(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系材と鋼材とを互いに重ね合わせた状態で一対の電極により挟持するとともに当該電極への通電によりこれら材料どうしを抵抗スポット溶接する溶接方法であって、
各々が通電期間と通電停止期間とを備える複数のステップを順に実行することにより、複数のステップに分けて断続的に前記電極に電流を供給し、
前記複数のステップにおける前記通電期間の各長さを前記実行の順における後のステップほど長くし、かつ、前記複数のステップにおける前記通電停止期間の各長さを一定にすることにより、各ステップの積算電流量を前記実行の順における後のステップほど段階的に増加させることを特徴とする溶接方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、前記特許文献1に開示されている従来方法では、チリの発生を抑制してこの抑制に伴う接合強度の向上は実現できるものの、各ステップにおいて各材料、特に、アルミニウム系材が過剰に加熱されて、接合部分周辺のアルミニウム系材の変形量が大きくなるとともに電極にアルミニウム系材が凝着して以降の溶接に悪影響を及ぼすという事態が生じて生産性が悪化すること、および、アルミニウム系材の厚みが減少することを突き止めた。
【0006】
本発明は、前記のような事情に鑑みてなされたものであり、生産性を高めつつ接合強度を確保することのできるアルミニウム系材と鋼材との抵抗スポット溶接方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系材と鋼材とを、互いに重ね合わせた状態で一対の電極により挟持するとともに当該電極への通電により抵抗スポット溶接する溶接方法であって、
各々が通電期間と通電停止期間とを備える複数のステップを順に実行することにより、複数のステップに分けて断続的に
前記電極に電流を供給し、前記複数のステップにおける前記通電期間の各長さを前記実行の順における後のステップほど長くし、かつ、前記複数のステップにおける前記通電停止期間の各長さを一定にすることにより、各ステップの積算電流量を前記実行の順における後のステップほど段階的に増加させることを特徴とする溶接方法を提供する。
【0008】
この方法によれば、電極に複数のステップに分けて断続的に電流を供給することで各材料が過剰に加熱されるのを回避しつつ、基準期間に電極に供給する積算電流量を段階的に増加させることで先のステップでのナゲット形成に伴う材料間の抵抗低下に対抗して各材料の加熱量を増大することができ電流の供給に伴ってナゲットを適切に拡大させることができる。従って、この方法によれば、大電流の長時間通電を1ステップで行うことに伴い各材料、特にアルミニウム系材が過剰に加熱されることにより生じる、チリの発生、アルミニウム系材の変形、アルミニウム系材の厚みの減少およびアルミニウム系材の電極への凝着を抑制して生産性を高めつつ、ナゲット拡大に伴う接合強度の向上を実現することができる。
【0012】
また、この方法によれば、
複数のステップにおける通電期間の各長さを実行の順における後のステップほど長くなるように変更するという簡単な方法で、積算電流量を段階的に増加させることができ、電流制御を容易に行うことができる。
【0013】
また、
本発明は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系材と鋼材とを互いに重ね合わせた状態で一対の電極により挟持するとともに当該電極への通電によりこれら材料どうしを抵抗スポット溶接する溶接方法であって、各々が通電期間と通電停止期間とを備える複数のステップを順に実行することにより、複数のステップに分けて断続的に前記電極に電流を供給し、前記複数のステップにおける前記通電期間の各長さを一定にし、かつ、前記複数のステップにおける前記通電停止期間の各長さを前記実行の順における後のステップほど短くすることにより、各ステップの積算電流量を前記実行の順における後のステップほど段階的に増加させることを特徴とする溶接方法を提供する。
