特許第6019778号(P6019778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019778運用監視装置、運用監視装置における原因事象の判定方法、及び情報通信ネットワークシステム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019778
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】運用監視装置、運用監視装置における原因事象の判定方法、及び情報通信ネットワークシステム
(51)【国際特許分類】
   H04B 17/30 20150101AFI20161020BHJP
   H04L 12/26 20060101ALI20161020BHJP
   H04W 24/08 20090101ALI20161020BHJP
   H04M 3/00 20060101ALI20161020BHJP
   G06F 13/00 20060101ALI20161020BHJP
   H04L 29/14 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   H04B17/30
   H04L12/26
   H04W24/08
   H04M3/00 D
   G06F13/00 351N
   H04L13/00 313
【請求項の数】5
【全頁数】46
(21)【出願番号】特願2012-130198(P2012-130198)
(22)【出願日】2012年6月7日
(65)【公開番号】特開2013-255131(P2013-255131A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(72)【発明者】
【氏名】村上 憲夫
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−533983(JP,A)
【文献】 特表2009−528803(JP,A)
【文献】 特開2006−203792(JP,A)
【文献】 特開2012−253622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 17/30
G06F 13/00
H04L 12/26
H04L 29/14
H04M 3/00
H04W 24/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被監視装置において観測された複数の観測データに対して、前記複数の観測データが得られた原因を判定する運用監視装置において、
前記被監視装置から送信された前記複数の観測データを受け付ける観測事象受付処理部と、
前記複数の観測データそれぞれに対して前記原因によって発生する各確率が時間経過とともに増加する観測データを抽出観測データとして抽出する観測事象抽出部と、
前記抽出観測データに応じて、前記原因を判定する原因事象判定処理部と、
前記判定した原因を示すデータを出力する原因通知処理部と
を備えることを特徴とする運用監視装置。
【請求項2】
前記複数の観測データそれぞれに対して前記原因によって発生する各確率を所定間隔毎に記憶する記憶部を更に備え、
前記観測事象抽出部は、前記記憶部に記憶した各確率の時間経過に応じて、前記抽出観測データを抽出することを特徴とする請求項1記載の運用監視装置。
【請求項3】
前記複数の観測データは、少なくとも1つ以上の観測データで構成される複数の属性区分に分けられ、
前記観測事象抽出部は、
前記複数の属性区分のうち第1の属性区分において、前記抽出観測データが抽出できなかった場合、前記複数の属性区分のうち第2の属性区分における前記複数の観測データにおける前記各確率に応じて前記抽出観測データを抽出することを特徴とする請求項2記載の運用監視装置。
【請求項4】
被監視装置において観測された複数の観測データに対して、前記複数の観測データが得られた原因を判定する運用監視装置における原因事象の判定方法であって、
観測事象受付処理部により、前記被監視装置から送信された前記複数の観測データを受け付け、
観測事象抽出部により、前記複数の観測データそれぞれに対して前記原因によって発生する各確率が時間経過とともに増加する観測データを抽出観測データとして抽出し、
原因事象判定処理部により、前記抽出観測データに応じて、前記原因を判定し、
原因通知処理部により、前記判定した原因を示すデータを出力する
ことを特徴とする原因事象の判定方法。
【請求項5】
被監視装置と、
前記被監視装置において観測された複数の観測データに対して、前記複数の観測データが得られた原因を判定する運用監視装置とを備える情報通信ネットワークシステムにおいて、
前記運用監視装置は、
前記被監視装置から送信された前記複数の観測データを受け付ける観測事象受付処理部と、
前記複数の観測データそれぞれに対して前記原因によって発生する各確率が時間経過とともに増加する観測データを抽出観測データとして抽出する観測事象抽出部と、
前記抽出観測データに応じて、前記原因を判定する原因事象判定処理部と、
前記判定した原因を示すデータを出力する原因通知処理部とを備えることを特徴とする情報通信ネットワークシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運用監視装置、運用監視装置における原因事象の推定方法、及び情報通信ネットワークシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、携帯電話やインターネットなどの情報通信ネットワークシステムは、複雑化及び大規模化が加速度的に進展している。そのような進展に伴い、情報通信ネットワークシステムの運用業務や監視業務に携わる運用者又は監視者は、システムの稼働状態を的確に把握することが困難となっている。
【0003】
例えば、情報通信ネットワークシステムの一例として、携帯電話に代表されるシステムがある。このようなシステムにおいて、基地局では、基地局や携帯電話の稼働状態や無線環境状態などの観測データを数百項目の単位で観測する場合がある。しかも、基地局の数も数万にも及ぶ場合もある。従って、収集される観測データは膨大なものとなっており、運用者又は監視者は、情報通信ネットシステムの稼働状態を的確に把握することは困難となる。
【0004】
とくに、情報通信ネットワークシステムの運用又は監視業務では、システム固有(又はシステム独自)の特徴や、その特徴に影響を与える要素(又は要因)などもある。その結果、運用者や監視者は、運用又は監視業務の際に、関連知識や経験などの個人のスキルに依存することになる。そのため、情報通信ネットワークシステムにおいては、その運用又は監視業務の質的な維持とその向上が課題となっている。
【0005】
運用者又は監視者の知識や経験不足を補うため、例えば、データマイニング技術が用いられる場合がある。データマイニング技術とは、例えば、大量のデータに対して、人工知能などのデータ解析の技法を適用することで、知識を取り出す技術である。
【0006】
しかし、データマイニング技術は、例えば、情報通信システムネットワークシステムが拡大したり複雑になると、それに応じて、処理時間も増大する。そのため、情報通信ネットワークシステムにおいて、データマイニング技術を適用することには限界がある。
【0007】
このような状況において、例えば、以下のような技術がある。すなわち、各アラーム信号に対して障害部位候補を推定し、障害部位候補集合間の共通集合を求めることで障害部位を自動的に特定し、オペレータの指示に応じて、特定された障害の発生要因を解析することで、障害の発生部位を速やかに診断できるようにしたものがある。
【0008】
また、製造物の歩留まりに係るデータを収集し、因果関係導出カーネルインターフェースにおいて、多数のデータ間の因果関係を条件付き確率で求めることで、適切なメモリ容量と処理時間にてデータの因果関係を解析した因果関係導出システムなどもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−114899号公報
【特許文献2】特開2000−288877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した障害部位候補を推定する技術や、因果関係を条件付き確率で求める技術は、障害部位を推定したり、多数のデータ間の因果関係を求めるものである。従って、上述した技術では、例えば、障害部位を推定することはできでも、そのような障害を発生させた原因は何かを運用者又は監視者に知らせることができない。また、上述した技術は、データ間の因果関係を求めることはできても、データに潜む原因は何であるかを、運用者又は監視者に知らせることはできない。
【0011】
よって、上述したこれらの技術は、情報通信ネットワークシステムにおいて、観測された膨大な観測データから、その観測データに潜む原因は何であるのか、その原因に対してどのような対処の仕方があるのか、などを運用者又は監視者に知らせことはできない。
【0012】
例えば、携帯電話に代表される情報通信ネットワークシステムにおいて、トラヒックの変動が運用者又は監視者により監視される場合がある。トラヒックの変動は、例えば、携帯電話の移動や地域的特性(例えば住宅街やビジネス街)により大きく影響を受ける特徴がある。従って、例えば、基地局が収集したトラヒックの変動に関する観測データから、そのような観測データが得られた背景となっている、携帯電話の移動や地域的特性などの原因を瞬時に特定することは難しい。
【0013】
或いは、そのような情報通信ネットワークシステムにおいて、観測データの数値が閾値よりも悪化する方向に遷移した場合、その原因がシステム機器(例えば基地局制御装置)の処理能力にあるのか、無線リソースの不足にあるのか等、瞬時に判断し、適切な対応を講じるのは困難である。
【0014】
例えば、上述した2つの技術は、いずれの場合も、観測データからそのような観測データが得られた原因を特定することはできない。
【0015】
また、上述した2つの技術は、例えば、情報通信ネットワークシステムにおいて膨大な観測データが得られたとき、適切な観測データをどのように特定するのか、或いは、どのように絞り込みを行うのか、について何も議論されていない。情報通信ネットワークシステムにおいて、このような膨大な観測データから原因を特定する場合、原因を特定するために膨大な時間がかかってしまう場合もある。
【0016】
そこで、本発明の一目的は、膨大な観測事象から原因事象を推定又は決定することのできる運用監視装置、運用監視装置における原因事象の推定方法、及び情報通信ネットワークシステムを提供することにある。
【0017】
また、本発明の一目的は、情報通信ネットワークシステムなどの稼働状態の変化又は変位を運用者又は監視者などに適切に知らせることのできる運用監視装置、運用監視装置における原因事象の推定方法、及び情報通信ネットワークシステムを提供することにある。
【0018】
さらに、本発明の一目的は、運用者又は監視者に対して、意思決定を支援することのできる運用監視装置、運用監視装置における原因事象の推定方法、及び情報通信ネットワークシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
被監視装置において観測された第1及び第2の観測データに対して、前記第1及び第2の観測データが得られた原因を推定する運用監視装置において、前記被監視装置から送信された前記第1及び第2の観測データを受け付ける観測事象受付処理部と、前記第1及び第2の観測データに対して前記原因が発生する確率に基づいて、前記第1及び第2の観測データのうち、前記第1の観測データを抽出する観測事象抽出部と、前記抽出した第1の観測データに基づいて、前記原因を推定する原因事象判定処理部と、前記推定した原因を示すデータを出力する原因通知処理部とを備える。
【発明の効果】
【0020】
膨大な観測事象から原因事象を推定又は決定することのできる運用監視装置、運用監視装置における原因事象の推定方法、及び情報通信ネットワークシステムを提供することができる。
【0021】
また、情報通信ネットワークシステムなどの稼働状態の変化又は変位を運用者又は監視者などに適切に知らせることのできる運用監視装置、運用監視装置における原因事象の推定方法、及び情報通信ネットワークシステムを提供することができる。
【0022】
さらに、運用者又は監視者に対して、意思決定を支援することのできる運用監視装置、運用監視装置における原因事象の推定方法、及び情報通信ネットワークシステムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は情報通信ネットワークシステムの構成例を表わす図である。
図2図2は情報通信ネットワークシステムの構成例を表わす図である。
図3図3はO&Mシステムの構成例を表わす図である。
図4図4はO&Mシステムの構成例を表わす図である。
図5図5はO&Mシステムにおける全体の動作例を表わすフローチャートである。
図6図6は観測モデルの例を表わす図である。
図7図7はシステムモデルの例を表わす図である。
図8図8は全体モデルの例を表わす図である。
図9図9(A)は観測値分布の時間変位の例、図9(B)は状態分布の時間変位の例をそれぞれ表わす図である。
図10図10は本発明の実現モデルの例を表わす図である。
図11図11は原因事象の推定方法の例を形式化したフローチャートである。
図12図12は観測結果の例を表わす図である。
図13図13はO&Mシステムにおける処理の例を表わすフローチャートである。
図14図14は観測事象の例を表わす図である。
図15図15はO&Mシステムにおける処理の例を表わすフローチャートである。
図16図16は観測事象の例を表わす図である。
図17図17は原因事象の例を表わす図である。
図18図18は原因事象を推定する表の例を表わす図である。
図19図19は原因事象を推定するフローチャートの例を表わす図である。
図20図20(A)及び図20(B)は原因事象を推定する表の例をそれぞれ表わす図である。
図21図21は観測事象と推定した原因事象とに対する対処例を表わす図である。
図22図22はO&Mシステムにおける処理の例を表わすフローチャートである。
図23図23は観測事象の例を表わす図である。
図24図24はO&Mシステムにおける処理の例を表わす図である。
図25図25はO&Mシステムにおける処理の例を表わす図である。
図26図26は観測事象と原因事象と関係例を表わす図である。
図27図27は観測事象に対する関与度の計算結果の例を表わす図である。
図28図28は関与度に対する処理の例を表わすフローチャートである。
図29図29は同一属性区分の観測事象の例を表わす図である。
図30図30は観測データの画面表示例を表わす図である。
図31図31は各グループに含まれる観測事象のカウント値の画面表示例である。
図32図32は原因事象に対する関与度をグラフ形式に表示した画面表示例である。
図33図33は関与度を木形式で表わした画面表示例である。
図34図34は原因事象と対象方法が表示された画面表示例を表わす図である。
