特許第6019621号(P6019621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019621
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】距離計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 3/06 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
   G01C3/06 110A
   G01C3/06 140
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-45235(P2012-45235)
(22)【出願日】2012年3月1日
(65)【公開番号】特開2013-181806(P2013-181806A)
(43)【公開日】2013年9月12日
【審査請求日】2015年2月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】沖 孝彦
【審査官】 神谷 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−051759(JP,A)
【文献】 特開2007−093306(JP,A)
【文献】 特開2008−241435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B11/00−11/30
G01C 3/00− 3/32
G01S 7/48− 7/51,
17/00−17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、水平方向に発光領域を有し強度変調された照射光を照射する投光手段と、
前記移動体に搭載され、前記照射光が照射された対象物を撮像する撮像手段と、
前記撮像手段の撮像のタイミングに合わせて前記投光手段より照射する照射光の発光強度を制御する投光制御手段と、
前記撮像手段にて撮像された画像から、前記照射光の発光の強度変調と同期して輝度変動する領域を、同期検波領域として抽出する同期検波処理手段と、
前記同期検波領域のエッジ部を検出するエッジ部検出手段と、
前記エッジ部検出手段にて検出されたエッジ部に基づいて、前記対象物までの距離を算出する距離算出手段と、を有し、
前記同期検波手段は、前記撮像手段で撮像された画像の輝度出力値が、該撮像手段の輝度感度特性が非線形領域で検出された場合には、この輝度出力値を前記撮像手段の輝度感度特性が線形領域で検出された輝度出力値を用いて補正すること
を特徴とする距離計測装置。
【請求項2】
前記同期検波処理手段は、前記投光手段より照射された照射光の変調周期の半分以上において、前記撮像手段の線形領域の出力値が観測されている場合に、前記非線形領域の出力値を補正することを特徴とする請求項1に記載の距離計測装置。
【請求項3】
前記同期検波処理手段は、前記非線形領域の輝度値が出力される時間の、変調周期全体に対する割合に応じて、直流オフセット成分を補正することを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の距離計測装置。
【請求項4】
前記投光手段、及び前記撮像手段は、照射光の強度変調として、振幅変調、位相変調、周波数変調のうちの一つ、或いはこれらの組み合わせを用いることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の距離計測装置。
【請求項5】
前記投光手段は、可視光、赤外光、紫外光のうちの少なくとも1つを照射する光源を具備し、前記撮像手段は、前記投光手段に具備された光源に応じて、可視光領域、赤外領域、紫外領域に感度を有することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の距離計測装置。
【請求項6】
