特許第6019727号(P6019727)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019727
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】モーター制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 29/00 20160101AFI20161020BHJP
【FI】
   H02P29/00
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-108509(P2012-108509)
(22)【出願日】2012年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-236509(P2013-236509A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】狩集 裕二
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−010379(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0134064(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モーターの回転速度の推定値である速度推定値を算出するモーター制御装置であって、
前記モーターの特性としての回転速度および電流の関係を示す特性情報を有し、
前記特性情報に基づいて、前記モーターの回転速度の基準値としての回転速度特性値、および前記モーターの電流の基準値としての電流特性値を設定し、
前記モーターに供給される電流の測定値である電流値、前記モーターに印加される電圧の測定値である電圧値、前記電流特性値、前記電流値が前記電流特性値のときに測定された前記モーターの電圧の基準値である電圧特性値、前記回転速度特性値、および逆起電力定数に基づいて、前記速度推定値を算出し、
前記モーターの回転速度および電流の関係を示すマップを前記特性情報として有し、前記モーターの制御において前記モーターに供給する電流の下限値を前記マップ上に有し、前記電流の下限値を前記電流特性値として設定し、この電流特性値に対応する回転速度を前記回転速度特性値として設定する
モーター制御装置。
【請求項2】
モーターの回転速度の推定値である速度推定値を算出するモーター制御装置であって、
前記モーターの特性としての回転速度および電流の関係を示す特性情報を有し、
前記特性情報に基づいて、前記モーターの回転速度の基準値としての回転速度特性値、および前記モーターの電流の基準値としての電流特性値を設定し、
前記モーターに供給される電流の測定値である電流値、前記モーターに印加される電圧の測定値である電圧値、前記電流特性値、前記電流値が前記電流特性値のときに測定された前記モーターの電圧の基準値である電圧特性値、前記回転速度特性値、および逆起電力定数に基づいて、前記速度推定値を算出し、
前記モーターの回転速度および電流の関係を示すマップを前記特性情報として有し、前記モーターの制御において前記モーターに供給する電流の上限値および下限値を前記マップ上に有し、前記電流の上限値を前記電流特性値としての上限電流特性値として設定し、前記電流の下限値を前記電流特性値としての下限電流特性値として設定し、前記上限電流特性値に対応する回転速度を前記回転速度特性値としての最小回転速度特性値として設定し、前記下限電流特性値に対応する回転速度を前記回転速度特性値としての最大回転速度特性値として設定する
モーター制御装置。
【請求項3】
前記モーター制御装置は、
前記電流値、前記電圧値、前記上限電流特性値、前記電流値が前記上限電流特性値のときに測定された前記電圧特性値としての上限電圧特性値、前記最小回転速度特性値、および前記逆起電力定数に基づいて、前記速度推定値を算出し、
前記電流値、前記電圧値、前記下限電流特性値、前記電流値が前記下限電流特性値のときに測定された前記電圧特性値としての下限電圧特性値、前記最大回転速度特性値、および前記逆起電力定数に基づいて、前記速度推定値を算出する
請求項に記載のモーター制御装置。
【請求項4】
前記モーター制御装置は、前記電流値(IC)、前記電圧値(VC)、前記電流特性値(ID)、前記電圧特性値(VD)、前記回転速度特性値(ωD)、および逆起電力定数(K)を下記数式に代入することにより、前記速度推定値(ωM)を算出する
