(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一走行モードから前記第二走行モードへの切り換えに際し、前記クラッチの前記エンジン側及び前記電動機側の回転速度差が所定値以下になったときに、前記クラッチを係合させるクラッチ制御手段を備える
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載のハイブリッド自動車の制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照してハイブリッド自動車の制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0016】
[1.車両]
第一実施形態のハイブリッド自動車の制御装置は、
図1に示す車両10に適用される。この車両10は、エンジン1及びモーター3(電動機)を駆動源とし、前輪を駆動輪8としたFF方式のハイブリッド車両である。車両10のパワートレインには、エンジン1,モーター3,ジェネレーター4(発電機),インバーター5,バッテリー6,トランスアクスル7が設けられる。エンジン1及びモーター3の駆動力は、トランスアクスル7を介して駆動輪8に伝達され、車両10を走行させる。
【0017】
エンジン1は、ガソリンや軽油を燃焼とする内燃機関(ガソリンエンジン,ディーゼルエンジン)である。このエンジン1には、エンジン回転数Ne(エンジン回転速度)を検出するエンジン回転数センサー21が設けられる。ここで検出されたエンジン回転数Neの情報は、後述する車両制御装置11に伝達される。
【0018】
モーター3は、バッテリー6に蓄えられた電力やジェネレーター4で発電された電力の供給を受けて動力を発生させる電動機であり、例えば高出力の永久磁石式同期電動機である。モーター3には、モーター回転数Nm(モーター回転速度)を検出するモーター回転数センサー22が設けられる。ここで検出されたモーター回転数Nmの情報も、車両制御装置11に伝達される。
【0019】
バッテリー6は、例えばリチウムイオン電池やニッケル水素電池といったエネルギー密度の高い高性能な蓄電装置であり、モーター3に電力を供給するものである。このバッテリー6には、充放電に係る電流値Aを検出するバッテリー電流センサー24,電圧値Bを検出するバッテリー電圧センサー25,電池温度Eを検出するバッテリー温度センサー26が内蔵される。これらのセンサー24〜26で検出された電流値A,電圧値B及び電池温度Eの情報は、車両制御装置11に伝達される。
【0020】
ジェネレーター4(発電機)は、エンジン1を始動させるためのスターターとしての機能と発電機能とを持った交流電動発電機(モーター・ジェネレーター)であり、エンジン1の作動時にはエンジン1の動力で発電を実施するものである。また、このジェネレーター4は、モーター3の電力供給源であるバッテリー6を充電する機能や、モーター3へ直接電力を供給する機能も併せ持つ。
【0021】
モーター3,ジェネレーター4及びバッテリー6を接続する電気回路上には、インバーター5が介装される。インバーター5よりもバッテリー6側で授受される電流は直流電流であり、インバーター5よりもモーター3,ジェネレーター4側で授受される電流は交流電流である。インバーター5は、これらの電流の直流・交流変換を実施する。また、モーター3の回転速度は、モーター3に供給される電流の交流周波数に比例する。したがって、インバーター5を制御することでモーター3の回転速度及びトルクを調節することが可能である。
【0022】
トランスアクスル7は、ディファレンシャルギヤ(差動装置)を含むファイナルドライブ(終減速機)とトランスミッション(減速機)とを一体に形成した動力伝達装置であり、駆動源と駆動輪8との間の動力伝達を担う複数の機構を内蔵する。また、トランスアクスル7の内部には、クラッチ2が設けられる。
【0023】
クラッチ2は、エンジン1の動力の断接状態を制御する連軸器であり、エンジン1から駆動輪8までに至る動力伝達経路上に介装される。
図1中に示すように、モーター3は、クラッチ2よりも駆動輪8側の動力伝達経路に対して接続される。したがって、モーター3の駆動力は、クラッチ2の断接状態に関わらず駆動輪8側へと伝達可能である。これに対し、エンジン1の駆動力は、クラッチ2が係合しているときにのみ駆動輪8側へと伝達可能である。
【0024】
クラッチ2の内部には、エンジン1からの駆動力が入力される駆動側の係合要素2aと、駆動輪8側に駆動力を出力する被駆動側の係合要素2bとが設けられる。これらの係合要素2a,2bは、図示しないクラッチ油圧ポンプから与えられるクラッチ油圧に応じて、接近,離間(すなわち係合,開放)する方向に駆動される。
