(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019956
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】ハイブリッド建設機械の動力制御装置
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20161020BHJP
F02D 29/00 20060101ALI20161020BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20161020BHJP
B60W 20/00 20160101ALI20161020BHJP
F02D 29/04 20060101ALI20161020BHJP
F02D 29/06 20060101ALI20161020BHJP
H02P 9/04 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
E02F9/20 Z
F02D29/00 B
B60K6/20 310
F02D29/04 G
F02D29/06 E
H02P9/04 J
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-195682(P2012-195682)
(22)【出願日】2012年9月6日
(65)【公開番号】特開2014-51795(P2014-51795A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年6月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100109058
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 耕治
【審査官】
須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2013/172276(WO,A1)
【文献】
特開2005−237178(JP,A)
【文献】
特開2005−233164(JP,A)
【文献】
特開2009−216058(JP,A)
【文献】
特開2007−218111(JP,A)
【文献】
特開2004−150307(JP,A)
【文献】
特開2003−027985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
B60W 10/06
B60W 20/00
F02D 29/00
F02D 29/04
F02D 29/06
H02P 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用を行う発電電動機とをエンジンに接続し、制御手段により、上記発電電動機に発電機作用を行わせて蓄電器に充電する一方、この蓄電器の放電力により上記発電電動機に電動機作用を行わせて上記エンジンをアシストするように構成したハイブリッド作業機械の動力制御装置において、
上記制御手段は、予め、上記発電電動機の発電機作用が開始されるエンジン出力としてのエンジン下限出力を設定し、エンジン出力を上記エンジン下限出力以上の範囲に保つことを目標として上記発電電動機の発電機作用を制御し、
上記制御手段は、上記発電電動機の電動機作用が開始されるエンジン出力としてのエンジン上限出力を設定し、エンジン出力を上記エンジン上限出力以下の範囲に保つことを目標として上記発電電動機の電動機作用を制御し、
上記制御手段は、エンジン出力について許容し得る増加量としてのエンジン出力許容増加量とエンジン回転数と燃料流量との関係を示すマップを予め設定し、このマップに基づいて、上記エンジン出力許容増加量を、燃料流量が少ないほど大きくする方向に予め設定し、上記エンジン下限出力に上記エンジン出力許容増加量を加えて上記エンジン上限出力を設定するように構成したことを特徴とするハイブリッド建設機械の動力制御装置。
【請求項2】
上記制御手段は、上記エンジン下限出力を上記蓄電器の充電率に応じて、高充電率で低くなる方向に設定するように構成したことを特徴とする請求項1記載のハイブリッド建設機械の動力制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジン動力と蓄電器電力とを併用するハイブリッド建設機械の動力制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ショベルを例にとって背景技術を説明する。
【0003】
