(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
成分(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)100重量部に対して、さらに、無機フィラー(E)5〜100重量部を含有することを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
プロピレン系樹脂組成物は、成分(A)のペレット、並びに成分(B)として用いるプロピレン・エチレンブロック共重合体(C)のペレット及びエラストマー(D)のペレットのドライブレンドであることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン系樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、下記の特性(A−1)〜(A−3)を満足する成分(A)と、下記の特性(B−1)を満足する成分(B)とを含有し、成分(A)と成分(B)との重量比[成分(A)/成分(B)]が15/85〜75/25の範囲にあることを特徴とする。
特性(A−1):成分(A)は、プロピレン単独重合体及びプロピレン・エチレンランダム共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種のプロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)とを含有し、プロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)との重量比[プロピレン系樹脂成分(X)/炭素繊維(Y)]が95/5〜50/50の範囲である。
特性(A−2):成分(A)は、炭素繊維(Y)が互いに平行な状態で配列したペレットに由来し、該ペレット中における炭素繊維(Y)の長さが該ペレットの長辺の長さと実質的に同じであり、炭素繊維(Y)の長さが2〜20mmである。
特性(A−3):プロピレン系樹脂成分(X)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)(以下MFRと略記することがある)が10〜200g/10分である。
特性(B−1):成分(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)100重量部に対して、エラストマー(D)50〜200重量部を含有する。
以下、本発明のプロピレン系樹脂組成物の構成成分、プロピレン系樹脂組成物の製造方法、プロピレン系樹脂組成物の特徴、およびその成形体などについて、詳細に説明する。
【0014】
I.プロピレン系樹脂組成物の構成成分
1.成分(A)
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、主要な構成成分として用いられる成分(A)は、下記の特性(A−1)〜(A−3)を満足する必要がある。
特性(A−1):成分(A)は、プロピレン単独重合体及びプロピレン・エチレンランダム共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種のプロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)とを含有し、プロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)との重量比[プロピレン系樹脂成分(X)/炭素繊維(Y)]が95/5〜50/50の範囲である。
特性(A−2):成分(A)は、炭素繊維(Y)が互いに平行な状態で配列したペレットに由来し、該ペレット中における炭素繊維(Y)の長さが該ペレットの長辺の長さと実質的に同じであり、炭素繊維(Y)の長さが2〜20mmである。
特性(A−3):プロピレン系樹脂成分(X)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が10〜200g/10分である。
【0015】
(1)特性(A−1)について
(i)プロピレン系樹脂成分(X)
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、主要な構成成分として用いられる成分(A)は、特性(A−1)を満足し、そして、その特性(A−1)では、成分(A)は、プロピレン単独重合体及びプロピレン・エチレンランダム共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種のプロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)とを含有し、プロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)との重量比[プロピレン系樹脂成分(X)/炭素繊維(Y)]が95/5〜50/50の範囲であることを、特徴としている。
【0016】
本発明に係るプロピレン系樹脂成分(X)は、プロピレン単独重合体及びプロピレン・エチレンランダム共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種である。具体的には、例えば、プロピレン単独重合体樹脂、プロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂が挙げられ、また、これらを併用してもよい。理由の詳細は不明であるが、プロピレン系樹脂成分(X)として、プロピレン単独重合体及びプロピレン・エチレンランダム共重合体からなる群から選ばれる少なくとも一種という、コモノマーを使用しない樹脂、或いはコモノマーが少ない樹脂を用いることにより、各種物性バランスを良好に保ったまま、外観も良好なプロピレン系樹脂組成物が得られることが今回見出され、本発明の一部を構成している。
ここで、本発明のプロピレン系樹脂組成物を、例えば、剛性および耐熱性を重要視する分野に適用する場合には、透明性、剛性、耐熱性に優れるプロピレン単独重合体樹脂を使用することが好ましい。特に、剛性に優れ、かつ成形品のソリが非常に小さくソリ防止性に優れる射出成形部品を提供するためには、プロピレン単独重合体樹脂を使用することが好ましい。
同様に、例えば、溶着性などを重要視する分野に適用する場合には、透明性に優れ、低融点であるプロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂を使用することが好ましい。なかでも、メタロセン系触媒を用いて重合されたプロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂は、レーザー光溶着性などが優れる傾向にあり、このような目的のためには、より好ましい。
【0017】
