(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンは、ガソリンエンジンに比べて熱効率が良く、二酸化炭素(CO
2)の排出量が少ないので石油枯渇問題や地球温暖化問題の観点から有利である。しかし、ディーゼルエンジンは、窒素酸化物(NOx)や微粒子状物質(Particulate Matter:以下、PMと略す)が排出されるとともに、このNOxとPMとが、一方が低減すると他方が増加するというトレードオフの関係にあり問題となっている。
【0003】
そこで、このようなディーゼルエンジンの問題を解決する予混合圧縮着火(Premixed Compression Ignition:以下、PCIと略す)燃焼方式が注目されている。このPCI燃焼は、燃焼室への燃料の噴射時期を、ピストンの圧縮上死点よりも早期にして、燃料の噴射完了後に着火する燃焼方法であり、NOxやPM等の物質を同時に低減することができる。
【0004】
しかし、PCI燃焼方法は、適用運転領域が軽負荷に限られるという問題があるので、その問題を解決するために、インジェクタ(燃料噴射弁)の噴孔径を小さくして、燃料を微粒化することにより、蒸発を促進させて、均一で希薄な予混合気を迅速に生成し、PCI燃焼による運転領域を拡大しようという試みがなされている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
ただし、噴孔径を小さくした場合、全負荷での燃費を悪化させないためには、一定期間内に必要量の燃料を噴射する必要がある。したがって、必要とされる総噴射孔面積を確保する必要があり、小径の噴孔を複数設ける多噴孔化が必須となる。
【0006】
ところで、多量の燃料を噴射する全負荷或いはそれに近い運転領域では、燃費を悪化させないためには、負荷に応じた必要な燃料量を一定期間内(例えばクランク軸角度で30度以内)に噴射する必要がある。従って、噴孔面積の小さなインジェクタを用いる場合、全負荷時に必要な燃料量を一定期間内に噴射することができる総噴孔面積を確保する必要があり、インジェクタの多噴孔化が必須となる。
【0007】
しかし、インジェクタを多噴孔化すると、隣り合う噴孔同士の間隔が狭くなるため、
図9の(a)〜(c)に示すように、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fが、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、壁面11aに沿ってキャビティ11の周方向x(
図9における左右方向)に広がった際に、隣り合う噴孔の噴霧F同士が干渉してしまう。この結果、噴霧F同士が重なり合う部分FLで燃料の過濃領域が形成され、スモーク(煤)の生成量が増大してしまう。
【0008】
このスモークの生成量の増大については、
図10に示すグラフから明らかである。このグラフは、インジェクタ5の噴孔5aの噴孔径および噴孔数毎に煤の生成量を比較して示しており、縦軸は煤の生成量、横軸は燃料噴射圧力を示している。このグラフによれば、噴孔径が小さく、噴孔総数が多い方が、噴孔径が大きく、噴孔総数が少ない方よりも、煤の生成量が多いことが分かる。
【0009】
この問題に対して、本発明者は、
図11の(a)に示すように、キャビティ11の壁面
11aに、各噴霧Fが衝突する部分に位置して、キャビティ11の内外方向y(
図11の(a)における紙面裏表方向であり、
図11の(b)における紙面上下方法)に沿った、断熱素材で形成されたキャビティ用突起16を複数備えた燃焼室10Xを備える装置(例えば、特許文献2参照)を考案した。
【0010】
この装置によれば、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fは、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、キャビティ用突起16に沿ってキャビティ11の内外方向yに案内されるので、噴霧Fが壁面11aに沿ってキャビティ11の周方向xに広がることによる隣り合う噴霧F同士の干渉が抑制される。この結果、燃料の過濃領域の形成が抑制され、スモークの発生量が低減される。
【0011】
加えて、断熱素材で形成されたキャビティ用突起16を設けたので、噴霧が衝突するキャビティ11の壁面11aが断熱素材でカバーされた状態となり、噴霧Fとキャビティ11の壁面11aとの衝突表面積が、各キャビティ用突起16の凹凸によって増加した熱損失を低減でき、燃費悪化を抑制される。
