(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6019974
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】シンクロメッシュ機構と、それを搭載する車両用の変速装置
(51)【国際特許分類】
F16D 23/06 20060101AFI20161020BHJP
【FI】
F16D23/06 H
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-202718(P2012-202718)
(22)【出願日】2012年9月14日
(65)【公開番号】特開2014-58990(P2014-58990A)
(43)【公開日】2014年4月3日
【審査請求日】2015年8月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100066865
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 信一
(74)【代理人】
【識別番号】100066854
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 賢照
(74)【代理人】
【識別番号】100117938
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 謙二
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100068685
【弁理士】
【氏名又は名称】斎下 和彦
(72)【発明者】
【氏名】平川 修司
(72)【発明者】
【氏名】田中 恒範
(72)【発明者】
【氏名】金子 直弘
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−084538(JP,A)
【文献】
特開平10−169670(JP,A)
【文献】
特開2000−145813(JP,A)
【文献】
特開2003−278794(JP,A)
【文献】
特開2012−115863(JP,A)
【文献】
実開平06−035711(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0078283(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 11/00−23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に一体回転するクラッチハブと、該クラッチハブの外周の軸方向に摺動可能にスプライン係合されたスリーブと、ギヤと一体に回転するシンクロナイザコーンと、前記クラッチハブと前記シンクロナイザコーンとの間に配設され、前記クラッチハブと前記シンクロナイザコーンとを同期する複数のシンクロナイザーリングと、を備えるシンクロメッシュ機構において、
前記クラッチハブが、焼結金属で形成されていると共に、前記複数のシンクロナイザーリングの中で一番外周側に配置されて前記クラッチハブと接続される外側シンクロナイザーリング以外のシンクロナイザーリングが、鉄、又は鉄合金で形成されており、
前記クラッチハブを形成する焼結金属の機械的強度が、前記外側シンクロナイザーリング以外のシンクロナイザーリングを形成する鉄、又は鉄合金の機械的強度よりも低いことを特徴とするシンクロメッシュ機構。
【請求項2】
前記外側シンクロナイザーリングが、焼結金属で形成されており、
前記外側シンクロナイザーリングを形成する焼結金属の機械的強度が、前記外側シンクロナイザーリング以外のシンクロナイザーリングを形成する鉄、又は鉄合金の機械的強度よりも低いことを特徴とする請求項1に記載のシンクロメッシュ機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシンクロメッシュ機構を備えることを特徴とする車両用の変速装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸と一体に回転するクラッチハブを、シンクロナイザーリングを介してギヤに設けたシンクロナイザコーンと同期回転させるシンクロメッシュ機構と、それを搭載する車両用の変速装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用の変速装置であるマニュアルトランスミッションなどには、動力を伝達するメインシャフトと、変速により連結されるべき変速段のギヤとの回転を予め同期させることで、ギヤの変速を円滑、且つ、迅速に行い、運転手の負担を軽減するための装置として、シンクロメッシュ機構(同期噛合機構ともいう)を備えている。