【0014】
この方法によれば、通電停止時間を段階的に変更するという簡単な方法で、積算電流量と同意義である各ステップの発熱量を段階的に増加させることができ、電流制御を容易に行うことができる。
【0015】
なお、上記の方法において、前記一対の電極の挟持圧力は略一定であってもよいが、ステップ毎の当該挟持圧力をステップの進行(ステップ数の増加)に伴い変化させるようにすれば、ナゲット形成を促進させる上で有効となる。
【0016】
具体的には、前記ステップ毎の前記電極による挟持圧力を、前記ステップの進行に伴い低くするようにする。
【0017】
この方法によれば、ステップの進行に伴い材料(アルミニウム系材と鋼材)間の接触抵抗が増加して各材料の発熱が促進される。その結果、ナゲット形成が効果的に促進される。また、挟持圧力をステップの進行に伴い低くすることで、アルミニウム系材の変形を抑制することが可能となる。
【0018】
また、前記ステップ毎の前記電極による挟持圧力を、前記ステップの進行に伴い高くするようにしてもよい。
【0019】
この方法によれば、ステップの進行による電流量の上昇に伴い発生し易くなるチリの発生を効果的に押さえ込むことが可能となる。さらに、材料同士の接触面積を拡大させることが可能となる。そのため、チリの発生を抑制しつつ比較的大きな電流を電極に供給して材料を加熱することが可能となり、これにより、ナゲット形成を促進させることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、アルミニウム系材と鋼材との抵抗スポット溶接において生産性を高めつつこれらの接合強度を確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しつつ、本発明の、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるア
ルミニウム系材と鋼材とを抵抗スポット溶接する溶接方法の好ましい実施形態について説明する。
【0023】
本発明に係る溶接方法の概要を説明する。ここでは、
図1に示すように、板状のアルミニウム系材10と板状の鋼材20とを抵抗スポット溶接する場合について説明する。各板材10,20の具体的な材質は特に限定されないが、例えば、アルミニウム系材10としては、JIS6000系(Al−Mg−Si系合金)が用いられ、鋼材20としては、亜鉛メッキが施された鋼材が用いられる。
【0024】
まず、アルミニウム系材10と鋼材20とを互いに重ね合わせて配置する。次に、これら板材10,20を一対の電極30a,30bにより挟持する。このとき、電極30a,30bを互いに近づく方向に押圧し、電極30a,30bを介して板材10,20を互いに近づく方向に所定の加圧力(本発明の挟持圧力)で加圧する。そして、板材10,20への加圧を維持した状態で、電極30a,30bに電流を供給する。
【0025】
電極30a,30bへ電流が供給されると、アルミニウム系材10と鋼材20とは、自身の材料抵抗および板材どうしの接触抵抗により、電極30a,30bとの接触部分を中心として発熱する。すなわち、電極30a,30bへの電流の供給に伴い、アルミニウム系材10と鋼材20とは加熱される。加熱されることで、
図2に示すように、アルミニウム系材10は溶融して鋼材20にはりつき、これら各板材10,20間にナゲット40が形成されて、アルミニウム系材10と鋼材10とが接合される。
【0026】
ここで、アルミニウム系材10と鋼材20との接合強度を高めるためには、アルミニウム系材10を十分に溶融させてナゲット径R(ナゲット40の板面方向の直径)が大きい方が好ましい。そして、このナゲット径Rを大きくするためには、電極30a,30bに供給する電流量を大きくする必要がある。
【0027】
