(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019710
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】既存建物の耐震補強構造及び方法
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
E04G23/02 D
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-100097(P2012-100097)
(22)【出願日】2012年4月25日
(65)【公開番号】特開2013-227775(P2013-227775A)
(43)【公開日】2013年11月7日
【審査請求日】2015年3月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】三浦 憲
(72)【発明者】
【氏名】奥田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 達彦
(72)【発明者】
【氏名】西影 武知
(72)【発明者】
【氏名】宮脇 正尚
(72)【発明者】
【氏名】岡田 明弘
(72)【発明者】
【氏名】長屋 初吉
(72)【発明者】
【氏名】土屋 謙治
(72)【発明者】
【氏名】本木 君彦
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−196270(JP,A)
【文献】
特開2007−162354(JP,A)
【文献】
特開平10−238132(JP,A)
【文献】
特開2009−209585(JP,A)
【文献】
特開2003−206636(JP,A)
【文献】
特開平09−235892(JP,A)
【文献】
特開2005−155137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数階建ての既存建物の外側に、前記既存建物の戸境または柱に対応してそれぞれ配された複数の鉄骨柱と、該鉄骨柱間に架設された部材とを備える耐震架構が設置されて、該耐震架構が前記既存建物に連結されることにより、前記既存建物に耐震補強が施された既存建物の耐震補強構造であって、
前記耐震架構は、各階の高さ方向の一部が、鉛直面内に配された、前記鉄骨柱間に架設された部材としての面状の補強材又は筋かいにより補強された補強部であり、
前記耐震架構に水平力が作用した際に、前記鉄骨柱のせん断変形は各階における前記補強部よりも上側の範囲に集中するように構成され、
前記鉄骨梁各階の高さ方向の前記補強部を除く残部が、開口であることを特徴とする既存建物の耐震補強構造。
【請求項2】
前記既存建物にはバルコニー又は外廊下が設けられており、
前記補強部は、前記バルコニー又は前記外廊下に面して配され、
前記開口は、上下階の前記バルコニー又は前記外廊下の間に配されていることを特徴とする請求項1に記載の既存建物の耐震補強構造。
【請求項3】
前記補強部を前記バルコニー又は前記外廊下及び前記既存建物に、前記既存建物のスラブや梁に荷重を伝達できるように連結する連結部を備えていることを特徴とする請求項2に記載の既存建物の耐震補強構造。
【請求項4】
複数階建ての既存建物の外側に、前記既存建物の戸境または柱に対応してそれぞれ配された複数の鉄骨柱と該鉄骨柱間に架設された部材とを備える耐震架構を設置して、該耐震架構を前記既存建物に連結することにより、前記既存建物に耐震補強を施す既存建物の耐震補強方法であって、
前記耐震架構の各階の高さ方向の一部を、鉛直面内に配された、前記鉄骨柱間の部材としての面状の補強材又は筋かいにより補強して、前記耐震架構に水平力が作用した際に、前記鉄骨柱のせん断変形は各階における前記補強部よりも上側の範囲に集中するようにし、
前記耐震架構の各階の高さ方向の前記一部を除く残部を、開口とすることを特徴とする既存建物の耐震補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の耐震補強構造及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物の耐震補強工法として、既存建物の外側に耐震架構を設置して既存建物に連結する外付耐震補強工法が知られている(例えば、特許文献1〜4参照)。特許文献1〜3に記載の外付耐震補強工法では、耐震架構のブレースが既存建物の外壁に直接又は柱や梁を介して連結されている。また、特許文献4に記載の外付耐震補強工法では、格子状の耐震架構、即ち、柱梁からなる耐震架構が補強床で既存建物の外壁に連結されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−203220号公報
【特許文献2】特開平10−18639号公報
【特許文献3】特開2011−42967号公報
