(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
NMR(Nuclear Magnetic Resonance、核磁気共鳴)装置は、スピン磁気モーメントを有する原子核に静磁場を印加し、該スピン磁気モーメントにラーモアの歳差運動を発生させて、そこに歳差運動と同じ周波数の高周波を照射して共鳴させることにより、該スピン磁気モーメントを有する原子核の信号を検出する分析装置である。
【0003】
NMRの測定対象となる試料には、溶液試料と固体試料の2種類がある。そのうち、溶液試料の場合は、きわめてシャープなNMRスペクトルが得られることが多いため、得られた高分解能のNMRスペクトルから、化学物質の分子構造解析を行うことが広く普及している。
【0004】
一方、固体状態の試料のNMRスペクトルには、双極子相互作用のような、溶液中では回転ブラウン運動で消去されている相互作用がそのまま現れるため、スペクトルの線幅が極端に広くなり、化学シフト項が覆い隠されてしまう。そのため、NMRスペクトルにおいて、測定分子の各部位のシグナルピークが分離できず、結果的に固体NMR法は、分子構造解析には不向きであると考えられていた。
【0005】
この現象を克服し、シャープな固体NMRスペクトルを得る方法として、試料管を静磁場に対して54.7°(マジックアングル)だけ傾けて高速回転させることにより、異方的な相互作用を取り除き、化学シフト項を取り出すことができるMAS(Magic Angle Spinning)法が注目されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、試料管と試料管を保持する保持機構との間に気体を供給して試料管を浮上させて保持する気体軸受を有し、該気体軸受によって、試料管を静磁場に対して54.7°だけ傾いた軸を回転軸として高速回転させる試料管回転機構(スピナー)を備えたNMR装置が開示されている。
【0007】
このようなNMR装置では、一般に、MAS法で固体試料のNMRを良好に測定するために、静磁場中で試料管を数kHz〜数十kHzの高速で回転させることが要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、例えばスピナーによって、試料管の回転数を上げていく際に、試料管の振動周波数と回転数とが一致すると、同期振動が発生する。この同期振動は、気体軸受で支持する軸を高速回転させたときに見られる現象で、一般的には、軸のアンバランスが原因で生じる。この軸のアンバランスが大きいと、共振点(同期振動を発生する固有振動数)において、例えば、試料管と気体軸受が接触し、焼き付けや破損を起こし、回転速度を上げることができない場合があった。以下により詳細に説明する。
【0010】
同期振動の共振点は、下記式によって与えられる。
【0011】
【数1】
【0012】
図11は、気体軸受で支持した軸の回転特性を示すグラフである。横軸は、ローター(軸)の回転数であり、縦軸は、軸の振れの振幅である。
図11に示すように、軸を高速で回転させるためには、上記式で示される2つの共振点を超えなければならない。この共振点を超えて軸を高速に回転させるためには、軸のアンバランスを小さくする必要がある。
【0013】
そのため、NMR装置において、試料管を高速で回転させるためには、試料が充填された試料管のアンバランスが小さくなるように、試料管に試料を充填することが要求される。しかしながら、試料管に充填される固体試料は、粉状、ペースト状、ゴム状など状態はさまざまであり、また、形状も、微粒子状、フィルム状、ブロック状などさまざまである。そのため、アンバランスが小さくなるように試料管に試料を充填することは難しく、試料管を安定して高速回転させることは困難であった。
【0014】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、安定して高速回転させることが可能なNMR用試料管およびNMR装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)本発明に係るNMR用試料管は、
固体NMR測定
におけるMAS法で使用され、粉末試料が充填されるNMR用試料管であって、
管状部材と、
前記管状部材の内部に配置され、
前記粉末試料が充填される空間を規定する第1面と前記第1面の反対側の第2面を有するスペーサーと、
前記第2面に対向して配置され、前記管状部材の開口部を封止する蓋体と、
を含み、
前記第1面には、凹部が設けられている。
【0016】
このようなNMR用試料管によれば、試料を、試料管にアンバランスが小さくなるように充填することができる。具体的には、このようなNMR用試料管によれば、例えば、NMR装置の軸受部で試料管を回転させたときに、試料に片寄りが生じたり、試料が変形したりしないように、試料を試料管に充填することができる。したがって、試料管を、例えば同期振動を発生させる固有振動数を超えて、安定して高速に回転させることができる。