また、本発明に係るプロピレン系樹脂成分(X)として、プロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂を用いる場合には、プロピレン系樹脂成分(X)に対するエチレン含量は0.1〜5重量%のものが好ましく、0.5〜4重量%のものがより好ましい。
エチレン含量をこの様な範囲とすることにより、上記のような溶着性に加え、透明性、剛性、耐熱性や成形性に優れたプロピレン系樹脂組成物を得ることができる。即ち、エチレン含量が0.1重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物において、成形性が低下する傾向があり、一方、エチレン含量が5重量%を超えると、剛性、耐熱性などの物性が低下する傾向がある。
【0018】
本発明において用いるプロピレン系樹脂成分(X)の製造方法としては、チーグラー系触媒、メタロセン系触媒などのオレフィン重合触媒を用いてのスラリー重合、気相重合あるいは液相塊状重合が挙げられ、重合方式としては、バッチ重合、連続重合どちらの方式も採用することができる。
チーグラーナッタ触媒としては、高立体規則性触媒が用いられ、チーグラーナッタ触媒の調製例としては、四塩化チタンを有機アルミニウム化合物で還元し、更に各種の電子供与体及び電子受容体で処理して得られた三塩化チタン組成物と有機アルミニウム化合物及び芳香族カルボン酸エステルを組み合わせる方法(特開昭56−100806号、特開昭56−120712号、特開昭58−104907号の各公報参照)、および、ハロゲン化マグネシウムに四塩化チタンと各種の電子供与体を接触させる担持型触媒の方法(特開昭57−63310号、特開昭63−43915号、特開昭63−83116号の各公報参照)などの方法を例示することができる。
また、メタロセン触媒としては、インデン、アズレン、フルオレン等の縮合環系共役5員環が周期律表第4族元素に配位した化合物が好ましく用いられる。
【0019】
ここで、プロピレン・エチレンランダム共重合体樹脂の市販品としては、日本ポリプロ社のウィンテックWSX02、ノバテックMG03Bなどが例示される。また、プロピレン単独重合体の市販品としては、日本ポリプロ社のノバテックMA3などが例示される。これ以外にも、多くの会社から同様の樹脂が多数市販されており、所望の物性を有する樹脂を適宜選択し、入手することが可能である。
【0020】
(ii)炭素繊維(Y)
本発明に係る成分(A)は、上記のプロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)とを含有し、プロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)との重量比[プロピレン系樹脂成分(X)/炭素繊維(Y)]が95/5〜50/50の範囲である。成分(A)において、プロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)との重量比[プロピレン系樹脂成分(X)/炭素繊維(Y)]がこの範囲外であると、成形体の成形性などを低下させる等のおそれがあるため、好ましくない。
本発明において用いられる炭素繊維(Y)は、本発明のプロピレン系樹脂組成物やその成形体において、良好な機械的強度などを付与する機能を有する。
該炭素繊維(Y)は、その繊維径や種類は特に限定されず、微細炭素繊維とも称される例えば繊維径が500nm以下の極細のものも含め用いることができるが、その繊維径は、2〜15μmであるものが好ましく、3〜10μmであるものがより好ましい。繊維径が2μm未満の場合、本発明のプロピレン系樹脂組成物や成形体の製造、成形時などにおいて該炭素繊維(Y)が折損し易くなるおそれがあり、本発明のプロピレン系樹脂組成物やその成形体の強度向上効果などが思うように得られない場合がある。
また、繊維径が15μmを超えると、繊維のアスペクト比が低下することに伴い、強度向上効果が思うように得られない場合がある。
ここで、繊維径の測定方法は、公知の方法であり、例えば、JIS R7607(旧JIS R7601)や顕微鏡観察法などが挙げられる。
また、該炭素繊維(Y)の繊維長については、特性(A−2)として後述する。
【0021】
該炭素繊維(Y)の種類としては、前記した様に特に限定されず、例えばアクリロニトリルを主原料とするPAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、タールピッチを主原料とするピッチ系炭素繊維、さらにはレーヨン系炭素繊維が挙げられ、いずれも好適に用いられる。これらの炭素繊維は、何れも本発明に対する適性は高いが、これらの中でもその組成純度や均一性などの観点から、PAN系炭素繊維が好ましい。なお、これらは各々を単独使用してもよく、併用してもよい。
なお、これらの炭素繊維の製造方法は、特に限定されず、例えば、PAN系炭素繊維の場合、PAN繊維を空気中で200〜300℃にて加熱する耐炎化過程で繊維を緊張して長さ方向の熱収縮を抑制あるいは延伸し、次いで不活性雰囲気中の1000〜1500℃、好ましくは1200〜1500℃、より好ましくは1300〜1500℃にて炭化処理して製造する方法が挙げられる。この場合、必要に応じ、例えば極めて高い弾性率を有する炭素繊維を要する場合は、さらに2500〜3000℃にて黒鉛化処理を行い所謂黒鉛質繊維を得ることができる。
また、ピッチ系炭素繊維の場合は、例えば先ずピッチを延伸できる連続繊維に約350℃にて溶融紡糸し、200〜300℃にて安定化処理した後、炭化、黒鉛化処理して製造する方法が挙げられる。
【0022】
炭素繊維(Y)として、プロピレン系樹脂成分中の分散を良好にする目的で、所謂「サイジング剤」と呼ばれる極性樹脂を付着させたものを使用することもできる。極性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド、ウレタン樹脂、これらの共重合体、変性体などの熱硬化性樹脂が挙げられる。また、飽和ポリエステル、ポリアミド、アクリル系樹脂、これら の共重合体、変性体などの熱可塑性樹脂も挙げられる。極性樹脂としては、特に取扱・加工性や力学特性の観点から、熱硬化性樹脂のエポキシ樹脂あるいはウレタン樹脂が好ましい。さらに好ましくは、エポキシ樹脂である。上記エポキシ樹脂(エポキシ化合物を含む)の具体例としては、ジグリシジルエーテル化合物やポリグリシジルエーテル化合物が挙げられる。
ここで、炭素繊維への極性樹脂の付着量は、炭素繊維(Y)全体に対して、通常、0.01〜5重量%、好ましくは0.03〜3.5重量%である。0.01重量%未満では、炭素繊維とプロピレン系樹脂成分の界面接着を弱くさせる効果が得にくく、また、成形中に炭素繊維同士が絡みあうため、炭素繊維の分散が悪くなり、その結果、外観品位が悪化したり、所望の機械物性が得られない場合がある。一方、5重量%を超えると、分散の効果が頭打ちとなるので、使用量に見合った効果が得られなくなる傾向にあり、また、該極性樹脂が硬化してしまう場合には、炭素繊維が硬くなりすぎ、加工性が低下し、複合化が困難になる場合がある。