前記撮像手段は、前記投光手段の上端エッジが照射される方向に対して、鉛直方向に設けられ、且つ、所定の俯角を有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の距離計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度変調された照射光を対象物に照射して対象物までの距離を計測する距離計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物に向けて照射光を照射し、この照射光の反射光をCCD等の撮像素子で撮像し、取得した撮像データに基づいて対象物までの距離、或いは対象物の形状を計測する光学式の距離計測装置が知られている。このような距離計測装置において、照射する光の反射光が背景光に比べて弱いと、反射光は背景光の雑音に埋もれてしまい、対象物を正しく認識できなくなる場合がある。
【0003】
そこで、従来より反射光が弱くなる遠方用の送受光部と、反射光が十分に強い近傍用の送受光部とで異なる波長や点滅周期にすることで、個別に計測できるようにした距離測定装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−107448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、雑音に対する頑健性を高めるために正弦波等で強度変調された送信信号を用いて距離を測定する際に、背景光の光量が撮像素子の輝度感度特性における線形観測領域の上端部、或いは下端部付近に送信信号が重畳した反射光を観測する場合には、この反射光が撮像素子の非線形領域に入ってしまうことがある。
【0006】
このような場合には、撮像手段にて撮像した画像から取得される強度変調された信号の上端部(正弦波の上部ピーク領域)、或いは下端部(正弦波の下部ピーク領域)が飽和してしまい、送信信号に対して同期検波処理を実行する際の同期検波判定に誤りが生じ、十分な反射情報があるにも拘わらず、強度変調信号が非検出となってしまい、対象物までの距離計測や形状計測の精度が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、撮像された画像から取得される強度変調信号が、撮像手段の輝度感度特性の非線形領域で検出される場合であっても対象物までの距離、形状を高精度に計測することが可能な距離計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は、強度変調された照射光を照射する投光手段と、照射光が照射された対象物を撮像する撮像手段と、撮像手段にて撮像された画像から、前記投光手段での発光の強度変調と同期して輝度変動する領域を同期検波領域として抽出する同期検波処理手段とを有する。そして、同期検波手段は、撮像手段で撮像された画像の輝度出力値が該撮像手段の輝度感度特性が非線形領域で検出された場合には、この輝度出力値を撮像手段の輝度感度特性が線形領域で検出された輝度出力値を用いて補正する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る距離計測装置では、強度変調された照射光を用いて対象物までの距離を計測する際に、撮像手段の非線形領域の輝度出力値が一部観測される場合においても、照射光の同期検波計測を誤ることなく、安定した距離計測または形状計測を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る距離計測装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る距離計測装置の、同期検波処理部の詳細な構成を示すブロック図である。
図3】本発明の一実施形態に係る距離計測装置の、同期検波処理部での処理手順を示す説明図である。
図4】本発明の一実施形態に係る距離計測装置の、同期検波処理部における各信号の変化を示すタイミングチャートである。
図5】本発明の一実施形態に係る距離計測装置により観測対象物までの距離を測定する様子を示す説明図である。
図6】本発明の一実施形態に係る距離計測装置のカメラで撮像された画像を示す説明図である。
図7】本発明の一実施形態に係る距離計測装置により、観測対象物までの距離を測定する原理を示す説明図である。
図8】本発明の一実施形態に係る距離計測装置に用いられる撮像素子の、入力光強度と輝度出力値との対応を示す特性図である。
図9】強度変調された信号に対して撮像素子の輝度出力信号の上端部に歪みを生じる様子を示す説明図である。
図10】強度変調された信号に対して撮像素子の輝度出力信号の下端部に歪みを生じる様子を示す説明図である。
図11】歪みが生じた輝度出力信号を補正する際の補正量を示す説明図である。
