(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019880
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】凹凸形成装置およびキー入力装置
(51)【国際特許分類】
H01H 13/14 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
H01H13/14 A
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-164272(P2012-164272)
(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公開番号】特開2014-26749(P2014-26749A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000970
【氏名又は名称】特許業務法人 楓国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大寺 昭三
【審査官】
関 信之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−191622(JP,A)
【文献】
特開平08−114408(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0081933(US,A1)
【文献】
特開2003−177857(JP,A)
【文献】
特開2007−079172(JP,A)
【文献】
実開平7−029560(JP,U)
【文献】
実開昭50−069664(JP,U)
【文献】
実開昭50−121975(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凸状または凹状に屈曲する屈曲体と、
前記屈曲体の第一端を固定支持する固定支持部と、
前記固定支持部で固定支持された前記屈曲体の前記第一端とは反対側の第二端を固定せず、前記屈曲体の面方向の変位を妨げない空洞部を前記屈曲体との間に形成する保持部と、を備え、
前記屈曲体は、印加される電界によって変位する電歪材料と、前記電歪材料に張り合わされた基材シートとが積層された積層体であることを特徴とする凹凸形成装置。
【請求項2】
前記電歪材料は、印加される電界の1.5〜2.5乗に比例して変位し、
前記保持部は、前記屈曲体の前記第二端の上方と下方に位置することにより、前記屈曲体の厚み方向における変位を拘束することを特徴とする、請求項1に記載の凹凸形成装置。
【請求項3】
凸状または凹状に屈曲する屈曲体と、
前記屈曲体の第一端を固定支持する固定支持部と、
前記固定支持部で固定支持された前記屈曲体の前記第一端とは反対側の第二端を固定せず、前記屈曲体の面方向の変位を妨げない空洞部を前記屈曲体との間に形成する保持部と、
前記屈曲体の屈曲方向への操作を検出するスイッチと、を備え、
前記屈曲体は、印加される電界によって変位する電歪材料と、前記電歪材料に張り合わされた基材シートとが積層された積層体であることを特徴とするキー入力装置。
【請求項4】
前記固定支持部と前記保持部とを有し、前記屈曲体と前記保持部との間に空洞部を形成するフレームをさらに備え、
前記フレームは、前記固定支持部と前記保持部との間であって前記屈曲体の上方に、前記屈曲体が屈曲したときに突出するための開口を有し、
前記スイッチは、前記屈曲体の下方に配置されることを特徴とする、請求項3に記載のキー入力装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は凹凸形成装置およびキー入力装置に関し、特に電圧の印加により凹凸形状を形成する装置および、その凹凸形成装置によって入力部の凹凸形状を制御するキー入力装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電圧印加によって凹凸形状を形成する装置として例えば特許文献1が知られている。
図4は特許文献1に示されている凹凸形成装置の断面図である。凹凸形成部40には、
