【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属成形体は、軽金属を主体とする金属板を成形し、その成形によってできた角部を有する金属成形体であって、角部には、角部以外の平面部の厚さTよりも厚みの薄い領域が存在し、角部の外側曲げ半径R
Oが、平面部の厚さT以下であることを特徴とする。ここで、『軽金属』とは、比重が5以下の金属、具体的にはMgやAl、Be、Ti、アルカリ金属、アルカリ土類金属などである。また、『軽金属を主体とする金属板』とは、『軽金属』を質量%で50%以上含む金属板のことである。さらに、『成形』とは、金属成形体に角部が形成され得る全ての加工を含む。代表的な『成形』として、プレス加工、絞り加工、曲げ加工などを挙げることができる。
【0008】
上記本発明の金属成形体は、角部の外側曲げ半径R
Oが平面部の厚さT以下のシャープエッジな角部を有するため、スタイリッシュな見た目を備える。
【0009】
また、本発明の金属成形体の製造方法は、軽金属を主体とする金属板を成形することで金属成形体に角部を作る金属成形体の製造方法であって、次の工程αと工程βとを備えることを特徴とする。なお、『軽金属』および『軽金属を主体とする金属板』、ならびに『成形』の定義は、本発明の金属成形体と同様である。
[工程α]…金属板の一面側に曲げ用溝を形成する。
[工程β]…角部の外側曲げ半径R
Oが、角部以外の平面部の厚さT以下となるように、曲げ用溝を曲げの内側にして金属板を成形する。
【0010】
図1は、本発明の金属成形体の製造方法を簡易的に示す説明図であって、(A),(C)は成形する前の金属板に曲げ用溝を形成した状態、(B),(D)はそれぞれ(A),(B)の金属板を曲げ用溝の位置で成形することで金属成形体を作製した状態を示す。本発明の製造方法の工程αにおける曲げ用溝の形成手法としては、例えば、切削や押圧、研磨、レーザーによる溶融などを挙げることができる。切削、押圧、研磨を利用すれば、
図1(A)に示すように、金属板1の一面側に、金属板1の厚さTよりも薄い部分ができ、この薄い部分が曲げ用溝1gとなる。一方、レーザーによる溶融を利用すれば、
図1(C)に示すように、レーザーが当たった部分が溶融して凹むことで曲げ用溝1gとなる。その際、溶融した金属板1の構成材料は、曲げ用溝1gの両脇に逃げるので、曲げ用溝1gの両脇は盛り上がったように厚くなる。
【0011】
上記本発明の金属成形体の製造方法に従い、
図1(A),(C)に示すように、金属板1を成形する前に、金属板1に曲げ用溝1gを形成することで、その曲げ用溝1gの位置で金属板1を成形し易くすることができる。また、その曲げ用溝1gを有する金属板1を成形する際、曲げ用溝1gを曲げの内側にすることで、
図1(B),(D)に示すように、角部2cの外側曲げ半径R
Oが平面部2pの厚さT以下となった本発明の金属成形体2を作製することができる。本発明製造方法において金属板1に形成した曲げ用溝1gは、角部2cにおける厚みの薄い領域として本発明の金属成形体2に痕跡を残す。
【0012】
なお、厚さの均一な金属板を曲げると、角部の内周側では角部の両側から角部に向かって金属板の構成材料が寄ってきて、その分だけ角部の外周側では角部から角部の両側に向かって金属板の構成材料が逃げていき、角部の外側曲げ半径R
Oが大きくなり易い。特に、その外側曲げ半径R
Oが、角部以外の平面部の厚さT(即ち、用意した金属板の厚さT)以下になることはない。仮に、平面部の厚さTよりも大きなこの外側曲げ半径R
Oを平面部の厚さT以下とするには、例えば、特許文献1の技術のような第二のプレス工程を行なう必要がある。
【0013】
以下、本発明の金属成形体、およびその製造方法の好ましい形態について説明する。
【0014】
本発明の金属成形体の一形態として、角部における厚みの薄い領域(薄肉領域)の内周面には、研磨痕、もしくは溶融痕が形成されている形態を挙げることができる。
【0015】
