(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本件発明者らは、燃料電池の冷温始動するシステムを開発中である。しかしながら、特許文献1の手法では、リザーバータンクの冷却水がラジエーターを流れて、冷温始動を阻害するおそれがあることが知見された。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目してなされた。本発明の目的は、冷温始動性に優れる燃料電池冷却水システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のような解決手段によって前記課題を解決する。
【0007】
本発明による燃料電池冷却水システムのひとつの態様は、燃料電池スタックと、冷却水の熱を放熱するラジエーターと、前記燃料電池スタック及び前記ラジエーターを結び、冷却水が流れる冷却水流路と、前記ラジエーターよりも上流の冷却水流路及び下流の冷却水流路に接合され、ラジエーターをバイパスするように冷却水が流れるバイパス流路と、前記冷却水流路と前記バイパス流路との接合場所に設けられ、バイパス流路を流れる冷却水の流量を調整する流量調整弁と、前記ラジエーターの内圧が高くなったときに冷却水の一部がリザーバータンクに逃げるように開弁するとともに、前記ラジエーターの内圧が低くなったときにリザーバータンクの冷却水の一部が戻るように開弁するラジエーターキャップと、前記冷却水流路に設けられ、冷却水を吐出する冷却水ポンプと、を含む。そして、前記燃料電池スタックと前記バイパス流路との間であって冷却水ポンプよりも上流の冷却水流路に設けられ、冷却水ポンプの吸入圧力とリザーバータンクの圧力との差圧に応じて開弁して、リザーバータンクの冷却水の一部を冷却水流路に流す差圧弁を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この態様によれば、リザーバータンクの冷却水がラジエーターを流れることなく、燃料電池スタックに供給されるので、冷温始動性に優れた燃料電池冷却水システムを提供できる。
【0009】
本発明の実施形態、本発明の利点については、添付された図面を参照しながら以下に詳細に説明する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
図1は、本発明による燃料電池冷却水システムの第1実施形態を示す図である。
【0012】
燃料電池冷却水システム1は、燃料電池スタック10と、ラジエーター20と、冷却水流路30と、バイパス流路40と、流量調整弁50と、冷却水ポンプ60と、リザーバータンク70と、ラジエーターキャップ80と、差圧弁90と、リザーバー流路100と、差圧流路110と、ヒーターコア流路120と、ヒーターコア130と、ヒーター140と、を含む。
【0013】
燃料電池スタック10は、電解質膜の両面にカソード電極触媒層及びアノード電極触媒層が形成された膜電極接合体(Membrane Electrode Assembly;MEA)が数百枚積層されて構成される。反応ガス(カソードガスO
2、アノードガスH
2)が供給されると、各膜電極接合体(MEA)は、カソード電極触媒層及びアノード電極触媒層において次式(1-1)(1-2)の反応が生じて発電する。
【0015】
このような発電反応が効率的に行われるには、電解質膜が適度な湿潤状態に維持されていることが望ましい。電解質膜の湿潤状態は、燃料電池の温度と相関する。燃料電池の温度が高いと電解質膜の湿潤状態が下がって乾燥しやすくなる。燃料電池の温度が低いと電解質膜の湿潤状態が上がって湿潤しやすくなる。そこで燃料電池の温度を管理することが重要である。そこで、燃料電池スタック10には、冷却水流路30が接続される。
【0016】
ラジエーター20は、冷却水の熱を放熱する。
【0017】
冷却水流路30は、冷却水が循環して流れるように、燃料電池スタック10とラジエーター20とを結ぶ。通常運転時は、冷却水は、図中の実線矢印方向に流れて循環する。循環する冷却水は、燃料電池スタック10の入口11から流入し、出口12から流出する。なお以下の上流及び下流という表現は、この冷却水の流れ方向に基づく。
