【実施例1】
【0010】
まず、本発明の軸継手における構成を、「車輪用軸受の適用例の構成」、「車輪用軸受の構成」に分けて説明する。
【0011】
[車輪用軸受の適用例の構成]
図1は、実施例1の車輪用軸受が適用されたインホイールモータユニットを示す縦断側面図である。
図2は、
図1に示すインホイールモータユニットの要部を拡大した縦断側面図である。
【0012】
車輪用軸受である実施例1のハブベアリング40は、
図1に示すインホイールモータユニットMUに適用されている。
図1に示すインホイールモータユニットMUは、車輪30を駆動する電動モータ10を、この車輪30を支持するホイール31の内側に配置したものであり、ケース1と、電動モータ10と、減速機20と、を有している。
【0013】
前記ケース1は、
図1の左側におけるモータ側ケース部分2と、中央における減速機側ケース部分3と、
図1の右側における出力軸側ケース部分(車体側部材)4とを相互に合体させて構成する。このケース1内には、回転駆動源となる電動モータ10と、この電動モータ10の回転を減速して出力する減速機20とが同軸に配置収納される。また、このケース1は、図示しないサスペンション機構を介して、サイドメンバ等の車体に対して揺動可能に保持されている。
【0014】
前記電動モータ10は、モータ側ケース部分2の内側に位置し、環状のステータ11と、このステータ11内に同心に配置したロータ12と、を有している。
【0015】
前記ステータ11は、コイル11aを巻線して具え、モータ側ケース部分2の内周に外周面が圧入嵌着することで固定される。
【0016】
前記ロータ12は、ロータ回転軸12aと、フランジ部12bと、積層鋼板12cと、永久磁石12dと、を有している。
前記ロータ回転軸12aは、一端がモータ側ケース部分2に貫通させて形成した開口2aの内側に嵌着された第1ロータ軸受13Aに回転自在に支持され、他端が減速機20の後述するキャリア24の内側端に嵌着された第2ロータ軸受13Bに回転自在に支持される。そして、このロータ回転軸12aから径方向に突出したフランジ部12bの外周に積層鋼板12cが固設され、この積層鋼板12cの外周に永久磁石12dが埋設される。
なお、このロータ12は、積層鋼板12cの外周に埋設した永久磁石12dがステータ11の内周面と正対する軸線方向位置に配置され、この位置を保ってロータ回転軸12aが支持される。
【0017】
前記減速機20は、前記フランジ部12bと前記減速機側ケース部分3との間に設けられる。この減速機20は、
図2に明示するごとく、ロータ回転軸12aに形成したサンギヤ21と、減速機側ケース部分3内に固定したリングギヤ22と、サンギヤ21に噛合する大径ピニオン部分23a及びリングギヤ22に噛合する小径ピニオン部分23bの一体成形になる3個(ここでは1個のみ図示)の段付きピニオン23と、これら段付きピニオン23を回転自在に支持したキャリア24と、を有する遊星歯車組で構成する。
【0018】
前記キャリア24は、減速機20の出力メンバであり、ロータ回転軸12aと出力軸25の間で、この両軸12a,25と同軸位置に配置される。また、このキャリア24は、3個の段付きピニオン23を円周方向等間隔に配置して回転自在に支持するもので、相互に対向するキャリアプレート24a,24bを具えている。これらキャリアプレート24a,24bは、一方のキャリアプレート24aから他方のキャリアプレート24bまで軸線方向に延在する橋絡部24cを介してボルト24dにより相互に結合する。そして、キャリアプレート24a,24b間に3個(ここでは1個のみ図示)のピニオンシャフト24eを架設し、これらピニオンシャフト24eにそれぞれ段付きピニオン23を回転自在に支持する。
【0019】