【0012】
一方、
図12(a)〜(d)に示すように、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fが、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、噴霧Fがシリンダヘッド4のヘッド面12に到達すると、噴霧Fはシリンダヘッド4のヘッド面12に沿って発達し、隣接する噴霧F(図示せず)と干渉することで過濃領域FLが形成されてしまうという問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、インジェクタからキャビティに向けて噴射された燃料の噴霧が、キャビティの壁面に衝突した後にシリンダヘッドに到達して、燃焼室の周方向に広がり、隣り合う噴霧同士が干渉することによる燃料の過濃領域の形成を抑制すると共に、燃焼室の表面への熱損失量を増加させずに、燃費の悪化を抑制することができることができる内燃機関を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の目的を解決するための本発明の内燃機関は、ピストンの頂部に凹設され燃焼室の一部を形成するキャビティと、前記キャビティに対向するシリンダヘッドのヘッド面
と、このヘッド面に配置され、前記キャビティの壁面に、周方向に間隔を隔てて複数の燃料の噴霧を噴射するインジェクタと、を備える内燃機関において、前記ヘッド面の、前記インジェクタから噴射された前記噴霧が前記キャビティの壁面に衝突した後に到達する部分
のそれぞれに位置して設けられ
た複数のヘッド用突起群を備え、
これらのヘッド用突起群のそれぞれが複数のヘッド用突起を有しており、一つの前記ヘッド用突起群におけるそれらのヘッド用突起が互いに前記燃焼室の周方向に隣接して構成される。
【0016】
この構成によれば、インジェクタから噴射された燃料の噴霧がキャビティの壁面に衝突した後に、キャビティに対向するシリンダヘッドのヘッド面に到達しても、ヘッド面にヘッド用突起を設けたことにより、燃料の噴霧が、ヘッド用突起に沿って、つまり燃焼室の内外方向に沿って広がるのを促す。また、キャビティ用突起に交差する方向、つまり燃焼室の周方向に対しては、キャビティ用突起を乗り越えなければならないため相対的に抵抗が大きく広がりが抑えられる。
【0017】
これにより、隣り合う噴霧同士の干渉を抑制し、燃焼室内における燃料の過濃領域の形成を抑制することができるので、その結果、スモークの生成を抑制することができる。
【0018】
なお、インジェクタの各噴孔から噴射される燃料の噴霧が到達する部分毎に複数のヘッド用突起からなるヘッド用突起群を配置すると、より効率的に噴霧の周方向の広がりを抑制することができる。また、ここでいうヘッド面とは、シリンダヘッドの下面、吸気バルブの下面、及び排気バルブの下面を含む面のことであり、ヘッド用突起群を、シリンダヘッドの下面、吸気バルブの下面、及び排気バルブの下面などを問わず、燃料の噴霧が到達する部分に設けるとよい。
【0019】
また、上記の内燃機関において、前記ヘッド用突起を断熱素材で形成すると、断熱素材で形成したヘッド用突起で、噴霧が到達するシリンダヘッドのヘッド面がカバーされた状態となり、噴霧からシリンダヘッドのヘッド面への熱損失を低減でき、燃費悪化を抑制できる。
【0020】
なお、この断熱素材には、セラミックを用いる。例えば、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si
3N
4)等のセラミック単体や、それらセラミック中に中空のセラミックビーズを閉じ込めた複合材料等を用いる。
【0021】
加えて、上記の内燃機関において、前記ヘッド用突起を、前記燃料噴射ノズルから前記キャビティに向けて噴射される燃料の噴射方向に対し、平行に形成すると、ヘッド用突起は、燃焼室の周方向に広がろうとする燃料に対して直交する配置となり、燃焼室の周方向に広がろうとする燃料に、的確に抵抗を与えることができる。
【0022】
さらに、上記の内燃機関において、前記キャビティの壁面に、前記噴霧が衝突する部分
のそれぞれに位置して設けられ
た複数のキャビティ用突起群を備え、
