(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記仮預け用段部は、該仮預け用段部に前記支持用の位置決めピンが係合したときに、該支持用の位置決めピンの反位置決め部側の部分が係合し、該支持用の位置決めピンの位置決め部側の部分が前記位置決め部を臨むように、設けられていることを特徴とする請求項1に記載の被組付け物品。
前記組付け相手側構造体に組み付けられた状態において、前記支持用の位置決めピンの軸方向から見て前記支持用の係合溝に対して横方向にずれた位置に重心を有することを特徴とする請求項3に記載の被組付け物品。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の車室前部に配設されるインストルメントパネルは、空調ユニットやオーディオユニット等と共に、インパネモジュールとしてユニット化された状態で車体に組み付けられる。
【0003】
例えば特許文献1に開示されているように、一般的に、前記インパネモジュールは、車幅方向に延びる長尺のインパネメンバ(インパネリインフォースメント)を有し、該インパネメンバの左右両端に設けられた取付けブラケットがボルトにより車体のヒンジピラーに固定される。
【0004】
図12に示すように、この種の車両には、インパネモジュールが前記ボルトで固定される前に車体に支持されるための支持用の係合溝234が左右の取付けブラケット222にそれぞれ下向きに開放するように設けられ、該支持用の係合溝234に係合する位置決めピン251が、左右のヒンジピラーからそれぞれ車幅方向内側に突設される。また、左右の少なくとも一方には、支持用の係合溝234に係合する前記位置決めピン251を回転軸としてインパネモジュールが回転するのを防止するための回り止め用の係合溝236が下向きに開放するように取付けブラケット222に設けられ、該回り止め用の係合溝236に係合する位置決めピン252が車幅方向内側に突出するようにヒンジピラーに設けられる。
【0005】
インパネモジュールを車体に組み付ける際は、重量軽減装置に保持されたインパネモジュールを車体内部に挿入して車両前方側へ移動させることで、車体側の各位置決めピン251,252の真上に前記取付けブラケット222の係合溝234,236が配置される所定位置まで搬送し、この所定位置で、重量軽減装置へのクランプを解除することでインパネモジュールを自重で落下させる。
【0006】
これにより、支持用の係合溝234の上端に設けられた凹状の位置決め部240に車体側の位置決めピン251が嵌合するとともに、回り止め用の係合溝236の上下方向中間部に車体側の別の位置決めピン252が係合する。この結果、上下方向に関するインパネモジュールの位置決めが、支持用の係合溝234と位置決めピン251との嵌合により実現され、車両前後方向に関するインパネモジュールの位置決めが、支持用の係合溝234と位置決めピン251との嵌合と、回り止め用の係合溝236と前記別の位置決めピン252との係合とによって実現される。また、車幅方向に関するインパネモジュールの位置決めは、インパネメンバが左右のヒンジピラーに挟持されることによって実現される。
【0007】
このようにしてインパネモジュールの位置決めが完了した後、車幅方向外側からヒンジピラー及び前記取付けブラケットにボルトを差し込んで締め付けることで、インパネモジュールが車体に固定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、インパネメンバの取付けブラケット222に設けられた各係合溝234,236に車体側の位置決めピン251,252をそれぞれ適正に係合させることができれば(
図12参照)、インパネモジュールを正確に位置決めすることができる。
【0010】
しかしながら、
図13に示すように、インパネモジュールの重心Gは、前記取付けブラケット222の支持用の係合溝234に対して車両前後方向にずれて位置することがある。例えば、インパネモジュールの重心Gが車両後方側に位置ずれする場合、上記の位置決めの際に重量軽減装置のクランプを解除したときに、インパネモジュールは、その自重により、車幅方向の回転軸回りに図中時計回り方向(図中矢印R方向)に回転する。そうすると、支持用の係合溝234では一方(前側)の辺部pに位置決めピン251が引っ掛かり、回り止め用の係合溝236では他方(後側)の辺部qに位置決めピン252が引っ掛かって、こじれが生じた係合状態となってしまうため、インパネモジュールを正確に位置決めすることができない問題がある。
【0011】
なお、このこじれの問題は、仮に回り止め用の係合溝236及びこれに対応する位置決めピン252が存在せず支持用の係合溝234とこれに対応する位置決めピン251のみによって位置決めが行われる場合であっても、インパネモジュールとその近辺の車体構成部材との接触によって起こり得る。
【0012】
