(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019898
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】負圧式倍力装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
B60T 13/567 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
B60T13/567
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2012-170343(P2012-170343)
(22)【出願日】2012年7月31日
(65)【公開番号】特開2014-28592(P2014-28592A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2015年7月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 陽治
【審査官】
佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭53−109590(JP,U)
【文献】
実開昭63−077858(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/00−13/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの一部を構成するリヤシェルが、鋼板をプレスすることにより成形されていて、開口端を大径部とするテーパ状のフランジ部を有するとともに、このフランジ部の小径部に連なる部位を小径部とする段付の円筒部を有しており、前記円筒部には環状のシール部材を介してパワーピストンが組付けられ、前記フランジ部には前記パワーピストンの外周を被覆するブーツが組付けられるように構成されている負圧式倍力装置の製造方法であって、
前記フランジ部には、周方向の少なくとも一箇所に切欠が設けられていて、同切欠は前記フランジ部と前記円筒部が成形される前に形成されていることを特徴とする負圧式倍力装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の負圧式倍力装置の製造方法において、前記切欠の根元部には、円弧部が形成されていることを特徴とする負圧式倍力装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用ブレーキ装置に採用される負圧式倍力装置
の製造方法に関し、特に、ハウジングの一部を構成するリヤシェルが、鋼板をプレスすることにより成形されている負圧式倍力装置
の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の負圧式倍力装置の一つとして、リヤシェルが、開口端を大径部とするテーパ状のフランジ部を有するとともに、このフランジ部の小径部に連なる部位を小径部とする段付の円筒部を有しており、前記円筒部には環状のシール部材を介してパワーピストンが組付けられ、前記フランジ部には前記パワーピストンの外周を被覆するブーツが組付けられるように構成されているものがあり、例えば、下記の特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−290742号公報
【0004】
上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置のリヤシェルでは、鋼板をプレスすることにより、開口端を大径部とするテーパ状のフランジ部と、このフランジ部の小径部に連なる部位を小径部とする段付の円筒部が成形されている。
【発明の概要】
【0005】
ところで、従来のリヤシェルでは、上記したテーパ状のフランジ部や段付の円筒部をプレスで成形する際の破損を防止するために、その素材として、プレス成形性(しぼり性)の高い高価な鋼板が採用されていて、高コストの要因となっている。
【0006】
本発明は、上記した課題に対処すべくなされたものであり、ハウジングの一部を構成するリヤシェルが、鋼板をプレスすることにより成形されていて、開口端を大径部とするテーパ状のフランジ部を有するとともに、このフランジ部の小径部に連なる部位を小径部とする段付の円筒部を有しており、前記円筒部には環状のシール部材を介してパワーピストンが組付けられ、前記フランジ部には前記パワーピストンの外周を被覆するブーツが組付けられるように構成されている負圧式倍力装置
の製造方法であって、前記フランジ部には、周方向の少なくとも一箇所に切欠が
設けられていて、同切欠は前記フランジ部と前記円筒部が成形される前に形成されていることに特徴がある。
【0007】
上記した本発明の負圧式倍力装置
の製造方法においては、上記した切欠が
前記フランジ部と前記円筒部が成形される前に前記フランジ部に設けられていて、テーパ状のフランジ部と段付の円筒部の成形時における亀裂の発生(破損)を抑制することが可能である。このため、リヤシェルの素材として、プレス成形性(しぼり性)の低い安価な鋼板を採用することが可能であり、素材コストの低減を図ることが可能である。なお、リヤシェルの素材として、薄肉化を図ることも可能であり、コスト低減と軽量化を図ることが可能である。