【0003】
この種のシンクロメッシュ機構には、複数の摩擦面を有する、所謂マルチコーン式のシンクロメッシュ機構がある。内周面と外周面の二つのテーパー面を摩擦面として利用しているものをダブルコーン式のシンクロメッシュ機構といい、三つのテーパー面を摩擦面として利用しているものをトリプルコーン式のシンクロメッシュ機構という。
【0004】
ここで、従来のトリプルコーン式のシンクロメッシュ機構について、
図6を参照しながら説明する。この車両用の変速装置に設けられるシンクロメッシュ機構1Xは、メインシャフトSと一体に回転するクラッチハブ2と、クラッチハブ2の外周で軸方向に摺動可能にスプライン結合されたスリーブ3と、ギヤG1又はG2と一体に回転するシンクロナイザコーン4と、クラッチハブ2とシンクロナイザコーン4との間に配設され、クラッチハブ2とシンクロナイザコーン4とを同期するシンクロナイザーリング群5Xとを備える。そのシンクロナイザーリング群5Xは、アウターリング6X、中間リング7X、及びインナーリング8Xと、を備える。
【0005】
スリーブ3がシフト入力を受けて移動することにより、アウターリング6Xと接触し、アウターリング6Xを中間リング7Xに押し付ける。それと同時に、中間リング7Xは、インナーリング8Xをシンクロナイザコーン4に押し付ける。
【0006】
アウターリング6Xとインナーリング8Xはクラッチハブ2と、中間リング7Xはシンクロナイザコーン4とそれぞれ接続されており、三面の摩擦トルクでクラッチハブ2とシンクロナイザコーン4の回転数を同期させている。
【0007】
このようなシンクロメッシュ機構1Xのシンクロナイザーリング群5Xのシンクロナイザーリングとして、チャンファ部がすぐれた疲労強度を有する銅合金製熱間型鍛造シンクロナイザーリング(例えば、特許文献1参照)や、従来よりも高発熱環境下で優れた耐塑性流動性を有する銅合金製シンクロナイザーリング(例えば、特許文献2参照)がある。
【0008】
しかしながら、変速装置は、一層の高性能化が要求されており、それに伴って、シンクロナイザーリングにかかる負担は一層大きくなり、高負荷がかかっても耐え得るシンクロナイザーリングが求められている。上記の特許文献1又は2に記載のシンクロナイザーリングは銅合金で形成されており、機械的強度が低いという問題がある。
【0009】
そこで、銅合金よりも機械的強度の高い鉄合金を用いた、強度および耐摩耗性に優れる鉄基燒結合金製シンクロナイザーリング(例えば、特許文献3、又は特許文献4参照)もある。
【0010】
シンクロナイザーリング自体の機械的強度、つまりはシンクロメッシュ機構の機械的強度を向上するためには、特許文献3又は4のように、シンクロナイザーリングを鉄又は鉄合金で形成するとよいが、鉄又は鉄合金は機械的強度が高くなる反面、銅又は銅合金で形成されたシンクロナイザーリングと比べると製造が難しくなるという問題が発生する。また、銅又は銅合金で形成されたシンクロナイザーリングと比べるとコストも高くなってしまう。
【0011】
一方、同様の問題はクラッチハブにも存在する。シンクロメッシュ機構の機械的強度を高くする為にクラッチハブを鉄又は鉄合金で形成すると、シンクロナイザーリングよりもさらに複雑な形状を有するクラッチハブの製造は難しくなる。また、クラッチハブの製造を容易にするために鉄又は鉄合金よりも機械的強度の低い材料を用いると、シンクロメッシュ機構の機械的強度が低くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2001−355030号公報
【特許文献2】特開2005−163101号公報
【特許文献3】特開2001−173681号公報
