特許第6019864号(P6019864)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019864
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】エンジンの制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 23/00 20060101AFI20161020BHJP
   F02B 37/00 20060101ALI20161020BHJP
   F02B 37/24 20060101ALI20161020BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20161020BHJP
   F02M 26/05 20160101ALI20161020BHJP
   F02M 26/10 20160101ALI20161020BHJP
【FI】
   F02D23/00 J
   F02B37/00 302F
   F02B37/24
   F02D21/08 311B
   F02M26/05
   F02M26/10 301
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-159563(P2012-159563)
(22)【出願日】2012年7月18日
(65)【公開番号】特開2014-20281(P2014-20281A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年6月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100068021
【弁理士】
【氏名又は名称】絹谷 信雄
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸 洋紀
【審査官】 立花 啓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−111966(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/032618(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00−28/00
F02B 37/00−37/24
F02M 26/00−26/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路と吸気通路との間に連通される排気再循環通路と、前記排気再循環通路に設けられる流量調整バルブと、を有する排気再循環装置と、
前記排気通路に設けられるタービンと、前記タービンに設けられる可変ノズルと、前記吸気通路に設けられると共に前記タービンと回転軸を介して連結されるコンプレッサと、を有する可変容量型過給機と、
前記エンジンの吸気マニホールドに設けられると共に前記エンジンの吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、
前記コンプレッサよりも吸気上流側の前記吸気通路に設けられると共に前記エンジンの吸気流量を検出する吸気流量検出手段と、
前記コンプレッサよりも吸気下流側の前記吸気通路に設けられるスロットルバルブと、
を備える
エンジンの制御装置であって、
前記排気再循環通路は、前記タービンよりも排気上流側の前記排気通路と前記コンプレッサよりも吸気下流側であって前記スロットルバルブよりも吸気上流側の前記吸気通路との間に連通され、
前記吸気圧検出手段前記吸気流量検出手段の検出値に基づいて、スライディングモード制御により前記流量調整バルブの開度前記可変ノズルの開度に対する制御量を出力するスライディングモード制御手段をさらに備える
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記スライディングモード制御手段は、前記エンジンの複数の運転状態に対応して少なくとも二以上設けられると共に、該二以上のスライディングモード制御手段を前記エンジンの運転状態に応じて切り替える切替手段をさらに備える
請求項1に記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記二以上のスライディングモード制御手段は、少なくとも、前記エンジンの複数の運転状態に対応して、低負荷運転領域に対応する低負荷用スライディングモード制御手段と、中負荷運転領域に対応する中負荷用スライディングモード制御手段と、高負荷運転領域に対応する高負荷用スライディングモード制御手段と、を含む
請求項2に記載のエンジンの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に関し、特に、排気系と吸気系とを接続する流路に設けられた流量調整バルブを含む排気再循環装置と、排気により駆動されるタービンに設けられた可変ノズルを含む可変容量型過給機とを備えるエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンから排出される排気の一部を吸気系に再循環する排気再循環装置(以下、EGR装置)が知られている。このEGR装置は、排気系と吸気系とを接続する流路に設けられた流量調整バルブ(以下、EGRバルブ)の開度を制御することで、再循環排気(以下、EGRガス)の流量を調整している。
【0003】
また、排気により駆動されるタービンと、吸気を圧送するコンプレッサと、タービンに設けられた可変ノズルとを備える可変容量型過給機(Variable Nozzle Turbo:以下、VNT)も知られている。このVNTは、可変ノズルの開度を制御してタービンの駆動を増減させることで、吸気の過給率を調整している。このようなEGR装置と、VNTとを備えるエンジンの制御装置は、例えば特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−82234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、一般的なエンジンの制御装置では、EGRバルブ及び可変ノズルの開度をそれぞれ独立したフィードバック制御により制御している。例えば、EGRバルブの制御においては、吸気流量の目標値と吸気流量センサの検出値とを入力したPID制御等のフィードバック制御に、エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいたフィードフォワード制御を加えることで、EGRバルブの開度を制御している。