このようなこじれが生じた状態を解消するために、作業者が力を加えることにより、こじれを生じさせた回転方向とは反対方向(例えば
図13の反時計回り方向)にインパネモジュールを回転させて、支持用の係合溝の位置決め部に位置決めピンを正しく嵌合させようとしても、特に正規の係合位置までのずれが小さい場合に、確実に嵌合されたかどうかを作業者が節度感として実感できないことがある。そのため、このような修正作業によっても、やはり正確に位置決めできないことがある。
【0013】
さらに、上記のこじれによる位置ずれの程度が大きい場合は、インパネモジュール固定の際にボルトを締め付けることができないため、位置ずれに気づくことができるが、ボルトの締結が可能な程度の小さな位置ずれが生じた場合は、位置ずれに気づかないまま生産工程が進行し、その後のインパネモジュールに対する各種の機器や部品の取付け精度が悪化する問題もある。
【0014】
また、これらの問題は、自動車のインパネモジュールのみならず、下向きに開放する係合溝を有する被組付け物品を下方に移動させて、該係合溝に組付け相手側構造体の位置決めピンを係合させることで位置決めされる被組付け物品全般に共通する課題である。
【0015】
そこで、本発明は、下向きに開放する係合溝を有する被組付け物品を下方に移動させて、該係合溝に組付け相手側構造体の位置決めピンを係合させることで、前記被組付け物品の位置決めを行う場合に、正確な位置決めを簡単かつ確実に達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するため、本発明に係る被組付け物品は、次のように構成したことを特徴とする。
【0017】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、
支持用の位置決めピンを有する組付け相手側構造体に組み付けられる被組付け物品であって、
前記支持用の位置決めピンを係合させるための支持用の係合溝を備え、
該支持用の係合溝は、被組付け物品の被組付け姿勢において下向きに開放するように設けられ、
該支持用の係合溝は、
前記支持用の位置決めピンが嵌合することで被組付け物品を位置決めする凹状の位置決め部と、
該位置決め部の斜め下方で該位置決め部に連続するように一方の辺部に設けられ、前記支持用の位置決めピン上に載置されることで被組付け物品を仮預けする仮預け用段部と、を
有し、
前記支持用の係合溝における前記一方の辺部とは反対側の辺部に、前記支持用の位置決めピンが前記仮預け用段部を経由せずに前記位置決め部に嵌り込むことを規制するための規制部が、前記一方の辺部に向かって張り出すように形成されていることを特徴とする。
【0018】
また、本願の請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記仮預け用段部は、該仮預け用段部に前記支持用の位置決めピンが係合したときに、該支持用の位置決めピンの反位置決め部側の部分が係合し、該支持用の位置決めピンの位置決め部側の部分が前記位置決め部を臨むように、設けられていることを特徴とする。
【0020】
またさらに、
請求項3に記載の発明は、前記請求項1
又は請求項2に記載の発明において、
前記組付け相手側構造体に設けられた回り止め用の位置決めピンを係合させるための回り止め用の係合溝を更に備え、
該回り止め用の係合溝は、被組付け物品の被組付け姿勢において下向きに開放するように設けられ、
前記支持用の係合溝に前記支持用の位置決めピンが係合した状態で、前記回り止め用の係合溝に前記回り止め用の位置決めピンが係合することで、前記支持用の位置決めピンを回転軸とした回転方向に関して被組付け物品が位置決めされるように構成されていることを特徴とする。
【0021】
また、
請求項4に記載の発明は、前記
請求項3に記載の発明において、
前記組付け相手側構造体に組み付けられた状態において、前記支持用の位置決めピンの軸方向から見て前記支持用の係合溝に対して横方向にずれた位置に重心を有することを特徴とする。
【0022】
さらに、
請求項5に記載の発明は、前記請求項1から
請求項4のいずれか1項に記載の発明において、
前記被組付け物品は、被組付け姿勢において略水平方向に延びるように配設される長尺物品であり、
該被組付け物品の長さ方向両端部にそれぞれ前記支持用の係合溝が設けられていることを特徴とする。
【0023】
また、本発明に係る物品の組付け方法は、次のように構成したことを特徴とする。
【0024】
まず、本願の
請求項6に記載の発明は、
組付け相手側構造体
に被組付け物品を組み付ける物品の組付け方法であって、
前記組付け相手側構造体は、支持用の位置決めピンと回り止め用の位置決めピンを有し、
前記被組付け物品は、被組付け姿勢において略水平方向に延びるように配設される長尺物品であり、
前記被組付け物品の長さ方向両端部に、前記支持用の位置決めピンを係合させるための支持用の係合溝がそれぞれ設けられ、