【0023】
炭素繊維の具体例としては、PAN系炭素繊維では、三菱レイヨン社製商品名「パイロフィル」、東レ社製商品名「トレカ」、東邦テナックス社製商品名「ベスファイト」などを挙げることができ、また、ピッチ系炭素繊維では、三菱樹脂社製商品名「ダイアリード」、大阪ガスケミカル社製商品名「ドナカーボ」、呉羽化学社製商品名「クレカ」などを挙げることができる。
【0024】
該炭素繊維は、通常200〜1000GPa程度の引張弾性率を有するが、本発明のプロピレン系樹脂組成物や成形体の強度や経済性などの観点から、本発明においては、200〜900GPaのものを用いるのが好ましく、200〜300GPaのものを用いるのがより好ましい。
また、該炭素繊維は、通常1.7〜5g/cm
3程度の密度を有するが、軽量性や経済性などの観点から、1.7〜2.5g/cm
3の密度を有するものを用いるのが好ましい。
ここで、引張弾性率および密度の測定方法は、夫々公知の方法であり、例えば引張弾性率は、JIS R7606(旧JIS R7601)が挙げられ、同様に密度は、例えばJIS R7603(旧JIS R7601)が挙げられる。
【0025】
(2)特性(A−2)について
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、主要な構成成分として用いられる成分(A)は、特性(A−2)を満足する。そして、その特性(A−2)では、成分(A)は、炭素繊維(Y)が互いに平行な状態で配列したペレットに由来し、該ペレット中における炭素繊維(Y)の長さが該ペレットの長辺の長さと実質的に同じであり、炭素繊維(Y)の長さが2〜20mmである。
すなわち、炭素繊維(Y)は、予め任意の量のプロピレン系樹脂成分(X)と溶融押出加工して連続した多数本の繊維を集合一体化したペレットとし、且つ、該ペレット中における炭素繊維長さが実質的に、該ペレットの長辺(押出方向)の長さと同じである、炭素繊維(Y)が互いに平行な状態で配列した炭素繊維含有ペレット由来として用いることが、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体の剛性などの物性をより高める点などから、必須の特性である。この場合、「実質的に」とは、具体的には、炭素繊維含有ペレット中の炭素繊維の個数全体を基準として、50%以上、好ましくは90%以上において、その長さが炭素繊維含有ペレットの長さと同じであって、該ペレット調製の際に、繊維の折損を受けないことを意味する。
こういった炭素繊維含有ペレットの製造方法は、特に制限されないが、成分(A)が炭素繊維を含み、該炭素繊維を繊維ラックからクロスヘッドダイを通して引きながら、成分(A)を溶融状態で含浸させる引抜成形法を用いて、炭素繊維含有ペレットを調製する工程を含む方法(所謂「引き抜き成形法(プルトリュージョン法)」)で製造するのが、繊維の折損を殆ど受けず、物性がより高まるなどのため、好ましい。
【0026】
炭素繊維含有ペレットの長さは、使用する炭素繊維の物性にもよるが、2〜20mmとすることが必須であり、3〜10mmであるものが好ましい。ペレットの長さをこのような範囲にすることによって、炭素繊維の長さを2〜20mmとすることができる。
ペレットの長さが2mm未満、或いは20mmを超えると、炭素繊維の長さを2〜20mmとすることが困難となり好ましくない。
なお、この場合の繊維とは、上記したような溶融押出加工して連続した多数本の炭素繊維を集合一体化した、炭素繊維含有ペレットの場合は、原料の炭素繊維は、通常ロービング状のものを用いる。
該繊維長が2mm未満の場合、本発明のプロピレン系樹脂組成物の製造後や成形後における最終繊維長がより短くなり、本発明のプロピレン系樹脂組成物やその成形体の強度向上効果(剛性などの物性)が思うように得られない場合がある。又、繊維長が20mmを超えると、本発明の成形体が製造し難くなったり、成形体の外観が著しく低下してしまうなどの傾向がある。
【0027】
(3)特性(A−3)について
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、主要な構成成分として用いられる成分(A)は、特性(A−3)を満足し、そして、その特性(A−3)では、プロピレン系樹脂成分(X)全体のメルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が10〜200g/10分であり、より好ましくは、20〜100g/10分、とりわけ好ましくは30〜80g/10分である。
MFRが10g/10分未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物およびその成形体において、成形体外観が低下する傾向があり、一方、MFRが200g/10分を超えると、衝撃強度などの物性が低下する傾向がある。
【0028】
(4)変性ポリオレフィン系樹脂(F)
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、主要な構成成分として用いられる成分(A)には、前記のプロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)以外に、衝撃強度や剛性のより一層の向上を図るため、さらに、酸変性ポリオレフィン系樹脂及びヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の変性ポリオレフィン系樹脂(F)を含有することが好ましく、その含有割合は、プロピレン系樹脂成分(X)100重量部に対して、変性ポリオレフィン系樹脂(F)0.2〜12重量部、好ましくは1〜10重量部である。
上記酸変性ポリオレフィン系樹脂及びヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、特に制限はなく、従来公知のものを用いることができるが、以下のものが好ましい。
【0029】
(i)酸変性ポリオレフィン系樹脂
酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−α−オレフィン−非共役ジエン化合物共重合体(EPDMなど)、エチレン−芳香族モノビニル化合物−共役ジエン化合物共重合エラストマーなどのポリオレフィンを、マレイン酸又は無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸やその誘導体を用いてグラフト共重合し、化学変性したものが挙げられる。このグラフト共重合は、例えば、上記ポリオレフィンを適当な溶媒中において、ベンゾイルパーオキシドなどのラジカル発生剤を用いて、不飽和カルボン酸と反応させることにより行われる。また、不飽和カルボン酸又はその誘導体の成分は、ポリオレフィン用モノマーとのランダム若しくはブロック共重合によりポリマー鎖中に導入することもできる。
【0030】
