(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記外乱成分設定部は、アクセル操作部及びブレーキ操作部のいずれかが作動状態にあるときに、前記定速走行制御の停止中であると判断し、前記アクセル操作部及び前記ブレーキ操作部のいずれもが非作動状態にあるときに、前記定速走行制御の作動中であると判断する請求項1乃至5のいずれか1項に記載の車両用走行支援装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を説明する。
(第1実施形態)
(構成)
図1は、本発明の第1実施形態の全体構成を示す図であり、本発明に係る車両用走行支援装置を適用した自動車1のモデルを示す概念図である。
【0010】
本実施形態における自動車1は、電動モータ2を駆動源とした電気自動車であり、電動モータ2から出力された駆動力が入力される変速機3と、その変速機3の出力側に連結され車両幅方向に延びるドライブシャフト4と、そのドライブシャフト4の両端に設けられた左右の駆動輪5、5と、を備えていて、ドライブシャフト4に変速機を介して伝達された電動モータ2の駆動力が駆動輪5、5に伝達されるようになっている。
【0011】
また、この自動車1は、駆動輪5の回転数に基づいて車速(実車速)を検出する車速センサ7と、ドライバによる踏み込み操作が可能なアクセルペダル8と、そのアクセルペダル8の踏み込み量を検出するアクセル操作検出装置9と、を備えている。そして、コントローラ6には、車速センサ7が出力する車速検出信号Vdと、アクセル操作検出装置9が出力するアクセル操作検出信号Adとが供給されるようになっている。
【0012】
コントローラ6は、図示しないCPUやドライバ回路などを備えて構成されていて、供給される車速検出信号Vd及びアクセル操作検出信号Adに基づき、後述する演算処理を実行して、電動モータ2に対して指令電流Ioutを出力してその回転方向や駆動力を制御するようになっている。なお、この実施形態では、電動モータ2は、自動車1の駆動力を生成するとともに、回生による制動力を発生するようにもなっている。つまり、電動モータ2は、制駆動アクチュエータとして機能するものであるが、回生による制動力とは別に、駆動輪5や図示しない従動輪に対して摩擦による制動力を発生する機械的なブレーキ装置を設け、電動モータ2による回生ブレーキと機械的なブレーキ装置とを併用するようにしてもよい。
【0013】
図2は、第1実施形態の全体的な機能構成を示すブロック図である。
即ち、
図2に示すように、コントローラ6は、ドライバ加減速要求推定部6Aと、指令値算出部6Bと、サーボ補償器6Cと、加算器6Dと、実加速度検出部6Eと、を備えている。
【0014】
ドライバ加減速要求推定部6Aは、アクセル操作検出装置9から供給されるアクセル操作検出信号Adに基づき、自動車1のドライバが要求している加速度の推定値を求めるようになっている。具体的には、ドライバ加減速要求推定部6Aは、基本的には、アクセル操作検出信号Adの大きさに所定のゲインを乗じることでドライバが要求している加速度の推定値Geを求めるようになっている。また、推定値Geの求め方は、これに限定されるものではなく、例えば、アクセル操作検出信号Adの二乗に比例して求めることも可能であるし、或いは、アクセル操作検出信号Adの絶対値とその変化量(微分値)とに基づいて求めることも可能である。ただし、内燃機関を駆動源とした車両の運転特性に慣れているドライバのことを考え、推定値Geは、アクセル操作検出信号Adの変化に対して若干の遅れを伴うような特性に設定することが望ましく、本実施形態でも、そのような遅れ成分を設定している。
【0015】
また、ドライバ加減速要求推定部6Aは、ドライバがアクセルペダル8を操作しているときには、そのときのアクセルペダル8の開度を表すアクセル操作検出信号Adに応じた推定値Geを常に更新しつつ出力する。一方、ドライバ加減速要求推定部6Aは、ドライバがアクセルペダル8から足を離したときには、ドライバは、自身の操作によらず自動的に車速を制御する定速走行制御の開始を意図したと判断し、その離す直前に設定されていた推定値Geを保持するようになっている。なお、ドライバが、ハンドルに設けられたスイッチを操作することで定速走行制御の開始をシステム側に通知するような構成を備える自動車の場合には、そのスイッチを操作したときに、ドライバは定速走行制御の開始を意図したと判断し、そのときの推定値Geを保持するようにしてもよい。
【0016】