また、車両10の任意の位置には、アクセルペダルの踏み込み操作量に対応するアクセル開度Dを検出するアクセル開度センサー23と、車速Vを検出する車速センサー27とが設けられる。これらのアクセル開度D,車速Vの情報は、車両制御装置11に伝達される。
【0025】
[2.制御装置]
[2−1.概要]
車両制御装置11は、パワートレインの各種装置の動作を統括的に管理する電子制御装置であり、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスとして構成される。ここでは、車両10の走行状態や運転条件などに応じた走行モードが選択されるとともに、走行モードに応じてエンジン1の作動状態やエンジン出力,クラッチ2の断接状態,モーター3の出力,ジェネレーター4での発電量などが制御される。
【0026】
車両10の走行モードとしては、EVモード,シリーズモード(第一走行モード),パラレルモード(第二走行モード)等が設定されている。EVモードとは、モーター3のみの駆動力で車両10を走行させるモードであり、すなわち電気自動車(EV,Electric Vehicle)の駆動手法と同様の制御が実施されるものである。このEVモードは、おもにバッテリー6の充電率が十分に大きく、車両10の走行速度(車速)が所定の判定車速V
0以下のときに選択される。EVモードではエンジン1が停止し、クラッチ2が切断された状態となる。また、モーター3の出力は、車両10に要求されている出力(例えば、アクセル開度Dや車速Vに基づいて設定される要求出力)に応じて増減制御される。
【0027】
シリーズモードは、モーター3の駆動力で走行しながらエンジン1の動力で発電を行うモードである。シリーズモードでは、クラッチ2が切断された状態とされ、トランスアクスル7の内部において、クラッチ2よりもエンジン1側の動力伝達経路と駆動輪8側の動力伝達経路とが分離される。また、前者の動力伝達経路では、エンジン1の駆動力がジェネレーター4に伝達され、ジェネレーター4での発電が実施される。
【0028】
ジェネレーター4で発生した電力は、インバーター5を介してバッテリー6に充電され、あるいは、インバーター5から直接的にモーター3へと供給される。このシリーズモードは、おもに車両10の走行速度(車速)が所定の判定車速V
0以下であって、バッテリー6の充電率が十分に大きくないとき(バッテリー残量がやや少ないとき)に選択される。例えば、EVモードでの走行中にバッテリー6の充電率が低下してきたときには、走行モードがEVモードからシリーズモードに変更される。
【0029】
パラレルモードは、エンジン1とモーター3とを併用して走行するモードである。このパラレルモードでは、クラッチ2が係合した状態に制御され、エンジン1の駆動力が駆動輪8に伝達される。また、モーター3の出力は、車両10に要求されている出力に応じて増減制御される。典型的には、車両10に要求されている出力からエンジン1の出力を減じたものが、モーター3の出力とされる。このパラレルモードは、おもに車両10の走行速度(車速)が所定の判定車速V
0を超えるときに選択される。例えば、EVモードやシリーズモードでの走行中に車速が上昇し、所定の判定車速V
0を超えたときには、走行モードがパラレルモードに変更される。
【0030】
上記のEVモード,シリーズモード(第一走行モード)は、モーター3が主体となって車両10を走行させるモードである。これに対し、パラレルモード(第二走行モード)は、エンジン1が主体となって車両10を走行させるモードであり、エンジン1の出力が不足しない限りモーター3は作動しない。パラレルモードでのモーター3の動力は、車両10に要求されている出力をエンジン1のみで賄えないような場合に補助的に使用される。
【0031】
EVモード,シリーズモードからパラレルモードへの移行時には、クラッチ2の断接状態が開放状態から係合状態へと切り換えられ、車両10を走行させる主体となる駆動源が変更される。車両制御装置11は、このような切り換えに伴う駆動力の急変やトルクショックの発生を防止するために、移行制御を実施する。本実施形態では、シリーズモードからパラレルモードへの移行時に実施される移行制御について詳述する。
【0032】
[2−2.制御ブロック]
移行制御では、開放状態のクラッチ2が係合するようにクラッチ油圧が制御されるとともに、車両10に要求されている出力に応じてエンジン1の出力が増加するように、エンジン1の点火系,燃料系,吸排気系及び動弁系が制御される。また、モーター3の出力は、車両10に要求されている出力を基準として、エンジン出力の不足分を補う大きさとなるように制御される。
【0033】