【特許文献4】特開2003−027183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その目的は、機械的強度の高い材料と機械的強度の低い材料を使い分けて組み合わせることにより、機械的強度を保つことができ、且つ、容易に製造することができるシンクロメッシュ機構と、それを備える車両用の変速装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を解決するための本発明のシンクロメッシュ機構は、回転軸に一体回転するクラッチハブと、該クラッチハブの外周の軸方向に摺動可能にスプライン係合されたスリーブと、ギヤと一体に回転するシンクロナイザコーンと、前記クラッチハブと前記シンクロナイザコーンとの間に配設され、前記クラッチハブと前記シンクロナイザコーンとを同期する複数のシンクロナイザーリングと、を備えるシンクロメッシュ機構において、
前記クラッチハブ
が、焼結金属で形成されていると共に、前記複数のシンクロナイザーリングの中で一番外周側に配置されて前記クラッチハブと接続される外側シンクロナイザーリング以外のシンクロナイザーリング
が、鉄、又は鉄合金で形成されており、前記クラッチハブを形成する焼結金属の機械的強度が、前記外側シンクロナイザーリング以外のシンクロナイザーリングを形成する鉄、又は鉄合金の機械的強度よりも低い。
【0015】
また、上記のシンクロメッシュ機構において、前記クラッチハブが、前記外側シンクロナイザーリング以外のシンクロナイザーリングと同じ材料で形成した場合と略同等の機械的強度を保持するように、前記クラッチハブの、前記スリーブ、前記複数のシンクロナイザーリング、又は前記シンクロナイザコーンのいずれかと接触する部分を厚く形成することが好ましい。
【0016】
加えて、上記のシンクロメッシュ機構において、前記外側シンクロナイザーリング以外のシンクロナイザーリングを、中間シンクロナイザーリングと内側シンクロナイザーリングで構成し、前記内側シンクロナイザーリングと前記中間シンクロナイザーリングのそれぞれを鉄、又は鉄合金で形成すると共に、前記クラッチハブを焼結合金で形成することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、内側シンクロナイザーリングと中間シンクロナイザーリングを機械
的強度の比較的高い鉄又は鉄合金で形成し、クラッチハブをそれよりも機械的強度の低い焼結金属で形成すると共に、そのクラッチハブの形状を工夫することにより、機械的強度を保つことができ、且つ、どのシンクロナイザーリングよりも複雑な形状のクラッチハブを容易に製造することができる。
【0018】
クラッチハブを鉄又は鉄合金よりも機械的強度の低い材料である焼結金属で形成すると、クラッチハブの機械的強度が低下してしまうが、このクラッチハブはどのシンクロナイザーリングよりも外側にあり、且つ形状の自由度が大きいため、その形状を工夫することで強度を保つことができる。
【0019】
具体的には、クラッチハブは内周面及び外周面が摩擦接触するわけではなく制約が無いため、力を受ける部分(スリーブ、シンクロナイザーリング、又はシンクロナイザコーンのいずれかと接触する部分)の径方向の厚みを大きくすることにより、機械的強度を保つことができる。
【0020】
一方、内側シンクロナイザーリングと中間シンクロナイザーリングは、内側及び外側の両方に自身が接触する他の部品があるため、径方向又は軸方向の厚みは制約されてしまうため、形状を工夫することができない。そこで、機械的強度が高い鉄又は鉄合金で形成することで、機械的強度を保つことができる。
【0021】
よって、機械的強度の高い材料と低い材料とを組み合わすことで、機械的強度を保つことと、容易に製造することという二律背反の効果を得ることができる。
【0022】
また、クラッチハブを焼結金属で形成することにより、全てのシンクロナイザーリングとクラッチハブを鉄又は鉄合金で形成するよりも、コストを低減することができる。
【0023】
さらに、上記のシンクロメッシュ機構において、
前記外側シンクロナイザーリングが、焼結金属で形成されており、前記外側シンクロナイザーリングを形成する焼結金属の機械的強度が、前記外側シンクロナイザーリング以外のシンクロナイザーリングを形成する鉄、又は鉄合金の機械的強度よりも低いと、クラッチハブと同様に、機械的強度を保つことができ、且つ、内側シンクロナイザーリングと中間シンクロナイザーリングよりも複雑な形状の外側シンクロナイザーリングを容易に製造することができる
。
【0024】