そして、ドライバ加減速要求推定部6Aが求めた推定値Geと、実加速度検出部6Eで演算される実加速度Gdとが、指令値算出部6Bに供給されるようになっている。
指令値算出部6Bは、供給される推定値Geに基づき、所定の演算処理を実行して、現時点の自動車1の加速度として最適な加速度である規範加速度Gcと、現時点の自動車1の走行速度として最適な速度である規範車速Vcとを求める。さらに、指令値算出部6Bは、現在の加速度(実加速度)Gdと規範加速度Gcとの差である加速度差(Gd−Gc)に基づき、加速度指令値Gdifを演算し出力するようになっている。
【0017】
サーボ補償器6Cは、指令値算出部6Bから供給される加速度指令値Gdifに基づき、加速度としての制御指令値であるアシストトルクGoutを生成し出力する。
そして、加算器6Dにおいて、推定値GeとアシストトルクGoutとを加算し、それを電動モータ2に対する指令電流Ioutとして出力するようになっている。
実加速度検出部6Eは、車速センサ7から供給される自動車1の現在の走行速度Vd(実速度)を微分して、自動車1の前後方向の走行加速度である実加速度Gdを推定する。実加速度検出部6Eは、推定した実加速度Gdを指令値算出部6Bに供給する。
【0018】
なお、本実施形態では、車速センサ7から供給される車速検出信号Vdを微分することで自動車1の前後方向の実加速度Gdを推定する構成としたが、この構成に限らず、加速度センサによって自動車1の前後方向の実加速度Gdを検出する構成としてもよい。
図3は、各信号の流れが全体的に見えるように本実施形態のシステム構成を表現したブロック図であり、指令値算出部6Bが、推定値Geに基づいて規範加速度Gcを算出する規範車両モデル10と、実加速度Gdと規範加速度Gcとの差Gdif(Gd−Gc)を演算する減算器11とから構成されている点を示している。
【0019】
そして、規範加速度Gcを算出するための規範車両モデル10は、本実施形態では、
図4に示すように構成されている。
即ち、規範車両モデル10は、予め定められた一定値である転がり抵抗成分R1を記憶した転がり抵抗成分記憶部10aと、規範車速Vcに基づいて空気抵抗成分R2を設定する空気抵抗成分設定部10bと、を備えている。
【0020】
空気抵抗成分設定部10bは、規範車速Vcの二乗値(Vc
2)に固定のゲインKを乗じることで、車速に応じて増大する空気抵抗成分R2を演算するようになっている。
なお、転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2は、いずれも車両の走行速度を低減させる方向に作用する外乱成分であるため、それらの符号は、推定値Geとは逆のマイナスである。
【0021】
そして、転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2は、それぞれ選択部10c、10dに供給されるようになっている。
一方、選択部10c、10dのそれぞれには、転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2の他に、「0」が供給されている。また、選択部10c、10dのそれぞれには、アクセルOFFフラグ設定部10eから、フラグFaが供給されるようになっている。ここで、フラグFaは、本実施形態においてアクセル操作部に対応するアクセルペダル8が操作されていないときにセット状態となるフラグである。さらに、フラグFaは、アクセルペダル8が操作されているときに非セット状態となるフラグである。
【0022】
そして、選択部10c、10dのそれぞれは、フラグFaが非セット状態であるときには転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2を出力し、フラグFaがセット状態であるときには「0」を出力するようになっている。つまり、選択部10c、10dは、フラグFaが非セット状態であるときには、転がり抵抗成分記憶部10a、空気抵抗成分設定部10bから供給される転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2をそのまま出力する。一方、選択部10c、10dは、フラグFaがセット状態になった後には、転がり抵抗成分記憶部10a、空気抵抗成分設定部10bから供給される転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2の値に関係なく、それら転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2を強制的に「0」に設定し直してから出力するようになっている。
【0023】