前記出力軸25は、車輪30と一体回転する車軸であり、一端がキャリア24と一体成形され、他端が出力軸側ケース部分4を貫通し、この出力軸側ケース部分4から突出した部分にホイールハブ(車輪側部材)26が嵌合される。そして、この出力軸25は、ホイールハブ26と出力軸側ケース部分4の間に配置されたハブベアリング(車輪用軸受)40により、出力軸側ケース部分4に対して回転自在に支持される。さらに、ホイールハブ26にブレーキドラム27とホイール31を重ね合わせてボルト固定すると共に、出力軸25の先端に螺合させたローディングナット28によりホイールハブ26を抜け止めする。
なお、
図1において29は、ブレーキドラム27の内側開口を塞ぐよう配置して出力軸側ケース部分4に取り付けたバックプレートであり、このバックプレート29には図示しないホイールシリンダが取り付けられる。そして、このホイールシリンダの液圧作動によりブレーキドラム27、つまり車輪30が制動される。
【0020】
[車輪用軸受の構成]
図3は、
図2におけるA部拡大図である。
図4は、
図3におけるB部拡大図である。
図5は、
図3におけるC部拡大図である。
【0021】
前記ハブベアリング(車輪用軸受)40は、図示しないサイドメンバ等の車体構造体に対して、図示しないサスペンション機構等を介して揺動可能に設けた車体側部材であるケース1の出力軸側ケース部分4と、車輪30と一体回転可能に設けた車輪側部材であるホイールハブ26との間に設け、ホイールハブ26を出力軸側ケース部分4に対して回転自在に支持する。
【0022】
このハブベアリング40は、
図3に示すように、外方部材41と、内方部材42と、転動体43と、ここでは転動体43の軸方向両側にそれぞれ設けられた2つの対向面部44,44と、を有している。
【0023】
前記外方部材41は、出力軸側ケース部分4に形成された出力軸25が貫通する貫通孔4aの内周面に形成され、ここでは出力軸側ケース部分4と一体になっている。そして、内方部材42に対向する外側面41aには、転動体43,43と接触する外側転走面41b,41bを有している。この外側転走面41bは、転動体43の形状に沿った湾曲面になっている。
【0024】
前記内方部材42は、ホイールハブ26の外周面と、このホイールハブ26に固定される内方部材片42cと、により形成されている。そして、外方部材41に対向する外側面42aには、転動体43,43と接触する内側転走面42b,42bを有している。この内側転走面42bは、転動体43の形状に沿った湾曲面になっている。
【0025】
前記転動体43は、外方部材41と内方部材42の間で回転する金属球体であり、外側転走面41bと内側転走面42bの間に回転可能に挟持されている。なお、この転動体43は、ここでは軸方向に並設している。また、転動体43,43の軸方向両側には、それぞれシール部材43a,43aが設けられている。このシール部材43aは、いわゆるグリースシールである。
【0026】
前記対向面部44は、外方部材41に形成された外側対向面部45と、内方部材42に形成された内側対向面部46と、から構成されている。
【0027】
前記外側対向面部45は、一方のシール部材43aとこのシール部材43aに隣接する転動体43との間に設けられた第1突起45aと、他方のシール部材43aに接した貫通孔4aの先端位置に設けられた第2突起45bと、を有している。
【0028】
前記第1突起45aは、
図4に示すように、外方部材41の外側面41aから内方部材42に向けて、つまり、ホイールハブ26の軸直方向に沿って突出した突起であり、内方部材42の外側面42aと所定の間隙Kをあけて対向する平行面45a1と、内側対向面部46と所定の間隙Kをあけて軸方向にラップする鉛直面45a2と、を有している。ここで、平行面45a1と鉛直面45a2は、互いに直交する方向に伸びている。また、「所定の間隙K」とは、外方部材41と内方部材42との相対的な位置ずれを許容できる寸法であり、以下同寸法とする。
【0029】
前記第2突起45bは、
図5に示すように、ホイールハブ26の軸方向に沿って突出した突起であり、内方部材42の外側面42aと所定の間隙Kをあけて対向する平行面45b1と、内側対向面部46と所定の間隙Kをあけて軸方向にラップする鉛直面45b2と、を有している。ここで、平行面45b1と鉛直面45b2は、互いに直交する方向に伸びている。
