(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
ここで、
図1を参照して、本発明の実施の形態の発電デバイスを説明する。
図1は、本発明の実施の形態の発電デバイスの概念的断面図であり、発電デバイス10は、剛体16と、剛体16を可動な状態で収容する閉鎖容器11と熱電変換素子20を備える。閉鎖容器11は、剛体16の衝突エネルギーを熱に変換する熱変換層12と、熱変換層12の外周を覆う蓄熱層13と、蓄熱層13の外周を覆うとともに開口部15を有する断熱層14を有する。
【0014】
開口部15には蓄熱層13に当接する熱電変換素子20を設け、必要に応じて熱電変換素子20の蓄熱層13に当接する面と反対の面に放熱部材21を設け、変換した電気エネルギーは一対の電気出力線22
1,22
2から取り出される。
【0015】
熱変換層12の内壁により形成される可動空間の形状は任意であるが、典型的には円筒状とし、内部に剛体16を挿入するために2つの部材から形成する。例えば、円筒の縦割りにした2つの部材としても良いし、円筒を横割にした2つの部材としても良いし、或いは、空缶状部と蓋部との組み合わせ部材でも良い。
【0016】
熱変換層12としては、弾性部材、例えば、ゴム弾性体等のエラストマーや、粘弾性を有する高分子化合物を用い、剛体16が振動により移動して熱変換層12に衝突する際に、剛体16の有する運動エネルギーの一部を吸収して、熱に変換する。この熱変換層12も円筒の縦割りにした2つの部材としても良いし、円筒を横割にした2つの部材としても良いし、或いは、空缶状部と蓋部との組み合わせ部材でも良い。
【0017】
蓄熱層13としては、発電中にさらされる温度環境下で(外部温度が20〜40℃で、振動に起因した発熱により0〜20℃の範囲で温度上昇する場合、蓄熱層の使用温度範囲は20〜60℃となる)、比熱の大きな材料を用いることが望ましく、比熱が大きいほど単位体積当たりの蓄熱量が多くなり、室温付近の使用ではCu或いはCuより比熱の大きな金属材料を用いることが望ましい。300K付近では、Cuの比熱は0.39J/(g・K)であるので、0.88J/(g・K)のAl、0.44J/(g・K)のFe、或いは、0.55J/(g・K)のTi等が好適であるが、コスト及び加工容易性の観点からCu或いはAlがより好適である。この蓄熱層13も円筒の縦割りにした2つの部材としても良いし、円筒を横割にした2つの部材としても良いし、或いは、空缶状部と蓋部との組み合わせ部材でも良い。
【0018】
断熱層14としては、発泡材料、スーパインシュレーション、真空断熱やこれらの組合せを用いる。断熱層14には少なくとも一箇所に開口部15を設け、この開口部に熱電変換素子20を挿入して、熱電変換素子20と蓄熱層13が接するように設ける。この断熱層12も円筒の縦割りにした2つの部材としても良いし、円筒を横割にした2つの部材としても良いし、或いは、空缶状部と蓋部との組み合わせ部材でも良い。
【0019】
熱電変換素子20としては、典型的にはゼーベック効果素子を用い、熱電変換素子20の蓄熱層13と接する面と反対側の面に放熱部材21を設けることが望ましく、この放熱部材21により外気への放熱を行うようにする。放熱部材21としては、CuやAlを主成分とした金属フィンを用いることが望ましい。
【0020】
剛体16としては、剛性率の大きな硬質の材料が望ましく、例えば、炭素鋼やYSZ(イットリア安定化ジルコニア)等を用いる。形状は球状が典型的なものであるが、球状に限られるものではなく、また、密閉容器11内に収容する剛体16の数は1個でも複数でも良い。
【0021】
複数の剛体16を収容した場合には、剛体16の剛性率が大きいほど、剛体同士の衝突は弾性衝突に近くなるので、運動エネルギーをロスすることがほとんどない。したがって、熱変換層12に衝突した時に振動に伴う剛体16の運動エネルギーが熱変換層12において効率良く熱に変換される。
【0022】
熱変換層12で変換された熱は、蓄熱層13に伝達されて蓄熱され、蓄熱層13に蓄積された熱は熱電変換素子20との接触部まで伝達されて電気エネルギーに変換されて、電気出力線22
1,22
2から取り出される。
【0023】
このように、本発明の発電デバイス10に機械的振動を与えることにより、内部に収容された剛体16が熱変換層12に衝突を繰り返し、熱を発生、蓄熱し、密閉容器11の内外の温度差により発電する。
【0024】