ショベルは、クローラ式の下部走行体上に上部旋回体が地面に対して垂直となる軸のまわりに旋回自在に搭載され、この上部旋回体に作業アタッチメントが取付けられて構成される。
【0004】
ハイブリッドショベルにおいては、油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用とを行う発電電動機とがエンジンに接続され、発電電動機の発電機作用によって蓄電器が充電される一方、この蓄電器の蓄電力により発電電動機が駆動されて電動機作用を行い、この電動機作用によりエンジンのポンプ駆動をアシストするように構成される。
【0005】
ここで、エンジン出力と、油圧ポンプに要求されている出力(ポンプ要求出力)と、発電電動機出力(電動機出力または発電機出力)の関係は、充電時には、
エンジン出力=発電機出力+ポンプ要求出力
アシスト時には、
エンジン出力+電動機出力=ポンプ要求出力
となり、上記関係が得られるように発電電動機出力が制御される。
【0006】
すなわち、ポンプ要求出力がエンジン出力を上回る場合は、エンジン出力の不足分を電動機出力で補い、ポンプ要求出力がエンジン出力を下回る場合は、エンジン出力の余剰分による発電機出力で蓄電器に充電する構成がとられる。
【0007】
このハイブリッドショベルにおいて、油圧負荷(ポンプ要求出力)の増加時には、これに対応してエンジン出力を増加させるべく燃料流量(供給量)を増加させる。
【0008】
この場合、エンジン出力の増加率(単位時間当たりの出力変化量)が大きいと、燃料流量が過大となって不完全燃焼を起こし、黒煙が発生する等、エンジンの燃焼状態が悪化する。
【0009】
この問題に対し、特許文献1に記載された公知技術では、エンジン出力の増加率を一定に制限し、ポンプ要求出力が、上記制限値から求められるエンジン上限出力を超えるときに、蓄電器の蓄電力で発電電動機に電動機作用(アシスト)を行わせてエンジン上限出力を保つようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−216058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、発電電動機のアシスト力は蓄電器の蓄電力に依存し、この蓄電力は充電率等によって変動するため、蓄電力の限界からアシスト力不足が生じ、エンジン出力の増加率を制限値に抑えることができない可能性がある。
【0012】
この点で、エンジン出力の増加率を制限する公知技術では、燃焼状態の悪化防止という目的が達成できないおそれがあった。
【0013】
そこで本発明は、ポンプ要求出力の増加に対し、エンジン出力の増加量そのものを小さく抑えて燃料流量の増加を抑制し、エンジン燃焼状態の悪化を防止することができる建設機械の動力制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決する手段として、本発明においては、油圧アクチュエータを駆動する油圧ポンプと、発電機作用と電動機作用を行う発電電動機とをエンジンに接続し、制御手段により、上記発電電動機に発電機作用を行わせて蓄電器に充電する一方、この蓄電器の放電力により上記発電電動機に電動機作用を行わせて上記エンジンをアシストするように構成したハイブリッド作業機械の動力制御装置において、
上記制御手段は、予め、上記発電電動機の発電機作用が開始されるエンジン出力としてのエンジン下限出力を設定し、エンジン出力を上記エンジン下限出力以上の範囲に保つことを目標として上記発電電動機の発電機作用を制御
し、上記制御手段は、上記発電電動機の電動機作用が開始されるエンジン出力としてのエンジン上限出力を設定し、エンジン出力を上記エンジン上限出力以下の範囲に保つことを目標として上記発電電動機の電動機作用を制御し、上記制御手段は、エンジン出力について許容し得る増加量としてのエンジン出力許容増加量とエンジン回転数と燃料流量との関係を示すマップを予め設定し、このマップに基づいて、上記エンジン出力許容増加量を、燃料流量が少ないほど大きくする方向に予め設定し、上記エンジン下限出力に上記エンジン出力許容増加量を加えて上記エンジン上限出力を設定するように構成したものである。
【0015】
この構成によれば、エンジン出力増加のベースとなるエンジン下限出力を予め設定し、このエンジン下限出力が保たれるように発電電動機の発電機作用を制御するため、エンジン出力の増加量(変動幅)そのものを抑えることができる。このため、燃料供給量の増加を抑えて、エンジンの燃焼状態を良好に保つことができる。
【0016】
また本発明においては、上記制御手段は、上記発電電動機の電動機作用が開始されるエンジン出力としてのエンジン上限出力を設定し、エンジン出力を上記エンジン上限出力以下の範囲に保つことを目標として上記発電電動機の電動機作用を制御する。
