(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について説明する。本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒は、結晶粒径(最大長さ)が1μm未満の多結晶ダイヤモンド(以下、「ナノ多結晶ダイヤモンド」と称する)からなる。該ナノ多結晶ダイヤモンド砥粒の平均二次粒子径が1μm以上200μm程度である。該ナノ多結晶ダイヤモンド砥粒は、0.001質量%以上3質量%以下のホウ素を含有している。
【0017】
上記ナノ多結晶ダイヤモンドは、結合剤、焼結助剤、触媒等を実質的に含まない。このナノ多結晶ダイヤモンドは、不純物量も極めて少なく、粒径が1μm未満である結晶粒同士が互いに強固に直接結合したものであり、緻密で空隙の極めて少ない結晶組織を有している。これにより、このナノ多結晶ダイヤモンドは、高温下においても、従来の多結晶ダイヤモンドやダイヤモンド焼結体と比べて優れた硬度特性を有することができる。
【0018】
なお、ナノ多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は1μm未満であれば、各結晶粒間である程度のバラツキを含んでもよい。しかし、ナノ多結晶ダイヤモンドの結晶粒間の結合力の観点から、結晶粒径のばらつきは小さい方が好ましい。
【0019】
上記ホウ素は、ナノ多結晶ダイヤモンドにおいて、原子レベルで均一に分散している。「原子レベルで分散する」とは、本願明細書では、たとえば、真空雰囲気中で、炭素と、ホウ素とを、気相状態で混合させて固化して炭素材料を作製した場合に、該固体炭素中にIII族元素が分散するレベルの分散状態をいう。これにより、従来にないレベルで、ホウ素が均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。つまり、凝集した状態でダイヤモンド中に混入したホウ素がほとんど存在せず、また、添加されたホウ素はダイヤモンドの結晶粒界に凝集することもないため、ダイヤモンド結晶の異常成長をも効果的に抑制することができる。
【0020】
さらに、上記ナノ多結晶ダイヤモンドでは、ダイヤモンド中でのホウ素の濃度分布も生じ難くなる。このことからも、ダイヤモンドの結晶粒の局所的な異常成長を効果的に抑制することができ、従来例と比較すると、ダイヤモンドの結晶粒の大きさをも揃えることができる。
【0021】
本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、ホウ素を原子レベルで分散するように含有しているため、ダイヤモンド全体にわたって所望の導電性を付与することができる。つまり、局所的な導電性のばらつきの発生をも効果的に抑制することができる。
【0022】
上記ナノ多結晶ダイヤモンドにおいて、好ましくは、ホウ素は置換型の孤立原子として分散している。つまり、4価の炭素の一部を3価のホウ素が占めている。この結果、共有結合電子が、系として、1個不足した状態になるが、外部から電子を1個受け取った分だけ、非結合の共有結合を完全に満たすため、ダイヤモンドの結合性が高くなると考えられる。すなわち、ホウ素が、置換型の孤立原子として分散するように添加されたダイヤモンドは、耐熱特性や耐摩耗性の向上が期待できる。
【0023】
上記ナノ多結晶ダイヤモンド中のホウ素の濃度は、0.001質量%以上3質量%以下であることが好ましい。これにより、ナノ多結晶ダイヤモンドに金属的な導電性を付与することができる。一方、3質量%以上に添加濃度を高めると、ホウ素を置換型孤立原子として分散するようにダイヤモンド中に固溶させることが難しく、機械的特性を劣化させるおそれがある。
【0024】
本発明者らは、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドが、ノンドープナノ多結晶ダイヤモンドと同等の硬度を有することを確認した。つまり、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、ノンドープナノ多結晶ダイヤモンドと同等の硬度を有し、かつ全体にわたって均一に導電性を有することとなる。
【0025】