前記被組付け物品の長さ方向の少なくとも一端部に、前記回り止め用の位置決めピンを係合させるための回り止め用の係合溝が更に設けられ、
前記被組付け物品は、前記支持用の係合溝に前記支持用の位置決めピンが係合した状態で、前記回り止め用の係合溝に前記回り止め用の位置決めピンが係合することで、前記支持用の位置決めピンを回転軸とした回転方向に関して位置決めされるように構成されており、
前記被組付け物品の長さ方向両端部の各支持用の係合溝がそれぞれ下向きに開放した状態でそれぞれ対応する前記支持用の位置決めピンの上方に配置され、且つ、前記回り止め用の係合溝が下向きに開放した状態で前記回り止め用の位置決めピンの上方に配置されるように、重量軽減装置に保持された前記被組付け物品を所定位置へ搬送する搬送工程と、
前記搬送工程で前記所定位置に搬送された前記被組付け物品を、前記重量軽減装置へのクランプを解除することにより自重で落下させて、前記被組付け物品の長さ方向両端部の各支持用の係合溝にそれぞれ対応する前記支持用の位置決めピンを挿入して、該支持用の位置決めピン上に、前記支持用の係合溝の一方の辺部に形成された仮預け用段部を載置することで、前記被組付け物品を仮預けする
とともに、前記回り止め用の係合溝に前記回り止め用の位置決めピンを挿入して係合させる仮預け工程と、
該仮預け工程の後、前記支持用の位置決めピンが、前記仮預け用段部を乗り越えて、該仮預け用段部の斜め上方に連続するように前記支持用の係合溝に設けられた凹状の位置決め部に嵌り込むように、前記被組付け物品に力を加えることで、前記被組付け物品を位置決めする位置決め工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
まず、請求項1に記載の発明に係る被組付け物品は、下向きに開放するように設けられた支持用の係合溝を備え、該支持用の係合溝は、組付け相手側構造体の支持用の位置決めピンが嵌合することで被組付け物品を位置決めする凹状の位置決め部と、該位置決め部の斜め下方で該位置決め部に連続するように一方の辺部に設けられた仮預け用段部とを有するため、支持用の係合溝に支持用の位置決めピンを差し込む際、該支持用の位置決めピン上に前記仮預け用段部を載置することで、組付け相手側構造体に対して被組付け物品を仮預けすることができる。この仮預けの後、作業者が被組付け物品に力を加えて、支持用の位置決めピンが仮預け用段部を乗り越えて前記位置決め部に嵌り込むようにすることで、被組付け物品を正確に位置決めすることができ、このとき、作業者は、位置決めピンが仮預け用段部を乗り越えて位置決め部に嵌り込んだことを節度感として実感することができる。
【0028】
よって、被組付け物品の支持用の係合溝に組付け相手側構造体の支持用の位置決めピンを係合させる際、被組付け物品が正規の被組付け姿勢に比べて傾いた姿勢となる係合状態、すなわち、こじれが生じた係合状態となっても、その後に上記のように仮預けを経て位置決めを行う際に節度感が感じられることにより、作業者はこじれの解消を実感することができる。これにより、被組付け物品の正確な位置決めを簡単かつ確実に達成することができる。
また、前記支持用の係合溝に、仮預け用段部が設けられた前記一方の辺部とは反対側の辺部に、前記一方の辺部に向かって張り出す規制部が設けられているため、支持用の係合溝に支持用の位置決めピンが差し込まれる際、該支持用の位置決めピンが仮預け用段部を経由せずに前記位置決め部に嵌り込むことが前記規制部によって阻害され、仮預け用段部を利用した仮預けを確実に実現することができる。そのため、被組付け物品の位置決めを行う際、支持用の位置決めピンが仮預け用段部を乗り越えて位置決め部に嵌り込む動作を必ず経て作業者に節度感を与えることになるため、位置決め精度を向上させることができる。
【0029】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記仮預け用段部に前記支持用の位置決めピンが係合したときに、支持用の位置決めピンの反位置決め部側の部分が係合し、支持用の位置決めピンの位置決め部側の部分が位置決め部を臨むような係合状態となるため、支持用の係合溝内において仮預け用段部から位置決め部へ支持用の位置決めピンが相対移動するのに要する相対移動量が抑制される。そのため、支持用の位置決めピンが仮預け用段部を乗り越えて位置決め部に嵌り込むように作業者が被組付け物品に力を加える際、被組付け物品の要変位量が抑制されるため、位置決め作業性の向上を図ることができる。
【0031】
またさらに、
請求項3に記載の発明によれば、前記支持用の係合溝と支持用の位置決めピンとの係合に加えて、被組付け物品に更に設けられた回り止め用の係合溝に、組付け相手側構造体に設けられた回り止め用の位置決めピンが係合することで、支持用の位置決めピンを回転軸とした回転方向に関して被組付け物品が位置決めされる場合において、支持用の係合溝において一方の辺部に支持用の位置決めピンが引っ掛かり、回り止め用の係合溝において他方の辺部に回り止め用の位置決めピンが引っ掛かるようなこじれが生じても、その後に、前記仮預け用段部を利用した仮預けを経由した位置決めを行うことで、正確な位置決めを簡単かつ確実に実現することができる。
