4A)。なお、
図4A中、スケールバーは100nmを表す。
この微細構造は、シルクフィブロイン水溶液Aに含まれる水溶性シルクフィブロインと同様の網目状構造を有し、形態およびサイズが類似していた(
図4A)。
【0079】
〈シルクペプチドの微細構造観察〉
シルクペプチドパウダー(
図4B)の10質量%水溶液から、Cryo−SEM観察試料を調製し、加速電圧5.0kV、倍率10000倍でSEM観察した。結果を
図4Cに示す。網目状の微細構造の存在は認められたが、細孔サイズは数μmであり、本発明のシルクフィブロイン水溶液のものとは大きく異なっていた(
図4C)。
【0080】
〈シルクアミノ酸の微視構造観察〉
シルクアミノ酸パウダー(
図4D)の10質量%水溶液から、Cryo−SEM観察試料を調製し、加速電圧5.0kV、倍率10000倍でSEM観察した。結果を
図4Eに示す。シルクフィブロイン水溶液で観察されたような微細構造は認められなかった(
図4E)。
【0081】
[比較例1]
〈高分子量シルクフィブロイン水溶液の製造(3)〉
乾燥精練済繭(500g)を、50質量%塩化カルシウム水溶液(2500g)に投入し、オートクレーブ内において、135℃で30分間の加熱を行い、乾燥精練済繭を塩化カルシウム水溶液に溶解させ、シルクフィブロイン/塩化カルシウム水溶液(2905g)を得た。
【0082】
得られたシルクフィブロイン/塩化カルシウム水溶液(360g×8本)を、内液として、透析膜(製品名:透析膜36/32 エーディア社製 型番UC36−32−100,材質:セルロース;直径28mm,平面幅44mm,長さ45cm)に注入し、流水を外液として、中性塩溶解工程で使用した塩類が外液中から検出されなくなるまで、96時間の透析を行い、シルクフィブロイン水溶液(7004g)を得た。以下、このシルクフィブロイン水溶液を「シルクフィブロイン水溶液C」という。
シルクフィブロイン水溶液Cの外見を
図5Aに示す。
【0083】
〈濁度〉
シルクフィブロイン水溶液Cの濁度を、実施例1と同様にして測定したところ、濁度は580度であった。
【0084】
〈曇り度(ヘーズ、全光透過率、拡散透過率、平行光線透過率)〉
シルクフィブロイン水溶液Cの曇り度を、実施例1と同様にして測定したところ、ヘーズ80.97%、全光線透過率99〜100%、拡散透過率80.95〜81.01、平行光線透過率18.99〜19.05であった。
【0085】
〈粘度〉
シルクフィブロイン水溶液Cの粘度を、実施例1と同様にして測定したところ、粘度は1.0〜2.0mPa・sの範囲であった。
【0086】
〈保存安定性試験〉
シルクフィブロイン水溶液Cについて、実施例1の短期保存安定性試験と同様にして、短期保存安定性試験を行った。
72時間後には、サンプルは白濁するとともに流動性がなくなり、ゲル化していた(
図5B、
図5C)。
また、後述するように、粘度測定値平均が42911mPa・sと、試験開始前と比べて2万倍〜4万倍以上に増加しており、粘度からもゲル化していることが明らかであった。
【0087】
《濁度》
短期保存安定性試験終了時のシルクフィブロイン水溶液Cの濁度を、実施例1と同様にして測定を試みたが、濁度は測定不能であった。
【0088】
《曇り度(ヘーズ、全光線透過率、拡散透過率、平行光線透過率)》
短期保存安定性試験終了時のシルクフィブロイン水溶液Cの曇り度を、実施例1と同様にして測定したところ、ヘーズ94.66%、全光線透過率12.02〜12.06%、拡散透過率11.38〜11.42%、平行光線透過率0.64〜0.65%であった。
【0089】
《粘度》
