(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記パッシベーション層を、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及びフッ化マグネシウムのうちの少なくとも一種により構成する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液晶素子の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者が高抵抗層を有する液晶素子を実際に作製したところ、液晶素子の駆動電圧が経時的に変化することが判明した。
【0005】
本発明は、駆動電圧が経時的に変化しにくい液晶素子を製造し得る方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る液晶素子の製造方法は、液晶層と、液晶層に電圧を印加する第1及び第2の電極と、第1及び第2の電極のうち、いずれか一方の電極と液晶層との間に配された高抵抗層とを備える液晶素子の製造方法に関する。本発明に係る液晶素子の製造方法では、一主面上に第1または第2の電極が形成された基板を用意する。基板の一主面上に、第1または第2の電極のうち、いずれか一方の電極の少なくとも一部を覆うように高抵抗層を形成する。高抵抗層を加熱処理する加熱工程を行う。加熱処理された高抵抗層の上にパッシベーション層を形成する。
【0007】
本発明において、「高抵抗層」とは、電気抵抗値が表面抵抗で1×10
4Ω/□〜1×10
14Ω/□であり、第1及び第2の電極よりも高く、パッシベーション層よりも低い電気抵抗を有する膜のことをいう。
【0008】
加熱工程において、高抵抗層の電気抵抗が変化しなくなるまで高抵抗層の加熱を行うことが好ましい。
【0009】
ここで、「電気抵抗が変化しなくなる」とは、電気抵抗の24時間あたりの変化率が、20%以下となることをいう。
【0010】
高抵抗層を、酸化亜鉛、アルミニウム亜鉛酸化物、インジウムスズ酸化物、アンチモンスズ酸化物、ガリウム亜鉛酸化物、シリコン亜鉛酸化物、スズ亜鉛酸化物、ホウ素亜鉛酸化物及びゲルマニウム亜鉛酸化物のうちの少なくとも一種により構成することが好ましい。
【0011】
高抵抗層を、真空蒸着法、スパッタリング法またはCVD法により形成することが好ましい。
【0012】
パッシベーション層を、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及びフッ化マグネシウムのうちの少なくとも一種により構成することが好ましい。
【0013】
加熱工程において、高抵抗層を、50℃〜400℃で0.5時間〜24時間加熱することが好ましい。
【0014】
本発明に係る液晶素子は、液晶層と、第1及び第2の電極と、高抵抗層と、パッシベーション層を備えている。第1及び第2の電極は、液晶層に電圧を印加する。高抵抗層は、第1及び第2の電極のうち、いずれか一方の電極の少なくとも一部を覆うように、電極と液晶層との間に配されている。パッシベーション層は、高抵抗層と液晶層との間に配されている。高抵抗層は、電気抵抗の24時間あたりの変化率が20%以下のものからなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、駆動電圧が経時的に変化しにくい液晶素子を製造し得る方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0018】
また、実施形態等において参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態等において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。図面相互間においても、物体の寸法比率等が異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率等は、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0019】
図1は、本実施形態において製造される液晶素子1の略図的断面図である。まず、
図1を参照しながら、本実施形態において製造される液晶素子1の構成について説明する。
【0020】
液晶素子1は、液晶レンズである。但し、本発明において、液晶素子は、液晶レンズに限定されず、液晶レンズ以外の種類の液晶素子であってもよい。
【0021】
液晶素子1は、液晶分子を含む液晶層11を備えている。液晶層11は、第1及び第2の電極21,22により挟持されている。第1及び第2の電極21,22により、液晶層11に電圧が印加され、これにより液晶素子1の屈折率が変化する。
【0022】
より具体的には、液晶素子1は、相互に間隔をおいて対向するように配された第1の基板31と第2の基板32とを有する。第1の基板31と第2の基板32との間には、隔壁部材34が配されている。この隔壁部材34と第1及び第2の基板31,32とにより区画形成された空間に液晶層11が設けられている。第1の基板31、第2の基板32及び隔壁部材34は、例えばガラスにより構成することができる。第1の基板31及び第2の基板32の厚みは、例えば、0.1mm〜1.0mm程度とすることができる。液晶層11の厚みは、要求される光学的パワーや応答速度等に応じて適宜選択することができる。液晶層11の厚みは、例えば、10μm〜80μm程度とすることができる。
【0023】