図35図25はO&Mシステムの他の構成例を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0025】
[第1の実施の形態]
最初に第1の実施の形態について説明する。図1は本第1の実施の形態における情報通信ネットワークシステム10の構成例を表わす図である。情報通信ネットワークシステム10は、被監視装置350と運用監視装置600とを備える。
【0026】
被監視装置350は、第1及び第2の観測データを観測する。被監視装置350は、観測した第1及び第2の観測データを運用監視装置600に送信する。
【0027】
運用監視装置600は、例えば、被監視装置350を監視し、被監視装置350において観測された第1及び第2の観測データに対して、第1及び第2の観測データが得られた原因を推定する。
【0028】
図1に示すように、運用監視装置600は、観測事象受付処理部111、観測事象抽出部121、原因事象判定処理部131、原因通信処理部133を備える。
【0029】
観測事象受付処理部111は、被監視装置350から送信された第1及び第2の観測データを受け付ける。
【0030】
観測事象抽出部121は、第1及び第2の観測データに対して原因が発生する確率に基づいて、前記第1及び第2の観測データのうち、前記第1の観測データを抽出する。
【0031】
原因事象判定処理部131は、抽出した第1の観測データに基づいて、原因を推定する。
【0032】
原因通知処理部133は、推定した原因を示すデータを出力する。
【0033】
このように運用監視装置600は、例えば、被監視装置350から得られた第1の観測データと第2の観測データに対して、原因を推定する対象となる観測データを、原因が発生する確率に基づいて、抽出するようにしている。
【0034】
従って、運用監視装置600は、例えば、膨大な観測データ(又は観測事象)を得たときでも、その中から原因(又は原因事象)を推定する対象となる観測データを抽出して、抽出した観測データに基づいて原因を推定することができる。よって、運用監視装置600は、膨大な観測データから原因事象を推定することが可能となる。
【0035】
また、運用監視装置600は、原因通知処理部133により推定した原因を示すデータを出力することができる。例えば、運用監視装置600にモニタやディスプレイなどの表示部が接続され、運用監視装置600が表示部に原因を示すデータを出力することで、表示部を介して運用者又は監視者に対して、第1及び第2の観測データが得られた原因を通知することが可能となる。
【0036】
例えば、運用者又は監視者は、表示部に表示された原因に基づいて、種々の対処方法を情報通信ネットワークシステム10に対して講じることが可能となり、これにより、運用者又は監視者に対して、意思決定を支援することができる。
【0037】
さらに、運用監視装置600は、表示部に適宜、原因を示すデータを送信することで、時系列で原因を表示させることも可能となる。これにより、例えば、運用者又は監視者は、原因の時系列変化を知ることが可能となり、情報通信ネットワーク10の稼働状態の変化や変位を知ることもできる。よって、運用監視装置600は、情報通信ネットワークシステム10の稼働状態の変化や変位を運用者又は監視者に適切に知らせることができる。
【0038】
[第2の実施の形態]
次に第2の実施の形態について説明する。第2の実施の形態について、理解を容易にするために以下の順番で説明することにする。
【0039】
最初に、本第2の実施の形態における情報通信ネットワークシステムの全体構成例について説明する。例えば、図2は情報通信ネットワークシステム10の全体構成例を表わす図である。
【0040】
次に、情報通信ネットワークシステム10におけるO&M(Operation and Maintenance)システム100の構成例について説明する。
【0041】
O&Mシステム100は、例えば、情報通信ネットワークシステム10において、観測又は収集された観測データから、そのような観測データが得られた(又は観測データに潜む)原因を推定し、更にそのような原因に対する対処の仕方を提供するサーバまたは運用監視装置である。O&Mシステム100は、例えば、第1の実施の形態における運用監視装置600に対応する。
【0042】
例えば、このようなO&Mシステム100によって、推定した原因を運用者に知らせることで、運用者は情報通信ネットワークシステム10の稼働状態を知ることができ、また、対処の仕方を知らせることで、運用者は適切な処置を瞬時に行うことができる。
【0043】
なお、本実施の形態において、例えば、観測データを観測事象、観測データから得られた(又は観測データに潜む)原因を原因事象とそれぞれ称する場合がある。
【0044】
とくに、本第2の実施の形態においては、O&Mシステム100は、例えば、着目すべき観測事象をどれにするかを特定することができ、特定した観測事象から原因事象を推定することができる。例えば、図3及び図4はO&Mシステム100の構成例を表わす図である。
【0045】
次に、O&Mシステム100における全体の動作例について説明する。図5は動作例を表わすフローチャートである。
【0046】
次に、観測事象などをモデル化することで、観測事象と原因事象との関係について説明し、さらに、O&Mシステム100においてどのように原因事象を推定するのかについての実現モデルの例について説明する。図6から図10はこのようなモデルの例をそれぞれ表わす図である。
【0047】
次に、原因事象を推定する方法の具体的な例や、O&Mシステム100における具体的な処理の例などを説明する。この説明の中で、観測事象と原因事象の各具体例を説明し、さらに、O&Mシステム100が提示する対処方法の具体例についても説明する。図13から図23はそのような処理の例などをそれぞれ表わす図である。
【0048】
次に、原因事象の推定、さらに対処方法の提示についての動作例について説明する。ここでは、図11から図23で説明した処理をまとめて、全体の動作例について説明することにする。図24図25はそのような動作例をそれぞれ表わす図である。
【0049】
最後に、観測又は収集した観測事象に対して、原因事象の推定又は決定のための絞り込み処理について説明する。これにより、例えば、O&Mシステム100では、膨大な観測事象から対象となる観測事象が絞り込まれ、その絞り込まれた観測事象から原因事象の推定又は決定のためのなどの処理を行うことができる。さらに、O&Mシステム100では、このような処理により、観測事象の中に隠された原因事象の精緻化や、処理の簡素化などを図ることができる。図26(A)から図29はこのような絞り込み処理に関する動作例などをそれぞれ表わす図である。
【0050】
<情報通信ネットワークシステム10の構成例>
図2は情報通信ネットワークシステム10の構成例を表わす図である。情報通信ネットワークシステム10は、例えば、銀行のバンキングシステムや、カード会社などの顧客情報などを管理するデータセンターシステムなどの大規模な情報処理システムにも適用可能である。図2に示す情報通信ネットワークシステム10は、例えば、移動通信システムを例にしたものである。
【0051】
情報通信ネットワークシステム10は、O&Mシステム又はサーバ(以下、「O&Mシステム」と称する場合がある)100、移動情報端末200(200−1,200−2,…,200−n)、移動通信網300、GW(ゲートウェイ)400、及び他ネットワーク500とを備える。
【0052】
移動情報端末200は、移動通信網300に接続された無線基地局(図示せず)と無線通信を行うことができる。移動情報端末200は、無線基地局を介して、他ネットワーク500に接続されたサーバや他の無線基地局に無線接続された他の移動情報端末200とデータを送受信したりすることができる。移動情報端末200は、例えば、フィーチャーフォンやスマートフォン、或いは、PDA(Personal Digital Assistance)などの移動可能な情報携帯端末などである。移動情報端末200は、例えば、O&Mシステム100における被監視装置となる。例えば、移動情報端末200は、第1の実施の形態における被監視装置350に対応する。
【0053】
移動通信網300は、例えば、移動情報端末200が通信を行うときに接続されるネットワークである。移動通信網300には、例えば、無線基地局や1以上の無線基地局を制御する無線基地局制御装置が接続される。無線基地局は、例えば、移動情報端末200とサーバとの間でデータが送受信される場合、データを無線信号に変換するなど、データを中継する機能を含む。無線基地局も、例えば、O&Mシステム100に対する被監視装置となり、第1の実施の形態における被監視装置350に対応する。
【0054】
O&Mシステム100は、例えば、移動通信網300に接続され、情報通信ネットワークシステム10の稼働状態の運用又は監視を行う。すなわち、O&Mシステム100は、例えば、観測又は収集された観測データから、そのような観測データが得られた(又は観測データに潜む)原因を推定又は決定(以下においては、推定と称する場合がある)し、対処の方法を提示(又は出力)することができる。その際に、O&Mシステム100は、観測された観測事象から絞り込み処理を行い、絞り込んだ観測事象に基づいて原因事象の推定処理を行う。O&Mシステム100で行われる処理の詳細については後述する。なお、O&Mシステム100は、例えば、第1の実施の形態における運用監視装置600に対応する。
【0055】
なお、O&Mシステム100が観測する観測事象の対象となるのは、例えば、移動情報端末200や移動通信網300に接続された無線基地局、無線基地局制御装置、GW400、他ネットワーク500に接続されたサーバ、或いは、移動通信網300や他ネットワーク500である。ただし、本実施の形態においては、観測事象は、説明を容易にするため、移動通信網300と移動情報端末200を対象にして説明することにする。
【0056】
GW400は、例えば、移動通信網300と他ネットワーク500とを接続するノードであって、移動通信網300に流れるデータと他ネットワーク500に流れるデータのプロトコルの変換を行う。
【0057】
他ネットワーク500は、例えば、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)によりデータの送受信を行う通信ネットワークである。他ネットワーク500には、例えば、インターネットサービスを提供するサーバなどが接続される。サーバは移動情報端末200とデータなどの送受信を行うことができる。
【0058】
<O&Mシステム100の構成例>
図3及び図4はO&Mシステム100の構成例を表わす図である。図4に示すO&Mシステム100の構成例は、図3に示すO&Mシステム100の構成例よりも詳細な構成例を示している。
【0059】
図3に示すO&Mシステム100から説明する。O&Mシステム100は、NWIF(ネットワークインターフェース)処理部110と、観測事象処理部120、原因事象判定部130、ナレッジDB140、及び運用者IF処理部150とを備える。
【0060】
NWIF処理部110は、例えば、移動通信網300(又は無線基地局制御装置など)と接続され、基地局などにおいて観測した観測事象を受け付ける。NWIF処理部110は、例えば、移動通信網300から受信した観測事象をO&Mシステム100内部で処理可能な形式のデータに変換し、変換したデータを観測事象処理部120に出力する。
【0061】
観測事象処理部120は、例えば、NWIF処理部110から受け取った観測事象に対して、原因事象を推定するための絞り込み処理を行う。その際に、観測事象処理部120は、例えば、運用者IF処理部150から受け取った関連情報に基づいて、観測事象の絞り込み処理を行うこともできる。関連情報などの詳細は後述する。そして、観測事象処理部120は、例えば、絞り込んだ観測事象をナレッジDB140に登録したり、原因事象判定部130に出力する。また、観測事象処理部120は、例えば、絞り込んだ観測事象に対して、特徴要因を抽出(又は変化状態事象の検出など)し、原因事象判定部130に出力する。観測事象処理部120の詳細などは後述する。
【0062】
原因事象判定部130は、例えば、観測事象処理部120から観測事象と特徴要因を受け取り、当該観測事象に対して想定される原因事象を推定する。原因事象判定部130は、例えば、推定した原因事象を運用者IF処理部150に出力したり、ナレッジDB140への登録を行う。原因事象の推定処理の詳細などは後述する。
【0063】
ナレッジDB140は、例えば、観測事象処理部120で絞り込んだ観測事象や、原因事象判定部130で推定した原因事象(又は原因事象を示すデータ。以下においては、原因事象と原因事象を示すデータとを区別せず、「原因事象」と称する場合がある。)などを記憶する。ナレッジDB140に登録されるこれらの事象を、例えば、ナレッジ情報と称する場合がある。なお、図面においては「ナレジ」と表記される場合があるが、本明細書においては「ナレジ」を「ナレッジ」と称する場合がある。
【0064】
運用者IF処理部150は、例えば、運用者から操作するモニタやキーボードなどと接続されて、原因事象判定部130から出力された原因事象をモニタなどに表示させるようデータ形式の変換などの処理を行う。また、運用者IF処理部150は、例えば、運用者により操作されたキーボードなどから運用者が指定する観測項目や関連情報などを受け付け、受け付けた観測項目や関連情報をO&Mシステム100内で処理できる形式に変換する。そして、運用者IF処理部150は、例えば、受け付けた観測項目をナレッジDB140に登録し、関連情報を観測事象処理部120に出力する。
【0065】
図4はO&Mシステム100の詳細な構成例を表わす図である。O&Mシステム100は、観測事象受付処理部111、関連情報受付処理部160、観測事象抽出部121、観測事象分析処理部122、原因事象判定処理部131、統計解析処理部180、ナレッジ追加・修正処理部141、ナレッジ登録処理部142、運用者要求受付処理部151、対処履歴処理部182、表示編集部184、及びモニタ186を備える。
【0066】
図3に示すO&Mシステム100との対応関係は、図3のNWIF処理部110は、例えば、観測事象受付処理部111に対応する。また、図3の観測事象処理部120は、例えば、観測事象抽出部121と観測事象分析処理部122に対応する。さらに、図3のナレッジDB140は、例えば、ナレッジ登録処理部142内に保持される。さらに、図3の運用者IF処理部150は、例えば、運用者要求受付処理部151に対応する。
【0067】
観測事象受付処理部111は、例えば、基地局において観測された観測事象(又は観測データ)を受け付ける。観測事象受付部は、例えば、時刻nの観測事象、時刻(n+1)の観測事象など時系列に観測事象を受け付ける。
【0068】
観測事象としては、例えば、「送信電力上昇」や「位置登録不可」などがある。詳細は後述するが、図14に観測事象の例が示される。或いは、観測事象としては、送信電力に関する値や、位置登録の有無、などの情報であって、観測事象受付処理部111では、例えば、受け取った情報と閾値とを比較するなどして、「送信電力上昇」や「位置登録不可」などの観測事象を得ることもできる。