短期保存安定性試験終了時のシルクフィブロイン水溶液Cの粘度を、実施例1と同様にして測定を試みたが、測定上限を超えており、測定不能であった。そのため、デジタル粘度計(VISCO,アタゴ社製)を用いて粘度を測定したところ(測定方法:回転式粘度測定)、粘度測定値平均は42911mPa・sであった。
【0090】
[保存安定性試験の結果について]
実施例1で製造されたシルクフィブロイン水溶液Aは、脱塩工程後に加熱工程および冷却工程を実施して凝集物を生成させ、この凝集物を精密ろ過工程で除去して製造されたものである。
一方、比較例1で製造されたシルクフィブロイン水溶液Cは、脱塩工程までを実施して製造されたものである。なお、シルクフィブロイン水溶液Cは従来の高分子量シルクフィブロイン水溶液の代表的な例といえる。
【0091】
〈短期保存安定性〉
脱塩工程後の加熱工程、冷却工程および精密ろ過工程を実施しない比較例1のシルクフィブロイン水溶液Cは、これらの工程を実施した実施例1のシルクフィブロイン水溶液Aと比較して、短期保存安定性が大幅に劣るものであり、72時間後には白濁し、ゲル化してしまっていた。実施例1のシルクフィブロイン水溶液Aが製造当初から全く変化していなかったことと極めて対照的である。
【0092】
〈長期保存安定性〉
比較例1のシルクフィブロイン水溶液Cは長期保存安定性試験を行うまでもなく、安定性に欠け、ゲル化しやすいものであった。
実施例1のシルクフィブロイン水溶液Aは、密閉したレトルトパウチ中という条件はあるものの、製造当初から1年以上にわたって全く変化しておらず、長期保存安定性に優れているものである。なお、レトルトパウチは流通および使用に便利な包装形態であり、試験方法は実態に即したものということができる。
以上の結果から、本発明の高分子量シルクフィブロイン水溶液の製造方法によれば、保存安定性に優れた高分子量シルクフィブロイン水溶液を製造することができることが示された。
【0093】
[微細構造観察の結果について]
実施例1ではシルクフィブロイン水溶液Aの濃度を調整したシルクフィブロイン水溶液Aに含まれるシルクフィブロインの微細構造を観察した。
実施例2ではシルクフィブロイン水溶液Aを凍結乾燥して製造したシルクフィブロイン粉末を水に再溶解して調製したシルクフィブロイン水溶液に含まれるシルクフィブロインの微細構造を観察した。
参考例1では5令期の家蚕後部絹糸腺の微細構造を観察した。この微細構造はカイコが産生する水不溶性シルクフィブロインが持つ本来の微細構造である。
これらの観察結果から、実施例1のシルクフィブロイン水溶液A中のシルクフィブロインおよび実施例2のシルクフィブロイン粉末を水に再溶解して調製したシルクフィブロイン水溶液中のシルクフィブロインは、いずれも、家蚕後部絹糸腺の微細構造を保持しており、カイコが産生する水不溶性シルクフィブロインが持つ微細構造に由来する機能性(吸着性、保湿性など)を保持していると考えられる。
また、実施例1のシルクフィブロイン水溶液A中のシルクフィブロインと実施例2のシルクフィブロイン粉末を水に再溶解して調製したシルクフィブロイン水溶液中のシルクフィブロインとが同様の微細構造を有していることから、本発明の高分子量シルクフィブロイン水溶液を粉末化しても、吸着性、保湿性などに関係する微細構造が維持されることが示された。
【0094】
[参考例2]
比較例1で製造したシルクフィブロイン水溶液Cを用いて、熱変性試験と夾雑物析出試験を行った。
【0095】
〈熱変性試験〉