選択部10c、10dの出力は、推定値Geと共に、加算器10fに供給されるようになっている。
即ち、加算器10fは、推定値Geと、選択部10c、10dの出力とを加算するものである。ただし、選択部10c、10dから転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2が出力されているときには、それら転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2の符号はマイナスとなる。そのため、加算器10fにおける演算は、符号まで考えると、Ge−(R1+R2)となるから、この加算器10fは、実質的には減算器として機能する。なお、フラグFaがセット状態であるときには、選択部10c、10dは「0」を出力するため、加算器10fの出力は推定値Geそのものとなる。
【0024】
さらに、規範車両モデル10は、除算器10gと、積分器10hとを備えている。除算器10gは、加算器10fの出力値を自動車1の質量Mで除算することで目標加速度としての規範加速度Gcを演算するものである。積分器10hは、除算器10gから供給される規範加速度Gcを積分することで、規範車速Vcを演算するものである。
そして、除算器10gから出力された規範加速度が、規範車両モデル10の出力として
図3の減算器11に供給されるとともに、積分器10hから出力された規範車速Vcが、空気抵抗成分設定部10bに供給されるようになっている。
【0025】
図5は、各値の時間変化の一例を示す波形図であり、アクセル操作検出信号Ad、推定値Ge、フラグFa、転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2、規範加速度Gcのそれぞれを示している。なお、転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2は、その符号はマイナスであるが、この
図5では絶対値で表記している。
この
図5は、時刻t0から時刻t1の間は、ドライバによるアクセルペダル8の踏み込み量はほぼ一定で、時刻t1を過ぎた辺りから徐々にアクセルペダル8の踏み込み量を減少させ、時刻t2においてアクセルペダル8から完全に足を離した様子を示している。
【0026】
この場合、推定値Geは、時刻t1を超えた後は、アクセル操作検出信号Adの変化に対して若干遅れる傾向で減少するが、時刻t2においてドライバがアクセルペダル8から完全に足を離したときには、推定値Geも0となっている。
ドライバ加減速要求推定部6Aは、時刻t2においてドライバが定速走行制御の開始を意図したと判断し、その時刻t2の直前(例えば、時刻t1)における推定値Geを、時刻t2以降は定速走行制御用の推定値Ge'として保持する。
【0027】
フラグFaは、時刻t2に至るまでは非セット状態であり、時刻t2に至った時点でセット状態となる。
転がり抵抗成分R1は、時刻t2に至るまでは、転がり抵抗成分記憶部10aに記憶されている一定値となっているが、時刻t2に至った後は0となる。
同様に、空気抵抗成分R2は、時刻t2に至るまでは、規範車速Vcの二乗に比例した値となっているが、時刻t2に至った後は0となる。
【0028】
そして、規範加速度Gcは、時刻t0から時刻t1の間は、推定値Geが一定となっているため、これに伴いほぼ一定となっている。
一方、時刻t1から時刻t2の間は、ドライバが徐々にアクセルペダル8の踏み込み量を減少させるため、これによる推定値Geの減少に伴って、若干の遅れをもって規範加速度Gcも減少していく。そして、時刻t2において、ドライバがアクセルペダル8から完全に足を離すため、推定値Geが0になる。加えて、時刻t2において、フラグFaがセット状態になるため、転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2がともに0となる。これによって、規範加速度Gcも0となる。
【0029】
(動作)
次に、動作を説明する。
図6は、本実施形態における処理の概要を示すフローチャートである。
即ち、自動車1の電源が投入されていると、コントローラ6には、アクセル操作検出信号Ad及び車速検出信号Vdが供給され、それら各値に基づいて
図6に示す処理が所定サンプリングクロックに同期して繰り返し実行される。
【0030】
そして、