【0069】
関連情報受付処理部160は、例えば、関連情報(又は運用情報)を運用者要求受付処理部151から受け取り、受け取った関連情報を観測事象抽出部121に出力する。関連情報は、例えば、イベント情報やセル情報などを含む。イベント情報は、例えば、ある地域におけるコンサート情報であったり、ある場所における花火大会など、イベントに関する情報である。また、セル情報は、例えば、ある基地局が故障している、又はある基地局が休止中である、などの基地局に関する情報である。
【0070】
観測事象抽出部121は、例えば、観測事象に対して絞り込み処理を行い、絞り込んだ観測事象を観測事象分析処理部122とナレッジ追加・修正処理部141に出力する。観測事象抽出部121は、例えば、絞り込み処理の際に、関連情報を参照することもできる。絞り込み処理の詳細などは後述する。
【0071】
観測事象分析処理部122は、例えば、絞り込んだ観測事象に対して、特徴要因などを抽出する。例えば、観測事象分析処理部122は、絞り込んだ観測事象に対して、状態変化を検出することで特徴要因などを抽出することができる。観測事象分析処理部122は、抽出した特徴要因と絞り込んだ観測事象を原因事象判定処理部131に出力する。
【0072】
原因事象判定処理部131は、例えば、特徴要因に基づいて、観測事象に対して想定される原因事象を推定(又は判定する)。このような推定処理の詳細は後述する。
【0073】
統計解析処理部180は、例えば、観測事象分析処理部122と原因事象判定処理部131とで得られた観測事象や原因事象などに対して時系列解析などを行い、過去の類似事象との関連性又は相関性を分析し、その結果を、ナレッジ追加・修正処理部141を介してナレッジDB140に登録する。例えば、統計解析処理部180は、ある時間帯とその前の時間帯とにおいて、観測事象に変化があったとき、ある時間帯における観測事象をナレッジDB140に更新することができる。
【0074】
ナレッジ追加・修正処理部141は、例えば、観測事象抽出部121や原因事象判定処理部131などでそれぞれ得られた観測事象や原因事象、統計解析処理部180から得られた結果、対処履歴処理部182から得られた運用者の操作履歴などをナレッジ登録処理部142に出力する。これにより、ナレッジ追加・修正処理部141は、原因事象などを、ナレッジDB140へ追加したり、登録したりすることができる。
【0075】
ナレッジ登録処理部142は、例えば、ナレッジDB140を備え、ナレッジDB140にアクセスして、ナレッジ追加・修正処理部141からの出力をナレッジDB140に登録(又は記憶)する。また、ナレッジ登録処理部142は、例えば、原因事象判定処理部131などからの要求に基づいて、ナレッジDB140に記憶された原因事象などを読み出して、原因事象判定処理部131などに出力することもできる。
【0076】
運用者要求受付処理部151は、例えば、運用者により要求された観測項目、収集期間、観測対象セルなどの観測事象の登録や修正、観測データの閾値条件、絞り込み対象項目、予測期間や分析トリガー条件等の分析条件指定や修正、関連情報などを受け付ける。また、運用者要求受付処理部151は、例えば、運用者が行った運用操作(又は対処操作)についても受け付ける。運用操作の例などについては後述する。運用者要求受付処理部151は、例えば、関連情報を関連情報受付処理部160に出力し、運用操作などを対処履歴処理部182に出力し、観測項目などをナレッジ追加・修正処理部141に出力する。
【0077】
対処履歴処理部182は、例えば、運用操作を受け取り、対処の方法として履歴を蓄積する場合は、ナレッジDB140への登録を行う。例えば、O&Mシステム100が原因事象を推定したとき、対処履歴処理部182は、その原因事象に対して運用者がどのような対処を行ったのかを、運用操作履歴(又は対処履歴、或いは運用操作など)としてナレッジDB140に登録することができる。
【0078】
表示編集部184は、例えば、運用者要求受付処理部151からの要求に従って、原因事象判定処理部131から出力された原因事象や統計解析処理部180からの出力をグラフ化したり、表形式に変換する。表示編集部184は、変換後の原因事象などをモニタ186に出力する。運用者要求受付処理部151からの要求には、例えば、表示区間や表示形式などがある。
【0079】
モニタ186は、例えば、表示編集部184からの出力を表示することができる。
【0080】
<O&Mシステム100の全体の動作例>
次にO&Mシステム100の全体の動作例について説明する。図5は全体の動作例を表わすフローチャートである。原因推定処理や絞り込み処理などの詳細については後述するが、ここでは、まずO&Mシステム100全体の動作例について説明する。
【0081】
O&Mシステム100は、処理を開始すると(S10)、観測事象から状態事象変化とみなせる観測事象の抽出又は絞り込みの処理を行う(S11)。
【0082】
例えば、観測事象抽出部121が観測事象受付処理部111から受け取った観測事象に対して絞り込み処理を行うことで本処理が行われる。絞り込み処理の詳細は、図26から図29を用いて後述する。なお、観測事象分析処理部122で行われる特徴要因の抽出などの処理も本処理において行われても良い。
【0083】
次いで、O&Mシステム100は、原因事象の推定を行う(S12)。例えば、原因事象判定処理部131が観測事象分析処理部122から出力された特徴要因に基づいて、原因事象の推定を行う。この原因事象の推定処理の詳細についても、図11から図23を用いて後述することにする。
【0084】
次いで、O&Mシステム100は、推定した原因事象はナレッジDB140が定義した事象か否かを判別する(S13)。これは、例えば、推定した原因事象が、過去に得られた原因事象と比較してどのような結果となっているのかを運用者などに通知するためでもある。例えば、原因事象判定処理部131は、ナレッジ登録処理部142を介してナレッジDB140にアクセスし、推定した原因事象と同一又は類似の原因事象がナレッジDB140に登録されているか否かにより判別することができる。
【0085】
O&Mシステム100は、推定した原因事象はナレッジDB140が定義した事象のとき(S13でYES)、推定した原因事象を運用者に通知する(S14)。
【0086】
例えば、原因事象判定処理部131は、ナレッジDB140において、推定した原因事象と同一又は類似の原因事象が登録されていることを確認したとき、推定した原因事象を、表示編集部184を介してモニタ186に表示する。
【0087】
そして、O&Mシステム100は、一連の処理を終了する(S15)。
【0088】
一方、O&Mシステム100は、推定した原因事象がナレッジDB140に定義した事象ではないとき(S13でNO)、推定した原因事象をナレッジDB140に登録する(S16)。例えば、原因事象判定処理部131は、推定した原因事象を統計解析処理部180に出力し、統計解析処理部180とナレッジ追加・修正処理部141を介してナレッジDB140に登録する。
【0089】
次いで、O&Mシステム100は、推定した原因事象がナレッジDB140に定義した事象でない旨もナレッジDB140に登録し、推定した原因事象を運用者に通知する(S14)。
【0090】
そして、O&Mシステム100は一連の処理を終了する(S15)。
【0091】
以上、O&Mシステム100における全体の動作例について説明したが、全体の流れとしては、O&Mシステム100は、観測事象から絞り込み処理を行い(S11)、次に、絞り込んだ観測事象に対して原因事象を推定する処理を行うようにしている(S12)。
【0092】
<実現モデル等の説明>
次に、O&Mシステム100において、原因事象の推定を実現する実現モデルや、原因事象の推定方法などについて説明することにする。
【0093】
図6はO&Mシステム100における観測モデルの例を表わしており、観測事象と原因事象との関係例も表わしている。
【0094】
例えば、図6に示すように、観測される事象(=観測事象)をYとすると、観測事象Yが取り得る空間は論理的に(−∞、∞)として表わすことができ、そのうち観測事象Yが実際に取り得る空間は有限閉空間として表わすことができる。
【0095】
例えば、情報通信ネットワークシステム10(例えば図2)において基地局は、観測事象として、「送信電力上昇」などといった様々な観測データを観測することができる。しかし、基地局において、実際に観測することができるのは、全観測事象のうちの一部である。従って、観測事象Yが実際に取り得る空間は、有限閉空間として表わすことができる。
【0096】
そして、観測されない事象(又は推定すべき原因事象)をXとすると、観測されない事象Xは観測事象Yに内在されるものとして、例えば図6のように表わすことができる。
【0097】
例えば、基地局において、「送信電力上昇」、「自セルのトラヒックが高い」などの観測事象Yが得られ、この場合の原因事象Xが「負荷が集中している」、「設定パラメータにミスがある」であった場合を考える。この場合において、「負荷が集中している」などの原因事象Xは、観測事象Y(「送信電力上昇」、「自セルのトラヒックが高い」など)に内在するものとして表現することができる。従って、図6に示すように観測モデルを図示することができる。
【0098】
図6に示す観測モデルについて、観測事象Yを目的変数とすると、観測されない事象Xは説明変数とすることができる。このような観測モデルにおいて、O&Mシステム100は観測事象Yに対して観測されない事象Xを推定するようにしている。
【0099】
図7は原因事象Xと観測事象Yに関するシステムモデルの例を表わしている。
【0100】
時刻tに観測された観測事象をY、時刻tにおいて推定すべき状態をXとすると、観測事象Yは、
=H・X+w ・・・(1)
と表すことができる。ここで、Hは伝達関数、wは観測ノイズを表わす。また、Xはk次元の変量、Yはi次元の変量を有し、Hは(i×k)の行列式となる。
【0101】
次に、時刻tにおける状態Xは、時刻(t−1)における状態Xt−1に従属的な影響があるとすると、状態Xは、
=F・Xt−1+G・v ・・・(2)
と表わすことができる。ここで、F、Gは伝達関数、vは目標値を表わす。
【0102】
以上から、式(1)は観測値ytの仕組みを表わす時系列モデルと考えるとXは係数となり、式(2)は係数Xの時間的変化の表現モデルを表わしている。
【0103】
図6に示すように、原因事象Xは観測事象Yに内在するものとして考えることができる。この場合において、観測事象Yから原因事象Xを推定する問題は、観測事象Y={y,y,・・・,y}から時刻t(ただし、j>t)における状態X={x,x,・・・,x}を推定する問題と置き換えることも可能である。
【0104】
すなわち、観測事象Yから原因事象Xを推定する問題は、例えば、時刻t(又は現在)までの観測値{y,y,・・・,y}に基づいて、過去の状態{x,x,・・・,x}を求める条件付き確率P(X|Y)を求める問題に帰着させることができる。
【0105】
図8は観測事象Yと原因事象Xとの関係を表わす時間変化のモデルの例を表わす図である。例えば、観測値yは、原因事象X図8では実際の状態θ)によって引き起こされ、O&Mシステム100は、この観測値yから、原因事象Xを推定している。
【0106】
ただし、推定した原因事象X図8では推定した状態θ’)は、本来の原因事象X図8では推定した状態θ)と一致する場合もあれば完全に一致しない場合もあり得る。
【0107】
図9(A)は観測事象Yの時間変位、図9(B)は原因事象Xの時間変位の例をそれぞれ表わす図である。観測事象Y(図9(A)では観測値)は、実際には時間とともに変化し、各時刻において正規分布の範囲内で値を取り得る。
【0108】
例えば、「送信電力上昇」という観測事象においても、送信電力値は、ある一定の範囲内において推移し、その範囲の中で「送信電力上昇」という観測事象が得られる。
【0109】
また、原因事象Xについても、時間とともに変化し、各時刻において正規分布の範囲内で値を取り得る。
【0110】
例えば、「無線資源が不足している」という原因事象についても、どの程度不足しているかについても一定の範囲内で推移しており、その範囲内において「無線資源が不足している」という原因事象が得られる。
【0111】
以上のような観測モデルやシステムモデルなどに基づいて、原因事象を推定するための実現モデルが構築可能である。図10は原因事象を推定する実現モデルの例を表わす図である。
【0112】
観測事象Yに内在している原因事象θtは時間とともに変化する(S20)。その原因事象θtにより、観測事象Ytが発生し、その観測事象YtをO&Mシステム100において観測する(S21)。
【0113】
この場合において、例えば、O&Mシステム100内において、観測した(又は収集した)観測事象Ytをデータベース(例えばナレッジDB140)としてメモリに記憶する(S22)。
【0114】
O&Mシステム100では、観測事象をデータベースから読み出し、観測事象Ytから原因事象Xt(図10では推定した状態θt’)を推定する(S23)。
【0115】
そして、O&Mシステム100は、例えば、過去(時刻t−1)に推定した原因事象X(t−1)(図10では推定した状態θ’t−1)と現在(時刻t)に推定した原因事象Xt(図10では推定した状態θ’t)とから現在の原因事象Xtを推定する(S24)。
【0116】
図10に示す実現モデルは、例えば、図4に示すO&Mシステム100において実現することができる。この場合において、原因事象Xの推定(S24とS24)は、例えば、O&Mシステム100(例えば図4)において観測事象抽出部121、観測事象分析処理部122、及び原因事象判定処理部131において実現することができる。
【0117】
<動作例の詳細>
次にO&Mシステム100における動作例について説明する。動作例については理解を容易にするため、以下の項目、及び順序に従って説明することにする。
<1.原因事象の推定方法>
<2.観測事象の例と原因事象の例>
<3.O&Mシステム100における処理の例>
<4.観測事象が「接続率低下」の場合の処理の例>
<5.原因事象の推定処理の例>
<5.1 表形式による原因事象の推定処理の例>
<5.2 判断形式による原因事象の推定処理の例>
<6.対処方法の例>
<7.その他の動作例>
最初に、図11を用いて原因事象の推定方法(<1.原因事象の推定方法>)について説明する。次に、図12などを用いて観測事象の例と原因事象の例(<2.観測事象の例と原因事象の例>)について説明する。次に、図13から図16を用いてO&Mシステム100における処理の具体例(<3.O&Mシステム100における処理の例>と<4.観測事象が「接続率低下」の場合の処理の例>)について説明する。また、原因事象の推定処理の例(<5.原因事象の推定処理の例>)について図18図19を用いて説明する。そして、対処方法の例(<6.対処方法の例>)について図21を用いて説明し、最後に、図22図23を用いて、その他の動作例(<7.その他の動作例>)について説明する。