【0032】
また、
請求項4に記載の発明を
請求項3に記載の発明に適用すれば、被組付け物品が組付け相手側構造体に組み付けられた状態において、被組付け物品の重心が、前記支持用の位置決めピンの軸方向から見て前記支持用の係合溝に対して横方向にずれて位置する場合に、この重心の位置ずれに起因する上記のこじれが生じても、上記のように仮預けを経由させることで、正確な位置決めを簡単かつ確実に実現することができる。
【0033】
さらに、
請求項5に記載の発明によれば、被組付け姿勢において略水平方向に延びるように配設される長尺の被組付け物品を位置決めする際に、該被組付け物品の長さ方向両端部に設けられた前記支持用の係合溝において、それぞれ前記仮預け用段部を利用した仮預けを経由して位置決めを行うことで、正確な位置決めを簡単かつ確実に実現することができる。
【0034】
また、
請求項6に記載の発明に係る物品の組付け方法によれば、被組付け物品に設けられた支持用の係合溝が下向きに開放した状態で被組付け物品を下方に移動させて、組付け相手側構造体に設けられた支持用の位置決めピンを前記支持用の係合溝に挿入して、該支持用の係合溝の一方の辺部に形成された仮預け用段部を支持用の位置決めピン上に載置することで、組付け相手側構造体に対して被組付け物品を仮預け用段部に仮預けした後、支持用の位置決めピンが、仮預け用段部を乗り越えて、該仮預け用段部の斜め上方に連続するように支持用の係合溝に設けられた凹状の位置決め部に嵌り込むように、被組付け物品に力を加えることにより、被組付け物品を正確に位置決めすることができる。このとき、作業者は、位置決めピンが仮預け用段部を乗り越えて位置決め部に嵌り込んだことを節度感として実感することができる。
【0035】
よって、被組付け物品の支持用の係合溝に組付け相手側構造体の支持用の位置決めピンを係合させる際、被組付け物品が正規の被組付け姿勢に比べて傾いた姿勢となる係合状態、すなわち、こじれが生じた係合状態となっても、その後に上記の仮預けを経た位置決めを行う際に節度感が感じられることにより、作業者がこじれの解消を実感することができる。これにより、被組付け物品の正確な位置決めを簡単かつ確実に達成することができる。
【0036】
さらに、
請求項6に記載の発明によれば、重量軽減装置に保持されて搬送された被組付け物品を、重量軽減装置へのクランプを解除することにより自重で落下させることにより、前記支持用の位置決めピンが前記支持用の係合溝に挿入されて前記仮預け用段部に係合するため、被組付け物品の自重を利用することで仮預けを行う際の作業性を向上させることができる。
【0037】
またさらに、
請求項6に記載の発明によれば、被組付け姿勢において略水平方向に延びるように配設される長尺の被組付け物品の長さ方向両端部にそれぞれ前記支持用の係合溝が設けられ、該被組付け物品の長さ方向の少なくとも一端部には回り止め用の係合溝が更に設けられ、両側の前記支持用の係合溝と支持用の位置決めピンとの係合に加えて、前記回り止め用の係合溝に、組付け相手側構造体に設けられた回り止め用の位置決めピンが更に係合することで、支持用の位置決めピンを回転軸とした回転方向に関して被組付け物品が位置決めされる。この場合において、支持用の係合溝において一方の辺部に支持用の位置決めピンが引っ掛かり、回り止め用の係合溝において他方の辺部に回り止め用の位置決めピンが引っ掛かるようなこじれが生じても、その後に、前記仮預け用段部を利用した仮預けを経由した位置決めを行うことで、正確な位置決めを簡単かつ確実に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「前後」、「左」、「右」、「左右」等の方向を示す用語は、特段の説明がある場合を除いて、自動車の進行方向を「前」とした場合の方向を指すものとする。
【0040】
図1は、被組付け物品としてのインパネモジュール10が組付け相手側構造体としての車体1に組み付けられた状態を示す斜視図である。
【0041】
図1に示すように、インパネモジュール10は、インストルメントパネル12がオーディオユニットや空調ユニット等と共にユニット化されたものであり、車室2の前方において左右のヒンジピラー4,5間に配設される。インパネモジュール10は、各ヒンジピラー4,5に対して複数のボルト58,59により固定される。
【0042】
図2は、インパネモジュール10を車両前方側から見た正面図である。ただし、
図2では、インパネモジュール10を簡略化して示しており、車両右側部分においてインストルメントパネル12等の構成部材の図示を省略している。
【0043】
