特許第6019960号(P6019960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6019960金属成形体、および金属成形体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019960
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】金属成形体、および金属成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 5/01 20060101AFI20161020BHJP
   C22C 23/00 20060101ALI20161020BHJP
   C22F 1/06 20060101ALI20161020BHJP
   C22C 23/02 20060101ALI20161020BHJP
   C22C 23/04 20060101ALI20161020BHJP
   C22C 23/06 20060101ALI20161020BHJP
   B21D 11/08 20060101ALI20161020BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   B21D5/01 T
   C22C23/00
   C22F1/06
   C22C23/02
   C22C23/04
   C22C23/06
   B21D11/08
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 631Z
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 694B
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-196954(P2012-196954)
(22)【出願日】2012年9月7日
(65)【公開番号】特開2014-50863(P2014-50863A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2015年8月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】森 宏治
(72)【発明者】
【氏名】沼野 正禎
(72)【発明者】
【氏名】坪田 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】河部 望
【審査官】 細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−148415(JP,A)
【文献】 特開昭59−113929(JP,A)
【文献】 特開平09−076025(JP,A)
【文献】 特開2012−192421(JP,A)
【文献】 特開昭52−007855(JP,A)
【文献】 特開2010−069504(JP,A)
【文献】 特開2010−147259(JP,A)
【文献】 特開2008−169423(JP,A)
【文献】 特開昭60−018230(JP,A)
【文献】 特開2001−105029(JP,A)
【文献】 特開2013−86114(JP,A)
【文献】 特開平8−71652(JP,A)
【文献】 特開2008−137105(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 5/01
B21D 11/08
C22C 23/00
C22C 23/02
C22C 23/04
C22C 23/06
C22F 1/06
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽金属を主体とする金属板を成形し、その成形によってできた角部を有する金属成形体であって、
前記金属板は、Mg合金から構成されており、
前記角部には、前記角部以外の平面部の厚さTよりも厚みの薄い領域が存在し、
前記角部の外側曲げ半径Rが、前記平面部の厚さT以下である金属成形体。
【請求項2】
前記角部における厚みの薄い領域の内周面には、研磨痕、もしくは溶融痕が形成されている請求項1に記載の金属成形体。
【請求項3】
前記角部の外側曲げ半径Rが、前記平面部の厚さTの3/4以下である請求項1または請求項2に記載の金属成形体。
【請求項4】
前記Mg合金は、ASTM規格のAZ91相当材である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の金属成形体。
【請求項5】
軽金属を主体とする金属板を成形することで金属成形体に角部を作る金属成形体の製造方法であって、
Mg合金から構成された前記金属板の一面側に曲げ用溝を形成する工程αと、
前記角部の外側曲げ半径Rが、角部以外の平面部の厚さT以下となるように、前記曲げ用溝を曲げの内側にして前記金属板を成形する工程βと、