【0017】
これにより、エンジン下限出力に加えてエンジン上限出力も設定値に保たれるため、エンジン出力の増加量をさらに抑えることができる。このため、燃料供給を抑えてエンジンの燃焼状態を良好に保つ点の効果がより高くなる。
【0018】
さらに、上記制御手段は、エンジン出力について許容し得る増加量としてのエンジン出力許容増加量とエンジン回転数と燃料流量との関係を示すマップを予め設定し、このマップに基づいて、上記エンジン出力許容増加量を、燃料流量が少ないほど大きくする方向に予め設定し、上記エンジン下限出力に上記エンジン出力許容増加量を加えて上記エンジン上限出力を設定する。
【0019】
このように、燃料流量が多いほどエンジン出力の増加によるエンジンの燃焼状態の悪化が起こり易い(逆にいうと少燃料流量ほどエンジン燃焼状態の悪化が起こり難い)という観点から、燃料流量が多いほどエンジン出力許容増加量を小さく(エンジン上限出力を低く)設定することにより、燃焼状態の悪化抑制効果がさらに高いものとなる。
【0020】
本発明において、上記制御手段は、上記エンジン下限出力を上記蓄電器の充電率に応じて、高充電率で低くなる方向に設定するように構成するのが望ましい(請求項2)。
【0021】
蓄電器の充電率が高ければ充電の必要性が低いため、その分、エンジン下限出力を下げることにより、蓄電器の充電頻度を抑えて寿命を向上させることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によると、ポンプ要求出力の増加に対し、エンジン出力の増加量そのものを小さく抑えて燃料流量の増加を抑制し、エンジン燃焼状態の悪化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態に係る動力制御装置のシステム構成図である。
【
図3】同装置における蓄電器充電率とエンジン下限出力の関係を示す図である。
【
図4】同装置におけるエンジン出力の許容増加量の求め方を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施形態はハイブリッドショベルを適用対象としている。
【0025】
図1は装置のシステム構成を示し、エンジン1に、発電機作用(蓄電器に対する充電作用)と電動機作用(エンジンアシスト作用)を行う発電電動機2と、油圧ポンプ3が接続される。
【0026】
なお、ハイブリッドショベルにおいて、油圧ポンプ3に対する動力の供給方式として所謂パラレル方式とシリーズ方式とがあるが、本発明は両方式のいずれにも適用することができる。
【0027】
油圧ポンプ3は、制御手段としてのコントローラ4によって制御されるレギュレータ5により傾転が変化して吐出量が変化する可変容量ポンプとして構成され、この油圧ポンプ3からの圧油が、図示しないリモコン弁によって操作されるコントロールバルブ6を介して複数の油圧アクチュエータ(たとえばブーム、アーム、バケット各シリンダや走行用油圧モータ等。ここでは一つのものとして示す)7に供給される。
【0028】
発電電動機2は、インバータ8を介して蓄電器9に接続されている。
【0029】
インバータ8は、発電電動機2の発電機作用と電動機作用の切換え、発電機、電動機としての電流またはトルクを制御するとともに、発電機出力に応じて蓄電器9の充・放電を制御する。
【0030】
また、図示しない検出手段により、リモコン弁操作量、油圧ポンプ3の吐出圧(ポンプ圧)、蓄電器9の充電率、エンジン回転数、エンジン1に対する燃料供給量(燃料流量)がそれぞれ検出され、これらの情報がコントローラ4に送られる。
【0031】
コントローラ4は、
図2に示すように、
(i) バッテリ充電率からエンジン下限出力を、
(ii) リモコン弁操作量から求められる油圧ポンプ3の目標流量とポンプ圧とからポンプ要求出力を、
(iii) エンジン回転数と燃料流量とからエンジン出力許容増加量を、
(iv) エンジン下限出力にエンジン出力許容増加量を加算してエンジン上限出力を
それぞれ算出し、これらに基づいて発電電動機2の出力(発電機出力及び電動機出力)を制御する。この制御内容を次に詳述する。
【0032】
(I) エンジン下限出力
図3は蓄電器9の充電率とエンジン下限出力の関係について予め定めたマップを示す。
【0033】
蓄電器9の充電頻度を抑えて劣化を抑制し、その寿命を向上させるという目的と、充電率が高ければ充電の必要性が低いという観点から、コントローラ4には、予め、図示ようにエンジン下限出力が、蓄電器充電率に応じて、高充電率で低くなるように設定されている。
