(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
追い抜き加工用ダイと追い抜き加工用パンチとの組み合わせからなり、前回加工で形成されたパンチ孔と今回加工で形成されるパンチ孔とが互いに板材送り方向に重なるように板材に追い抜き加工を行って長孔を形成するための追い抜き加工用金型であって、
前記追い抜き加工用ダイは、ダイ本体と、このダイ本体に対して着脱自在とされる刃部材とより成り、
前記ダイ本体は、平面形状が板材送り方向に長い長方形で上下に貫通した貫通孔を有し、この貫通孔の上面開口周縁における板材送り方向下流側の上端縁および板材送り方向に沿う両側の上端縁が打抜きエッジとされ、かつ前記貫通孔の板材送り方向上流側に隣り合って前記打抜きエッジよりも高さ位置が低い刃部材着座面が形成され、
前記刃部材は、前記刃部材着座面に装着可能で、その装着状態において前記ダイ本体の打抜きエッジよりも上面が低くなる高さ寸法であり、板材送り方向下流側の上端縁が打抜きエッジとされ、
前記追い抜き加工用パンチは、前記追い抜き加工用ダイの前記貫通孔に嵌り合い状態に進入する刃部を有し、この刃部の板材送り方向上流側のコーナー部が平面視で円弧状に形成されている、
追い抜き加工用金型。
【背景技術】
【0002】
パンチプレスにより板材に追い抜き加工を行う場合、平面形状が長方形状で上下に貫通した貫通孔を有するダイと、このダイの貫通孔に嵌り合い状態に進入する刃部を有するパンチとを用いて、多数のパンチ孔を互いに部分的に重ねながら連続して加工する方法が採られる。しかし、この方法によると、連続して開けられるパンチ孔の重なり部分の一端に、見た目や触感で違和感のある継ぎ目が残るという問題がある。継ぎ目は、以下の各要素からなる(
図15)。
【0003】
ダレ面63の継ぎ目66は、パンチの平面形状が長方形状である場合、
図16のように、パンチ孔61におけるコーナー部61aの上端縁付近61aaにダレが生じないことに起因する。つまり、今回加工でパンチ孔61が形成されたとき、前回加工で形成されたパンチ孔61における前記ダレが生じていないコーナー部61aの上端縁付近61aaが突起状となって残るのである。なお、コーナー部61aの上端縁付近61aaにダレが生じない理由は、
図17に示すように、コーナー部61aでは他の箇所よりもパンチ1とパンチ孔61の上端縁との間隔が離れている(B>C)ため、パンチ1のパンチ力が板材Wに伝わりにくいからであると考えられる。
【0004】
切断面の突起67(
図15)は、パンチ孔61のコーナー部61aでは、破断面が生じず、
図16にせん断面部64aで示すように下端までせん断面になることに起因する。
図18のように、破断面65はせん断面64よりも後退しているため、今回加工でパンチ孔61が形成されたとき、前回加工で形成されたパンチ孔61における下端まで延びたせん断面部64aの部分が、周囲の破断面65よりも突出した状態となる。
【0005】
下面の突起68(
図15)は、上記パンチ孔61のコーナー部61aに形成された板材Wの下端まで延びたせん断面部64a(
図16)が、今回加工時にパンチ1の側面で擦られながら下方に引っ張られることにより、板材Wの下面よりも下方に突出した状態となったものである。いわゆるバリが大きく形成された部分である。
【0006】
これらの継ぎ目は、後行程にてサンダー掛けややすり掛け等の手作業で処理を行っていた。手作業による処理は、作業者によって仕上げ品質のばらつきがあるうえに、作業工数が増えて加工能率が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、上記各種の継ぎ目を無くすか、または極力目立たなくするパンチ加工方法として、底面が水平に対し傾斜した切込刃部を有する追い抜き加工用パンチを用い、前記切込刃部では板材を打ち抜かずに切込みを入れるだけとして、次の切込みを前の切込みに続けて加工する方法が提案されている(例えば特許文献1、2)。