を備える金属成形体の製造方法。
【請求項6】
前記工程βにおいて成形は、加熱温度を200℃〜300℃として行う請求項5に記載の金属成形体の製造方法。
【請求項7】
前記曲げ用溝は、研磨もしくはレーザーによる溶融を利用して形成する請求項5又は請求項6に記載の金属成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽金属を主体とする金属板を成形し、その成形によってできた角部を有する金属成形体、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MgやAlなどの軽金属を主体とする金属板の金属成形体が、種々の工業製品の構成部品(例えば、パソコンや携帯電話などの電子機器の筐体など)に利用されている。そのような構成部品に、近年ではデザイン性を求められることが多く、具体的には構成部品の角部をシャープエッジにしてスタイリッシュなデザインの工業製品とすることが望まれている。つまり、上記構成部品の素となる金属成形体において、金属板に形成された角部をシャープエッジにすることが望まれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、金属板を二段階のプレス加工をすることで、角部をシャープエッジにする技術が開示されている。具体的には、第一のプレス工程で、角部の内側曲げ半径rが実質的に0mmとなるように金属板を曲げ、第二のプレス工程で、角部近傍から角部に向かって構成材料を寄せて、角部の外側曲げ半径Rが金属板の厚さt以下となるようにする。その結果、図4に示すように、角部200cの内側曲げ半径rと外側曲げ半径Rの両方ともが小さな金属成形体200を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−69504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の技術は、非常にシャープエッジな角部を備える金属成形体を作製できるものの、二段階のプレス加工を行なうことを前提としているため、生産性の点で改善の余地がある。特に、近年のシャープエッジな角部を有する工業製品の需要が増加しており、そのため、シャープエッジな角部を有する金属成形体の生産性をより向上させることが望まれている。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的の一つは、シャープエッジな角部を有する金属成形体と、その金属成形体を生産性良く製造することができる金属成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属成形体は、軽金属を主体とする金属板を成形し、その成形によってできた角部を有する金属成形体であって、角部には、角部以外の平面部の厚さTよりも厚みの薄い領域が存在し、角部の外側曲げ半径Rが、平面部の厚さT以下であることを特徴とする。ここで、『軽金属』とは、比重が5以下の金属、具体的にはMgやAl、Be、Ti、アルカリ金属、アルカリ土類金属などである。また、『軽金属を主体とする金属板』とは、『軽金属』を質量%で50%以上含む金属板のことである。さらに、『成形』とは、金属成形体に角部が形成され得る全ての加工を含む。代表的な『成形』として、プレス加工、絞り加工、曲げ加工などを挙げることができる。
【0008】
上記本発明の金属成形体は、角部の外側曲げ半径Rが平面部の厚さT以下のシャープエッジな角部を有するため、スタイリッシュな見た目を備える。
【0009】
また、本発明の金属成形体の製造方法は、軽金属を主体とする金属板を成形することで金属成形体に角部を作る金属成形体の製造方法であって、次の工程αと工程βとを備えることを特徴とする。なお、『軽金属』および『軽金属を主体とする金属板』、ならびに『成形』の定義は、本発明の金属成形体と同様である。
[工程α]…金属板の一面側に曲げ用溝を形成する。
[工程β]…角部の外側曲げ半径Rが、角部以外の平面部の厚さT以下となるように、曲げ用溝を曲げの内側にして金属板を成形する。
【0010】
図1は、本発明の金属成形体の製造方法を簡易的に示す説明図であって、(A),(C)は成形する前の金属板に曲げ用溝を形成した状態、(B),(D)はそれぞれ(A),(B)の金属板を曲げ用溝の位置で成形することで金属成形体を作製した状態を示す。本発明の製造方法の工程αにおける曲げ用溝の形成手法としては、例えば、切削や押圧、研磨、レーザーによる溶融などを挙げることができる。切削、押圧、研磨を利用すれば、図1(A)に示すように、金属板1の一面側に、金属板1の厚さTよりも薄い部分ができ、この薄い部分が曲げ用溝1gとなる。一方、レーザーによる溶融を利用すれば、図1(C)に示すように、レーザーが当たった部分が溶融して凹むことで曲げ用溝1gとなる。その際、溶融した金属板1の構成材料は、曲げ用溝1gの両脇に逃げるので、曲げ用溝1gの両脇は盛り上がったように厚くなる。