上記ナノ多結晶ダイヤモンドが有する優れた特性を維持しながら、ナノ多結晶ダイヤモンドを所望の二次粒子に加工することで、劈開性を実質的に有さず、高温下においても高硬度であり、かつ耐摩耗性に優れた多結晶ダイヤモンド砥粒を得ることができる。該多結晶ダイヤモンド砥粒は、高温下での硬度特性が優れているため、例えば研削熱による硬度低下を防ぐことができ、研削速度を速めることができる。また、該多結晶ダイヤモンド砥粒の寿命は、従来のダイヤモンド砥粒より長寿命ともなる。さらに該多結晶ダイヤモンド砥粒は、非局在化した導電性も有している。このとき、多結晶ダイヤモンド砥粒の平均二次粒子径は、ミクロンオーダーとする。具体的には、1μm以上200μm以下とするのが好ましい。平均二次粒子径を1μm以上としたのは、1μmより小さい場合、ナノ多結晶ダイヤモンドはそれぞれ単独の単結晶のような性質を示すことで、多結晶体としてのメリットである等方性を生かすことができないためである。平均二次粒子径を200μm以下としたのは、平均二次粒子径が200μmより大きい場合、多結晶ダイヤモンド砥粒の強度が低下すると同時に、砥粒としては、研磨面の粗さが大きすぎてしまうためである。
【0026】
本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒は、添加することを意図したホウ素以外の、窒素、水素、酸素、シリコン、結晶粒の成長を促進するような遷移金属等の不純物濃度(以下「不純物濃度」と称する)が0.01質量%以下であるのが好ましい。つまり、不純物濃度が、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)分析での検出限界以下程度である。また、遷移金属については、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析やSIMS分析における検出限界以下程度である。
【0027】
上述のように、黒鉛を用いて多結晶ダイヤモンド砥粒を作製する場合には、該黒鉛の不純物濃度は、0.01質量%以下とするのが好ましい。
【0028】
このように、黒鉛中の不純物量をSIMS分析やICP分析での検出限界レベルにまで低下させることで、該黒鉛を用いてダイヤモンドを作製した場合に、添加することを意図したホウ素以外の不純物量が極めて少ないナノ多結晶ダイヤモンドを作製することができる。なお、SIMS分析やICP分析での検出限界より若干多い不純物を含む黒鉛を用いた場合でも、従来と比較すると格段に優れた特性のナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。
【0029】
上記ナノ多結晶ダイヤモンドは、ホウ素を原子レベルで均一に分散するよう含む一方で、不純物量は極めて少ないため、ホウ素は、炭素中でクラスター状に凝集することがなく、ダイヤモンド全体にわたってほぼ均一に分散した状態となる。理想的には、ホウ素は、炭素中で互いに孤立した状態で存在する。ホウ素は、炭素原子と置換した状態で炭素(ダイヤモンド本体)中に存在し、炭素中に単純に混入された状態ではなく、ホウ素と炭素原子とが化学的に結合したような状態となる。
【0030】
上記高純度のナノ多結晶ダイヤモンドでは、全体にわたって不純物濃度が極めて低くなる。また、該ナノ多結晶ダイヤモンドには、従来のような不純物の偏析も見られず、いずれの部分の不純物濃度も極めて低く、結晶粒界における不純物の濃度も、0.01質量%以下程度である。このように結晶粒界における不純物濃度が極めて低いことから、結晶粒界での結晶粒の滑りを抑制することができ、結晶粒同士の結合を強化することができる。それにより、多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度を高くすることができる。また、結晶粒の異常成長をも効果的に抑制することができ、結晶粒径のバラツキも低減することができる。
【0031】
上記のように、高純度で、かつホウ素を原子レベルで分散するように含有した上記ナノ多結晶ダイヤモンドの優れた特性を維持しながら、ナノ多結晶ダイヤモンドを所望の平均二次粒子径に加工することで、従来の砥粒よりも長寿命の多結晶ダイヤモンド砥粒を得ることができる。
【0032】
これにより、本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒は、硬質なSiC、AlN、GaN等のワイドギャップ半導体の加工に対して特に有用であり、これらの半導体を加工する場合でも、従来のダイヤモンド砥粒より長寿命化することができる。
【0033】