【0118】
<1.原因事象の推定方法>
図11は原因事象の推定方法の一例を表わすフローチャートである。図11に示すフローチャートの例は、例えば、O&Mシステム100全体の動作例(例えば図5)のうち、S12の詳細な例を表わすフローチャートでもある。
【0119】
図11に示すフローチャート中の{y1,y2,y3}などは観測事象を表わし、{θ1,θ2,θ3}は推定する原因事象(図11では発生事象)を表わしている。
【0120】
O&Mシステム100は、処理を開始すると(S30)、各観測事象{y1,y2,y3}に対して、条件判定を行うことで(S31からS33)、各原因事象{θ1,θ2,θ3}を得る。
【0121】
例えば、O&Mシステム100は、観測事象y1がy1≦mを満たすか否かを判定し(S31)、満たす場合は、観測事象y2がy2≦nを満たすか否かを判定する(S32)。O&Mシステム100は、このような条件判定を観測事象{y1,y2,y3,・・・}のすべて(或いは一部)に対して行うことで、原因事象{θ1,θ2,θ3,・・・}を得るようにしている。
【0122】
図11に示すフローチャートの例は、例えば、判断形式による原因事象の推定処理の例を表わしており、後述する<5.2 判断形式による原因事象の推定処理の例>において具体例を挙げて説明することにする。
【0123】
<2.観測事象の例と原因事象の例>
図12に示す表は、O&Mシステム100が収集した観測事象の例を表わしている。図12では、「自セルトラヒック」が「高」、「他セルトラヒック」が「低」、「Call Drop(呼切断)」が「低」、「他セルRL−F(Radio Link-Failure:無線リンク障害)」は「高」、などの観測事象の例を示している。
【0124】
「高」や「低」などは便宜的な表現を示しているが、例えば、「高」や「低」に代えて具体的な数値であってもよい。例えば、O&Mシステム100は、基地局などで観測されたこれらの観測事象について、その数値を収集して、閾値との比較により、「高」や「低」などの観測結果が得られても良い。又は、O&Mシステム100は、例えば、基地局で観測された具体的な値について基地局において閾値との比較が行われて、その結果を基地局から収集することで、「高」や「低」などの観測結果が得られても良い。
【0125】
図12に示す具体的な事象(又は観測事象)としては、例えば、「自セルの負荷が閾値より多く、アップリンク側の品質が満足できず、rejectが発生している。」などである。このような事象が発生しているため、例えば、図12に示す観測事象が得られたとすることができる。
【0126】
この図12に示す場合において、このような観測事象を引き起こす原因としては、例えば、
1)過剰な負荷が発生している。
2)ハンドオーバエリアが閾値より広すぎる設定になっている。
3)他セル(又は他の基地局)に在圏する端末200からの電波を拾い過ぎている。
4)設定した各種システムパラメータにミスがある。
5)その他
などがある。この1)から5)が、図12に示す観測事象に対する原因事象となり得る。原因事象は、例えば、1つの場合もあれば、上記のように複数の場合もある。O&Mシステム100は、原因事象の推定処理を行うことで、例えば、図12に示す観測事象に対して、上記1)から5)を原因事象として推定することができる。
【0127】
なお、後述する動作例においても、観測事象や原因事象の具体例を示しており、これらの具体例についてはその都度説明することにする。
【0128】
<3.O&Mシステム100における処理の例>
図13はO&Mシステム100における処理の例を表わす図である。図13に示す図も、例えば、O&Mシステム100における全体の処理の例を表わしている。図13において、図5図11に示す処理と重複している部分には同一の符号が付されている。
【0129】
例えば、O&Mシステム100は観測事象B,C,Dを得たとき、条件判定を行うことで(S30からS33)、観測事象B,C,Dについて分析する。このような条件判定は、例えば、観測事象分析処理部122(例えば図4)にて行うことができる。
【0130】
O&Mシステム100は、条件判定によって、原因事象を判定することができる(S12)。原因事象の判定は、例えば、原因事象判定処理部131(例えば図4)において行うことができる。
【0131】
そして、O&Mシステム100は、原因事象がナレッジDB140に登録されているか否か判別し(S13)、登録されていれば、原因事象を運用者などに通知する(S14)。この場合において、O&Mシステム100は、推定した原因事象に対して、どのように対処すべきかを示す対処方法を決定し、決定した対処方法を運用者に提示することもできる(S35)。対処方法の決定や提示は、例えば、原因事象判定処理部131とナレッジ登録処理部142などで行うことができる。
【0132】
なお、例えば、対処方法を示すデータはナレッジDB140に記憶されており、O&Mシステム100はナレッジDB140から対処方法を示すデータを読み出してモニタ186に出力することで、O&Mシステム100は対処方法を運用者や監視者に提示することができる。以下においては、O&Mシステム100におけるこのような動作を、例えば、「O&Mシステム100が対処方法を提示する」と称し、また、対処方法と対処方法を示すデータとを区別せずに、単に「対処方法」と称する場合がある。
【0133】
一方、O&Mシステム100は、観測事象や原因事象についてその時系列変位から特徴要因を抽出し、ナレッジDB140に登録することもできる(S16)。
【0134】
ここで、観測事象B,C,Dについては、3つの基地局(またはセルなど)からそれぞれ得られた観測事象とすることができる。あるいは、観測事象B,C,Dは2つ以上の基地局から得られたものとすることもできる。
【0135】
観測事象については、対処方法が明確な観測事象もある。例えば、観測事象Aについて条件判定を満たす場合、O&Mシステム100は、観測事象Aに対する原因事象を推定することなく、対処方法を決定し、運用者に提示することもできる(S36)。このような観測事象Aは、例えば、ある1つの基地局(又はセル)に限定したものであり、他の基地局(又はセル)には影響していない。
【0136】
例えば、ある地域においてコンサートが有る場合、観測事象として「Call Drop率」がその地域でのみ変化するケースもあり、このような場合、O&Mシステム100は断定的に対処方法(例えば、呼を規制する)を提示することができる。
【0137】
図14は観測事象の例を表わしている。図14では、観測事象を「区分」と「観測される装置又は場所など」とにより分類した例を表わしている。例えば、「区分」としては、「品質状態」や「呼接続状態」などがある。また、「観測される装置又は場所など」としては、例えば、「UP LINK」や「AMR(Adaptive Multi Rate)」などがある。観測事象は、例えば、「品質状態」や「UL LINK」などにより分類することができる。
【0138】
なお、観測事象に関するこのような分類は一例であって、他の分類の方法があってもよく、例えば、このような分類の仕方の違いによりO&Mシステム100における動作が異なるというわけではない。
【0139】
<4.観測事象が「接続率低下」の場合の処理の例>
次に、観測事象として「接続率低下」を例にして、処理の具体例について説明する。図15は「接続率低下」の場合の処理の例を表わすフローチャートである。
【0140】
「接続率低下」に関する観測事象としては、例えば、RRC(Radio Resource Control)プロトコルレベルでの移動情報端末200の基地局への接続率を示す「RRC接続率低下」、無線ベアラの移動情報端末200の基地局への接続率を示す「Multi RABの接続率低下」などがある。
【0141】
無線通信システムにおける「接続率低下」は、例えば、実際には数百個の観測事象をまとめて「接続率低下」として表現したものである。図16は、「接続率低下」について、1つ1つの観測事象の例を表わしている。
【0142】
O&Mシステム100は、例えば、基地局などからこのような接続率低下に関する観測事象を得ることができ、このような観測事象を得たときに、図15に示す条件判定(S41からS47)を行い、原因事象を推定する(S50,S52)。
【0143】
例えば、O&Mシステム100は、原因事象を判定する処理について、観測事象についてどの順番で判定するのかについての情報を保持、或いは図15に示すフローチャートそのものを保持しておく。そして、O&Mシステム100は、例えば、得られた観測事象についてその順番に従って、あるいは図15に示すフローチャートに従って、条件判定を行い(S41からS47)、原因事象を推定する(S50,S52)。
【0144】
図15に示す原因事象や対処シナリオについても、O&Mシステム100が、メモリ(例えばナレッジDB140)などに保持しておくことで、原因事象を推定したり(S50,S52)、対処シナリオを決定することができる(S51,S53)。
【0145】
また、例えば、ある原因事象が特定されると、対処方法も特定されることができるため、図15の例においては、「事象解析A」のときは「対処シナリオA」(S50,S51)、「事象解析B」のときは「対処シナリオB」などとなっている(S52,S53)。
【0146】
また、図15において、例えば、S41からS47の処理は観測事象分析処理部122が行い、S50とS52の処理は原因事象判定処理部131が行い、S51とS53の処理はナレッジ登録部及び原因事象判定処理部131により行うことができる。
【0147】
このうち、対処方法の提示(S51とS53)については、原因事象判定処理部131がナレッジ登録処理部142を経由してナレッジDB140にアクセスし、ナレッジDB140から原因事象に対応する対処方法を読み出すことで実施することができる。
【0148】
<5.原因事象の推定処理の例>
原因事象の推定処理の例について、例えば、図15などを用いて説明したが、ここではそれ以外の推定処理もあることを説明し、併せて原因事象の推定処理の例をまとめて説明することにする。
【0149】
<5.1 表形式による原因事象の推定処理の例>
原因事象の推定処理の例としては、例えば、テーブル(又は表)形式による推定処理の例がある。図18はO&Mシステム100で利用されるテーブルの例を表わし、図17は原因事象の例を表わしている。
【0150】
図18において、「自セルトラフィック」や「他セルトラフィック」、「Call Drop」、及び「他セルRL−F」は、例えば、観測事象の項目を表わしている。また、「解析結果No」は、例えば、対応する原因事象の番号を表わしている。図18に示すテーブルにより、観測事象の各項目における「高」「低」などの観測結果(又は観測事象)の組み合わせにより、特定の番号の「解析結果No」が得られるようになっている。
【0151】
例えば、「自セルトラフィック」や「他セルトラフィック」、「Call Drop」、及び「他セルRL−F」がそれぞれ「高」、「高」、「低」、「高」のときは、「解析結果No」として「11」が選択される。また、「自セルトラフィック」や「他セルトラフィック」、「Call Drop」、及び「他セルRL−F」がそれぞれ「高」、「低」、「低」、「高」のときは、「解析結果No」として「13」が選択される。
【0152】
そして、例えば、「解析結果No」が「11」のときは、図17に示す原因事象の「負荷が集中している」に対応し、「解析結果No」が「13」のときは、「干渉波がある」に対応する。
【0153】
従って、O&Mシステム100は、図18に示すテーブルと、図17に示す原因事象に関する情報をメモリ(例えばナレッジDB140)などに保持しておき、テーブルから得られた観測事象に対する「解析結果No」を得る。そして、O&Mシステム100は、「解析結果No」に対応する原因事象をメモリから読み出すことで、原因事象を推定する。例えば、メモリには、「解析結果No」と原因事象とが保持されて、「解析結果No」と原因事象とが対応して保持されることで、O&Mシステム100は、「解析結果No」から原因事象を特定することができる。
【0154】
なお、図18に示すテーブルや図17に示す原因事象などは一例であって、これ以外のテーブルにより実施することもできる。また、原因事象としては、「解析結果No」から1つ以上の原因事象が特定されるようにしてもよい。例えば、ある「解析結果No」については、複数の原因事象が対応するようにメモリに保持しておくことで、1つの「解析結果No」が得られると、複数の原因事象が特定されることができる。
【0155】
なお、図17に示す原因事象の例についても、「区分」と「原因となる装置又は場所など」により区分することができる。例えば、「ハンドオーバ」に関する原因事象としては、「閾値が低すぎる又は高すぎる」などがある。この区分は一例であって、区分の違いにより推定処理が異なるというわけではない。
【0156】
図19(A)及び同図(B)も、テーブルの例を表わしている。これらの図に示す例では、観測事象の項目として、「自セルトラフィック」、「他セルトラフィック」、「HO(ハンドオーバ)率」があり、これらの観測結果に応じて、「条件」(図18の例では「解析結果No」)が選択される。選択された条件に応じて、対応する1以上の原因事象が選択されることは、図18に示す例と同様である。
【0157】
<5.2 判断形式による原因事象の推定処理の例>
図20は、原因事象の推定処理の一例を示すフローチャートである。判断形式による原因事象の推定処理とは、例えば、図20に示すようにフローチャートによる原因事象を推定する処理のことである。例えば、図11図15についても、この判断形式による原因事象の推定処理の例を示している。
【0158】
図20において、観測事象の項目としては、例えば、基地局と移動情報端末200との間の無線通信に利用される無線リソースに関する「Resource」、基地局の送信電力や受信電力に関する「TX power」、「RX power」などがある。
【0159】
例えば、O&Mシステム100は、基地局などから得られた「Resource」の値が閾値よりも低いため、「Resource不足」という観測事象が得られたのか否かを判断する(S61)。また、O&Mシステム100は、基地局から得られた「TX power」の値が閾値と限界値の間にあるため、「TX powerが限界」という観測事象が得られたのか否かを判断する(S62)。O&Mシステム100は、観測事象に対して、このような判断を1つ1つ行うことで(S61〜S64など)、原因事象を推定する。
【0160】
例えば、閾値よりも高いトラフィック状態が発生し、QoS/GoS(Quality of Service/Grade of Service)を満足しないエリア(又はセル、或いは基地局)が有った場合、このような観測事象が得られる。図20は、このような場合における原因事象の推定処理の例を表わしている。
【0161】
図20に示す例においても、例えば、O&Mシステム100は、観測事象の判断についての順序をメモリなどに保持しておき、得られた観測事象に対して、その順序に従って1つ1つ判断していくことで、原因事象を推定することができる。