ところが、電極30a,30bに電流量一定の電流を連続して供給する方法を用い、この電流量を大きくした場合には、アルミニウム系材10が過剰に加熱されてチリとなって滅失するという問題、電極30a,30bの中心部分の加熱量が周囲部分に比べて過剰に大きくなりこの中心部分におけるアルミニウム系材10の板厚が減少するという問題、電極30a,30bの周囲部分におけるアルミニウム系材10が盛り上がる等してアルミニウム系材10が大きく変形するという問題、また、溶融したアルミニウム系材10が電極30aに凝着するという問題が生じる。
【0028】
この問題に対して、
図3に示すように、電極30a,30bに対して電流量一定の電流を供給する一方、これら電極30a,30bへの通電を瞬間的に停止させる方法がある。具体的には、この方法では、電極30a,30bに時間t1_bだけ電流量Ibの電流を供給した後、時間t2_b通電を停止させるというサイクルを複数回行う。本発明者らは、この方法を用いて各種試験を行った結果、この方法を用いればチリの発生をある程度抑制することができ、チリの抑制に伴って接合強度をある程度高めることができることを確認した。一方、本発明者らは、この方法、すなわち、電極30a,30bに対して電流量一定の電流を供給しつつ瞬間的にその通電を停止させる方法を用いても、接合強度のさらなる向上と、アルミニウム系材10の板厚の減少の抑制、アルミニウム系材10の変形の抑制、アルミニウム系材10の電極への凝着の抑制とを両立させることができないことを発見した。具体的には、電極30a,30bへ供給する電流量を大きくする場合、アルミニウム系材10の板厚の減少等の問題は避けられないことを発見した。
【0029】
本発明者らは、この結果について鋭意研究した結果、前記のように瞬間的に通電を停止させつつ電流量一定の電流を電極30a,30bへ供給する方法、すなわち、複数のステップに分けて電極30a,30bを通電する方法では、各ステップでの加熱量が過剰となることで、アルミニウム系材10の変形量が大きくなる、アルミニウム系材10の板厚が減少する、アルミニウム系材10が電極30aに凝着するという問題が依然として生じることを突き止めた。
【0030】
そして、この知見に基づき、本発明者らは、複数のステップに分けて十分な通電停止時間を設けながら断続的に、かつ、これら電極30a,30bに供給された電流量を予め設定された基準期間積算した積算電流量が段階的に増加するように、前記電極30a,30bに電流を供給することで、接合強度のさらなる向上と、アルミニウム系材10の板厚の減少の抑制、アルミニウム系材10の変形の抑制、アルミニウム系材10の電極への凝着の抑制との両立を実現した。なお、積算電流量は、電極30a,30bに供給される電流値と時間との積算値に相当する。
【0031】
第1実施形態に係る溶接方法では、
図4に示すような波形の電流を電極30a,30bに供給することで、電極30a,30bに複数のステップに分けて断続的に電流を供給し、かつ、積算電流量を段階的に増加させることを実現した。すなわち、第1実施形態に係る溶接方法では、一定時間t1の間、電極30a,30bに連続的に電流を供給するというステップを、一定の通電停止時間t2を挟んで複数回実施し、かつ、各ステップでの電流量Iを徐々に増加させる。
【0032】
ここで、電極30a,30bに供給された電流量を予め設定された基準期間積算した積算電流量が段階的に増加するように前記電極30a,30bに電流を供給するとは、すなわち、先のステップでのナゲット形成に伴う板材10,20間の抵抗減少に対抗して次のステップにおいてこれら板材10,20間の発熱量を増大させるということであり、前記基準期間は、第1ステップS1の開始から第2ステップS2の開始までの時間以上の時間であって、全通電時間すなわち第1ステップS1の通電開始から最終ステップの通電終了までの時間を均等に複数に分けた時間である。例えば、第1実施形態では、通電時間t1と通電停止時間t2の和(t1+t2)の値を用いることができる。
【0033】