この移行制御を実施するために、車両制御装置11には、エンジン制御部12,クラッチ制御部13,モーター制御部14,ジェネレーター制御部15及びバッテリー制御部16が設けられる。これらの各要素は電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、ソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0034】
エンジン制御部12は、エンジン1の動作を制御するものである。
図1に示すように、エンジン制御部12には、予測演算部12aとエンジントルク制御部12bとが設けられる。
予測演算部12a(演算手段)は、クラッチ2の係合後におけるエンジン1の出力目標値としての目標トルクT
TGTを、クラッチ2の係合前に予測して演算するものである。目標トルクT
TGTは、例えば車速Vやアクセル開度Dに基づいて演算され、あるいはその時点でのモーター3の出力に対応する値として演算される。クラッチ2の係合後におけるエンジン1の出力目標値(第一目標出力)は、目標トルクT
TGTとその時点でのエンジン回転数Neとの積で表現してもよい。ここで演算された目標トルクT
TGTの値は、エンジントルク制御部12bに伝達される。
【0035】
エンジントルク制御部12b(エンジン制御手段)は、燃料噴射量や点火時期,吸気量等を制御して、エンジン1から実際に出力されるトルクの大きさを制御するものである。ここではまず、予測演算部12aで演算された目標トルクT
TGTに所定のロス分トルクT
LOSを加算したものが、制御用目標トルクTとして演算される。ロス分トルクT
LOSとは、クラッチ2の係合要素2a,2b間の回転速度を同期させるときに失われるトルク(トルク損失)に相当するものであり、各々の係合要素2a,2bの回転速度や速度差に基づいて演算される値である。
【0036】
本実施形態では、例えば車速Vやエンジン回転数Ne,アクセル開度D等に基づいて、ロス分トルクT
LOSが演算されるものとする。また、ロス分トルクT
LOSは、少なくとも0以上の値を持つ。したがって、目標トルクT
TGTに所定のロス分トルクT
LOSを加算したものとその時点でのエンジン回転数Neとの積で表現される出力(第二目標出力)は、少なくとも目標トルクT
TGTとその時点でのエンジン回転数Neとの積で表現される出力(第一目標出力)以上の大きさである。
【0037】
また、エンジントルク制御部12bは、後述する切り換え判定部13aで移行制御の開始条件が成立すると、クラッチ2が係合するタイミングよりも前から、エンジン1の実際の出力トルクが制御用目標トルクTに一致する(又は近づく)ように、エンジン1の作動状態を制御する。つまり、エンジン1の駆動力がクラッチ2の係合要素2bにまだ伝達されていない状態で、早々とエンジン1の出力を上昇させる制御が実施される。なお、ここで演算された制御用目標トルクT及びロス分トルクT
LOSは、ジェネレーター制御部15に伝達される。
【0038】
ただし、エンジントルク制御部12bは、バッテリー6の充電率Cが所定充電率C
0以下の場合に限り、制御用目標トルクTを用いたエンジン制御を実施する。バッテリー6の充電率Cが所定充電率C
0を超える場合には、エンジン出力が比較的小さい一定の値(例えば、アイドリング回転を維持する程度の出力)となるように、エンジン1を制御する。
【0039】
クラッチ制御部13(クラッチ制御手段)は、クラッチ2の動作を制御するものである。クラッチ制御部13には、切り換え判定部13aと回転数差演算部13bとが設けられる。
切り換え判定部13a(切り換え判定手段)は、上記のEVモード,シリーズモードからパラレルモードへの移行制御を実施するか否かを判定するものである。移行制御の開始条件は、所定の判定車速V
0以下であった車速Vが判定車速V
0を超えることである。ここでいう判定車速V
0は、予め設定された固定値(例えば、時速80[km/h]など)としてもよいが、本実施形態では、後述するバッテリー制御部16で演算されるバッテリー6の充電率C及び電池温度Eに応じて設定されるものとする。
【0040】
例えば、切り換え判定部13aには、充電率Cを引数として第一判定車速V
1を算出するための制御マップと、電池温度Eを引数として第二判定車速V
2を算出するための制御マップとを予め記憶させておく。これらの制御マップを
図2(a),(b)に例示する。第一判定車速V
1,第二判定車速V
2はそれぞれ、充電率Cが高いほど、あるいは電池温度Eが高温であるほど大きな値に設定されるものとする。その後、切り換え判定部13aは、第一判定車速V
1,第二判定車速V
2の何れか小さい一方を判定車速V
0として、移行制御の開始条件を判定する。