図2に示すように、インパネモジュール10は、被組付け姿勢において車幅方向に延びる長尺物品である。インパネモジュール10は、その略全長に亘って車幅方向に延びる略筒状のインパネメンバ20を備え、該インパネメンバ20にインストルメントパネル12やステアリング装置14等が固定されている。また、インパネメンバ20の両端部には、前記ボルト58,59によりヒンジピラー4,5に固定される取付けブラケット22,23が設けられている。
【0044】
図3に示すように、左右のヒンジピラー4,5には、前記ボルト58,59が挿通される一対のボルト挿通穴54,55が設けられている。また、運転席側である車両左側のヒンジピラー4には、インパネモジュール10を支持するための支持用の位置決めピン51と、該支持用の位置決めピン51を回転軸とした回転方向に関してインパネモジュール10を位置決めするための回り止め用の位置決めピン52とがそれぞれ車幅方向内側に向かって突設されている。これらの位置決めピン51,52はそれぞれ車幅方向に延設されており、支持用の位置決めピン51に対して回り止め用の位置決めピン52が後下方に配設されている。
【0045】
また、図示は省略するが、助手席側である車両右側のヒンジピラー5にも、支持用の位置決めピン51が車幅方向内側に突設されている。一方、回り止め用の位置決めピン52は、右側のヒンジピラー5には設けられていない。なお、回り止め用の位置決めピン52を左右両方のヒンジピラー4,5に設けるようにしてもよいが、いずれか一方のヒンジピラー4(5)にのみ回り止め用の位置決めピン52を設けることにより、寸法誤差を許容しつつインパネモジュール10の位置決め作業を行うことができる。
【0046】
図4は、車両左側に配設される取付けブラケット22を車幅方向外側から見た側面図である。
【0047】
図4に示すように、取付けブラケット22は、車幅方向に略垂直に配設される板状部材である。取付けブラケット22の略中央部には例えば円形の開口部25が設けられており、取付けブラケット22は、開口部25の周縁において例えば溶接によりインパネメンバ20の端部に接合されている。
【0048】
また、取付けブラケット22には、開口部25の近傍に複数の台座部26,27が開口部25の周方向に間隔を空けて設けられ、各台座部26,27に、上記ボルト58,59を挿通させるためのボルト挿通穴28,29が形成されている。具体的に、ボルト挿通穴28,29は、例えば開口部25の上方部と開口部25の後下方部とに配設されている。
【0049】
取付けブラケット22の上端部には、車両前方に向かって突出する前方突出部30が設けられている。該前方突出部30の基部下縁には、車体側の上記支持用の位置決めピン51を係合させるための支持用の係合溝34が、インパネモジュール10の被組付け姿勢において下向きに開放するように設けられている。支持用の係合溝34の具体的な構成については後に説明する。
【0050】
取付けブラケット22における前方突出部30よりも下側の前縁部には、支持用の係合溝34における後方側の辺部の下端から下方へ略上下方向に沿って延びるガイド部42が設けられ、支持用の位置決めピン51がガイド部42を伝って支持用の係合溝34へ案内されるようになっている。また、取付けブラケット22には、ガイド部42の下側に隣接する部分に、ガイド部42よりも前方に張り出す張り出し部44が設けられている。
【0051】
取付けブラケット22の下端部には、下方に突出する下方突出部32が設けられている。また、取付けブラケット22の下端部には、車体側の上記回り止め用の位置決めピン52を係合させるための回り止め用の係合溝36が、インパネモジュール10の被組付け姿勢において下向きに開放するように設けられている。この回り止め用の係合溝36は、下方突出部32の前方に隣接して設けられており、回り止め用の係合溝36における後方側の辺部と下方突出部32の前縁部とが上下に連なるように構成されている。下方突出部32の前縁部は、略上下方向に延設されており、回り止め用の位置決めピン52を回り止め用の係合溝36に案内するガイド部38として機能するようになっている。
【0052】
このように、取付けブラケット22には、支持用の係合溝34に加えて回り止め用の係合溝36が設けられている。これにより、インパネモジュール10は、支持用の係合溝34に支持用の位置決めピン51が係合した状態で、回り止め用の係合溝36に回り止め用の位置決めピン52が係合することで、支持用の位置決めピン51を回転軸とした回転方向に関して位置決めされるようになっている。
【0053】
なお、車両右側に配設される取付けブラケット23は、基本的には上記の左側の取付けブラケット22と同様の構造を有するが、本実施形態では右側のヒンジピラー5に回り止め用の位置決めピン52が設けられないため、右側の取付けブラケット23には回り止め用の係合溝36を設ける必要がない。
【0054】