変性のため使用される不飽和カルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基、及び必要に応じてヒドロキシル基やアミノ基などの官能基が導入された重合性二重結合を有する化合物が挙げられる。また、不飽和カルボン酸の誘導体としては、これらの酸無水物、エステル、アミド、イミド、金属塩等があり、その具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、マレイン酸モノエチルエステル、マレイン酸ジエチルエステル、フマル酸モノメチルエステル、フマル酸ジメチルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸モノアミド、マレイン酸ジアミド、フマル酸モノアミド、マレイミド、N−ブチルマレイミド、メタクリル酸ナトリウム等を挙げることができる。得られる酸変性ポリオレフィン系樹脂の取り扱いの容易さや、本発明のプロピレン系樹脂組成物の物性の観点から、無水マレイン酸が好ましい。
【0031】
また、グラフト反応条件としては、例えば、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキシド類、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類、ベンゾイルパーオキシド等のジアシルパーオキシド類、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ヒドロパーオキシ)ヘキサン等のヒドロパーオキシド類等の有機過酸化物を、前記ポリオレフィン100重量部に対して、0.001〜10重量部程度用いて、80〜300℃程度の温度で、溶融状態または溶液状態で反応させる方法が挙げられる。
【0032】
好ましい酸変性ポリオレフィン系樹脂としては、エチレン及び/又はプロピレンを主たるポリマー構成単位とするオレフィン系重合体に、無水マレイン酸をグラフト重合することにより変性したもの、エチレン及び/又はプロピレンを主体とするオレフィンと無水マレイン酸とを共重合することにより変性したものなどが挙げられる。具体的には、ポリエチレン/無水マレイン酸グラフトエチレン・ブテン−1共重合体の組み合わせ、又はポリプロピレン/無水マレイン酸グラフトポリプロピレンの組み合わせなどが挙げられる。
酸変性ポリオレフィン系樹脂が無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂である場合、酸量(酸変性量またはグラフト率という場合がある。)は、特に限定されないが、好ましくは無水マレイン酸換算で、酸変性ポリオレフィン系樹脂全体に対して、平均で0.05〜10重量%、好ましくは0.07〜5重量%である。
酸変性ポリオレフィン系樹脂中の酸量がこの範囲であれば、本発明のプロピレン系樹脂組成物の構成成分同士の親和性や含浸性が十分なものとなるため、衝撃強度が向上した前記プロピレン系樹脂組成物が得られ易く、また、酸量が過大になって、成形性を損ねたり、前記プロピレン系樹脂組成物が脆性になり耐衝撃性が失われることもない。また、これらの酸変性ポリオレフィン系樹脂や後記するヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、2種以上を混合して使用してもよい。
この様な無水マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂の例としては、アルケマ社製の「OREVAC CA100」を挙げることができ、これ以外にも、多くの会社から同様の樹脂が多数市販されているので、所望の物性を有する樹脂を適宜選択し、入手することが可能である。
【0033】
(ii)ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を含有する変性ポリオレフィン系樹脂である。ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、ヒドロキシル基を適当な部位、例えば、主鎖の末端や側鎖に有している。
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂を構成するオレフィン系樹脂としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、4−メチルペンテン−1、ヘキセン、オクテン、ノネン、デセン、ドデセンなどのα−オレフィンの単独又は共重合体、前記α−オレフィンと共重合性単量体との共重合体などが例示できる。
好ましいヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂には、ヒドロキシ変性ポリエチレン系樹脂(例えば、低密度、中密度又は高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体など)、ヒドロキシ変性ポリプロピレン系樹脂(例えば、アイソタクチックポリプロピレンなどのポリプロピレンホモポリマー、プロピレンとα−オレフィン(例えば、エチレン、ブテン、ヘキサンなど)とのランダム共重合体、プロピレン−α−オレフィンブロック共重合体など)、ヒドロキシ変性ポリ(4−メチルペンテン−1)などが例示できる。
【0034】
前記反応性基を導入するための単量体としては、例えば、ヒドロキシル基を有する単量体(例えば、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートなど)が例示できる。
また、ヒドロキシル基を有する単量体による変性量は、ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂全体に対して、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%程度である。ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂の平均分子量は、特に限定されない。
ヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、JIS K0070で規定される水酸基価が1〜100mgKOH/gのものが好ましい。水酸基価が1mgKOH/g未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物や成形体の衝撃強度が悪化するおそれがあり、一方、100mgKOH/gを超えると、成形性が悪化するおそれがある。この様なヒドロキシ変性ポリオレフィン系樹脂は、市販品から適宜選択して用いることができ、例えば、三洋化成工業社製「ユーメックス」が挙げられる。
【0035】
2.成分(B)
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、前記の成分(A)に加えて、主要な構成成分として用いられる成分(B)は、下記の特性(B−1)を満足する必要がある。