【0041】
なお、移行制御の開始条件は、車速Vだけでなく、バッテリー6の充電率Cやアクセル開度D等に基づいて判定してもよい。切り換え判定部13aでの判定結果は、エンジン制御部12,ジェネレーター制御部15に伝達される。
【0042】
回転数差演算部13bは、移行制御の開始条件が成立したのちに、クラッチ2の係合要素2a,2bの回転速度が同期した時点でクラッチ2を係合させるものである。係合要素2a,2bのそれぞれの回転速度は、エンジン回転数Ne,モーター回転数Nmに基づいて演算される。ここでは、例えば係合要素2a,2bの回転速度差が所定速度以下になったときに回転速度が同期したものと判定され、少なくとも何れかの係合要素2a,2bに対してクラッチ油圧を与える制御信号が出力される。
【0043】
これにより、係合要素2a,2bが接近して係合し、クラッチ2が接続される。係合要素2a,2bの回転速度が同期した状態でクラッチ2が接続されるため、クラッチスリップが発生せずトルクショックも発生しない。また、回転数差演算部13bは、クラッチ油圧を与えてから所定の係合時間Gが経過した時点でクラッチ2が係合したと判断し、クラッチ2が係合したことをモーター制御部14,ジェネレーター制御部15に伝達する。
【0044】
モーター制御部14(電動機制御手段)は、モーター3の動作を制御するものである。ここでは、例えば車速Vやモーター回転数Nm,アクセル開度D等に基づいて目標モータートルクTmが演算され、実際のモーター3の出力トルクT
MTRが目標モータートルクTmに一致する(又は近づく)ように、モーター3及びインバーター5が制御される。
【0045】
また、モーター制御部14は、クラッチ2がほぼ完全に係合した旨の情報を回転数差演算部13bから受け取ったときには、モーター3を停止させる制御を実施する。このとき、モーター3の出力トルクT
MTRが所定の減少時間Fでゼロになるようにモーター3及びインバーター5が制御され、例えばモーター3に供給される電流値を漸減させる制御が実施される。
【0046】
ジェネレーター制御部15(発電機制御手段)は、ジェネレーター4の動作を制御するものである。このジェネレーター制御部15には、発電量演算部15aと発電トルク制御部15bとが設けられる。
【0047】
発電量演算部15aは、移行制御時にジェネレーター4で吸収される発電トルクT
GENを演算するものである。発電トルクT
GENは、エンジン1で発生する出力(すなわち、ジェネレーター4での理論上の最大発電量)から、係合要素2a,2b間の回転速度を同期させるときに失われる出力を減算したものである。なお、クラッチ2よりもエンジン1側の動力伝達経路におけるエネルギー収支は、以下のように表現される。したがって、クラッチ2がまだ係合していないときにエンジン1で生成されるエネルギーは、動力伝達経路内での損失エネルギーを除いて、ジェネレーター4で電力として回収される。
(ジェネレーター4での発電エネルギー)
=(エンジン1で発生するエネルギー)−(クラッチ2の同期に係る損失)
【0048】
エンジン1で発生する出力は、例えば制御用目標トルクT及びエンジン回転数Neに基づいて演算される。また、クラッチ2の同期に係る損失は、例えば車速Vやエンジン回転数Ne,アクセル開度D,ロス分トルクT
LOS等に基づいて演算される。ここで、前者から後者を減算した出力が、ジェネレーター4で吸収すべき目標出力となる。あるいは、予測演算部12aで演算された目標トルクT
TGT及びエンジン回転数Neから演算される出力が、ジェネレーター4で吸収すべき目標出力となる。
【0049】
発電量演算部15aは、ジェネレーター4の発電特性に基づき、ジェネレーター4で発電される電力がジェネレーター4で吸収すべき目標出力と一致するような発電トルクT
GENを演算する。ここで演算された発電トルクT
GENは、発電トルク制御部15bに伝達される。
【0050】
発電トルク制御部15bは、発電量演算部15aで演算された発電トルクT
GENがジェネレーター4で電力に変換されるように、ジェネレーター4の駆動電流を制御するものである。発電トルク制御部15bは、切り換え判定部13aで移行制御の開始条件が成立すると、クラッチ2が係合するタイミングよりも前から、エンジン1で発生する出力のうち、目標トルクT
TGTに相当する出力を電力に変換するように機能する。
【0051】
このとき、ジェネレーター4での発電量は、エンジン1で実際に発生する出力に応じて変化しうる。例えば、アクセル開度Dの変動により、エンジン1の出力が増加又は減少したときには、それに応じてジェネレーター4での発電量も増加又は減少する。このように、クラッチ2の係合後におけるエンジン1の目標トルクT