本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒は、ダイヤモンド全体にわたって導電性を有するため、当該砥粒自身を放電加工により微細に成形することもできる。また、当該砥粒を電着により固着させて製造する、電着ワイヤにも適用することもできる。ワイヤへの砥粒の電着は、例えば、めっき液中に砥粒を混合し、ピアノ線をめっき液に含浸(浸漬)した状態で複合めっきしてもよい。本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒は、スラリーにも適用できる。例えば、当該砥粒を溶かしたスラリーを塗布した砥石は、研削作用と放電作用とを併せ持った放電複合研削法に用いることもできる。
【0034】
次に、本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒の製造方法について説明する。本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒は、ホウ素を含有した炭素材料を、高温高圧下(例えば、12GPa以上の圧力、1500℃以上の温度)で結合剤を用いずに焼結してダイヤモンドに直接的に変換し、1μm未満の結晶粒径を有するナノ多結晶ダイヤモンドを得た後、該ナノ多結晶ダイヤモンドを加工することで作製できる。
【0035】
上記炭素材料は、例えば、基材上に気相合成等により形成された黒鉛とすることができる。黒鉛は、一体の固体であり、結晶化部分を含むものであってもよい。該黒鉛へのホウ素の添加は、ホウ素を炭素中に原子レベルで分散するように添加することができる、任意の方法を採用可能である。黒鉛の形成後に黒鉛中に添加してもよいし、黒鉛の形成段階で黒鉛中に添加してもよい。例えば、気相合成法により形成した黒鉛と、炭化ホウ素(B
4C)とを混合し、2500℃程度で熱処理してもよい。あるいは、B
4Cの代わりに、酸化ホウ素(B
2O
3)を用いてもよい。また、気相合成法を採用して黒鉛の形成段階で黒鉛中に添加することもできる。具体的には、ホウ素を含むガスと炭化水素ガスとの混合ガスを1500℃以上の温度で熱分解して基材上に黒鉛を形成し、同時に黒鉛中にホウ素を添加することができる。
【0036】
気相合成法を採用した場合、上記ホウ素を含むガスとして、例えば、ホウ素の水素化物からなる第1のガス、トリメチル硼素、トリエチル硼素から選ばれる一つ以上のガスからなる有機金属系の第2のガスのいずれかを使用可能である。上記ガスの2つ以上を適宜混合することも考えられる。
【0037】
上記のように、気相の状態で黒鉛形成用の原料ガス中にホウ素を混合して黒鉛中にホウ素を添加することで、理想的には、ホウ素は黒鉛中に置換型の孤立原子として分散するように存在すると考えられる。
【0038】
また、炭化水素ガスに対するホウ素を含むガスの添加量を適切に調整することで、所望の量のホウ素を黒鉛に添加することができる。
【0039】
上記混合ガスの熱分解は真空チャンバ内で行うことができ、この際に真空チャンバ内の真空度を比較的高く設定することで、黒鉛中への不純物混入を抑制することができる。例えば、真空チャンバ内の真空度は、20〜100Torr程度とすればよい。しかし、実際には、黒鉛中には、意図しない不可避不純物が混入してしまう。この不可避不純物としては、窒素、水素、酸素、シリコン、遷移金属等であって、添加することを意図したホウ素以外の元素を挙げることができる。
【0040】
このとき、炭化水素ガスおよびホウ素を含むガスの純度を高めることで、不純物量の極めて少ない黒鉛を基材上に作製するのが好ましい。例えば、真空チャンバ内に導入した99.99%以上の純度の炭化水素ガスを1500℃以上3000℃以下程度の温度で熱分解して基材上に形成した黒鉛は、不純物濃度を0.01質量%以下とすることができる。
【0041】
上記炭化水素ガスとしては、たとえばメタンガスを使用可能である。ホウ素を含むガスとしては、上述の各種ガスを使用することができる。炭化水素ガスとホウ素を含むガスとの混合ガスは、例えば10
−7%〜100%までの比率で真空チャンバ内に導入することができる。
【0042】
黒鉛の形成時には、炭化水素ガスと、ホウ素を含むガスとを、基材の表面に向けて流すようにすることが好ましい。それにより、基材近傍で効率的に各ガスを混合することができ、ホウ素を含有する黒鉛を効率的に基材上に生成することができる。炭化水素ガスやホウ素含有ガスは、基材の真上から基材に向けて供給してもよく、斜め方向あるいは水平方向から基材に向けて供給するようにしてもよい。真空チャンバ内に、炭化水素ガスやホウ素含有ガスを基材に導く案内部材を設置することも考えられる。
【0043】