【0030】
前記内側対向面部46は、一方のシール部材43aとこのシール部材43aに隣接する転動体43との間に設けられた第1突起46aと、他方のシール部材43aの車輪30側に隣接して設けられた第2突起46bと、を有している。
【0031】
前記第1突起46aは、
図4に示すように、内方部材42の外側面42aから外方部材41に向けて、つまり、ホイールハブ26の軸直方向に沿って突出した突起であり、外方部材41の外側面41aと所定の間隙Kをあけて対向する平行面46a1と、外側対向面部45と所定の間隙Kをあけて軸方向にラップする鉛直面46a2と、を有している。ここで、平行面46a1と鉛直面46a2は、互いに直交する方向に伸びている。さらに、この内側対向面部46の第1突起46aの鉛直面46a2は、外側対向面部45の第1突起45aの鉛直面45a2と軸方向に対向する。
【0032】
前記第2突起46bは、
図5に示すように、内方部材42であるホイールハブ26の一部の外周面から軸直方向に延在した壁面であり、外側対向面部45と所定の間隙Kをあけて軸方向にラップする鉛直面46b2を有している。なお、この鉛直面46b2は、外側対向面部45の第2突起45bの鉛直面45b2と軸方向に対向する。
【0033】
次に、作用を説明する。
まず、「比較例の車輪用軸受とその課題」を説明し、実施例1の車輪用軸受における作用を「軸方向位置ずれ時報知作用」、「軸直方向位置ずれ時報知作用」、「軸傾き時報知作用」に分けて説明する。
【0034】
[比較例の車輪用軸受とその課題]
車両が悪路等を走行することで車両用軸受(ハブベアリング)内に泥水が浸入したり、事故等の発生より車両用軸受に過大な荷重入力が生じたりすることで、転動体が摩耗して、車両用軸受の外方部材と内方部材との相対的な位置がずれることがある。この位置ずれが生じると、車輪の回転に伴って異音や振動等が発生するが、この異音等は位置ずれが原因であり、非常に小さいものであるため、運転手がこの異音等に気がつかずに走行を続けてしまう。その結果、外方部材と内方部材の間に挟まれた転動体がさらに縮径してしまう。これにより、外方部材と内方部材との相対的な位置ずれが悪化し、この車両用軸受によって支持されている車軸の軸ブレが生じてしまう。
【0035】
特に、上述の実施例1に示したインホイールモータでは、車軸が車両用軸受のみで支えられているため、軸ブレによる車軸の傾きで減速機を構成する遊星歯車のかみ合いが悪化し、車輪ロック等の異常が発生するおそれがある。
【0036】
また、このような車両用軸受の異常による軸ブレを減速機の遊星歯車に伝達しないように、遊星歯車の出力メンバ(実施例1ではキャリア24)と、車輪用軸受(実施例1ではハブベアリング40)との間に、軸ブレを吸収する構造を介在させることが考えられる。ここで、「軸ブレを吸収する構造」とは、ズレを吸収可能なカップリング構造やジョイント構造等である。
しかしながら、このような軸ブレを吸収する構造を介在させる場合では、想定される軸ブレが大きいほど減速機と車輪との軸方向距離が大きくなってしまい、結果的にユニット全体が大型化してしまう。
【0037】
そこで、軸ブレ量を縮小することで軸ブレ吸収構造の小型化を図り、ユニットの大型化を抑制する必要がある。しかし、例えば、外方部材と内方部材との間の距離を検出する高精度センサを用いて軸ブレの発生を検出するものでは、センサ自体の検出精度だけでなく、取り付けにも高い精度が要求される。そのため、製造コストが上昇し、コストアップせざるをえない。また、センサを設けることで、部品点数が増加し、重量増加にもつながってしまうという問題があった。
【0038】
[軸方向位置ずれ時報知作用]
図6は、実施例1の車輪用軸受において、軸方向に沿って位置ずれが生じたときの要部拡大図である。
【0039】
実施例1のインホイールモータユニットMUにおいて、ハブベアリング40に泥水の浸入や過大な荷重入力等が生じて転動体43が摩耗し、外方部材41と内方部材42との相対的な位置が出力軸25の軸方向に沿ってずれた場合を考える。