図6のステップ100では、ドライバ加減速要求推定部6Aにおいて、アクセル操作検出信号Adに基づいて、ドライバ加減速要求の推定値Geが求められる。次に、ステップ110に移行し、規範車両モデル10において、推定値Geに基づいて、規範加速度Gcおよび規範車速Vcが求められる。次に、ステップ120に移行し、減算器11において、規範加速度Gcと実加速度Gdとに基づいて加速度指令値Gdifが演算される。そして、その加速度指令値Gdifがサーボ補償器6Cを介してアシストトルクGoutとなって出力され、最終的に、電動モータ2に指令電流Ioutが出力される。
【0031】
従って、電動モータ2は、ドライバによる加減速の要求を表す推定値Geと、自動車1の実際の加速度Gdを規範加速度Gcに一致させるために必要な加速度指令値Gdifとを合算してなる指令電流Ioutによって回転駆動されることになる。
図6に示す処理は、上記の内容を繰り返し実行するというものであるが、定速走行制御の開始を意図したドライバがアクセルペダル8から足を離したとすると、それ以降はフラグFaがセット状態となり、転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2が0となる。しかし、単に車速に影響を与える抵抗成分R1、R2が0になったということだけで、定速走行制御の開始前後では演算処理の内容は同一である。
【0032】
特に、
図4に示すように、規範車両モデル10は、定速走行制御の開始前から規範加速度Gcを求め続けるという構成であるため、
図5に示すように、定速走行制御が開始された時刻t2を境に規範加速度Gcが急に切り替わることはない。よって、指令電流Ioutが時刻t2を境にステップ的に変化するようなこともない。
このため、定速走行制御の開始時点で新たに定速走行制御のための演算処理が開始されるのとは異なり、定速走行制御が円滑に開始されることになる。
【0033】
図7は、本実施形態の構成を実車で実現し走行したときの規範加速度Gc、実加速度Gd及びアシストトルクGoutの時間変化を示す波形図であり、時刻t10において平坦路でアクセルペダル8を踏み込んで自動車1は発進し、時刻t20において平坦路から下り坂に移行したところでアクセルペダル8から足を離すことで定速走行制御が開始された場合を示している。
【0034】
そして、時刻t10を経過した直後に比較的大きな加速側のアシストトルクGoutが発生し、その後にも、比較的大きな加速側のアシストトルクGoutが発生しているが、時刻t20を経過した直後には比較的大きな減速側のアシストトルクGoutが発生している。
しかしながら、実加速度Gdについては、規範加速度Gcとの差は、発進直後も、定速走行制御の開始直後も、特に大きくなってはいない。
【0035】
ここで、従来の定速走行制御装置では、平坦路から上り坂に移行した直後に定速走行制御が開始された場合、制御開始直後には実車速は目標車速に対して低い方向に大きく外れてしまい、その後、目標車速に一致するように加速制御が行われることになる。逆に、平坦路から下り坂に移行した直後に定速制御が開始された場合には、制御開始直後には実車速は目標車速に対して高い方向に大きく外れてしまい、その後、減速制御が行われることになる。このため、従来の定速走行制御装置では、制御開始直後に車両の加減速が発生し易く、その分、乗り心地が悪化することになる。なお、これを防止するために、目標車速と実車速との偏差に対して素早く加減速が行われるようにフィードバック制御における例えば微分制御のゲインを大きくするという対応策もある。しかしながら、微分制御の影響が大きくなれば頻繁に加減速が行われ、平坦路走行中における定速走行制御実行時に乗り心地が悪化してしまうため、得策ではない。
【0036】
これに対して、本実施形態では、規範車両モデル10を用いて常に規範加速度Gcを算出し、定速走行制御の停止中も開始後もその規範加速度Gcに実際の加速度Gdが一致するような制御を継続して実施している。そのため、平坦路から上り坂に移行した直後に定速走行制御が開始された場合や、上記
図7に示したように、平坦路から下り坂に移行した直後に定速走行制御が開始された場合でも、実加速度Gdと規範加速度Gcとの差を比較的小さくすることができるので、定速走行制御を円滑に開始することができる。
【0037】
ここで、本実施形態にあっては、ドライバ加減速要求推定部6Aが加減速要求推定部に対応する。転がり抵抗成分記憶部10a及び空気抵抗成分設定部10bが外乱成分設定部に対応する。加算器10f及び除算器10gが目標加速度演算部に対応する。実加速度検出部6Eが実加速度検出部に対応する。積分器10hが目標車速演算部に対応する。車速センサ7が実車速検出部に対応する。減算器11、サーボ補償器6C及び加算器6Dが加減速制御部に対応する。アクセルペダル8がアクセル操作部に対応する。
【0038】
(第1実施形態の効果)