上記のように、黒鉛を基材上に作製する際には、真空チャンバ内に設置した基材を1500℃以上の温度に加熱する。加熱方法としては周知の手法を採用することができる。たとえば、基材を直接あるいは間接的に1500℃以上の温度に加熱可能なヒータを真空チャンバに設置することが考えられる。
【0044】
黒鉛作製用の基材としては、1500℃から3000℃程度の温度に耐え得る材料であればいかなる固相材料であってもよい。具体的には、金属、無機セラミック材料、炭素材料を基材として使用可能である。黒鉛中への不純物混入を抑制するという観点からは、上記基材を炭素で構成することが好ましい。固相の炭素材料としてはダイヤモンドや黒鉛を挙げることができる。黒鉛を基材として使用する場合、上述の手法で作製した不純物量の極めて少ない黒鉛を基材として使用することが考えられる。
【0045】
なお、基材の材料としてダイヤモンドや黒鉛のような炭素材料を使用する場合、基材の少なくとも表面を炭素材料で構成すればよい。たとえば、基材の表面のみを炭素材料で構成し、基材の残りの部分を炭素材料以外の材料で構成してもよく、基材全体を炭素材料で構成してもよい。
【0046】
炭素材料としての黒鉛の結晶粒径は、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドの合成がマルテンサイト変態ではないため、特に制限はない。
【0047】
次に、基材上に作製した上記ホウ素を含有する黒鉛を、温度1500℃以上、圧力12GPa以上の条件下で焼結し、ダイヤモンドに直接的に変換する。これにより、結合剤、焼結助剤、触媒等を実質的に含まず、かつ従来にないレベルでホウ素が均一に添加されたナノ多結晶ダイヤモンドが得られる。該ナノ多結晶ダイヤモンドは、結晶粒同士が互いに直接結合し、緻密で空隙の極めて少ない結晶組織を有するため、高温下においても優れた硬度特性を有するものとなる。
【0048】
また、上記変換後のナノ多結晶ダイヤモンドに含有されたホウ素は、理想的には置換型の孤立原子として分散して存在するため、ナノ多結晶ダイヤモンドの機械的特性は、ホウ素の添加によっても全く損なわれず、耐熱特性や耐摩耗性の向上が期待できる。その結果、本実施の形態のナノ多結晶ダイヤモンドは、結合剤、焼結助剤、触媒等を実質的に含まないノンドープナノ多結晶ダイヤモンドと同等の高いヌープ硬度を有し、かつ導電性も有することになる。
【0049】
また、変換後のナノ多結晶ダイヤモンドに含まれる不純物濃度は、理論的には上記黒鉛中の不純物濃度と同程度となるため、ナノ多結晶ダイヤモンドの不純物濃度も0.01質量%以下とすることができる。このため、ナノ多結晶ダイヤモンドの硬度特性をも向上することができる。
【0050】
ナノ多結晶ダイヤモンドの合成には、一軸性の圧力を加えてもよく、等方的な圧力を加えてもよい。しかし、等方的な圧力によって、結晶粒径や、結晶の異方性の程度を揃えるという観点から、静水圧下での合成が好ましい。これにより、結晶粒径や結晶の異方性の程度が揃ったナノ多結晶ダイヤモンドを作製することができ、結晶粒間の結合をより強くすることができる。
【0051】
次に、先の工程で合成した上記ナノ多結晶ダイヤモンドを、加工して砥粒とする。このとき、ホウ素を含有するナノ多結晶ダイヤモンドが有する優れた特性を維持可能な加工であれば、任意の加工を採用できる。例えば、金属、セラミックまたはそれらの複合体をナノ多結晶ダイヤモンドに衝突させて、粉砕してもよい。衝突に際し、金属、セラミックまたはそれらの複合体を高速な往復運動させてもよい。衝突に用いる金属としては、例えばステンレス(SUS)を使用できる。また、衝突に用いる金属、セラミックまたはそれらの複合体の形状としては、任意の形状を採用でき、例えば球状でもよい。このとき、ナノ多結晶ダイヤモンド砥粒が所望の平均二次粒子径を有するように、衝突の条件を選択することができる。例えば、衝突回数を減らすことで、平均二次粒子径の大きい多結晶ダイヤモンド砥粒を得ることができる。
【0052】
上記多結晶ダイヤモンド砥粒には、ホウ素が、原子レベルで均一に分散している。理想的には、置換型の孤立原子として分散している。そのため、異種元素である硼素が添加されていても、ダイヤモンドの機械的特性は全く損なわれない。
【0053】
なお、上記多結晶ダイヤモンド砥粒は、平均二次粒子径が1μm以上200μm以下の範囲である限りにおいて、二次粒子径が1μm未満や200μm以上の多結晶ダイヤモンド砥粒を含んでいてもよい。また、本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒の製造方法は、ふるい等により、砥粒に用いるナノ多結晶ダイヤモンドの二次粒子径を選択する工程を備えてもよい。これにより、多結晶ダイヤモンド砥粒の二次粒子径を所望の範囲内に揃えることができるため、多結晶ダイヤモンド砥粒による加工品質を向上できる。