図4に示す例では、電流供給ステップを4回実施しており、第1〜第4ステップS1〜S4における電流量I1〜I4を、I1<I2<I3<I4となるように設定している。例えば、各ステップS1、S2、S3、S4での電流量I1、I2、I3、I4は、順に15kA、15.5kA、16kA、16.5kAに設定される。
【0034】
ここで、アルミニウム系材10の過剰な加熱を抑制するためには、通電停止時間t2を長くしてこの通電停止時間においてアルミニウム系材10の温度をより低下させるのが好ましい。そこで、この第1実施形態では、通電停止時間t2を通電時間t1と同じ時間に設定して長く確保し、アルミニウム系材10の過剰な加熱を確実に抑制している。例えば、t1とt2とは同じ167ms程度に設定される。
【0035】
また、前記電極30a,30bが、いわゆるR型であって先端面が曲面を呈するものでは、大電流を必要とし装置負荷が高くなる上、チリが発生しやすくなる。そこで、この実施形態では、前記電極30a,30bとして、先端面が平面を呈し各材と面接触するものを用いる。例えば、その先端面が直径5〜6mm(電極の直径は13〜16mm)のものを用いる。なお、各ステップS1〜S4における通電時の電極30a,30bによる加圧力は一定であり、例えば、4.9kNに設定される。
【0036】
以上のように、第1実施形態に係る溶接方法では、一定の通電停止時間t2を挟んで断続的に一定の通電時間t1だけ電極30a,30bに通電し、かつ、電極30a、30bへの通電電流量をステップの増加に伴って徐々に増加させる。この方法によれば、断続的に電極30a,30bに通電されることでアルミニウム系材10が過剰に加熱されるのが回避され、チリの発生、アルミニウム系材の変形、ナゲットの厚みの減少およびアルミニウム系材10の電極への凝着を抑制することができるとともに、通電電流ひいてはアルミニウム系材10の加熱量が段階的に増加することで先のステップでのナゲット形成に伴う材料間の抵抗低下に対抗して材料間の発熱量を確保して通電実施毎にナゲットを適切に拡大させていくことができ接合強度を高めることができる。特に、通電停止時間t2が長い時間確保されているため、前記過剰な加熱を回避することができる。
【0037】
なお、
図4および後述する
図5、
図6は、インバータ式電源を用いて電極30a,30bを通電した場合を示しているが、電源の種類はこれに限らない。例えば、単相交流式電源を用い、1/2サイクルの交流波の一部を通電停止状態とさせてもよい。
【0038】
次に、第2実施形態に係る溶接方法について説明する。この第2実施形態に係る溶接方法は、電極30a,30bへの具体的な通電方法においてのみ第1実施形態と異なる。そこで、ここでは、この通電方法についてのみ説明する。
【0039】
第2実施形態に係る溶接方法では、
図5に示すような波形の電流を電極30a,30bに供給することで、電極30a,30bに複数のステップに分けて断続的に電流を供給し、かつ、積算電流量を段階的に増加させることを実現した。すなわち、第2実施形態に係る溶接方法では、電極30a,30bに電流量一定の電流I20を連続的に供給するというステップを、一定の通電停止時間t20を挟んで複数回実施し、かつ、各ステップでの通電時間を徐々に増加させる。
【0040】
図5に示す例では、電流供給ステップを4回実施しており、第1〜第4ステップS1〜S4において、電流量I20を一定に制御する一方、各ステップS1〜S4の通電時間t21〜t24を、t21<t22<t23<t24となるように制御する。例えば、各ステップS1〜S4での通電電流I20が15.5kA一定とされ、通電停止時間t20が167ms一定とされ、各ステップS1〜S4での通電時間t21、t22、t23、t24が、順に167、200ms、233ms、266msに設定される。
【0041】
この第2実施形態に係る溶接方法においても、断続的に電極30a,30bが通電されつつ、各ステップでの通電時間が徐々に増加されることにより板材10,20の加熱量が段階的に増加される。そのため、アルミニウム系材10が過剰に加熱されるのを回避して、チリの発生、アルミニウム系材の変形、ナゲットの厚みの減少およびアルミニウム系材10の電極への凝着を抑制することができる上に、先のステップでのナゲット形成に伴う材料間の抵抗低下に対抗して材料間の発熱量を確保して通電実施毎にナゲットを適切に拡大させていくことができ接合強度を高めることができる。