また、特許文献3では、所定間隔でワークを半抜きし、その後、隣接する一方の半抜き部分から他方の半抜き部分へ跨る部分を抜くことで、継ぎ目を無くす加工方法が提案されている。さらに、特許文献4では、パンチおよびダイの一側縁部を円弧状に形成して、最初に加工された加工孔の円弧状部を、パンチおよびダイの円弧状部に送り込んで追い抜き加工を行うことで、ダレ面の継ぎ目を目立たなくしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記提案の加工方法によると、パンチ孔のコーナー部にも他の部分と同じようにダレや破断面が生じるため、多数のパンチ孔を互いに部分的に重ねながら連続して加工する追い抜き加工を行った場合にパンチ孔の重なり部分が滑らかな連続する面となり綺麗に仕上がる。しかし、この加工に用いる金型は、形状が複雑であるため、高価である。また、1回のパンチ加工で開けることのできるパンチ孔の長さが短いため、加工能率が低下する。さらに、パンチの打ち下ろし高さを微妙に調整する必要があり、複雑な制御をする必要がある。
【0010】
上記課題を解決するものとして、平面形状が長方形状で上下に貫通した貫通孔を有し、この貫通孔の板材送り方向上流側の上面開口縁から上流側にかけて他の部分よりも上面の高さが低い凹部が形成されたダイと、このダイの前記貫通孔に嵌り合い状態に進入する刃部を有し、この刃部の板材送り方向上流側のコーナー部が平面視で円弧状に形成されたパンチとの組合せからなる追い抜き加工用金型を考えついた。この追い抜き加工用金型を用いると、パンチ孔の重なり部分を滑らかに仕上げながら板材の追い抜き加工を効率良く行うことができることが確かめられた。また、この追い抜き加工用金型は、比較的簡単な構成であるため、安価に製作することができる。
【0011】
使用に伴って貫通孔の周囲の打抜きエッジが摩耗した場合、打抜きエッジの上面を研磨することで打抜きエッジを砥ぎ直す。しかし、上記追い抜き加工用金型のダイは、貫通孔の板材送り方向上流側の上面開口縁から上流側にかけての部分が他の部分よりも上面の高さが低い凹部となっているため、この凹部の縁となる打抜きエッジの両端部分を砥ぎ直すことが難しい。なぜなら、凹部の縁となる打抜きエッジについては、凹部に研磨用工具を入れて上面を研磨することになるが、その場合に研磨用工具が凹部の壁面に当たるため、壁際を研磨することができないからである。
【0012】
この発明
の目的は、追い抜き加工用ダイと追い抜き加工用パンチの組み合わせからなり、パンチ孔の重なり部分を滑らかに仕上げながら、追い抜き加工を能率良く行うことができ、追い抜き加工用ダイの摩耗した打抜きエッジを容易に砥ぎ直せる追い抜き加工用金型を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この発明の追い抜き加工用金型は、追い抜き加工用ダイと追い抜き加工用パンチとの組み合わせからなり、前回加工で形成されたパンチ孔と今回加工で形成されるパンチ孔とが互いに板材送り方向に重なるように板材に追い抜き加工を行って長孔を形成するためのものである。前記追い抜き加工用ダイは、ダイ本体と、このダイ本体に対して着脱自在とされる刃部材とより成る。前記ダイ本体は、平面形状が板材送り方向に長い長方形で上下に貫通した貫通孔を有し、この貫通孔の上面開口周縁における板材送り方向下流側の上端縁および板材送り方向に沿う両側の上端縁が打抜きエッジとされ、かつ前記貫通孔の板材送り方向上流側に隣り合って前記打抜きエッジよりも高さ位置が低い刃部材着座面が形成されている。前記刃部材は、前記刃部材着座面に装着可能で、その装着状態において前記ダイ本体の打抜きエッジよりも上面が低くなる高さ寸法であり、板材送り方向下流側の上端縁が打抜きエッジとされている。前記追い抜き加工用パンチは、前記追い抜き加工用ダイの前記貫通孔に嵌り合い状態に進入する刃部を有し、この刃部の板材送り方向上流側のコーナー部が平面視で円弧状に形成されている。
【0020】