これらのキャビティ用突起群のそれぞれが複数のキャビティ用突起を有しており、一つの前記キャビティ用突起群におけるそれらのキャビティ用突起が互いにそのキャビティの周方向に隣接しており、前記ヘッド用突起
群と前記キャビティ用突起
群とが対向一致するように配置
されていると、キャビティの壁面とシリンダヘッドのヘッド面の両方で燃料が燃焼室の周方向に広がることを抑制することができ
る。また、前記キャビティ用突起が断熱素材で形成されると、キャビティの壁面とシリンダヘッドのヘッド面の両方の熱損失を低減することができる。
【0023】
まず、キャビティの壁面に衝突した燃料の噴霧が、キャビティ用突起に沿って広がるのを促し、キャビティ用突起に対して交差する方向に広がるのを抑制することができる。次に、噴霧がシリンダヘッドのヘッド面に到達しても、ヘッド用突起に沿って広がるのを促し、ヘッド用突起に対して交差する方向に広がるのを抑制することができる。
【0024】
特に、インジェクタの多噴孔化に対して、各噴霧の到達する部分毎にヘッド用突起群を配置し、さらにそのヘッド用突起群に対向する部分、つまり各噴霧の衝突する部分毎に複数のキャビティ用突起からなるキャビティ用突起群を配置すると、効果的である。
【0025】
その上、上記の内燃機関において、前記インジェクタからの燃料の噴射時期を、前記ピストンの圧縮上死点よりも早期にして、前記燃料の噴射完了後に着火する予混合圧縮着火燃焼を行う運転領域を有すると、上記の作用効果により、PCI燃焼領域を拡大するため、噴孔径を小さくし、且つ多噴孔化する場合に発生する隣り合う燃料の噴霧F同士の干渉による煤の生成量の増加を抑制することができるので、PCI燃焼の燃焼領域を拡大することができる。これにより、NOxとPMを同時に低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、インジェクタからキャビティに向けて噴射された燃料の噴霧が、キャ
ビティの壁面に衝突した後にシリンダヘッドに到達して、燃焼室の周方向に広がり、隣り合う噴霧同士が干渉することによる燃料の過濃領域の形成を抑制することができる。その結果、スモークの生成を抑制することができる。
【0027】
そのため、インジェクタの噴孔径を小さくし、且つ噴孔数を多くすることができるので、PCI燃焼の燃焼領域を拡大し、NOxとPMを同時に効率よく低減することができる。
【0028】
加えて、燃焼室の表面への熱損失量を増加させずに、燃費の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施の形態の内燃機関について、図面を参照しながら説明する。なお、内燃機関として、トラックのような自動車両に搭載されるディーゼルエンジンを例に説明するが、本発明はこれに限定しない。また、図面に関しては、構成が分かり易いように寸法や数などを変化させており、各部材、各部品の板厚や幅や長さなどの比率も必ずしも実際に製造するものの比率、又は配置される数とは一致させていない。
【0031】
ここで、図面について補足する。燃料の噴霧が衝突、又は到達する位置における燃焼室の周方向をx、燃焼室の内外方向(若しくはピストンの半径方向)をyとする。また、図
1、
図2、
図6、及び
図7に示す一点鎖線については、燃料の噴霧Fの噴射方向Fxを示す。
【0032】
まず、本発明に係る第1の実施の形態の内燃機関について、
図1〜
図4を参照しながら説明する。
図1に示すように、エンジン(内燃機関)1は、周知のエンジンの構成に加えて、シリンダヘッド4のヘッド面12の、インジェクタ5から噴射された燃料の噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突した後に到達する部分に位置して設けられ、燃焼室10の内外方向に沿って形成された複数のヘッド用突起13を備える。
【0033】
詳しくは、このエンジン1は、シリンダ2、ピストン3、及びシリンダヘッド4を備え、シリンダヘッド4にインジェクタ(インジェクタ)5、吸気ポート6、吸気バルブ(吸気弁)7、排気ポート8、及び排気バルブ9を備える。燃焼室10は、中空状のシリンダ2の内壁面と、ピストン3の頂面(キャビティ11を含む)と、シリンダヘッド4のヘッド面12とに囲まれた空間に形成されている。
【0034】