その上、上記の目的を解決するための本発明の車両用の変速装置は、上記に記載のシンクロメッシュ機構を備えて構成される。この構成によれば、マルチコーン式のシンクロメッシュ機構の各部品の材料を用途に合わせて組み合わせることで、機械的強度を保つと共に、容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、各部品によって、機械的強度の高い材料と機械的強度の低い材料を使い分けて組み合わせることにより、機械的強度を保つことができ、且つ、容易に製造することができる。また、機械的強度の低い材料を用いることで、コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る第1の実施の形態のシンクロメッシュ機構の構成を示す斜視図である。
【
図2】本発明に係る第1の実施の形態のシンクロメッシュ機構の材料の組合せを示す表である。
【
図3】本発明に係る第1の実施の形態のシンクロメッシュ機構の断面を示す断面図である。
【
図4】本発明に係る第2の実施の形態のシンクロメッシュ機構の材料の組合せを示す表である。
【
図5】本発明に係る第2の実施の形態のシンクロメッシュ機構の断面を示す断面図である。
【
図6】従来のシンクロメッシュ機構の断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施の形態のシンクロメッシュ機構とそれを備える車両用の変速装置について、図面を参照しながら説明する。なお、実施の形態として、トリプルコーン式のシンクロメッシュ機構(同期噛合装置)を例に説明するが、本発明はこれに限らず、例えばダブルコーン式のシンクロメッシュ機構などのマルチコーン式のシンクロメッシュ機構に用いることができる。
【0028】
まず、本発明に係る第1の実施の形態のトリプルコーン式のシンクロメッシュ機構の構成について、
図1を参照しながら説明する。このシンクロメッシュ機構1は、
図6に示す従来のシンクロメッシュ機構1Xの構成と同様に、
図1に示すように、クラッチハブ2、スリーブ3、シンクロナイザコーン4、及びシンクロナイザーリング群5を備える。また、そのシンクロナイザーリング群5は、アウターリング(外側シンクロナイザーリング)6、中間リング(中間シンクロナイザーリング)7、及びインナーリング(内側シンクロナイザーリング)8を備える。
【0029】
クラッチハブ2は、図示しないメインシャフトを挿通する挿通孔9を有するリング状に形成され、その挿通孔9の内周面に設けられたメインシャフトと係合する内歯スプライン10と、外周面に設けられたスリーブ3と係合する外歯スプライン11とを備える。その外歯スプライン11は外周の周方向120°間隔で隙間を設ける。
【0030】
スリーブ3は、クラッチハブ2の外歯スプライン11に係合する内歯スプライン12を有するリング状に形成され、その内歯スプライン12に後述する凸部15と係合する凹部13を備える。
【0031】
アウターリング6は、外周にスリーブ3の内歯スプライン12と係合するチャンファ14を有するリング状に形成され、外周の周方向120°間隔で外歯スプライン11の隙間で係合し、且つ凹部13と係合する凸部15を備える。また、アウターリング6の内周面16は、テーパー状(円錐状)の面であり、接触摩擦を強化するためのハッチを刻むとよい。
【0032】
中間リング7は、シンクロナイザコーン4と係合する軸方向に突出した突起部17を有するリング状に形成され、アウターリング6と摩擦接触する外周面18とインナーリング8と摩擦接触する内周面19のそれぞれはテーパー状の面に形成される。
【0033】
インナーリング8は、クラッチハブ2と係合する軸方向に突出した突起部20を有するリング状に形成され、中間リング7と摩擦接触する外周面21と、シンクロナイザコーン4と摩擦接触する内周面22のそれぞれはテーパー状の面であり、接触摩擦を強化するためのハッチを刻むとよい。
【0034】
シンクロナイザコーン4は、ギヤG2と一体に回転するように、ギヤG2に接合され、スリーブ3と係合するチャンファ23と、中間リング7の突起部17と係合する挿入孔24と、インナーリング8と摩擦接触するテーパー状に形成されたコーン面25を備える。
【0035】
上記のシンクロメッシュ機構1の構成は、一例であり、本発明はシンクロメッシュ機構1の構成は限定せず、複数のシンクロナイザーリングを備える、あるいは複数の摩擦面を有する周知の技術のシンクロメッシュ機構に適用することができる。
【0036】