【0018】
バイパス流路40は、ラジエーター20よりも上流の冷却水流路30とラジエーター20よりも下流の冷却水流路30とを結ぶ。冷却水は、バイパス流路40を流れると、ラジエーター20をバイパスする。
【0019】
流量調整弁50は、冷却水流路30とバイパス流路40とが交わる場所に設けられる。本実施形態では、流量調整弁50は、冷却水流路30を流れた冷却水とバイパス流路40を流れた冷却水とが合流する合流部分に設けられる。流量調整弁50は、冷却水流路30から流れてきた冷却水の流量とバイパス流路40から流れてきた冷却水の流量とを調整することで、冷却水を所定温度にして流出させる。流量調整弁50は、冷却水の水温によって、冷却水流路30の流量とバイパス流路40の流量との割合を調整するサーモスタット弁である。
【0020】
冷却水ポンプ60は、冷却水を吐出する。本実施形態では、冷却水ポンプ60は、流量調整弁50よりも下流であって燃料電池スタック10よりも上流の冷却水流路30に設けられる。冷却水ポンプ60は、たとえば電動モーターによって駆動される。冷却水の流量は、冷却水ポンプ60の回転速度によって調整される。冷却水ポンプ60の回転速度が大であるほど、冷却水の流量も大である。
【0021】
ラジエーターキャップ80は、ラジエーター20とバイパス流路40との間の冷却水流路30に設けられる。ラジエーターキャップ80は、ラジエーター20に設けられてもよい。ラジエーターキャップ80は、リザーバー流路100を介してリザーバータンク70に接続される。ラジエーターキャップ80は、通常は、閉弁しており、ラジエーター20を加圧する。そして、ラジエーターキャップ80は、ラジエーター20の内圧が高くなったときに冷却水の一部がリザーバータンク70に逃げるように開弁する。またラジエーターキャップ80は、ラジエーター20の内圧が低くなったときにリザーバータンク70の冷却水の一部が戻るように開弁する。
【0022】
差圧弁90は、燃料電池スタック10とバイパス流路40との間であって冷却水ポンプ60よりも上流の冷却水流路30に設けられる。本実施形態では、差圧弁90は、流量調整弁50よりも下流であって冷却水ポンプ60よりも上流の冷却水流路30に設けられる。差圧弁90は、差圧流路110を介してリザーバータンク70に接続される。差圧弁90は、冷却水ポンプ60の吸入圧力(吸入負圧)とリザーバータンク70の圧力との差圧に応じて開弁して、リザーバータンク70の冷却水の一部を冷却水流路30に流す。なおこのような差圧弁90としては、ラジエーターキャップを用いてもよい。ラジエーターキャップも圧力差が小さければ閉弁し、圧力差が大きければ開弁するからである。
【0023】
ヒーターコア流路120は、バイパス流路40から分岐する。
【0024】
ヒーターコア130は、エアコンディショナーを構成する部品である。ヒーターコア130は、ヒーターコア流路120に設けられる。ヒーターコア130は、多数のチューブと、チューブに接合されるフィンとを備える。チューブには、ヒーターコア流路120から流入した冷却水が流れる。またフィンの間には、空気が流れる。このような構成になっているので、フィンの間を流れた空気が加温されて温風になる。このような加温効率が良くなるように、容積に対して表面積が大きいことが望ましい。そのため、チューブは、ヒーターコア流路120よりも径が小さい。そしてこのような小径のチューブが多数設けられる。また放熱性向上のため、このようなチューブを蛇行させて流路長が長くなるように設けられることもある。
【0025】
ヒーター140は、ヒーターコア流路120の分岐場所よりも上流のバイパス流路40に設けられる。ヒーター140は、冷却水を加熱する。すなわち、燃料電池スタック10を冷温始動するときに、ヒーター140が冷却水を加温する。このようにすれば、冷却水が早期に適温に達する。またヒーターコア130の加温能力が不足するときに、ヒーター140が冷却水を加温する。このようにすれば、エアコンディショナーから適温の温風が送られる。
【0026】
図2は流量調整弁から冷却水ポンプまでの具体的な構成を示す斜視図であり、
図2(A)は正面図、
図2(B)は背面図である。
【0027】
