【文献】
Xiang Zhou and Xian-Yu Su,Effect of the modulation transfer function of a digital image-acquisition device in phase-measuring profilometry,APPLIED OPTICS,1994年12月10日,Vol. 33, No. 35,pp. 8210 - 8215
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に、本実施の形態に係る形状測定装置10を例示する。形状測定装置10は、光源12、入力信号調整手段14、位相変位手段16、撮像手段26、及び演算部20を含んで構成される。なお、以下の説明では、測定対象物50の、奥行き方向(距離方向)をy軸、幅方向をx軸、高さ方向をz軸とする。また、光源12側の格子縞における平面座標を、u軸、v軸で表す。また、撮像手段26の撮像面18の座標を、i軸、j軸で表す。
【0022】
光源12は、測定対象物50の被測定面22に格子縞像を投影する。光源12によって投影される格子縞は、それぞれの格子縞の有する空間的な周期(空間周期)が異なるものであってよく、光源12は、これら空間周期の異なる複数の格子縞を交互に被測定面22に投影するものであってよい。ここで、光源12は、液晶素子やDMD(Digital Mirror Device)を用いて格子縞の画像を投影するプロジェクタであってよい。また、光源12は、ハロゲンランプ等の照明部材であってよく、当該照明部材と被測定面22との間の光路上に、ガラス板等に格子パターンを描いた実格子を配置してもよい。
【0023】
光源12としてプロジェクタを用いる場合、格子縞の画像を作成する格子縞作成手段23を備えてよい。格子縞作成手段23は、プロジェクタに入力信号を送信する、コンピュータ等の演算装置24に組み込まれていてよい。
【0024】
また、格子縞の画像であっても、実格子であっても、被測定面22に投影される格子縞は、いずれの空間周期であっても、正弦状の強度分布をもつパターンが被測定面22に投影されるような格子パターンであることが好適である。例えば、cos波状の透過率分布を備えた格子縞であってよい。
【0025】
入力信号調整手段14は、光源12への入力信号を調整する調整手段である。入力信号調整手段14は、演算装置24に組み込まれていてよい。入力信号調整手段14は、相対的に空間周期の短い格子縞を被測定面22に投影するときの、光源12への入力信号の輝度成分が、相対的に空間周期の長い格子縞を被測定面22に投影するときの輝度成分よりも大きくなるように、前記入力信号を調整する。光源12がプロジェクタである場合には、プロジェクタに送信される格子縞画像の空間周期に応じた輝度成分を含んだ入力信号を、格子縞画像データの送信と併せて光源12に送信してもよい。ここで、入力信号の輝度成分とは、光源12の投影輝度振幅であってよい。投影輝度振幅の調整は、光源12の輝度を増減させることで行ってもよく、また、光源12の単位時間当たりの照射時間を増減させることで行ってもよい。また、実格子を用いる場合には、入力信号調整手段14は、実格子の交換時に、交換された実格子の空間周期に応じた輝度成分となる様に、光源12への入力信号を調整するようにしてもよい。
【0026】
光源12、入力信号調整手段14と、格子縞作成手段23または実格子を、まとめて、投影手段として捉えてもよい。この投影手段は、異なる空間周波数及び投影輝度振幅をそれぞれ有する、複数の格子縞画像を、選択的に被測定面22に投影するものであってよい。また、格子縞画像別に、独立して投影手段を設けてもよい。また、後述するように、投影手段が、所定の空間周期を有する第1の格子縞像と、第1の格子縞像よりも空間周期の長い第2の格子縞像とを、選択的に被測定面22に投影する場合は、第1の格子縞を被測定面22に投影するときの輝度成分は、第2の格子縞を被測定面22に投影するときの輝度成分より大きいものとすることができる。
【0027】