図12】本発明の一実施形態に係る距離計測装置の、処理手順を示すフローチャートである。
図13図12に示した同期検波処理の詳細な処理手順を示すフローチャートである。
図14】本発明の一実施形態に係る距離計測装置によるカメラの俯角0°の場合の、距離分解能を示す説明図である。
図15】本発明の一実施形態に係る距離計測装置によるカメラの俯角α°の場合の、距離分解能を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る距離計測装置100の構成を示すブロック図である。図1に示すように、該距離計測装置100は、車両(移動体)に搭載されるものであり、車両周囲の距離測定の対象となる観測対象物Pに向けて照射光を照射する投光部(投光手段)11と、照射光が照射された観測対象物Pの映像を撮像するカメラ(撮像手段)12と、投光部11による照射光の照射を制御する投光制御部14と、カメラ12で撮像された画像信号に対して同期検波処理を加える同期検波処理部(同期検波処理手段)13と、同期検波された画像から観測対象物Pの上端エッジを検出する上端エッジ検出部15と、上端エッジ検出部15で検出されたエッジに基づいて車両から観測対象物Pまでの距離を算出する距離算出部16と、を備えている。
【0012】
なお、本実施形態では、移動体が車両である場合を例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、鉄道車両や船舶等の他の移動体についても適用することが可能である。また、本実施形態に係る距離計測装置100は、例えば、中央演算ユニット(CPU)や、RAM、ROM、ハードディスク等の記憶手段からなる一体型のコンピュータを用いて構成することができる。
【0013】
投光部11は、例えば、プロジェクタヘッドライトやリフレクタを備えたヘッドライトであり、水平方向に発光領域を形成する配光特性を有する照射光を観測対象物Pに向けて照射する。そして、観測対象物Pに照射光を照射することにより、該観測対象物P上に、照射領域と非照射領域との輝度境界を鮮明に映し出すことができる。また、該投光部11の発光源として、可視光、赤外光、或いは紫外光の発光源を用いることができる。
【0014】
カメラ12は、CCDやCMOS等の撮像素子を備えており、車両周囲の画像を撮像し、更にこれに加えて、投光部11により照射された照射光が観測対象物Pで反射した反射光を受光する。
【0015】
投光制御部14は、投光部11より出射する照射光をPWM制御する際のパルス点灯及び消灯タイミングのトリガ信号を出力するとともに、カメラ12による撮像タイミングのトリガ信号とシャッター時間の制御信号を出力している。また、PWM制御で使用した搬送波(キャリア周波数)信号を同期検波処理部13に出力している。
【0016】
同期検波処理部13は、カメラ12にて時系列的に撮像される画像を順次記憶し、記憶した画像中の全画素(或いは、画像中に処理領域を制限した場合は、画像処理領域中の全画素)において、投光制御部14から出力される照射光に含まれる変調信号を同期検波することにより、照射光強度と同期して輝度変化する画素のみを抽出した照射光抽出画像を出力する。そして、この照射光抽出画像を上端エッジ検出部15に出力する。なお、同期検波処理部13の詳細な構成については、図2に示すブロック図を参照して後述する。
【0017】
上端エッジ検出部15は、同期検波処理部13により抽出された照射光抽出画像より、照射光の上端エッジ部の位置を検出し、その画像内の縦位置情報(図6に示す照射光の上端エッジr1の上下方向の位置情報)を出力する。
【0018】
距離算出部16は、上端エッジ検出部15より出力される上端エッジの縦位置情報に用いて、照射光上端エッジの照射方向と、カメラ12の視軸がなす角度及びレイアウトに基づき、三角測量の原理により、照射光が照射されている周囲物体までの距離を算出する。この算出の手順については、図7を参照して後述する。
【0019】
図2は、同期検波処理部13の詳細な構成を示すブロック図である。図示のように、同期検波処理部13は、画像メモリ21と、オフセット補正演算部22と、直流成分除去処理部23と、波形乗算部24、及び同期検波判定部25を備えている。
【0020】
画像メモリ21は、カメラ12で撮像される画像を、投光制御の変調周期に相当する枚数分だけ記憶する。
【0021】