特性(B−1):成分(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)100重量部に対して、エラストマー(D)50〜200重量部を含有する。
【0036】
(1)特性(B−1)について
(i)プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、主要な構成成分として用いられる成分(B)は、特性(B−1)を満足し、そして、その特性(B−1)では、成分(B)は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)100重量部に対して、エラストマー(D)50〜200重量部を含有することを、特徴としている。
【0037】
上記プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)としては、特に限定されず、例えば、プロピレン単独重合体(プロピレンホモポリマー)部分とプロピレン・エチレンランダム共重合体部分とを有するプロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂が挙げられ、該ブロック共重合体樹脂全量に対して、そのプロピレン・エチレンランダム共重合体部分の含有量は3〜35重量%のものが好ましく、5〜30重量%のものがより好ましく、6〜15重量%のものがとりわけ好ましい。
上記プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の含有量が3重量%未満であると、本発明のプロピレン系樹脂組成物および成形体において、衝撃強度が低下する傾向があり、一方、35重量%を超えると、剛性、耐熱性などの物性が低下する傾向がある。
ここで、エチレン含量およびプロピレン・エチレン共重合体部分の含有量は、クロス分別法、赤外分光分析法(IR)あるいはNMRにて測定する値である。
【0038】
また、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)では、プロピレン単独重合体部分は、プロピレン系樹脂組成物の剛性の点から、プロピレンの単独重合体であることが好ましいが、成形性などの点から、プロピレンと少量のコモノマーとの共重合体であってもよい。
この共重合体にあっては、具体的には、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル1−ペンテンなどのプロピレン以外のα−オレフィン、スチレン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、及びビニルノルボルナンなどのビニル化合物からなる群から選ばれる1以上のコモノマーに相応するコモノマー単位を、好ましくは5重量%以下の含量で含むことができる。これらのコモノマーは、二種以上が共重合されていてもよい。コモノマーは、エチレン及び/又は1−ブテンであるのが好ましく、最も好ましいのはエチレンである。
ここで、コモノマー単位の含量は、赤外分光分析法(IR)を用いて、公知の方法にて求めた値である。
通常、プロピレン重合体部分の重合に続いて、プロピレン・エチレンランダム共重合体部分の重合を行う。
また、プロピレン・エチレンブロック共重合体樹脂の市販品としては、日本ポリプロ社のノバテックBC06CH、同BC03C、同BC03Bなどが例示される。これ以外にも、多くの会社から同様の樹脂が多数市販されており、所望の物性を有する樹脂を適宜選択し、入手することが可能である。
【0039】
(ii)エラストマー(D)
本発明のプロピレン系樹脂組成物で用いられる成分(B)は、特性(B−1)を満足する必要があり、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)100重量部に対して、エラストマー(D)50〜200重量部を含有する。
本発明に係るエラストマー(D)は、エチレン・α−オレフィン共重合体エラストマーやスチレン系エラストマーなどであり、本発明のプロピレン系樹脂組成物やその成形体において、良好な衝撃強度機械的強度、寸法安定性や成形外観などを付与する機能を有する。
【0040】
エラストマー(D)としては、例えば、エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(EPR)、エチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)、エチレン・ヘキセン共重合体エラストマー(EHR)、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)などのエチレン・α−オレフィン共重合体エラストマー;エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン共重合体、エチレン・プロピレン・ブタジエン共重合体、エチレン・プロピレン・イソプレン共重合体などのエチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマー;スチレン・ブタジエン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレントリブロック共重合体エラストマー(SIS)、スチレン−エチレン・ブチレン共重合体エラストマー(SEB)、スチレン−エチレン・プロピレン共重合体エラストマー(SEP)、スチレン−エチレン・ブチレン−スチレン共重合体エラストマー(SEBS)、スチレン−エチレン・ブチレン−エチレン共重合体エラストマー(SEBC)、水添スチレン・ブタジエンエラストマー(HSBR)、スチレン−エチレン・プロピレン−スチレン共重合体エラストマー(SEPS)、スチレン−エチレン・エチレン・プロピレン−スチレン共重合体エラストマー(SEEPS)、スチレン−ブタジエン・ブチレン−スチレン共重合体エラストマー(SBBS)、部分水添スチレン−イソプレン−スチレン共重合体エラストマー、部分水添スチレン−イソプレン・ブタジエン−スチレン共重合体エラストマーなどのスチレン系エラストマー、さらにエチレン−エチレン・ブチレン−エチレン共重合体エラストマー(CEBC)などの水添ポリマー系エラストマーなどを挙げることができる。
【0041】
中でも、エチレン・オクテン共重合体エラストマー(EOR)及び/又はエチレン・ブテン共重合体エラストマー(EBR)を使用すると、本発明のプロピレン系樹脂組成物やその成形体において、衝撃強度や寸法安定性がより優れ、経済性にも優れる傾向にあるなどの点から好ましい。
【0042】
エチレン・α−オレフィン共重合体エラストマーや、エチレン・α−オレフィン・ジエン三元共重合体エラストマーなどは、各モノマーを触媒の存在下、重合することにより製造される。触媒としては、例えば、ハロゲン化チタンの様なチタン化合物、アルキルアルミニウム−マグネシウム錯体の様な有機アルミニウム−マグネシウム錯体、アルキルアルミニウム、またはアルキルアルミニウムクロリドなどのいわゆるチーグラー型触媒、WO91/04257号公報などに記載のメタロセン化合物触媒などを使用することができる。