【特許文献4】特開2002−242449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜3に記載の外付耐震補強工法では、耐震架構をバルコニーや外部廊下のある外壁に面して設置すると、ブレースが窓の前に位置するため、建物内部からの視界が遮られたり、外観的にも意匠性が低かったりするという問題がある。また、特許文献4に記載の外付耐震補強工法では、ブレースによる補強がないため、耐震架構の変形を抑えて十分な耐震補強の効果を得るためには、柱や梁の断面を大きくしなければならないという問題がある。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、耐震架構により建物内部からの視界が遮られることを防止すると共に、意匠性の低下を抑制し、且つ、十分な耐震補強の効果を得ることを可能にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る既存建物の耐震補強構造は、複数階建ての既存建物の外側に、複数の鉄骨柱と該鉄骨柱間に架設された部材とを備える耐震架構が設置されて、該耐震架構が前記既存建物に連結されることにより、前記既存建物に耐震補強が施された既存建物の耐震補強構造であって、前記耐震架構は、各階の高さ方向の一部が、前記鉄骨柱間に架設された部材としての面状の補強材又は筋かいにより補強された補強部であり、各階の高さ方向の前記補強部を除く残部が、開口であることを特徴とする。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る既存建物の耐震補強構造は、複数階建ての既存建物の外側に、
前記既存建物の戸境または柱に対応してそれぞれ配された複数の鉄骨柱と
、該鉄骨柱間に架設された部材とを備える耐震架構が設置されて、該耐震架構が前記既存建物に連結されることにより、前記既存建物に耐震補強が施された既存建物の耐震補強構造であって、前記耐震架構は、各階の高さ方向の一部が、
鉛直面内に配された、前記鉄骨柱間に架設された部材としての面状の補強材又は筋かいにより補強された補強部であり、
前記耐震架構に水平力が作用した際に、前記鉄骨柱のせん断変形は各階における前記補強部よりも上側の範囲に集中するように構成され、前記鉄骨梁各階の高さ方向の前記補強部を除く残部が、開口であることを特徴とする。
【0008】
前記既存建物の耐震補強構造において、前記補強部を前記バルコニー又は前記外廊下及び前記既存建物に、前記既存建物のスラブや梁に荷重を伝達できるように連結する連結部を備えてもよい。
【0009】
また、本発明に係る既存建物の耐震補強方法は、複数階建ての既存建物の外側に、
前記既存建物の戸境または柱に対応してそれぞれ配された複数の鉄骨柱と該鉄骨柱間に架設された部材とを備える耐震架構を設置して、該耐震架構を前記既存建物に連結することにより、前記既存建物に耐震補強を施す既存建物の耐震補強方法であって、前記耐震架構の各階の高さ方向の一部を、
鉛直面内に配された、前記鉄骨柱間の部材としての面状の補強材又は筋かいにより補強して
、前記耐震架構に水平力が作用した際に、前記鉄骨柱のせん断変形は各階における前記補強部よりも上側の範囲に集中するようにし、前記耐震架構の各階の高さ方向の前記一部を除く残部を、開口とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐震架構により建物内部からの視界が遮られることを防止すると共に、意匠性の低下を抑制し、且つ、十分な耐震補強の効果を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態に係る既存建物の耐震架構を示す立面図である。
【
図2】(A)は、一実施形態に係る耐震架構の一部を拡大して示す立面図であり、(B)は、(A)のB−B断面図である。
【
図3】比較例に係る柱梁のみからなる耐震架構の地震時の変形を模式的に示す図である。
【
図4】本実施形態に係る耐震架構の地震時の変形を模式的に示す図である。
【
図5】他の実施形態に係る耐震架構を示す立断面図である。
【
図6】他の実施形態に係る耐震架構を示す立断面図である。
【
図7】(A)は、他の実施形態に係る耐震架構の一部を拡大して示す立面図であり、(B)は、(A)のB−B断面図である。
【
図8】他の実施形態に係る耐震架構を示す立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、一実施形態に係る既存建物1の耐震架構10を示す立面図である。この図に示すように、耐震架構10による耐震補強の対象の既存建物1は、各階の外壁にバルコニー2が設けられた集合住宅であり、耐震架構10は、バルコニー2が設けられた外壁に面して設置され、該外壁にスラブの高さにおいて連結されている。
【0013】
耐震架構10は、住戸の戸境に面して2本ずつ配された複数の鉄骨柱12と、住戸を挟んだ両側の鉄骨柱12間に各階上下一対で配された鉄骨梁14、16と、上下の鉄骨梁14、16とこれらの両側の鉄骨柱12とにより囲まれた領域に配されたFRP製のパネル18とを備えている。鉄骨柱12及び鉄骨梁14、16はH鋼である。なお、鉄骨柱12を各住戸の戸境に面して2本ずつ配することは必須ではなく、1本ずつ配してその1本の鉄骨柱12にその左右の鉄骨梁14、16及びパネル18を結合してもよい(
図8参照)。また、鉄骨柱12及び鉄骨梁14、16は、角形鋼管、円形鋼管、山形鋼、溝形鋼などでもよい。
【0014】
上側の鉄骨梁14は、バルコニー2の手摺3の上縁に沿って配され、下側の鉄骨梁16は、バルコニー2の手摺3の下縁に沿って配されており、パネル18は、手摺3に面して配されている。即ち、上下の鉄骨梁14、16及びパネル18からなる補強部11は、各住戸の手摺3に面して配されており、バルコニー開口4とは重ならないように配されている。
【0015】
パネル18は、バルコニー2の手摺3を装飾する意匠性を有するデザインパネルであり、鉄骨柱12及び鉄骨梁14、16に比して高い剪断や曲げに対する剛性を有し、耐震架構10を補強する補強パネルである。
【0016】
図2(A)は、耐震架構10の一部を拡大して示す立面図であり、
図2(B)は、
図2(A)のB−B断面図である。