位相変位手段16は、被測定面22に投影された格子縞像の位相を変化させる。格子縞像をプロジェクタにより投影する場合、位相変位手段16は、演算装置24に組み込まれていてよく、位相を変化させた格子縞像をプロジェクタに送信するようにしてよい。また、格子縞が実格子である場合、位相変位手段16は、実格子を移動させるステージ手段であってよい。
【0028】
撮像手段26は、被測定面22に投影された格子縞像を撮像する。撮像手段26は、CCDカメラまたはCMOSカメラであってよい。また、撮像手段26は、撮像面18を備えていてよい。撮像面18には、撮像素子が行方向及び列方向に(2次元的に)複数配列されていてよい。
【0029】
演算部20は、撮像手段26が受光した受光輝度に基づいて、被測定面22の形状を算出する。具体的には、演算部20は、空間周期の異なる格子縞の、それぞれの位相の変化に対応する、撮像手段26の受光輝度のそれぞれの変化に基づいて、被測定面22の形状を算出する。演算部20は、演算装置24に組み込まれていてよい。また、演算部20は、相対位相算出手段28、絶対位相算出手段30、位相−y座標算出手段32、及びy座標−xz座標算出手段34をサブシステムとして備えていてよい。これらの作用については後述する。
【0030】
次に、位相シフト法を用いた形状測定の原理について説明する。
図2に示すように、光源12は、被測定面22に向かって、格子縞36の像を投影する。このとき、光源12側の格子縞36について、格子縞36上の任意の座標(u,v)の透過率P
k(u,v)は下記数式1のように表すことができる。
【0032】
ここで、Aはオフセット、Bは格子縞36の投影振幅である。また、λは格子縞36の空間周期である。また、kは任意の実数であり、格子縞36の変位を表す値である。例えば、初期位相(k=0)から格子縞36の位相をπ/2ずらす時には、k=1である。
【0033】
数式1により、撮像面18上の任意の座標(i,j)の撮像素子が受光する、被測定面22からの反射光の輝度I
k(i,j)は、下記(数式2)のように表すことができる。
【0035】
ここで、A(i,j)、B(i,j)は、外乱光や被測定物の反射率で決まる値である
。φ(i,j)は、座標(i,j)における反射光の位相を表している。
【0036】
数式1におけるkを1、2及び3とすると、
図3に示すように、格子縞36の位相は、初期位相(k=0)から、順次、π/2、π、及び3/2πずつずれる。このとき、初期位相を含めた、座標(i,j)の撮像素子の輝度I
0(i,j)、I
1(i,j)、I
2(i,j)、I
3(i,j)を用いると、数式2から、下記数式3を導くことができる。
【0038】
数式3から位相φ(i,j)を求めることができる。ここで、座標(i,j)の撮像素子が受光した反射光の、被測定面22における反射点(測定点)と、任意の基準面との距離yと、数式3で求めた位相φ(i,j)とは、一対一に対応することが知られている。つまり、y(i,j)=f(φ(i,j))である。したがって、予め基準面yと位相φとの関係を、標準試料等によって求めておいて、関数y(i,j)=f(φ(i,j))を取得するとともに、この関数と、数式3で求めた位相φ(i,j)に応じて、測定点の距離y(i,j)を求めることができる。
【0039】
なお、
図4に示すように、座標(i,j)の撮像素子からの視線上の位相φ(i,j)は、距離yが大きく変化すると、2πを超えて繰り返し変化する。例えば、y方向の測定領域内で、位相が2nπ変化する場合、y座標の候補はn個存在することになる。
図4では、y方向の測定領域内で、位相φを持つy座標の候補が5つ生じた様子が例示されている。
【0040】
y座標の候補を絞り込むために、空間周期の異なる格子縞36を用いてよい。まず、
図5に示すように、相対的に空間周期の長い(空間周波数の低い)、格子縞36A(粗い格子縞)を用いて位相φ
a’(i,j)を求める。ここで、y方向の測定領域内で、一つの位相のみが算出されるように、言い換えると、y方向の測定領域内で、位相の取り得る範囲が0から2πとなるような空間周期の、格子縞36Aを用いることが好適である。このとき、y方向の測定領域内で、一つの位相φ
a’(i,j)に対応する、一つのy座標y
a’(i,j)を得ることができる。
【0041】