請求項1〜のいずれか一項に記載のモーター制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モーターの回転速度を算出するモーター制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の電動パワーステアリング装置の制御装置は、電圧センサーにより測定されたモーターの電圧値、電流センサーにより測定されたモーターの電流値、およびモーターの抵抗の推定値である抵抗推定値に基づいて、モーターの回転速度の推定値を算出する。またこの制御装置は、モーターの回転が停止していると判定したとき、モーターの電圧値をモーターの電流値で除算することにより、モーターの推定抵抗値を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−59463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モーターの抵抗は、モーターの回転中に変動する。一方、上記制御装置は、モーターの回転中において推定抵抗値を更新しない。このため、モーターの回転中においては、モーターの回転速度の算出に用いられる推定抵抗値の誤差が大きくなるおそれがある。このため、モーターの回転速度の推定値に含まれる誤差も大きくなるおそれがある。
【0005】
なお、ここでは電動パワーステアリング装置の制御装置の課題について言及しているが、電動油圧式パワーステアリング装置の制御装置などのように、モーターの回転速度の推定値を算出するモーター制御装置であれば上記と同様の課題が存在する。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するため、モーターの回転中に算出される回転速度の誤差を低減することができるモーター制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)第1の手段は、請求項1に記載の発明すなわち、モーターの回転速度の推定値である速度推定値を算出するモーター制御装置であって、前記モーターの特性としての回転速度および電流の関係を示す特性情報を有し、前記特性情報に基づいて、前記モーターの回転速度の基準値としての回転速度特性値、および前記モーターの電流の基準値としての電流特性値を設定し、前記モーターに供給される電流の測定値である電流値、前記モーターに印加される電圧の測定値である電圧値、前記電流特性値、前記電流値が前記電流特性値のときに測定された前記モーターの電圧の基準値である電圧特性値、前記回転速度特性値、および逆起電力定数に基づいて、前記速度推定値を算出し、前記モーターの回転速度および電流の関係を示すマップを前記特性情報として有し、前記モーターの制御において前記モーターに供給する電流の下限値を前記マップ上に有し、前記電流の下限値を前記電流特性値として設定し、この電流特性値に対応する回転速度を前記回転速度特性値として設定するモーター制御装置であることを要旨とする。
【0008】
モーターの速度推定値は、モーターに供給される電流、モーターに印加される電圧、およびモーターの抵抗を用いて算出することができる。しかし、モーターの抵抗は、モーターの温度の影響等により、モーターの回転中に変動する。このため、モーターの回転中においては、モーターの抵抗の推定値、およびモーターの速度推定値の算出精度が低下するおそれがある。一方、上記モーター制御装置は、そのときどきの測定値としての電流測定値および電圧測定値と、既知の値としての電流特性値、電圧特性値、および回転速度特性値とを用いてモーターの速度推定値を算出する。このため、モーターの回転中に算出される速度推定値の誤差を低減することができる。
【0011】
)第の手段は、請求項に記載の発明すなわち、モーターの回転速度の推定値である速度推定値を算出するモーター制御装置であって、前記モーターの特性としての回転速度および電流の関係を示す特性情報を有し、前記特性情報に基づいて、前記モーターの回転速度の基準値としての回転速度特性値、および前記モーターの電流の基準値としての電流特性値を設定し、前記モーターに供給される電流の測定値である電流値、前記モーターに印加される電圧の測定値である電圧値、前記電流特性値、前記電流値が前記電流特性値のときに測定された前記モーターの電圧の基準値である電圧特性値、前記回転速度特性値、および逆起電力定数に基づいて、前記速度推定値を算出し、前記モーターの回転速度および電流の関係を示すマップを前記特性情報として有し、前記モーターの制御において前記モーターに供給する電流の上限値および下限値を前記マップ上に有し、前記電流の上限値を前記電流特性値としての上限電流特性値として設定し、前記電流の下限値を前記電流特性値としての下限電流特性値として設定し、前記上限電流特性値に対応する回転速度を前記回転速度特性値としての最小回転速度特性値として設定し、前記下限電流特性値に対応する回転速度を前記回転速度特性値としての最大回転速度特性値として設定するモーター制御装置であることを要旨とする。
【0012】