【0019】
(
2)本発明に係るNMR用試料管において、
前記凹部の形状は、円錐状であってもよい。
【0020】
このようなNMR用試料管によれば、容易に、試料を試料管にアンバランスが小さくなるように充填することができる。
【0021】
(
3)本発明に係るNMR用試料管において、
前記凹部の形状は、回転放物面状であり、
前記スペーサーは、前記凹部の回転軸が、前記管状部材の中心軸と一致するように配置されてもよい。
【0022】
このようなNMR用試料管によれば、より容易に、試料を試料管にアンバランスが小さくなるように充填することができる。
【0025】
(
4)本発明に係るNMR用試料管において、
前記スペーサーは、前記管状部材の内部に2つ配置され、
前記空間は、2つの前記スペーサーの前記第1面の間に設けられてもよい。
【0026】
このようなNMR用試料管によれば、より容易に、試料を試料管にアンバランスが小さくなるように充填することができる。
【0027】
(
5)本発明に係るNMR用試料管において、
前記スペーサーの材質は、エンジニアリングプラスチックであってもよい。
【0028】
このようなNMR用試料管によれば、スペーサーを管状部材に挿入するときに滑りがよく、また、軸受部で試料管が回転する際に、回転によるスペーサーの変形を小さくすることができる。さらに、スペーサーの耐食性を高めることができる。
【0029】
(
6)本発明に係るNMR用試料管において、
前記スペーサーの材質は、前記蓋体の材質と同じであってもよい。
【0030】
(
7)本発明に係るNMR用試料管において、
前記スペーサーは、前記管状部材の内面に接するように配置されてもよい。
【0031】
(
8)本発明に係るNMR用試料管において、
前記スペーサーは、前記管状部材の前記内部に篏合されてもよい。
【0032】
(
9)本発明に係るNMR装置は、
本発明に係るNMR用試料管を含む。
【0033】
このようなNMR装置によれば、本発明に係るNMR用試料管を含むため、試料管を、例えば同期振動を発生させる固有振動数を超えて、安定して高速に回転させることができる。したがって、NMR信号を高感度で検出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0036】
1. 核磁気共鳴装置の構成
まず、本実施形態に係るNMR装置の構成について説明する。
図1は、本実施形態に係るNMR装置1を模式的に示す図である。
【0037】
本実施形態に係るNMR装置1は、固体NMRの測定を行うことができる。すなわち、測定対象となる試料は、固体状態であり、例えば、粉状である。試料の状態は、例えば、ペースト状、ゴム状であってもよい。また、試料の形状は、粒子状、フィルム状、ブロック状であってもよい。NMR装置1では、例えば、試料が充填された試料管を静磁場に対して54.7°(マジックアングル)だけ傾けて高速回転させることにより、異方的な相互作用を取り除き、化学シフト項を取り出すことができるMAS(Magic Angle Spinning)法により、試料のNMRスペクトルを得ることができる。
【0038】
NMR装置1は、
図1に示すように、本発明に係るNMR用試料管を含む。ここでは、NMR装置1が、本発明に係るNMR用試料管の一例として、試料管100を含む場合について説明する。
【0039】
NMR装置1は、さらに、プローブ2と、静磁場発生部8と、分光部10と、を含んで構成されている。
【0040】
プローブ2は、
図1に示すように、軸受部3と、可動機構4と、シャフト5と、つまみ6と、検出コイル7と、を含んで構成されている。
【0041】
図2は、NMR装置1の軸受部3を模式的に示す図である。
図2では、試料管100が、軸受部3に挿入された状態を示している。
【0042】
軸受部3は、ラジアル気体軸受3aと、スラスト気体軸受3bと、ノズル3cと、を含んで構成されている。軸受部3は、静磁場B
0に対してマジックアングルθ(54.7°)傾いた軸を回転軸として試料管100を回転させることができる。
【0043】
ラジアル気体軸受3aは、試料管100の半径方向(試料管100の中心軸Aに垂直な方向)から気体(高圧ガス)を供給して、試料管100を支持する。ラジアル気体軸受3aは、試料管100の半径方向の位置を決める機能を有している。
【0044】
スラスト気体軸受3bは、試料管100の軸A方向から気体を供給して、試料管100を支持する。スラスト気体軸受3bは、試料管100の軸A方向の位置を決める機能を有している。ラジアル気体軸受3aとスラスト気体軸受3bとによって気体を供給することによって、試料管100を浮上させて、試料管100を軸受部3に対して非接触で保持することができる。
【0045】
ノズル3cは、試料管100の第1蓋体130に設けられているタービン(図示せず)に気体(高圧ガス)を供給する。これにより、試料管100は、中心軸Aを回転軸として、回転する。
【0046】