図4に示すように、3層のエラストマー層42a、42bおよび42cと、4つの電極43a、43b、43cおよび43dとを含む変形部41と、側壁44とが設けられている。ここでエラストマー層とは、絶縁性を有し、印加電圧により必要量の伸びが得られるエラストマーからなる層である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−176439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4に示される構造の凹凸形成装置においては、変形部41の側部が側壁44で固定されているため、十分に大きな変形を得難いという問題があった。
【0005】
仮に大きく変形させるためには、エラストマーの曲げ弾性率を数十kPa以下に小さくする必要があるが、そうすると機械的強度が低下するという問題があった。
【0006】
本発明の目的は、電圧印加によって屈曲する屈曲体を備えた凹凸形成装置において、従来構造のものより十分な大きな変形による凹凸を形成できるようにした凹凸形成装置およびそれを備えたキー入力装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の凹凸形成装置は、凸状または凹状に屈曲する屈曲体と、前記屈曲体の一端(一辺)を固定支持する固定支持部と、前記固定支持部で固定支持された前記屈曲体の一端とは反対側の端部を前記屈曲体の厚み方向には変位を拘束するとともに面内方向には可動状態に保持する保持部と、を有していることを特徴とする。
【0008】
前記屈曲体は、印加電界の1.5〜2.5乗に比例して変位する電歪材料およびこの電歪材料と張り合わされた基材シートで構成されていることが好ましい。
【0009】
本発明のキー入力装置は、凸状または凹状に屈曲する屈曲体と、前記屈曲体の一端(一辺)を固定支持する固定支持部と、前記固定支持部で固定支持された前記屈曲体の一端とは反対側の端部を前記屈曲体の厚み方向には変位を拘束するとともに面内方向には可動状態に保持する保持部と、前記屈曲体の屈曲方向への操作を検出するスイッチと、を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、屈曲体の固定部に対する対向位置は屈曲体の厚み方向の変位が拘束され面内方向の変位が可動であるので、すなわち側壁で固定されていないので、屈曲体の屈曲変形時に大きく変形できる。また、屈曲体はその一端(一辺)が固定部で固定されているので、凹凸変形部の位置がずれることもない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1(A)は本発明の一実施形態である凹凸形状形成装置およびそれを備えたキー入力装置101の断面図、
図1(B)は屈曲体1が屈曲した状態での断面図、
図1(C)は屈曲体1を押圧した状態での断面図である。
【
図2】
図2(A)は十字形状に形成された屈曲体1の斜視図である。
図2(B)は電歪材料に電圧を印加して屈曲体1を屈曲させたときの斜視図である。
【
図3】
図3は複数の屈曲体からなる屈曲体マトリックス10を備えた凹凸形成装置の概略構成図である。
【
図4】
図4は特許文献1に示されている凹凸形成装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1(A)は本発明の一実施形態である凹凸形状形成装置およびそれを備えたキー入力装置101の断面図である。
図1(B)は屈曲体1が屈曲した状態での断面図、
図1(C)は屈曲体1を押圧した状態での断面図である。
【0013】
キー入力装置101は、基板6、フレーム3、屈曲体1、屈曲体1の一端を支持する支持台2、支持台2を固定する固定部32、保持部31およびスイッチ5を備えている。支持台2および固定部32は本発明に係る「固定支持部」に相当する。固定部32はフレーム3の一部である。支持台2は屈曲体1の一端(一辺)に接着されていて、固定部32に支持台2が接着されている。
【0014】
保持部31は支持台2および固定部32で固定支持された屈曲体1の一端とは反対側の端部を保持する。この保持部31はフレーム3の一部である。
【0015】
屈曲体1は基材シート11と電歪材料12との積層体であり、ユニモルフ構造を構成している。屈曲体1はこの例では矩形板状である。電歪材料12は電圧印加によって面方向に拡がる(伸びる)高歪材料のシートである。電歪材料12が面方向に拡がる(伸びる)ことによって、基材シート11と電歪材料12との積層体の界面に歪みが生じ、屈曲体1は電歪材料12側を凸にして屈曲する。特に、支持台2および固定部32は屈曲体1の長手方向の一端(一辺)を固定するので、屈曲体1は長手方向の軸が湾曲するように屈曲する。