図2(B)に示すように、耐震架構10は、耐震架構10を既存建物1に連結する連結部20を備えている。連結部20は、下側の鉄骨梁16に結合され、バルコニー2の下面及び既存建物1の外壁にアンカー21により固定されたブレースやPC板や複数の鉄骨梁等である。なお、連結部20は、バルコニー2の下面と既存建物1の外壁との少なくとも一方に固定されていればよい。連結部20の幅方向一端側は、下側の鉄骨梁16の両端部又は両端部及び中間部に結合され、接続部20の幅方向他端側は、既存建物1のスラブや梁の高さの位置に結合されており、既存建物1に入力された荷重を既存建物1のスラブや梁を通じて耐震架構10に伝達する。なお、耐震架構10は、地上から浮いた状態で既存建物1に支持されているが、基礎を設けて基礎に支持されるようにしてもよい。
【0017】
図3は、比較例に係る柱梁のみからなる耐震架構の地震時の変形を模式的に示す図であり、
図4は、本実施形態に係る耐震架構10の地震時の変形を模式的に示す図である。
図3に示すように、パネル18を備えずに柱と梁とのみからなる耐震架構では、地震時の水平力P
1を受けると、各階の柱の全体にせん断変形が生じる。ここで、水平力P
1と柱の最大たわみ量δとの関係は下記(1)式で表されるところ、各階の柱の長さL
1が大きくなるほど、柱がせん断力により変形し易くなり、せん断力を負担し難くなることがわかる。
【0018】
これに対して、
図4に示すように、本実施形態に係る耐震架構10では、各階の鉄骨柱12の下側の範囲が、鉄骨柱12よりもせん断力に対する剛性が高いパネル18に結合されており、せん断変形を抑えられているため、各階の鉄骨柱12のせん断変形は、パネル18よりも上側の範囲に集中する。このため、下記(2)式における長さL
2が上記(1)式における長さL
1よりも小さくなり、たわみ量δが同一の場合に水平力P
2が水平力P
1よりも大きくなることにより、鉄骨柱12がせん断力により変形し難くなり、せん断力を負担し易くなる。
【0019】
従って、本実施形態に係る耐震架構10によれば、鉄骨柱12よりもせん断力に対する剛性が高いパネル18で鉄骨柱12を補強したことにより、耐震架構10が負担できるせん断力を大きくすることができ、鉄骨柱12や鉄骨梁14、16の断面を大きくすることによらずに十分な耐震補強効果を得ることが可能になる。
【0020】
また、本実施形態に係る耐震架構10では、鉄骨柱12が住戸の戸境に配され、鉄骨梁14、16及びパネル18からなる補強部11がバルコニー2の手摺3に面して配され、上下階の補強部11の間の開口13(
図2参照)が、バルコニー開口4に面して配されている。これにより、各住戸内からの視界が耐震架構10により遮られることを防止できる。
【0021】
さらに、本実施形態に係る耐震架構10では、バルコニー2の手摺3に面して配されたパネル18が意匠性を有するデザインパネルであるため、既存建物1の意匠性を高めることができる。
【0022】
図5は、他の実施形態に係る耐震架構100を示す立断面図である。この図に示すように、本実施形態に係る耐震架構100では、パネル18の裏面とバルコニー2の手摺3の前面とにアンカー102が打設され、パネル18の裏面と手摺3の前面との間にグラウトが充填されることで、パネル18がバルコニー2と一体化されている。ここで、パネル18とバルコニー2とを一体化することで、従来は耐震要素として用いなかった手摺壁を耐震要素の一部として利用することも可能である。
【0023】
図6は、他の実施形態に係る耐震架構200を示す立面図である。この図に示すように、本実施形態に係る耐震架構200は、上述の実施形態におけるパネル18に替えてブレース218を備える。また、耐震補強の対象の既存建物201は、アウトフレーム工法により建設された集合住宅であり、建物外周の柱205がバルコニー2の前面に配されている。
【0024】
図7(A)は、耐震架構200の一部を拡大して示す立面図であり、
図7(B)は、
図7(A)のB−B断面図である。この
図7(A)、(B)に示すように、ブレース218は、バルコニー2の手摺3に面して配されており、上下の鉄骨梁14、16とその両側の鉄骨柱12に結合されている。また、耐震架構200の鉄骨柱12は、アンカー220により柱205に固定され、鉄骨梁14、16及びブレース218は、アンカー220によりバルコニー2の手摺3に固定されており、既存建物1に入力された荷重が既存建物1のスラブや梁を通じて耐震架構200に伝達される。
【0025】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、面状の補強材としてFRP製のパネル18を例に挙げたが、PC板やコンクリートブロック壁や鋼板やブレース等の他の面状の補強材も適用できる。
【0026】
また、鉄骨柱12と鉄骨梁14、16とにより構成される構面の内側にパネル18を設置して、該パネル18の上下左右を鉄骨柱12や鉄骨梁14、16に固定したが、鉄骨梁14、16を設けずにパネル18の左右を鉄骨柱12に固定するようにしてもよい。
【0027】
また、上述の実施形態では、耐震架構10、100、200を既存建物のバルコニー2側の外壁に連結する例を挙げて本発明を説明したが、既存建物の外廊下側の外壁に連結する場合にも本発明を適用できる。さらに、本発明は、バルコニーや外廊下が設けられていない既存建物に対しても適用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 既存建物、2 バルコニー、3 手摺、4 バルコニー開口、10 耐震架構、11 補強部、12 鉄骨柱、13 開口、14、16 鉄骨梁、18 パネル(面状の補強材)、20 連結部、21 アンカー、100 耐震架構、102 アンカー、200 耐震架構、201 既存建物、205 柱、218 ブレース(筋かい)、220 アンカー