【0054】
以上のように、本実施の形態に係る多結晶ダイヤモンド砥粒の製造方法によれば、上記のような優れた特性を有するナノ多結晶タイヤモンドを加工することで、ホウ素が原子レベルで分散した多結晶ダイヤモンド砥粒を作製できるため、従来の砥粒よりも加工速度が大きく、かつ、長寿命な多結晶ダイヤモンド砥粒を得ることができる。
【0055】
なお、本発明における多結晶ダイヤモンド砥粒の平均二次粒子径は、TEM等の顕微鏡像に基づいて、多結晶ダイヤモンド砥粒を構成する個々の多結晶粒(二次粒子)の粒径分布から、D50粒子径として算出する。具体的には、倍率10〜50万倍で観察したTEM(例えば、日立製作所製「H−9000」)の像から、画像解析プログラム(例えば、Scion Corporation社製「ScionImage」)を用いて個々の粒子を抽出し、抽出した粒子を2値化処理して個々の粒子の面積(S)を算出する。該個々の粒子の面積(S)と同じ面積を有する円の直径(2√(S/π))として個々の粒子径(D)を算出し、粒子径の頻度分布を得る。該粒子径の頻度分布を、データ解析プログラム(OriginLab社製「Origin」,Parametric Technology社製「Mathchad」等)によって処理し、累積50%での粒子径(D50粒子径)を算出し、これを平均二次粒子径とする。
【0056】
次に、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0057】
気相合成法により形成した、ホウ素を3質量%含有し、水素、酸素、窒素といった不可避不純物の濃度がSIMS分析で0.01質量%以下である黒鉛を温度2100℃、圧力16GPaの条件下で、直接多結晶ダイヤモンドに
変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は各々10〜100nm程度の大きさであり、各結晶粒同士が直接結合していることを走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))により確認した。
【0058】
このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドに、SUS球を、1秒間に20回、合計18000回衝突させて取り出し、平均二次粒子径が200μm以下のナノ多結晶ダイヤモンドの粒子を得た。該ナノ多結晶ダイヤモンドを1μmのふるいに掛けて選別した、平均二次粒子径100μmの多結晶ダイヤモンド砥粒を水に分散させてスラリーとし、該スラリーを塗布した砥石を作製した。
【0059】
上記砥石で、立方晶ホウ化窒素をラッピングしたところ、従来のダイヤモンド砥粒を用いた場合と比較して、ラッピングレートは2倍になり、砥粒の寿命は5倍以上延びることが確認できた。ラッピング条件は、加重300g/cm
2、回転数60rpm、スラリー噴射時間10秒、スラリー噴射間隔50秒とした。
【実施例2】
【0060】
気相合成法により形成した、ホウ素を3質量%含有し、水素、酸素、窒素といった不可避不純物の濃度がSIMS分析で0.01質量%以下である黒鉛を温度2200℃、圧力16GPaの条件下で、直接多結晶ダイヤモンドに変更した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は各々10〜100nm程度の大きさであり、各結晶粒同士が直接結合していることを走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))により確認した。
【0061】
このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドに、SUS球を、1秒間に20回、合計18000回衝突させて取り出し、平均二次粒子径が200μm以下のナノ多結晶ダイヤモンドの粒子を得た。これを1μmのふるいに掛けて選別した、平均二次粒子径100μmの多結晶ダイヤモンド砥粒をワイヤに固着し、固定砥粒ワイヤを作製した。
【0062】
上記固定砥粒ワイヤで、立方晶ホウ化窒素をカットしたところ、従来のダイヤモンド砥粒を用いた場合と比較して、切削速度は2倍になり、砥粒の寿命は5倍以上延びることが確認できた。
【実施例3】
【0063】