冷却水ポンプ60の上流側(吸入側)の冷却水流路30(31)は、弾性材料で形成される。たとえばゴム配管である。また差圧弁90が取り付けられる冷却水流路30(32)は、ゴム配管31よりも高剛性である。たとえば金属製である。このように、ゴム配管31の長さは必要最低限に限定される。このようにゴム配管31が設けられるので、冷却水ポンプ60の振動が他部品に伝わらない。またゴム配管31の長さは必要最低限に限定される。ゴム配管31が長いと、冷却水ポンプの吸入負圧が作用したときに、ゴム配管31の変形容積が大きくなる。冷却水ポンプの流量は、圧力センサー150の信号で推定しているが、ゴム配管31が変形すれば、流量を正確には推定できなくなる。しかしながら、本実施形態のように、ゴム配管31の長さが必要最低限に限定されることで、このような事態を抑制でき、流量を正確に推定しやすくなる。
【0028】
また本実施形態では、流量調整弁50及び差圧弁90がひとつの金属ハウジング32に一体形成される。そのため製造コストが安価である。
【0029】
さらに本実施形態では、圧力センサー150は、差圧弁90よりも下流であって冷却水ポンプ60の上流に設けられる。このため、圧力センサー150による冷却水ポンプ流量の推定精度の悪化が防止される。
【0030】
図6は、比較形態を説明する図である。
【0031】
ここで本発明の理解を容易にするために、
図6の比較形態について説明する。なお以下では前述と同様の機能を果たす部分には同一の符号を付して重複する説明を適宜省略する。
【0032】
この比較形態では、本発明に存在する差圧弁90及び差圧流路110が無い。この比較形態では、通常運転時は、冷却水は、図中の実線矢印方向に流れて循環する。そして、ラジエーター20の内圧が高くなったらラジエーターキャップ80が開いて、冷却水の一部をリザーバータンク70に逃がす。またラジエーター20の内圧が低くなったときも、またラジエーターキャップ80が開く。これによって、リザーバータンク70の冷却水の一部が戻される。
【0033】
冷温始動するときに、ヒーター140が冷却水を加熱した状態で、冷却水ポンプ60が作動する。流量調整弁50は、上述の通り、冷却水の水温によって、冷却水流路30の流量とバイパス流路40の流量との割合を調整する。冷温始動時は、流量調整弁50は、ラジエーター側の流路を閉じ、バイパス流路側のみ開けて、水温を早期に暖める。
【0034】
ところで、冷温始動時は、流量調整弁50が、ラジエーター側の流路を閉じた状態になる。このとき、比較形態の構成で、冷却水ポンプ60が作動すると、ラジエーターキャップ80が開いて、点線矢印のように、リザーバータンク70の冷却水が冷却水流路30を逆流するおそれがある。特に冷温始動時は、冷却水の温度が低く、粘性が高くなっているので、このような事態に陥りやすい。このようになると、冷却水は、ラジエーター20でさらに冷やされた後にヒーター140に流入し、実線矢印のように流れる。したがって、ヒーター140の加熱効果が阻害され、燃料電池スタックの暖機に時間を要する。またヒーターコア温度も下がるので、車室内の暖房性能も低下してしまう。
【0035】
これに対して、本実施形態によれば、冷温始動時に冷却水ポンプ60が作動すると、差圧弁90が開いて、点線矢印のように、リザーバータンク70の冷却水が冷却水流路30に流れることとなる。このようになると、冷却水は、ラジエーター20を通らずに流れるので、ヒーター140の加熱効果が阻害されず、燃料電池スタックの早期暖機が実現される。また車室内の暖房性能の低下を防止できる。
【0036】
なお差圧弁90は、冷却水ポンプ60の直上流の冷却水流路30に設けられる。ここは、冷却水ポンプ60の吸入負圧が最も作用するので、リザーバータンク70から冷却水が流れやすい。たとえばラジエーターキャップ80を流用して差圧弁として用いても、ラジエーターキャップ80よりも早期に開弁し、リザーバータンク70の冷却水が冷却水ポンプ60に流れ易くなる。さらに、差圧弁90が、ラジエーターキャップ80よりも小さな圧力で開弁するタイプであれば、リザーバータンク70の冷却水がラジエーター20や冷却水流路30を逆流することを一層防止しやすくなる。
【0037】