クラッチハブ2を、アウターリング6、中間リング7、及びインナーリング8からなるシンクロナイザーリング群5と同等の機械的強度の高い鉄又は鉄合金で形成すると、シンクロメッシュ機構1の機械的強度を向上することはできるが、形状が複雑なクラッチハブ2を容易に製造することはできなくなる。また、コストも高くなる。一方、クラッチハブ2とシンクロナイザーリング群5を、機械的強度の低い焼結金属で形成すると、クラッチハブ2を容易に製造することはできるが、シンクロメッシュ機構1の機械的強度を保つことができない。
【0037】
そこで、本発明に係る第1の実施の形態のシンクロメッシュ機構1は、従来では、同じ材料で形成されていたクラッチハブ2とシンクロナイザーリング群5を、
図2に示すように、アウターリング6と中間リング7とインナーリング8とを機械的強度の高い鉄又は鉄合金で形成すると共に、クラッチハブ2を、鉄又は鉄合金よりも機械的強度の低い焼結金属で形成することを特徴とする。
【0038】
なお、ここでいう鉄合金とは、鉄を主成分とする合金であり、例えば、鋼、モリブデン鋼、又はステンレス鋼などのことをいう。また、焼結金属とは、金属の粉末を所要の形に圧縮し、圧粉体を作りそれを高温で焼き固めた合金のことであり、溶解や鋳造の工程を行わずに生成されるため、複雑な形状を容易に製造することができる。この焼結金属は、内周に内歯スプライン10と外周に外歯スプライン11を有し、複雑な形状のクラッチハブ2を形成する材料として適している。
【0039】
加えて、機械的強度とは、材料に応力が加えられたときの変形挙動を表す指標であり、弾性率 、降伏強さ、塑性、引張強さ、伸び、破壊エネルギー、及び硬度などの様々な材
料の変形挙動に対する総合的な強度のことをいう。例えば、鉄又は鉄合金よりも硬度の高い焼結金属の場合でも、その他の変形挙動に対する強度が、鉄又は鉄合金よりも低い場合がある。
【0040】
クラッチハブ2は、前述したように、外周にスリーブ3の内歯スプライン12と係合し、且つアウターリング6の凸部15と係合する外歯スプライン11や、挿通孔9の内周面の内歯スプライン10を備え、シンクロナイザーリング群5と比べると複雑な形状を有している。また、クラッチハブ2は、シンクロナイザーリング群5とは異なり、摩擦接触することがない。
【0041】
よって、クラッチハブ2は形状の自由度が大きく、機械的強度の劣る材料で形成しても、形状の工夫次第で機械的強度を保つことができる。具体的には、クラッチハブ2は、内周面及び外周面が摩擦接触するわけではなくスプライン係合するため、制約が無く、力を受ける部分の径方向の厚みを大きくすることにより、機械的強度を保つことができる。
【0042】
詳しくは、
図3に示すように、スリーブ3と係合する外歯スプライン11を含む外周部の厚さD1を厚く形成することを特徴とする。この厚さD1は、
図6に示す従来のスリーブ3と係合する外歯スプライン11を含む外周部の厚さDx1よりも、径方向に厚くなっている。この外歯スプライン11を含む外周部を厚くすると、アウターリング6の凸部15との係合に対する機械的強度を向上することができる。
【0043】
これにより、クラッチハブ2を機械的強度が低い焼結金属で形成しても、クラッチハブ
2の形状を工夫すること、つまり、鉄又は鉄合金で形成した場合と略同等の機械的強度を保持するように、クラッチハブ2の力を受ける部分を径方向に厚く形成することで、機械的強度を保つことができる。
【0044】
また、クラッチハブ2を焼結金属で形成することにより、機械的強度が高い鉄又は鉄合金で製造するよりも、複雑な形状のクラッチハブ2を容易に製造することができる。
【0045】
一方、中間リング7は、外周面18がアウターリング6と摩擦接触し、内周面19がインナーリング8と摩擦接触する。また、インナーリング8は、外周面21が中間リング7と摩擦接触し、内周面22がシンクロナイザコーン4と摩擦接触する。よって中間リング7及びインナーリング8は、内側と外側の両方に摩擦接触する部品がある為、径方向の厚みは制約されてしまう。さらに、中間リング7の軸方向に突出した突起部17と、インナーリング8の軸方向に突出した突起部20は、係合したさいに力を受けると変形や破損が発生し易い。
【0046】
よって、中間リング7及びインナーリング8は、アウターリング6のように、形状を工夫して機械的強度を保つことができないため、本発明では、機械的強度が高い鉄又は鉄合金で形成することによって、機械的強度を向上することができる。