【0016】
保持部31は、支持台2および固定部32で固定支持された屈曲体1の一端とは反対側の端部を、屈曲体1の厚み方向には変位を拘束するとともに面内方向には可動状態に保持する。そのため、保持部31と屈曲体1との間には、屈曲体1の面方向の変位を妨げない空洞部4が形成されている。
【0017】
前記屈曲体1、支持台2、固定部32および保持部31によって凹凸形成装置が構成されている。この凹凸形成装置とスイッチ5とでキー入力装置101が構成されている。
【0018】
屈曲体1には駆動回路20が接続されている。この駆動回路20が屈曲体1の電歪材料12に駆動電圧を印加することにより、
図1(B)に示すように、屈曲体1は、その中央が上に凸となるように屈曲する。これにより、キーボタンの上面が盛り上がり、操作者は必要なキーボタンを容易に識別できるようになる。
【0019】
図1(C)に示すように、屈曲体1を指先で押圧すると、屈曲体1の形状が平坦に戻り(座屈し)、更に押圧することによってスイッチ5を作動させることができる。
【0020】
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)に示したキー入力装置101を視認せずにキー入力する必要がある場合、またはキー入力装置101の操作部(キーボタン)を視認せずに操作する必要がある場合、誤ったキーボタンを操作しないようにすることが重要である。
図1(B)に示したようにキーボタンが盛り上がれば、指でなぞるだけでキーボタンが特定できる。すなわち押すべきキーボタンを操作者に教示できるので、誤操作を防止できる。
【0021】
また、従来技術と同じだけの変位を実現する場合には、電歪材料自体の伸び率は少なくて済むため、結果として必要な駆動電圧を低くすることができる。これによって、低消費電力化でき、また操作者に対して安全な電圧での駆動が可能となる。
【0022】
前記電歪材料12は、PVDF(PolyVinylidene DiFluoride:ポリビニリデンフルオロイド)フィルムの表裏に電極を形成したものである。この電極はPEDOT(PolyEthyleneDiOxyThiophene:ポリエチレンジオキシチオフェン)のインクをフィルムの表裏へのはけ塗りで形成した。電極の形成は、マスクを使うスプレーによる塗装でもよいし、あるいは前記インクの粘度を高めてスクリーン印刷してもよい。
【0023】
上記インクは例えば85℃で10分間乾燥させる。この電極付きPVDFフィルムである電歪材料12を基材シート11であるPETフィルムに接着剤などを用いて接着する。この接着剤としてはエポキシ樹脂などを用いる。接着剤を用いないで両面テープで接合してもよい。
【0024】
PVDFフィルムの表裏の電極には、導電性ペーストによってリードを付ける。この導電性ペーストは例えば80℃で硬化させる。
【0025】
前記駆動回路20が屈曲体1の電歪材料12に800Vを印加したとき、屈曲体1は2mm盛り上がった。一方、比較例として、屈曲体の両端を固定したものでは、0.5mmしか盛り上がらなかった。基材シート11であるPETフィルムの弾性率は4GPaで十分硬いことと、電歪材料も0.5GPaと比較的硬いため、屈曲体1を指で触ることで、その屈曲(盛り上がり)を容易に感知することができる。また、屈曲体1は薄い板状で可撓性があるため、盛り上がった状態でも、上から指で押すことで容易に座屈する。そして、さらに押圧することで、座屈変形を介して下に撓んだ状態に変化してスイッチを作動させることができる。
【0026】
ここで、使用可能な幾つかの高歪材料について示す。電歪材料層は高分子電歪材料から形成される。高分子電歪材料は永久双極子を有する高分子材料であれば特に限定されない。高分子電歪材料の例としては、前記PVDF以外に、PVDF系の共重合体、例えば、P(VDF-TrFE)などのコポリマーや、P(VDF-TrFE-CFE),P(VDF-TrFE-CTFE),P(VDF-TrFE-CDFE),P(VDF-TrFE-HFA),P(VDF-TrFE-HFP),P(VDF-TrFE-VC),P(VDF-VF)などのターポリマーが挙げられる(Pはポリを、VDFはビニリデンフルオライドを、TrFEはトリフルオロエチレンを、CFEはクロロフルオロエチレンを、CTFEはクロロトリフルオロエチレンを、CDFEはクロロジフルオロエチレンを、HFAはヘキサフルオロアセトンを、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、VCはビニルクロライド、VFはビニルクロライドをそれぞれ意味する)。