次に、粗い格子縞36Aより空間周期の短い細格子縞36Bを用いて、位相φ
b’(i,j)を求める。このとき、y方向の測定領域内で、位相φ
b’(i,j)に対応する、複数のy座標候補値y
bk’(i,j)を得ることができる。さらに、複数の候補値y
bk’(i,j)のうち、粗い格子縞36Aを用いて算出したy座標y
a’(i,j)に最も近いy座標y
b’(i,j)を抽出する。例えば、y
a’(i,j)との差ε
bが最も小さいものを算出することで、y座標y
b’(i,j)を抽出してよい。
【0042】
次に、格子縞36Bより空間周期の短い微細格子縞36Cを用いて、位相φ
c’(i,j)を求める。このとき、y方向の測定領域内で、位相φ
c’(i,j)に対応する、複数のy座標候補値y
ck’(i,j)を得ることができる。さらに、複数の候補値y
ck’(i,j)のうち、細格子縞36Bを用いて算出したy座標y
b’(i,j)に最も近いy座標y
c’(i,j)を抽出する。抽出されたy
c’(i,j)を、測定点のy座標とする(y
c’(i,j)=y(i,j))。例えば、y
b’(i,j)との差ε
cが最も小さいものを算出することで、y座標y
c’(i,j)を抽出してよい。
【0043】
さらに、求めたy座標y(i,j)から、x座標x(i,j)及びz座標z(i,j)を求めてもよい。撮像手段26の開口角が絞り込まれている等の理由により、撮像素子に入射する反射光の入射角は、予め決められている。したがって、撮像素子に入射する反射光の光路上のy座標を特定すれば、当該y座標に対応するx座標及びz座標も求めることができる。例えば、予め、y座標とこれに対応するx座標及びz座標を、標準試料等によって求めておいてよい。また、y座標とx座標及びz座標との関係を表す関数x(i,j)=f(y(i,j))及びz(i,j)=f(y(i,j))を求めてもよい。これらの関数と、上記にて抽出したy座標y(i,j)から、測定点のx座標x(i,j)及びz座標z(i,j)を抽出することができる。
【0044】
次に、上記の原理に基づいた、形状測定の流れについて説明する。形状測定は、(1)キャリブレーション工程、及び(2)実測工程、の2種類の工程に分けることができる。
【0045】
まず、被測定面を測定する前段階の、(1)キャリブレーション工程について説明する。キャリブレーション工程は、(1−1)投影輝度成分のキャリブレーション、(1−2)関数y(i,j)=f(φ(i,j))を求めるためのキャリブレーション、及び(1−3)関数x(i,j)=f(y(i,j))及びz(i,j)=f(y(i,j))を求めるためのキャリブレーション、の3つを含んでよい。
【0046】
(1−1)投影輝度成分のキャリブレーション
空間周期の異なる格子縞36A〜36Cを用いるに当たり、光源12の輝度成分(投影輝度成分)を調整する。
図6に示すように、光源12、撮像手段26、及び演算装置24等からなる投受光光学系が有する、周波数透過特性(MTF)により、格子縞36の空間周期に応じて、撮像手段26の撮像面18上の輝度振幅(受光輝度振幅)が変化する。具体的には、
図6上段に例示するように、格子縞36の空間周期が短くなるほど、撮像面18における受光輝度振幅は減少する。撮像面18における受光輝度振幅の減少を抑制するために、被測定面22の測定に先駆けて、光源12の投影輝度成分を、格子縞の空間周期に応じて予め調整する。
【0047】
まず、光源12から、空間周期の異なる格子縞を、交互に、セラミック板等の標準板に投影する。平板に投影され、位相を変化させた格子縞像を、撮像手段26にて撮像する。撮像面18上の受光輝度振幅と、撮像した格子縞の空間周期との関係を、実測により求める。
【0048】
粗い格子縞36Aの空間周期をλ
L、細格子縞36Bの空間周期をλ
M、微細格子縞36Cの空間周期をλ
Hとすると、実測により求めた関係から、格子縞36の空間周期をλ
L、λ
M、及びλ
Hにそれぞれ対応する、受光輝度振幅R
L、R
M、及びR
Hがそれぞれ得られる。ここで、
図6上段に示すように、受光輝度振幅R
L、R
M、R
Hはいずれも相対値であって、いずれも1以下の値とする。
【0049】
空間周期λ
L、λ
M、及びλ
Hと、受光輝度振幅R
L、R