シルクフィブロイン水溶液Cをガラス瓶(東洋ガラス製、容量250mL)に250mL入れ、それぞれオートクレーブ(LSX−300,トミー精工社製;使用温度範囲 室温〜135℃(0MPa〜0.212MPa);有効内容積36L)中で加温し、90℃に温度を上げて、30分、60分と経時観察を行った。また同様な試験液を準備し、105℃、110℃、115℃、120℃の温度条件でそれぞれ30分、60分と経時観察を行った。観察結果を下記の表1に示す。また、加熱温度90℃、60分経過時の写真を
図6Aに、加熱温度115℃、30分経過時の写真を
図6Bに、加熱温度120℃、30分経過時の写真を
図6Cに示す。
【0096】
【表1】
【0097】
表1に示すとおり、90℃では60分経過しても変化がなかった(
図6A)が、115℃では、30分経過時から熱変性が起こり始め(
図6B)、120℃では30分経過時には水溶液が分離し、ゲル化した(
図6C)。
【0098】
〈夾雑物析出試験〉
シルクフィブロイン水溶液Cを15mLガラス試験管(遠沈管)にそれぞれ10mL分注し、オートクレーブ(LSX−300,トミー精工社製;使用温度範囲 室温〜135℃(0MPa〜0.212MPa);有効内容積36L)中にこの試験管をセットし50℃から120℃で下記試験の処理時間になるように調整した。この加熱処理後、直ちに氷水に10分間つけて温度を5℃前後まで下げ、次に卓上遠心分離機(テーブルトップ冷却遠心機2800,久保田製作所社製)にて、3000rpmで5分間遠心分離し、試験管の底に析出した夾雑物の量を目視にて確認した。結果を下記の表2に示す。
夾雑物析出量 判定基準:
目視量+ (基準量)
目視量++ (基準量の2倍程度)
目視量+++ (基準量の3倍程度)
目視量++++(基準量の4倍程度)
目視量+++++(基準値の5倍以上)
【0099】
【表2】
【0100】
表2に示すとおり、60℃、60分まで殆ど夾雑物の析出は認められなかったが、70℃、60分を過ぎるとになると析出しはじめ、90℃、45分以降、115℃、30分以降については、夾雑物量が多く観察された。
【0101】
本発明の高分子量シルクフィブロイン水溶液は、加熱処理および夾雑物除去による製造の効果で、菌の繁殖もゲル化もせずに安定である。
【0102】
[参考例3]
〈中性塩溶解試験〉
乾燥精練済繭(200g)を、50質量%塩化カルシウム水溶液(1000g)に投入し、オートクレーブ内において、90℃〜135℃の温度条件で、20分間の加熱を行い、乾燥精練済繭を塩化カルシウム水溶液に溶解させシルクフィブロイン/塩化カルシウム水溶液を得た。この時、各加熱処理温度での不溶解物をステンレスメッシュ(粒子サイズ≧25μm)で除去し、その重量を測定し、中性塩溶解液ロス重量(g)とした。さらに、中性塩溶解液ロス重量と加熱温度の差から、ロス減少率(1℃あたりの溶解液ロス重量)を算出した。表3に結果を示す。なお、表3中、ロス減少率は、90℃と105℃との間のロス減少率は105℃の段に、105℃と121℃との間のロス減少率は121℃の段に、121℃と125℃との間のロス減少率は125℃の段に、125℃と128℃との間のロス減少率は128℃の段に、128℃と130℃との間のロス減少率は130℃の段に、130℃と135℃との間のロス減少率は135℃の段に、それぞれ示す。
【0103】
【表3】
【0104】
表3に示すとおり、ロス減少率は128℃と130℃の間が16.0g/℃と最も大きく、次が125℃と128℃との間で14.7g/℃であった。すなわち、中性塩溶解の際の水溶液の温度を128℃とすることによって、125℃以下に比べて大幅にロスを減少し、歩留まりを改善することができる。さらに、中性塩溶解の際の水溶液の温度を130℃とすることによって、128℃以下に比べて大幅にロスを減少し、歩留まりを改善することができる。