特許第6019851号(P6019851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019851
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ころ軸受の組立方法
(51)【国際特許分類】
   F16C 43/04 20060101AFI20161020BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   F16C43/04
   F16C33/46
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-156596(P2012-156596)
(22)【出願日】2012年7月12日
(65)【公開番号】特開2014-20392(P2014-20392A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 武志
【審査官】 塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−329331(JP,A)
【文献】 特開2007−263305(JP,A)
【文献】 特開2010−031992(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 43/04
F16C 33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪に形成された外軌道面と前記内輪に形成された内軌道面との間に転動自在に配置された複数のころと、各ころを保持するとともに周方向に複数に分割されている分割保持器と、を備え、
前記分割保持器は、軸方向に所定間隔離して対向させた第1,第2リム部と、この第1,第2リム部の間に架設した複数の柱部とを有し、隣り合う柱部と前記第1,第2リム部とによって囲まれる空間を、前記ころを収容するポケットとして構成している複数の合成樹脂製の保持器セグメントを、周方向に沿って環状に配列してなるころ軸受の組立方法であって、
前記内輪の径方向外方に仮固定具の一端部を突出させた状態で、当該仮固定具の他端部を前記内輪の端面に仮固定する工程と、
前記内輪の外周に前記各保持器セグメントを環状に配列する工程と、
前記各保持器セグメントのポケットに前記ころを挿入する工程と、
前記第1,第2リム部にそれぞれ形成された第1,第2孔部、及び前記ころを軸方向に貫通する貫通孔に、仮固定ピンを挿入し、当該仮固定ピンを前記仮固定具に仮固定する工程と、
前記外輪の外軌道面が前記各ころに外接するように、前記内輪を前記外輪に嵌め込む工程と、を含むころ軸受の組立方法。
【請求項2】
前記仮固定ピンに形成された雄ねじ部を、前記仮固定具の前記一端部に形成された雌ねじ部に螺合することで、当該仮固定ピンを前記仮固定具に仮固定する請求項1に記載のころ軸受の組立方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の保持器セグメントを環状に配列した分割保持器を備えたころ軸受の組立方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水平軸プロペラ式の風力発電装置においては、ブレードを取り付ける主軸を回転自在に支持するために、転がり軸受が用いられている。近年、風力発電装置の大型化に伴って、主軸の直径が数メートルを超えることもあり、このような大型の主軸を支持するために、転がり軸受も大型化している。大型の転がり軸受に用いられる保持器として、合成樹脂製の保持器が用いられる場合がある。この合成樹脂製の保持器は、溶接で組み立てる金属製の保持器に較べて、軽量であるとともに精度も確保し易いという利点がある。しかし、直径の大きい合成樹脂製の保持器を、射出成形で一体成形することは困難である。そこで、周方向に複数に分割した分割保持器が用いられている(例えば特許文献1参照)。この分割保持器は、複数の保持器セグメントを環状に配列したものである。
【0003】
図7は従来の保持器セグメントの一例を示す要部斜視図であり、図8は従来の保持器セグメントを用いた円すいころ軸受を示す要部断面図である。この保持器セグメント100は、所定間隔離して対向させた一対の第1,第2リム部101,102と、この第1,第2リム部101,102の間に架設した複数の柱部103とを有しており、隣り合う柱部103と第1,第2リム部101,102とによって囲まれる空間を、転動体としての円すいころ113(図8参照)を収容するポケット104として構成している。前記保持器セグメント100は、射出成形によって成形された合成樹脂製のものである。