気相合成法により形成した、ホウ素を3質量%含有し、水素、酸素、窒素といった不可避不純物の濃度がSIMS分析で0.01質量%以下である黒鉛を温度2100℃、圧力16GPaの条件下で、直接多結晶ダイヤモンドに
変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は各々10〜100nm程度の大きさであり、各結晶粒同士が直接結合していることを走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))により確認した。
【0064】
このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドに、SUS球を、1秒間に20回、合計18000回衝突させて取り出し、平均二次粒子径が200μm以下のナノ多結晶ダイヤモンドの粒子を得た。該ナノ多結晶ダイヤモンドを10μmのふるいに掛けて選別した、平均二次粒子径5μmの多結晶ダイヤモンド砥粒を水に分散させてスラリーとし、該スラリーを塗布した砥石を作製した。
【0065】
上記砥石で、立方晶ホウ化窒素を、実施例1と同条件でラッピングしたところ、従来のダイヤモンド砥粒を用いた場合と比較して、ラッピングレートは2倍になり、砥粒の寿命は5倍以上延びることが確認できた。
【実施例4】
【0066】
気相合成法により形成した、ホウ素を3質量%含有し、水素、酸素、窒素といった不可避不純物の濃度がSIMS分析で0.01質量%以下である黒鉛を温度2200℃、圧力16GPaの条件下で、直接多結晶ダイヤモンドに変更した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は各々10〜100nm程度の大きさであり、各結晶粒同士が直接結合していることを走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))により確認した。
【0067】
このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドに、SUS球を、1秒間に20回、合計18000回衝突させて取り出し、平均二次粒子径が200μm以下のナノ多結晶ダイヤモンドの粒子を得た。これを10μmのふるいに掛けて選別した、平均二次粒子径5μmの多結晶ダイヤモンド砥粒をワイヤに固着し、固定砥粒ワイヤを作製した。
【0068】
上記固定砥粒ワイヤで、立方晶ホウ化窒素をカットしたところ、従来のダイヤモンド砥粒を用いた場合と比較して、切削速度は2倍になり、砥粒の寿命は5倍以上延びることが確認できた。
【実施例5】
【0069】
気相合成法により形成した、ホウ素を0.001質量%含有し、水素、酸素、窒素といった不可避不純物の濃度がSIMS分析で0.01質量%以下である黒鉛を温度2100℃、圧力20GPaの条件下で、直接多結晶ダイヤモンドに変更した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は各々10〜100nm程度の大きさであり、各結晶粒同士が直接結合していることを走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))により確認した。
【0070】
このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドに、SUS球を、1秒間に20回、合計18000回衝突させて取り出し、平均二次粒子径が200μm以下のナノ多結晶ダイヤモンドの粒子を得た。該ナノ多結晶ダイヤモンドを1μmのふるいに掛け選別した、平均二次粒子径100μmの多結晶ダイヤモンド砥粒を水に分散させてスラリーとし、該スラリーを塗布した砥石を作製した。
【0071】
上記砥石で、立方晶ホウ化窒素を、実施例1と同条件でラッピングしたところ、従来のダイヤモンド砥粒を用いた場合と比較して、ラッピングレートは2倍になり、砥粒の寿命は5倍以上延びることが確認できた。
【実施例6】
【0072】
気相合成法により形成した、ホウ素を0.001質量%含有し、水素、酸素、窒素といった不可避不純物の濃度がSIMS分析で0.01質量%以下である黒鉛を温度2200℃、圧力20GPaの条件下で、直接多結晶ダイヤモンドに変更した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は各々10〜100nm程度の大きさであり、各結晶粒同士が直接結合していることを走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))により確認した。