【0162】
なお、図20において、原因事象の判定については省略されているが、実際には、対処シナリオ(S65,S66,S67)の前段で原因事象の判定が行われる。
【0163】
対処シナリオ(又は対処方法)の例としては、「計器不良(交換)」(S65)、「(アクセス)パラメータ調整」(S66)、「(HO)パラメータ調整他」(S67)などがある。
【0164】
「計器不良(交換)」は、例えば、基地局などの計器が不良であり交換すべきことを示す対処シナリオである。また、「(アクセス)パラメータ調整」は、例えば、基地局と移動情報端末200との無線通信に利用されるパラメータを調整すべきことを示す対処シナリオである。さらに、「(HO)パラメータ調整他」は、例えば、移動情報端末200のハンドオーバに際して基地局において用いられるパラメータを調整すべきことを示す対処シナリオである。
【0165】
O&Mシステム100は、原因事象を推定すると、このような対処シナリオを選択して運用者などに通知することができる。これにより、O&Mシステム100は、情報通信ネットワークシステム10に対してどのような対処を行うのかを運用者などに通知することができ、運用者の意思決定を支援することができる。
【0166】
なお、図20に示す対処シナリオはある1つの原因事象に対して、1つの対処シナリオの例を示しているが、ある1つの原因事象に対して2つ以上の対処シナリオが選択されるようになされてもよい。
【0167】
<6.対処方法の例>
次に対処方法(又は対処シナリオ)の具体例などについて説明する。図21は、観測事象と原因事象、及び対象方法の例を表形式で表わした図である。
【0168】
図21に示す例では、2つの観測事象が示されている。すなわち、図21の左側に示す観測事象の例と図21の右側に示す観測事象の例である。図21の左側に示す観測事象の例は、自セルトラヒックが「高い」、他セルトラヒックが「高い」、Call Drop率は「低い」場合の例である。また、図21の右側に示す観測事象の例は、自セルトラヒックが「高い」、他セルトラヒックが「高い」、Call Drop率が「高い」場合の例である。
【0169】
この2つの観測事象の違いはCall Drop率である。この2つの観測事象から得られた事象を集約的に表現すると、図21に示されるように、「自他セルともに負荷が高く、UL側の品質が満足できず、Rejectが発生している。」となり、観測事象の差異が明確ではない表現となる。
【0170】
この場合、O&Mシステム100は、2つの観測事象に対して、「パラメータ設定ミス」、「HOエリアが広すぎる」、「他セルの電波を拾い過ぎ」、「TX系装置故障」、「負荷オーバ」などの原因事象を推定することができる。これら推定した原因事象は、2つの観測事象に対して同じ原因事象となっている。
【0171】
しかし、観測事象の微妙な相違(図21の例では、「Call Drop率」の相違)によって、O&Mシステム100は異なる対処方法を提示することもできる。図21の例では、O&Mシステム100は、左側に示す観測事象に対しては、「Admission閾値を上げる」を含む対処方法を提示し、右側に示す観測事象に対しては、「Admission閾値を上げる」を含まない対処方法を提示している。
【0172】
このように、O&Mシステム100は、観測事象の微妙な相違により、提示する対処方法を異なるものにすることができ、これにより、対処方法が同一の場合と比較して、提示する対処方法について精度を上げることができる。
【0173】
例えば、O&Mシステム100は、このような対処方法をメモリ(例えばナレッジDB140)などに保持してき、観測事象に応じてメモリから対処方法を読み出して、モニタ186などに出力することで、運用者などに対して対処方法を提示することができる。
【0174】
なお、O&Mシステム100は、このような対処方法を対処履歴としてナレッジDB140に記憶することもできる。例えば、ある原因事象に対して、ある対処方法による対処の結果、観測事象の改善が図られたとか、別の対処方法による対処の結果、観測事象の改善を図ることができなかった、などの履歴がナレッジDB140に記憶される。例えば、運用者などによるO&Mシステム100への操作により、O&Mシステム100はどのような改善が図られたかをナレッジDB140に記憶することができる。そして、O&Mシステム100は、ナレッジDB140に記憶された履歴に基づいて、改善が図られた対処方法を提示するなどの処理を行うことができる。
【0175】
このような対処方法の提示により、或いは、改善が図られた対処方法を提示するなどにより、O&Mシステム100は、運用者に対して、情報通信ネットワークシステム10に対する対処方法や改善策などの意思決定を支援することができる。
【0176】
<7.その他の動作例>
次にその他の動作例について説明する。上述した例(例えば図15)においては、観測事象の例として、「接続率低下」の例について説明した。
【0177】
図22は、観測事象として、「Call Drop率上昇」と「ハンドオーバ成功率低下」を例にした場合における原因事象の推定処理の例を表わしている。観測事象の対象が「接続率低下」から「Call Drop率上昇」と「ハンドオーバ成功率低下」に代わり、各々において観測された各観測事象に対して、原因事象に対する推定処理(S80〜S86,S90〜S96)が行われる。
【0178】
なお、図22に示す例は判断形式による原因事象の推定処理の例を表わしているが、図18と同様にテーブル形式で原因事象を推定するようにしてもよい。この場合、例えば、図18の観測事象の項目には、「Call Drop率上昇」や「ハンドオーバ成功率低下」に関する観測事象(「全呼のCall drop率上昇」や「ハードHO成功率低下」など)が記憶される。O&Mシステム100は、上述した例と同様に、これらの観測事象に対する組み合わせから「解析結果No」を選択し、「解析結果No」に対応する原因事象を特定することで、原因事象を推定する。
【0179】
図23は、「Call Drop率上昇」と「ハンドオーバ成功率低下」に関する観測事象の具体例を表わす図である。
【0180】
「Call Drop率上昇」については、例えば、回線交換呼全体のcall drop率上昇を表わす「CS(Circuit Switching)の合計call drop率上昇」や、パケット呼全体のcall drop率上昇を表わす「PS(Packet Switching)の合計call drop率上昇」などがある。
【0181】
また、「ハンドオーバ成功率低下」についても、例えば、ハードハンドオーバの準備段階や実行段階での成功率低下をそれぞれ示す「HHO(Hard Hand Over)のpreparation phaseでの成功率低下」や「HHOのexecutuion phaseでの成功率低下」などがある。
【0182】
O&Mシステム100は、このような観測事象に基づいて、判断形式(例えば図22)やテーブル形式(例えば図18)により、原因事象を推定することになる。
【0183】
<O&Mシステム100全体の詳細な動作例>
次にO&Mシステム100の詳細な動作例について説明する。上述した<O&Mシステム100全体の動作例>などにおいてO&Mシステム100の動作例を説明したが、本項目ではO&Mシステム100における詳細な動作例について説明する。一部重複した説明となっている部分もあるが、本項目において動作例をまとめて説明することにする。
【0184】
図24及び図25はO&Mシステム100の詳細な動作例を表わすフローチャートである。図24及び図25では、理解を容易にするため、O&Mシステム100内における構成を含むフローチャートとなっている。
【0185】
図24において、O&Mシステム100には、更に、運用情報受付処理部161、運用環境分析処理部163、観測対象システムインターフェース処理部112、観測事象抽出処理部123、処理対象観測事象抽出処理部124、変化状態事象検出処理部125、抽出観測事象更新処理部166を備える。
【0186】
ここで、運用情報受付処理部161と運用環境分析処理部163は、例えば、図4に示すO&Mシステム100において関連情報受付処理部160に相当する。また、観測対象システムインターフェース処理部112は、例えば、図4に示すO&Mシステム100における観測事象受付処理部111に相当する。
【0187】
また、観測事象抽出処理部123と処理対象観測事象抽出処理部124は、例えば、図4に示すO&Mシステム100において、観測事象抽出部121に相当する。さらに、変化状態事象検出処理部125は、例えば、図4に示すO&Mシステム100において、観測事象分析処理部122に相当する。さらに、抽出観測事象更新処理部166は、例えば、図4に示すO&Mシステム100において、統計解析処理部180に相当する。
【0188】
また、図24において、O&Mシステム100には、更に、運用情報DB(データベース)162、運用環境条件DB164、観測事象DB113、抽出観測事象DB(t時刻分)167、抽出観測事象DB(t−1時刻分)165、処理対象観測事象DB127、変化状態事象DB128を備える。図24に示すこれらのDBは、例えば、O&Mシステム100内のハードディスクなどのメモリに記憶されることができる。
【0189】
図24における処理は、例えば、観測事象に対するスクリーニングを行うための環境条件を設定する処理(S101〜S104)と、設定した環境条件に基づいて観測事象をスクリーニングして処理対象とする観測事象を抽出する処理(S105〜S116)と、観測事象の更新処理(S117〜S119)を含む。
【0190】
最初に環境条件を設定する処理(S101〜S104)について説明する。運用インターフェース処理部は、イベント情報やセル情報などの運用関連情報(又は関連情報。以下において、関連情報を運用関連情報と称する場合がある)を受け付ける(S101)。
【0191】
運用関連情報には、例えば、イベント情報やセル情報などを含む。イベント情報としては、例えば、コンサート、スポーツなどが行われる日付や場所などの情報を含む。また、セル情報としては、例えば、ある基地局が故障中であるとか、休止中であるなどの情報を含む。イベント情報やセル情報などには、例えば、このように地域的条件、日時や季節などの時間的条件、気象的な特徴、基地局の稼働状態などの条件が含まれる。例えば、O&Mシステム100を運用する運用者などにより、運用関連情報が入力される。
【0192】
運用情報受付処理部161は、運用関連情報を受け付けると、運用情報DB162に運用関連情報を記憶する(S102)。
【0193】
次いで、運用環境分析処理部163は、運用情報DB162から運用関連情報を読出して、運用関連情報を分析する(S103)。例えば、運用環境分析処理部163は、運用関連情報としてどのような情報が含まれているのか、あるいは、上述した条件としてどのような条件が含まれているのか、などを確認する。運用環境分析処理部163は、例えば、分析した運用関連情報を運用条件として運用環境条件DB164に記憶する(S104)。
【0194】
以上により、運用条件が運用環境条件DB164に登録され、O&Mシステム100は、登録した運用条件に基づいて、観測事象に対してスクリーニングを行うことができる。
【0195】
次にこのスクリーニングの処理(S105〜S116)について説明する。観測対象システムインターフェース処理部112は、観測事象を受け付ける(S105)。観測事象は、例えば、数百種類の観測データ(例えば図14に示す「観測される事象」)を含む。
【0196】
次いで、観測事象受付処理部111は、観測対象システムインターフェース処理部112から観測事象を受け付けて、受け付けた観測事象を観測事象DB113に記憶する(S106)。
【0197】
次いで、観測事象抽出処理部123は、運用環境条件DB164から読み出した運用条件に基づいて、観測事象DB113から読み出した観測事象に対してスクリーニング(又はフィルタリング)を行う(S107,S108)。
【0198】
例えば、観測事象抽出処理部123は、運用条件に基づいて、明らかに対象外となる観測事象を取り除くなどの処理を行う。例えば、ある地域でイベントなどがあり、その地域をカバーする基地局においてトラヒックが異常に高い観測事象が得られたとき、観測事象抽出処理部123は、そのような観測事象については対象外とすることができる。或いは、ある基地局が休止しており、隣接基地局においてHO率が異常に高い数値を表わす観測事象が得られたとき、観測事象抽出処理部123は、そのような観測事象については対象外とすることができる。
【0199】
観測事象抽出処理部123は、例えば、このように対象外となる観測事象を観測対象から取り除くことでスクリーニングを行っている。観測事象抽出処理部123は、例えば、運用条件に合致する観測事象を抽出することでスクリーニングを行うこともできる。観測事象抽出処理部123は、スクリーニングした観測事象を抽出観測事象DB(t時刻分)167に記憶する(S019)。
【0200】
次いで、処理対象観測事象抽出処理部124は、抽出観測事象DB(t時刻分)167から読み出した最新の観測事象(時刻t)と、抽出観測事象DB(t−1時刻分)165から読み出した直前の観測事象(時刻t−1)とに基づいて、処理対象の観測事象のスクリーニング(又はフィルタリング)を行う(S110,S111)。
【0201】
例えば、処理対象観測事象抽出処理部124は、時間変化(又は時系列変化)が発生している観測事象を抽出するなどして、スクリーニングを行う。この処理対象観測事象抽出処理部124としては、例えば、処理対象として意義ある観測事象を抽出するようにしている。
【0202】
上述した観測事象抽出処理部123では、例えば、明らかに対象外となる観測事象を取り除くなどの一次的なスクリーニングを行っている。この処理対象観測事象抽出処理部124では、一次スクリーニング後の観測事象に対して、例えば、時系列解析に必要な観測事象を抽出する二次的なスクリーニングを行っている。観測事象抽出処理部123と処理対象観測事象抽出処理部124とにより、例えば、数百ある観測事象に対して、処理対象となる観測事象の抽出処理が行われることになる。
【0203】
更に、観測事象抽出処理部123又は処理対象観測事象抽出処理部124は、例えば、ナレッジ登録処理部142で行われた絞り込み処理の結果(例えば観測対象となる観測事象)を受け取り、当該観測事象を抽出することもできる。その詳細は後述する。
【0204】
なお、処理対象観測事象抽出処理部124は、抽出した観測事象を処理対象観測事象DB127に記憶する(S112)。
【0205】
次いで、変化状態事象検出処理部125は、処理対象観測事象DB127から読み出した観測事象に対して、ナレッジDB140から読み出した過去の観測事象に基づき、状態事象変化と認定すべき観測事象を検出する(S113,S114)。
【0206】
例えば、変化状態事象検出処理部125は、処理対象となる観測事象と同一の観測事象をナレッジDB140から読み出して、処理対象となる観測事象がナレッジDB140から読み出した観測事象と異なっていれば、状態事象の変化がある観測事象であると検出することができる。