重合法としては、気相流動床法、溶液法、スラリー法などの製造プロセスを適用して重合することができる。
また、スチレン系エラストマーや水添ポリマー系エラストマーは、通常のアニオン重合法及びそのポリマー水添技術などにより製造することができる。
また、これらのエラストマーは、多くの会社から種々の製品が市販されており、所望の物性を有する製品を適宜選択し、入手することが可能である。
【0043】
本発明に係るエラストマー(D)のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、通常1g/10分以上であり、5g/10分以上が好ましく、10g/10分以上がより好ましい。また、通常は300g/10分以下であり、200g/10分以下が好ましく、150g/10分以下がより好ましい。
本発明の用途を考慮した場合、MFRが上記の範囲であるものが、成形外観及び衝撃強度が良好なプロピレン系樹脂組成物及びその成形体を得られる場合が多い。
【0044】
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、エラストマー(D)の含有割合は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)100重量部に対して、エラストマー(D)50〜200重量部であり、好ましくは80〜150重量部、より好ましくは100〜150重量部である。エラストマー(D)の含有量が50重量部未満であると、プロピレン系樹脂組成物及びその成形体の衝撃強度や寸法安定性が低下し易いおそれがある。
一方、200重量部を超えると、剛性や表面外観が低下するおそれがある。なお、エラストマー(D)は、2種以上併用することもできる。
【0045】
(2)無機フィラー(E)
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、主要な構成成分として用いられる成分(B)には、前記のプロピレン・エチレンブロック共重合体(C)とエラストマー(D)以外に、良好な剛性、衝撃などの機械的強度のより一層の向上を図るため、さらに、無機フィラー(E)を含有することが好ましく、その含有割合は、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)100重量部に対して、無機フィラー(E)5〜100重量部、好ましくは10〜80重量部である。このような範囲とすることにより、外観等の特性を悪化させることなく、剛性、衝撃などの機械的強度を効果的に上昇させることが可能となる。
【0046】
無機フィラー(E)としては、シリカ、タルク、マイカ、クレー等の天然系、及び炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム等の水酸化物、珪酸ナトリウム、珪酸カルシウム等の珪酸塩、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、アルミナ、ゼオライト等の酸化物、リン酸アルミニウム、硫酸バリウム等の塩類、カーボンブラック、グラファイト等が挙げられる。好ましくは天然系の無機フィラー、とりわけタルク、マイカが好ましい。
無機フィラー(E)の粒径は、特に限定されないが、通常は0.1〜50μm、好ましくは0.5〜20μm、より好ましくは1〜10μmである。粒径をこの範囲とすることにより、プロピレン系樹脂組成物としたときに、分散が均一となり、剛性、衝撃などの機械的強度を上昇させるという本来の効果を、効果的に得ることができる。また、そのアスペクト比は、通常2〜30、好ましくは3〜20、より好ましくは4〜10の範囲である。このようなアスペクト比とすることによる効果発現の詳細は、不明であるが、本発明のプロピレン系樹脂組成物とした場合に、炭素繊維の分散を阻害したり折損させたりすることないので、良好な物性を保つことができるのではないかと、推測される。
【0047】
これらの無機フィラー(E)は、樹脂成分との親和性を向上させて、無機フィラーの分散性や機械的強度を改良したり、無機フィラーの表面を化学的に安定化させて、変色や樹脂劣化を防ぐ目的で、表面処理されたものが望ましい。
表面処理剤としては、界面活性剤、カップリング剤、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、及び、高級脂肪酸金属塩、高級アルコール、各種ワックス、極性ポリオレフィン等を用いることができる。中でも、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のアミノシラン、エポキシシラン、イソプロピルトリ(N−アミドエチル、アミノエチル)チタネ−トが好ましい。
これらの無機フィラーは、多くの会社から種々の製品が市販されており、所望の物性を有する製品を適宜選択し、入手することが可能である。
【0048】
3.任意添加成分
本発明のプロピレン系樹脂組成物において、プロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)、所望により、さらに変性ポリオレフィン系樹脂(F)とを含有する成分(A)と、プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)とエラストマー(D)、所望により、さらに無機フィラー(E)とを含有する成分(B)以外に、さらに必要に応じ、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、例えば、発明の効果を一層向上させたり、他の効果を付与するなどのため、任意添加成分を配合することができる。また、任意添加成分は、本発明のプロピレン系樹脂組成物製造時に、個別に添加することも可能であるが、このような方法に、限定されずに、本発明に係る成分(A)または成分(B)に予め添加しておき、用いることも可能である。
【0049】
具体的には、ヒンダードアミン系などの光安定剤、ベンゾトリアゾール系などの紫外線吸収剤、ソルビトール系などの造核剤、顔料などの着色剤、フェノール系、リン系などの酸化防止剤、非イオン系などの帯電防止剤、無機化合物などの中和剤、チアゾール系などの抗菌・防黴剤、ハロゲン化合物などの難燃剤、プロセスオイル(配合油)、可塑剤、有機金属塩系などの分散剤、脂肪酸アミド系などの滑剤、窒素化合物などの金属不活性剤、非イオン系などの界面活性剤や、前記成分(A)、成分(B)以外のプロピレン系樹脂などのポリオレフィン樹脂衝、ポリアミド樹脂やポリエステル樹脂などの熱可塑性樹脂などを挙げることができる。
【0050】
光安定剤や紫外線吸収剤として、例えばヒンダードアミン化合物、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系やサリシレート系などは、プロピレン系樹脂組成物及びその成形体の耐候性や耐久性などの付与、向上に有効である。