オフセット補正演算部22は、画像メモリ21に記憶された画像中に撮像素子の非線形領域の輝度出力値の存在状況に応じて、該当する画素の直流オフセット成分を補正する処理を行う。また、後述する図11に示すように、画像中の輝度出力値の上端部、或いは下端部で歪みが生じた場合には、この歪みを補正する処理を行う。
【0022】
直流成分除去処理部23は、画像メモリ21に記憶された画像から、オフセット補正後の直流オフセット成分を除去する処理を行う。
【0023】
波形乗算部24は、直流成分除去処理部23で直流成分が除去された画像の画素ごとに投光制御の変調信号を乗算する。
【0024】
同期検波判定部25は、波形乗算部24で変調信号が乗算された信号の正負判定により、投光の変調信号との同期判定を行う。
【0025】
次に、同期検波処理部13における一般的な同期検波の基本原理を、図3に示す模式図、及び図4に示すタイミングチャートを参照して説明する。本実施形態に係る距離計測装置100では、投光部11より観測対象物Pに向けて照射光を照射し、該観測対象物Pで反射した反射光を検出する際に、照射した照射光を他の光と区別して検出する。この際、照射した照射光のみを頑健に検出する処理として、同期検波処理を用いている。
【0026】
本実施形態では、カメラ12により撮像された画像の全画素、或いは処理領域として設定された画像領域中の全画素について、この同期検波処理を実施し、各画素にて照射光の抽出を行う。以下、図3図4を参照して詳細に説明する。
【0027】
図3に示す送信信号S(t)(tは時間)は、図4(a)に示すように、一定の時間間隔で「1」「0」のいずれかに変化するバイナリ信号とする。この送信信号S(t)を送出する際に、該送信信号S(t)に対して十分高い周波数ωを持つ搬送波sin(ωt)を送信信号S(t)で位相変調して、BPSK(Binary Phase Shift Keying:二位相偏移変調)送信信号を生成する。具体的には、S(t)=1の場合には、切替部31を上側に切り替えて搬送波sin(ωt)をそのまま出力し、S(t)=0の場合には、切替部31を下側に切り替えて搬送波sin(ωt)を、π(180度)だけ位相をシフトした波形を出力する。
【0028】
その結果、図4(b)に示す如くの位相変調された波形(S(t)=0の場合には位相が180度シフトしている)の信号が生成され、投光部11より周囲物体である観測対象物Pに向けて照射される(図3の符号q1参照)。即ち、投光部11より送出される変調信号は、「2×(S(t)−0.5)×sin(ωt)」で示されることになる。
【0029】
一方、観測対象物Pに照射された照射光は該観測対象物Pにて反射し(図3の符号q2参照)、カメラ12にて撮像される。そして、画像に含まれる変調信号は、DC成分が除去され、更に、乗算部にて搬送波sin(ωt)が乗じられる。変調信号に対して搬送波sin(ωt)を乗算すると、下記(1)式となる。
【0030】
A×(S(t)−0.5)×sin(ωt)×sin(ωt)
= A×(S(t)−0.5)×(1−cos(2ωt))/2 …(1)
なお、Aは反射の影響を含む定数である。
(1)式より、乗算部の出力信号は、周波数の和(DC成分)と差(2倍の高調波成分)の信号成分が混在した信号となる。即ち、図4(c)に示すように、周波数が2倍となり、且つ、S(t)=1のときにプラス側に振幅し、S(t)=0のときにマイナス側に振幅する波形が得られる。
【0031】
その後、LPF(低域通過フィルタ)を用いて高周数成分を除去することにより平滑化され、更に、正負判定することにより、図4(d)に示すように、復号信号として、送信されたバイナリ信号S(t)を取り出すことができる。なお、上記では、検波信号としてBPSK送信信号を用いる例について説明したが、これ以外の振幅変調、位相変調、周波数変調、或いはこれらの組み合わせを用いることも可能である。
【0032】
そして、図2に示す同期検波処理部13は、図3図4に示した原理に基づき、カメラ12で撮像された画像を画像メモリ21に記憶し、オフセット補正演算部22にて、画像メモリ21に記憶された画像中にカメラ12の非線形領域の輝度出力値の存在状況に応じて、該当する画素の直流オフセット成分を補正する処理を行い、且つ、輝度出力値の歪みを補正する処理を行う。
【0033】