)第の手段は、請求項に記載の発明すなわち、前記モーター制御装置は、前記電流値、前記電圧値、前記上限電流特性値、前記電流値が前記上限電流特性値のときに測定された前記電圧特性値としての上限電圧特性値、前記最小回転速度特性値、および前記逆起電力定数に基づいて、前記速度推定値を算出し、前記電流値、前記電圧値、前記下限電流特性値、前記電流値が前記下限電流特性値のときに測定された前記電圧特性値としての下限電圧特性値、前記最大回転速度特性値、および前記逆起電力定数に基づいて、前記速度推定値を算出する請求項に記載のモーター制御装置であることを要旨とする。
【0013】
)第の手段は、請求項に記載の発明すなわち、前記モーター制御装置は、前記電流値(IC)、前記電圧値(VC)、前記電流特性値(ID)、前記電圧特性値(VD)、前記回転速度特性値(ωD)、および逆起電力定数(K)を下記数式に代入することにより、前記速度推定値(ωM)を算出する請求項1〜3のいずれか一項に記載のモーター制御装置であることを要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、モーターの回転中に算出される回転速度の誤差を低減することができるモーター制御装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態の油圧式パワーステアリング装置に関する構成図。
図2】実施形態の油圧制御装置の構成を示すブロック図。
図3】実施形態のモーターの特性情報を示すマップ。
図4】実施形態のモーター制御装置により実行される回転速度推定処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照して、油圧式パワーステアリング装置1の全体構成について説明する。
油圧式パワーステアリング装置1は、ステアリングホイール2、車輪3、ステアリング装置本体10、および油圧アシスト装置20を有する。ステアリング装置本体10は、ステアリングシャフト11、ラックシャフト12、およびタイロッド13を有する。ステアリングシャフト11は、端部にステアリングホイール2が連結される。ラックシャフト12は、ステアリングシャフト11のギアに噛み合わせられる。タイロッド13は、ラックシャフト12の端部と車輪3とを互いに連結する。
【0018】
油圧アシスト装置20は、車速センサー21、操舵角センサー22、トルクセンサー23、油圧制御装置30、油圧ポンプ41、モーター42、タンク43、油圧シリンダー44、および流量制御弁45を有する。
【0019】
車速センサー21は、車両の走行速度に応じて変化する信号を車速信号SSとして生成する。操舵角センサー22は、ステアリングシャフト11の回転量に応じて変化する信号を操舵角信号θSとして生成する。トルクセンサー23は、ステアリングシャフト11のねじれ量に応じて変化する信号をトルク信号TSとして生成する。
【0020】
油圧制御装置30は、車速信号SS、操舵角信号θS、およびトルク信号TSに基づいて、モーター42の回転速度ωおよび流量制御弁45の開度を制御する。
油圧ポンプ41は、タンク43および流量制御弁45に接続される。油圧ポンプ41は、タンク43から流量制御弁45に作動油を送り出す。モーター42は、油圧ポンプ41を駆動するトルクを発生する。タンク43は、油圧アシスト装置20の作動油を溜める。
【0021】
油圧シリンダー44は、ピストン51、第1油圧室52、および第2油圧室53を有する。油圧シリンダー44は、内部空間にラックシャフト12が挿入される。ピストン51は、ラックシャフト12と一体的に形成される。ピストン51は、油圧シリンダー44の内部空間を第1油圧室52および第2油圧室53に区画する。第1油圧室52および第2油圧室53は、流量制御弁45に接続される。
【0022】
流量制御弁45は、作動油の供給元としての油圧ポンプ41に接続される。流量制御弁45は、作動油の供給先および排出元としての第1油圧室52および第2油圧室53に接続される。流量制御弁45は、第1油圧室52または第2油圧室53からの作動油の排出先としてのタンク43に接続される。流量制御弁45は、作動油の流量、供給先、および排出元を制御する。
【0023】
図1を参照して、油圧式パワーステアリング装置1の動作について説明する。
油圧制御装置30は、作動油の流量に基づいて流量制御弁45の開度を算出する。油圧制御装置30は、ラックシャフト12に付与する力Fの方向(以下、アシスト方向)に基づいて作動油の供給先および排出元を第1油圧室52および第2油圧室53の中から決定する。油圧制御装置30は、流量制御弁45の開度、作動油の供給先、および排出元を示す制御信号CSを生成する。油圧制御装置30は、アシスト方向として左方向を選択したとき、作動油の供給先として第1油圧室52を示し、かつ作動油の排出元として第2油圧室53を示す制御信号CSを生成する。油圧制御装置30は、アシスト方向として右方向を選択したとき、作動油の供給先として第2油圧室53を示し、かつ作動油の排出元として第1油圧室52を示す制御信号CSを生成する。
【0024】
ピストン51は、第1油圧室52に作動油が供給され、かつ第2油圧室53から作動油が排出されるとき、左方向の力Fをラックシャフト12に付与する。ピストン51は、第2油圧室53に作動油が供給され、かつ第1油圧室52から作動油が排出されるとき、右方向の力Fをラックシャフト12に付与する。