【0040】
ここで、ハブベアリング40は、外方部材41及び内方部材42に設けられ、所定の間隙Kをあけて対向すると共に軸方向でラップする対向面部44を有している。すなわち、外側対向面部45の第1突起45aの鉛直面45a2と、内側対向面部46の第1突起46aの鉛直面46a2とが、所定の間隙Kをあけて軸方向でラップしている。また、外側対向面部45の第2突起45bの鉛直面45b2と、内側対向面部46の第2突起46bの鉛直面46b2とが、所定の間隙Kをあけて軸方向でラップしている。
【0041】
そのため、外方部材41が
図6の左方向へ移動し、内方部材42が
図6の右方向へ移動するように互いの相対的な位置が出力軸25の軸方向に沿って、所定の間隙Kと同じ寸法だけずれると、第1突起45aの鉛直面45a2と、第1突起46aの鉛直面46a2とが干渉する。
【0042】
そして、この鉛直面45a2,46a2同士の干渉によって異音が発生し、運転者にハブベアリング40の異常発生、すなわち、外方部材41と内方部材42との相対的な位置ずれの発生が報知される。
【0043】
このように、実施例1のハブベアリング40では、外方部材41と内方部材42との相対的な位置が、出力軸25の軸方向に沿って鉛直面45a2,46a2の間の所定の間隙Kと同じ寸法ずれた段階で、対向面部44を干渉させて異音を積極的に発生することができる。このため、センサ等を用いることのない安価な構造で、位置ずれの悪化前に異常の検出が可能となる。すなわち、外方部材41と内方部材42との相対的な軸方向の位置ずれは、上記「所定の間隙K」分に抑えられ、軸ブレ量を小さくすることができる。この結果、軸ブレ吸収構造の小型化を図ることができて、ユニットの大型化が抑制される。
【0044】
また、対向面部44が所定の間隙Kをあけて対向すると共に軸方向でラップすることで、外方部材41と内方部材42との間にラビリンス構造を有することとなる。このため、この対向面部44により、外方部材41と内方部材42の間に泥水や砂等の異物の浸入防止効果を持たせることもできる。
【0045】
[軸直方向位置ずれ時報知作用]
図7は、実施例1の車輪用軸受において、軸直方向に沿って位置ずれが生じたときの要部拡大図である。
【0046】
実施例1のインホイールモータユニットMUにおいて、ハブベアリング40に泥水の浸入や過大な荷重入力等が生じて転動体43が摩耗し、外方部材41と内方部材42との相対的な位置が出力軸25の軸直方向(径方向)に沿ってずれた場合を考える。
【0047】
ここで、ハブベアリング40は、外方部材41及び内方部材42に設けられ、所定の間隙Kをあけて対向すると共に軸方向でラップする対向面部44を有している。すなわち、外側対向面部45の第1突起45aの平行面45a1と、内方部材42の外側面42aとが、所定の間隙Kをあけて対向している。また、内側対向面部46の第1突起46aの平行面46a1と、外方部材41の外側面41aとが、所定の間隙Kをあけて対向している。さらに、外側対向面部45の第2突起45bの平行面45b1と、内方部材42の外側面42aとが、所定の間隙Kをあけて対向している。
【0048】
そのため、
図7に示すように、外方部材41と内方部材42との相対的な位置が出力軸25の軸直方向に沿って、所定の間隙Kと同じ寸法だけずれると、平行面45a1と外側面42aとが干渉し、平行面46a1と外側面41aとが干渉し、平行面45b1と外側面42aとが干渉する。
【0049】
そして、この平行面45a1,46a1,45b1と外側面41a,42aの干渉によって異音が発生し、運転者にハブベアリング40の異常発生、すなわち、外方部材41と内方部材42との相対的な位置ずれの発生が報知される。
【0050】