【0006】
また、可変ノズルの制御においては、吸気圧力の目標値と吸気圧センサの検出値とを入力したPID制御等のフィードバック制御に、エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいたフィードフォワード制御を加えることで、可変ノズルの開度を制御している。
【0007】
しかしながら、このようにEGRバルブの制御と可変ノズルの制御とを独立して行うと互いに制御干渉が生じ、目標値の追従性の劣化や制御系の不安定化を引き起こす可能性がある。例えば、EGRバルブの制御を行うと、EGRバルブの開閉作動によりVNTのタービンに流れ込む排気の流量が変動して、吸気圧力に変化が生じる。同様に、可変ノズルの制御を行うと、吸気圧力のみなら吸気流量にも変化が生じる。そのため、従来の制御装置では、制御干渉を回避するために、一方の制御のフィードバックゲインを小さくしてフィードバックを弱める等、制御性能を犠牲にする必要がある。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたもので、その目的は、EGRバルブの制御と可変ノズルの制御とを相互に協調させて制御干渉を回避すると共に、制御性能を効果的に向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のエンジンの制御装置は、エンジンの排気通路と吸気通路との間に連通される排気再循環通路と、前記排気再循環通路に設けられる流量調整バルブと、を有する排気再循環装置と、前記排気通路に設けられるタービンと、前記タービンに設けられる可変ノズルと、前記吸気通路に設けられると共に前記タービンと回転軸を介して連結されるコンプレッサと、を有する可変容量型過給機と、前記エンジンの吸気マニホールドに設けられると共に前記エンジンの吸気圧を検出する吸気圧検出手段と、前記コンプレッサよりも吸気上流側の前記吸気通路に設けられると共に前記エンジンの吸気流量を検出する吸気流量検出手段と、前記コンプレッサよりも吸気下流側の前記吸気通路に設けられるスロットルバルブと、を備えるエンジンの制御装置であって、前記排気再循環通路は、前記タービンよりも排気上流側の前記排気通路と前記コンプレッサよりも吸気下流側であって前記スロットルバルブよりも吸気上流側の前記吸気通路との間に連通され、前記吸気圧検出手段前記吸気流量検出手段の検出値に基づいて、スライディングモード制御により前記流量調整バルブの開度前記可変ノズルの開度に対する制御量を出力するスライディングモード制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0010】
前記スライディングモード制御手段は、前記エンジンの複数の運転状態に対応して少なくとも二以上設けられると共に、該二以上のスライディングモード制御手段を前記エンジンの運転状態に応じて切り替える切替手段をさらに備えてもよい。
【0011】
また、前記二以上のスライディングモード制御手段は、少なくとも、前記エンジンの複数の運転状態に対応して、低負荷運転領域に対応する低負荷用スライディングモード制御手段と、中負荷運転領域に対応する中負荷用スライディングモード制御手段と、高負荷運転領域に対応する高負荷用スライディングモード制御手段とを含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のエンジンの制御装置によれば、EGRバルブの制御と可変ノズルの制御とを相互に協調させて制御干渉を回避すると共に、制御性能を効果的に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置を示す模式的な全体構成図である。
図2】本発明の一実施形態に係る電子制御ユニット(ECU)を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係るエンジンの制御装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0015】
まず、図1に基づいて、本実施形態のディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)10の吸排気系構成から説明する。
【0016】
エンジン10の吸気マニホールド10aには吸気通路11が接続され、排気マニホールド10bには排気通路12が接続されている。吸気通路11には吸気上流側から順に、VNT20のコンプレッサ20a、スロットルバルブ13、インタークーラ14が設けられ、排気通路12にはVNT20のタービン20bが設けられている。また、コンプレッサ20aよりも吸気上流側の吸気通路11には吸気流量センサ30が設けられ、吸気マニホールド10a(又は、コンプレッサ20aよりも吸気下流側の吸気通路11)には吸気圧センサ31が設けられている。これら吸気流量センサ30の検出値(以下、吸気流量MAF)及び、吸気圧センサ31の検出値(以下、吸気圧力Pinm)は、電気的に接続されたECU50に出力される。
【0017】
VNT20は、吸気通路11に設けられたコンプレッサ20aと、排気通路12に設けられたタービン20bと、タービン20bに設けられた可変ノズル20cとを備えている。これらコンプレッサ20aとタービン20bとは、回転軸を介して連結されている。また、VNT20には、ECU50から出力される指示信号に応じて可変ノズル20cを開閉動作させる図示しないアクチュエータが設けられている。
【0018】
EGR装置40は、タービン20bよりも排気上流側の排気通路12とインタークーラ14よりも吸気上流側の吸気通路11とを連通するEGR通路41と、EGRガスの流量を調整するEGRバルブ42と、EGRガスを冷却するEGRクーラ43とを備えている。このEGR装置40によるEGRガスの流量は、ECU50から出力される指示信号に応じてEGRバルブ42の開度が制御されることで調整される。