【0042】
次に、第3実施形態に係る溶接方法について説明する。この第3実施形態に係る溶接方法も、電極30a,30bへの具体的な通電方法においてのみ第1実施形態と異なる。そこで、ここでは、この通電方法についてのみ説明する。
【0043】
第3実施形態に係る溶接方法では、
図6に示すような波形の電流を電極30a,30bに供給することで、電極30a,30bに複数のステップに分けて断続的に電流を供給し、かつ、積算電流量を段階的に増加させることを実現した。すなわち、第3実施形態に係る溶接方法では、電極30a,30bに電流量一定の電流30を一定時間t30連続的に供給するというステップを、所定の通電停止時間を挟んで複数回実施し、かつ、各ステップ間の通電停止時間を徐々に減少させる。
【0044】
図6に示す例では、電流供給ステップを4回実施しており、第1〜第4ステップS1〜S4において電流量I30および通電時間t30を一定に制御する一方、第1ステップS1と第2ステップS2の間の第1通電停止時間t31と、第2ステップS2と第3ステップS3の間の第2通電停止時間t32と、第3ステップS3と第4ステップS4の間の第3通電停止時間t33とを、t31>t32>t33となるように設定制御する。例えば、各ステップS1〜S4での通電電流量I30が15.5kA、通電時間t30が167ms一定とされ、各通電停止時間t31、t32、t33が、順に167、125ms、83msに設定される。
【0045】
この第3実施形態に係る溶接方法においても、断続的に電極30a,30bが通電されつつ、通電停止時間(板材10,20の冷却時間)が徐々に短くなることで各ステップの通電初期の材料抵抗が徐々に上昇し、その結果、板材10,20の加熱量が段階的に増加される。そのため、アルミニウム系材10が過剰に加熱されるのを回避して、チリの発生、アルミニウム系材の変形、ナゲットの厚みの減少およびアルミニウム系材10の電極への凝着を抑制することができる上に、先のステップでのナゲット形成に伴う材料間の抵抗低下に対抗して材料間の発熱量を確保して通電実施毎にナゲットを適切に拡大させていくことができ接合強度を高めることができる。
【0046】
次に、第4実施形態に係る溶接方法について説明する。
【0047】
この第4実施形態に係る溶接方法は、電極30a,30bへの具体的な通電方法は第1〜第3実施形態の何れかと同じで、ステップ毎の電極30a,30bによる加圧力を、ステップが進行するに伴い(ステップ数が増加するに伴い)低くなるようにしたものである。
【0048】
図7は、第4実施形態に係る溶接方法の通電電流と加圧力との関係を示したタイムチャートである。同図に示すように、この実施形態の通電方法は、上述した第1実施形態の通電方法と同じである。具体的には、一定時間t1の間、電極30a,30bに連続的に電流を供給するというステップS1〜S4を、一定の通電停止時間t2を挟んで複数回実施するとともに、各ステップでの電流量Iを徐々に増加させる。例えば電流量I1、I2、I3、I4は、順に15kA、15.5kA、16kA、16.5kAに設定され、t1とt2は167ms程度に設定される。
【0049】
そして、通電時の電極30a,30bによる板材10,20の加圧力をステップ毎に、詳しくは電極30a,30bに時間t1だけ電流を供給した後、時間t2だけ通電を停止させるというサイクル毎に、一定値ずつ徐々に減少させる。例えばステップS1〜S4の各加圧力P1、P2、P3、P4は、4.9kN、3.92kN、2.94kN、1.96kNに設定される。つまり、ステップ毎に0.98kNずつ加圧力を減少させる。なお、ステップS4の加圧力P4は、この抵抗スポット溶接における初期加圧期間中の圧力として設定される初期加圧力P0と等しく、例えば1.96kNに設定されている。