この構成の追い抜き加工用金型の追い抜き加工用ダイは、ダイ本体の刃部材着座面に刃部材を装着して成る。刃部材を装着した状態では、ダイ本体の上面よりも刃部材の上面が低くなる。ダイ本体の貫通孔の上面開口周縁における板材送り方向下流側の上端縁および板材送り方向に沿う両側の上端縁と、刃部材の板材送り方向下流側の上端縁とが、追い抜き加工用ダイの打抜きエッジとなる。使用に伴って各打抜きエッジが摩耗してきたら、各打抜きエッジの上面を研磨することで各打抜きエッジを砥ぎ直す。その際、ダイ本体から刃部材を取り外すことにより、刃部材の打抜きエッジの上面を容易に研磨することができる。
【0021】
この追い抜き加工用金型によると、ダイの上に板材を水平状に載置し、この板材に対しパンチを打ち下ろしてパンチ加工を行うことで、板材にダイおよびパンチの平面形状と合致する長方形状のパンチ孔を形成する。ダイにおける貫通孔の板材送り方向上流側の上面開口縁から上流側にかけての部分は高さの低い刃部材となっているため、パンチ孔の板材送り方向上流端に隣接する板材部分は、ダイ本体の上面と刃部材の上面の高低差分だけ下向きに変形させられた成形部となる。また、パンチは、刃部の板材送り方向上流側のコーナー部が平面視で円弧状に形成されていることにより、コーナー部におけるパンチとパンチ孔の上端縁との間隔が他の箇所における同間隔と同じである。それにより、パンチ孔のコーナー部にもダレ面が生じる。
【0022】
前回加工で形成されたパンチ孔と今回加工で形成されるパンチ孔とが互いに部分的に重なるように板材に追い抜き加工を行う場合、前回加工で形成されたパンチ孔の板材送り方向上流端に隣接する板材部分が下方に変形した成形部になっていることと、前回加工で形成されたパンチ孔の板材送り方向上流側のコーナー部にダレ面が生じていることとの相乗効果により、ダレ面での継ぎ目の発生が抑えられる。また、前回加工で形成されたパンチ孔のコーナー部に破断面が形成されているため、今回加工を行ったときに切断面の下部にせん断面の跡が残らず、切断面の突起が生じない。さらに、前回加工で形成されたパンチ孔のコーナー部に破断面が形成されていると、今回加工時にパンチの側面で擦られながら下方に引っ張られたとしても、それによる板材の下面への突出量が少なく、下面の突起が抑えられる。
【0023】
ダイの刃部材は板材送り方向上流側にのみ設けられ、かつパンチの刃部のコーナー部における平面視円弧状の部分は板材送り方向上流側にのみ形成されているため、ダイおよびパンチの板材送り方向の向きを逆にしてパンチ加工を行うことで、パンチ孔の板材送り方向上流側端を下流側と同様に平面形状で矩形状、例えば直角に打ち抜くことができる。よって、1組の追い抜き加工用金型だけで長孔を形成すること可能である。
【0024】
この追い抜き加工用金型は、従来の追い抜き加工用金型と比べて、追い抜き加工を行う場合の前回のパンチ孔と今回のパンチ孔の板材送り方向の重なり代が短くて済むため、加工能率が良い。また、この追い抜き加工用金型は、例えば特許文献1,2のものと比べて簡単な構成であるため、安価に製作することができる。
【発明の効果】
【0027】
この発明の追い抜き加工用金型は、追い抜き加工用ダイと追い抜き加工用パンチとの組み合わせからなり、前回加工で形成されたパンチ孔と今回加工で形成されるパンチ孔とが互いに板材送り方向に重なるように板材に追い抜き加工を行って長孔を形成するためのものであって、前記追い抜き加工用ダイは、ダイ本体と、このダイ本体に対して着脱自在とされる刃部材とより成り、前記ダイ本体は、平面形状が板材送り方向に長い長方形で上下に貫通した貫通孔を有し、この貫通孔の上面開口周縁における板材送り方向下流側の上端縁および板材送り方向に沿う両側の上端縁が打抜きエッジとされ、かつ前記貫通孔の板材送り方向上流側に隣り合って前記打抜きエッジよりも高さ位置が低い刃部材着座面が形成され、前記刃部材は、前記刃部材着座面に装着可能で、その装着状態において前記ダイ本体の打抜きエッジよりも上面が低くなる高さ寸法であり、板材送り方向下流側の上端縁が打抜きエッジとされ、前記追い抜き加工用パンチは、前記追い抜き加工用ダイの前記貫通孔に嵌り合い状態に進入する刃部を有し、この刃部の板材送り方向上流側のコーナー部が平面視で円弧状に形成されているため、パンチ孔の重なり部分を滑らかに仕上げながら、追い抜き加工を能率良く行うことができ、追い抜き加工用ダイの摩耗した打抜きエッジを容易に砥ぎ直せる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】この発明の一実施形態にかかる追い抜き加工用金型が装着されたパンチプレスの金型装着部の断面図である。
