(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019719
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】高強度高延性鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C21D 9/46 20060101AFI20161020BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20161020BHJP
C22C 38/06 20060101ALI20161020BHJP
C22C 38/50 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
C21D9/46 K
C22C38/00 301T
C22C38/06
!C22C38/50
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-105213(P2012-105213)
(22)【出願日】2012年5月2日
(65)【公開番号】特開2013-231227(P2013-231227A)
(43)【公開日】2013年11月14日
【審査請求日】2015年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】田中 匠
(72)【発明者】
【氏名】小島 克己
(72)【発明者】
【氏名】飛山 洋一
【審査官】
佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−072439(JP,A)
【文献】
特許第5794004(JP,B2)
【文献】
特許第5810714(JP,B2)
【文献】
特開2013−100598(JP,A)
【文献】
特開平10−237550(JP,A)
【文献】
特開昭58−217659(JP,A)
【文献】
特開2009−263788(JP,A)
【文献】
特開平04−337049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/46− 9/48
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.022%以上0.050%以下、Si:0.003%以上0.100%以下、Mn:0.10%以上0.60%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.001%以上0.020%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0130%超0.0170%以下を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる鋼を連続鋳造によりスラブとし、熱間圧延を行った後に一次冷間圧延を行い、引き続き焼鈍を行い、二次冷間圧延を行った後にA1変態点以上の熱処理を行い、二次冷間圧延後に行うA1変態点以上の熱処理に際し、A1変態点までの到達時間を2.0秒以下とし、A1変態点以上での保持時間を0.5秒以上2.0秒以下とし、二次冷間圧延の圧延率を15%超とすることによって、圧延直角方向の引張強度が520MPa以上であり、且つ、破断伸びが7%以上である鋼板を製造することを特徴とする高強度高延性鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料缶や食缶に適用して好適な高強度高延性鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料缶や食缶に用いられる鋼板のうち、蓋や底、3ピース缶の胴、絞り缶等には、DR(Double Reduce)材と呼ばれる鋼板が用いられる場合がある。焼鈍の後に再度冷間圧延を行うDR法によって製造されるDR材は、圧延率が小さい調質圧延のみによって製造されるSR(Single Reduce)材に比べて板厚を薄くすることが容易である。このため、DR材を用いることにより、製缶コストを低減することができる。一方、DR法によれば、焼鈍の後に再度冷間圧延を行うことによって加工硬化が生じるため、薄くて硬い鋼板を製造できるが、その反面、鋼板は延性に乏しいため、SR材に比べて加工性に劣る。
【0003】
3ピースで構成される飲料缶や食缶の胴材は、筒状に成形された後、蓋や底を巻き締めるために両端部にフランジ加工が施される。このため、胴材の両端部には良好な加工性(フランジ加工性)が要求される。また、製缶素材としての鋼板は板厚に応じた引張強度が必要とされ、DR材の場合、薄くすることによる経済効果を確保するために、SR材以上の引張強度が必要とされる。しかしながら、従来用いられてきた高圧延率のDR材では、フランジ加工性と引張強度とを両立することが困難であるため、飲料缶や食缶の胴材には主にSR材が用いられてきた。ところが、現在、コスト低減の観点から板厚を薄くするために、飲料缶や食材の胴材に対してもDR材を適用する要求が高まっている。