【0050】
この第4実施形態に係る溶接方法によれば、ステップの進行に伴い電極30a,30bによる加圧力が一定値ずつ減少することで、当該ステップの進行に伴って板材10,20間の接触抵抗が増加する。そのため、全ステップS1〜S4の加圧力が略一定である第1実施形態の溶接方法に場合に比べると、ステップの進行に伴う各板材10,20の加熱をより良好に行わせることが可能となる。従って、この第4実施形態に係る溶接方法によれば、各ステップS1〜S4でのナゲット形成を効果的に促進させることができ、これにより、より大きなナゲット40を形成して高い接合強度を得ることが可能となる。また、加圧力が一定値ずつ減少することで、アルミニウム系材10の変形を抑制することができるという効果もある。
【0051】
なお、ここでは、具体的な電極30a,30bに対する通電方法として第1実施形態の通電方法を適用した場合について説明したが、勿論、第2、第3実施形態の通電方法を適用するようにしてもよい。これらの場合も同様の作用効果を奏することができる。
【0052】
次に、第5実施形態に係る溶接方法について説明する。
【0053】
この第5実施形態に係る溶接方法は、ステップ毎の電極30a,30bによる加圧力を、ステップが進行するに伴い(ステップ数が増加するに伴い)高くなるようにしたものであり、それ以外は、第4実施形態に係る溶接方法と同様である。
【0054】
図8は、第5実施形態に係る溶接方法の通電電流と加圧力との関係を示したタイムチャートである。同図に示すように、この実施形態は、通電時の電極30a,30bによる板材10,20の加圧力を一定値ずつ徐々に増加させる。例えばステップS1〜S4の各圧力P1、P2、P3、P4は、1.96kN、2.94kN、3.92kN、4.9kNに設定される。つまり、ステップ毎に0.98kNずつ加圧力を増加させる。
【0055】
この第5実施形態に係る溶接方法によれば、ステップの進行に伴い電極30a,30bによる板材10,20の加圧力が増加することで、ステップの進行による電流量の上昇に伴い発生し易くなるチリの発生を効果的に押さえ込むことが可能となる。また、材料同士の接触面積を拡大させることが可能となる。そのため、チリの発生を抑制しつつ比較的大きな電流を電極30a,30bに供給して板材10,20を加熱することができ、これにより、ナゲット形成を促進させて高い接合強度を得ることが可能となる。
【0056】
つまり、第4実施形態に係る溶接方法と第5実施形態に係る溶接方法とは、電極30a,30bによる加圧力を徐々に減少させるか、又は増加させるかで方法および作用が異なるが、何れの場合も、結果的にはナゲット形成を促進させて、より高い接合強度を得ることが可能になるという共通の効果を奏することができる。
【0057】
なお、この第5実施形態では、具体的な電極30a,30bに対する通電方法として第1実施形態の通電方法を適用した場合について説明したが、勿論、第2、第3実施形態の通電方法を適用してもよい。これらの場合も同様の作用効果を奏することができる。
【実施例】
【0058】
次に、第1〜第5実施形態に係る溶接方法を用いてアルミニウム系材10と鋼材20とを抵抗スポット溶接した実施例1〜18の溶接結果と、電極30a,30bに電流量一定の電流を連続して所定時間供給することでアルミニウム系材10と鋼材20とを抵抗スポット溶接した比較例1、2の溶接結果とについて、表1、2を用いて説明する。
【0059】
これら実施例1〜18および比較例1、2では、アルミニウム系材10として、板厚0.9mmの板状のJIS6000系(Al−Mg−Si系合金)材を用い、鋼材20として、板厚0.8mmの亜鉛メッキが施された板状の鋼材を用いた。また、溶接結果として、引張強度TSと、アルミニウム系材10の変形量と、チリの発生状況とを調べた。なお、表1において、引張強度TSにおけるN1、N2は、それぞれ、異なる試験片における値である。
【0060】
まず、表1に従って、第1〜第3実施形態の溶接結果(実施例1〜6)について説明する。実施例1〜6では、