【
図2】(A)は同追い抜き加工用金型のパンチの正面図、(B)はその一部を拡大して表した底面図である。
【
図3】(A)は同パンチの刃部の底面形状を誇張して表した図、(B)は異なるパンチの刃部の底面形状を誇張して表した図である。
【
図4】(A)は同追い抜き加工用金型のダイの平面図、(B)はそのIVB−IVB断面図である。
【
図7】(A)〜(D)は同追い抜き加工用金型を用いた板材の長孔形成方法の過程を示す図である。
【
図8】板材の長孔形成過程における第1回目のパンチ加工の動作を示す金型装着部の断面図である。
【
図9】同追い抜き加工用金型を用いて加工したパンチ孔のコーナー部の斜視図である。
【
図10】同パンチとパンチ孔の上端縁との位置関係を示す平面図である。
【
図11】板材の長孔形成過程における第2回目のパンチ加工の動作を示す金型装着部の断面図である。
【
図12】同追い抜き加工用金型を用いて加工したパンチ孔の切断面の斜視図である。
【
図13】追い抜き加工におけるパンチ孔とパンチとの平面位置関係を示す図である。
【
図14】板材の長孔形成過程における最終のパンチ加工の動作を示す金型装着部の断面図である。
【
図15】従来の追い抜き加工用金型を用いて加工したパンチ孔の切断面の斜視図である。
【
図16】従来の追い抜き加工用金型を用いて加工したパンチ孔のコーナー部の斜視図である。
【
図17】従来のパンチとパンチ孔の上端縁との位置関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
この発明の実施形態を図面と共に説明する。
図1はこの発明の一実施形態にかかる追い抜き加工用金型が装着されたパンチプレスの金型装着部を示す。追い抜き加工用金型は追い抜き加工用パンチ(以下、「パンチ」とする。)1と追い抜き加工用ダイ(以下、「ダイ」とする。)11とでなり、ダイ11の上に板材Wを水平状に載置し、この板材Wに対しパンチ1を打ち下ろしてパンチ加工を行う。
【0030】
図2に示すように、パンチ1は、柄部2の下端に刃部3が設けられている。刃部3は横断面形状が長方形状であり、その底面は、幅広方向つまり板材送り方向Aの上流側(
図2の右側)へ行くほど上方に傾斜している。底面の板材送り方向Aと直交する方向(紙面と直交する方向)については、同じ高さレベルである。そして、刃部3の底面の四辺が、後述するダイ側打抜きエッジ13a,12b,12c,12dとの協働で板材Wを打ち抜くパンチ側打抜きエッジ3a,3b,3c,3dとされている。なお、
図2に示すパンチ1の向きは、追い抜き加工を行うときの向きである。
【0031】
刃部3の横断面形状は、より詳しくは、板材送り方向Aの下流側へ行くほど次第に幅が狭まる形状である。つまり、刃部3の横断面形状は、正確には、長方形状ではなく、誇張して表すと
図3(A)のような台形状をしている。ただし、幅の狭まり度は極めて小さいため、長方形状と言ってもほぼ差し支えない。この例では、板材送り方向Aの全域に渡って幅が狭まっているが、
図3(B)のように、少なくとも追い抜き加工において前回加工で形成されたパンチ孔と今回加工で形成されるパンチ孔との重なり部分となる孔部を前回加工時に打ち抜く箇所を含む一部の範囲Hだけが、板材送り方向Aの下流側へ行くほど次第に幅が狭まる形状としてもよい。
【0032】
また、
図2(B)の部分拡大図に示すように、板材送り方向Aの上流側のコーナー部4は、平面視で円弧状に形成されている。板材送り方向Aの下流側のコーナー部5は、平面視で直角に形成されている。
【0033】
図4ないし