(1)定速走行制御の停止中も作動中も規範車両モデル10を用いて規範加速度Gcを演算し、自動車1の実加速度Gdがその規範加速度Gcに一致するようにアシストトルクGoutをドライバ加減速要求に加えるという制御が実行されるため、定速走行制御が円滑に開始され、車両乗り心地が悪化する可能性が低いという効果がある。また、自動車1の走行速度の制御を加速度を制御量としてサーボ補償器6Cを用いて行うようにしたので、路面の勾配が急激に変わるシーンなどにおいて、サーボ性能が高くなり、定速走行制御の円滑な開始をドライバに体感させることができるという効果がある。
【0039】
(2)フラグFaがセット状態となったことを契機としてそれまで0よりも大きい値であった転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2を強制的に0にした上で、定速走行制御作動中の規範加速度Gcを算出するという構成であるため、構成が簡易で済み、容易に定速走行制御を開始することができる。
(3)定速走行制御の停止中は推定値Geを更新し、定速走行制御の作動中はドライバが定速走行制御の開始を意図したときの推定値Geを保持するようにしてあるから、規範車両モデル10を用いた構成であっても、従来の定速走行制御と同様にドライバの意図した走行状況を定速走行時に実現することができる。
【0040】
(4)規範車両モデル10内の外乱成分として、転がり抵抗成分R1と空気抵抗成分R2とを用いているため、規範加速度Gcを、実際の車両に作用する外乱成分を加味して精度良く求めることができる。
(5)転がり抵抗成分R1として、予め定めた一定値を記憶しておき、フラグFaが非セット状態であるときにはその一定値の転がり抵抗成分R1を用いて規範加速度Gcを求めているため、実車における転がり抵抗成分を考慮して規範加速度Gcを求めることができる。
【0041】
(6)規範車両モデル10を用いて規範加速度Gcから規範車速Vcを求め、空気抵抗成分R2を、この規範車速Vcの二乗値(Vc2)に固定のゲインKを乗じることで求めているため、実際の車速の二乗に比例して増大する空気抵抗成分を精度良く求めることができる。
(7)定速走行制御を開始させるためにアクセルペダル8から足を離すという動作に連動して、フラグFaがセット状態となって外乱成分を強制的に0にするという構成であるから、従来の定速走行制御のシステムに比較してもドライバの操作が増えることもない。
【0042】
(第2実施形態)
図8乃至
図10は、本発明の第2実施形態を示す図であり、
図8は、第2実施形態における自動車1のモデルを示す概念図である。なお、上記第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付し、その重複する説明は省略する。
即ち、本実施形態では、アクセルペダル8の他にドライバが操作可能なブレーキペダル20と、そのブレーキペダル20の踏み込み量を検出するブレーキ操作検出装置21と、を備えている。そして、コントローラ6には、車速センサ7が出力する車速検出信号Vdと、アクセル操作検出装置9が出力するアクセル操作検出信号Adと共に、ブレーキ操作検出装置21が検出したブレーキ操作検出信号Bdが供給されるようになっている。
【0043】
そして、
図9に示すように、コントローラ6のドライバ加減速要求推定部6Aには、アクセル操作検出信号Ad及びブレーキ操作検出信号Bdが供給されている。ドライバ加減速要求推定部6Aは、それらアクセル操作検出信号Ad及びブレーキ操作検出信号Bdに基づき、推定値Geを求めるようになっている。
即ち、上記第1実施形態では、ドライバはアクセルペダル8だけで加速及び減速の両方を制御するという前提で説明を行っているが、この第2実施形態では、ブレーキペダル20を踏み込むことでも減速操作を行えるようになっている。
【0044】
図10は、
図5と同様の波形図である。この
図10に示す波形図でも、アクセル操作検出信号Adが時刻t1から徐々に減少し時刻t2において0になっている。これに対し、ブレーキ操作検出信号Bdは、時刻t3に至るまでは0を維持しているが、時刻t3においてドライバがブレーキペダル20を踏み始め、そこから徐々に踏み込み量が増大し、時刻t4において最大踏み込み量に至り、それ以降はその状態が維持されている。なお、ブレーキ操作検出信号Bdは、減速操作に対する信号であるため、本来ならばアクセル操作検出信号Adとは符号が逆であるが、この
図10では絶対値で表記している。また、規範加速度Gcもブレーキ操作検出信号Bdと同じく、時刻t3以降においてBdの大きさに応じたBdと同じ符号の値を有するが、この