【0047】
本発明のシンクロメッシュ機構1は、クラッチハブ2と、アウターリング6、中間リング7、及びインナーリング8とを、前述したように、それぞれに適した材料で形成することにより、つまり機械的強度の高い材料と低い材料とを組み合わすことで、機械的強度を保つことと、容易に製造することという二律背反の効果を得ることができる。
【0048】
また、全て鉄又は鉄合金で形成したものと比較すると、クラッチハブ2を焼結金属で形成した分、コストを抑えることができる。
【0049】
なお、この実施の形態では、焼結金属で形成したクラッチハブ2の力を受ける部分の厚みを径方向に大きくしたが、クラッチハブ2の形状を工夫することで、機械的強度を保つように構成すればよく、本発明は上記の構成に限定しない。例えば、クラッチハブ2の全体の厚みを軸方向に大きくして、力を受ける部分の厚みを軸方向に大きくして、機械的強度を保ってもよい。
【0050】
次に、本発明に係る第2の実施の形態のシンクロメッシュ機構30について、
図4及び
図5を参照しながら説明するが、第1の実施の形態と構成は同じであるため同じ符号を用いることにする。このシンクロメッシュ機構30は、
図2の組合せに代えて、
図4に示すように、アウターリング6を鉄又は鉄合金よりも機械的強度が低
い焼結金属で形成することを特徴とする。
【0051】
アウターリング6は、クラッチハブ2と同様に、中間リング7及びインナーリング8と比べると複雑な形状を有している。また、アウターリング6の外周面は、中間リング7の外周面18及びインナーリング8の外周面21とは異なり、摩擦接触することがない。
【0052】
よって、アウターリング6も形状の自由度が大きく、機械的強度の劣る材料で形成しても、形状の工夫次第で機械的強度を保つことができる。詳しくは、
図5に示すように、中間リング7と摩擦接触する内周面16の部分の厚さD2を厚く形成することを特徴とする。また、図示しない凸部15の径方向の厚みも大きくする。この厚さD2は、
図6に示す従来の中間リング7Xと摩擦接触する内周面16Xの部分の厚さDx2よりも、径方向に厚くなっている。
【0053】
これにより、アウターリング6を機械的強度が低
い焼結金属で形成しても、アウターリング6の形状を工夫すること、つまり、鉄又は鉄合金で形成した場合と略同等の機械的強度を保持するように、アウターリング6の力を受ける部分を径方向に厚く形成することで、機械的強度を保つことができる。
【0054】
また、アウターリング6
を焼結金属で形成することにより、機械的強度が高い鉄又は鉄合金で製造するよりも、複雑な形状のアウターリング6を容易に製造することができる。
【0055】
本発明のシンクロメッシュ機構30は、クラッチハブ2及びアウターリング6と、中間リング7及びインナーリング8を、前述したように、それぞれに適した材料で形成することにより、つまり機械的強度の高い材料と低い材料とを組み合わすことで、機械的強度を保つことと、容易に製造することという二律背反の効果を得ることができる。
【0056】
また、全て鉄又は鉄合金で形成したものと比較すると、クラッチハブ2を焼結金属で形成し、アウターリング6を銅、銅合金、又は焼結金属で形成した分、コストを抑えることができる。
【0057】
上記のシンクロメッシュ機構1又は30を備える車両用の変速装置は、マルチコーン式のシンクロメッシュ機構1又は30のシンクロナイザーリング群5の材料を用途に合わせて組み合わせることで、機械的強度を保つことができ、且つ、容易に製造することができる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のシンクロメッシュ機構は、機械的強度の高い材料と機械的強度の低い材料を使い分けて組み合わせることにより、機械的強度を保つことができ、且つ、容易に製造することができるので、特に高性能化が進み高負荷がかかる車両用の変速装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1、30 シンクロメッシュ機構
2 クラッチハブ
3 スリーブ
4 シンクロナイザコーン
5 シンクロナイザーリング群
6 アウターリング(外側シンクロナイザーリング)
7 中間リング(中間シンクロナイザーリング)
8 インナーリング(内側シンクロナイザーリング)