特許第6019822号(P6019822)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6019822-地下水の排水装置及び方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019822
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】地下水の排水装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 31/12 20060101AFI20161020BHJP
   E02D 3/10 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   E02D31/12
   E02D3/10 101
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-148591(P2012-148591)
(22)【出願日】2012年7月2日
(65)【公開番号】特開2014-9550(P2014-9550A)
(43)【公開日】2014年1月20日
【審査請求日】2015年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】元井 康雄
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖洋
(72)【発明者】
【氏名】武村 将史
【審査官】 苗村 康造
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−062696(JP,A)
【文献】 特開2007−132088(JP,A)
【文献】 特開2001−342650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 29/00〜 37/00
E02D 1/00〜 3/115
E03B 1/00〜 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難透水層の上下に位置する帯水層から地下水を排水する地下水排水装置であって、
上側の前記帯水層から前記難透水層を貫通して下側の前記帯水層に達するように地中に設置され、上下の前記帯水層の深さ位置に通水部が設けられたケーシングと、
該ケーシング内に設けられた水中ポンプと、
前記水中ポンプの下部に取り付けられた蓋部材と、
前記ケーシング内における上下の前記通水部の間に設けられ、前記水中ポンプと共に昇降する前記蓋部材によって開閉される開口を有する隔壁部と、
前記水中ポンプから上方へ延びる排水管と
該排水管を前記ケーシングの頭部で保持する排水管保持部と
を備えてなり
前記排水管保持部に、前記排水管を昇降させることにより前記水中ポンプと前記蓋部材の高さを調整する機構が設けられることを特徴とする地下水排水装置。
【請求項2】
請求項1に記載の地下水排水装置を用いた地下水排水方法であって、
前記排水管を昇降させることにより前記水中ポンプと前記蓋部材の高さを調整する機構にて、該蓋部材を前記隔壁部から離間させ、前記ケーシング内の難透水層の深さ位置を境とする上下の空間を連通した後、
下側の前記通水部より流入した前記帯水層の地下水を、上側の空間に配された前記水中ポンプにて排水することを特徴とする地下水排水方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下水の排水装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
山留め壁を構築してその内側を掘削する工事では、ドライワークを可能にするために上層の自由水層(不圧帯水層)から地下水を排水する必要がある。また、掘削が進行した後に、下層の被圧帯水層の揚圧力により、その上の難透水層に盤ぶくれが生じることの防止等を目的として、被圧帯水層から地下水を排水する必要がある。
【0003】
ここで、自由水層と被圧帯水層とから地下水を排水するために、自由水層と被圧帯水層との夫々に対して深井戸を設けるのでは多大な設置費用がかかるという問題がある一方で、1本の深井戸で自由水層と被圧帯水層とから同時に地下水を排水するのでは地下水の排水量が膨大になり多大な下水道使用料がかかるという問題があることから、かかる問題を解決することを目的とした地下水の排水装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1に記載の地下水の排水装置では、1本の深井戸を設けて、難透水層にゴム製の中空リングを設置し、この中空リングを膨張させたり収縮させたりすることにより、自由水層と被圧帯水層とを遮断したり連通したりしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭61−1716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の地下水の排水装置では、中空リングを膨張させたり収縮させたりするために、中空リングに流体圧を供給するポンプやバルブ等の設備が必要となり、設置コストが増大する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、1本の深井戸を設置して難透水層の上下の帯水層から地下水を排水するにあたり、上側の帯水層から地下水を排水する際に、下側の帯水層からは地下水を排水しないようにすることを、低コストで実現することを課題にするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る地下水の排水装置は、難透水層の上下に位置する帯水層から地下水を排水する地下水排水装置であって、上側の前記帯水層から前記難透水層を貫通して下側の前記帯水層に達するように地中に設置され、上下の前記帯水層の深さ位置に通水部が設けられたケーシングと、該ケーシング内に設けられた水中ポンプと、前記水中ポンプの下部に取り付けられた蓋部材と、前記ケーシング内における上下の前記通水部の間に設けられ、前記水中ポンプと共に昇降する前記蓋部材によって開閉される開口を有する隔壁部と、前記水中ポンプから上方へ延びる排水管と該排水管を前記ケーシングの頭部で保持する排水管保持部と、を備えてなり前記排水管保持部に、前記排水管を昇降させることにより前記水中ポンプと前記蓋部材の高さを調整する機構が設けられる。
【0009】