この場合、剛体16は、その3次元運動において自身の共振をもたず運動できるため、発電デバイス10の発電効率が、外力によって生じる機械的振動の振動周波数の影響を抑制できる。
【0025】
ここで、本発明の実施の形態の発電デバイスの性能を各種の前提条件のもとで評価する。
(1)外力により与えられた最大の相対速度を1.0m/s、振動周波数が50Hzの定常振動で衝突が100回/s、剛体の質量10g、密閉容器11の内寸、即ち、熱変換層12の内寸が1辺4cmの立方体、断熱層14の厚さが5cm、断熱層14の熱伝導率が
0.0010〜0.0013Wm
−1K
−1(金属シートを外壁とした断熱層の内部にグラスファイバー繊維を断熱部材の外形形状を保持するように配置して真空引きした構造の断熱部材)、また、熱電変換素子20の性能指数ZT=1とする。この様な条件で、室温付近で動作させる場合、時間当たりに熱に変換されるエネルギーは約1W、断熱層14の内表面と外表面との温度差が約0.43℃の時、断熱層14を経由して散逸する熱エネルギーは約1Wと計算でき、温度平衡状態になる。なお、簡易的には熱伝導率が0.01〜0.001Wm
−1K
−1範囲のVacuum Insulation Panel(VIP)と呼ばれる市販の断熱材パネルを用いることができる。
【0026】
(2)上記の(1)の前提条件のうち、断熱層の厚さを2.5cmとし、周波数を上げ300Hzの定常振動数で衝突が600回に変更した場合、時間当たりに熱に変換されるエネルギーは約6Wになる。断熱層14の内表面と外表面との温度差が約1.3℃の時、断熱層14を経由して散逸する熱エネルギーは約6Wと計算でき、温度平衡状態になる。
【0027】
(3)放熱側が外気温度と同じで理想的な状態で、1.3℃が熱電変換素子20の吸熱側と放熱側の温度差T
h−T
cに等しい場合、ZT〜1.0の熱電変換素子20の変換効率は約0.728%と換算されるので、面積が3cm
2の熱電変換素子の場合、出力は約270μWと計算される。
【0028】
(4)上記(3)の前提条件のうち、放熱効率が理想的でなく、放熱部材21による放熱の結果、吸熱側と放熱側の温度差が1.3℃の半分になる場合は、出力は約67.5μWとなる。
【0029】
(5)上記(3)の前提条件のうち、断熱層14の厚さを0.5cmとして閉鎖容器11を真空断熱、断熱壁面の熱放射率をアルミなどの金属表面の鏡面仕上げにより、0.1とすることで、温度差を1.0℃とした場合、真空断熱層の熱伝導は約1.8μW/m
2と見積もられる。0.0010〜0.0013Wm
−1K
−1の断熱層(0.2mm厚のステンレス鋼SUS304等の金属シートを外壁とした断熱層の内部にグラスファイバー繊維を断熱部材の外形形状を保持するように配置して真空引きした構造の断熱部材、 同様熱伝導率の市販品例:U−Vacua(熱伝導率0.0012Wm
−1K
−1、パナソニック株式会社 アプライアンス社製))の熱伝導は2.5cm厚のとき0.048W/m
2であるため、設計の最適化で断熱材の厚さを低減することができる。
【0030】
なお、このような発電デバイスを温度センサ、湿度センサ或いは振動センサ等のセンサ及び送信器と組み合わせ、発電デバイスの出力をセンサ及び送信機の電源とすることによって、外部電源や電池を必要としないセンシングシステムを構築することができる。
【実施例1】
【0031】
次に、
図2及び
図3を参照して、本発明の実施例1の振動型発電デバイスを説明する。
図2は本発明の実施例1の振動型発電デバイスの概略的断面図であり、振動型発電デバイス30は、密閉容器31と、密閉容器31内に収容された一個のYSZ球36と、熱電変換モジュール40を備えている。熱電変換モジュール40の放熱側には放熱効率を高めるためにAl放熱フィン46を設ける。
【0032】
密閉容器31は、熱変換層となるエラストマー層32と、Al蓄熱層33と開口部35を設けた断熱層筐体34を備えており、開口部35において、熱電変換モジュール40の吸熱側をAl蓄熱層33に接触するように設ける。なお、エラストマー層32及びAl蓄熱層33は横2つ割の部材で形成し、また、断熱層筐体34はお茶缶のように端部が差し込み構造となった横2つ割の部材で形成している。
【0033】
エラストマー層32の内寸は、直径45mmで高さが45mmであり、厚さは25mmである。Al蓄熱層33は、厚さが2mmであり、また、断熱層筐体34の厚さは30mmである。また、開口部35のサイズは3mm×3mmである。また、閉鎖空間内に収容するYSZ球36の直径は15mmである。
【0034】
図3は、本発明の実施例1の振動型発電デバイスに搭載する熱電変換モジュールの説明図であり、