【0025】
ラックシャフト12は、ステアリングシャフト11から付与される力およびピストン51から付与される力Fにより、ステアリングホイール2の回転方向に応じた方向に移動する。
【0026】
図2を参照して、油圧制御装置30の構成について説明する。
油圧制御装置30は、駆動回路31、電圧センサー32、電流センサー33、およびモーター制御装置34を有する。
【0027】
駆動回路31は、モーター制御装置34による制御に応じて電源(図示略)からモーター42に印加する電圧Vを制御する。電圧センサー32は、駆動回路31からモーター42へ印加される電圧Vに応じて変化する電圧信号VSを生成する。電流センサー33は、駆動回路31からモーター42へ供給される電流Iに応じて変化する電流信号ISを生成する。モーター制御装置34は、車速信号SS、操舵角信号θS、トルク信号TS、電圧信号VS、および電流信号ISに基づいて、駆動回路31および流量制御弁45を制御する。
【0028】
モーター42および流量制御弁45の制御について説明する。
モーター制御装置34は、車速信号SS、操舵角信号θS、およびトルク信号TSに基づいて、ラックシャフト12に付与する力Fおよびステアリングホイール2の回転方向を判断する。モーター制御装置34は、ステアリングホイール2の回転方向に基づいてアシスト方向を判断する。
【0029】
モーター制御装置34は、力Fに基づいて、油圧ポンプ41から送り出す作動油の流量を算出する。モーター制御装置34は、油圧ポンプ41から送り出す作動油の流量に基づいてモーター42の回転速度ωの目標値を目標回転速度ωSとして算出する。
【0030】
モーター制御装置34は、電圧信号VSおよび電流信号ISに基づいて、モーター42の電圧Vの測定値VCおよび電流Iの測定値ICを認識する。モーター制御装置34は、電流Iの測定値IC、電圧Vの測定値VC、およびモーター42の特性値に基づいて、推定回転速度ωMを算出する。なお、推定回転速度ωMは、速度推定値に相当する。
【0031】
モーター制御装置34は、推定回転速度ωMおよび目標回転速度ωSの差に基づいて、モーター42に印加する電圧Vの目標値VTを算出する。モーター制御装置34は、駆動回路31からモーター42に印加される電圧Vを目標値VTにする駆動信号KSを生成する。
【0032】
モーター制御装置34は、作動油の流量またはトルクに基づいて流量制御弁45の開度を算出する。モーター制御装置34は、アシスト方向に基づいて作動油の供給先および排出元を決定する。モーター制御装置34は、流量制御弁45の開度、作動油の供給先、および排出元を示す制御信号CSを生成する。
【0033】
モーター制御装置34による推定回転速度ωMの算出処理について説明する。
下記数式(1)は、モーター42の推定回転速度ωMを算出するための数式を示す。なお、以下の各数式において、「R」はモーター42の抵抗を示し、「K」はモーター42の逆起電力定数を示す。
【0034】
【数1】
【0035】
下記数式(2)は、抵抗Rを算出するための数式を示す。数式(2)は、上記数式(1)を変形することにより導出される。
【0036】
【数2】
【0037】
モーター制御装置34は、所定のタイミングにおける測定値IC、測定値VC、および推定回転速度ωMを、それぞれ上記特性値としての電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDとして記憶する。下記数式(3)は、上記数式(2)に電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDを用いた数式を示す。
【0038】
【数3】
【0039】
下記数式(4)は、推定回転速度ωMを算出するための数式を示す。数式(4)は、上記数式(3)を上記数式(1)に代入することにより導出される。
【0040】
【数4】
【0041】
図3を参照して、モーター制御装置34による電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDの記憶処理について説明する。
モーター制御装置34は、モーター42に供給される電流Iと回転速度ωとの対応関係(以下、特性情報(図3))を規定する数式を記憶している。図3に示されるように、電流Iおよび回転速度ωは、反比例の対応関係を有する。特性情報を規定する数式は、上記数式(2)を変形した下記数式(5)によって示される。
【0042】
【数5】
【0043】
モーター制御装置34は、モーター42の回転速度ωを目標回転速度ωSにする制御と、所定値を超える回転速度ωでモーター42が回転することを抑制する制御とを平行する。このため、モーター制御装置34は、モーター42の回転速度ωが所定の最大回転速度特性値ωMAXか否かを測定値ICに基づいて判断する。
【0044】