可動機構4は、軸受部3のアングルを変えることができる。可動機構4は、例えば、歯車などを含んで構成されている。シャフト5は、可動機構4を外部から操作するための部材である。つまみ6は、ユーザーがマジックアングルを調整するためにアクセスするつまみである。ユーザーがつまみ6を操作することにより、シャフト5を介して可動機構4を動作させることができる。これにより、軸受部3のアングルを変えることができ、試料管100の静磁場B
0に対する角度を調整することができる。
【0047】
検出コイル7は、試料管100に充填された試料Sから発生するNMR信号を検出する。具体的には、検出コイル7は、静磁場B
0中の試料S中の観測核に高周波磁場(rfパルス)を照射し、当該観測核から放射されるNMR信号を検出する。分光部10は、検出コイル7で検出されたNMR信号に基づいて、NMRスペクトルを生成する。
【0048】
静磁場発生部8は、静磁場B
0を発生させる。静磁場発生部8は、例えば、超電導ソレノイドコイルを備えた超電導磁石である。
【0049】
次に、試料管100について説明する。
図3は、試料管100を模式的に示す斜視図である。
図4は、試料管100を模式的に示す断面図である。
図3および
図4は、試料管100に試料Sを封入した状態を示している。
【0050】
試料管100は、
図3および
図4に示すように、管状部材(スリーブ)110と、スペーサー120(第1スペーサー120a,第2スペーサー120b)と、蓋体130,132と、を含んで構成されている。
【0051】
管状部材110は、円筒状の部材である。管状部材110の内部は、空洞である。管状部材110の内部には、試料Sが充填される。管状部材110の内部には、さらに、スペーサー120a,120bが配置される。管状部材110は、2つの開口部114,116を有している。なお、図示はしないが、管状部材110の開口部は、1つであってもよい。開口部114は、第1蓋体130によって封止される。また、開口部116は、第2蓋体132によって封止される。試料管100は、NMR装置1の軸受部3に挿入されて、管状部材110(試料管100)の中心軸Aを回転軸として、回転する。管状部材110の材質は、例えば、ジルコニアや窒化ケイ素などのセラミックスである。管状部材110の中心軸A方向(中心軸Aに沿う方向)の長さL1は、例えば、20mmである。また、管状部材110の外径D1は、例えば、8mmであり、内径D2は、例えば、6.4mmである。
【0052】
スペーサー120は、管状部材110の内部に配置される。図示の例では、スペーサー120は、管状部材110の内部に2つ(第1スペーサー120a,第2スペーサー120b)配置される。スペーサー120は、管状部材110の内部に嵌合される。スペーサー120は、管状部材110の内面118に接するように配置される。
【0053】
図5(A)は、スペーサー120を第3面126側からみた模式図であり、
図5(B)は、スペーサー120を第1面122側からみた模式図である。スペーサー120は、第1面122と、第2面124と、第1面122と第2面124とを接続している第3面126と、を有している。スペーサー120は、例えば、第1面122を上面、第2面124を底面、第3面126を側面とする円柱状である。スペーサー120は、スペーサー120の中心軸が、管状部材110の中心軸Aに一致するように、管状部材110の内部に配置される。
【0054】
スペーサー120の第1面122は、試料Sが充填される空間112を規定する。試料Sが充填される空間112は、第1スペーサー120aの第1面122と第2スペーサー120bの第1面122との間に設けられる。試料Sが充填される空間112は、第1スペーサー120aの第1面122、第2スペーサー120bの第1面122、および管状部材110の内面118で規定される。スペーサー120の第1面122は、平滑面である。
【0055】
スペーサー120の第2面124は、第1面122の反対側の面である。第1スペーサー120aの第2面124に対向して第1蓋体130が配置される。また、第2スペーサー120bの第2面124に対向して第2蓋体132が配置される。スペーサー120の第2面124は、平滑面である。
【0056】
スペーサー120の第3面126は、第1面122と第2面124とを接続している。スペーサー120の第3面126の全面が、管状部材110の内面118に接している。
【0057】
スペーサー120の材質は、例えば、テフロン(登録商標)、ダイフロン(登録商標)、ベスペル(登録商標)、TIポリマー、PEEK、オーラム(登録商標)、ULTEM(登録商標)、TORLON(登録商標)等のエンジニアリングプラスチックである。スペーサー120の材質として、エンジニアプラスチックを用いることで、スペーサー120は、管状部材110に挿入(圧入)するときに滑りがよく、また、軸受部3で試料管100が回転する際に、回転による変形が小さい。また、エンジニアプラスチックは、耐食性に優れているため、スペーサー120の耐食性を高めることができる。なお、テフロン、ダイフロンは、NMRを測定すると、バックグラウンドとしてFが検出される。そのため、これらの材料は、例えば、Fを含まない試料Sを測定する場合に、スペーサー120の材質として採用される。また、ベスペル、TIポリマー、PEEK、オーラム、ULTEM、TORLONは、NMRを測定すると、バックグラウンドとして、C,Hが検出される。そのため、これらの材料は、例えば、C,Hを含まない試料Sを測定する場合に、スペーサー120の材質として採用される。