TGTに応じた発電を実施する制御のことを、発電量可変制御と呼ぶ。
【0052】
ただし、発電量可変制御には、二つの制御禁止条件がある。第一の禁止条件は、バッテリー6の充電率Cが所定充電率C
0よりも高い場合であり、第二の禁止条件は、判定車速V
0が所定車速V
xよりも高い場合である。
【0053】
前者の場合、バッテリー6の充電率Cが十分に高い状態では、ジェネレーター4で発電することができない。つまり、ジェネレーター4で電力として吸収されるエネルギーが減少することから、動力伝達経路内でのエネルギー収支のバランスが崩れ、クラッチ2の回転数を同期させることが困難になる。そこで、発電トルク制御部15bは、バッテリー6の充電率Cが所定充電率C
0を超えるときには発電量可変制御を実施せず、少なくともバッテリー6の充電率Cが所定充電率C
0以下のときに、発電量可変制御を実施する。ここでいう所定充電率C
0とは満充電状態に近い充電率(例えば、90[%]や95[%]など)である。
【0054】
バッテリー6の充電率Cが所定充電率C
0を超えるとき、発電トルク制御部15bは、発電量が一定値に固定されるようにジェネレーター4の駆動電流を制御する。このときの発電量は、例えばアイドリング状態のエンジン1の出力に対応する程度の大きさに設定される。
【0055】
後者の場合、判定車速V
0が高い状態ではモーター3の回転数Nmが大きく、さらにクラッチ2の係合後のエンジン回転数Neも大きくなるため、ジェネレーター4で電力として吸収しなければならないエネルギーが増大してしまう。これにより、動力伝達経路内でのエネルギー収支のバランスが崩れ、クラッチ2の回転数を同期させることが困難になる。そこで、発電トルク制御部15bは、判定車速V
0が所定車速V
xを超えるときには発電自体を実施せず、少なくとも判定車速V
0が所定車速V
x以下のときに、発電量可変制御を実施する。ここでいう所定車速V
xとは、例えば時速100[km/h]以上の速度である。判定車速V
0が所定車速V
xを超えるとき、発電トルク制御部15bは発電を実施しない。
【0056】
なお、発電トルク制御部15bは、クラッチ2がほぼ完全に係合した旨の情報を回転数差演算部13bから受け取ったときには、ジェネレーター4を停止させる制御を実施する。このとき、ジェネレーター4での発電トルクT
GENが所定の減少時間Fでゼロになるように、ジェネレーター4の駆動電流が制御される。これにより、クラッチ2がほぼ完全に締結した後には、モーター3がその出力を減少させるのと同時に、ジェネレーター4が変換する電力を減少させることになる。したがって、駆動輪8側に伝達されるトータルの出力が一定のまま、かつ、エンジン1の出力も一定のまま、モーター3及びジェネレーター4の動作が同期的に停止する。
【0057】
バッテリー制御部16は、バッテリー6の状態を検出,算出するものである。ここでは、電流値A,電圧値B,電池温度E等に基づいて、バッテリー6の充電率Cが演算される。充電率Cは、例えば電流値A,電圧値B,電池温度Eと充電率Cとの対応関係を定める数式やマップを用いて演算される。ここで得られた充電率Cの値は、エンジン制御部12,クラッチ制御部13,ジェネレーター制御部15に伝達される。
【0058】
[3.フローチャート]
車両制御装置11の内部では、
図3に示すフローチャートが所定周期で繰り返し実施される。このフローは、シリーズモードやEVモードからパラレルモードへの移行制御を実施するか否かを判定するためのフローである。
ステップA10では、各種センサー情報が車両制御装置11に入力される。続くステップA20では、切り換え判定部13aにおいて、充電率Cに基づいて第一判定車速V
1が算出されるとともに、電池温度Eに基づいて第二判定車速V
2が算出される。また、ステップA30では、第一判定車速V
1,第二判定車速V
2の何れか小さい一方が、最終的な判定車速V
0として設定される。
【0059】
ステップA40では、現在の車速Vが判定車速V
0を超える速度であるか否かが判定される。ここで、V>V
0である場合にはステップA50へ進み、パラレルモードへの移行制御が開始される。一方、V≦V
0である場合にはステップA60へ進み、これまでの走行モードが維持される。
【0060】
図4は、パラレルモードへの移行制御の内容を説明するためのフローチャートである。このフローは、
図3のフローでステップA50に進んだ場合に開始され、走行モードがパラレルモードになるまで(パラレルモードに完全に移行するまで)繰り返し実施される。
ステップB10では、ジェネレーター制御部15の発電トルク制御部15bにおいて、判定車速V
0が所定車速V
xを超えているか否かが判定される。ここで、V
0>V