M、及びR
Hの関係から、入力信号調整手段14は、各格子縞36A〜36Cに対応する光源12の投影輝度成分を調整する。ここで、光源12の投影輝度を調整する際に、光源の輝度を増幅させ過ぎて、撮像素子の輝度飽和レベルを超えないことが好適である。
【0050】
さらに、格子縞36A〜36Cのそれぞれの像を撮像した際に、それぞれの受光輝度振幅が、輝度レベルを飽和しない範囲内で最大のものであれば、いずれの格子縞36A〜36Cにおいても、感度の良好な測定を行うことができる。このことから、格子縞36A〜36Cごとの受光輝度振幅が同一となるように、かつ、飽和レベルを越えない範囲での最大値となるように、光源12の投影輝度成分を調整することが好適である。
【0051】
まず、受光輝度を輝度飽和レベル以下に抑えるために、撮像面18上の受光輝度振幅が最大となる状態を設定して、光源12の投影輝度を調整する。例えば、標準板を、y方向の測定領域内で最も撮像手段26側に近接して配置するとともに、標準板から鏡面反射した反射光を撮像面18に受光させる。
【0052】
入力信号調整手段14は、まず、空間周期λ
L、λ
M、及びλ
Hと、受光輝度振幅R
L、R
M、及びR
Hの関係から、格子縞像を投影する際の振幅設定値(投影輝度振幅)STを定める。具体的には、
図6下段に示すように、空間周期λ
Lの投影輝度振幅ST
LをR
H、空間周期λ
Mの投影輝度振幅ST
MをR
H/R
M、空間周期λ
Hの投影輝度振幅ST
Hを1とする。このとき、各周期の格子縞像を被測定面に投影したときの、撮像面18上の受光輝度振幅を、
図7上段に例示する。いずれの空間周期についても、受光輝度振幅が等しくR
Hになっている。
【0053】
さらに入力信号調整手段14は、受光輝度が、飽和レベルを超えない範囲での最大値となるように、投影輝度振幅を増幅させる。具体的には、
図7下段に示すように、それぞれの投影輝度振幅ST
L、ST
M、ST
Hに、係数A(>1)を掛ける。係数Aの設定に当たっては、撮像素子の輝度レベルが飽和しない様に、実測等で調整することが好適である。係数Aを掛けた投影輝度振幅ST
L’=A・ST
L、ST
M’=A・ST
M、及びST
H’=A・ST
Hは、それぞれ演算装置24の図示しない記憶部に記憶される。
【0054】
(1−2)関数y(i,j)=f(φ(i,j))を求めるためのキャリブレーション
次に、y座標y(i,j)と、φ(i,j)の関係を求める。
図8に示すように、セラミック平板等の標準板40を、yステージ42に配置する。yステージ42は、標準板40を、y軸上に移動させることが可能となっている。yステージ42により、標準板40を、y方向の測定領域の全域、または任意の範囲に亘って移動させる。y座標が変更するごとに、光源12から標準板40に格子縞像を投影する。この投影の際に、格子縞の位相を変化させる。さらに、投影された格子縞像を撮像手段26に撮像させる。格子縞像の位相の変化に伴う撮像面18上の受光輝度の変化に基づいて、位相φを求める。このときの標準板のy座標は、yステージ42の位置設定値等により既知であるので、位相φと座標yを関連づける。この関連付けを、撮像面18の全座標(全撮像素子)または任意の座標に対して行う。さらに、この、位相φと座標yの関連付けを、y方向の測定領域の全域、または任意の範囲に亘って行う。得られた位相φと座標yの対応関係を、関数y(i,j)=f(φ(i,j))に近似して、演算装置24の図示しない記憶部に記憶させてもよい。また、この関数yは、格子縞36A〜36Cごとに算出してもよく、各格子縞に対応した、関数y
a(i,j)=f
a(φ(i,j))、y
b(i,j)=f
b(φ(i,j))、及びy
c(i,j)=f
c(φ(i,j))を算出して記憶部に記憶させてもよい。または、これらの関数における、位相φと座標yの関係を、ルックアップテーブル等の形式で記憶部に記憶させてもよい。
【0055】
(1−3)関数x(i,j)=f(y(i,j))及びz(i,j)=f(y(i,j))を求めるためのキャリブレーション
図9に示すように、yステージ42にグリッド格子44を配置する。グリッド格子44は、各グリッドのx,z座標が既知の実格子であってよい。グリッド格子44を所定のy座標y