【0004】
このような背景から、特許文献1には、スラブをA
3変態点以上の仕上げ温度及び630〜690℃の範囲内の巻き取り温度で熱間圧延し、冷間圧延及び連続焼鈍後に圧延率10〜15%の範囲内でDR圧延を施すDR鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献2には、スラブを600℃以下の巻き取り温度で熱間圧延し、冷間圧延及び連続焼鈍後に圧延率6〜15%の範囲内でDR圧延を施すDR鋼板の製造方法が開示されている。また、特許文献3には、Cの含有量が0.005〜0.05%、Nの含有量が0.012%以下の連続鋳造鋼片を熱間圧延及び連続焼鈍し、5%以上15%未満の圧下率で調質圧延を行う溶接缶胴用鋼板の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4546922号公報
【特許文献2】国際公開第2008/018531号
【特許文献3】特開平10−110238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術は、いずれも問題点を抱えている。すなわち、特許文献1〜3に記載の鋼板の製造方法は、いずれもDR圧延の圧延率を小さく抑えることによって加工性を確保している。DR圧延の圧延率が小さい場合、薄い板厚の鋼板を製造するためには焼鈍までの工程で板厚を十分に薄くする必要がある。ところが、板厚が薄いと重量あたりのストリップ長さが大きくなるため、冷間圧延工程や連続焼鈍工程の効率が低下する。また、連続焼鈍工程での通板厚が薄い場合には、鋼板のバックリングが発生する恐れがあるために、ライン速度を規制する必要が生じ、さらに効率が落ちる可能性がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、高強度高延性鋼板を効率的に製造可能な高強度高延性鋼板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った。その結果、本発明の発明者らは、引張強度と延性とを両立するためには、C(炭素)の含有量を低く抑えて圧延による過度の硬化を防ぐ一方、多量のN(窒素)を添加することによって強度を確保することが有効であることを知見した。また、本発明の発明者らは、二次冷間圧延後に高温及び短時間の熱処理を施すことによって、二次冷間圧延の圧延率を大きくしても延性を確保できることを知見した。これにより、焼鈍工程の板厚を厚くすることが可能となり、高強度高延性鋼板を効率的に製造することができる。
【0009】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る高強度高延性鋼板の製造方法は、質量%で、C:0.022%以上0.050%以下、Si:0.003%以上0.100%以下、Mn:0.10%以上0.60%以下、P:0.001%以上0.100%以下、S:0.001%以上0.020%以下、Al:0.005%以上0.100%以下、N:0.0130%超0.0170%以下を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる鋼を連続鋳造によりスラブとし、熱間圧延を行った後に一次冷間圧延を行い、引き続き焼鈍を行い、二次冷間圧延を行った後にA
1変態点以上の熱処理を行うことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る高強度高延性鋼板の製造方法は、上記発明において、二次冷間圧延後に行うA
1変態点以上の熱処理に際し、A
1変態点までの到達時間を2.0秒以下とし、A
1変態点以上での保持時間を0.5秒以上2.0秒以下とすることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る高強度高延性鋼板の製造方法は、上記発明において、二次冷間圧延の圧延率を15%超とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る高強度高延性鋼板の製造方法によれば、高強度高延性鋼板を効率的に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書において、鋼の成分を示す%は、全て質量%である。また、高強度高延性鋼板とは、圧延直角方向の引張強度が520MPa以上であり、且つ、破断伸びが7%以上である鋼板のことを意味する。
【0014】