図9に示すように、電極に、電流量I_a,I_b,I_c,I_dの電流をそれぞれ、時間t_on_a,t_on_b,t_on_c,t_on_dずつ供給する第1〜第4の電流供給ステップS1〜S4を、それぞれ、通電停止時間t_off_a,t_off_b,t_off_cあけて実施した。各電流供給ステップS1〜S4ではそれぞれ、電極30a,30bにより加圧力P_a、P_b、P_c、P_dで試験片を挟持した。なお、加圧力P_0は、上述した最低加圧力である。表1には、各実施例1〜6について、それぞれ、これら電流量と、通電時間と、通電停止時間の具体的値を示している。実施例1〜3は、通電時間および通電停止時間を一定として各ステップの電流値を段階的に増加させる第1実施形態に係る溶接方法を用いた結果である。実施例4、5は、各ステップの電流値および通電停止時間を一定として各ステップの通電時間を段階的に増加させる第2実施形態に係る溶接方法を用いた際の結果である。実施例6は、第3実施形態に係り、第2ステップの電流値が第1ステップの電流値よりも大きく設定され、その後の各ステップの電流値が一定、すなわち、第2ステップの電流値と同一とされ、各ステップの通電時間が一定で、かつ、各ステップ間の通電停止時間が段階的に減少されるという溶接方法を用いた結果である。なお、表1中では省略されているが、各ステップの加圧力は一定(P_a=P_b=P_c=P_d=P_0)である。
【0061】
比較例1、2では、前述のように、また、
図10に示すように、電極30a,30bに、電流量I_a一定の電流を連続して時間t_on_a供給した。表1には、比較例1、2について、これら電流値と、通電時間とを示している。
【0062】
表1に示されるように、17.5kAと比較的高い電流が300msが連続的に供給された比較例2では、アルミニウム系材10の変形量が大きくなった上に、チリが生じ、2.5kN程度と低い引張強度しか得ることができなかった。一方、比較例2よりも供給電流が低く、16.5kAの電流が300ms連続的に供給された比較例1では、チリの発生を回避し、かつ、2.6kN程度の引っ張り強度を得ることができたものの、比較例2と同様に、アルミニウム系材10の変形量は大きく、適正な接合形状を得ることができなかった。
【0063】
これに対して、実施例1〜6では、いずれの例においても、チリの発生を回避し、アルミニウム系材10の変形量を中程度以下に抑えつつ、2.6kN以上の引っ張り強度を得ることができた。特に、第1実施形態に係る比較例1〜3では、チリの発生を回避し、アルミニウム系材10の変形量をわずかな量に抑えつつ、2.9kN以上の高い引っ張り強度を得ることができた。
【0064】
ここで、
図11は、比較例1の接合結果を示した写真であり、
図12は、実施例1の接合結果を示した写真であり、これらの写真の領域Aの比較からも、比較例1では、実施例1よりも、アルミニウム系材10の変形量が大きいことがわかる。また、これらの写真から、比較例1におけるアルミニウム系材10の板厚d1が、実施例1における板厚d2よりも小さくなっていることがわかる。さらに、これらの写真から、比較例1では、領域Bにおいて溶融域がアルミニウム系材10の表面まで到達しており、溶融したアルミニウム系材10が電極30aに凝着する状態となっているのに対し、実施例1では、溶融域が表面に達しておらず、適正なナゲットが形成されていることがわかる。
【0065】
【表1】
【0066】
次に、表2に従って、第4、第5実施形態の溶接結果(実施例7〜18)について説明する。
【0067】
表2には、各実施例7〜18について、それぞれ、
図7に基づき、電流量、通電時間、通電停止時間、および加圧力の具体的値を示している。
【0068】