【0004】
円すいころ軸受110は、外輪111と内輪112との間に複数の円すいころ113を配列し、各円すいころ113を、複数の前記保持器セグメント100からなる分割保持器120によって保持している。内輪112の外周には、各円すいころ113が転動する軌道面112aが形成されており、この軌道面112aを挟んで、円すいころ113の端面が接触する大鍔部112bと小鍔部112cとが設けられている。
前記円すいころ軸受110は、例えば、各保持器セグメント100を、内輪112の外周に沿って環状に配列し、各保持器セグメント100のポケット104に円すいころ113を順次挿入した後、内輪112を各保持器セグメント100及び円すいころ113とともに、予めハウジングに装着された外輪111に嵌め込むことにより組み立てられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】ヨーロッパ特許公報EP2264325(A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の円すいころ軸受110は、内輪112を外輪111に嵌め込む前の状態において、各保持器セグメント100同士は分離された状態で内輪112の外周面に配列されていため、保持器セグメント100が円すいころ104とともに内輪112から脱落し易い。このため、内輪112を各保持器セグメント100及び円すいころ113とともに、ハウジングに装着された外輪111に嵌め込む作業が困難となり、円すいころ軸受110を組み立てるのに多くの工数を要するという問題があった。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたものであり、保持器セグメント、ころ及び内輪の一体性を確保することができ、容易に組み立てることができるころ軸受の組立方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のころ軸受の組立方法は、外輪と、内輪と、前記外輪に形成された外軌道面と前記内輪に形成された内軌道面との間に転動自在に配置された複数のころと、各ころを保持するとともに周方向に複数に分割されている分割保持器と、を備え、前記分割保持器は、軸方向に所定間隔離して対向させた第1,第2リム部と、この第1,第2リム部の間に架設した複数の柱部とを有し、隣り合う柱部と前記第1,第2リム部とによって囲まれる空間を、前記ころを収容するポケットとして構成している複数の合成樹脂製の保持器セグメントを、周方向に沿って環状に配列してなるころ軸受の組立方法であって、前記内輪の径方向外方に仮固定具の一端部を突出させた状態で、当該仮固定具の他端部を前記内輪の端面に仮固定する工程と、前記内輪の外周に前記各保持器セグメントを環状に配列する工程と、前記各保持器セグメントのポケットに前記ころを挿入する工程と、前記第1,第2リム部にそれぞれ形成された第1,第2孔部、及び前記ころを軸方向に貫通する貫通孔に、仮固定ピンを挿入し、当該仮固定ピンを前記仮固定具に仮固定する工程と、前記外輪の外軌道面が前記各ころに外接するように、前記内輪を前記外輪に嵌め込む工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、内輪の外周に各保持器セグメントを環状に配列し、各保持器セグメントのポケットにころを挿入した状態で、第1,第2リム部の第1,第2孔部及びころの貫通孔に仮固定ピンを挿入することで、保持器セグメントところとを連結することができる。さらに、この連結状態で内輪に仮固定された仮固定具に仮固定ピンを仮固定することで、保持器セグメント、ころ及び内輪の一体性を確保することができる。これにより、各保持器セグメントを環状に配列した内輪を外輪に嵌め込む際に、内輪に添わせた保持器セグメントがころとともに内輪から脱落するのを防止することができるため、ころ軸受を容易に組み立てることができる。
【0009】