モーター制御装置34は、上記数式(5)に最大回転速度特性値ωMAX、測定値VC、および抵抗Rの所定の初期値(以下、初期抵抗RS)を代入することにより、最大回転速度特性値ωMAXに対応する下限電流特性値IMINを算出する。
【0045】
モーター制御装置34は、測定値ICが下限電流特性値IMINのときを上記所定のタイミングとしての第1更新タイミングとして判定する。モーター制御装置34は、第1更新タイミングのとき、電流特性値IDを下限電流特性値IMINに更新し、電圧特性値VDを測定値VCの値に更新し、回転速度特性値ωDを最大回転速度特性値ωMAXに更新する。なお、第1更新タイミングにおいて更新される電圧特性値VDは、下限電圧特性値に相当する。
【0046】
モーター制御装置34は、モーター42の回転速度ωを目標回転速度ωSにする制御と、モーター42の回転速度ωが所定値未満になることを抑制する制御とを平行する。このため、モーター制御装置34は、モーター42の回転速度ωが所定の最小回転速度特性値ωMINか否かを測定値ICに基づいて判断する。
【0047】
モーター制御装置34は、上記数式(5)に最小回転速度特性値ωMIN、測定値VC、および初期抵抗RSを代入することにより、最小回転速度特性値ωMINに対応する電流の上限電流特性値IMAXを算出する。
【0048】
モーター制御装置34は、電流Iが上限電流特性値IMAXのときを上記所定のタイミングとしての第2更新タイミングとして判定する。モーター制御装置34は、第2更新タイミングのとき、電流特性値IDを上限電流特性値IMAXに更新し、電圧特性値VDを測定値VCに更新し、回転速度特性値ωDを最小回転速度特性値ωMINに更新する。なお、第2更新タイミングにおいて更新される電圧特性値VDは、上限電圧特性値に相当する。
【0049】
推定回転速度ωMに含まれる誤差について説明する。
推定回転速度ωMは、推定誤差ΔωMを有する。回転速度特性値ωDは、誤差ΔωDを有する。このため、上記数式(4)は、推定誤差ΔωMおよび誤差ΔωDを用いると下記数式(6)に示すように変形される。
【0050】
【数6】
【0051】
最小回転速度特性値ωMINおよび最大回転速度特性値ωMAXは、上限電流特性値IMAX、および下限電流特性値IMINの電流Iをモーター42に供給したときにおける回転速度ωの実測値としてモーター制御装置34に記憶される。すなわち、第1更新タイミングまたは第2更新タイミングで電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDを更新することは、回転速度ωの実測値が測定されたときの値に近い値にそれぞれを更新することとなる。
【0052】
したがって、モーター制御装置34は、第1更新タイミングまたは第2更新タイミングで電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDを更新することにより、誤差ΔωDを最小にすることができる。
【0053】
下記数式(7)は、推定誤差ΔωMを算出するための数式を示す。数式(7)は、上記数式(4)を上記数式(6)の左辺に代入して整理することにより導出される。
【0054】
【数7】
【0055】
上記数式(7)に示されるように、推定誤差ΔωMは誤差ΔωDに比例する。このため、モーター制御装置34は、誤差ΔωDを最小にすることにより、推定回転速度ωMの推定誤差ΔωMを所定の最小値にすることができる。
【0056】
図4を参照して、モーター制御装置34の回転速度算出処理について説明する。
ステップS11において、モーター制御装置34は、測定値VC、初期抵抗RS、および最大回転速度特性値ωMAXを上記数式(5)に代入することにより、最大回転速度特性値ωMAXに対応する下限電流特性値IMINを算出する。
【0057】
ーター制御装置34は、測定値ICが下限電流特性値IMINか否かを判定する。モーター制御装置34は、ステップS11において否定判定した場合、ステップS12の処理へ進む。モーター制御装置34は、ステップS11において肯定判定した場合、ステップS18の処理へ進む。
【0058】
ステップS12において、モーター制御装置34は、測定値VC、初期抵抗RS、および最小回転速度特性値ωMINを上記数式(5)に代入することにより上限電流特性値IMAXを算出する。
【0059】
ーター制御装置34は、測定値ICが上限電流特性値IMAXであるか否かを判定する。モーター制御装置34は、ステップS12において肯定判定した場合、ステップS13の処理へ進む。モーター制御装置34は、ステップS12において否定判定した場合、ステップS15の処理へ進む。
【0060】
ステップS13において、モーター制御装置34は、電流特性値IDをその時点において設定されている値から上限電流特性値IMAXに更新する。
ステップS14において、モーター制御装置34は、回転速度特性値ωDをその時点において設定されている値から最小回転速度特性値ωMINの値に更新する。
