【実施例】
【0034】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例によって限定されるものではない。なお、本発明において、培地に用いる各成分又は素材の配合%又は濃度はすべて、重量部ベースである。
【0035】
[取得例1](芽胞形成能欠損株の取得1)
自然突然変異による方法である異化代謝産物抑制(catabolic repression)様現象を利用した方法により、枯草菌の芽胞形成能欠損株を取得した。具体的には、以下の方法による。
枯草菌(Bacillus subtilis)NBRC3013株(以下「NBRC3013株」という)を、硝酸塩を唯一の窒素源とする培地A(本願明細書段落番号0021記載)を用いて、3回繰り返し希釈して振盪培養(30℃、120時間)した後、培養液を適宜希釈して標準寒天培地に塗沫し、30℃で2日間培養した。培養後に生じたコロニーから16菌株ピックアップし、それぞれSchaeffer培地(本願明細書段落0023記載)を用いて37℃で72時間振盪培養した。得られた培養液を80℃で10分間、加熱処理した後、標準寒天培地に塗沫し、30℃で48時間培養したところ、16菌株のうち9菌株についてコロニーが出現した。そこで、16菌株のうちコロニーが出現しなかった7菌株が芽胞形成能欠損株であると判断し、その7菌株のうちからさらに1菌株を任意に選択し、B.3013ΔSpoA株とした。
【0036】
[試験例1](芽胞形成能欠損株の確認試験)
B.3013ΔSpoA株が、枯草菌の芽胞形成能欠損株であることを確認するために、増殖温度及び耐熱性菌数の測定について試験を行った。
【0037】
増殖温度についての試験は、NBRC3013株とB.3013ΔSpoA株とを、それぞれ標準寒天培地を用いて、30、37、40、45、50℃の各温度で20時間培養して増殖度合いを試験した。その結果を表1に示す。
【0038】
耐熱性菌数の測定についての試験は、NBRC3013株とB.3013ΔSpoA株とを、それぞれSchaeffer培地(本願明細書段落番号0023記載)を用いて、37℃で72時間振盪培養して得られた培養液を、80℃で10分間加熱処理した後、一般生菌数を常法により検査した。その結果を表2示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1について、NBRC3013株及びB.3013AΔSpo株とも、37、40、45℃が増殖大で最適温度であり、同様な特性を示した。
【0041】
【表2】
【0042】
表2について、NBRC3013株は、80℃、10分間の加熱処理後においても10
6個/g程度の生菌が検出され、芽胞を形成していることが確認された。一方、B.3013ΔSpoA株は、80℃、10分間の加熱処理後において生菌が検出されなかったことから、芽胞を形成していない、すなわち芽胞形成能欠損株であることが確認された。
【0043】
[実施例1](殺菌処理済み大豆発酵調味料の作製)
きな粉204gを、水996gと共に2L容ジャーファメンターに入れて混合し、オートクレーブを用いて121℃で15分間殺菌処理をした。殺菌処理後、40℃まで冷却し、枯草菌の芽胞形成能欠損株であるB.3013ΔSpoA株の前培養液(生菌数10
8個/g程度)を6g接種し、プロテアーゼ(ウマミザイムG)0.6gを添加して、40℃で15時間、通気撹拌発酵した。なお、前培養液については、B.3013ΔSpoA株のコロニーを、水に酵母エキス2重量%とグルコース2重量%を配合した培地に接種して、40℃で7時間、振盪培養することで得られた培養液を前培養液として使用した。
通気撹拌発酵して得られた発酵物(一般生菌数:6.7×10
7個/g)を、80℃で10分間殺菌することにより、殺菌処理済み大豆発酵調味料(実施例1)1100g(Brix13.6°)を得た。この殺菌処理済み大豆発酵調味料について、一般生菌数を常法により検査した。また、食品分析用テストコンビネーションであるF−キットL−グルタミン酸(ロシュ・ダイアグノスティクス社製)を用いてL−グルタミン酸含量を測定した。それぞれの結果を表3に示す。
また、得られた殺菌処理済み大豆発酵調味料を官能評価したところ、枯草菌発酵物特有の好ましい風味及び旨みを十分に有しており、調味料素材として良好な風味を有していた。
【0044】
[比較例1]
発酵菌を芽胞形成能を有するNBRC3013株とする以外は、実施例1と同様に通気撹拌発酵した。通気撹拌発酵して得られた発酵物(一般生菌数:4.8×10
8個/g)を、80℃で10分間殺菌することにより、殺菌処理済み大豆発酵調味料(比較例1)1100g(Brix13.5°)を得た。
この殺菌処理済み大豆発酵調味料について、実施例1と同様にして、生菌数及びL−グルタミン酸含量を測定した。それぞれの結果を表3に示す。
【0045】
【表3】
【0046】
表3について、本発明により得られた殺菌処理済み大豆発酵調味料(実施例1)は、親株であるNBRC3013株を用いて発酵することにより得られた比較例1の殺菌処理済み大豆発酵調味料と同等のグルタミン酸を含有するとともに、一般生菌が検出されなかった。また、本発明により得られた殺菌処理済み大豆発酵調味料(実施例1)の官能評価結果は、80℃、10分間という緩和な殺菌条件であるため、加熱による影響がほとんどなく、風味良好であった。
一方、比較例1の殺菌処理済み大豆発酵調味料は、芽胞が存在しているため、一般生菌が3.0×10