また、本発明に係る地下水の排水方法は、本発明の地下水排水装置を用いた地下水排水方法であって、前記排水管を昇降させることにより前記水中ポンプと前記蓋部材の高さを調整する機構にて、該蓋部材を前記隔壁部から離間させ、前記ケーシング内の難透水層の深さ位置を境とする上下の空間を連通した後、下側の前記通水部より流入した前記帯水層の地下水を、上側の空間に配された前記水中ポンプにて排水する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、1本の深井戸を設置して難透水層の上下の帯水層から地下水を排水するにあたり、上側の帯水層から地下水を排水する際に、下側の帯水層からは地下水を排水しないようにすることを、低コストで実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る地下水排水装置の概略を示す立断面図である。
図2】一実施形態に係る地下水排水装置を拡大して示す立断面図である。
図3】一実施形態に係る地下水排水装置を拡大して示す立断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る地下水排水装置10の概略を示す立断面図である。この図に示すように、山留め壁1で囲まれ地下水排水装置10が設置される地盤では、上層が自由水層2、その下の層は難透水層(不透水層)3、さらにその下の層は被圧帯水層4となっている。
【0013】
自由水層2と被圧帯水層4とは、砂層や砂礫層等の帯水層であり、被圧帯水層4の全水頭は、被圧帯水層4の上端よりも高くなっている。また、難透水層3は、粘土層等であり、被圧帯水層4から揚圧力を受ける。
【0014】
図2は、地下水排水装置10を拡大して示す立断面図である。この図に示すように、地下水排水装置10は、地表面から被圧帯水層4まで到達するように設けられた深井戸(揚水井戸)であり、地表面から被圧帯水層4まで到達するように打設されたケーシング12と、ケーシング12内に設置される水中ポンプ14と、水中ポンプ14の上部から地上まで延びる鋼管である排水管16と、難透水層3の深さ位置においてケーシング12の上下の空間を遮断したり連通したりする開閉部20と、排水管16を昇降可能に保持する排水管保持部30とを備えている。
【0015】
ケーシング12の上側と下側とには通水部12A、12Bが設けられている。この通水部12A、12Bは、スリット状の通水孔が配列された構成になっている。上側の通水部12Aは、自由水層2に配されており、自由水層2の地下水が通水部12Aを通してケーシング12内に侵入する。また、下側の通水部12Bは、被圧帯水層4に配されており、被圧帯水層4の地下水が通水部12Bを通してケーシング12内に侵入する。また、水中ポンプ14は、ケーシング12内に侵入した地下水を吸引し排水管16を通して地上へ揚排水する。また、排水管16は、排水管保持部30により、ケーシング12の中心を通って上下方向に延びるように保持されている。
【0016】
開閉部20は、ケーシング12内における難透水層3の深さの位置に設けられたフランジ22と、水中ポンプ14の下部(排水管16の接続部の反対側)に取り付けられた蓋部材24と、フランジ22に設けられたパッキン26とを備えている。フランジ22は、中央部に円孔22Aが形成された円板であり、その外周全体がケーシング12の内周面に水密状態で結合されている。また、蓋部材24は、フランジ22の円孔22Aより大径の鋼製の円板であり、水中ポンプ14の下部に軸部材28で取り付けられている。また、蓋部材24及びフランジ22は、ケーシング12と同軸に配されており、水中ポンプ14が最下位まで下降された状態で、蓋部材24がフランジ22の円孔22Aを塞ぐようになっている。
【0017】
パッキン26は、円環状に形成されており、フランジ22に蓋部材24の外周部と対向するように配されており、蓋部材24がフランジ22の高さまで下降された状態で、フランジ22と蓋部材24の外周部とに挟まれてこれらの間を水密状態にする。
【0018】
排水管保持部30は、ケーシング12の上端に固定された固定板32と、固定板32に複数のボルト33を介して昇降可能に保持された昇降板34とを備えている。固定板32には、排水管16が挿通される孔32Aが形成されている。また、昇降板34は、固定板32の上に重ねて配されており、排水管16が貫通されると共に固定されている。また、複数のボルト33は、ケーシング12の周囲において上下方向に移動可能に固定板32及び昇降板34に螺合しており、この複数のボルト33の調整により昇降板34及び昇降板34から排水管16を介して吊り下げられた水中ポンプ14の高さが調整される。
【0019】
ここで、水中ポンプ14の高さ調整範囲の下限は、図2に示すように、蓋部材24がフランジ22に当接する位置である。水中ポンプ14がこの位置まで下降されると、開閉部20により、ケーシング12内の空間が、難透水層3の深さ位置において上下に遮断され、上側の空間に配された水中ポンプ14の吸引力が、下側の空間に作用しない状態になる。これにより、被圧帯水層4から地下水を排水することなく自由水層2から地下水を排水することができる。
【0020】
図3は、開閉部20を連通状態にした地下水排水装置10を示す立断面図である。この図に示すように、水中ポンプ14が複数のボルト33の調整により高さ調整範囲の下限位置から上昇されると、蓋部材24がフランジ22から離間し、開閉部20により、ケーシング12内の難透水層3の深さ位置を境とする上下の空間が連通され、上側の空間に配された水中ポンプ14の吸引力が、下側の空間に作用する状態になる。これにより、被圧帯水層4から地下水を排水することができる。
【0021】
以上説明したように、本実施形態に係る地下水排水装置によれば、山留め壁1で囲まれた地盤のドライワークを可能にするために自由水層2から地下水を排水する際には、水中ポンプ14を高さ調整範囲の下限位置まで下降させて開閉部20を遮断状態にすることにより、被圧帯水層4からも地下水が排水されることを防止でき、地下水の排水量を低減することができる。また、山留め壁1で囲まれた地盤の掘削が進行した後には、水中ポンプ14を高さ調整範囲の下限位置から上昇させて開閉部20を連通状態にすることで、被圧帯水層4から地下水を排水することができ、被圧帯水層4の揚圧力により難透水層3に盤ぶくれが生じることを防止できる。
【0022】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、難透水層3の上の帯水層を自由水層2としたが、当該帯水層が被圧帯水層であってもよい。また、難透水層3の下の帯水層を被圧帯水層4としたが、当該帯水層が自由水層であってもよい。また、開閉部20は、上下の通水部12A、12Bの間に配されていればよく、難透水層3に配されることは必須ではない。さらに、水中ポンプ14及び蓋部材24の高さを調整する機構は、ボルト33の調整による機構に限らず、シリンダ等の上下に昇降可能で固定可能である機構であればよい。
【符号の説明】
【0023】
1 山留め壁、2 自由水層、3 難透水層、4 被圧帯水層、10 地下水排水装置、12 ケーシング、12A、12B 通水部、14 水中ポンプ、16 排水管、20 開閉部、22 フランジ(隔壁部)、22A 円孔(開口)、24 蓋部材、26 パッキン、28 軸部材、30 排水管保持部、32 固定板、32A 孔、33 ボルト、34 昇降板
図1
図2
図3