【0011】
上記本発明の金属成形体の製造方法に従い、図1(A),(C)に示すように、金属板1を成形する前に、金属板1に曲げ用溝1gを形成することで、その曲げ用溝1gの位置で金属板1を成形し易くすることができる。また、その曲げ用溝1gを有する金属板1を成形する際、曲げ用溝1gを曲げの内側にすることで、図1(B),(D)に示すように、角部2cの外側曲げ半径Rが平面部2pの厚さT以下となった本発明の金属成形体2を作製することができる。本発明製造方法において金属板1に形成した曲げ用溝1gは、角部2cにおける厚みの薄い領域として本発明の金属成形体2に痕跡を残す。
【0012】
なお、厚さの均一な金属板を曲げると、角部の内周側では角部の両側から角部に向かって金属板の構成材料が寄ってきて、その分だけ角部の外周側では角部から角部の両側に向かって金属板の構成材料が逃げていき、角部の外側曲げ半径Rが大きくなり易い。特に、その外側曲げ半径Rが、角部以外の平面部の厚さT(即ち、用意した金属板の厚さT)以下になることはない。仮に、平面部の厚さTよりも大きなこの外側曲げ半径Rを平面部の厚さT以下とするには、例えば、特許文献1の技術のような第二のプレス工程を行なう必要がある。
【0013】
以下、本発明の金属成形体、およびその製造方法の好ましい形態について説明する。
【0014】
本発明の金属成形体の一形態として、角部における厚みの薄い領域(薄肉領域)の内周面には、研磨痕、もしくは溶融痕が形成されている形態を挙げることができる。
【0015】
曲げ用溝の表面状態は、曲げ用溝を形成する手法に応じた独特の表面状態となる。そのため、曲げ用溝の名残である薄肉領域の内周面を観察すれば、どのような手法で曲げ用溝が形成されたかを知ることができる。上記構成において研磨痕と溶融痕を挙げているのは、特に研磨もしくはレーザーによる溶融を利用して曲げ用溝を形成することが、本発明の金属成形体を作製する上で利点があるからである。その利点については本発明の製造方法の好ましい形態を説明する際に述べる。
【0016】
本発明の金属成形体の一形態として、角部の外側曲げ半径Rが、平面部の厚さTの3/4以下である形態を挙げることができる。
【0017】
平面部の厚さT未満の外側曲げ半径Rを有する角部は、非常にスタイリッシュでシャープな印象を与える。そのため、この本発明の金属成形体を用いて工業製品を作製すれば、その工業製品にもスタイリッシュでシャープな印象を持たせることができる。そこで、外側曲げ半径Rが平面部の厚さT未満、好ましくは3/4以下とする。上記のような外側曲げ半径Rを達成するには、金属板に形成する曲げ用溝の深さ(金属板の表面から曲げ用溝の最深部までの距離)を、金属板の厚さの1/3以上、1未満とすると良い。
【0018】
本発明の金属成形体の一形態として、金属成形体を構成する金属板は、Mg合金である形態を挙げることができる。
【0019】
Mg合金(純Mgを含む)は、軽量かつ高硬度である。そのため、Mg合金からなる金属成形体を用いて工業製品を作製すれば、工業製品を軽量化でき、しかもその工業製品の耐久性を向上させることができる。
【0020】
Mg合金からなる本発明の金属成形体の一形態として、Mg合金は、ASTM規格のAZ91相当材である形態を挙げることができる。
【0021】
Mg合金のうち、Mgに添加元素としてAlを含有させたMg−Al合金は、耐食性に優れる。特に、ASTM規格のAZ91相当材は、Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有し、非常に優れた耐食性を備える。そのため、AZ91相当材からなる金属成形体を用いて工業製品を作製すれば、工業製品の軽量化・耐久性の向上に加え、工業製品の耐食性の向上を図ることができる。
【0022】
Al以外の添加元素としては、Zn、Mn、Si、Be、Ca、Sr、Y、Cu、Ag、Sn、Ni、Au、Li、Zr、Ce及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられる。これらの添加元素を含有する場合、その含有量は、合計で0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。これらの添加元素のうち、Si、Sn、Y、Ce、Ca及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択される少なくとも1種以上の元素を合計で0.001質量%以上、好ましくは合計で0.1〜5質量%含有すると、耐熱性や難燃性が向上する。また、希土類元素の場合は0.1質量%以上含有することが好ましく、その中でもYは0.5質量%以上含有することが好ましい。不純物としては、例えば、Feなどが挙げられる。
【0023】
一方、本発明の金属成形体の製造方法の一形態として、曲げ用溝は、研磨もしくはレーザーによる溶融を利用して形成する形態を挙げることができる。