更に、直流成分除去処理部23にて、画像メモリ21に記憶された画像から、オフセット補正後の直流オフセット成分を除去する処理を行う。その後、波形乗算部24にて、直直流成分が除去された画像の画素ごとに投光制御の変調信号を乗算する。更に、同期検波判定部25にて、変調信号が乗算された信号の正負判定により、投光の変調信号との同期判定を行う。
【0034】
次に、投光部11より投光される照射光(水平方向に発光領域を有する光)の投光パターンについて説明する。上述したように、車両に搭載される投光部11は、投光領域の上端部に明暗が鮮明な水平パターンを有する照射光を照射する。以下、この配光パターンについて、図5図6を参照して説明する。図5は、車両Qに搭載される投光部11より、観測対象物Pに向けて照射光を照射する様子を示す説明図であり、図6は、照射光を観測対象物Pに照射した際の、カメラ12により撮像された画像を示す図である。
【0035】
車両Qの姿勢が変化することや、観測対象物Pが移動することにより、車両Qと観測対象物Pとの間の相対的な位置関係に変化が生じる場合であっても、安定的に領域光を抽出するためには、検波に必要な時系列的な画像フレームにおいて、照射光が観測対象物P上の同一箇所に連続して観測される必要がある。
【0036】
現実的には、車両及び観測対象物Pの動きに制約を設けることはできないので、車両Q及び観測対象物Pが任意の動きをした場合でも、安定した照射光抽出を実現するために十分な照射光の抽出領域を設定する必要がある。そこで、本実施形態では、図6に示すように、水平方向に広がる(水平方向に長い)発光領域を有する照射光を用いている。
【0037】
次に、領域光の上端エッジを用いて、観測対象物Pまでの距離を計測する原理について、図7に示す模式図を参照して説明する。図7に示すように、投光部11より照射される領域光の広がり方向(横方向)とは垂直な方向(縦方向)にオフセットした位置に、カメラ12が配置される。投光部11から投光される領域光が観測対象物Pに照射され、カメラ12では、観測対象物Pの表面で反射した領域光を撮像する。ここで、投光部11の領域光上端部の照射角度(図7の例では0度)、投光部11とカメラ12との距離(高低差)Dy、カメラ12の俯角αに基づき、観測対象物Pまでの距離Zに応じて、領域光の上端部が観測される上下方位βが変化する。従って、カメラ12で観測される照射領域上端の上下位置yを用いて、三角測量の原理により観測対象物Pまでの距離Zを算出することができる。
【0038】
次に、強度変調された照射光を用いた距離計測において、非検出誤差を生じる理由について、図8図10を参照して説明する。
【0039】
図8は、撮像素子の輝度感度特性を示す図であり、カメラ12の撮像素子に入射する光強度(横軸)と、輝度出力値(縦軸)との関係を示している。観測対象物Pには、投光部11より照射される照射光以外に、太陽光等の背景光が照射されており、この背景光の直流成分強度に応じて、カメラ12で撮像される画像の入射光強度が変化する。
【0040】
そして、この背景光の直流成分が大きい場合(背景光N1の場合)で、この背景光に対して、強度変調された照射光の反射光(A1)が重畳した場合には、入射光強度(カメラ12で撮像される画像の輝度)は大きくなるので、カメラ12に搭載される撮像素子の非線形領域P1での検出となり、該カメラ12にて検出される輝度出力値は、波形(B1)のような上端部に歪みが生じる信号波形となる。
【0041】
一方、背景光の直流成分が小さい場合(背景光N2の場合)で、この背景光に対して、強度変調された照射光の反射光(A2)が重畳した場合には、入射光強度は小さくなるので、撮像素子の非線形領域P2での検出となり、上記と同様にカメラ12にて検出される輝度出力値は、波形(B2)のような下端部に歪みが生じる信号波形となる。
【0042】
図9は、上端部が歪んだ信号が観測される画素の時系列的な輝度変化を示す特性図である。図9に示す領域Cは、カメラ12の非線形特性により飽和検出されたサンプル点群を示している。この受信波形が歪んだ状態では直流オフセット成分(=A/2;上記(1)式参照)を正確に得ることができず、同期検波演算を実施すると、前述した(1)式の演算後の正負判定によるバイナリ信号S(t)の復元に誤りを生じてしまうことになる。即ち、図8に示す非線形領域P1,P2が存在することにより、カメラ12で撮像される入射光の強度に対して、輝度出力値に歪みが生じるので(図9の領域Cが存在するので)、正確な同期検波処理ができなくなってしまう。