図5に示すように、インパネモジュール10は、重量軽減装置100により被組付け姿勢と同じ姿勢を維持しつつ保持された状態で、前席ドア開口部18を通して車体1の内部に挿入されて、所定の組付け位置まで搬送される。重量軽減装置100は、例えば、吊り下げ装置(図示せず)に吊り下げ支持されると共に上下方向に延びる第1縦材101と、該第1縦材101の下端部に結合されて水平方向に延びる横材102と、該横材102から下方に延びる一対の第2縦材103と、各第2縦材103の下端部に結合されてインパネモジュール10を保持する保持部材104とを有する。
【0055】
図6〜
図8に示すように、重量軽減装置100の保持部材104は、治具120を介してインパネモジュール10のインパネメンバ20の両端部を支持可能となっている。なお、
図6〜
図8では、インパネメンバ20の左側端部を支持する保持部材104及び治具120のみが図示されており、右側の保持部材104及び治具120の図示が省略されているが、右側の保持部材104及び治具120は左側の保持部材104及び治具120と同様に構成されている。
【0056】
図7及び
図8に示すように、保持部材104の前端部には、前方に延びる係合ピン106と、前方に延びる例えば上下一対の爪部110,111とが設けられている。なお、爪部110,111はそれぞれ上下移動するように駆動装置(図示せず)により駆動可能となっている。
【0057】
一方、治具120は、保持部材104に係合される係合プレート部126と、該係合プレート部126に結合された例えば筒状の把持部121と、該把持部121の上端に結合された基台部122と、該基台部122から立ち上がる例えば左右一対の係合ピン123,124とを有する。
【0058】
治具120の係合プレート部126には、保持部材104の係合ピン106に係合するピン挿通穴128が設けられている。また、係合プレート部126には、上下方向に長い略矩形の開口部130が設けられ、該開口部130の周縁から後方へ角筒状の突出部132が突設されている。該突出部132の内側には、例えば上下一対の係止面部133,134が設けられ、該係止面部133,134に、保持部材104の爪部110,111が係止されるようになっている。
【0059】
治具120の各係合ピン123,124は、インパネメンバ20の端部近傍に設けられたピン挿通穴60,61に係合可能となっている。なお、車幅方向外側の係合ピン123は車幅方向内側の係合ピン124よりも高く形成されており、該外側の係合ピン123は、インパネメンバ20に設けられた上下一対のピン挿通穴(
図8では下側のピン挿通穴60のみ図示)に挿通されて、インパネメンバ20を上下方向に貫通するようになっている(
図6及び
図7参照)。
【0060】
図6〜
図8に示すように、重量軽減装置100の保持部材104によりインパネモジュール10を保持する際は、治具120のピン挿通穴128に保持部材104の係合ピン106を差し込み且つ治具120の係止面部133,134に保持部材104の爪部110,111を係止させることにより、保持部材104に治具120を取り付けるとともに、該治具120の係合ピン123,124をインパネメンバ20のピン挿通穴60,61に下側から差し込むことにより、重量軽減装置100によりインパネモジュール10を保持(クランプ)することができる。なお、このとき、任意の脱落防止手段(図示せず)を用いて治具120がインパネメンバ20から脱落することを防止するようにしてもよい。
【0061】
このようにして重量軽減装置100に保持されたインパネモジュール10の姿勢は、被組付け姿勢と略同一となるようになっており、取付けブラケット22,23に設けられた支持用および回り止め用の係合溝34,36はそれぞれ下向きに開放した姿勢となっている。
【0062】
図9に示すように、重量軽減装置100に保持された状態で車体1の内部に挿入されたインパネモジュール10は、該インパネモジュール10の車幅方向両端部の各支持用の係合溝34がそれぞれ下向きに開放した状態でそれぞれ対応する車体1側の支持用の位置決めピン51の上方に配置され、且つ、前記回り止め用の係合溝36が下向きに開放した状態で車体1側の前記回り止め用の位置決めピン52の上方に配置される所定位置まで、車両前方側に向かって搬送される(搬送工程)。
【0063】
続いて、例えば重量軽減装置100へのクランプを解除することによりインパネモジュールを自重で落下させることにより、インパネモジュール10を下方に移動させて、インパネモジュール10側の前記支持用の係合溝34に車体1側の前記支持用の位置決めピン51を係合させるとともに、インパネモジュール10側の前記回り止め用の係合溝36に車体1側の前記回り止め用の位置決めピン52を係合させる。
【0064】