このように、実施例1のハブベアリング40では、外方部材41と内方部材42との相対的な位置が、出力軸25の軸直方向に沿って、対向する平行面45a1と外側面42aとの間の所定の間隙K、平行面46a1と外側面41aとの間の所定の間隙K、平行面45b1と外側面42aとの間の所定の間隙Kと同じ寸法ずれた段階で、対向面部44を干渉させて異音を積極的に発生することができる。このため、センサ等を用いることのない安価な構造で、位置ずれの悪化前に異常の検出が可能となる。すなわち、外方部材41と内方部材42との相対的な軸直方向の位置ずれは、上記「所定の間隙K」分に抑えられ、軸ブレ量を小さくすることができる。この結果、軸ブレ吸収構造の小型化を図ることができて、ユニットの大型化が抑制される。
【0051】
[軸傾き時報知作用]
図8は、実施例1の車輪用軸受において、軸方向に対して傾斜方向に沿って位置ずれが生じたときの要部拡大図である。
【0052】
実施例1のインホイールモータユニットMUにおいて、ハブベアリング40に泥水の浸入や過大な荷重入力等が生じて転動体43が摩耗し、出力軸25に対して傾く方向に外方部材41と内方部材42との相対的な位置がずれた場合を考える。なお、
図8では、例えば車輪30が車両上方に向かって上がるように傾いた場合を考える。
【0053】
ここで、ハブベアリング40は、外方部材41及び内方部材42に設けられ、所定の間隙Kをあけて対向すると共に軸方向でラップする対向面部44を有している。
【0054】
そのため、
図8に示すように、出力軸25に対して傾く方向に外方部材41と内方部材42との相対的な位置がずれると、平行面45a1と外側面42aとが干渉し、平行面46a1と外側面41aとが干渉する。
【0055】
そして、この平行面45a1,46a1と外側面41a,42aの干渉によって異音が発生し、運転者にハブベアリング40の異常発生、すなわち、外方部材41と内方部材42との相対的な位置ずれの発生が報知される。
【0056】
このように、実施例1のハブベアリング40では、外方部材41と内方部材42との相対的な位置が出力軸25に対して傾く方向にずれた場合であっても、上記所定の間隙Kと同じ寸法、あるいはそれ以下の寸法分ずれた段階で、対向面部44を干渉させて異音を積極的に発生することができる。このため、センサ等を用いることのない安価な構造で、位置ずれの悪化前に異常の検出が可能となる。そして、外方部材41と内方部材42との相対的な位置ずれは、傾く方向にずれたときも上記「所定の間隙K」以下に抑えられ、軸ブレ量を小さくすることができる。この結果、軸ブレ吸収構造の小型化を図ることができて、ユニットの大型化が抑制される。
【0057】
特に、実施例1のハブベアリング40では、
図3に示すように、対向面部44が、転動体43,43の軸方向の両側位置にそれぞれ設けられている。
【0058】
そのため、例えば車輪30が車両下方に向かって下がるように傾いた場合では、平行面45b1と外側面42aとが干渉する。また、外方部材が
図6の右方向へ移動し、内方部材が
図6の左方向へ移動するように互いの相対的な位置が出力軸25の軸方向に沿ってずれたときには、第2突起45bの鉛直面45b2と、第2突起46bの鉛直面46b2とが干渉する。
【0059】
このように、対向面部44を転動体43,43の軸方向の両側位置にそれぞれ設けることで、外方部材41と内方部材42との相対的な位置がどのように変化しても対向面部44において積極的な干渉を生じさせて、積極的・意図的に異音を発生することができ、異常検知のシーンを拡大することができる。
【0060】
次に、効果を説明する。
実施例1のハブベアリング(車輪用軸受)にあっては、下記に挙げる効果を得ることができる。
【0061】
(1) 車体に対して揺動可能に設けた車体側部材(出力軸側ケース部分)4と、車輪30と一体回転可能に設けた車輪側部材(ホイールハブ)26との間に設け、前記車輪側部材26を前記車体側部材4に対して回転自在に支持する車輪用軸受(ハブベアリング)40において、
前記車体側部材4に固定され、外側面41aに転動体43と接する外側転走面41bを有する外方部材41と、
前記車輪側部材26に固定され、前記外方部材41に対向する外側面42aに前記転動体43と接する内側転走面42bを有する内方部材42と、