0に位置させたときの、グリッド格子44の像を撮像手段26で撮像する。このとき、撮像面18上の座標(i,j)に対応する、グリッド格子44上の測定点のx,z座標は、周辺のグリッドの既知のx,z座標から線形補間等により求めることができる。したがって、撮像面18上の座標(i,j)に対応する、被測定面の測定点のy座標がy
0であるときの、x,z座標が求められる。この演算を、撮像面18上の全座標(全撮像素子)または任意の座標に対して行う。さらに、撮像面18上の座標(i,j)及びy座標と、x座標及びz座標との関連付けを、y方向の測定領域の全域、または任意の範囲に亘って行う。得られた座標(i,j)及びy座標と、x座標及びz座標との対応関係を、関数x(i,j)=f(y(i,j))及びz(i,j)=f(y(i,j))に近似して、演算装置24の図示しない記憶部に記憶させてもよい。または、関数x(i,j)=f(y(i,j))及びz(i,j)=f(y(i,j))における、座標(i,j)及びy座標と、x座標及びz座標との対応関係を、ルックアップテーブル等の形式で記憶させてもよい。
【0056】
(2)実測工程
図1に示すように、測定対象物50を光源12の光路上に配置する(S10)。次に、格子縞作成手段23が、粗い格子縞36Aの画像データを光源12に送信する(S12)。このとき、入力信号調整手段14は、粗い格子縞36Aに対応した投影輝度振幅A・ST
Lに適合した輝度成分の入力信号を、光源12に送信する(S14)。光源12は、投影輝度振幅A・ST
Lの粗い格子縞36Aの像を、測定対象物50の被測定面22に投影する(S16)。
【0057】
位相変位手段16は、被測定面22に投影された粗い格子縞36Aの像の位相を変化させる(S18)。例えば、π/2、π、3π/2の順に位相を変化させる。撮像手段26は、被測定面22に投影された、変位する粗い格子縞36Aの像を撮像する(S20)。相対位相算出手段28は、撮像手段26が撮像した粗い格子縞36Aの画像に基づいて、位相φ
a’(i,j)を求める(S22)。位相φ
a’(i,j)の算出は、撮像面18の全座標(全撮像素子)、または任意の座標に対して行う。
【0058】
次に、格子縞作成手段23は、細格子縞36Bの画像データを光源12に送信する(S24)。このとき、入力信号調整手段14は、細格子縞36Bに対応した投影輝度振幅A・ST
Mに適合した輝度成分の入力信号を、光源12に送信する(S26)。光源12は、投影輝度振幅A・ST
Mの細格子縞36Bの像を、測定対象物50の被測定面22に投影する(S28)。以降は、上記ステップ(S18)、(S20)及び(S22)と同様の処理を行って、細格子縞36Bの画像に基づいて、相対位相φ
bk’(i,j)を求める。
【0059】
次に、格子縞作成手段23は、微細格子縞36Cの画像データを光源12に送信する(S30)。このとき、入力信号調整手段14は、微細格子縞36Cに対応した投影輝度振幅A・ST
Hに適合した輝度成分の入力信号を、光源12に送信する(S32)。光源12は、投影輝度振幅A・ST
Hの微細格子縞36Cの像を、測定対象物50の被測定面22に投影する(S34)。以降は、上記ステップ(S18)、(S20)及び(S22)と同様の処理を行って、微細格子縞36Cの画像に基づいて、相対位相φ
ck’(i,j)を求める。
【0060】
次に、絶対位相算出手段30は、位相φ
a’(i,j)、相対位相φ
bk’(i,j)、及び相対位相φ
ck’(i,j)を用いて、絶対位相φ(i,j)の絞込みを行う(S36)。また、これと並行して、位相−y座標算出手段32は、上記(1−2)にて求めた関係から、絶対位相φ(i,j)に対応するy座標を導き出す(S38)。
【0061】
具体的には、位相φ
a’(i,j)と関数y
a(i,j)=f
a(φ(i,j))から、y座標y
a’(i,j)を算出する。次に、相対位相φ
bk’(i,j)と関数y
b(i,j)=f
b(φ(i,j))から、y座標候補y
bk’(i,j)を得る。さらに、y
bk’(i,j)のうち、最もy
a’(i,j)に近いものをy
b’(i,j)として抽出する。次に、相対位相φ
ck’(i,j)と関数y