なお、第1の基板31と第2の基板32との間に少なくともひとつの中間板を配し、液晶層11を厚み方向に沿って複数に分割してもよい。
【0024】
第1の基板31の液晶層11側の主面31aの上には、第1の電極21が配されている。一方、第2の基板32の液晶層11側の主面32aの上には、第2の電極22が配されている。第2の電極22は、液晶層11を介して第1の電極21と対向している。第1及び第2の電極21,22は、例えば、インジウムスズ酸化物(ITO)等の透明導電性酸化物により構成することができる。
【0025】
第1の電極21は、円形の開口部21a1を有する第1の電極部21aと、第1の電極部21aの開口部21a1の内部に配された円形の第2の電極部21bとを有する。
【0026】
第1の電極21の第1の電極部21aと、第2の電極22との間には、電圧V1が印加される。一方、第1の電極21の第2の電極部21bと、第2の電極22との間には、電圧V2が印加される。通常、第2の電極22は、電位が0Vであるグラウンド電極とされている。このため、本実施形態では、第1及び第2の電極21,22のうち、電圧が印加された際に生じる電位の絶対値が大きい方の電極が、第1の電極21となる。
【0027】
第1及び第2の電極21,22のうちの、電圧が印加された際に生じる電位の絶対値が大きい方の電極である第1の電極21と液晶層11との間には、電気抵抗値が、表面抵抗で1×10
4Ω/□〜1×10
14Ω/□であり、電極よりも高い高抵抗層41が配されている。なお、高抵抗層41と第1の電極21との間には、高抵抗層41と第1の電極21とを絶縁する絶縁層が設けられていることが好ましい。絶縁層は、例えば酸化ケイ素や窒化ケイ素等により構成することができる。
【0028】
高抵抗層41は、酸化亜鉛、アルミニウム亜鉛酸化物、インジウムスズ酸化物、アンチモンスズ酸化物、ガリウム亜鉛酸化物、シリコン亜鉛酸化物、スズ亜鉛酸化物、ホウ素亜鉛酸化物及びゲルマニウム亜鉛酸化物のうちの少なくとも一種により構成されていることが好ましい。
【0029】
なお、高抵抗層41は、単一の高抵抗層により構成されていてもよいし、複数の高抵抗層の積層体により構成されていてもよい。高抵抗層41が、複数の高抵抗層の積層体により構成されている場合は、複数の高抵抗層は、相互に同じ材料からなるものであってもよいし、相互に異なる材料からなるものであってもよい。
【0030】
高抵抗層41の厚みは、例えば、10nm〜300nmであることが好ましい。
【0031】
高抵抗層41と液晶層11との間には、パッシベーション層42が配されている。このパッシベーション層42によって高抵抗層41は実質的に全体が覆われており、高抵抗層41が液晶層11から隔離されている。図示は省略するが、パッシベーション層42の上には、配向膜が配されている。この配向膜によりパッシベーション層42が覆われている。同様に、第2の電極22の上には、第2の電極22を覆うように配向膜が配されている。これら配向膜により液晶層11における液晶分子の配向がなされている。なお、配向膜は、例えばラビング処理されたポリイミド膜により構成することができる。
【0032】
パッシベーション層42は、無機酸化物誘電体及び無機フッ化物誘電体の少なくとも一方により構成されていることが好ましい。好ましく用いられる無機酸化物誘電体の具体例としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ及び酸化ジルコニウムのうち少なくとも一種が挙げられる。好ましく用いられる無機フッ化物誘電体の具体例としては、例えば、フッ化マグネシウムが挙げられる。
【0033】
パッシベーション層42は、単一の誘電体層により構成されていてもよいし、複数の誘電体層の積層体により構成されていてもよい。パッシベーション層42が複数の誘電体層の積層体により構成されている場合は、複数の誘電体層は、相互に同じ材料からなるものであってもよいし、相互に異なる材料からなるものであってもよい。
【0034】
パッシベーション層42の厚みは、1nm〜2μm程度であることが好ましく、100nm〜1.5μm程度であることがより好ましい。
【0035】
次に、液晶素子1の製造方法の一例について説明する。但し、本発明は、以下の製造方法に限定されない。
【0036】
まず、主面31a上に第1の電極21が形成された第1の基板31を用意する。第1の電極21は、例えば、スパッタリング法やCVD(Chemical Vapor Deposition)法などにより形成することができる。
【0037】
次に、第1の基板31の主面31a上に、第1の電極21の少なくとも一部を覆うように高抵抗層41を形成する。詳細には、第1の電極21の上に絶縁層を形成した後に、高抵抗層41を形成する。
【0038】
高抵抗層41は、例えば、酸化亜鉛、アルミニウム亜鉛酸化物、インジウムスズ酸化物、アンチモンスズ酸化物、ガリウム亜鉛酸化物、シリコン亜鉛酸化物、スズ亜鉛酸化物、ホウ素亜鉛酸化物及びゲルマニウム亜鉛酸化物のうちの少なくとも一種により構成することができる。
【0039】
高抵抗層41の形成方法は特に限定されないが、高抵抗層41は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法やCVD法などにより好ましく形成される。
【0040】
なお、図示は省略するが、本実施形態においては、高抵抗層41を形成する前に、第1の電極21の上に絶縁層を形成する。この絶縁層により高抵抗層41と第1の電極21とが電気的に絶縁される。
【0041】