【0024】
既に述べたように、曲げ用溝の形成には、切削、押圧、研磨、レーザーによる溶融など種々の手法を利用することができる。これらの手法のうち、研磨とレーザーによる溶融は、簡単で、かつ金属板の物理的特性を殆ど変えることなく曲げ用溝を形成することができるため、好ましい。特に、レーザーを用いると、非常に短時間で曲げ用溝を形成することができる。また、レーザーを用いて曲げ用溝を形成する場合、図1(C)に示すように、溶融した構成材料が曲げ用溝1gの両脇に盛り上がる。つまり、曲げ用溝1gを有する金属板1のうち、曲げ用溝1gの部分が最も薄く、曲げ用溝1gの両脇部分が最も厚くなるため、曲げ用溝1gの両脇部分がガイドとなり、金属板1を曲げ用溝1gに沿って曲げ易くなる。その結果得られる金属成形体2の角部2cの内周面には、図1(D)に示すように、角部2cの外側に向かって凹んだ部分と、その凹んだ部分を挟み込んで、金属成形体2の内側に盛り上がった部分と、が形成された独特の形状となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の金属成形体は、スタイリッシュでシャープな印象を与える角部を備えるため、この本発明の金属成形体を用いた工業製品にもスタイリッシュでシャープな印象を持たせることができる。また、本発明の金属成形体の製造方法は、上記本発明の金属成形体を生産性良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の金属成形体の製造方法を簡易的に示す説明図であって、(A)は研磨や切削などで金属板に曲げ用溝を形成した状態、(B)は(A)の金属板を曲げ用溝の位置で成形することで金属成形体を作製した状態、(C)はレーザーを用いて金属板に曲げ用溝を形成した状態、(D)は(C)の金属板を曲げ用溝の位置で成形することで金属成形体を作製した状態を示す。
図2】実施形態1に記載される金属成形体の製造方法の手順を説明する説明図であって、(A)は金属板を金型に配置した状態、(B)は金属板をプレス加工した状態を示す。
図3】(A)は実施形態2に記載される追加加工の手順を説明する説明図、(B)は(A)の丸囲み部分の拡大図である。
図4】従来の金属成形体の製造方法で得られた金属成形体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
<実施形態1>
実施形態1では、組成の異なる複数の金属板を用意し、それら金属板に曲げ用溝を形成する本発明の金属成形体の製造方法で金属成形体を作製し、その金属成形体の角部の外側曲げ半径Rを測定した。また、比較として金属板に曲げ用溝を形成しない従来の金属成形体の製造方法で金属成形体を作製し、その金属成形体の角部の外側曲げ半径Rを測定した。
【0028】
≪金属板の準備≫
用意した金属板は次の3種類である。板厚はいずれも0.8mmの圧延板であった。
[AZ91相当の金属板]…Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有するMg合金板
[AZ31相当の金属板]…Alを2.5質量%〜3.5質量%、Znを0.6質量%〜1.4質量%含有するMg合金板
[A5052相当の金属板]…Mgを2.2質量%〜2.8質量%、Crを0.15質量%〜0.35質量%、Siを0.25質量%以下、Feを0.4質量%以下、Cuを0.10質量%以下、Mnを0.10質量%以下、Znを0.10質量%以下含有するAl合金板
【0029】
≪曲げ用溝の形成≫
用意した各種金属板に対して研磨によって、図1(A)に示すような曲げ用溝1gを形成した。具体的には、曲げ用溝1gは、金属板1の平面部にほぼ平行する平坦な底面部と、その底面部と金属板1の平面部とを繋ぐなだらかな曲面部と、からなる。曲げ用溝の深さ(平面部と曲げ用溝1gの底面部との距離)は、0.2mmもしくは0.4mmとした。また、比較として各種金属板に曲げ用溝を形成しなかったものも用意した。つまり、組成、曲げ用溝の有無、曲げ用溝の深さが異なる合計9種類の金属板を用意した。
【0030】
≪金属板のプレス加工≫
用意した9種類の金属板をプレス加工して、図2(B)に示すような平坦な天板部(平面部)20と、その天板部20から立設する一対の平坦な側壁部(平面部)21と、を有する断面『[』状の金属成形体2を製造する。この金属成形体2の作製には、従来と同じプレス機を用いた。プレス加工の手順は、図2に示す通りである。
【0031】
まず、図2(A)に示すように、金属板1をプレート51及びダイプレート52の上に配置して、パンチ53及び押さえプレート54で挟む。その際、曲げ用溝を有する金属板1については、曲げ用溝を紙面上方に向けて配置しておく。後述するように、紙面上方が曲げの内側になるからである。
【0032】