c(i,j)=f
c(φ(i,j))から、y座標候補y
ck’(i,j)を得る。y
ck’(i,j)のうち、最もy
b’(i,j)に近いものを、測定点のy座標とする(y
c’(i,j)=y(i,j))。また、y
c’(i,j)に対応する位相φ
c’(i,j)を絶対位相φ(i,j)とする。
【0062】
次に、y座標−xz座標算出手段34は、上記(1−3)にて求めた関係から、y(i,j)に対応するx(i,j)及びz(i,j)を導き出す(S40)。すべての、または任意の撮像面18上の座標(撮像素子)について、対応する被測定面上の測定点のx,y,z座標が求められると、演算部20は、これらの座標を繋げて被測定面の三次元形状を作成する(S42)。
【0063】
なお、被測定面が光沢面である場合などに、撮像面18上の一部の受光輝度が飽和レベルを超過する場合がある。他方、撮像面18上の一部の受光輝度が、位相φを求めるには過小である場合がある。この様な場合には、飽和レベルを超過した領域や受光輝度が過小な領域を除外して、位相φを求めるようにしてもよい。言い換えると、撮像面18のうち、受光輝度が所定の許容範囲内に収まる領域に基づいて、被測定面22の形状を算出するようにしてもよい。
【0064】
さらに、当該領域における被測定面22の形状算出が完了した後に、撮像面18の、受光輝度が許容範囲内に収まる領域を変更させてもよい。例えば、光源12の投影輝度振幅を変更させることで、受光輝度が許容範囲内に収まる領域を変更させてもよい。
【0065】
また、投影輝度振幅を変更させる際には、空間周期の異なる格子縞画像のそれぞれの投影輝度振幅の比を保ったまま、それぞれの投影輝度振幅を変更させることが好適である。こうすることにより、受光輝度振幅を、それぞれの格子縞画像間で同一にすることが可能となる。例えば、(1−1)投影輝度成分のキャリブレーションにて設定した、投影輝度振幅ST
L’=A・ST
L、ST
M’=A・ST
M、及びST
H’=A・ST
Hの係数Aを調整することで、それぞれの投影輝度振幅を変更させてもよい。
【0066】
なお、上記の実施形態においては、投受光光学系のMTFによる受光輝度振幅の低下を、(1−1)投影輝度成分のキャリブレーションのように、入力信号調整手段14によって補償していたが、この形態に限られない。例えば、
図10に例示するように、撮像手段26または演算装置24に、撮像面18に対する露光時間を定める、露光調整手段52を設けてもよい。露光調整手段52は、撮像手段26のシャッタースピードを調整する機能を備えていてよい。
【0067】
露光調整手段52は、相対的に空間周期の短い格子縞36を被測定面22に投影したときの、撮像面18に対する露光時間が、相対的に空間周期の長い格子縞36を被測定面22に投影したときの、撮像面18に対する露光時間よりも長くなるように、撮像面18への露光時間を定めることが好適である。言い換えると、所定の空間周期の第1の格子縞像と、第1の格子縞像よりも空間周期の長い第2の格子縞像とを、被測定面22に選択的に投影する場合には、第1の格子縞像を被測定面22に投影するときの露光時間を、第2の格子縞像を被測定面22に投影するときの露光時間よりも長く設定してよい。このような構成を備えることで、投受光光学系のMTFによる受光輝度振幅の低下を補償することができる。
【0068】
ここで、上述したように、撮像面18上の一部の受光輝度が飽和レベルを超過する場合や、撮像面18上の一部の受光輝度が、位相φを求めるには過小である場合がある。この様な場合には、撮像面18のうち、受光輝度が所定の許容範囲内に収まる領域に基づいて、被測定面22の形状を算出するようにしてもよい。さらに、撮像面18に対する露光時間を変更させることで、撮像面18の、受光輝度が許容範囲内に収まる領域を変更させてもよい。また、空間周期の異なる格子縞画像のそれぞれの投影輝度振幅の比を保ったまま、それぞれの投影輝度振幅を変更させる制御を行った上で、露光時間の変更を行ってもよい。このようにすることで、露光時間の変更のみ、または、投影輝度振幅の変更のみを行う場合に比べて、受光輝度の飽和レベルの超過をより効果的に防止することが可能となる。
【0069】