このキャビティ11は、燃焼室10の一部を形成する領域であり、キャビティ11の壁面11aは、底面11bと、壁面11aの最外周で底面11bに交差する側面11cにより区画されている。キャビティ11の底面11bは、その中央から外周に向かって次第に深くなるように形成されており、これによりトロイダル型の燃焼室10が形成されている。ただし、キャビティ11の形状はトロイダル型に限定されるものではなく種々変更可能であり、例えばリエントラント型や浅皿型のような他の形状としても良い。
【0035】
インジェクタ5の先端は、例えば円錐状に形成されており、燃焼室10内に突出されている。このインジェクタ5の円錐状の突出先端部には、複数の微細な噴孔5aが形成されており、その複数の微細な噴孔5aから燃料が放射状に同時に噴射されるようになっている。
【0036】
このように本実施の形態のエンジン1においては、燃料を微細な噴孔から噴射し微粒化することにより、蒸発を促進させて、均一で希薄な予混合気を迅速に生成することができるので、後述の予混合圧縮着火(Premixed Compression Ignition:以下、PCIと略す)燃焼による運転領域を拡大することができる。
【0037】
また、微細な噴孔5aを必要噴射孔面積が確保できる分だけ複数設けることにより、全負荷での燃費の悪化も生じないようにすることができる。ここでは、特に限定されるものではないが、例えばインジェクタ5の円錐先端から円錐底部に向かって二個の噴孔5aが隣接配置され、この二個で一組とする噴孔5aがインジェクタ5の円錐外周に沿って複数配置されている場合等がある。
【0038】
また、噴孔5aの直径や数は、エンジン1の出力の大きさ等により変わるので一概には言えないが、例えば下記のとおりである。すなわち、各噴孔5aの直径は、特に限定されるものではないが、例えば0.1mm以下である。燃料の微粒化と噴孔5aの加工性とを考慮すると、噴孔5aの直径は、例えば0.08〜0.05mm程度が好ましい。噴孔5aの総数は、特に限定されるものではないが、例えば二十個である。
【0039】
このようなエンジン1は、PCI燃焼による運転領域を有している。このPCI燃焼は、燃料の噴射時期を、ピストン3の圧縮上死点よりも早期に開始し、かつ、その圧縮上死点よりも早期に終了させ、燃料の噴射完了後に混合気が着火する燃焼方式である。このPCI燃焼による運転領域は、比較的軽負荷領域に設定されている。
【0040】
ここでいうヘッド面12は、
図1に示すように、キャビティ11の壁面11aに対向す
る面であり、
図2に示すように、シリンダヘッド4の下面12a、吸気バルブ7の下面12b、及び排気バルブ9の下面12cを含む面である。
【0041】
ヘッド用突起13は、
図2に示すように、シリンダヘッド4のヘッド面12からキャビティ11に向かって突起するように、且つインジェクタ5の各噴孔5aからキャビティ11に向けて噴射される燃料の噴射方向Fxに対し、シリンダヘッド4の下面視で平行に形成されており、各噴孔5a毎に、複数のヘッド用突起13から成るヘッド用突起群
15を形成している。また、隣り合うヘッド用突起13の間には、ヘッド用溝14が形成されている。
【0042】
各ヘッド用突起群15は、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射され、キャビティ11
の壁面11aに衝突した後に、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達した燃料の噴霧Fを、燃焼室10の内外方向
yに案内すると共に、燃焼室10の周方向
xに広がろうとする燃料の抵抗として機能する。
【0043】
なお、
図2においては、インジェクタ5の六つの噴孔5aから矢印で表す噴射方向Fxに噴射された燃料の噴霧Fに対応するヘッド用突起13のみを表しているが、実際には、インジェクタ5からはキャビティ11の周方向に間隔を隔てて複数(例えば二十個)の燃料が噴射されるので、シリンダヘッド4のヘッド面12の、それら複数の噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突した後に到達する部分の夫々に複数のヘッド用突起13が、つまりはヘッド用突起群15が形成されている。
【0044】
ヘッド用突起群15を構成するヘッド用突起13は、シリンダヘッド4の下面12a、吸気バルブ7の下面12b、及び排気バルブ9の下面12cを含み、キャビティ11に対向するシリンダヘッド4のヘッド面12の中心部から外周に向けて、形成してもよいが、