【0008】
上記した本発明の実施に際して、前記切欠の根元部には、円弧部が形成されていることも可能である。この場合には、テーパ状のフランジ部の成形時において、切欠の根元部での裂けを防止することが可能であり、フランジ部の成形性を高めることが可能である。これにより、プレス成形時間の短縮を図ることができて、製作コストの低減を図ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明による
製造方法により製造された負圧式倍力装置の一実施形態を示す断面図である。
【
図3】
図1および
図2に示したリヤシェル単体の部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1〜
図3は本発明による
製造方法により製造された負圧式倍力装置の一実施形態を示していて、この負圧式倍力装置は、ハウジング10に組付けられた可動隔壁20とパワーピストン30を備えるとともに、パワーピストン30に組付けられた入力部材40と出力部材50と制御弁60とキー部材70等を備えている。
【0011】
ハウジング10は、
図1に示したように、フロントシェル11とリヤシェル12を備えていて、内部が可動隔壁20によって負圧導入管13を通して負圧源(例えば、図示省略のエンジンの吸気マニホールド)に常時連通する定圧室R1と、この定圧室R1と大気にそれぞれ連通・遮断する変圧室R2とに区画されている。
【0012】
このハウジング10は、ハウジング10と可動隔壁20を気密的に貫通する複数本(
図1では1本が示されている)のタイロッド14の後端部に設けられたねじ部にて静止部材、すなわち車体(図示省略)に固定されるように構成されている。なお、タイロッド14の前端部に設けられたねじ部には、ブレーキマスタシリンダ100が組付けられている。
【0013】
リヤシェル12は、鋼板(冷間圧延鋼板)をプレスすることにより成形されていて、開口端を大径部とするテーパ状のフランジ部12aを有するとともに、このフランジ部12aの小径部に連なる部位を小径部とする段付の円筒部12bを有している。円筒部12bには、環状のシール部材80を介してパワーピストン30が組付けられている。フランジ部12aには、パワーピストン30の外周を被覆するブーツ90が組付けられている。
【0014】
ところで、リヤシェル12のフランジ部12aには、周方向の一箇所に切欠12a1が設けられている。切欠12a1は、リヤシェル12のフランジ部12aと円筒部12bがプレス成形される前に形成されていて、その根元部には、円弧部Aが形成されている。一方、リヤシェル12の円筒部12bには、キー部材70とシール部材80を位置決めするための段部12b1が形成されている。
【0015】
なお、可動隔壁20、パワーピストン30、入力部材40、出力部材50、制御弁60等の構成は、本発明に直接関係がないため、詳細な説明は省略する。
【0016】
上記した本実施形態の負圧式倍力装置においては、ハウジング10におけるリヤシェル12のフランジ部12aに切欠12a1が設けられていて、
同切欠12a1はフランジ部12aと円筒部12bが成形される前に形成されており、テーパ状のフランジ部12aと段付の円筒部12bの成形時における亀裂の発生(破損)を抑制することが可能である。このため、リヤシェル12の素材として、プレス成形性(しぼり性)の低い安価な鋼板を採用することが可能であり、素材コストの低減を図ることが可能である。なお、リヤシェル12の素材として、薄肉化を図ることも可能であり、コスト低減と軽量化を図ることが可能である。
【0017】
また、本実施形態では、切欠12a1の根元部に、円弧部Aが形成されている。このため、テーパ状のフランジ部12aの成形時において、切欠12a1の根元部での裂けを防止することが可能であり、フランジ部12aの成形性を高めることが可能である。これにより、プレス成形時間の短縮を図ることができて、製作コストの低減を図ることが可能である。
【0018】
上記した実施形態では、リヤシェル12のフランジ部12aに設けられる切欠12a1が一つ(周方向の一箇所)であるが、切欠12a1の設定個数は2個以上であってもよく、適宜変更して実施することが可能である。また、上記した実施形態では、リヤシェル12の円筒部12bに形成されている段部12b1にて、キー部材70とシール部材80が位置決めされるように構成して実施したが、キー部材とシール部材の位置決めは、例えば、円筒部12bの大径段部として実施すること(上記した特許文献1に記載されている負圧式倍力装置のリヤシェル参照)も可能であり、適宜変更して実施することが可能である。
【0019】
また、上記した実施形態においては、シングル型の負圧式倍力装置
の製造方法に本発明を実施したが、本発明はタンデム型やトリプル型の負圧式倍力装置
の製造方法にも同様に実施可能であることは勿論のこと、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0020】
10…ハウジング、11…フロントシェル、12…リヤシェル、12a…テーパ状のフランジ部、12a1…切欠、A…円弧部、12b…段付の円筒部、12b1…段部、20…可動隔壁、30…パワーピストン、40…入力部材、50…出力部材、60…制御弁、70…キー部材、80…シール部材、90…ブーツ