なかでも、P(VDF-TrFE-CFE) は大きな歪みが得られる点で特に好ましい。電歪材料層の厚さは適宜設定してよいが、例えば数μm〜100μm程度とし得る。また導電インクとしては、前記PEDOT以外に、PPy(ポリピロール)、PANI(ポリアニリン)などの有機導電性材料などが挙げられる。
【0027】
図1(A)、
図1(B)、
図1(C)に示したキー入力装置101においては、矩形板状の屈曲体1を用いたが、本発明はこれに限らず、板状であれば任意形状とすることができる。例えば
図2(A)は十字形状に形成された屈曲体1の斜視図である。この屈曲体1は4つの端部を備えているが、その1つが支持台2で支持される。
図1(A)に示した例と同様に、屈曲体1は基材シートと電歪材料との積層体であり、ユニモルフ構造を構成している。
図2(B)は電歪材料に電圧を印加して屈曲体1を屈曲させたときの斜視図である。この図に示すように、屈曲体1は、
図2(A)に示したクロスする2つの軸が上に凸になるように屈曲する。
【0028】
以上に示した例では、単一の屈曲体を備えた凹凸形成部について示したが、複数の屈曲体を備えた凹凸形成装置にも同様に適用できる。また、複数入力部を備えたキー入力装置にも同様に適用できる。複数の屈曲体に対して駆動電圧を印加する際、マトリックス駆動により所望の屈曲体に電圧を印加してもよい。
【0029】
図3は、複数の屈曲体からなる屈曲体マトリックス10を備えた凹凸形成装置の概略構成図である。列駆動回路20Xと行駆動回路20Yとで所望の屈強体に駆動電圧が印加される。列駆動回路20Xと行駆動回路20Yとで例えば屈曲体1Aに電圧が印加されると、屈曲体1Aは屈曲する。
【0030】
以上に示した例では、電歪材料12と基材シート11とを積層して屈曲体を構成した。電歪材料を用いれば、印加電圧の2乗に比例した屈曲量が得られるので駆動電圧あたりの屈曲変形量を大きくすることができるので好都合である。但し、本発明の屈曲体には電歪材料以外の材料を用いてもよい。
【0031】
双極子モーメントに電界を印加することによって誘起される歪みのうち、電界の1.5〜2.5乗に比例する歪みをもたらすものが電歪効果であり、電歪効果を示す材料が電歪材料である。一方、電界に比例した歪みを生じるものが逆圧電効果であり、この逆圧電効果を示す圧電ポリマーを用いてもよい。
【0032】
その他に次のような材料を用いることもできる。
(a)マクスウェルの応力で収縮伸長する誘電体エラストマー
(b)イオンの移動により屈曲するイオン導電性高分子・貴金属接合体(IPMC:Ionic Polymer-Metal Composite)
(c)電気化学的酸化・還元反応により伸長・収縮を利用する導電性ポリマー
(d)形状記憶ポリマー(SMP:Shape Memory Polymer)あるいは形状記憶合金金(SMA:Shape Memory Alloy)からなる形状記憶材料
(e)形状記憶機能を有する液晶エラストマー
(f)電解性ゲルを用いたもの
なお、本発明のキー入力装置は例えば画面を見ながらキー動作する必要のあるゲーム機などや照度が低い環境下でキー入力を求められる場合などにおいて好適である。
【0033】
また、上述の例では、ユーザーが押すべきキーボタンが盛り上がるように駆動することとしたが、場合によっては、押してはならないキーボタンが盛り上がるように駆動してもよい。これはアプリケーションに依存する。
【0034】
また、上述の例では、押下を検出するスイッチを備えたキー入力装置を示したが、静電タッチパネルに適用することもできる。この場合は、盛り上がった屈曲体を押下し、屈曲体が座屈した時点で指または屈曲体による静電容量の変化を検出することでスイッチが押されたことを検知できる。
【符号の説明】
【0035】
1,1A…屈曲体
2…支持台
3…フレーム
4…空洞部
5…スイッチ
6…基板
10…屈曲体マトリックス
11…基材シート
12…電歪材料
20…駆動回路
20X…列駆動回路
20Y…行駆動回路
31…保持部
32…固定部
101…キー入力装置