図10では絶対値で表記している。
【0045】
このようなアクセル操作検出信号Ad及びブレーキ操作検出信号Bdの変化に対応し、フラグFaは、時刻t2において一旦セット状態なった後に、時刻t3において再び非セット状態に戻っている。同様に、転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2も、時刻t2において強制的に0となった後に、時刻t3において、転がり抵抗成分R1は、時刻t2以前の値に復帰し、空気抵抗成分R2は、その時点の規範車速Vcに基づいた値となっている。
【0046】
規範加速度Gcは、時刻t2以降は定速走行制御に移行したことに応じて0に固定されている。そして、時刻t3においてブレーキペダル20が踏み込まれたことに応じて定速走行制御自体が停止し、時刻t3以降はその時点のブレーキ操作検出信号Bdに応じた推定値Geが更新されて規範車両モデル10に供給される。更に、上記のように転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2も0よりも大きい値となる。よって、規範加速度Gcは、時刻t3以降はブレーキ操作検出信号Bd、転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2の大きさに応じた値となる。
【0047】
(動作)
次に、動作を説明する。
即ち、この第2実施形態にあっては、定速走行制御作動中にブレーキペダル20が踏み込まれたことで定速走行制御が停止し、通常の走行状態に移行する。そして、ブレーキペダル20が踏み込まれると、ブレーキ操作検出信号Bdがマイナス方向に増大するため、推定値Geはマイナス方向に大きな値となる。指令値算出部6Bは、このマイナスの値となる推定値Geに基づいて規範加速度Gcを求める。減算器11は、この規範加速度Gc及び実加速度検出部6Eからの実加速度Gdに基づいて加速度指令値Gdifを演算する。そして、この加速度指令値Gdifがサーボ補償器6Cを介してアシストトルクGoutとなり、このアシストトルクGoutが加算器6Dを介して指令電流Ioutとして電動モータ2に出力される。これにより、この電動モータ2は実質的に発電機として機能するようになって、回生ブレーキが発生する。
【0048】
そして、本実施形態では、定速走行制御から通常走行に移行する際にも、規範車両モデル10に基づいて求められる規範加速度Gcに実加速度Gdを一致させる制御が継続的に実施されるものである。そのため、
図10に示すように、定速走行制御が停止された時刻t3を境に規範加速度Gcが急に切り替わることはない。よって、規範加速度Gcの影響で指令電流Ioutが時刻t3を境にステップ的に変化するようなこともない。このため、定速走行制御の停止時点で急に定速走行制御が停止されるのとは異なり、定速走行制御から通常走行に円滑に移行することができる。
ここで、本実施形態では、アクセルペダル8がアクセル操作部に対応し、ブレーキペダル20がブレーキ操作部に対応する。
【0049】
(第2実施形態の効果)
(1)通常の走行状態から定速走行制御に移行する際にも、定速走行制御から通常の走行状態に移行する際にも、規範車両モデル10に基づいて求められる規範加速度Gcに実加速度Gdを一致させる制御が継続的に実施される構成であるため、定速走行制御状態及び通常走行状態間で切り替わりが円滑に行われ、車両乗り心地の悪化を招く可能性がさらに低いという効果がある。
(2)アクセルペダル8の他にブレーキペダル20を設け、そのブレーキペダル20を操作することでも減速操作を行えるため、一般のガソリン車両と同様の操作感覚で運転することができる。
【0050】
(第3実施形態)
図11乃至
図16は、本発明の第3実施形態を示す図であり、
図11は、第3実施形態における自動車1のモデルを示す概念図である。なお、上記第1実施形態、第2実施形態と同様の構成には同じ符号を付し、その重複する説明は省略する。
即ち、本実施形態では、ステアリングコラム30に設けられたハンドル操作検出装置31を備え、そのハンドル操作検出装置31は、ドライバがハンドル30aを操舵することで生じるステアリングコラム30の回転角(操舵角δ)に対応した操舵角検出信号δdをコントローラ6に供給するようになっている。そして、
図12に示すように、ハンドル操作検出装置31から供給された操舵角検出信号δdは、指令値算出部6Bに供給されている。
【0051】
指令値算出部6Bに供給された操舵角検出信号δdは、