図2に示すように、ヘッド面12の中心部近傍を除いて同様に形成してもよい。要は、ヘッド用突起13は、ヘッド面12内の少なくとも燃料が到達する部分に形成されていればよい。
【0045】
また、ヘッド用突起群15を構成するヘッド用突起13は、シリンダヘッド4のヘッド面12に形成されるため、シリンダヘッド4の下面12aと吸気バルブ7の下面12b、又はシリンダヘッド4の下面12aと排気バルブ9の下面12cの境界では、途切れてしまうが、燃料の噴霧Fを案内することには何ら問題はない。
【0046】
隣り合うヘッド用突起群15同士の間には、ヘッド用突起13が存在しない領域Aが形成されている。但し、この領域Aにもヘッド用突起13を設けてもよい。この領域Aに設けられるヘッド用突起13は、燃料の燃焼室10の周方向yへの広がりを抑えることができればよく、ヘッド用突起群15と平行でなくても構わない。
【0047】
図3の(a)に示すように、各ヘッド用突起13の断面形状は、特に限定されるものではないが、例えば、隣り合うヘッド用突起13の間のヘッド用溝14の断面形状がV字状またはU字状に形成されている。
【0048】
また、各ヘッド用突起13の高さDは、特に限定されるものではないが、例えば、高さDを、ヘッド面12の中心部でゼロとし、中心部から外周に架けて徐々に高くしてもよい。また、全領域に亘って略一定の高さとしてもよく、噴霧Fが到達する部分を高くそこからシリンダ
2の内外方向に沿ったそれ以外の部分に架けては徐々に低くする等してもよい。
【0049】
さらに、一つのヘッド用突起群15における燃焼室10の周方向xの位置によって、高
さDを異ならせてもよい。要は、噴霧Fの燃焼室10の周方向xへの広がりを抑制できればよい。例えば、この高さDを1〜5mm程度とする。
【0050】
また、隣り合うヘッド用突起13の間の幅Wも、特に限定されるものではないが、例えば、幅Wを、ヘッド用突起群15の端に向けて太くしてもよい。この幅Wを2〜10mm程度とする。
【0051】
このような複数のヘッド用突起13は、上記した噴霧Fのシリンダヘッド4のヘッド面12に沿って、燃焼室10の周方向xへの広がりが抑えられればよく、複数のヘッド用突起1
3の配置の仕方は上記したものに限定されるものではなく種々変更可能である。例えばヘッド用突起13をシリンダヘッド4のヘッド面12の中心から外周に向かって放射線状に配置しても良い。
【0052】
ところで、噴霧Fが到達するシリンダヘッド4のヘッド面12に上述したヘッド用突起13(ヘッド用突起群15)を形成すると、噴霧Fとシリンダヘッド4のヘッド面12との衝突表面積が、各ヘッド用突起13の凹凸によって、ヘッド用突起13が無い通常のものよりも大きくなってしまう。このため、噴霧Fからシリンダヘッド4のヘッド面12、即ち燃焼室10の表面への熱損失量が増加し、燃費の悪化を引き起こす。
【0053】
そこで、上記のヘッド用突起13を断熱素材で形成し、噴霧Fからシリンダヘッド4のヘッド面12への熱損失を抑えている。断熱素材は、シリンダヘッド4の下面12a、吸気バルブ7の下面12b、及び排気バルブ9の下面12cよりも熱伝達率が低いものが用いられる。
【0054】
図1、
図2、及び
図3(a)に示すように、複数のヘッド用突起13からなるヘッド用突起群15は、シリンダヘッド4のヘッド面12に、噴霧Fが到達する部分に位置して形成されている。よって、ヘッド用突起群15を構成するヘッド用突起13を断熱素材で形成することで、シリンダヘッド4のヘッド面12の噴霧Fが到達する部分が断熱素材でカバーされた状態となり、噴霧Fがヘッド用突起群15の部分に衝突した際、噴霧Fからシリンダヘッド4のヘッド面12への熱損失が低減される。
【0055】
断熱素材は、セラミックが用いられる。例えば、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)、炭化珪素(SiC)、窒化珪素(Si
3N
4)等のセラミック単体や、それらセラミック中に中空のセラミックビーズを閉じ込めた複合材料等が用いられる。
【0056】
セラミックから成るヘッド用突起13は、シリンダヘッド4のヘッド面12に溶着等により固定されている。例えば、
図3の(a)に破線Lで示すように、金属製のシリンダヘッド4のヘッド面12に、上述したセラミック単体やセラミック中に中空のセラミックビーズを閉じ込めた複合材料を図面の裏表方向(燃焼室10の内外方向y)に沿って肉盛り溶接の如く溶着して第1層とし、その上に同様にして同じ材料を第1層よりも幅狭に溶着して第2層とし、以降同様の手順で溶着を繰り返し、山状のヘッド用突起13を形成する。隣り合うヘッド用突起13の第1層同士は繋がっており、複数のヘッド用突起13から成るヘッド用突起群15は、シリンダヘッド4のヘッド面12の噴霧Fが