本発明に係る高強度高延性鋼板は、Cの含有量を低く抑え、多量のNを含有した鋼に対して二次冷間圧延率を適切な範囲とし、さらに熱処理を施すことによって製造される。具体的には、本発明に係る高強度高延性鋼板は、熱間圧延を行い、次いで一次冷間圧延を行い、引き続き焼鈍を行い、次いで15%超の圧延率で二次冷間圧延を行い、A
1変態点以上の熱処理を施すことによって製造される。以下、本発明に係る高強度高延性鋼板の成分組成について説明する。
【0015】
〔高強度高延性鋼板の成分組成〕
(1)C:0.022%以上0.050%以下
Cの含有量が0.050%を超えると、二次冷間圧延による加工硬化が過大となり、二次冷間圧延後の熱処理によっても延性の回復が困難となる。このため、Cの含有量は0.050%以下とする。一方、Cの含有量が0.022%未満となると強度確保に必要な固溶C量が得られなくなり、強度不足となる。このため、Cの含有量は0.022%以上0.050%以下とする。強度の観点から、より好ましいCの含有量は0.025%以上0.050%以下である。
【0016】
(2)Si:0.003%以上0.100%以下
Si(ケイ素)の含有量が0.100%を超えると、表面処理性の低下や耐食性の劣化等の問題を引き起こすので、Siの含有量の上限は0.100%とする。一方、Siの含有量を0.003%未満とするためには、精錬コストが過大になることから、Siの含有量の下限は0.003%とする。
【0017】
(3)Mn:0.10%以上0.60%以下
Mn(マンガン)は結晶粒を微細化する作用を有し、望ましい材質を確保する上で必要な元素である。この効果を発揮するためにはMnを0.10%以上添加する必要がある。一方、Mnを多量に添加すると耐食性が劣化し、またr値も低下するので、Mnの含有量の上限は0.60%とする。
【0018】
(4)P:0.001%以上0.100%以下
P(リン)は、鋼を硬質化させ、加工性を悪化させると同時に、耐食性をも悪化させる有害な元素である。このため、Pの含有量の上限は0.100%とする。一方、Pの含有量を0.001%未満とするためには、多くの脱リンコストを要する。このため、Pの含有量の下限は0.001%とする。
【0019】
(5)S:0.001%以上0.020%以下
S(硫黄)は、鋼中で介在物として存在し、延性の低下や耐食性の劣化をもたらす有害な元素である。このため、Sの含有量の上限は0.020%とする。一方、Sを0.001%未満とするためには、多くの脱硫コストを要する。このため、Pの含有量の下限は0.001%とする。
【0020】
(6)Al:0.005%以上0.100%以下
Al(アルミニウム)は、製鋼時の脱酸剤として必要な元素である。Alの含有量が0.005%未満である場合、脱酸が不十分となり、介在物が増加し、加工性が劣化する。一方、Alの含有量が0.100%を超えると、アルミナクラスター等に起因する表面欠陥の発生頻度が増加する。このため、Alの含有量は0.005%以上0.100%以下とする。
【0021】
(7)N:0.0130%超0.0170%以下
本発明に係る高強度高延性鋼板はNを多量に含むことによって強度を確保する。Nの含有量が0.0130%以下である場合、強度が不足する。一方、Nの含有量が0.0170%を超えると延性が低下し、十分なフランジ加工性が発揮されない。このため、Nの含有量は0.0130%超0.0170%以下、好ましくは0.0140%以上0.0160%以下とする。
【0022】
(8)その他の成分
上記成分以外の残部はFe及び不可避的不純物とするが、公知の缶用鋼板中に一般的に含有される成分元素を含有していてもよい。例えば、Cr(クロム):0.10%以下、Cu(銅):0.20%以下、Ni(ニッケル):0.15%以下、Mo(モリブデン):0.05%以下、Ti(チタン):0.3%以下、Nb(ニオブ):0.3%以下、Zr(ジルコニウム):0.3%以下、V(バナジウム):0.3%以下、Ca(カルシウム):0.01%以下等の成分元素を目的に応じて含有させることができる。
【0023】
〔高強度高延性鋼板の製造方法〕
次に、本発明に係る高強度高延性鋼板の製造方法について説明する。
【0024】
本発明に係る高強度高延性鋼板は、上記組成からなる鋼を連続鋳造によりスラブとし、熱間圧延を行った後、一次冷間圧延を行い、引き続き焼鈍を行い、15%以上の圧延率で二次冷間圧延を行い、A
1変態点以上の熱処理を行うことによって製造される。鋼は転炉等を用いた通常公知の溶製方法により溶製することができる。また、鋼は連続鋳造法等の通常用いられる鋳造方法でスラブとする。この時、熱間圧延前のスラブ再加熱温度は特に限定されるものではないが、1200〜1300℃の範囲内にすることが好ましい。スラブ再加熱温度が高すぎると製品表面の欠陥の増加やエネルギーコストが上昇する等の問題が発生する場合がある。一方、スラブ再加熱温度が低すぎると、最終仕上圧延温度の確保が難しくなる場合がある。