前記ころ軸受の組立方法は、前記仮固定ピンに形成された雄ねじ部を、前記仮固定具の前記一端部に形成された雌ねじ部に螺合することで、当該仮固定ピンを前記仮固定具に仮固定することが好ましい。この場合、仮固定ピンを仮固定部に容易に仮固定することができるため、ころ軸受をさらに容易に組み立てることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明のころ軸受の組立方法によれば、保持器セグメント、ころ及び内輪の一体性を確保することができるので、ころ軸受を容易に組み立てることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る円すいころ軸受を示す要部断面図である。
図2】上記円すいころ軸受の分割保持器を示す概略側面図である。
図3】上記分割保持器の保持器セグメントを示す斜視図である。
図4】上記円すいころ軸受の組み立て時に用いられる治具を示す断面図である。
図5】上記円すいころ軸受の組立方法を示す要部断面図である。
図6】上記円すいころ軸受の組立方法を示す要部断面図である。
図7】従来の保持器セグメントの一例を示す斜視図である。
図8】従来の保持器セグメントを用いた円すいころ軸受を示す要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら詳述する。
図1は、本発明の一実施形態に係る円すいころ軸受を示す要部断面図である。本実施形態の円すいころ軸受1は、風力発電装置の主軸を支持する大型のものであり、外輪2と、内輪3と、外輪2と内輪3との間に配列された複数の円すいころ4と、各円すいころ4を保持するとともに周方向に複数に分割された各円すいころ4を保持する分割保持器5とを備えている。
【0013】
外輪2の内周には、円すいころ4が転動するように、円すい面からなる外軌道面2aが形成されている。内輪3の外周には、外軌道面2aと対向する位置に円すいころ4が転動するように、円すい面からなる内軌道面3aが形成されている。また、内輪3の外周には、内軌道面3aを挟んで径方向外方に突出し、円すいころ4の軸方向両側の端面がそれぞれ接触する大鍔部3bと小鍔部3cとが形成されている。内輪3には、大鍔部3b側の端面3dに開口する雌ねじ部3eが軸方向に延びて形成されている。
【0014】
図2は、分割保持器5を示す概略側面図であり、図3はその分割保持器5を構成する保持器セグメント6を示す斜視図である。
分割保持器5は、円弧状に形成された複数の保持器セグメント6を、周方向に沿って環状に配列することによって構成されている。保持器セグメント6は、軸方向に所定間隔離して対向させた第1リム部21及び第2リム部22と、この第1,第2リム部21,22の相互間に架設した複数の柱部23とを備えており、隣り合う2つの柱部23と前記第1,第2リム部21,22とによって囲まれる空間を、円すいころ4を収容するポケット24として構成している。この保持器セグメント6は、射出成形によって一体成形された合成樹脂製のものである。
【0015】
図1及び図3に示すように、円すいころ4には、その軸心と同心状に軸方向に貫通する貫通孔4aが形成されている。また、第1リム部21の各ポケット24に対応する位置には、ポケット24側の側面に開口する有底の孔からなる第1孔部21aが形成されている。さらに、第2リム部22の前記各第1孔部21aに対向する位置には、第2孔部22aが軸方向に貫通して形成されている。第1,第2孔部21a,22aは、同一の孔径に設定されており、図1に示すように、円すいころ4がポケット24に収容された状態で、貫通孔4aと同心状に配置されている。
【0016】
図4は、円すいころ軸受1の組み立て時に用いられる治具10を示す断面図である。この治具10は、内輪3の大鍔部3b側の端面3dに仮固定される仮固定具11と、この仮固定具11に仮固定される仮固定ピン12とを備えている。仮固定具11は、断面が略への字状に形成された板部材からなり、本体部(他端部)11aと、本体部11aに対して傾斜している傾斜部(一端部)11bとを有している。
【0017】
仮固定具11の本体部11aには、その厚み方向に貫通する貫通孔11a1が形成されており、この貫通孔11a1にはボルト13が挿通され、内輪3の雌ねじ部3eに螺合される。これにより、本体部11aは、内輪3の端面3dに仮固定される。傾斜部11bは、本体部11aが前記端面3dに仮固定された状態で、内輪3の径方向外方に突出するとともに、第2リム部22に対して軸方向に所定間隔をあけて対向配置される。傾斜部11bには、その厚み方向に貫通する雌ねじ部11b1が形成されている。
【0018】