到達する部分を覆っている。
【0057】
また、例えば、
図3の(b)に示すように、金属製のシリンダヘッド4のヘッド面12に、上述したセラミック単体やセラミック中に中空のセラミックビーズを閉じ込めた複合材料から形成した断面形状が三角形の角柱でヘッド用突起13を形成してもよい。この場合は、隣り合うヘッド用突起13同士は繋がっていないが、隣り合うヘッド用突起13同
士を隙間なく並べることで、シリンダヘッド4のヘッド面12の噴霧Fが
到達する部分を覆っている。
【0058】
次に、本発明に係る第1の実施の形態のエンジン1の動作について、
図4及び
図5を参照にしながら説明する。従来技術の場合(シリンダヘッド4のヘッド面12にヘッド用突起13が形成されていない場合)、インジェクタ5の噴孔5aを微細且つ多噴孔にすると、燃料の噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突した後に、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達し、燃焼室10の周方向xに発達し、隣り合う噴霧F間の干渉が生じ易くなり、燃焼室10内に過濃領域が形成され、その結果、スモーク(煤)の生成量が増えてしてしまう問題がある。
【0059】
これに対して、第1の実施の形態のエンジン1において、インジェクタ5の複数の微細な噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fは、キャビティ11の壁面11aに衝突し、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達すると、
図4の(a)と(b)に示すように、複数の断熱素材で形成されたヘッド用突起13の延在方向(燃焼室10の内外方向y)に対しては相対的に抵抗が少ないので断熱素材で形成されたヘッド用突起13の延在方向に沿って広がる。一方で、断熱素材で形成されたヘッド用突起13の延在方向に交差する方向(複数のヘッド用突起13の隣接方向、若しくは燃焼室10の周方向x)に対しては複数の断熱素材で形成されたヘッド用突起13に邪魔され相対的に抵抗が高いので広がりが抑えられる。
【0060】
すなわち、複数の断熱素材で形成されたヘッド用突起13は、噴霧Fが燃焼室10の中央から放射線上に沿って広がるのを促すとともに、噴霧Fが複数のヘッド用突起群15の隣接方向(燃料室10の周方向x)に広がるのを抑制する(抵抗となる)誘導部として作用する。
【0061】
このことは、
図5の(a)〜(d)に示すように、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fが、キャビティ11の壁面11aに衝突した後、噴霧Fがシリンダヘッド4のヘッド面12に到達しても、噴霧Fはシリンダヘッド4のヘッド面12に沿って発達することなく、隣接する噴霧F(図示せず)と干渉することで過濃領域FLが形成されてしまうことがない。
【0062】
このように、本実施の形態1のエンジン1においては、燃焼室10において燃料の噴霧Fがキャビティ11の壁面11aに衝突した後に到達するシリンダヘッド4のヘッド面12に複数のヘッド用突起13を設けたことにより、燃料の噴霧Fが、ヘッド用突起13に沿って広がるのを促し、複数のヘッド用突起13に対して交差する方向に広がるのを抑制することができるので、互いに隣接する噴霧F、F間の干渉を抑制することができる。これにより、燃焼室10内における燃料の過濃領域の形成を抑制することができる。その結果、スモークの生成を抑制することができる。
【0063】
加えて、ヘッド用突起群15のヘッド用突起13を断熱素材で形成するので、噴霧Fが衝突するシリンダヘッド4のヘッド面12が断熱素材でカバーされた状態となり、噴霧Fがヘッド用突起群15の部分に到達した際、噴霧Fからシリンダヘッド4のヘッド面12(燃焼室10の壁面)への熱損失が低減される。よって、かかる熱損失に起因する燃費の悪化を低減することができる。
【0064】