なお、重量軽減装置100へのクランプの解除動作は、例えば、保持部材104の上下一対の爪部110,111を互いに近接させるように上下動させて治具120の係止面部133,134との係止状態を解除するとともに、重量軽減装置100を後方へ移動させることにより保持部材104の係合ピン106を治具120のピン挿通穴128から離脱させることで行う。また、上記のように脱落防止手段(図示せず)によりインパネメンバ20からの治具120の脱落を防止しておけば、上記のクランプ解除を行ってもインパネメンバ20と治具120との係合状態を維持することができ、これにより、治具120の把持部120を把持して後述のインパネモジュール10の位置決め作業を行うことができる。
【0065】
以下、
図10及び
図11を参照しながら、インパネモジュール10側の支持用および回り止め用の係合溝34,36と車体1側の支持用および回り止め用の位置決めピン51,52との係合について具体的に説明する。
【0066】
図10に示すように、インパネモジュール10は、車体1に組み付けられた状態において、支持用の位置決めピン51の軸方向すなわち車幅方向から見て支持用の係合溝34に対して後方にずれた位置に重心G1を有する。具体的に、インパネモジュール10の重心G1は、例えば、車幅方向から見てインパネメンバ20の軸心の後下方に位置する。そのため、重量軽減装置100へのクランプが解除されたとき、インパネモジュール10は、その自重により、車幅方向に延びる回転軸回りに図中時計回り方向(
図10に示される矢印R1方向)に回転して、正規の被組付け姿勢に比べて傾いた姿勢となる。そうすると、支持用の係合溝34では前側の辺部の一部p1に支持用の位置決めピン51が引っ掛かり、回り止め用の係合溝36では後側の辺部の一部q1に回り止め用の位置決めピン52が引っ掛かって、こじれが生じた係合状態となる。
【0067】
しかしながら、本実施形態では、このようなこじれが生じた係合状態を簡単かつ確実に解消できるように支持用の係合溝34が構成されている。
【0068】
具体的には、
図11に示すように、支持用の係合溝34は、支持用の位置決めピン51が嵌合することでインパネモジュール10を位置決めする凹状の位置決め部72と、該位置決め部72の斜め下方で該位置決め部72に連続するように前側の辺部70に設けられた仮預け用段部76とを有する。
【0069】
位置決め部72は、支持用の係合溝34の最深部すなわち最上部に位置し、前側の辺部70と後側の辺部71とを繋ぐ部分で構成されている。位置決め部72の前後方向の幅D1は、支持用の位置決めピン51の直径よりも大きくなっており、これにより、寸法誤差を許容しつつ支持用の位置決めピン51を位置決め部72に嵌合できるようになっている。
【0070】
仮預け用段部76は、支持用の位置決めピン51上に載置されることで車体1に対してインパネモジュール10を仮預けすることができるように構成されている。仮預け用段部76は、前側の辺部70において段状に形成されており、仮預け用段部76の後端コーナー部78は、丸みを帯びるように面取りされた形状となっている。また、仮預け用段部76の前後方向の幅D2は、支持用の位置決めピン51の半径よりも小さく形成されている。これにより、仮預け用段部76に支持用の位置決めピン51が係合したとき、支持用の位置決めピン51の前後方向の反位置決め部72側の部分が仮預け用段部76に係合し、支持用の位置決めピン51の前後方向の位置決め部72側の部分が位置決め部70を臨むように配置されるようになっている。すなわち、支持用の位置決めピン51は、その後方側の半分以上の部分が仮預け用段部76よりも後側に突出した状態で仮預け用段部76に係合されるようになっている。
【0071】
このような仮預け用段部76の構成により、支持用の位置決めピン51を係合させることができるとともに、この支持用の位置決めピン51と仮預け用段部76との係合状態においてインパネモジュール10に適当な力が加えられたときに、支持用の位置決めピン51は、容易に仮預け用段部76を乗り越えて位置決め部72に嵌合できるようになっている。
【0072】
仮預け用段部76は、上記のように支持用の係合溝34の前側の辺部70に支持用の位置決めピン51が引っ掛かるようなこじれが生じた状態において該支持用の位置決めピン51上に載置されるような位置に配設されている。したがって、本実施形態によれば、インパネモジュール10の重心G1の位置に起因する上記のこじれが生じることを前提として、このこじれが生じることを利用して、支持用の位置決めピン51を確実に仮預け段部76に係合させることができるようになっている。
【0073】
また、支持用の係合溝34の前側の辺部70において、仮預け用段部76よりも下側の部分には、下方に向かって前方へ傾斜する傾斜部74が形成されており、この傾斜部74により、支持用の係合溝34に侵入してきた支持用の位置決めピン51を確実に受けることができるようになっている。
【0074】