図3(a)は発電ユニットの斜視図であり、
図3(b)は熱変換モジュールの透視斜視図である。
図3(a)に示すように、発電ユニットは、100μm×100μm×高さ200μmのBi
2Te
3からなるp型熱電変換材料部材41と100μm×100μm×高さ200μmのBi
0.3Sb
1.7Te
3からなるn型熱電変換材料部材42を真空EB蒸着により0.5μm厚さで形成したNi膜またはNi-Cu合金膜をインタフェース金属層として介在させ、インタフェース金属層とCu膜からなる電極43を融点200°以下のはんだ材料で加熱接合して形成する。このCu膜は、この接合前に予めアルミナ等の板厚0.25mmのセラミック板44
1,44
2上にスクリーン印刷法で配線パターンを形成して、還元雰囲気で焼成して形成しておく。なお、
図3(a)部分はp型部材,n型部材を各1個ずつから成る1対の熱電素子を示す。
【0035】
図3(b)に示すように、このような発電ユニットをp型熱電変換部材41とn型熱電変換部材42が交互に隣接するように配置して電極43により直列接続させ、その上下にセラミック板44
1,44
2を設ける。また、出力部となる最終端部の電極43に電気出力線45
1,45
2を接続し、熱電変換素子のモジュールとする。
図3(b)では、図示の簡潔化のため、8対の場合を示しているが、例えば200対とすることで、0.07〜0.08V/℃を得ることができる。20mV以上あれば、電圧をDC/DC昇圧コンバータで通常の電子回路の所要の駆動電圧に応じ、例えば1〜4Vに昇圧、定電圧出力を行う。
【0036】
このように、本発明の実施例1においては、機械振動を閉鎖空間に収容したYSZ球36の衝突運動に変換し、この運動エネネルギーをエラストマー層32との衝突で熱に変換している。したがって、どのような振動周期で振動している振動源に接触させてもその振動周期の影響を受けずに効率良く電気エネルギーに変換することができる。
【0037】
なお、この実施例1においては、閉鎖空間を常圧の大気としているが、気体による振動状態への影響を低減でき、気体と剛体間の運動干渉が低減でき、剛体形状と気体による共振の発生を抑制できるので、真空状態にしたり、或いは、希ガス等の空気に比べて粘性の少ない気体を封入しても良い。
【実施例2】
【0038】
次に、
図4を参照して、本発明の実施例2の振動型発電デバイスを説明するが、この実施例2の振動型発電デバイスは、上記の実施例1の振動型発電デバイスと基本構造は同一であり、閉鎖空間内に収容する剛体の材料と個数が異なる。
【0039】
図4は、本発明の実施例2の振動型発電デバイスの概略的断面図であり、実施例1と同様に、振動型発電デバイス30は、エラストマー層32、Al蓄熱層33及び断熱層筐体34を備えた密閉容器31と、断熱層筐体34に設けた開口部35に配置した熱電変換モジュール40を備えている。熱電変換モジュール40の放熱側には放熱効率を高めるためにAl放熱フィン46を設ける。但し、この実施例2においては、閉鎖空間内に直径が7.14mm(インチ呼び径9/32)の炭素鋼球37を複数個収容する。ここでは、収容する炭素鋼球37の個数は7個とするが、炭素鋼球37のサイズ及び個数は密閉容器31の内部を可動できる範囲であれば良く、7.14mm及び7個に限定されない。
【0040】
本発明の実施例2においては、複数の炭素鋼球37を収容しているが、炭素鋼球37同士の衝突は弾性衝突に近くなるので、運動エネルギーが球同士の衝突により熱エネルギーへ変化する割合は、エラストマー層32に衝突する場合に比べ少ない。一方、エラストマー層32に衝突した時に炭素鋼球37の運動エネルギーはエラストマー層32において、相対的に効率良く熱に変換される。また、炭素鋼球37が1個の場合に比べ、容器を動かし、炭素鋼球37が容器内壁に衝突したときの反力の方向や衝突タイミングを分散しやすい。なお、炭素鋼球37に代え、セラミックス材料のうち高破壊靱性(約5.0MPam
1/2)、高曲げ強度(1.0GPa以上)が得られるYSZの球も用いることができる。
【実施例3】
【0041】
次に、
図5を参照して、本発明の実施例3の振動型発電デバイスを説明するが、基本的構成は上記の実施例1の振動型発電デバイスと同様であり、断熱層筐体の底部に粘着層を設けたものである。
【0042】
図5は、本発明の実施例3の振動型発電デバイスの概略的断面図であり、実施例1と同様に、振動型発電デバイス30は、エラストマー層32、Al蓄熱層33及び断熱層筐体34を備えた密閉容器31と、断熱層筐体34に設けた開口部35に配置した熱電変換モジュール40を備えている。熱電変換モジュール40の放熱側には放熱効率を高めるためにAl放熱フィン46を設ける。