具体例としては、ヒンダードアミン化合物として、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの縮合物;ポリ〔〔6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル〕〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕〕;テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート;テトラキス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート;ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート;ビス−2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルセバケートなどが挙げられ、ベンゾトリアゾール系としては、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール;2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾールなどが挙げられ、ベンゾフェノン系としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン;2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンなどが挙げられ、サリシレート系としては、4−t−ブチルフェニルサリシレート;2,4−ジ−t−ブチルフェニル3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシベンゾエートなどが挙げられる。
【0051】
また、造核剤として、例えば、無機系、ソルビトール系、カルボン酸金属塩系や有機リン酸塩系などは、前記同様、剛性、耐熱性や硬度などの付与、向上などに有効である。
また、着色剤として、例えば無機系や有機系の顔料などは、前記同様、着色外観、風合い、商品価値、耐候性や耐久性などの付与、向上などに有効である。
また、酸化防止剤として、例えば、フェノール系、リン系やイオウ系などの酸化防止剤は、前記同様、耐熱安定性、加工安定性、耐熱老化性などの付与、向上などに有効である。
また、帯電防止剤として、例えば、非イオン系やカチオン系などの帯電防止剤は、前記同様、帯電防止性の付与、向上に有効である。
これらの任意添加成分は、2種以上を併用してもよい。
【0052】
II.プロピレン系樹脂組成物の製造方法及びその特性、特徴
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、前記成分(A)と成分(B)とを含有し、成分(A)と成分(B)との重量比[成分(A)/成分(B)]が15/85〜75/25の範囲にあることを必須とする。このような範囲とすることにより、剛性に優れ(曲げ弾性率が高く)、かつ成形品のソリが少なく、表面外観に優れた射出成形体が得られるプロピレン系樹脂組成物を得ることができる。
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、前記成分(A)と成分(B)(必要に応じ、任意添加成分)を前記配合割合で、従来公知の方法で配合・混合することにより、製造でき、さらに該混合物を溶融混練することにより製造することもできる。
混合は、例えばタンブラー、Vブレンダー、リボンブレンダー等の通常の混合機器を用いて、本発明のプロピレン系樹脂組成物を製造することができる。
溶融混練は、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダー等の通常の混練機を用いて混練・造粒することによって、本発明のプロピレン系樹脂組成物が得られる。
この場合、各成分の分散を良好にすることができる混合・混練・造粒方法を選択することが好ましく、通常はタンブラー、一軸押出機又は二軸押出機を用いて行われる。
【0053】
また、本発明のプロピレン系樹脂組成物を製造する際、予め、成分(A)のペレット、並びに、成分(B)として用いるプロピレン・エチレンブロック共重合体(C)のペレット及びエラストマー(D)のペレットを、作製しておいて、その後、それらの3種のペレットを、ドライブレンドすることが好ましい。或いは、予め、成分(A)のペレットと、成分(B)のペレットとを、作製しておいて、その後、それらの2種のペレットを、ドライブレンドすることが好ましい。このようなドライブレンドとすることにより、所望の組成が複数あった場合でも、異なった組成のプロピレン系樹脂組成物を簡便に調製することが可能となる。また、調製可能な量も少量から大量まで任意に調整することが可能となり、その目的に応じて、種々のプロピレン系樹脂組成物を簡便に製造することができる。
【0054】
本発明のプロピレン系樹脂組成物は、剛性に優れ、かつ成形品のソリが非常に小さいので、ソリ防止性に優れ、また表面外観に優れることから、自動車の内外装部品などの射出成形部品用途に、好適に用いることができる。
また、本発明のプロピレン系樹脂組成物全体のMFR(230℃、2.16kg荷重)は、好ましくは0.5g/10分以上、より好ましくは2〜200g/10分である。MFRが、0.5g/10分未満であると、前記樹脂組成物の成形が困難となるおそれがあり、200g/10分を超えると、成形体の衝撃強度が低下するおそれがある。
また、曲げ弾性率は、好ましくは2500MPa以上、より好ましくは3000MPa以上、好ましくは50000MPa以下、より好ましくは40000MPa以下である。曲げ弾性率をこの様な範囲とすることにより、実用として十分な剛性を保つことが可能になる。
【0055】
III.成形体、その製造方法、性能及び用途
本発明の成形体は、前記方法で製造されたプロピレン系樹脂組成物を、例えば、射出成形(ガス射出成形、二色射出成形、コアバック射出成形、サンドイッチ射出成形も含む)、射出圧縮成形(プレスインジェクション)、押出成形、シート成形及び中空成形機などの周知の成形方法にて成形することによって得ることができる。この内、射出成形又は射出圧縮成形にて得ることが好ましい。
成形体の成形に際しての成形条件は、特に限定されないが、炭素繊維の折損の防止や分散を向上させるなどして、本発明の成形体の強度(衝撃強度、曲げ弾性率など)をより向上させる点などから、成形温度は190〜280℃が好ましく、200〜260℃がより好ましく、220〜250℃がさらに好ましい。この傾向は特に射出成形や射出圧縮成形の場合顕著であり、これらの条件で成形することが好ましい。
また、その目的に応じて、金型温度も30〜280℃の範囲で任意に設定することができる。