【0034】
そして、この
図3のマップに基づき、検出された蓄電器充電率からエンジン下限出力が求められる。
【0035】
(II) エンジン出力許容増加量
図4は、エンジン回転数と燃料流量の関係を示すエンジン特性に、エンジン出力許容増加量を加えたマップであり、このマップがコントローラ4に予め設定・記憶されている。
【0036】
図中、太線で示す五通りの曲線a〜eが燃料流量であり、図の上に行くほど燃料流量が少ないことを示す。
【0037】
このマップに基づき、検出されたエンジン回転数及び燃料流量からエンジン出力許容増加量を求める。たとえば、エンジン回転数がEr1、燃料流量が上から三番目の曲線cである場合のエンジン出力許容増加量はEpi1となる。
【0038】
すなわち、エンジン回転数と燃料流量によってエンジン燃焼状態の良否が左右される(たとえば同じエンジン回転数でも燃料流量が多いほどエンジン燃焼状態の悪化が起こり易い)という観点から、エンジン出力許容増加量が、少燃料流量ほど大きくなるように設定される。
【0039】
(III) エンジン上限出力
上記(II)で求められたエンジン出力許容増加量をエンジン下限出力に加算してエンジン上限出力が求められる。
【0040】
(IV) ポンプ要求出力
検出されたポンプ圧力と、リモコン弁操作量に基づいて演算された目標流量から、油圧ポンプ3に要求されている出力(ポンプ要求出力)が算出される。
【0041】
コントローラ4は、こうして求められたエンジン下限、上限両出力とポンプ要求出力から、ポンプ要求出力がエンジン下限出力以下の範囲では発電電動機2に発電機作用を行わせて蓄電器9に充電する一方、エンジン上限出力以上の範囲では発電電動機2に電動機作用を行わせてエンジン1をアシストし、エンジン下限、上限両出力間の範囲では発電電動機2の出力を0とする。
【0042】
すなわち、ポンプ要求出力に対してエンジン下限、上限両出力が保たれるように発電電動機2の出力(発電機出力または電動機出力)を制御する。
【0043】
この動力制御装置によると次の効果を得ることができる。
【0044】
(A) エンジン出力増加のベースとなるエンジン下限出力を予め設定し、このエンジン下限出力が保たれるように発電電動機2の発電機作用を制御するため、基本的効果として、エンジン出力の増加量(変動幅)そのものを抑えることができる。
【0045】
(B) エンジン下限出力に加えてエンジン上限出力をも設定し、エンジン出力をこの下限、上限両出力の間に保つため、エンジン出力の増加量をさらに抑えることができる。
【0046】
この(A)(B)により、燃料供給量の増加を抑えて、エンジンの燃焼状態を良好に保つことができる。
【0047】
(C) エンジン出力について許容し得る増加量としてのエンジン出力許容増加量を設定し、エンジン下限出力にこのエンジン出力許容増加量を加えてエンジン上限出力を設定するため、エンジン出力の増加量が許容増加量以下に抑えられ、燃焼状態の悪化防止効果がさらに高いものとなる。
【0048】
(D) 燃料流量が多いほどエンジン出力の増加によるエンジンの燃焼状態の悪化が起こり易いという観点から、エンジン出力許容増加量を、燃料流量が多いほど小さくなるように設定しているため、燃焼状態の悪化抑制効果がさらに高いものとなる。
【0049】
(E) エンジン下限出力を蓄電器9の充電率に応じて、高充電率で低くなる方向に設定しているため、蓄電器9の充電頻度を抑えて寿命を向上させることができる。
【0050】
他の実施形態
(1) 上記実施形態では、エンジン下限出力を蓄電器充電率に応じて変える構成をとったが、このエンジン下限出力を蓄電器充電率とは無関係に、他の要素との関係で可変値として、または固定値として設定してもよい。
【0051】
(2) 上記実施形態ではエンジン出力について下限、上限両出力を設定したが、エンジン出力増加のベースとなるエンジン下限出力のみを設定してもよい。
【0052】
(3) エンジン上限出力をも設定する場合に、このエンジン上限出力を求めるためのエンジン出力許容増加量の決め方として、上記実施形態のようにエンジン回転数と燃料流量の関係を示すマップに基づいて求める方式以外の方式を採用してもよい。あるいは、このエンジン出力許容増加量を固定値としてもよい。
【0053】
(4) 本発明はハイブリッドショベル以外のハイブリッド建設機械にも適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 エンジン
2 発電電動機
3 油圧ポンプ
4 制御手段としてのコントローラ
7 油圧アクチュエータ
8 制御手段としてのインバータ
9 蓄電器