図6はダイを示す。ダイ11は、ダイ本体12と、このダイ本体12に対して着脱自在とされる刃部材13とより成る。
【0034】
ダイ本体12は、平面形状が略円形のものであり、その中央部に、パンチ1の刃部3が進入可能な貫通孔14が上下に貫通して設けられている。貫通孔14は、板材送り方向Aに長い長方形の段付き孔であり、上孔部14aは、パンチ1の刃部3が嵌合する横断面形状とされている。ただし、上孔部14aの板材送り方向A上流側に凹み形状の後記嵌込み部16が設けられているため、上孔部14aは板材送り方向A上流側が開放した形態とされている。よって、上孔部14aは、板材送り方向A下流側の上端縁および板材送り方向Aに沿う両側の上端縁を有しており、これら上端縁が、前記パンチ側打抜きエッジ3a,3b,3c,3dのうちの3辺の打抜き3b,3c,3dとそれぞれ噛み合うダイ側打抜きエッジ12b,12c,12dとなっている。
【0035】
ダイ本体12の上面15における貫通孔14の周囲の板材送り方向Aに沿う上面中央部15aは、貫通孔14の板材送り方向A上流側に隣り合う部分を除いて、両側部分15bよりも一段高くなった平坦面として形成されている。この上面中央部15aは、加工時に板材Wが載せられる面である。上面中央部15aのうち貫通孔14の板材送り方向A上流側に隣り合う部分は、貫通孔14の上孔部14aと同じ幅で板材送り方向Aに延びる溝状の嵌込み部16になっている。この嵌込み部16の上面は、水平状の刃部材着座面17である。
【0036】
ダイ本体12の底面における外周縁付近の周方向1箇所に、ダイ11をパンチプレスのタレットに装着するときに周方向の位相を決めるための位相決めピン18が、その先端を底面よりも下方に突出させて設けられている。
【0037】
刃部材13は、前記嵌込み部16に丁度嵌る程度の幅を有し、片方の幅面の上端縁が打抜きエッジ13aとなっている。刃部材13は、前記打抜きエッジ13aを貫通孔14の側に向け、底面を前記刃部材着座面17に着座させてダイ本体12に装着される。その装着状態では、刃部材13の打抜きエッジ13aおよび上面19の高さがダイ本体12の前記打抜きエッジ12b,12c,12dよりも低くなる。これにより、刃部材13の上面19と前記嵌込み部16の両側面とで、前記上面中央部15aよりも凹んだ凹部19aが形成される。
【0038】
ダイ本体12への刃部材13の装着は、位置決め用ピン20により刃部材13の板材送り方向Aの位置決めをしたうえで、固定ボルト21によりダイ本体12と刃部材13とを固定する。
【0039】
詳しくは、
図6に示すように、位置決め用ピン20は、ダイ本体12の上下に貫通するピン孔22に上から挿通されて、その上端が刃部材着座面17よりも上方に突出するように設けられる。例えば、位置決めピン20は、圧入によりピン孔22の適正位置に固定される。位置決め用ピン20の上端および下端は、先細りのテーパ状に形成されている。刃部材13には、上下に貫通する位置決め用孔23が設けられており、この位置決め用孔23に位置決め用ピン20の上端突出部を嵌合させることで、ダイ本体12に対する刃部材13の板材送り方向Aの位置が正確に位置決めされる。位置決め用孔23は、刃部材13の底面に開口する孔であればよく、貫通孔でなくてもよい。位置決め用ピン20の上端および下端が先細りのテーパ状に形成されているため、位置決めピン20をピン孔22に円滑に圧入することができると共に、位置決め用ピン20の上端突出部を位置決め用孔23に円滑に嵌合させることができる。
【0040】
また、固定ボルト21は、ダイ本体12のボルト挿通孔24に下から挿通され、ねじ部21aを刃部材13のねじ孔25に螺合させることで、ダイ本体12と刃部材13とを固定する。ボルト挿通孔24は座繰り孔であって、固定ボルト21の頭部21bがダイ本体12の底面よりも下方に突出しないようになっている。
【0041】
上記追い抜き加工用金型のパンチ1およびダイ11は、
図1に示すように、パンチプレスの金型装着部に装着して使用される。