【0207】
なお、変化状態事象検出処理部125は、検出した観測事象を変化状態事象DB128に記憶する(S115)。その後の処理は図25に示される。
【0208】
次に、抽出した観測事象の更新処理(S117〜S119)について説明する。抽出観測事象更新処理部166は、抽出した観測事象の更新処理を行う。すなわち、抽出観測事象更新処理部166は、例えば、抽出観測事象DB(t時刻分)167から読み出した最新(t時刻)の観測事象と、抽出観測事象DB(t−1時刻分)165から読み出した直前(時刻t−1)の観測事象とを読出す(S117,S118)。そして、抽出観測事象更新処理部166は、直前の観測事象を最新の観測事象に書き換えて、抽出観測事象DB(t時刻分)167に記憶する(S119)。
【0209】
なお、抽出観測事象更新処理部166は、例えば、変化状態事象の抽出処理や原因事象の判定処理(例えば図25)などとは独立に動作し、次周期の観測事象の受け付けまでに処理を終了させる。
【0210】
図25は、図24から続くO&Mシステム100の詳細な動作例を表わすフローチャートである。図25においても、理解を容易にするため、O&Mシステム100に含まれる構成が一部示されている。
【0211】
O&Mシステム100は、更に、ナレッジ情報受付処理部152、ナレッジ更新処理部144、原因判定処理部132、原因通知処理部133、運用者又は外部出力装置インターフェース処理部169、原因分析処理部168、運用履歴受付処理部170、運用履歴分析処理部172を備える。
【0212】
このうち、ナレッジ情報受付処理部152は、例えば、図4に示す運用者要求受付処理に相当する。また、ナレッジ更新処理部144は、例えば、図4に示すナレッジ追加・修正処理部141とナレッジ登録処理部142に相当する。さらに、原因判定処理部132は、例えば、図4に示す原因事象判定処理部131に相当する。さらに、原因通知処理部133と運用者又は外部出力装置インターフェース処理部169は、例えば、図4に示す表示編集部184に相当する。さらに、原因分析処理部168は、例えば、図4に示す対処履歴処理部182に相当する。さらに、運用履歴受付処理部170と運用履歴分析処理部172は、例えば、図4に示す運用者要求受付処理部151に相当する。
【0213】
また、O&Mシステム100は、更に、ナレッジ情報DB153、状態事象変化原因DB134、通知ログDB135、運用履歴DB171、履歴分析DB173を備える。図25に示されるこれらのDBも、例えば、O&Mシステム100内のハードディスクなどのメモリに記憶されることができる。
【0214】
図25における処理は、例えば、ナレッジDB140に対して新たに項目を追加したり、削除したりするなど、ナレッジDB140への登録処理(S125〜S129)と、原因事象を推定する処理(S130〜S132)と、運用者のオペレーションをナレッジDB140に登録する処理(S140〜S147)を含む。
【0215】
最初に、ナレッジDB140に対する登録処理(S125〜S129)について説明する。運用者インターフェース処理部は、ナレッジ情報を受け付ける(S125)。ナレッジ情報は、例えば、ナレッジDB140に記憶される観測事象(又は観測項目)や、観測事象について自セルのトラヒックが「高い」などと判定される場合の閾値などの判定条件を含む。それ以外にも、ナレッジ情報としては、図18などに示されるテーブル(又はテーブルに含まれる観測事象など)であったり、図11図15に示すフローチャート(又は観測事象についてどの順番で処理を行うかなど)などがある。或いは、ナレッジ情報としては、運用者がノウハウとして指定する項目や、原因事象などであってもよい。
【0216】
このような、ナレッジ情報は、O&Mシステム100においては運用者によって入力されることができる。ナレッジDB140についても、運用者の意向に沿った項目や事象などが登録されることができる。これにより、例えば、図18に示すテーブルや図11図15に示すフローチャートなどがナレッジDB140に登録されることができる。図18に示すテーブルや、図11図15に示すフローチャートなどは、例えば、ナレッジDB140の一例を示すものでもある。
【0217】
次いで、ナレッジ情報受付処理部152は、運用者インターフェース処理部を介してナレッジ情報を受け付け、これをナレッジ情報DB153に記憶する(S126)。
【0218】
次いで、ナレッジ更新処理部144は、ナレッジ情報DB153からナレッジ情報を読出し、例えば、装置や機器単位にナレッジ情報を分類し、ナレッジDB140に記憶する(S127〜S129)。この場合、ナレッジ更新処理部144は、例えば、観測項目や観測データそのものなど、新たなナレッジとして組み入れるべき観測事象を処理対象観測事象DB127から読み出し、ナレッジDB140に記憶することで、新たなナレッジとして更新する。
【0219】
次に、原因事象の推定処理(S130〜S132)について説明する。原因判定処理部132は、変化状態事象DB128から観測事象を読み出して、ナレッジDB140に基づいて、原因事象を推定する(S130,S131)。原因事象の推定は、例えば、<5.1 表形式による原因事象の推定処理の例>で説明したテーブルによる推定処理でもよいし、<5.2 判断形式による原因事象の推定処理の例>で説明したフローチャートによる推定処理でもよい。詳細はすでに説明したためここでは説明を割愛する。原因判定処理部132は、推定した原因事象を状態事象変化原因DB134に記憶する(S132)。
【0220】
次いで、原因通知処理部133は、状態事象変化原因DB134から読み出した原因事象を、運用者又は外部出力装置インターフェース処理部169を介してモニタ186に出力し、O&Mシステム100を運用する運用者に原因事象を通知することができる(S133,S136)。
【0221】
また、原因通知処理部133は、運用者に通知した原因事象を通知ログDB135に記憶することもできる(S135)。
【0222】
次に、運用者のオペレーションを登録する処理(S140〜S147)について説明する。運用者インターフェース処理部は、運用者が行ったオペレーションを受け付ける(S140)。オペレーションとしては、例えば、原因事象に対して運用者がどのような対処を行ったかを示すものである。例えば、図21の例では、「Admission閾値を上げる」という対処を行った場合、この対処を行ったことを示すコマンドの入力がオペレーションとなる。オペレーションは、例えば、入力コマンドなどの諸操作の履歴を表わすものである。
【0223】
次いで、運用履歴受付処理部170は、運用者インターフェース処理部を介して、運用者のオペレーションを受け付け、これを運用履歴として、運用履歴DB171に記憶する(S141)。
【0224】
次いで、運用履歴分析処理部172は、運用履歴DB171に記憶された運用履歴から、例えば、処理対象の観測事象に関わる運用履歴を抽出し、その結果を履歴分析DB173に記憶する(S143)。あるいは、運用履歴分析処理部172は、例えば、運用履歴DB171に記憶された運用履歴を履歴分析DB173に記憶するようにすることもできる。
【0225】
原因分析処理部168は、状態事象変化原因DB134に記憶された原因事象に対して、ナレッジとして反映又は活用すべき要素などを分析し、その結果をナレッジDB140に記憶する(S145〜S147)。例えば、原因分析処理部168は、どのような観測事象に対して、どのような原因事象を推定したのか、さらに、その推定した原因事象に対してどのようなオペレーションが行われたのかを、ナレッジDB140に登録する処理を行う。そのため、原因分析処理部168は、処理対象観測事象DB127から観測事象を読出し(S145)、履歴分析DB173から運用履歴を読出し(S144)、状態事象変化原因DB134から原因事象を読み出す(S146)。そして、原因分析処理部168は、これらを関連させてナレッジDB140に登録する(S147)。
【0226】
<観測事象の絞り込み処理>
次に観測事象の絞り込み処理の詳細について説明する。観測事象の絞り込み処理は、例えば、複数ある観測事象の中でどれを観測対象の観測事象とするかを決定する処理でもある。この観測事象の絞り込み処理により、例えば、原因事象の特定が容易となり、原因事象の精緻化を図ることもでき、又、観測事象の抽出処理やひいては全体の処理を速くすることができる。
【0227】
図4においては、例えば、ナレッジ登録処理部142が絞り込み処理を行って観測事象を決定し、その結果が観測事象抽出部121に出力され、観測事象抽出部121が実際に観測対象の観測事象を抽出する。
【0228】
図24においては、例えば、観測事象抽出処理部123や処理対象観測事象抽出処理部124において、ナレッジ登録処理部142で決定された観測事象が入力され、収集した観測対象のうち、決定された観測事象に対応するものを抽出することができる。
【0229】
原因事象の推定処理は、例えば、収集した観測事象に対して、ナレッジDB140に登録された原因事象のうちから対応する原因事象を抽出することでもある(例えば図18)。すなわち、原因事象の推定処理は、図6で説明したように、観測事象Y={y1,y2,・・・yj}に対して、原因事象X={x1,x2,・・・,xj}のいずれが選択されるのかについての条件確率P(X|Y)を求める問題と考えることができる。
【0230】
図26(A)から図26(C)は、例えば、観測事象H1〜H3が独立(的)に発生(又は生起)したときにおける原因事象の確率を図示したものである。
【0231】
例えば、観測事象H1は、「トラヒック」という属性に関する観測事象である。観測事象H1に含まれる観測事象としては、例えば、「自セルトラヒック」や「他セルトラヒック」などの項目に対する観測事象(「自セルトラフィックが高い」「他セルトラフィックが低い」など)である。また、例えば、観測事象H2は「無線リソース」という属性に関する観測事象であり、観測事象H3は「接続」という属性に関する観測事象とすることができる。
【0232】
O&Mシステム100は複数の観測事象に基づいて原因事象を推定することも、1つの観測事象に基づいて原因事象を推定することも可能である。
【0233】
ここで、例えば、移動通信システムなどのシステム設計の際に、設計条件などから、各観測事象H1〜H3については2つの原因事象C1,C2によるものとし、各観測事象H1〜H3について原因事象C1である確率と原因事象C2である確率が推定できたものと仮定する。
【0234】
すなわち、観測事象H1においては、原因事象C1である確率が「3/4」、原因事象C2である確率は「1/4」であることが推定できたものとする(例えば図26(A)参照)。また、観測事象H2においては、原因事象C1である確率が「1/2」、原因事象C2である確率が「1/2」であることが推定できたものとする。さらに、観測事象H3において、原因事象C1である確率が「1/3」、原因事象C2である確率が「2/3」であることが推定できたものとする。
【0235】
次に、観測事象H1〜H3が同時に発生(又は生起)すると想定した場合には、初期条件として各観測事象H1〜H3が一様の確率で発生すると仮定する。すなわち、
P(H1)=P(H2)=P(H3)=1/3 ・・・(1)
とする。
【0236】
このような場合において、観測事象H1〜H3が同時に発生し、原因事象がC1であると仮定した場合、各観測事象H1〜H3の原因事象C1への条件付き確率P(H1|C1)、P(H2|C1)、P(H3|C1)は以下のようにしてそれぞれ求められる。
【0237】
P(H1|C1)={(1/3)×(3/4)}/{[(1/3)×(3/4)]+[(1/3)×(1/2)]+[(1/3)×(1/3)]}=9/19=0.47 ・・・(2)
P(H2|C1)={(1/3)×(1/2)}/{[(1/3)×(1/2)]+[(1/3)×(1/2)]+[(1/3)×(1/3)]}=6/19=0.32 ・・・(3)
P(H3|C1)={(1/3)×(1/3)}/{[(1/3)×(3/4)]+[(1/3)×(1/2)]+[(1/3)×(1/3)]}=4/19=0.21
・・・(4)
なお、条件付き確率P(H|C)のことを、例えば、観測事象Hの原因事象Cへの関与度Wと称する場合がある。
【0238】
式(2)から式(4)により、観測事象H1〜H3が同時に生起し、その原因事象がC1の場合、観測事象H1〜H3のうち、観測事象H1が最も有為的な(又は関与度Wが最も高い)観測事象と見なすことができる。よって、O&Mシステム100は、観測事象H1〜H3のうち、観測事象H1に着目すれば良いと判断することができる。
【0239】
例えば、ナレッジDB140には、初期条件(例えば式(1))と、観測事象H1〜H3における原因事象C1,C2の確率(例えば図26(A)〜図26(C)で示した確率)が保持される。そして、ナレッジ登録処理部142は、ナレッジDB140からこれらの値などを読み出して、式(2)〜式(4)を計算することで実施することができる。
【0240】
その後、O&Mシステム100の運用が開始され、O&Mシステム100が同時生起した観測事象H1〜Hを観測したとき、ナレッジ登録処理部142は以下のようにして、条件付き確率(又は関与度W)を計算する。
【0241】
P(H1|C1)={(9/19)×(3/4)}/{[(9/19)×(3/4)]+[(6/19)×(1/2)]+[(4/19)×(1/3)]}=81/133
=0.61 ・・・(5)
P(H2|C1)=36/133=0.27 ・・・(6)
P(H3|C1)=16/133=0.12 ・・・(7)
図27は、O&Mシステム100が観測事象H1〜H3の同時生起を繰り返し観測したとき(又は観測事象H1〜H3の同時生起が繰り返されたとき)、原因事象C1への関与度Wの値を示している。図27において「初期(設定)条件」における関与度Wは、式(1)を表わしている。また、図27において「1回目」における関与度Wは、式(2)〜式(4)を表わし、「2回目」における関与度Wは、式(5)〜式(7)を表わしている。図27では、更に、観測事象H1〜H3の同時生起が繰り返され、いずれにおいても、原因事象C1の推定ができたと仮定した場合における関与度Wを表わしている。
【0242】
図27に示すように、観測する回数が増えるにしたがい、観測事象H1における原因事象に対する関与度Wが他の観測事象H2,H3と比較して増大している。例えば、5回目になると観測事象H1の関与度Wは90%近い値となる。この場合、O&Mシステム100においては、観測事象H1を観測対象とすればよいと判定できる。勿論、観測回数が1回(例えば図27における「2回目」)でも、O&Mシステム100は、式(5)〜式(7)により観測事象H1を観測対象と判定することもできる。
【0243】
このようにO&Mシステム100では、観測事象を時系列に観測することで、例えば、観測事象H1〜H3が同時に生起したとき、関与度Wに基づいて、どの観測事象を観測対象とすればよいかを判定することができる。例えば、O&Mシステム100は、関与度Wが最も高い観測事象H1を観測対象として判定することができる。この場合、O&Mシステム100は、他の原因事象と比較して、原因事象C1である確率が高いと推定することが可能となる。