【0019】
エンジン回転センサ32は、エンジン10の図示しないクランクシャフトの回転数を検出するもので、検出されるセンサ値(以下、エンジン回転数N)は電気的に接続されたECU50に出力される。アクセルポジションセンサ33は、運転者による図示しないアクセルペダルの操作量を検出するもので、検出されるセンサ値は電気的に接続されたECU50に出力される。
【0020】
ECU50は、エンジン10の燃料噴射などの各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備え構成されている。また、ECU50は、図2に示すように、複数(本実施形態では5個)のスライディングモード制御部51〜55と、運転状態判定部56と、切替制御部57とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるECU50に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0021】
スライディングモード制御部51〜55は、入力変数を吸気流量MAF・吸気圧力Pinmとして、追従性が高い公知の積分型スライディングモード制御により、出量変数としてのEGRバルブ42の開度VEGRと可変ノズル20cの開度VVNTとを算出する2入力2出力のスライディングモード制御器である。このスライディングモード制御部51〜55において、制御モデルは二次の状態空間モデルとして表現されている。また、状態空間モデルは、EGRバルブ42の開度VEGRと可変ノズル20cの開度VVNTとを入力する状態方程式、及び吸気流量MAFと吸気圧力Pinmとを出力する出力方程式で構成されている。
【0022】
本実施形態において、このスライディングモード制御部51〜55は、単体ではエンジン10の広い運転領域を補うことができないため、エンジン10の運転領域を複数の運転領域に分割し、それぞれが分割された任意の運転領域に対応するように設けられている。例えば、スライディングモード制御部51は低負荷運転領域、スライディングモード制御部52は低〜中負荷運転領域、スライディングモード制御部53は中負荷運転領域、スライディングモード制御部54は中〜高荷運転領域、スライディングモード制御部55は高負荷運転領域にそれぞれ対応する。
【0023】
なお、スライディングモード制御部51〜55の個数は5個に限定されず、エンジン10の仕様やECU50の演算能力に応じて適宜設定することが可能である。また、最も使用頻度の高い運転領域(例えば、低中負荷運転領域)ほど、その個数を増加させて設けてもよい。
【0024】
運転状態判定部56は、エンジン回転数N、アクセルペダルの操作量から換算した燃料噴射量Qに基づいて、エンジン10の運転状態(例えば、低負荷運転・低〜中負荷運転・中負荷運転・中〜高負荷運転・高負荷運転)を判定する。運転状態判定部56により判定されたエンジン10の運転状態は、切替制御部57に出力される。
【0025】
切替制御部57は、運転状態判定部56から入力されるエンジン10の運転状態に応じて、複数のスライディングモード制御部51〜55を切り替える。例えば、運転状態判定部56からの入力が低負荷運転の場合は低負荷用のスライディングモード制御部51、高負荷運転の場合は高負荷用のスライディングモード制御部55が選択される。これにより、エンジン10の運転状態に応じた最適なスライディングモード制御部51〜55に切り替えられるように構成されている。
【0026】
次に、本実施形態に係るエンジンの制御装置による作用効果を説明する。
【0027】
一般的なエンジンの制御装置では、EGRバルブ及び可変ノズルの開度をそれぞれ独立したフィードバック制御により制御している。そのため、EGRバルブの制御を行うと、タービンに流れ込む排気流量の変動により吸気圧力が変化する一方、可変ノズルの制御を行うと、吸気圧力のみならず吸気流量も変化する。その結果、従来の制御装置では、制御干渉を回避するために、一方の制御のフィードバックゲインを小さくしてフィードバックを弱める等、制御性能を犠牲にする必要がある。
【0028】
これに対し、本実施形態のエンジンの制御装置では、外乱やモデル化誤差に対するロバスト性が高いスライディングモード制御により、吸気流量MAF・吸気圧力Pinmを入力変数とし、出量変数としてのEGRバルブ42の開度VEGRと可変ノズル20cの開度VVNTとを算出している。また、複数のスライディングモード制御部51〜55は、エンジン10の運転状態に応じて適宜切り替えられるように構成されている。
【0029】
したがって、本実施形態のエンジンの制御装置によれば、制御干渉を考慮した2入力2出力のスライディングモード制御部51〜55により、EGRバルブ42及び可変ノズル20cの制御干渉を効果的に抑制することができる。また、運転状態に応じたスライディングモード制御部51〜55の切り替えにより、運転条件の変化に対して適宜対応することが可能となり、排ガス性能も効果的に向上することができる。さらに、想定外の運転条件(急激な運転状態の変化)に対しても、スライディングモード制御のロバスト性により制御性能の劣化を効果的に抑止することができる。
【0030】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0031】
例えば、EGR装置40のEGR通路41は、タービン20bよりも排気下流側の排気通路12とコンプレッサ20aよりも吸気上流側の吸気通路11とを連通するものであってもよい。また、エンジン10はディーゼルエンジンに限られず、他のエンジンにも広く適用することが可能である。
【符号の説明】
【0032】
10 エンジン
20 VNT
20a コンプレッサ
20b タービン
20c 可変ノズル
30 吸気流量センサ
31 吸気圧センサ
40 EGR装置
41 EGR通路
42 EGRバルブ
50 ECU(電子制御ユニット)
51〜55 スライディングモード制御部(スライディングモード制御手段)
56 運転状態判定部
57 切替制御部(切替手段)
図2
図1