【0073】
このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドに、SUS球を、1秒間に20回、合計18000回衝突させて取り出し、平均二次粒子径が200μm以下のナノ多結晶ダイヤモンドの粒子を得た。これを1μmのふるいに掛けて選別した、平均二次粒子径100μmの多結晶ダイヤモンド砥粒をワイヤに固着し、固定砥粒ワイヤを作製した。
【0074】
上記固定砥粒ワイヤで、立方晶ホウ化窒素をカットしたところ、従来のダイヤモンド砥粒を用いた場合と比較して、切削速度は2倍になり、砥粒の寿命は5倍以上延びることが確認できた。
【実施例7】
【0075】
気相合成法により形成した、ホウ素を0.001質量%含有し、水素、酸素、窒素といった不可避不純物の濃度がSIMS分析で0.01質量%以下である黒鉛を温度2200℃、圧力20GPaの条件下で、直接多結晶ダイヤモンドに
変換した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は各々10〜100nm程度の大きさであり、各結晶粒同士が直接結合していることを走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))により確認した。
【0076】
このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドに、SUS球を、1秒間に20回、合計18000回衝突させて取り出し、平均二次粒子径が200μm以下のナノ多結晶ダイヤモンドの粒子を得た。これを10μmのふるいに掛けて選別した、平均二次粒子径100μmの多結晶ダイヤモンド砥粒をワイヤに固着し、固定砥粒ワイヤを作製した。
【0077】
上記固定砥粒ワイヤで、立方晶ホウ化窒素をカットしたところ、従来のダイヤモンド砥粒を用いた場合と比較して、切削速度は2倍になり、砥粒の寿命は5倍以上延びることが確認できた。
【実施例8】
【0078】
気相合成法により形成した、ホウ素を0.001質量%含有し、水素、酸素、窒素といった不可避不純物の濃度がSIMS分析で0.01質量%以下である黒鉛を温度2200℃、圧力20GPaの条件下で、直接多結晶ダイヤモンドに変更した。この多結晶ダイヤモンドの結晶粒径は各々10〜100nm程度の大きさであり、各結晶粒同士が直接結合していることを走査型電子顕微鏡(Scaning Electron Microscope(SEM))により確認した。
【0079】
このナノ多結晶ダイヤモンドのヌープ硬度は120GPaであった。該ナノ多結晶ダイヤモンドに、SUS球を、1秒間に20回、合計18000回衝突させて取り出し、平均二次粒子径が200μm以下のナノ多結晶ダイヤモンドの粒子を得た。これを10μmのふるいに掛けて選別した、平均二次粒子径100μmの多結晶ダイヤモンド砥粒をワイヤに固着し、固定砥粒ワイヤを作製した。
【0080】
上記固定砥粒ワイヤで、立方晶ホウ化窒素をカットしたところ、従来のダイヤモンド砥粒を用いた場合と比較して、切削速度は2倍になり、砥粒の寿命は5倍以上延びることが確認できた。
【0081】
なお、上記の実施例において比較対象とした従来のダイヤモンド砥粒は、単結晶ダイヤモンド砥粒である。これをスラリーとして実施例1と同じラッピング条件で立方晶窒化ホウ素を研磨したときのラッピングレートは1μm/hであった。また、従来のダイヤモンド砥粒を固着させてワイヤーソーとし、立方晶窒化ホウ素を切削したときの切削速度は140μm/minであった。
【0082】
以上の実施例では、結晶粒径が10〜100nm程度の高硬度のナノ多結晶ダイヤモンドを粉砕して得られた、平均二次粒子径1〜100μmの多結晶ダイヤモンド砥粒が、従来のダイヤモンド砥粒と比較して、2倍以上の切削速度を実現し、かつ5倍以上も長寿命であることが確認できた。しかし、実施例以外の条件であっても、特許請求の範囲に記載の範囲であれば、同等の特性を有する多結晶ダイヤモンド砥粒を作製できるものと考えられる。
【0083】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行ったが、上述の実施の形態および実施例を様々に変形することも可能である。また、本発明の範囲は上述の実施の形態および実施例に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むことが意図される。