【0244】
なお、観測事象H1〜H3が同時に生起したとき、設計条件や事後の分析などから、原因事象がC2であると推定できたと仮定した場合の関与度Wは以下のようにして求めることができる。
【0245】
P(H1|C2)={(1/3)×(1/4)}×{[(1/3)×(1/4)]+[(1/3)×(1/2)]+[(1/3)×(2/3)]}=3/17=0.18
・・・(8)
P(H2|C2)={(1/3)×(2/3)}×{[(1/3)×(1/4)]+[(1/3)×(1/2)]+[(1/3)×(2/3)]}=7/17=0.35
・・・(9)
P(H3|C2)={(1/3)×(2/3)}×{[(1/3)×(1/4)]+[(1/3)×(1/2)]+[(1/3)×(2/3)]=8/17=0.47
・・・(10)
この場合は、例えば、観測事象H3が他の観測事象H1,H2よりも高い関与度Wとなっているため、O&Mシステム100は事象H3を観測対象とすることができる。
【0246】
図28はO&Mシステム100における絞り込み処理の動作例を示すフローチャートである。図28では上記した動作例も含んでいる。図28に示す動作は、例えば、ナレッジ登録処理部142において行われるが、ナレッジ登録処理部142以外にも観測事象抽出部121で行われてもよい。
【0247】
ただし、初期条件として、ナレッジDB140には、初期の関与度Wと、どの観測事象がどの属性に含まれるのかなどの各属性区分の観測事象が記憶される(S170)。
【0248】
初期の関与度Wは、例えば、「1回目」の観測事象の観測により得ることのできる関与度Wのことである。例えば、上記した例では、式(2)〜式(4)により得られた条件付き確率が初期の関与度Wとなる。
【0249】
また、属性区分の観測事象は、例えば、上記した観測事象H1〜H3のことである。ナレッジDB140には、例えば、属性区分ごとに、属性区分の観測事象(例えばH1やH2など)と、当該属性区分の観測事象に含まれる観測事象の項目(「自セルトラフィック」など)とが記憶される。ナレッジDB140に登録される属性区分の観測事象などは、例えば、システム設計の際に設計条件などを考慮して、O&Mシステム100の構築時にナレッジDB140に登録されるものとする。
【0250】
なお、以下においては、観測事象H1〜H3と観測事象H1〜H3に含まれる各観測事象とを区別するため、例えば、前者については「同一属性区分の観測事象」又は「属性区分の観測事象」などと称し、後者については単に「観測事象」と称する場合がある。例えば、同一属性区分の観測事象H1に含まれる観測事象は、1つでもよいし複数でもよい。
【0251】
他方、O&Mシステム100においては初期設定された関与度Wや属性区分の観測事象などは、適宜、変更したり追加したりすることも可能である(S171)。
【0252】
O&Mシステム100は、このような初期設定がなされていることを前提にして処理を開始することができる(S150)。
【0253】
O&Mシステム100は、処理を開始すると、同時生起する同一属性区分の観測事象を抽出する(S151)。
【0254】
例えば、ナレッジDB140には同一属性区分の観測事象が複数記憶され、その際に同時に生起する同一属性区分の観測事象がどれであるのかを示すフラグも記憶されている。ナレッジ登録処理部142は、共通フラグを有する同一属性区分の観測事象をナレッジDB140から読み出すことで、同時生起する同一属性区分の観測事象H1〜H3を各々抽出することができる。
【0255】
次いで、O&Mシステム100は、同時生起観測事象の属性区分を判定し(S152)、同一属性区分の同時生起観測事象を編集する(S153)。例えば、ナレッジ登録処理部142は、共通フラグを有する他の同一属性区分の観測事象があるか否かを判定したり、他にあれば、他の同一属性区分の観測事象を、共通フラグにより示された属性に含めたりすることができる。例えば、ナレッジ登録処理部142は、編集後の同一属性区分の観測事象をナレッジDB140に記憶する。
【0256】
次いで、O&Mシステム100は、同時生起する同一属性区分の観測事象ごとに、S154〜S155、及びS160の処理を行う。例えば、O&Mシステム100は、同一属性区分の観測事象H1〜H3ごとに、S154〜155、及びS160の処理を行う。
【0257】
すなわち、O&Mシステム100は、同一属性区分の観測事象に該当する原因事象の関与度W(old)を抽出する(S154)。例えば、ナレッジDB140にはフラグごとに関与度Wが記憶され、ナレッジ登録処理部142は、あるフラグの関与度WをナレッジDB140から読み出すことで、関与度W(old)を抽出する。例えば、ナレッジ登録処理部142は、関与度(old)として、観測事象H1についての式(2)の値「9/19」をナレッジDB140から読み出す。
【0258】
次いで、O&Mシステム100は、原因事象の推定(又は判定)がナレッジDB140から可能な否かを判定する(S155)。
【0259】
例えば、ある属性区分の観測事象については、原因事象が断定的に判断可能な場合もある。そのような場合(S155でYES)、ナレッジ登録処理部142は、断定的に判断可能な原因事象を、最終的な原因事象として決定することができる(S156)。判定の方法としては、例えば、ナレッジ登録処理部142がナレッジDB140にアクセスし、ナレッジDB140において、ある属性区分の観測事象に対して、一つの原因事象のみ記憶されているか否かにより判定することができる。
【0260】
一方、O&Mシステム100は、原因事象の推定がナレッジDB140から可能でないとき(S155でNO)、すなわち、原因事象の推定には観測事象の分析が必要であると判定するとき、観測事象の分析を行う(S160)。
【0261】
例えば、ナレッジ登録処理部142は、後段のS162の処理により関与度Wが収斂している、ある属性区分の観測事象を得たとき(S162でYES)、このような属性区分の観測事象を観測対象とすることができる。従って、ナレッジ登録処理部142は、例えば、このような属性区分の観測事象が得られたか否かを確認することで、本処理の分析を行うこともできる。なお、S162の処理の詳細は後述する。
【0262】
O&Mシステム100は、原因事象の推定がナレッジから可能なとき(S155でYES)、又は関与度Wが収斂している、属性区分の観測事象を得たとき(S160)、最終的な原因事象の決定を行う(S156)。
【0263】
例えば、ナレッジ登録処理部142は、S155でYESの場合、ナレッジDB140から原因事象を読出して原因事象判定処理部131に出力する。この場合、原因事象判定処理部131は、原因事象をモニタ186に出力することで、原因事象の表示を行う(S157)。
【0264】
そして、O&Mシステム100は一連の処理を終了する(S158)。
【0265】
一方、O&Mシステム100は、例えば、収斂する関与度Wを得ていないとき(S160)、同一属性区分の観測事象に該当する原因事象の関与度W(new)を新たに算出する(S161)。
【0266】
例えば、観測事象抽出処理部123は、次周期の属性区分の観測事象が得られたとき、ナレッジ登録処理部142に出力し、ナレッジ登録処理部142では得られた次周期の属性区分の観測事象に対して、新たな関与度W(New)を求める。例えば、ナレッジ登録処理部142は、関与度W(New)として、式(5)〜式(7)の各値を算出する。
【0267】
次いで、O&Mシステム100は、W(old)<W(new)か否かを判定する(S162)。すなわち、O&Mシステム100は、関与度Wが収斂しているか否かを判定する。
【0268】
例えば、式(5)の値「81/133」は、式(2)の値「9/19」より高く、W(old)<W(new)を満たす。また、式(6)の値「36/133」は、式(3)の値「6/19」より低く、W(old)<W(new)を満たさない。
【0269】
例えば、ナレッジ登録処理部142は、同時生起する複数の同一属性区分の観測事象H1〜H3について、1つでも、W(old)<W(new)を満たせば(S162でYes)、関与度Wは収斂していると判定する。一方、ナレッジ登録処理部142は、同時生起する複数の同一属性区分の観測事象H1〜H3における全てが、W(old)<W(new)を満たさないとき(S162でNo)、関与度Wは収斂していないと判定する。
【0270】
O&Mシステム100は、関与度Wが収斂していると判定したとき(S162でYES)、同一属性区分の観測事象を次回以降の観測事象とする(S163)。
【0271】
例えば、O&Mシステム100は、同時生起する複数の同一属性区分の観測事象H1〜H3のうち、収斂している同一属性区分の観測事象H1を観測対象として選択する。例えば、O&Mシステム100はこの選択により、同時生起する複数の同一属性区分の観測事象H1〜H3に対して絞り込みを行い、観測対象となる同一属性区分の観測事象H1により観測を行うことができる。
【0272】
従って、O&Mシステム100は、何百、何千と観測事象を観測している状況で、観測されたすべての観測事象に基づいて、原因事象を推定するのではなく、絞り込んだ属性区分の観測事象(例えば同一属性区分の観測事象H1)に基づいて原因事象を推定するようにしている。よって、O&Mシステム100は、膨大な観測事象から原因事象を推定又は決定することができる。また、O&Mシステム100は、全ての観測事象から原因事象を推定する場合と比較して、絞り込んだ同一属性区分の観測事象に基づいて原因事象を推定するため、観測対象の観測事象を精緻化することができるし、処理速度を速くすることもできる。
【0273】
図28に戻り、次いで、O&Mシステム100は絞り込んだ観測事象と関与度W(new)をナレッジDB140に記憶する(S164)。例えば、ナレッジDB140に記憶された関与度W(new)はナレッジ登録処理部142により読み出される際には、関与度W(old)となってS154の処理が行われる。
【0274】
一方、関与度Wが収斂していないとき(S162でNO)、O&Mシステム100は同一属性区分の観測事象が他の属性区分の観測事象と重複しているか否かを判定する(S166)。この重複に関して以下説明する。
【0275】
図29は、同一属性区分の観測事象の例を示している。図29の例では、属性区分H1〜H3に対して、更に他の属性区分H4があり、観測事象#6,#7については属性区分H3とH4のいずれにも重複している。例えば、属性性区分H3としては「接続」であり、属性区分H4としては「品質状態」であるとき、観測事象#6,#7はいずれの属性区分H3,H4に属する観測事象でもある。どの観測事象がどの属性区分に属しているかは、上記したように、例えばシステム設計の際などにおいて、ナレッジDB140に登録されているものとする。
【0276】
図28におけるS166の処理では、関与度Wが収斂していないとき、例えば、O&Mシステム100は3つの属性区分H1〜H3の組み合わせが問題であると判断し、他の属性区分の観測事象H4を加えるか否かを判定している。例えば、ナレッジ登録処理部142が、元の属性区分の観測事象H1〜H3、他の属性区分H4とで重複した観測事象があるか否かを判定することで処理を行うことができる。
【0277】
図28に戻り、O&Mシステム100は、ある属性区分の観測事象が他の属性区分の観測事象とで重複した観測事象がないとき(S166でNO)、運用者や設計者に通知する(S167)。
【0278】
例えば、ナレッジ登録処理部142は、同時生起する3つの属性区分H1〜H3を構成する観測事象の組み合わせが問題である旨を原因事象判定処理部131などに通知することで、モニタ186にその旨が表示されて、運用者や設計者に通知できる。これにより、例えば、O&Mシステム100は運用者や設計者に対して、設計条件などの再検討を求めることができる。例えば、運用者や設計者は、同時生起する属性区分H1〜H3の観測事象に対する属性区分の変更などを行い、変更後の属性区分の観測事象がナレッジDB140に記憶される(S171)。
【0279】
そして、一連の処理が終了する(S168)。
【0280】
一方、O&Mシステム100は、同一属性区分の観測事象が他の属性区分の観測事象と重複する観測事象があるとき(S166でYES)、他の属性区分の観測事象において、原因事象に対する関与度W(other)を算出する(S169)。例えば、ナレッジ登録処理部142は、他の属性区分の観測事象H4について、原因事象(例えば、原因事象C1やC2など)の関与度Wを計算する。
【0281】
次いで、O&Mシステム100は、W(other)>W(new)か否かを判定する(S180)。すなわち、O&Mシステム100は、例えば、属性区分の観測事象H1〜H3の原因事象C1に対する各関与度のうち最も高い関与度W(new)と、他の属性区分の観測事象H4について原因事象C1の関与度W(other)とを比較して判定する。
【0282】
関与度W(other)が関与度W(new)より高くないとき(S180でNO)、他の属性区分の原因事象についての関与度W(other)は、収斂していない関与度W(new)よりも低くなっている。このような場合、ある属性区分の観測事象に他の属性区分の観測事象を含めたとしても、関与度は収斂しないことになり、O&Mシステム100は、属性区分の観測事象の組み合わせに問題があるものとして、その旨を運用者や設計者に通知する(S167)。
【0283】
一方、他の属性区分の観測事象における原因事象の関与度W(other)が、当該属性区分の観測事象における原因事象の関与度W(new)より高いとき(S180でYES)、O&Mシステム100は、当該属性区分の変更を行う(S181)。
【0284】
例えば、ナレッジ登録処理部142は、当該属性区分の観測事象H1〜H3のうちH3をH4に入れ換えたり、H4を加えて当該属性区分の観測事象としてH1〜H4とすることで、変更を行うことができる。なお、ナレッジ登録処理部142は、例えば、変更後の属性区分の観測事象において原因事象の関与度を計算し、ナレッジDB140に記憶することもできる。
【0285】
次いで、O&Mシステム100は、ナレッジDB140に変更後の属性区分を記憶する(S182)。以後は、変更後の属性区分の観測事象に対して、原因事象の関与度WをナレッジDB140から抽出するなどの処理(例えばS154)以降を繰り返す。
【0286】
すなわち、O&Mシステム100は、例えば、計算した関与度W(other)をナレッジDB140に記憶する(S182)。また、O&Mシステム100は、変更後の属性区分の観測事象についての式(1)と式(2)〜式(4)の値をナレッジDB140から読み出して、関与度Wの計算(式(5)〜式(7)や式(8)〜式(10)など)を行う(S161)。そして、O&Mシステム100は、関与度W(new)を算出し(S162)、算出した関与度W(new)が収斂するとき(S162でYes)、当該属性区分の観測事象に対して、観測データを絞り込み(S613)、原因事象を推定することになる。
【0287】