絶縁層は、無機酸化物誘電体及び無機フッ化物誘電体の少なくとも一方により構成されていることが好ましい。好ましく用いられる無機酸化物誘電体の具体例としては、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ及び酸化ジルコニウムのうち少なくとも一種が挙げられる。好ましく用いられる無機フッ化物誘電体の具体例としては、例えば、フッ化マグネシウムが挙げられる。
【0042】
絶縁層は、単一の誘電体層により構成されていてもよいし、複数の誘電体層の積層体により構成されていてもよい。絶縁層が複数の誘電体層の積層体により構成されている場合は、複数の誘電体層は、相互に同じ材料からなるものであってもよいし、相互に異なる材料からなるものであってもよい。
【0043】
次に、高抵抗層41を加熱処理する加熱工程を行う。高抵抗層41を加熱処理すると、高抵抗層41の電気抵抗が低下していく。所定の電気抵抗にまで低下した後は、加熱処理を継続しても高抵抗層41の電気抵抗は変化しない。加熱工程において、高抵抗層41の電気抵抗が変化しなくなるまで高抵抗層41を加熱することが好ましい。
【0044】
加熱工程における高抵抗層41の加熱温度は、例えば、50℃〜400℃程度であることが好ましく、50℃〜200℃であることがより好ましい。加熱工程における高抵抗層41の加熱時間は、例えば、0.5時間〜24時間程度であることが好ましく、1時間〜12時間であることがより好ましい。高抵抗層41の加熱雰囲気は、例えば、大気圧、空気であることが好ましい。
【0045】
このように、電気抵抗が変化しなくなるまで加熱処理すると、高抵抗層41の電気抵抗の24時間あたりの変化率が20%以下の高抵抗層41が得られやすくなる。なお、液晶素子1において、高抵抗層41を電気抵抗の24時間あたりの変化率が20%以下とすることで、駆動電圧の経時変化をより効果的に抑制でき、レンズ特性の安定化を図ることが可能となる。
【0046】
特に、高抵抗層41の電気抵抗は、液晶素子1を製造した時点から24時間以内に20%以上変化しないことが好ましい。
【0047】
次に、加熱処理された高抵抗層41の上に、パッシベーション層42を形成する。
【0048】
パッシベーション層42は、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ジルコニウム及びフッ化マグネシウムのうちの少なくとも一種により構成することができる。
【0049】
パッシベーション層42の形成方法は特に限定されないが、パッシベーション層42は、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法やCVD法などにより好ましく形成される。
【0050】
次に、パッシベーション層42の上に、配向膜を形成する。
【0051】
次に、主面32aの上に、第2の電極22や配向膜が形成された第2の基板32と、第1の基板31とを、各々の配向膜が対向するように、隔壁部材34を介して対向させセルを形成する。基板31,32と隔壁部材34とを、例えば、陽極接合等により接合してもよいし、接着剤を用いて接着してもよい。
【0052】
次に、セル内に液晶を注入し、封止することにより液晶層11を形成する。
【0053】
以上の工程により液晶素子1を完成させることができる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態では、高抵抗層41を熱処理し、その後、高抵抗層41の上にパッシベーション層42を形成する。このため、製造された液晶素子1の駆動電圧が変化しにくい。また、液晶素子1の駆動電圧の製造ばらつきを小さくすることができる。このような効果が得られる理由としては、定かではないが、以下の理由が考えられる。
【0055】
パッシベーション層42を形成しない場合は、高抵抗層41が、液晶層に含まれる液晶や溶媒、酸素などと接触することにより、高抵抗層41が変性し、その結果、高抵抗層41の電気抵抗が変化するものと考えられる。それに伴い、液晶素子1の駆動電圧が変化するものと考えられる。
【0056】
本実施形態のように、高抵抗層41を加熱処理することにより、高抵抗層41を予め変性させておくことができるため、液晶素子1において高抵抗層41が変性し難くなるものと考えられる。さらに、高抵抗層41の上にパッシベーション層42を形成しておくことにより、高抵抗層41と、液晶層11に含まれる液晶や溶媒、酸素などとの接触を抑制することができる。従って、液晶素子1において高抵抗層41の電気抵抗が経時的に変化しなくなるため、駆動電圧の経時変化を抑制できるものと考えられる。
【0057】
液晶素子1の駆動電圧の経時変化をより効果的に抑制する観点からは、加熱工程において、高抵抗層41の電気抵抗が変化しなくなるまで高抵抗層41の加熱を行うことが好ましい。
【0058】
また、本実施形態の製造方法によれば、加熱工程における高抵抗層41の加熱温度及び加熱時間を調整することにより、高抵抗層41の電気抵抗を所望の電気抵抗に高精度に合わせ込むことができる。従って、所望の駆動電圧の液晶素子1を、小さな駆動電圧のばらつきで製造し得る。
【0059】
(実施例1〜3及び比較例)
表1に示す条件で、上記実施形態に係る液晶素子1を上記実施形態において説明した方法により作製した。
【0060】
(評価)
次に、実施例1〜3及び比較例のそれぞれにおいて作製した液晶素子に対して、液晶素子が駆動するように電圧を印加し、600秒後の駆動電圧が、1秒後の駆動電圧の±10%の範囲内である場合は「変化なし」とし、600秒後の駆動電圧が、1秒後の駆動電圧の10%よりも高いか、10%よりも低い場合に「変化あり」とした。