【0058】
なお、スペーサー120の材質は、例えば、ジルコニア等のセラミックスであってもよい。これにより、スペーサー120の耐食性を高めることができる。また、スペーサー120の材質は、例えば、ゴム、金属等であってもよい。スペーサー120の材質は、例えば、蓋体130,132の材質と同じである。
【0059】
スペーサー120の長さL2は、例えば、2mmである。ここで、スペーサー120の長さL2とは、スペーサー120が管状部材110の内部に挿入された状態において、スペーサー120の中心軸A方向の長さである。また、スペーサー120の直径D3は、例えば、管状部材110の内径D2と同じ大きさである。
【0060】
第1蓋体130は、管状部材110の開口部114を封止する。第2蓋体132は、管状部材110の開口部116を封止する。第1蓋体130は、第1スペーサー120aの第2面124に対向して配置される。第2蓋体132は、第2スペーサー120bの第2面124に対向して配置される。第1蓋体130は、管状部材110に圧入されて、第1スペーサー120aの第2面124に接するように配置される。第2蓋体132は、管状部材110に圧入されて、第2スペーサー120bの第2面124に接するように配置される。蓋体130,132の材質は、例えば、スペーサー120の材質として例示したものと同様である。蓋体130,132は、管状部材110の内部でスペーサー120を移動させないためのストッパーとしての機能を有することができる。
【0061】
試料管100では、管状部材110の内部において、スペーサー120a,120bが、試料Sが充填される空間112を規定し、蓋体130,132が管状部材110の開口部114,116に取り付けられて、試料Sが試料管100に封入される。すなわち、試料管100では、試料Sと第1蓋体130との間には、第1スペーサー120aが配置され、試料Sと第2蓋体132との間には、第2スペーサー120bが配置される。スペーサー120a,120bおよび蓋体130,132は、例えば、管状部材110に圧入される。
【0062】
本実施形態に係る試料管100およびNMR装置1は、例えば、以下の特徴を有する。
【0063】
試料管100では、管状部材110の内部に、試料Sが充填される空間112を規定するスペーサー120が配置される。これにより、試料Sを、試料管100にアンバランスが小さくなるように充填することができる。具体的には、例えば、NMR装置1の軸受部3で試料管100を回転させたときに、試料Sに片寄りが生じたり、試料Sが変形したりしないように、試料Sを試料管100に充填することができる。したがって、試料管を、例えば、
図11に示す同期振動を発生させる固有振動数を超えて、安定して高速に回転させることができる。なお、アンバランスとは、回転軸のまわりに分布している質量の分布状態の不揃いをいう。
【0064】
図6は、管状部材の内部に2つのスペーサーを配置した試料管(試料管100)を回転させた場合の振れの変位を測定した結果を示すグラフである。
図7は、比較例として、管状部材の内部にスペーサーを配置していない試料管を回転させた場合の振れの変位を測定した結果を示すグラフである。試料管100および比較例とも、管状部材の中心軸A方向の長さL1は、20mmであり、管状部材の外径D1は、8mmであり、内径D2は、6.4mmである。また、スペーサーの長さL2は、2mmである。また、試料Sとして、比重2.75のKBr(臭化カリウム)の粉体を用いた。試料管には、試料Sを、225.19μl充填した。試料管100および比較例ともに、1kHz付近で回転させた。
【0065】
図7に示すように、比較例に係る試料管では、共振点での変位が50μmに達した。これに対して、
図6に示すように、試料管100では、共振点での変位は、6μmであった。このように、管状部材内にスペーサーを配置することで、アンバランスを小さくすることができ、試料管を、高速で回転させることができることがわかった。
【0066】
試料管100では、スペーサー120の材質は、エンジニアリングプラスチックである。そのため、スペーサー120を管状部材110に挿入するときに滑りがよく、また、軸受部3で試料管が回転する際に、回転によるスペーサーの変形を小さくすることができる。さらに、スペーサーの耐食性を高めることができる。
【0067】
試料管100では、スペーサー120の材質は、蓋体130,132の材質と同じである。これにより、試料S以外の物質に起因するNMR信号の影響を低減することができる。