一方、支持用の係合溝34の後側の辺部71には、支持用の位置決めピン51が仮預け用段部76を経由せずに位置決め部72に嵌り込むことを規制するための規制部80が、前方に向かって張り出すように形成されている。この規制部80は、前後方向における前側の辺部70までの最短距離D3が支持用の位置決めピン51の直径よりも小さくなるように設けられている。この規制部80による規制により、支持用の係合溝34に挿入された支持用の位置決めピン51は必ず一旦仮預け用段部76に係合されることとなる。
【0075】
また、規制部80は、上方に向かって後方に傾斜して形成されており、これにより、支持用の位置決めピン51が仮預け用段部76を乗り越えて位置決め部72へ移動する際、この支持用の位置決めピン51の移動が規制部80により阻害されないようになっている。
【0076】
なお、
図10及び
図11では、左側の取付けブラケット22における支持用の係合溝34の構成について説明したが、右側の取付けブラケット23における支持用の係合溝34も同様に構成されている。
【0077】
以上の構成により、上記のようにインパネモジュール10を自重で落下させることで支持用の係合溝34に支持用の位置決めピン51を挿入すると、該支持用の位置決めピン51上に仮預け用段部76が載置されることで、車体1に対してインパネモジュール10が仮預けされる(仮預け工程)。
【0078】
この仮預け工程の後、支持用の位置決めピン51が、仮預け用段部76を乗り越えて、該仮預け用段部76の斜め上方に連続するように設けられた位置決め部72に嵌り込むように、インパネモジュール10に力を加えることで、インパネモジュール10が正確に位置決めされる(位置決め工程)。このとき、作業者は、例えばインパネメンバ20の左側(運転席側)の端部に取り付けられた治具120の把持部121を把持して、車幅方向に延びる回転軸周りに反時計回り方向(
図10に示される矢印R2方向)にインパネモジュール10を回転させることで、容易に支持用の位置決めピン51を位置決め部72に嵌め込むことができる。ただし、この位置決めの際におけるインパネモジュール10への力の加え方は特に限定されるものでなく、例えば、作業者の手でインパネモジュール10を上側から押し込むことで、インパネモジュール10の位置決めを行ってもよい。
【0079】
上述のように、仮預け工程では、支持用の係合溝34に設けられた前記規制部80により、支持用の位置決めピン51が仮預け用段部76を経由することなく位置決め部72に嵌り込むことが規制されるため、インパネモジュール10の位置決めを行う際、支持用の位置決めピン51が仮預け用段部76を乗り越えて位置決め部72に嵌り込む動作を必ず経ることになる。よって、位置決め作業の作業者は、この動作による節度感を確実に感じることができ、これにより正確な位置決めを簡単かつ確実に実現することができる。
【0080】
また、上述のように、仮預け用段部76に支持用の位置決めピン51が係合したときに、支持用の位置決めピン51の反位置決め部72側の部分が係合し、支持用の位置決めピン51の位置決め部72側の部分が位置決め部72を臨むような係合状態となるため、支持用の係合溝34内において仮預け用段部76から位置決め部72へ支持用の位置決めピン51が相対移動するのに要する相対移動量が抑制される。さらに、仮預け用段部76の後端コーナー部78は丸みを帯びるように面取りされた形状となっている。そのため、支持用の位置決めピン51が仮預け用段部76を乗り越えて位置決め部72に嵌り込むように作業者がインパネモジュール10に力を加える際、インパネモジュール10の要変位量が低減されるため、位置決め作業性の向上を図ることができる。
【0081】
以上、上述の実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。
【0082】
例えば、上述の実施形態では、右側の取付けブラケット23にも、左側の取付けブラケット22と同様の支持用の係合溝34が設けられる場合について説明したが、右側の取付けブラケットにおける支持用の係合溝は、仮預け用段部を有さない従来と同様の構造であってもよい。
【0083】
また、上述の実施形態では、車体1にインパネモジュール10を組み付ける場合について説明したが、本発明は、インパネモジュール10以外の被組付け物品を車体または車体以外の組付け相手側構造体に組み付ける場合にも同様に適用することができる。
【0084】
さらに、上述の実施形態では、長尺の被組付け物品の長さ方向両端部にそれぞれ支持用の係合溝が設けられている場合について説明したが、本発明は、長尺または非長尺の被組付け物品を片持ち状に取り付ける場合において、支持用の係合溝と支持用の位置決めピンとが1組しか存在しない場合にも適用することができる。
【0085】
またさらに、上述の実施形態では、支持用の係合溝と支持用の位置決めピンとを利用して被組付け物品を位置決めした後に、最終的にボルトで組付け相手側構造体に固定する場合について説明したが、本発明は、被組付け物品を最終的にボルトで固定せず、支持用の係合溝と支持用の位置決めピンとの係合だけで取り付けられる場合にも適用することができる。