曲げ用溝の表面状態は、曲げ用溝を形成する手法に応じた独特の表面状態となる。そのため、曲げ用溝の名残である薄肉領域の内周面を観察すれば、どのような手法で曲げ用溝が形成されたかを知ることができる。上記構成において研磨痕と溶融痕を挙げているのは、特に研磨もしくはレーザーによる溶融を利用して曲げ用溝を形成することが、本発明の金属成形体を作製する上で利点があるからである。その利点については本発明の製造方法の好ましい形態を説明する際に述べる。
【0016】
本発明の金属成形体の一形態として、角部の外側曲げ半径R
Oが、平面部の厚さTの3/4以下である形態を挙げることができる。
【0017】
平面部の厚さT未満の外側曲げ半径R
Oを有する角部は、非常にスタイリッシュでシャープな印象を与える。そのため、この本発明の金属成形体を用いて工業製品を作製すれば、その工業製品にもスタイリッシュでシャープな印象を持たせることができる。そこで、外側曲げ半径R
Oが平面部の厚さT未満、好ましくは3/4以下とする。上記のような外側曲げ半径R
Oを達成するには、金属板に形成する曲げ用溝の深さ(金属板の表面から曲げ用溝の最深部までの距離)を、金属板の厚さの1/3以上、1未満とすると良い。
【0018】
本発明の金属成形体の一形態として、金属成形体を構成する金属板は、Mg合金である形態を挙げることができる。
【0019】
Mg合金(純Mgを含む)は、軽量かつ高硬度である。そのため、Mg合金からなる金属成形体を用いて工業製品を作製すれば、工業製品を軽量化でき、しかもその工業製品の耐久性を向上させることができる。
【0020】
Mg合金からなる本発明の金属成形体の一形態として、Mg合金は、ASTM規格のAZ91相当材である形態を挙げることができる。
【0021】
Mg合金のうち、Mgに添加元素としてAlを含有させたMg−Al合金は、耐食性に優れる。特に、ASTM規格のAZ91相当材は、Alを8.3質量%〜9.5質量%、Znを0.5質量%〜1.5質量%含有し、非常に優れた耐食性を備える。そのため、AZ91相当材からなる金属成形体を用いて工業製品を作製すれば、工業製品の軽量化・耐久性の向上に加え、工業製品の耐食性の向上を図ることができる。
【0022】
Al以外の添加元素としては、Zn、Mn、Si、Be、Ca、Sr、Y、Cu、Ag、Sn、Ni、Au、Li、Zr、Ce及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択される少なくとも1種以上の元素が挙げられる。これらの添加元素を含有する場合、その含有量は、合計で0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%がより好ましい。これらの添加元素のうち、Si、Sn、Y、Ce、Ca及び希土類元素(Y、Ceを除く)から選択される少なくとも1種以上の元素を合計で0.001質量%以上、好ましくは合計で0.1〜5質量%含有すると、耐熱性や難燃性が向上する。また、希土類元素の場合は0.1質量%以上含有することが好ましく、その中でもYは0.5質量%以上含有することが好ましい。不純物としては、例えば、Feなどが挙げられる。
【0023】
一方、本発明の金属成形体の製造方法の一形態として、曲げ用溝は、研磨もしくはレーザーによる溶融を利用して形成する形態を挙げることができる。
【0024】
既に述べたように、曲げ用溝の形成には、切削、押圧、研磨、レーザーによる溶融など種々の手法を利用することができる。これらの手法のうち、研磨とレーザーによる溶融は、簡単で、かつ金属板の物理的特性を殆ど変えることなく曲げ用溝を形成することができるため、好ましい。特に、レーザーを用いると、非常に短時間で曲げ用溝を形成することができる。また、レーザーを用いて曲げ用溝を形成する場合、
図1(C)に示すように、溶融した構成材料が曲げ用溝1gの両脇に盛り上がる。つまり、曲げ用溝1gを有する金属板1のうち、曲げ用溝1gの部分が最も薄く、曲げ用溝1gの両脇部分が最も厚くなるため、曲げ用溝1gの両脇部分がガイドとなり、金属板1を曲げ用溝1gに沿って曲げ易くなる。その結果得られる金属成形体2の角部2cの内周面には、
図1(D)に示すように、角部2cの外側に向かって凹んだ部分と、その凹んだ部分を挟み込んで、金属成形体2の内側に盛り上がった部分と、が形成された独特の形状となる。