【0043】
また、図10は、下端部が歪んだ信号が観測される画素の時系列的な輝度変化を示す特性図であり、やはり領域Cが飽和検出されている。そして、上述した図9と同様に、この領域Cにより、正確な同期検波処理ができなくなってしまう。
【0044】
本実施形態では、下記の手法によりカメラ12の撮像素子の非線形領域P1,P2での信号歪みを補正することにより、高精度な同期検波処理を実行して距離計測の精度を向上させる。
【0045】
以下、上記の非線形領域での信号歪みを補正する方法について説明する。本実施形態では、カメラ12で検出される強度変調信号に含まれるサンプル点群に、非線形領域の出力値が観測された場合で、そのサンプル点数が変調周期内のサンプル点数の半分以下である場合に、カメラ12の撮像素子の線形領域で検出されているサンプル点群(図9の領域Dで検出されるサンプル点群)を用いて、図9の領域C内のサンプル点の輝度出力値に不足しているオーバーシュート量を演算して、各サンプル点の輝度出力値を補正する。そして、補正により取得される補正波形と搬送波とを用いて同期検波処理を実施することにより、非検出となることなく(同期検波不能となることなく)、同期検波処理を継続して実行できるようになる。
【0046】
以下、図11を参照してサンプル点の輝度出力値を補正する処理について説明する。図11に示すように、変調信号をG1、輝度出力をG2とし、変調信号の出力値(BPSK信号の振幅値)b1,b2,b3に対する輝度出力値をそれぞれa1,a2,a3とする。また、a1,a2は、線形領域内での輝度出力値であり、a3は、非線形領域での輝度出力値であり、輝度出力の補正値(オーバーシュート分)をΔaとする。すると、次の(2)式が成立する。
【0047】
(a2−a1)/(b2−b1)={(a3+Δa)−a2}/(b3−b2)
…(2)
そして、(2)式を変形すると、次の(3)式が得られる。
【0048】
(a3+Δa)={(a2−a1)・(b3−b2)/(b2−b1)}+a2
…(3)
従って、「a3+Δa」は、上記(3)式で求めることができ、(3)式により、撮像素子の非線形領域で検出された輝度出力値を補正することができる。即ち、図8の符号B1,B2に示した輝度出力値を、歪みのない波形に補正することができる。この処理は、図2に示したオフセット補正演算部22により演算される。
【0049】
なお、上記では、上端部が歪んだ波形を補正する例(図9の場合)について説明したが、下端部が歪んだ場合(図10の場合)についても同様に補正することが可能である。
【0050】
次に、本実施形態に係る距離計測装置の処理手順を、図12図13に示すフローチャートを参照して説明する。
【0051】
初めに、ステップS1において、カメラ12から画像を取得して画像メモリ21(図2参照)に保存する。ステップS2において、同期検波に必要なフレーム数の画像が画像メモリ21に保存されているか否かを判定し、同期検波に必要な画像数が保存されてなければ、ステップS1に処理を戻し、同期検波に必要な画像数が保存されていれば、ステップS3に移行する。
【0052】
ステップS3において、後述する同期検波処理を実行する。その後、ステップS4に移行する。ステップS4において、同期検出された領域の上端エッジを抽出し、ステップS5に移行する。
【0053】
ステップS5において、ステップS4の処理で検出された上端エッジのデータに基づき、三角測量による距離計測処理を行う。即ち、図7に示した手法に基づいて、観測対象物Pまでの距離を計測する。その後、ステップS6に移行する。
【0054】
ステップS6において、ステップS5の処理で求められた距離値を下位のシステムに出力する。その後、本処理を終了する。こうして、カメラ12の取り付け位置から、観測対象物Pまでの距離を計測することができる。
【0055】
次に、ステップS3に示した同期検波処理の手順について、図13に示すフローチャートを参照して説明する。
【0056】
初めに、ステップS11において同期検波処理を開始し、ステップS12において、画像メモリ21に記憶されている画像から、同期検波に必要な枚数の時系列画像データを取得する。その後、ステップS13に移行する。
【0057】
ステップS13において、画素単位で時系列データ中に撮像素子の非線形領域に相当する輝度出力値が存在するか否かを判定し、存在すると判定された場合はステップS14に移行し、存在しないと判定された場合にはステップS16に移行する。