実施例7〜12は、通電方法として第1実施形態に係る通電方法を用いた結果であり、実施例13〜16は、通電方法として第2実施形態に係る通電方法を用いた結果であり、実施例17、18は、通電方法として第3実施形態に係る通電方法を用いた結果、具体的には、上記第6実施例と同様に、第2ステップの電流値が第1ステップの電流値よりも大きく設定され、その後の各ステップの電流値が一定、すなわち、第2ステップの電流値と同一とされ、各ステップの通電時間が一定で、かつ、各ステップ間の通電停止時間が段階的に減少される方法を用いた結果である。なお、実施例番号に続くアルファベット「A」は、第4実施形態、つまりステップ毎の加圧力を、ステップが進行するに伴い減少させた実施例であり、「B」は、第5実施形態、つまりステップ毎の加圧力を、ステップが進行するに伴い増加させた実施例である。比較例1、2は、表1と同じである。
【0069】
表2に示されるように、実施例7〜18のいずれの例においても、チリの発生を回避し、アルミニウム系材10の変形量を中程度以下に抑えつつ、2.9kN以上の引っ張り強度を得ることができた。そして、実施例7〜12の引っ張りと、これら実施例と通電方法が共通する、表1中の実施例1〜3の引っ張り強度とを比較すると、実施例1〜3が2.89kN以上であるのに対して、実施例7〜12は3.15kN以上であった。同様に、実施例13〜16の引っ張りと、表1中の実施例4,5の引っ張り強度とを比較すると、実施例4,5が2.5kN以上であるのに対して、実施例13〜16は2.9kN以上であった。同様に、実施例17、18の引っ張りと、表1中の実施例6の引っ張り強度とを比較すると、実施例6が2.65kN以上であるのに対して、実施例17,18は2.95kN以上であった。つまり、ステップ毎の加圧力をステップの進行に伴い変化させる実施例7〜18の溶接方法によれば、全ステップの加圧力を略一定とする実施例1〜6の溶接方法と同様の通電方法を用いながらも、当該実施例1〜6の溶接方法に比べて、効果的に接合強度を高めることができた。
【0070】
【表2】
【0071】
以上のように、本発明に係る溶接方法によれば、チリの発生を回避し、かつ、アルミニウム系材10の変形、アルミニウム系材10の板厚の減少、アルミニウム系材10の電極への凝着を抑制しつつ、高い引張強度すなわち接合強度を得ることができる。
【0072】
ここで、通電時間、通電停止時間、通電電流量、加圧力、通電ステップ数は前記に限らない。
【0073】
ただし、アルミニウム系材10の過剰な加熱を確実に抑制するためには、通電停止時間を長くするのが好ましい。具体的には、通電停止時間を60〜500ms(60Hzにおいて4サイクル〜30サイクル)とすれば、アルミニウム系材10の過剰な加熱に伴うアルミニウム系材10の変形、アルミニウム系材10の厚みの減少、アルミニウム系材10の電極30a,30bへの凝着、チリの発生といった事態を回避して高い生産性を確保することができることが分かっている。
【0074】
また、アルミニウム系材10の過剰な加熱を確実に抑制するためには、通電電流量をある程度低く抑えるのが好ましい。具体的には、通電電流量を20kA以下、より好ましくは17.5kA以下に抑えれば、アルミニウム系材10の過剰な加熱に伴うアルミニウム系材10の変形等を確実に抑えることができることが分かっている。
【0075】
また、接合強度を確保するためには、電流供給ステップ数を3以上とすることが好ましい。
【0076】
また、第4、第5実施形態に関し、上記実施形態では、加圧力を一定値ずつ減少又は増加させているが、加圧力の変化量は必ずしも一定である必要はない。例えばステップ毎の通電時間に対応した変化量をそれぞれ設定するようにしてもよい。
【0077】
また、第4、第5実施形態では、各ステップの通電開始時点で加圧力を変化させるようにしているが、加圧力を変化させるタイミングは、通電終了時点や通電停止中であってもよい。
【0078】
また、本発明は、複数のステップに分けて断続的に、かつ、前記電極に供給された電流量を予め設定された基準期間積算した積算電流量が段階的に増加するように、電極に電流を供給すればよく、その具体的な通電方法は、前記に限らない。例えば、前述の各実施形態に係る通電方法を組み合わせてもよい。