次に、図2(B)に示すように、プレート51とパンチ53とで金属板1を挟持した状態でパンチ53を紙面下方に移動させて、金属板1の上面を曲げの内側となるように成形し、金属板1を断面『[』状の金属成形体2に成形する。ここで、パンチ53の肩部の曲げ半径Rp(図2(A)参照)は実質的に0mmであり、肩部を構成する二面が直交した構成であるため、天板部20と側壁部21とは直交する。天板部20の外周面20oと側壁部21の外周面21oとの間に角部2cが形成され、天板部20の内周面20iと側壁部21の内周面21iとの間に隅部が形成される。
【0033】
なお、プレート51,ダイプレート52,パンチ53,押さえプレート54は、図示しない加熱手段により加熱可能となっている。プレス加工の際は、部材51〜54を加熱し、金属板1の温度がそれら部材51〜54と同じ温度となった状態で金属板1をプレス加工する。プレス加工の際の加熱温度は、200℃〜300℃程度とすることが好ましく、本実施形態ではプレス加工時の加熱温度は約250℃とした。
【0034】
≪結果≫
上記手順に従い作製した各金属成形体について、天板部(平面部)20と側壁部(平面部)21の厚み方向に金属成形体を切断し、その断面をバフ研磨(ダイヤモンド砥粒#200を使用)した後、光学顕微鏡(400倍)にて観察した。その観察像に基づいて、各金属成形体の角部の外側曲げ半径Rを測定した。その測定結果を、表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
表1の結果から明らかなように、プレス加工前に金属板に曲げ用溝を形成することで、AZ91相当、AZ31相当、A5052相当の金属板のいずれにおいても、外側曲げ半径Rが平面部の厚みT以下となり、シャープエッジな角部を有する金属成形体が得られた。また、曲げ用溝の深さを金属板の板厚の3/4〜1/2とすることで、外側曲げ半径Rを、平面部の厚みTの3/4とすることができた。一方、プレス加工前の金属板に曲げ用溝を形成しなかった場合、いずれの金属板も、外側曲げ半径Rが、平面部の厚みTよりも大きく、シャープエッジな角部を有するとは言い難い金属成形体しか得られなかった。
【0037】
<実施形態2>
曲げ用溝を有する金属板を用いて作製した金属成形体の角部の外側曲げ半径Rを更にシャープにすることもできる。例えば、実施形態1で得られた金属成形体に対して特許文献1における第二のプレス工程に相当する追加加工を行なう。以下、図3を参照して、追加加工について簡単に説明する。なお、図3(B)は、追加加工を行なった後の図3(A)の丸囲み部分の拡大図である。
【0038】
追加加工では、図3に示すような凸状の段差パンチ55と、断面『[』状の凹部を有するダイ56とを用いて金属成形体2の側壁部21の端面21eを押圧する。段差パンチ55は、側壁部21の端面21eを押圧する端部押圧面55pと、金属成形体2の隅部に対応する肩部55s(図3(B)参照)と、天板部20の内周面20iに対応する主押圧面55mと、を有する。
【0039】
図3に示すように、箱型の金属成形体2の外形に嵌合する凹部を有するダイ56に金属成形体2を配置した状態で、段差パンチ55により金属成形体2の内側を押圧する。このとき、段差パンチ55の端部押圧面55pがまず側壁部21の端面21eを押圧すると、側壁部21全体が下方に移動し、側壁部21の下部構成材料がダイ56の凹部の隅部に押し集められて、凹部の隅部に倣って、金属成形体2に鋭角な角部2cが形成される。
【0040】
以上説明した追加加工を実施することで、金属成形体2の角部2cをよりシャープエッジにすることができる。押込み量によっては、角部2cの外側曲げ半径Rを実質的に0mmとすることもできる。
【0041】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるわけではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更して実施することができる。例えば、実施形態1で金属板に形成した曲げ用溝は、平坦な底面部と曲面部とを有するなだらかな形状であったが、V字溝や曲面のみからなる円弧溝であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の金属成形体は、種々の工業製品の構成部材、例えばパソコンの筐体などに好適に利用することができる。また、本発明の金属成形体の製造方法は、本発明の金属成形体の製造に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 金属板 1g 曲げ用溝
2 金属成形体 2c 角部 2p 平面部
20 天板部(平面部) 20i 内周面 20o 外周面
21 側壁部(平面部) 21i 内周面 21o 外周面 21e 端面
51 プレート 52 ダイプレート 53 パンチ 54 押さえプレート
55 段差パンチ 55s 肩部 55m 主押圧面 55p 端部押圧面
56 ダイ
200 金属成形体 200c 角部
図1
図2
図3
図4