【0061】
ステップS18において、モーター制御装置34は、電流特性値IDをその時点において設定されている値から下限電流特性値IMINに更新する。
ステップS19において、モーター制御装置34は、回転速度特性値ωDをその時点において設定されている値から最大回転速度特性値ωMAXに更新する。
【0062】
ステップS15において、モーター制御装置34は、電圧特性値VDをその時点において設定されている値から測定値VCに更新する。
ステップS17において、モーター制御装置34は、測定値VC、測定値IC、電流特性値ID、電圧特性値VD、回転速度特性値ωD、および逆起電力定数Kを上記数式(4)に代入することにより推定回転速度ωMを算出する。
【0063】
本実施形態のモーター制御装置34は以下の効果を奏する。
(1)モーター制御装置34は、モーター42の動作中において、電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDを所定のタイミングで更新する。モーター制御装置34は、電流特性値ID、電圧特性値VD、回転速度特性値ωD、測定値IC、測定値VC、および逆起電力定数Kに基づいて推定回転速度ωMを算出する。モーター42の抵抗Rは、モーター42の動作中に変動する。モーター42の抵抗Rは、電流特性値ID、電圧特性値VD、回転速度特性値ωD、および逆起電力定数Kに基づいて上記数式(3)に基づいて算出される。上記構成によれば、モーター制御装置34は、電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDをモーター42の動作中に更新する。このため、モーター制御装置34は、抵抗Rの変動を考慮することによって推定誤差Δωを小さくした数値として、推定回転速度ωMを算出することができる。
【0064】
本発明は、上記実施形態以外の実施形態を含む。以下、本発明のその他の実施形態としての上記実施形態の変形例を示す。なお、以下の各変形例は、互いに組み合わせることもできる。
【0065】
・実施形態のモーター制御装置34は、測定値ICが下限電流特性値IMINまたは上限電流特性値IMAXのとき、電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDを更新する。一方、変形例のモーター制御装置34は、特性曲線上における測定値ICが下限電流特性値IMINと上限電流特性値IMAXとの間の判定電流IMIDのとき、電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDを更新する。判定電流IMIDとしては、予めマップ上に予め規定された値が用いられる。要するに、特性曲線上の電流値であれば、下限電流特性値IMINおよび上限電流特性値IMAXに限らず更新タイミングを判定するための電流値として用いることができる。
【0066】
・実施形態のモーター制御装置34は、モーター42の回転中において、抵抗Rを算出しない。一方、変形例のモーター制御装置は、電流特性値ID、電圧特性値VD、回転速度特性値ωD、および逆起電力定数Kを上記数式(3)に代入することにより、モーター42の回転中において抵抗Rを算出する。
【0067】
・実施形態のモーター制御装置34は、油圧ポンプ41のモーター42を制御する。一方、変形例のモーター制御装置は、電動パワーステアリング装置のモーターおよび車両のアイドリングストップ時にトランスミッションオイルを循環するポンプを駆動するモーターなど、他の装置におけるモーターを制御する。
【0068】
・実施形態のモーター制御装置34は、特性情報を規定する数式を記憶する。一方、変形例のモーター制御装置34は、この数式に基づいて、電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDをそれぞれ対応させて示す特性情報マップを記憶する。
【0069】
・実施形態のモーター制御装置34は、上限電流特性値IMAXおよび下限電流特性値IMINの2つの電流特性値に基づいて第1更新タイミングおよび第2更新タイミングを判定する。一方、変形例のモーター制御装置34は、いずれか一方の電流特性値または3以上の電流特性値に基づいて所定のタイミングを判定することにより、電流特性値ID、電圧特性値VD、および回転速度特性値ωDを更新する。
【符号の説明】
【0070】
1…油圧式パワーステアリング装置、2…ステアリングホイール、3…車輪、10…ステアリング装置本体、11…ステアリングシャフト、12…ラックシャフト、13…タイロッド、20…油圧アシスト装置、21…車速センサー、22…操舵角センサー、23…トルクセンサー、30…油圧制御装置、31…駆動回路、32…電圧センサー、33…電流センサー、34…モーター制御装置、41…油圧ポンプ、42…モーター、43…タンク、44…油圧シリンダー、45…流量制御弁、51…ピストン、52…第1油圧室、53…第2油圧室。
図1
図2
図3
図4