仮固定ピン12は、基端部に雄ねじ部12aが形成されるとともに、雄ねじ部12aよりも先端側に円柱状のピン部12bが形成されたボルトからなる。ピン部12bの外径は、円すいころ4の貫通孔4aの孔径よりも小径であって、かつ第1,第2リム部21,22の第1,第2孔部21a,22aの孔径と同径に設定されている。ピン部12bは第1,第2孔部21a,22a及び貫通孔4aに挿入され、雄ねじ部12aは仮固定具11の雌ねじ部11b1に螺合されるようになっている。その際、仮固定ピン12が第1,第2孔部21a,22aに圧入されることにより、第1,第2リム部21,22は仮固定ピン12に対して連結固定される。また、円すいころ4は、仮固定ピン12に対して回転自在な状態で連結される。
【0019】
次に、円すいころ軸受1の組立方法について、図4図6を参照しながら説明する。まず、図5(a)に示すように、仮固定具11の傾斜部11bを内輪3の径方向外方に突出させた状態で、本体部11aを内輪3の端面3dに仮固定する。具体的には、ボルト13を本体部11aの貫通孔11a1を貫通して、内輪3の雌ねじ部3eに螺合する。
【0020】
次に、図5(b)に示すように、各保持器セグメント6を、内輪3の外周に沿って環状に配列した後、各保持器セグメント6のポケット24に円すいころ4を挿入する。この状態で、図6(a)に示すように、仮固定ピン12のピン部12bを、仮固定具11の軸方向外側から、仮固定具11の雌ねじ部11b1、第2リム部22の第2孔部22a、円すいころ4の貫通孔4a、第1リム部21の第1孔部21aの順に挿入し、仮固定ピン12の雄ねじ部12aを仮固定具11の雌ねじ部11b1に螺合する。これにより、図4に示すように、仮固定ピン12は、仮固定具11に仮固定されるとともに、保持器セグメント6と円すいころ4とが、仮固定具11及び仮固定ピン12を介して、内輪3ととともに一体的に連結される。
【0021】
次に、図6(b)に示すように、外輪2の外軌道面2aが各円すいころ4に外接するように内輪3を外輪2に嵌め込む。このように内輪3を外輪2に嵌め込んだ後は、仮固定ピン12の雄ねじ部12aと仮固定具11の雌ねじ部11b1との螺合を解除し、仮固定ピン12を仮固定具11から取り外す。そして最後に、ボルト13と内輪3の雌ねじ部3eとの螺合を解除し、仮固定具11を内輪3から取り外す。これにより、円すいころ軸受1の組み立てが完了する。
【0022】
以上の構成の円すいころ軸受1の組立方法によれば、内輪3の外周に各保持器セグメント6を環状に配列し、各保持器セグメント6のポケット24に円すいころ4を挿入した状態で、第1,第2リム部21,22の第1,第2孔部21a,22a及び円すいころ4の貫通孔4aに仮固定ピン12を挿入することで、保持器セグメント6と円すいころ4とを連結することができる。さらに、この連結状態で内輪3に仮固定された仮固定具11に仮固定ピン12を仮固定することで、保持器セグメント6、円すいころ4及び内輪3の一体性を確保することができる。これにより、各保持器セグメント6を環状に配列した内輪3を外輪2に嵌め込む際に、一旦内輪3に添わせた保持器セグメント6が円すいころ4とともに内輪3から脱落するのを防止することができるため、円すいころ軸受1を容易に組み立てることができる。
【0023】
また、仮固定ピン12に形成された雄ねじ部12aを、仮固定具11の傾斜部11bに形成された雌ねじ部11b1に螺合することで、仮固定ピン12を仮固定具11に容易に仮固定することができるため、円すいころ軸受1をさらに容易に組み立てることができる。
【0024】
本発明は、上記の実施形態に限定されることなく適宜変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、第2リム部22に形成される第2孔部22aは、有底の孔からなるが、貫通孔であってもよい。また、本発明は、円すいころ軸受以外に、円筒ころ軸受にも適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1:円すいころ軸受(ころ軸受)、2:外輪、2a:外軌道面、3:内輪、3a:内軌道面、3d:端面、4:円すいころ(ころ)、4a:貫通孔、5:分割保持器、6:保持器セグメント、11:仮固定具、11a:本体部(他端部)、11b:傾斜部(一端部)、11b1:雌ねじ部、12:仮固定ピン、12a:雄ねじ部、21:第1リム部、21a:第1孔部、22:第2リム部、22a:第2孔部、23:柱部、24:ポケット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8