このように、絞り込み処理においては、属性区分の観測事象について原因事象に対する関与度Wが収斂しないとき(S162でNo)、属性区分を変更するようにしており、これにより新たに計算された関与度Wが収斂する方向に移行させることができる。従って、関与度Wが収斂することで、ある観測事象についての関与度Wは、観測回数が増加するにつれて増加するようになり(例えば図27のH1など)、O&Mシステム100は観測対象となる属性区分の観測事象を絞り込むことができる。
【0288】
<モニタ画面の表示例>
最後に、観測事象や対処方法の画面表示例について説明する。図30から図34はこのような画面表示例を示す図である。
【0289】
図30は抽出された観測データをモニタ186などに表示させたときの表示画面例を示す。図30に示すように、各観測事象には、基地局などで観測されたときの日時などが表示される。基地局などにおいては、観測事象が観測された日時などを観測事象とともに測定することもでき、観測事象と日時とをO&Mシステム100に送信することができる。観測事象受付処理部111では時系列に観測事象を得ることができるし、或いは、受信した観測事象に対して時系列順に並び替える処理を行うこともできる。
【0290】
図31は、グループ化された観測事象に対して、各グループに含まれる観測事象のカウント値を表わす画面表示例である。図31の例では、ある基地局において観測された観測事象が3つのグループにグループ化される例を表わしている。例えば、グループ1〜グループ3は、同一属性区分の観測事象を各々表わしている。
【0291】
また、図31に示す画面表示例では、例えば、各グループに含まれる観測事象のカウント値が時系列で表わされている。或いは、例えば、同時刻において隣接するセル(又は基地局)において観測されたカウント値が表わされている。O&Mシステム100は、例えば、このようなカウント値によって、各グループに含まれる観測事象の観測回数を把握することができる。
【0292】
図32は原因事象に対する関与度をグラフ形式に表示した画面表示例である。例えば、図32図27に対応する図であり、ナレッジ登録処理部142において、あるタイミングにおいて算出された関与度W(new)(例えば図28のS161)をグラフ化したものである。例えば、各原因事象に対する関与度Wが折れ線グラフにより表わされている様子が理解される。このような画面表示により、例えば、運用者などは原因事象に対する関与度Wがどのような値となっているのか、又は他の原因事象との比較、などを行うことができる。
【0293】
また、図33は関与度を木形式(ツリー形式)で表わした画面表示例である。例えば、O&Mシステム100が複数の原因事象を推定したときに複数の原因事象の関係を木形式に表わしたり、あるタイミング(又は周期)で推定した原因事象とそのタイミング以前に推定した原因事象との関係を木形式で表わした画面表示例である。例えば、このような木形式は、ナレッジDB140に記憶される。例えば、O&Mシステム100は、モニタ186を介してこのような画面表示を行うことで、運用者などに原因事象の関係などを知らせることができる。
【0294】
図34は原因事象とそれに対する対処方法などの画面表示例を表わす図である。例えば、O&Mシステム100のモニタ186や、外部出力装置インターフェース処理部169(図25)を介して他の装置のモニタに表示された画面表示例でもある。
【0295】
図34に示すように、画面上の項目欄1861,1862には、観測事象とそれに対する原因事象とがそれぞれ表示される。更に、画面上の項目欄1863には、原因事象に対する対処方法が表示される。例えば、「レベル1」が最も高い(又は最も可能性のある)原因事象であり、「レベル8」が最も低い(又は最も可能性の低い)原因事象として表示される。対処方法は、例えば、図34に示すように複数あってもよいし、1つであってもよい。
【0296】
このような対処方法は、例えば、ナレジDB140に記憶されている。例えば、O&Mシステムは、推定した原因事象に対応する対処方法をナレッジDB140から読み出すことで、推定した原因事象とともに対処方法をモニタ186などに表示することができる。
【0297】
例えば、図34に示す画面表示により、原因事象などが表示されるため、O&Mシステム100は、運用者や監視者などに対して、稼働状態の変化又は変位を適切に知らせることが可能となる。また、例えば、このような表示により、対処方法などが表示されるため、O&Mシステム100は、運用者や監視者などに対して、意思決定を支援することも可能となる。
【0298】
[その他の実施の形態]
次にその他の実施の形態について説明する。
【0299】
図35はO&Mシステムの他の構成例を表わす図である。O&Mシステムは、モニタ186、NWIF(ネットワークインターフェース)190、運用者IF191、CPU(Central Processing Unit)192、ROM(Random Access Memory)193、及びRAM(Read Only Memory)194を備える。CPU192、ROM193、及びRAM194はバス195を介して互いに接続される。
【0300】
ここで、NWIF190は、例えば、第2の実施の形態におけるNWIF処理部110(例えば図3)に対応する。また、運用者IF191は、例えば、第2の実施の形態における運用者IF処理部150に対応する。さらに、CPU192は、例えば、第2の実施の形態における観測事象処理部120と原因事象判定部130に対応する。さらに、RAM194は、例えば、第2の実施の形態におけるナレッジDB140に対応する。
【0301】
また、CPU192は、例えば、第2の実施の形態における観測事象抽出部121、観測事象分析処理部122、原因事象判定処理部131、ナレッジ追加・修正処理部141、ナレッジ登録処理部142、関連情報受付処理部160、統計解析処理部180、対処履歴処理部182、及び表示編集部184(例えば図4)に対応する。
【0302】
さらに、CPU192は、例えば、第2の実施の形態における、運用環境分析処理部163、ナレッジ情報受付処理部152、原因通知処理部133、運用履歴分析処理部172(例えば図24図25)に対応する。
【0303】
さらに、RAM194は、例えば、第2の実施の形態における観測事象DB112、処理対象観測事象DB127、変化事象DB128、状態事象変化原因DB134、通知ログDB135、ナレッジ情報DB153、運用情報DB162、運用環境条件DB164、抽出観測事象DB(t−1時刻分)165、抽出観測事象DB(t時刻分)167、運用履歴DB171、及び履歴分析SB173に対応する。
【0304】
CPU192は、バス195を介して、ROM193に記憶されたプログラムを読み出して、RAM194にロードし、ロードしたプログラムを実行することで、例えば、上記対応する各処理部の機能を実現することができる。その際に、CPU192は、RAM194にアクセスして、データなどを記憶することで、ナレッジDB140などの各DBにデータを記憶したり、読み出したりすることができる。
【0305】
以上まとめると付記のようになる。
【0306】
(付記1)
被監視装置において観測された第1及び第2の観測データに対して、前記第1及び第2の観測データが得られた原因を推定する運用監視装置において、
前記被監視装置から送信された前記第1及び第2の観測データを受け付ける観測事象受付処理部と、
前記第1及び第2の観測データに対して前記原因が発生する確率に基づいて、前記第1及び第2の観測データのうち、前記第1の観測データを抽出する観測事象抽出部と、
前記抽出した第1の観測データに基づいて、前記原因を推定する原因事象判定処理部と、
前記推定した原因を示すデータを出力する原因通知処理部と
を備えることを特徴とする運用監視装置。
【0307】
(付記2)
更に、前記第1及び第2の観測データに対して前記原因が発生する第1の確率を記憶するメモリを備え、
前記観測事象抽出部は、前記第1の確率を前記メモリから抽出後、前記第1及び第2の観測データを観測したとき、前記第1の確率に基づいて前記原因が発生する第2の確率を求め、前記第1の確率と前記第2の確率とに基づいて、前記第1の観測データを抽出することを特徴とする付記1記載の運用監視装置。
【0308】
(付記3)
前記観測事象抽出部は、
前記第2の確率が前記第1の確率よりも高いとき、前記第1の観測データを抽出し、
前記第2の確率が前記第1の確率よりも高くないとき、前記第1の観測データが属する属性区分を変更し、変更後の属性区分において前記原因が発生する第3の確率に基づいて、前記第1の観測データを抽出することを特徴とする付記2記載の運用監視装置。
【0309】
(付記4)
前記原因通知処理部は、前記推定した原因に対する対処方法を示すデータを出力することを特徴とする付記1記載の運用監視装置。
【0310】
(付記5)
前記観測事象抽出部は、イベントに関するイベント情報又は無線基地局装置に関するセル情報を含む運用関連情報を入力し、前記運用関連情報に基づいて、前記第1の観測データを抽出することを特徴とする付記1記載の運用監視装置。
【0311】
(付記6)
前記観測事象抽出部は、抽出した前記第1の観測データに対して、時系列変化のある前記第1の観測データを、前記原因を推定する対象の観測データとすることを特徴とする付記5記載の運用監視装置。
【0312】
(付記7)
更に、前記第1の観測データに対する原因を示すデータを記憶するメモリを備え、
前記原因事象判定処理部は、前記抽出した第1の観測データに対応する前記原因を示すデータを前記メモリから読み出すことで、前記原因を推定することを特徴とする付記1記載の運用監視装置。
【0313】
(付記8)
前記メモリには、前記第1の観測データの値に応じて1又は複数の原因を示すデータが記憶されたテーブルを備え、
前記原因事象判定処理部は、前記観測事象受付処理部で受け付けた前記第1の観測データの値に応じた原因を示すデータを前記テーブルから読み出すことを特徴とする付記7記載の運用監視装置。
【0314】
(付記9)
前記原因事象判定処理部は、前記観測事象受付処理部で受け付けた前記第1の観測データの値に応じて、異なる前記対処方法を示すデータを出力することを特徴とする付記4記載の運用監視装置。
【0315】
(付記10)
更に、メモリと、
前記推定した原因を示すデータと、前記推定した原因に対して運用者により行われた対処方法を示すデータとを前記メモリに記憶する原因分析処理部とを備え、
前記原因通知処理部は、前記原因事象判定処理部が前記原因を推定したとき、前記メモリから前記原因に対応する前記対処方法を示すデータを読み出して、前記対処方法を示すデータを出力することを特徴とする付記1記載の運用監視装置。
【0316】
(付記11)
前記観測事象抽出部は、前記第2の確率が前記第1の確率よりも高くないとき、前記第1の観測データが属する属性区分と重複する他の属性区分において前記原因が発生する前記第3の確率を算出し、前記算出した第3の確率が前記第2の確率よりも高いとき、前記第1の観測データが属する属性区分を前記他の属性区分に変更することを特徴とする付記3記載の運用監視装置。
【0317】
(付記12)
前記第1の観測データは第1の属性区分に属する1又は複数の観測データであり、前記第2の観測データは第2の属性区分に属する1又は複数の観測データであることを特徴とする付記1記載の運用監視装置。
【0318】
(付記13)
前記第1及び第2の観測データに対して前記原因が発生する確率は、前記第1の観測データに対する前記原因の条件付き確率を示す第1の条件付き確率と、前記第2の観測データに対する前記原因の条件付き確率を示す第2の条件付き確率を含むことを特徴とする付記1記載の運用監視装置。
【0319】
(付記14)
被監視装置において観測された第1及び第2の観測データに対して、前記第1及び第2の観測データが得られた原因を推定する運用監視装置における原因事象の推定方法であって、
観測事象受付処理部により、前記被監視装置から送信された前記第1及び第2の観測データを受け付け、
観測事象抽出部により、前記第1及び第2の観測データに対して前記原因が発生する確率に基づいて、前記第1及び第2の観測データのうち、前記第1の観測データを抽出し、
原因事象判定処理部により、前記抽出した第1の観測データに基づいて、前記原因を推定し、
原因通知処理部により、前記推定した原因を示すデータを出力する
ことを特徴とする原因事象の推定方法。
【0320】
(付記15)
被監視装置と、
前記被監視装置において観測された第1及び第2の観測データに対して、前記第1及び第2の観測データが得られた原因を推定する運用監視装置とを備える情報通信ネットワークシステムにおいて、
前記運用監視装置は、
前記被監視装置から送信された前記第1及び第2の観測データを受け付ける観測事象受付処理部と、
前記第1及び第2の観測データに対して前記原因が発生する確率に基づいて、前記第1及び第2の観測データのうち、前記第1の観測データを抽出する観測事象抽出部と、
前記抽出した第1の観測データに基づいて、前記原因を推定する原因事象判定処理部と、
前記推定した原因を示すデータを出力する原因通知処理部とを備えることを特徴とする情報通信ネットワークシステム。
【符号の説明】
【0321】
10:情報通信ネットワークシステム 100:O&Mシステム
110:NWIF処理部 111:観測事象受付処理部
112:観測対象システムインターフェース処理部
113:観測事象DB 120:観測事象処理部
121:観測事象抽出部 122:観測事象分析処理部
123:観測事象抽出処理部 124:処理対象観測事象抽出処理部
125:変化状態事象検出処理部 127:処理対象観測事象DB
128:変化状態事象DB 130:原因事象判定部
131:原因事象判定処理部 132:原因判定処理部
133:原因通知処理部 134:状態事象変化原因DB
135:通知ログDB 140:ナレッジDB
141:ナレッジ追加・修正処理部 142:ナレッジ登録処理部
144:ナレッジ更新処理部 150:運用者IF処理部
151:運用者要求受付処理部 152:ナレッジ情報受付処理部
153:ナレッジ情報DB 160:関連情報受付処理部
161:運用情報受付処理部 162:運用情報DB
163:運用環境分析処理部 164:運用環境条件DB
165:抽出観測事象DB(t−1時刻分) 166:抽出観測事象更新処理部
167:抽出観測事象DB(t時刻分) 168:原因分析処理部
169:運用者又は外部出力装置インターフェース処理部
170:運用履歴受付処理部 171:運用履歴DB
172:運用履歴分析処理部 173:履歴分析DB
180:統計解析処理部 182:対処履歴処理部
184:表示編集部 186:モニタ
192:CPU 193:ROM
194:RAM
200(200−1,200−2,…,200−n):移動情報端末
300:移動通信網 400:GW(ゲートウェイ)
500:他ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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