さらに、ヘッド用突起13を、インジェクタ5からキャビティ11に向けて噴射される燃料の噴射方向Fxに対し、シリンダヘッド4の下面視で平行に形成すると、ヘッド用突起13は、燃焼室10の周方向xに広がろうとする燃料に対して直交する配置となり、燃焼室10の周方向xに広がろうとする燃料に、的確に抵抗を与えることができる。
【0065】
次に、本発明に係る第2の実施の形態の内燃機関について、
図6〜
図8を参照しながら説明する。このエンジン20は、
図1に示す、第1の実施の形態の構成に加えて、
図6に示すように、キャビティ11の壁面11aにキャビティ11の内外方向に沿って設けられ、断熱素材で形成された複数のキャビティ用突起16を備え、ヘッド用突起13とキャビティ用突起16を対向一致するように配置する。
【0066】
このキャビティ用突起16は、例えば、特開2011−174388号公報で開示されている公知の技術の突起を用いることができる。また、
図7に示すように、キャビティ用突起16からなるキャビティ用突起群18がキャビティ11の壁面11aに衝突する部分の夫々に形成されている。このキャビティ用突起群18の隣り合うキャビティ用突起16の間にはキャビティ用溝17を形成する。また、隣り合うキャビティ用突起群18の間にキャビティ用突起16が存在しない領域Bが形成されている。
【0067】
ヘッド用突起群15とキャビティ用突起群18は、燃焼室10を平面視で重なる位置に配置され、ヘッド用突起群15のヘッド用突起13と、キャビティ用突起群18のキャビティ用突起16も同様に、燃焼室10を平面視で重なる、つまり対向一致するように配置される。詳しくは、
図8の(a)に示すように、ヘッド用突起群15の凸部とキャビティ用突起群18の凸部と、また、ヘッド用突起群15の凹部とキャビティ用突起群18の凹部とを平面視で一致させる。
【0068】
これにより、燃料の噴霧Fが衝突する部分と、衝突後に到達する部分の両方を断熱素材で覆うことができ、噴霧Fからキャビティ11の壁面11a(燃焼室10の壁面)への熱損失と、シリンダヘッド4のヘッド面12(燃焼室10の壁面)への熱損失の両方が低減される。よって、かかる熱損失に起因する燃費の悪化をより低減することができる。
【0069】
次に、このエンジン20の動作について、
図7を参照しながら説明する。まず、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fは、キャビティ11の壁面11aに設けられたキャビティ用突起群18の部分に衝突する。
【0070】
次に、キャビティ用突起群18に衝突した燃料は、キャビティ用突起群18を構成する断熱素材で形成したキャビティ用突起16に案内されてキャビティ11の内外方向yに広がり、キャビティ用突起16が、キャビティ11の周方向xに広がろうとする燃料が乗り越える際の堤防(抵抗)として機能することで、キャビティ11の周方向xへの広がりが抑制される。
【0071】
次に、キャビティ11の壁面11aに衝突した燃料は、キャビティ11の上方に舞い上がり、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達する。
【0072】
次に、ヘッド面12に到達した燃料は、ヘッド用突起群15を構成する断熱素材で形成したヘッド用突起13に案内されて燃焼室10の内外方向yに広がり、ヘッド用突起13が、燃焼室10の周方向xに広がろうとする燃料が乗り越える際の堤防(抵抗)として機能することで、燃焼室10の周方向xへの広がりが抑制される。
【0073】
従って、インジェクタ5の各噴孔5aから噴射された燃料の噴霧Fが、キャビティ11の壁面11aに衝突し、壁面11aに設けた複数のキャビティ用突起16により、キャビティ11の周方向xに広がることが抑えられ、さらに、その後、シリンダヘッド4のヘッド面12に到達しても、シリンダヘッド4のヘッド面12に設けた複数のヘッド用突起13により、ヘッド面12に沿って周方向xに広がることが抑えられ、隣り合う噴霧F同士が干渉することによる燃料の過濃領域の形成を抑制でき、スモークの発生を低減できる。
【0074】
加えて、ヘッド用突起13を断熱素材で形成し、且つキャビティ用突起16を断熱素材で形成したので、噴霧Fが到達するシリンダヘッド4のヘッド面12と、噴霧Fが衝突するキャビティ11の壁面11aの両方が断熱素材でカバーされた状態となり、噴霧Fから燃焼室10の壁面(壁面11a及びヘッド面12を含む)への熱損失が低減される。よって、かかる熱損失に起因する燃費の悪化を低減することができる。