また本実施形態では、上述のように、冷却水ポンプ60の上流側(吸入側)の冷却水流路30(31)は、冷却水ポンプ60の振動が他部品に伝わらないように弾性材料(たとえばゴム)が用いられる。比較形態のような構成でゴム配管を用いると、冷却水ポンプ60の吸入負圧の影響によって、ゴム配管が大きく変形する可能性がある。これに対して、本実施形態の構成であれば、リザーバータンク70からの冷却水を差圧弁90を介して流すので、冷却水ポンプ60の吸入負圧の影響を緩和でき、ゴム配管を用いても、ゴム配管の変形を抑制できる。
【0038】
また流量調整弁50は、サーモスタット弁である。サーモスタット弁は、温度によって変形するワックスの伸縮力とバネ力とのバランスで開閉する。比較形態のような構成では、冷却水ポンプ60の吸入負圧の影響を受けないように、バネ力を大きくしておく必要がある。このようにすると、サーモスタット弁の応答性が遅くなる。これに対して、本実施形態の構成であれば、リザーバータンク70からの冷却水を差圧弁90を介して流すので、冷却水ポンプ60の吸入負圧の影響を緩和でき、サーモスタット弁のバネ力を無用に大きくする必要がない。したがってサーモスタット弁の応答性を悪化させない。
【0039】
(第2実施形態)
図3は、本発明による燃料電池冷却水システムの第2実施形態を示す図である。
【0040】
本実施形態では、燃料電池のアノードオフガスをパージするパージ弁や、カソード圧力を調整する調圧弁を暖機するためのウォータージャケット170をさらに含む。このウォータージャケット170は、ウォータージャケット流路180に設けられる。ウォータージャケット流路180は、冷却水ポンプ60よりも下流であって燃料電池スタック10よりも上流の冷却水流路30から分岐し、流量調整弁50よりも下流であって差圧弁90よりも上流の冷却水流路30に合流する。なお冷却水ポンプ60の上流には、冷却水ポンプ60の吸入圧(吸入負圧)を検出する圧力センサー150が設けられる。冷却水ポンプ60の下流には、冷却水ポンプ60の吐出圧を検出する圧力センサー160が設けられる。
【0041】
このように構成されているので、冷温始動時に冷却水ポンプ60が作動すると、差圧弁90が開いて、点線矢印のように、リザーバータンク70の冷却水が冷却水流路30に流れる。このようになると、ラジエーター20を通らない冷却水が、ウォータージャケット170に流れるので、パージ弁や調圧弁の暖機が阻害されない。また、特に、冷却水の粘性が高くなって冷却水ポンプ60による吸入負圧が高くなるような運転シーンにおいても、ウォータージャケット流路180から冷却水が流れるので、冷却水ポンプ60の上流にゴム配管が用いられていても、冷却水ポンプ60の吸入負圧の影響を緩和でき、ゴム配管の変形を抑制できる。したがって、圧力センサー150の検出精度が阻害されない。
【0042】
またウォータージャケット流路180から冷却水が流れるので、冷却水ポンプ60の吸入負圧の影響を緩和でき、サーモスタット弁のバネ力を無用に大きくする必要がない。したがってサーモスタット弁の応答性を悪化させない。
【0043】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0044】
たとえば、第1実施形態では、流量調整弁50は、冷却水流路30とバイパス流路40との合流部分に設けられていた。またラジエーターキャップ80は、ラジエーター20よりも下流の冷却水流路30に設けられていた。これに対して、
図4に示されるように、流量調整弁50が、冷却水流路30とバイパス流路40との分岐部分に設けられるとともに、ラジエーターキャップ80が、ラジエーター20よりも上流の冷却水流路30に設けられてもよい。このような構成であっても、冷温始動時に、ラジエーター20でさらに冷やされた冷却水がヒーター140に流入する事態が回避される。
【0045】
また
図4の冷却水ポンプ60及び差圧弁90を、
図5のように、燃料電池スタック10の下流に配置してもよい。このような構成であっても、冷温始動時に、ラジエーター20でさらに冷やされた冷却水がヒーター140に流入する事態が回避される。
【0046】
なお上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。