前記外方部材41及び前記内方部材42に設けられ、所定の間隙Kをあけて対向すると共に軸方向でラップする対向面部44と、
を備えた構成とした。
このため、安価な構造により外方部材と内方部材との相対的な位置ずれを検出することができる。
【0062】
(2) 前記対向面部44は、前記転動体43の軸方向の両側位置にそれぞれ設けた構成とした。
このため、外方部材41と内方部材42との位置ずれ方向に拘らず、対向面部44の積極的な干渉を生じさせて、異常検知のシーンを拡大することができる。
【0063】
(3) 前記車輪30のホイール31内に配置された電動モータ10の回転軸(ロータ回転軸)12aと、前記車輪30の中心に設けた車軸(出力軸)25とを同軸に付き合わせて対向配置し、
前記車体側部材は、前記電動モータ10を収納したモータケース(ケース)1であり、
前記車輪側部材は、前記車軸25に嵌合したホイールハブ26である構成とした。
このため、車輪用軸受(ハブベアリング)40のみで支えられている車軸(出力軸)25が僅かに傾いた段階で、この傾きを検出することができ、車輪ロック等の異常の発生を防止することができる。
【0064】
以上、本発明の車輪用軸受を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、これらの実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0065】
実施例1では、外方部材41及び内方部材42に設けた対向面部44が、互いに直交する方向に伸びる平行面45a1,46a1と鉛直面45a2,46a2等を有しているが、これに限らない。
図9に示すように、外方部材41に形成した外側対向面部45の先端面47、すなわち内側対向面部46と所定の間隙Kをあけて対向する面を、軸方向に沿って、内方部材42の外側面42aから次第に離れるように傾斜させる。一方、内方部材42に形成した内側対向面部46の先端面48、すなわち、外側対向面部45の先端面47に対向する面を、所定の間隙Kを保ったまま、軸方向に沿って、外方部材41の外側面41aから次第に離れるように傾斜させる。
【0066】
これにより、外側対向面部45の傾斜した先端面47と内側対向面部46の傾斜した先端面48とが、所定の間隙Kをあけて対向すると共に軸方向でラップする。この結果、外方部材41と内方部材42の相対的な位置が軸方向及び軸直方向のいずれにずれた場合であっても、先端面47,48同士が干渉することで、異音を積極的・意図的に発生させて、異常の報知をすることができる。
【0067】
また、実施例1では、対向面部44を外方部材41の外側面41aと、内方部材42の外側面42aのそれぞれに一体的に形成しているが、これに限らない。
図10に示すように、外方部材41や内方部材42とは別の部材として対向面部44を形成し、外方部材41及び内方部材42に圧入してもよい。この場合であっても、対向面部44が所定の間隙をあけて対向すると共に軸方向でラップすることで、位置ずれ発生時に対向面部44を干渉させて異音を積極的に発生させ、異常の報知を行うことができる。
【0068】
さらに、実施例1の車輪用軸受であるハブベアリング40は、インホイールモータユニットMUに適用されているが、これに限らない。一般的なエンジン自動車やハイブリッド自動等における車輪を支持する軸受として適用することもできる。
【0069】
そして、実施例1の車輪用軸受であるハブベアリング40では、車体側部材である出力軸側ケース部分4の一部を外方部材41とすると共に、車輪側部材であるホイールハブ26の一部及び内方部材片42cによって内方部材42を構成した。しかしながら、これに限らず、車体側部材に対して外方部材41を別部材で構成してもよいし、車輪側部材に対して内方部材42を別部材で構成してもよい。
【0070】
また、車体側部材は出力側ケース部分4に限らず、車体から搖動可能に伸びたトレーリングアーム等であってもよい。また、車輪側部材はホイールハブ26に限らず、車輪に接続した車軸等であってもよい。