6個/g検出された。
【0047】
[取得例2](芽胞形成能欠損株の取得2)
親株として、枯草菌(Bacillus subtilis)NBRC13169株を用いること以外は、取得例1と同様にして、枯草菌の芽胞形成能欠損株B.13169ΔSpoB株を得た。
【0048】
[実施例2](殺菌処理済み発酵ポークエキスの作製)
ポークエキス(Brix60°)10gを、水39g及びグルコース1gと共に200ml容三角フラスコに入れて混合し、オートクレーブを用いて121℃で15分間殺菌処理をした。殺菌処理後、37℃まで冷却し、枯草菌の芽胞形成能欠損株であるB.13169ΔSpoB株の前培養液(生菌数10
8個/g程度)を1g接種し、プロテアーゼ(スミチームFP)0.05gを添加して、37℃で20時間、振盪発酵した。なお、前培養液については、B.13169ΔSpoB株のコロニーを、水に酵母エキス2重量%とグルコース2重量%を配合した培地に接種して、37℃で7時間、振盪培養することで得られた培養液を前培養液として使用した。
振盪発酵して得られた発酵物(一般生菌数:1.2×10
8個/g)を、70℃で30分間加熱殺菌することにより、殺菌処理済み発酵ポークエキス(実施例2)40g(Brix13.8°)を得た。
この殺菌処理済み発酵ポークエキスについて、実施例1と同様にして、一般生菌数及びL−グルタミン酸含量を測定した。それぞれの結果を表4に示す。
また、得られた殺菌処理済み発酵ポークエキスを官能評価したところ、枯草菌発酵物特有の好ましい風味及び旨みを有しており、調味料素材として良好な風味を有していた。
【0049】
[比較例2]
発酵菌を芽胞形成能を有するNBRC13169株とする以外は、実施例2と同様にして、振盪発酵した。振盪発酵して得られた発酵物(一般生菌数:5.6×10
8個/g)を、70℃で30分間加熱殺菌することにより、殺菌処理済み発酵ポークエキス(比較例2)40g(Brix13.8°)を得た。
この殺菌処理済み発酵ポークエキスについて、実施例1と同様にして、一般生菌数及びL−グルタミン酸含量を測定した。それぞれの結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
表4について、本発明により得られた殺菌処理済み発酵ポークエキス(実施例2)は、親株であるNBRC13169株を用いて発酵することにより得られた比較例2の殺菌処理済み発酵ポークエキスと同等のグルタミン酸を含有するとともに、一般生菌が検出されなかった。また、本発明により得られた殺菌処理済み発酵ポークエキス(実施例2)の官能評価結果は、70℃、30分間という緩和な殺菌処理条件であるため、加熱による影響がほとんどなく、風味良好であった。
一方、比較例2の殺菌処理済み発酵ポークエキスは、芽胞が存在しているため、一般生菌が2.2×10
6個/g検出された。
【0052】
[実施例3](殺菌処理済み発酵チキンエキスの作製)
チキンエキス(Brix40°)10gを、水40g及びプロテアーゼ(スミチームFP)0.1gと共に200ml容三角フラスコに入れて混合し、50℃で5時間酵素処理した後、オートクレーブを用いて121℃で15分間殺菌処理をした。殺菌処理後、37℃まで冷却し、枯草菌の芽胞形成能欠損株であるB.3013ΔSpoA株の前培養液(生菌数10
8個/g程度)を1g接種して、37℃で20時間、振盪発酵した。なお、前培養液については、B.3013ΔSpoA株のコロニーを、水に酵母エキス2重量%とグルコース2重量%を配合した培地に接種して、37℃で7時間、振盪培養することで得られた培養液を前培養液として使用した。
振盪発酵して得られた発酵物(一般生菌数:6.0×10
7個/g)を、70℃で30分間加熱殺菌することにより、殺菌処理済み発酵チキンエキス(実施例3)45g(Brix7.5°)を得た。
この殺菌処理済み発酵チキンエキスについて、実施例1と同様にして、一般生菌数及びL−グルタミン酸含量を測定した。それぞれの結果を表5に示す。
また、得られた殺菌処理済み発酵チキンエキスを官能評価したところ、枯草菌発酵物特有の好ましい風味及び旨みを有しており、調味料素材として良好な風味を有していた。
【0053】
[比較例3]
発酵菌を芽胞形成能を有するNBRC3013株とする以外は、実施例3と同様にして、振盪発酵した。振盪発酵して得られた発酵物(一般生菌数:3.8×10
8個/g)を、70℃で30分間加熱殺菌することにより、殺菌処理済み発酵チキンエキス(比較例3)45g(Brix7.6°)を得た。
この殺菌処理済み発酵チキンエキスについて、実施例1と同様にして、一般生菌数及びL−グルタミン酸含量を測定した。それぞれの結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】
表5について、本発明により得られた殺菌処理済み発酵チキンエキス(実施例3)は、親株であるNBRC3013株を用いて発酵することにより得られた比較例3の殺菌処理済み発酵チキンエキスと同等のグルタミン酸を含有するとともに、一般生菌が検出されなかった。また、本発明により得られた殺菌処理済み発酵チキンエキス(実施例3)の官能試験結果は、70℃、30分間という緩和な殺菌処理条件であるため、加熱による影響がほとんどなく、風味良好であった。
一方、比較例3の殺菌処理済み発酵チキンエキスは、芽胞が存在しているため、一般生菌が3.0×10
6個/g検出された。