パンチ1は、頭部部材31にセットボルト32で取付けられ、パンチホルダ33を介して上側のタレット34の金型設置孔35に昇降自在に嵌合している。頭部部材31は、そのT形の頭部でパンチ駆動機構(図示せず)のラム36に係合し、昇降駆動される。パンチ駆動機構は、クランク式のものであっても油圧式のものであっても良い。パンチホルダ33は昇降自在として押えばね37A,37Bにより下降付勢し、下端にストリッパ板38を取付けてある。
【0042】
パンチ1は、角度割り出し可能なインデックスツールとされている。すなわち、前記金型設置孔35はタレット本体34aに対し回転自在な回転体41に設けられている。回転体41は外周面にウォームホイール42を有し、このウォームホイール42に、タレット34の径方向に向けて配置した回転軸43に設けたウォームギア44が噛み合っている。駆動手段により回転軸43を回転させることにより、その回転がウォームギア44およびウォームホイール42を介して回転体41に伝達され、パンチ1が所望の角度に割り出される。
【0043】
ダイ11も、角度割り出し可能なインデックスツールとされている。すなわち、下側のタレット46に回転自在にダイホルダ47が装着され、このダイホルダ47にダイ11が保持されている。下側のタレット46に対するダイ11の周方向の位相決めは、前記位相決めピン18(
図5)によってなされる。ダイホルダ47は外周面にウォームホイール48を有し、このウォームホイール48に、タレット46の径方向に向けて配置した回転軸49に設けたウォームギア50が噛み合っている。駆動手段により回転軸49を回転させることにより、その回転がウォームギア50およびウォームホイール48を介してダイホルダ47に伝達され、ダイ11が所望の角度に割り出される。
【0044】
上下のタレット34,46は、円周方向の複数個所にパンチ加工のための各種の金型を支持した金型支持部材であり、その設置金型の一つとして、追い抜き加工用金型のパンチ1およびダイ11が設置されている。追い抜き加工用金型以外のパンチ(図示せず)およびダイ(図示せず)も、上記同様に角度割り出し可能に設けられる。なお、これらのパンチおよびダイを設置するパンチプレスは、タレット式のものに限らず、パンチおよびダイは、タレットとは別の金型支持部材(図示せず)に設置しても良い。
【0045】
上記パンチ1およびダイ11の組合せからなる追い抜き加工用金型を用いたパンチ加工の方法を、
図7(D)のように板材Wに長孔60を形成する場合を例にとって説明する。概略的には、パンチプレスにより、前回加工で形成されたパンチ孔61と今回加工で形成されるパンチ孔61とが互いに部分的に重なるように板材Wに追い抜き加工を行って長孔60を形成する。
【0046】
図8に、第1回目のパンチ加工の動作を示す。同図(A)のように、板材Wに形成しようとする長孔60の始端がパンチ1およびダイ11と同じ平面位置になるように、具体的には、パンチ1とダイ11とで打ち抜かれる孔が長孔60の始端に一致するように板材Wを位置させ、その状態で、同図(B)のように、パンチ1を打ち下ろして、板材Wを打ち抜きパンチ孔61(1)(
図7(A))を形成する。打ち抜かれた打抜き片Waは、ダイ本体12の貫通孔14を通って落下する。
【0047】
ダイ側打抜きエッジ13a,12b,12c,12dにおいて、ダイ本体11に形成された打抜きエッジ12b,12c,12dに比べて刃部材13に形成された打抜きエッジ13aは低位に位置している。そのため、パンチ1で板材Wを打ち抜く際に、パンチ孔61の板材送り方向Aの上流端に隣接する板材部分は、
図9のように、ダイ本体12の上面中央部15aと刃部材13の上面19の高低差分、すなわち前記凹部19aの深さ分だけ下向きに変形させられた成形部62となる。
【0048】
パンチ1の刃部3における板材送り方向Aの上流側のコーナー部4が平面視で円弧状に形成されているため、
図10のように、パンチ1とパンチ孔61の上端縁との間隔は、コーナー部4での間隔Bも、直線部分である他の箇所での間隔Cも同じである。それにより、