【0058】
ステップS14において、非線形領域に相当する輝度出力が変調周期内の半数以下(50%以下)であるか否か判定する。具体的には、図9の領域Cに示したサンプル点の個数が全体(1周期分)のサンプル点の個数の半数以下であるか否かを判定する。そして、半数以下と判定された場合には(ステップS14でYES)、ステップS15において、線形領域の輝度出力値に基づいて振幅を補正する。具体的には、図11に示した手法を用いてオーバーシュート分であるΔaを算出して、輝度出力値の振幅を補正する。その後、ステップS16に移行する。
【0059】
ステップS16において、画素単位での平均処理を行い、各画素の平均値を各時系列データから除算することでDCオフセット成分を除去する。その後、ステップS17に移行する。ステップS17において、オフセット調整された時系列データと搬送波とを乗算する。その後、ステップS18に移行する。
【0060】
ステップS18において、乗算後の結果の正負判定結果と送信信号S(t)とが同期しているか否かを判定し、同期していればステップS19に移行して、画素を同期色(例として、白色:8bit階調の場合は「255」)で上書きする。一方、同期していなければステップS20に移行し、画素を非同期色(例として、黒色:8bit階調の場合は「0」)で上書きする。その後、ステップS22に移行する。
【0061】
また、ステップS14の処理で非線形領域の輝度出力数が全体の半数よりも大きいと判定された場合には、ステップS21において、同期判定不可と色付け(例として、灰色:8bit階調の場合は「127」)して出力する。即ち、非線形領域の輝度出力数が全体の半数よりも大きい場合には、線形領域のデータを用いた補正が困難であるので、この場合には同期検波ができないものと判断する。その後、ステップS22に移行する。
【0062】
ステップS22において、全画素で判定が終了したか否かを判定し、終了していなければステップS12に処理を戻し、終了していない画素について同期検波判断を実行する。一方、全画素の判定が終了していれば、ステップS23に移行して同期検波画像を出力する。その後、本処理を終了する。
【0063】
次に、カメラ12の視軸が、上端エッジが照射される方向に対して所定の俯角を有するように設定することにより、分解能を向上させることができることについて説明する。
【0064】
1個のカメラ12で広域を観測するためには、通常、広角レンズが用いられる。一般的な広角レンズは、射影方式として等距離射影レンズ(いわゆる、fθレンズ)を採用しており、周辺視野では中心視野に比べて分解能が劣る。このような広角レンズとの組み合わせにおいては、カメラ視軸に俯角(或いは仰角)を持たせ、分解能が高い領域を監視したい領域に向けて適切に設定することが肝要となる。
【0065】
以下、fθレンズとの組み合せにおいて、簡単のために、照射光の上端エッジが路面に対して水平である場合を仮定し、カメラ視軸の俯角がある場合に、被観測対象までの距離計測値の分解能が向上することを、図14図15を参照して説明する。カメラ視軸に俯角が無い場合を図14に示し、俯角が有る場合を図15に示す。
【0066】
図14図15で、視軸方向の画素位置をy(j)とし、y(j)の下に隣接する画素位置をy(j+1)とする。このとき、図14に示すように、俯角(仰角)が0度の場合において、画素位置y(j)とy(j+1)で決定される1画素の角度分解能は、実空間距離での距離分解能dD(0)であるとする。一方、図15に示すように、俯角(仰角)がα度の場合において、画素位置y(j)とy(j+1)で決定される1画素の角度分解能は、実空間距離での距離分解能dD(α)であるとする。この場合、dD(α)<dD(0)が成立するので、カメラ視軸に俯角(仰角)を持たせた場合、1画素の角度分解能に対する実空間分解能が高くなる。即ち、俯角αを設けることにより、上端エッジを抽出する際の実空間分解能を高くすることが可能となる。
【0067】
このように、投光部11により投光される領域光の上端エッジは、カメラ12に対して横方向に領域が形成され、カメラ12は上端エッジ照射方向に対して鉛直な方向にオフセットして配置されると共に、上端エッジ照射方向と視軸が所定角度をなすようにすれば、一般的な広角レンズ(魚眼レンズ)を使用した際においても、三角測量の原理に基づき距離計測する際の計測精度が向上する。