xである場合には、ジェネレーター4で電力として吸収しなければならないエネルギーが過大になるものと判断され、ステップB30に進む。一方、ここでV
0≦V
xである場合には、ステップB20に進む。
【0061】
ステップB20では、発電トルク制御部15bにおいて、充電率Cが所定充電率C
0を超えているか否かが判定される。ここでC>C
0である場合には、ジェネレーター4で電力として吸収可能なエネルギーが少ないものと判断され、ステップB40に進む。一方、ここでC≦C
0である場合には、ステップB50に進む。
ステップB30では、発電トルク制御部15bにおいてジェネレーター4による発電が禁止され、ステップB60に進む。一方、ステップB40では、発電量が一定値に固定されるようにジェネレーター4が制御され、ステップB60に進む。この場合、発電電流が直接的にモーター3に供給される。また、ステップB50では、エンジン1で発生する出力に応じて発電量が変化するようにジェネレーター4が制御される発電量可変制御が実施され、ステップB60に進む。
【0062】
ステップB60では、クラッチ2の係合要素2a,2b間の回転速度を同期させる制御が実施される。すなわち、エンジントルク制御部12bでは、エンジン1の実際の出力トルクが制御用目標トルクTに一致する(又は近づく)ように、エンジン1の作動状態が制御される。また、モーター制御部14では、実際のモーター3の出力トルクT
MTRが目標モータートルクTmに一致する(又は近づく)ように、モーター3及びインバーター5が制御される。
【0063】
続くステップB70では、クラッチ制御部13の回転数差演算部13bにおいて、係合要素2a,2b間の回転速度が同期したか否かが判定される。ここでまだ同期していないと判定された場合には、再び本フローのステップB10に進む。したがって、係合要素2a,2bの回転速度が同期するまでの間はクラッチ2が開放状態のまま、モーター3による駆動輪8の駆動が継続され、これと同時にエンジン1の出力が比較的高い状態で制御され、かつ、ジェネレーター4での発電が実施される。
【0064】
一方、係合要素2a,2bの回転速度が同期したと判定された場合にはステップB80に進む。ステップB80では、クラッチ制御部13の回転数差演算部13bにおいて、係合要素2a,2bに対してクラッチ油圧を与える制御信号が出力され、クラッチ2が接続される。
【0065】
続くステップB90では、モーター制御部14において、モーター3の出力トルクT
MTRが所定の減少時間Fでゼロになるようにモーター3及びインバーター5が制御され、モーター3が徐々に停止する。またこれと同時に、ジェネレーター制御部15の発電トルク制御部15bでは、ジェネレーター4での発電トルクT
GENが減少時間Fでゼロになるように、ジェネレーター4の駆動電流が制御され、ジェネレーター4での発電も徐々に停止する。
【0066】
モーター3からの出力とジェネレーター4で吸収される出力とが同期して減少するため、駆動輪8側に伝達される軸トルクは変化することなく、一定のまま維持される。
モーター3の出力とジェネレーター4での発電量とがともにゼロになると、エンジン1のみが駆動輪8に駆動力を伝達する状態となり、車両10の走行モードがパラレルモードとなる。
【0067】
[4.作用]
図5(a)〜(f)を用いて、上記の制御装置による移行制御中の制御作用を説明する。ここでは、時刻t
0よりも前の車速Vが判定車速V
0以下であり、走行モードはシリーズモードである。時刻t
0に車速Vが判定車速V
0を超えて移行制御の開始条件が成立すると、エンジン1の実際の出力トルクが制御用目標トルクTに一致するように、エンジン1の作動状態が制御される。このとき、クラッチ2はまだ係合していない状態であるが、クラッチ2が係合した後にエンジン1が出力すべきトルクの目標値が予測され、目標トルクT
TGTとして演算される。また、制御用目標トルクTは、
図5(c)に示すように、目標トルクT
TGTにロス分トルクT
LOSを加算したものとなる。
【0068】
一方、ジェネレーター4での発電量は、エンジン1で発生する出力から損失分の出力を差し引いたものとされる。例えば、
図5(b)に示すように、時刻t
1でのジェネレーター4の発電量は、そのときの発電トルクT
GENにジェネレーター4の回転数を乗じたものに相当する。このとき、ジェネレーター4の発電量が時刻t
1でのエンジン1の目標トルクT
TGTにエンジン回転数Neを乗じたものと一致するように、ジェネレーター4の駆動電流が制御される。
【0069】
これにより、ジェネレーター4で吸収される電力は、エンジン1で発生する出力から損失分の出力を差し引いたものに一致し、
図5(c)中にハッチング領域で示すように、目標トルクT