【0043】
但し、この実施例3においては、断熱層筐体34の底部に粘着層38を設け、この粘着層38を保護するように剥離シート39を設けたものである。使用時には、剥離シート39を剥離して、露出した粘着層38により振動型発電デバイス30を振動源に粘着すれば良い。
【0044】
本発明の実施例3においては、予め粘着層38を設けているので、振動型発電デバイスを橋梁やモーター等の振動源に固定するときに、締め付け部材等の固定器具が不要になり、ワンタッチで装着することができる。
【実施例4】
【0045】
次に、
図6を参照して、本発明の実施例4のセンシングシステムを説明する。
図6は、本発明の実施例4のセンシングシステムの概念的構成図であり、振動源50に対して振動型発電デバイス30を固定するとともに、センサ61及び送信機62を備えた警報モジュール60を固定する。また、このモジュール60は、DC−DC昇圧コンバータと電圧レギュレータと2次蓄電池ないし電気2重層キャパシタを実装した電源部、マイクロコントーラを搭載した制御回路部を備える。警報モジュール60には電気出力線45
1,45
2を介して振動型発電デバイス30から電力を供給する。なお、ここでは、振動型発電デバイスとして、実施例3に示した振動型発電デバイス30を用いて、粘着層38を利用して振動源50に固定する。
【0046】
例えば、橋梁等の振動源50に振動型発電デバイス30を固定し、その振動を電気エネルギーに変換する。センサ61として、振動センサを用いた場合、振動源の振動とは異なる地震による重力加速度の変動を検知し、その検出結果を地震情報として、送信機62により橋を走行している車両に報知することができる。
【0047】
このように、本発明の実施例4においては、センシングシステムの電源として振動型発電デバイスを用いているので、警報モジュール60に対して外部電源を用意する必要はなく且つそのために配線を設ける必要もなくなる。
【0048】
なお、上記の実施例4においては、橋梁に設ける地震警報システムの電源として説明しているが、振動源はモーターや工作機械等でも良く、また、センサとして温度センサ或いは湿度センサを用いても良い。この場合には、モーターや工作機械の局所的な箇所に振動型発電デバイスと警報モジュールを固定することによって、局所的な温度管理や湿度管理を簡便に行うことができる。
【0049】
ここで、実施例1乃至実施例4を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を付す。
(付記1)剛体と、前記剛体を可動な状態で収容する閉鎖容器とを備え、前記閉鎖容器は、前記剛体の剛性率より剛性率が低く前記剛体の衝突エネルギーを熱に変換する熱変換層と、前記熱変換層の外側の表面を覆う蓄熱層と、前記蓄熱層の外側の表面を覆うとともに開口部を有する断熱層と前記開口部に設けられて前記蓄熱層に当接する熱電変換素子とを備えることを特徴とする発電デバイス。
(付記2)前記剛体を複数収容することを特徴とする付記1に記載の発電デバイス。
(付記3)前記熱変換層が、エストラマーまたは粘弾性を有する高分子化合物からなることを特徴とする付記1または付記2に記載の発電デバイス。
(付記4)前記蓄熱層が、Cuと同じまたはCuより比熱の大きな金属または合金からなることを特徴とする付記1乃至付記3のいずれか1に記載の発電デバイス。
(付記5)前記剛体が、炭素鋼またはイットリア安定化ジルコニアからなることを特徴とする付記1乃至付記4のいずれか1に記載の発電デバイス。
(付記6)前記断熱層の外側の少なくとも一部に設けられた粘着層と、前記粘着層の表面に設けられた剥離シートとを有することを特徴とする付記1乃至付記5のいずれか1に記載の発電デバイス。
(付記7)振動源と、前記振動源に固定された付記1乃至付記
5のいずれか1に記載の発電デバイスと、前記発電デバイスを電源とするセンサ素子とを備えたことを特徴とするセンシングシステム。
(付記8)振動源と、前記振動源に前記剥離シートを剥離した状態で前記粘着層により固定された付記6に記載の発電デバイスと、前記発電デバイスを電源とするセンサ素子とを備えたことを特徴とするセンシングシステム。
(付記
9)前記センサ素子の検出結果を送信する送信機を備えており、前記送信機は前記発電デバイスを電源としていることを特徴とする付記
8に記載のセンシングシステム。