【0068】
このようにして、本実施形態に係る距離計測装置では、投光部11から検出対象領域(観測対象物Pを含む領域)に向けて、所定の変調周波数で強度変調した照射光を照射し、更に、検出対象領域で反射した反射光をカメラ12にて撮像し、撮像した画像を時系列的に画像メモリ21に記憶保存する。そして、時系列的に撮像された画像データに基づいて同期検波処理を行い、照射光に同期した画素の輝度情報を抽出する。この際、カメラ12に搭載される撮像素子の、非線形領域で検出された輝度信号は波形に歪みが発生する場合がある。
【0069】
即ち、照射光の変調周期内に、カメラ12の撮像素子から出力される撮像信号の上端部(上部ピーク値)、或いは下端部(下部ピーク値)が撮像素子の輝度感度特性の線形領域の上端部以上(図8の領域P1)、或いは下端部以下(図8の領域P2)となる場合があり、このような場合には輝度信号の波形に歪みが生じてしまい、同期検波の精度が低下する。本実施形態では、線形領域部分の輝度変化を用いて非線形領域の輝度情報を補正することにより、カメラ12による撮像信号の一部に歪みが発生した状況においても、同期検波処理において高精度な同期検出を行うことができ、安定した距離計測、及び形状計測を行うことが可能となる。
【0070】
また、非線形領域の観測時間が照射光の変調周期の半分以下である場合(換言すれば、線形領域の観測時間が照射光の変調周期の半分以上である場合)に、非線形領域の出力値の補正を実施するので、同期判定において誤判定を発生することなく安定した照射光抽出を実施することができる。また、非線形領域の観測時間が照射光の変調周期の半分以下でない場合には、判定を行わず、図13のステップS21に示したように、判定不可色で表示するので、判定不可である領域を利用者に対して確実に認識させることができる。
【0071】
また、投光部11により照射される照射光の上端エッジは、カメラ12に対して横方向に領域が形成され、カメラ12は上端エッジ照射方向に対して鉛直な方向にオフセットして配置されると共に、上端エッジ照射方向とカメラ12の視軸が所定角度をなすので、一般的な広角レンズ(魚眼レンズ)を使用した際においても、三角測量の原理に基づき距離計測する際の計測精度が向上する。
【0072】
更に、投光部11に具備される発光源が、赤外光、或いは紫外光を発するようにすれば、カメラ12に特定スペクトルの光を高効率で透過するフィルタを設けることにより、照射光をより頑健に検出することが可能となる。
【0073】
また、投光部11、及び同期検波処理部13で用いる同期信号として、振幅変調や位相変調、周波数変調を用いることも可能であり、更に、振幅変調と位相変調の組み合わせであるBPSKなどを用いることで、頑健性を向上させることが可能である。
【0074】
次に、上述した実施形態の変形例について説明する。簡易的な方法として、観測される輝度出力値の平均処理により得られる直流オフセット成分(=A/2)を、輝度出力値内に存在する非線形領域の出力値の割合に応じて、オフセット量の補正をすることでも、同様の効果を得ることができる。
【0075】
例えば、変調周期中のN[%]に高輝度域での非線形領域の出力値が存在すると検出された場合には、N/2[%]だけ増加したオフセット量(=(1+N/200)×A/2)に補正することで、同期検波処理において誤りを生じることなく、安定した距離計測を実施することができる。ここで、N[%]は50%以下の状態で補正を実施することで、誤同期を防ぐことができる。
【0076】
以上、本発明の距離計測装置を図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置き換えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、撮像素子の非線形領域での輝度出力値を補正して高精度な距離計測に利用することができる。
【符号の説明】
【0078】
11 投光部
12 カメラ
13 同期検波処理部
14 投光制御部
15 上端エッジ検出部
16 距離算出部
21 画像メモリ
22 オフセット補正演算部
23 直流成分除去処理部
24 波形乗算部
25 同期検波判定部
31 切替部
100 距離計測装置
P 観測対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図6