TGTに相当する出力がすべてジェネレーター4で電力に変換される。
【0070】
一方、エンジン回転数Neは、
図5(d)に示すように徐々に上昇し、クラッチ2の係合要素2a,2bの回転速度差が減少する。これに応じてロス分トルクT
LOSも小さくなり、制御用目標トルクTが目標トルクT
TGTに漸近する。
図5(c)で記号Xが付された白抜き部分は、エンジン回転数Neが上昇するに連れてロス分トルクT
LOSが減少することを示している。
【0071】
その後、時刻t
2にクラッチ2の係合要素2a,2bの回転速度が同期する。係合要素2a,2bの回転速度が同期した状態でクラッチ2が接続されるため、クラッチスリップが発生せずトルクショックも発生しない。なお、この同期は、係合要素2a,2bの回転速度差が所定速度以下になったことを以て判定してもよいし、制御用目標トルクTと目標トルクT
TGTとが一致したことを以て判定してもよい。あるいは、
図5(d)に示すように、エンジン回転数Neがモーター回転数Nmや目標トルクT
TGTに対応する所定回転数Ne
0になったことを以て判定してもよい。時刻t
2からクラッチ2の係合操作が開始され、クラッチ油圧を与える制御信号が車両制御装置11からクラッチ2に出力される。
【0072】
時刻t
2から所定の係合時間Gが経過した時刻t
3になると、クラッチ2が係合したと判断され、モーター3及びジェネレーター4の動作が同期的に停止するように制御される。モーター3の出力トルクT
MTRは、
図5(a)に示すように、所定の減少時間Fでゼロになるように一定の勾配で減少する。また、ジェネレーター4の発電トルクT
GENも、
図5(b)に示すように、減少時間Fでゼロになるように線形に減少する。
図5(a)中にハッチング領域で示すトルクに対応する出力は、
図5(b)中にハッチング領域で示すトルクに対応する電力量に相当する。
【0073】
これにより、エンジン1から駆動輪8側に伝達される出力は、ジェネレーター4に吸収されていた分を徐々に取り戻して増大する。また、時刻t
4にジェネレーター4での発電が停止する(発電量がゼロになる)と、エンジン1の出力は本来の制御用目標トルクTに対応するものとなる。上記のような制御の結果、
図5(f)に示すように、クラッチ2の係合前から係合後にかけての軸トルク(クラッチ2から駆動輪8側に伝達されるトルク)が安定し、過不足のない駆動力が駆動輪8に伝達される。
【0074】
[5.効果]
(1)このように、上記の車両10での走行モードの切り換え時には、クラッチ2が係合する前から、クラッチ2の係合後に必要となる出力よりも、エンジン出力が大きく設定される。これにより、クラッチ2の係合直後から過不足のないエンジン出力で車両10を走行させることができ、走行,加速のもたつきや空走感を解消して、走行性能を向上させることができる。なお、クラッチの係合前に制御用目標トルクTを少なくとも目標トルクT
TGT以上の大きさに設定しておけば、このような効果を奏するものとなる。
【0075】
(2)また、上記の車両10では、エンジン出力の余剰分に相当する電力が、クラッチ2の係合前からジェネレーター4で吸収される。つまり、ジェネレーター4で吸収される電力を変更すれば、クラッチ2の係合状態に関わらず、係合要素2aに伝達されるエンジン出力の大きさが可変となる。したがって、クラッチ2を係合させる際の制御性を向上させることができる。
【0076】
また、クラッチ2の係合前のエンジン出力が、クラッチ係合後を見越した大きめの値に設定されていることから、クラッチ2に伝達されるエンジン出力の最大値は、クラッチ2の係合後に必要となる出力以上の大きな値となる。一方、ジェネレーター4で吸収される電力を大きくすれば、クラッチ2に伝達されるエンジン出力が微小な値となる。したがって、クラッチ2に伝達される出力の変更幅を増大させることができる。さらに、幅広い変更幅で駆動輪8側に伝達される出力が変更可能であるため、クラッチ2の係合直後から過不足のないエンジン出力を駆動輪8側に伝達することができ、加速のもたつきや空走感を確実に解消することができ、走行性能をさらに向上させることができる。
【0077】
(3)また、上記の車両10では、バッテリー6の充電率Cが所定充電率C
0以下のときに、発電量可変制御が実施される。ジェネレーター4での発電ができない場合には、発電量可変制御が不実施とされ、発電量が一定値に固定されて、発電電流が直接的にモーター3に供給される。このような制御構成により、動力伝達経路内でのエネルギー収支を精度よく均衡させることができ、クラッチ2の係合要素2a,2bの回転数を同期させやすくすることができるとともに、クラッチ2の係合後の出力制御性を向上させることができる。