図9のように、パンチ孔61のコーナー部61aにも、他の箇所と同じように、ダレ面63が生じると共に、せん断面64の下側に破断面65が生じる。
【0049】
図11に、第2回目のパンチ加工の動作を示す。同図(A)のように、第1回目のパンチ孔61(1)の板材送り方向Aの上流側端がパンチ1およびダイ11と平面位置で重なるよう板材Wを位置させ、その状態で、同図(B)のように、パンチ1を打ち下ろして、板材Wを打ち抜きパンチ孔61(2)(
図7(B))を形成する。
【0050】
第1回目の加工で形成されたパンチ孔61(1)の板材送り方向Aの上流端に隣接する板材部分が下方に変形した成形部62(
図9)になっていることと、第1回目の加工で形成されたパンチ孔61(1)の板材送り方向Aの上流側のコーナー部61aにダレ面63(
図9)が生じていることとの相乗効果により、
図12に示すように、第1回目と第2回目の各パンチ孔61(1),61(2)の重なり部分の一端での継ぎ目が目立たなくなる。すなわち、ダレ面63の継ぎ目66の発生が抑えられる。また、第1回目の加工で形成されたパンチ孔61のコーナー部61aの下部に破断面65(
図9)が形成されているため、第2回目の加工を行ったときに切断面の下部に突起67がほとんど生じない。
【0051】
さらに、第1回目の加工で形成されたパンチ孔61(1)のコーナー部61aに破断面65(
図9)が形成されていると、第2回目の加工時にせん断面64がパンチ1の刃部3の側面で擦られながら下方に引っ張られたとしても、それによる板材Wの下面への突出量が少ない。特に、この追い抜き加工用金型のパンチ1は、刃部3が板材送り方向Aの下流側へ行くほど次第に幅が狭まる形状であるため、追い抜き加工を行う場合、
図13のように、前回加工で形成されたパンチ孔61の側壁面F1と今回加工時のパンチ1の刃部3の側面F2との間に隙間があり、パンチ孔61の側壁面F1を刃部3の側面F2で擦らない。そのため、下面の突起68(
図15)の発生を抑制できる。
【0052】
以下同様に、前回加工で形成されたパンチ孔61と今回加工で形成されるパンチ孔61とが互いに重なるように板材Wに追い抜き加工を行って、板材Wに形成しようとする長孔60の終端の直前まで加工が進行すると(
図7(C))、最終のパンチ加工を行う。
【0053】
図14に、最終のパンチ加工の動作を示す。同図(A)のように、パンチ1およびダイ11の板材送り方向Aの向きを逆にする。そして、板材Wに形成しようとする長孔60の終端がパンチ1およびダイ11と同じ平面位置になるよう板材Wを位置させ、その状態で、同図(B)のように、パンチ1を打ち下ろして、板材Wを打ち抜きパンチ孔61(L)(
図7(D))を形成する。このように、パンチ1およびダイ11の板材送り方向Aの向きを逆にしてパンチ加工を行うことで、最終のパンチ孔61(L)の板材送り方向Aの上流側端を下流側端と同様に平面形状で直角に打ち抜くことができる。つまり、1組の追い抜き加工用金型だけで長孔60を形成することが可能である。
【0054】
パンチ加工におけるパンチ1の下降高さが一定であるので、制御系を簡単に構成できる。この追い抜き加工用金型は、従来の追い抜き加工用金型と比べて、追い抜き加工を行う場合の前回のパンチ孔と今回のパンチ孔の板材送り方向の重なり代が短くて済むため、加工能率が良い。この追い抜き加工用金型は、例えば特許文献1,2のものと比べて簡単な構成であるため、安価に製作することができる。
【0055】
使用に伴ってパンチ1およびダイ11の各打抜きエッジ3a,3b,3c,3d,13a,12b,12c,12dが摩耗してきたら、これら各打抜きエッジを砥ぎ直す。ダイ側打抜きエッジ13a,12b,12c,12dの場合、刃部材13の上面19およびダイ本体12の上面中央部15aを研磨することで研ぎ直す。ダイ本体12に刃部材13を装着したままでは刃部材13の上面19の研磨は難しいが、ダイ本体12から刃部材13を取り外すことにより、刃部材13の上面19を容易に研磨することが可能となる。それにより、打抜きエッジ13aを全幅にわたって確実に砥ぎ直すことができる。