【0068】
試料管100では、スペーサー120は、管状部材110の内面118に接するように配置される。これにより、試料管100のアンバランスをより小さくすることができる。
【0069】
試料管100では、スペーサー120は、管状部材110の内部に嵌合される。これにより、試料管100のアンバランスをより小さくすることができる。
【0070】
NMR装置1は、試料管100を含んで構成されているため、試料管100を、例えば、
図11に示す同期振動を発生させる固有振動数を超えて、安定して高速に回転させることができる。したがって、NMR信号を高感度で検出することができる。
【0071】
1. 変形例
次に、本実施形態に係るNMR装置の試料管の変形例について説明する。以下、本実施形態に係るNMR装置の試料管の変形例において、試料管100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0072】
まず、本実施形態に係るNMR装置の試料管の第1変形例について説明する。
図8は、本実施形態の第1変形例に係る試料管200を模式的に示す断面図である。
図9(A)は、試料管200のスペーサー120を第3面126側からみた模式図であり、
図9(B)は、試料管200のスペーサー120を第1面122側からみた模式図である。
【0073】
試料管200のスペーサー120の第1面122には、
図8および
図9に示すように、凹部210が設けられている。図示の例では、第1面122の一部に凹部210が設けられているが、第1面122の全部に凹部210が設けられていてもよい。すなわち、例えば、第1面122が凹面であってもよい。
【0074】
凹部210の形状は、例えば、回転放物面状である。すなわち、凹部210を規定する第1面122の領域は、例えば、回転放物面である。ここで、回転放物面とは、二次曲面のひとつであり、放物線をその対称軸を中心として回転させた曲面である。スペーサー120は、
図8に示すように、この凹部210(回転放物面)の回転軸が、管状部材110の中心軸Aと一致するように配置される。なお、凹部210の形状は、円錐状であってもよい。
【0075】
試料管200によれば、第1面122に凹部210が設けられているため、容易に、試料Sを、試料管100にアンバランスが小さくなるように充填することができる。
【0076】
また、試料管200によれば、凹部210の形状は、円錐状であるため、より容易に、試料Sを、試料管100にアンバランスが小さくなるように充填することができる。
【0077】
また、試料管200によれば、凹部210の形状は、回転放物面状であり、この凹部210(回転方物面)の回転軸が、管状部材110の中心軸Aと一致するように配置される。これにより、より容易に、試料Sを、試料管100にアンバランスが小さくなるように充填することができる。
【0078】
次に、本実施形態の試料管の第2変形例について説明する。
図10は、本実施形態の第2変形例に係る試料管300を模式的に示す断面図である。
【0079】
試料管100の例では、
図4に示すように、スペーサー120は、管状部材110の内部に2つ配置され、試料Sが充填される空間112は、第1スペーサー120aの第1面122と、第2スペーサー120bの第1面122との間に設けられていた。
【0080】
これに対して、試料管300では、スペーサー120は、管状部材110の内部に1つ配置される。そのため、試料Sが充填される空間112は、スペーサー120の第1面122と、第2蓋体132との間に設けられる。なお、図示の例では、第1スペーサー120aのみが、管状部材110の内部に配置されているが、第2スペーサー120bのみが、管状部材110の内部に配置されてもよい。
【0081】
試料管300では、管状部材110の内部に試料Sが充填され、蓋体130,132を管状部材110の開口部114,116に取り付けることにより、試料Sが封入される。具体的には、まず、第2蓋体132を管状部材110の開口部116に取り付ける。次に、管状部材110の開口部114から、試料Sを充填する。次に、管状部材110にスペーサー120を圧入した後、第1蓋体130を開口部114に取り付ける。
【0082】
試料管300では、試料管100と同様に、管状部材110の内部に、試料Sが充填される空間112を規定するスペーサー120が配置されるため、試料Sを、試料管100にアンバランスが小さくなるように充填することができる。したがって、試料管を、例えば、
図11に示す同期振動を発生させる固有振動数を超えて、安定して高速に回転させることができる。
【0083】
なお、上述した実施形態および変形例は一例であって、これらに限定されるわけではない。例えば、実施形態および変形例を適宜組み合わせることも可能である。
【0084】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。