【0078】
(4)また、上記の車両10では、クラッチ2の係合後にモーター3を停止させる際に、モーター3及びジェネレーター4の動作が同期的に停止するように制御される。例えば、
図5(a),(b)に示すように、モーター3の出力トルクT
MTRは所定の減少時間Fでゼロになるように一定の勾配で減少し、ジェネレーター4の発電トルクT
GENも減少時間Fでゼロになるように一定の勾配で減少する。一方、エンジン1の制御用目標トルクTは、モーター3の作動状態とは無関係に制御可能であり、例えば
図5(c)に示す例では変動せず一定のままとなる。
【0079】
このように、モーター3の出力を減少させる操作とジェネレーター4で電力に変換される出力を減少させる操作とを連動させることにより、エンジン1の出力を変化させることなく、駆動輪8に伝達される軸トルクを一定に維持することが容易となり、パラレルモードへのスムーズな移行が可能となる。また、例えば従来のハイブリッド自動車では、クラッチ2の係合後にエンジン1の出力を短時間で増大させる必要があったが、上記の車両10ではその必要がない。したがって、クラッチ係合後の駆動トルクを安定させることができ、走行性能を向上させることができる。
【0080】
(5)また、上記の車両10では、クラッチ2の係合要素2a,2bの回転速度が同期したときに、クラッチ2を係合させる操作が実施される。したがって、クラッチスリップの発生を防止することができるとともに、トルクショックの発生を防止することができる。また、発電量可変制御では、係合要素2a,2bの回転速度を同期させるのに要する出力のみがクラッチ2のエンジン1側の係合要素2aに伝達されるため、制御精度を向上させることができ、比較的短時間で係合要素2a,2bの回転速度を同期させることができる。
【0081】
(6)また、上記の車両10では、車速Vに基づいて走行モードの切り換えが実施され、パラレルモードはEVモード,シリーズモードよりも比較的高速での走行時に設定される。一般に、モーター3はエンジン1と比較して低速域で安定した大トルクを出力可能であることから、低速域にモーター3を主体とした走行モードを利用することで、車両10の発進性を向上させることができる。一方、中高速域ではモーター3の出力トルクが減少するのに対してエンジン1の出力トルクが増大するため、エンジン1を主体とした走行モードを利用して、車両10のエネルギー効率や運動性能を高めることができる。また、このように、モーター3及びエンジン1のそれぞれの出力特性を考慮して走行モードを切り換えることにより、車両10の走行性能を向上させることができる。
【0082】
(7)さらに、上記の車両10では走行モードの切り換えの要否判定に際し、バッテリー6の充電率Cに基づいて設定される第一判定車速V
1や、電池温度Eに基づいて設定される第二判定車速V
2を用いて、判定車速V
0を演算している。このような制御により、バッテリー6の充電率を常に高めの値に維持しておくことができる。また、高温環境下でのバッテリー6及びモーター3の使用をできるだけ控えてエンジン1を使用することができ、バッテリー6及びモーター3の寿命を延ばすことができる。したがって、モーター走行に係る制御の信頼性を向上させることができる。
【0083】
[6.変形例]
上述の実施形態では、走行モードをシリーズモードからパラレルモードへと切り換える際の移行制御について詳述したが、EVモードからパラレルモードへの移行制御についても、同様の制御を実施することができる。この場合、
図5(b)中で時刻t
0以前の発電トルクT
GENがゼロであり、
図5(c)中で時刻t
0以前の制御用目標トルクTもゼロである。一方、時刻t
0以降は、ほぼ同様のグラフ形状となる。
【0084】
また、上述の実施形態では、
図5(f)に示すように、移行制御中の軸トルクがほぼ一定となる場合にについて例示したが、軸トルクの値は必ずしも一定とは限らない。例えば、移行制御中にアクセルペダルの踏み込み操作が強められれば、モーター3の出力トルクT
MTRが増加するとともにエンジン1の制御用目標トルクTが増加し、これに伴って、発電トルクT
GENも増加する。これにより、駆動輪8に伝達される軸トルクの大きさは、アクセルペダルの踏み込み操作に応じたものとなる。
【0085】
また、モーター3の出力トルクT
MTRとジェネレーター4の発電トルクT
GENとがともに増加することから、モーター3及びジェネレーター4の動作を同期させることができ、すなわちモーター3の作動状態とは無関係にエンジン1の出力を制御することができる。したがって、モーター3を停止させるときにエンジン1に特別な操作は不要であり、クラッチ係合後の駆動トルクを安定させて、走行性能を向上させることができる。