また、輝度成分のキャリブレーションや、露光時間の調整に代えて、
図11に例示するように、撮像面18上の受光輝度振幅を増幅させる増幅手段54を備えてよい。増幅手段54は、相対的に空間周期の短い格子縞36を被測定面22に投影したときの、撮像面18上の受光輝度振幅の増幅率が、相対的に空間周期の長い格子縞36を被測定面22に投影したときの、撮像面18上の受光輝度振幅の増幅率よりも大きくなるように、増幅率を定めることが好適である。なお、入力信号調整手段14、露光調整手段52、増幅手段54を適宜組み合わせて使用してもよい。言い換えると、所定の空間周期の第1の格子縞像と、第1の格子縞像よりも空間周期の長い第2の格子縞像とを、被測定面22に選択的に投影する場合には、第1の格子縞像を被測定面22に投影するときの増幅率を、第2の格子縞像を被測定面22に投影するときの増幅率よりも大きくなるように設定してよい。
【0070】
<具体例1>
次に、上述のキャリブレーション及び測定原理を用いた三次元形状測定の具体例について説明する。なお、本具体例では、光源12として、格子縞の画像を投影可能なプロジェクタを使用した。プロジェクタの設定可能な輝度範囲は8bit(0〜255)であった。
【0071】
まず、3つの異なる周期のcos波形の格子縞36A〜36Cを用いて、形状計測を行った。格子縞36A〜36Cの周期はそれぞれ、λ
H=1.1mm、λ
M=5.5mm、λ
L=44mmであった。
【0072】
上記格子縞36A〜36Cに対して、上記(1−1)投影輝度成分のキャリブレーションを実施した。まず、形状既知のセラミック平板を光源12の光路上に置く。格子縞作成手段23は、光源12からcos波の濃淡を持つ格子縞36A〜36Cを順に投影する。ここで、光源12の投影輝度振幅について、オフセットを125、振幅を95に設定した。
【0073】
次に、セラミック平板に順に投影された格子縞36A〜36Cの画像を、撮像手段26で撮像する。次に、格子縞36A〜36Cの各周期で得られたcos波画像から格子縞36A〜36Cごとの受光輝度振幅を求めた。
【0074】
図12に、格子縞36A〜36Cの空間周期λと受光輝度振幅Rの関係を示す。この図から、R
L=1、R
M=0.84、R
H=0.35が得られる。これらの値から、ST
L=R
H=0.35、ST
M=R
H/R
M=0.42、ST
H=1が得られる。これらの値と、計測範囲の最近点で撮像素子の輝度レベルが飽和しないという二つの条件から、光源12の投影輝度設定値を定めた。まず、全ての空間周期のオフセットについて、8bit(0〜255)の輝度のうち、125とした。さらに、λ
Hの振幅を115、λ
Mの振幅を48、λ
Lの振幅を40とした。上述したように、MTF特性を考慮しない時の格子縞36A〜36Cの振幅は全て95であったので、λ
Hの振幅(115)を大きくできた。これらの値を基に、周期λ
H、λ
M、λ
Lの格子縞の位相が各々π/2異なる計12種類(=3周期×4位相)のcos波形格子縞を作成して、これらの像を撮像した。
【0075】
セラミック平板を精密ステージに載せてy方向に移動させ、その位置を計測した結果を
図13に示す。
図13では、位相φから求めたy座標と、実際の精密ステージ上のy座標との差が、ステージ位置ごとに示されている。白抜き丸プロット(○)は、格子縞ごとに投影輝度振幅を変更させたときの計測結果である。また、塗りつぶし丸プロット(●)は、すべての格子縞に対して一定の投影輝度振幅を設定したときの計測結果である。この図に示されているように、投影輝度振幅を格子縞ごとに調整することで、計算上のy座標と実際のy座標との誤差が小さくなった。
【0076】
<具体例2>
次に、光沢面からなる被測定面22が鏡面反射している場合の計測例について説明する。本具体例も、光源12として、輝度範囲が8bit(0〜255)のプロジェクタを使用した。また、本具体例では、撮像面18への露光時間を調整する露光調整手段52を備えている。具体的には、露光調整手段52は、撮像手段26のシャッタースピードを調整するシャッター速度変更手段である。
【0077】