【0025】
熱間圧延によってスラブを熱延鋼板とする。圧延開始時にはスラブが1100℃以上の温度になることが好ましい。また、熱間仕上圧延温度は、熱延鋼板の結晶粒粗大化防止や析出物分布の均一性の観点から、Ar
3変態点以上の温度であることが好ましい。次に、必要に応じて熱延鋼板に対し酸洗処理を行うことができる。酸洗処理は熱延鋼板表層のスケールを除去できればよく、特に条件は規定されない。一次冷間圧延後の焼鈍処理は、バッチ焼鈍又は連続焼鈍のいずれによっても行うことができるが、製造コスト低減の効果を顕著に得るためには連続焼鈍が好ましい。均熱温度は再結晶温度以上800℃以下とすることが好ましい。二次冷間圧延の圧延率が15%以下であると、本発明によってもたらされるべき製造コスト低減効果が十分に得られない。このため、二次冷間圧延の圧延率は好ましくは15%超、さらに好ましくは15%超25%以下とする。
【0026】
本発明に係る高強度高延性鋼板の製造方法では、二次冷間圧延後の鋼板に熱処理を施す。この熱処理によって、二次冷間圧延による加工硬化が緩和され、延性が回復する。しかしながら、この熱処理を長時間行うと、製造コストが増加し、本発明による製造コスト低減効果が相殺されてしまう。このため、熱処理時間は短時間とする必要がある。短時間の熱処理にて延性を十分に回復させるためには、鋼板の温度をA
1変態点以上とする必要がある。A
1変態点以上の熱処理によってα相の一部がγ相に変態し、不動転位の効率的な再配列が生じていると推定される。具体的にはA
1変態点までの到達時間を2.0秒以下とし、A
1変態点以上での保持時間を0.5秒以上2.0秒以下とする熱処理が好ましい。熱処理の方法としては、直接通電加熱法、誘導加熱法、輻射加熱法、加熱ロールで鋼板を挟む方法等のいずれの方法でも可能であり、またこれら以外の加熱方法であってもよい。熱処理以降は、めっき処理等の工程を常法通り行い、缶用鋼板として仕上げることができる。
【0027】
〔実施例〕
表1に示す成分組成を含有し、残部はFe及び不可避的不純物からなる鋼を実機転炉で溶製し、連続鋳造法により鋼スラブを得た。得られた鋼スラブを1250℃で再加熱した後、圧延開始温度1150℃で熱間圧延を行って表2に示す厚さまで圧延した。熱間圧延の仕上げ圧延温度は880℃、巻取り温度は580℃とし、熱間圧延後には酸洗処理を施している。次いで、表2に示す圧延率で一次冷間圧延を行い、均熱温度700℃にて連続焼鈍を行い、引き続き表2に示す圧延率で二次冷間圧延を施し、最終板厚を0.15mmとした。その後、表2に示す条件で直接通電加熱による熱処理を行った。以上により得られた鋼板の両面にSn(錫)めっき処理を連続的に施し、片面Sn付着量2.8g/m
2のめっき鋼板(ぶりき)を得た。
【0029】
以上により得られためっき鋼板に対して、210℃、15分の塗装焼付け相当の熱処理を行った後、引張試験を行った。引張試験は、JIS5号サイズの引張試験片を用いてJIS Z 2241に従い、圧延直角方向の引張強度(破断強度)及び破断伸びを測定した。また、製造コストに及ぼす影響が小さい場合を○、大きい場合を×として評価した。以上により得られた評価結果を表3に示す。
【0031】
表3に示すように、No.1〜6のめっき鋼板は、強度に優れ、極薄の缶用鋼板として必要な引張強度520MPa以上を達成している。また、No.1〜6のめっき鋼板は、加工性にも優れており、蓋や3ピース缶胴の加工に必要な7%以上の破断伸びを有している。これに対して、No.7のめっき鋼板は、Cの含有量が多すぎるため、破断伸びが不足している。No.8のめっき鋼板は、Nの含有量が少なすぎるため、強度が不足している。No.9のめっき鋼板は、Nの含有量が多すぎるため、破断伸びが不足している。No.10のめっき鋼板は、引張強度及び破断伸びは目標を達成しているが、二次冷間圧延の圧延率が小さすぎるため、製造コストが過大になっている。No.11のめっき鋼板は、二次冷間圧延後の熱処理温度が低すぎるため、破断伸びが不足している。No.12のめっき鋼板は、引張強度及び破断伸びは目標を達成しているが、二次冷間圧延後の熱処理においてA
1変態点までの到達時間が長すぎるため、製造コストが過大になっている。No.13のめっき鋼板は、二次冷間圧延後の熱処理においてA
1変態点以上での保持時間が短すぎるため、破断伸びが不足している。No.14のめっき鋼板は、引張強度及び破断伸びは目標を達成しているが、二次冷間圧延後の熱処理においてA
1変態点以上での保持時間が長すぎるため、製造コストが過大になっている。以上のことから、本発明に係る高強度高延性鋼板の製造方法によれば、高強度高延性鋼板を効率的に製造できることが確認された。