【0056】
本発明の成形体は、ソリが非常に小さいので、ソリ防止性に優れ、また表面外観に優れることから、自動車の内外装部品などの射出成形部品用途に、好適に用いることができる。
【実施例】
【0057】
本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例で用いた試験・評価方法及び材料は、以下の通りである。
【0058】
1.試験・評価方法
(1)MFR:
JIS K7210に準拠して、試験温度:230℃、荷重:2.16kgで測定した。該MFRは、主に成形性を表す指標であって、例えば射出成形においては、数値が大きい程、成形性(流動性)が良好である。
【0059】
(2)剛性(曲げ弾性率):
JIS K7171に準拠し、試験温度:23℃にて、曲げ弾性率を測定した。試験片は、下記物性評価用試験片を用いた。
・成形機:東芝機械社製EC20型射出成形機。
・金型:物性評価用平板状試験片(10×80×4t(mm))2個取り。
・成形条件:成形温度220℃、金型温度30℃、射出圧力50MPa、射出時間5秒、冷却時間20秒。
【0060】
(3)ソリ量:
型締め圧170トンの射出成形機(東芝機械社製IS170型射出成形機)で、短辺に幅2mmのフィルムゲートをもつ金型を用いて、350mm×100mm×2mmtなる成形シートを、成形温度を220℃として射出成形した。成形品を金型から取り出して室温まで冷却した後、平坦なところに静置し、端末部中央に100gの錘を置きゲート部中央のソリをノギスにて測定した。
【0061】
(4)外観:
ソリ量測定に用いた成形シートの外観の確認を行い、炭素繊維の表面での分散状態を、下記の基準にて評価した。
◎:炭素繊維の分散不良は、確認できない。
○:炭素繊維の分散不良は、ほとんど目立たない。
△:炭素繊維の分散不良がやや目立つが、実用可能と、判断される。
×:炭素繊維の分散不良がかなり目立ち、実用にも不適と、判断される。
【0062】
2.原材料
(1)プロピレン系樹脂組成分(X)
X−1:(プロピレン・エチレンランダム共重合体:日本ポリプロ社製ウィンテック):MFR=30g/10分のもの。
X−2:(プロピレン単独重合体:日本ポリプロ社製ノバテック):MFR=30g/10分のもの。
X−3:(プロピレン単独重合体:日本ポリプロ社製ノバテック):MFR=1g/10分のもの。
X−4:(プロピレン・エチレンブロック共重合体:日本ポリプロ社製ノバテック):MFR=60g/10分のもの。
【0063】
(2)炭素繊維(Y)
Y−1:(炭素繊維:三菱レーヨン社製パイロフィルTR50S):繊維径7μm。
【0064】
(3)プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)
C−1:(プロピレン・エチレンブロック共重合体:日本ポリプロ社製ノバテック):MFR=60g/10分のもの(X−4と同じ)。
C−2:(プロピレン単独重合体:日本ポリプロ社製ノバテック):MFR=30g/10分のもの。
C−3:(プロピレン・エチレンブロック共重合体:日本ポリプロ社製ノバテック):MFR=40g/10分のもの。
【0065】
(4)エラストマー(D)
D−1:(エチレン・オクテンゴム:ダウ社製EG8100):MFR=2g/10分。
D−2:(エチレン・オクテンゴム:ダウ社製EG8200):MFR=10g/10分。
【0066】
(5)無機フィラー(E)
E−1:微粉タルク(富士タルク社製):平均粒径:5.9μm、アスペクト比:6、表面処理は未処理。
【0067】
(6)変性ポリオレフィン系樹脂(F)
F−1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(アルケマ社製「OREVAC CA100」:無水マレイン酸グラフト率=0.8重量%。)
【0068】
3.材料
(1)成分(A):[プロピレン系樹脂成分(X)と炭素繊維(Y)とを含有。]
(i)A−1:
連続した炭素繊維「Y−1」を、繊維ラックからクロスヘッドダイを通して引きながら、前記プロピレン系樹脂「X−1」と変性ポリオレフィン系樹脂「F−1」を、「X−1」と「Y−1」の合計100重量部に対して、5重量部とを溶融状態で含浸する製造方法(引き抜き成形法)により、(Y−1)が40重量%、(X−1)が60重量%の炭素長繊維含有ペレットを得た。
具体的には、炭素繊維「Y−1」は、繊維ラックから繊維束として押出機に供給し、押出機の先端に取り付けられたクロスヘッド(樹脂含浸ダイス)の中に通しながら、クロスヘッドに、プロピレン系樹脂「X−1」を、供給して含浸する。
製造装置としては、クロスヘッドダイを有する二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30」、L/D=42、シリンダー径30mm、シリンダー温度:200〜230℃、クロスダイヘッド温度:230℃)を使用し、ペレット長が7mm(炭素繊維「Y−1」の実質的な長さも7mmである)となる様に調製した。
【0069】
(ii)A−2〜A−5:
前記A−1と同様の方法にて、表1の配合比となるように、ペレットを作製した。A−3に関しては、X−3のMFRが低すぎるために、炭素繊維に樹脂が含浸せず、ペレットを得ることができなかった。また、A−4に関しては、炭素繊維濃度を上げすぎたために、ペレットにすることができなかった。また、A−5に関しては、炭素繊維濃度が低すぎるために、ペレットにすることができなかった。
【0070】
【表1】
【0071】
(2)成分(B):[プロピレン・エチレンブロック共重合体(C)にエラストマー(D)を含有。]
表2の配合のとおり、神戸製鋼所社製二軸押出機「KCM50」にて、溶融混練(210℃)し、ペレット化した。
【0072】
【表2】
【0073】
[実施例1〜10、比較例1〜10]
(1)プロピレン系樹脂組成物の製造
成分(A)および成分(B)を表3に示す割合で配合し、小型タンブラーにて混合し、プロピレン系樹脂組成物を製造した。
(2)プロピレン系樹脂組成物の成形
前記混合物を用いて、前記試験・評価方法で示した要領にて、曲げ弾性率、ソリ量、外観性能評価用の試験片を作製した。
(3)評価
前記の試験片にて、性能評価を行った。結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
表1〜3に示す結果から、本発明のプロピレン系樹脂組成物の特定事項を満たしている実施例1〜10は、剛性(曲げ弾性率)が良好で、ソリ量が少なく、また、外観も良好である。
【0076】
一方、上記本発明の特定事項を満たさない比較例において、比較例1〜10に示す組成を持ったプロピレン系樹脂組成物及びその成形体は、これらの性能バランスが不良で、実施例1〜10のものに対して、見劣りしている。
以上における各実施例と各比較例の結果から、本発明の構成と各要件の合理性と有意性が実証され、さらに本発明の従来技術に対する優位性も明らかである。