図10に示すように、光源12の光路上に、光沢度標準板からなる測定対象物50を置く。このとき、光源12の光軸に対する被測定面22の傾きθが15°となるように、測定対象物50を設置した。
【0078】
本具体例でも、3つの異なる周期λ
H=1.1mm、λ
M=5.5mm、λ
L=44mmのcos波形格子縞36A〜36Cを用いた。測定対象物50として用いた光沢度標準板は、60°光沢度が1〜93%で異なる9枚(G1〜G9)を用いた。この光沢度標準板は、例えば、アイキ社製のものであってよい。また、光沢度は、コニカミノルタ社製の光沢計GM−268Plusで計測した。各標準板の光沢度を
図14に示す。
【0079】
まず、格子縞36A〜36Cの振幅減衰量を計測した。光沢度標準板の傾きθについて、θ=0°として、光源12の光路上(正面)に置き、光源12からcos波の濃淡を持つ周期を変えた格子縞36A〜36Cを順に光沢度標準板に投影し、この投映像を撮像手段26で撮像した。格子縞36A〜36Cの各周期で得られたcos波画像から、格子縞36A〜36Cの周期と振幅との関係を求めた。この測定は、9枚の光沢板(G1〜G9)に対して行った。この測定結果をもとに、
図15に示すような、周期と振幅の関係を得た。なお、振幅は、9枚の光沢板の測定から得られた振幅の平均値を用いている。
図15の結果は、具体例1における、
図12の結果と特性が異なっているが、表面反射特性の違いによるものと考えられる。なお、光沢度標準板が小さく、周期λ=30mmまでの格子縞までしか投影できなかったため、λ
Lの振幅値は外挿した。
【0080】
図15から、R
L=1.02、R
M=0.78、R
H=0.7を得た。さらに、これらの値から、ST
L=0.69、ST
M=0.88、ST
H=1が得られた。これらの値と計測範囲の最近点で撮像素子の輝度レベルが飽和しないという条件から、光源12の輝度設定値を設定した。具体的には、全ての周期のオフセットを125とし、λ
Hの振幅を115、λ
Mの振幅を100、λ
Lの振幅を78とした。MTF特性を考慮しない時の格子縞36A〜36Cの振幅は95であったので、λ
Hの振幅を大きくできた。
【0081】
格子縞作成手段23は、これらの値を基に、周期λ
H、λ
M、λ
Lの格子縞の位相が各々π/2異なる計12種類のcos波形格子縞を作成する。ここで、光沢度標準板の格子縞画像を
図16及び
図17に示す。括弧内の秒数はシャッター速度を表している。
図16、17に示されているように、光沢度が高いほど、格子縞画像がスポット状になる。このスポット部を計測領域として、その3次元座標を求めた。
【0082】
また、光沢度標準板の撮像時に、撮像素子の輝度飽和を抑制するために、露光調整手段52で、シャッター速度を1/15秒から1/80000秒まで約10倍ごとに変化させて格子縞を撮像した。
【0083】
まず、シャッター速度を1/15秒に設定する。そして、粗い格子縞36A、細格子縞36B、微細格子縞36Cの順に投影して、具体例1と同様に光沢度標準板の3次元座標を求めた。このとき、計測領域内で輝度飽和した撮像素子がある場合には、シャッター速度を早くして再度撮像した。例えば、1/15秒で飽和した場合は、シャッター速度を1/120秒にして再度撮像した。この速度でも飽和する撮像素子がある場合は、さらにシャッター速度を1/1000秒に上げて撮像した。このように飽和する撮像素子が無くなるまで、シャッター速度を上げて計測を行った。
【0084】
このようにして得られた3次元座標計測値から、光沢度標準板の3次元平面を最小自乗法で求めた。さらに、実際の3次元平面の座標と計測した座標との差を位置ばらつきとして求めた。その結果を
図18に示す。白抜き菱形プロット(◇)は、格子縞ごとに投影輝度振幅及びシャッタースピードを変更させたときの計測結果である。また、塗りつぶし菱形プロット(◆)は、すべての格子縞に対して一定の投影輝度振幅を設定したときの計測結果である。投影輝度振幅値を変えて投影することにより、投影輝度振幅値を同一にして投影した場合より、標準板G1〜G8で位置ばらつきが0.3〜3.8μm小さくなった。また、投影輝度振幅値を同一にした場合に、光沢標準板G9は誤計測となったが、投影輝度振幅値及びシャッタースピードを変えて投影することにより、計測が可能となった。