図13に示すように、規範車両モデル10に供給されている。本実施形態の規範車両モデル10は、旋回アシストトルクTrqを演算する旋回アシストトルク演算部32を備えていて、操舵角検出信号δdは、車速検出信号Vdと共に、その旋回アシストトルク演算部32に供給されている。
即ち、旋回アシストトルク演算部32は、後述の演算処理に従って旋回アシストトルクTrqを演算するようになっている。旋回アシストトルクとは、旋回中の自動車1において、実車速が、横加速度と操舵角から得られる目標ヨーレートとから算出される旋回中目標車速を超えないように、規範車両モデル10において規範加速度Gcを減ずる方向に作用するトルクである。従って、旋回アシストトルクTrqの符号は、推定値Geに対してはマイナスとなる。
【0052】
より具体的には、
図14に示すような二輪モデル1Aを考え、旋回中の二輪モデル1Aに作用する横加速度Yg、実車速ν、操舵角δ、ヨーレートφと、そのときの旋回半径Rと、その他車両諸元(スタビリティファクタA、ステアリングギヤ比N、ホイールベースL)から、目標ヨーレートφ*は、
φ*=ν/(1+Aν2)・δ/NL ……(1)
として求めることができる。
【0053】
一方、二輪モデル1Aに作用する横加速度推定値Yg*は、
Yg*=ν×φ* ……(2)
となる。
そして、旋回中目標車速ν*は、旋回時における二輪モデル1Aがそれを超えると安定的な走行が困難になる車速の上限値と考えることができるから、
ν*=Yg*/φ* ……(3)
となる。
【0054】
そこで、このように求めることができる旋回中目標車速ν*を実車速νが超えないように、旋回アシストトルクTrqを設定すると、下記のようになる。
Trq=K(ν−ν*) ……(4)
ただし、実車速νが旋回中目標車速ν*以下である場合、上記(4)式で旋回アシストトルクTrqを求めると符号が逆になってしまうが、そのような状況では旋回アシストトルクTrqは不要である。そこで、本実施形態では、横加速度推定値Yg*がしきい値Th以下の場合には、旋回アシストトルクTrqは強制的に0に設定する。
【0055】
そして、
図13に示す旋回アシストトルク演算部32は、上記(4)式に従って設定された旋回アシストトルクTrqを、加算器10fに供給する。従って、規範加速度Gc及び規範車速Vcは、自動車1が旋回中には、旋回アシストトルクTrqの分だけ減少することになる。
【0056】
(動作)
次に、動作を説明する。
図15は、本実施形態における処理の概要を示すフローチャートである。
図15に示すように、先ずステップ300において、ハンドル操作検出装置31から供給される操舵角検出信号δdと、車速センサ7から供給される車速検出信号Vdを読み込む。そして、操舵角検出信号δdに基づいて、実際のハンドル30aの操作量、つまり、操舵角δを取得し、車速検出信号Vdに基づいて実車速νを取得する。
【0057】
次に、ステップ310に移行し、上記(1)(2)式に基づき、車両諸元に従って、横加速度推定値Yg*を推定する。
そして、ステップ320に移行し、横加速度推定値Yg*の絶対値がしきい値Thを超えているか否かを判定する。
ここで、車両が直進走行中である場合や、操舵角δが小さい場合には、横加速度推定値Yg*も小さい値であるため、ステップ320の判定は「NO」となり、ステップ330に移行する。ステップ330では、旋回アシストトルクTrq=0とする。
【0058】
一方、ステップ320の判定が「YES」の場合には、ステップ340に移行し、上記(4)式に従って、旋回アシストトルクTrqを算出する。
そして、ステップ330又は340からステップ350に移行し、推定値Geから、転がり抵抗成分R1、空気抵抗成分R2及び旋回アシストトルクTrqを減算し、この減算結果を自動車1の質量Mで除算することで、規範加速度Gcを算出する。さらに、この規範加速度Gcを積分することで規範車速Vcを算出する。次に、ステップ360に移行し、上記第1実施形態のステップ120と同様に、サーボ補償器6Cを介して電動モータ2に指令電流Ioutが出力される。
【0059】
図16は、本実施形態の動作の一例を示す波形図であり、時刻t30では直進状態にあった自動車1が、ドライバがハンドル30aを操作することで徐々に旋回走行に移行し、時刻t31において横加速度推定値Yg*がしきい値Thを超えた様子を表している。
この例では、時刻t31に至るまでの間は、旋回中目標車速ν*は無限大の値から減少するものの実車速νよりも大きいため、特に旋回アシストトルクTrqは発生しない。
【0060】
しかし、旋回状態が進むに従って、実車速νも徐々に減少してくるので、時刻t31以降はステップ320の判定が「YES」となり、ステップ340の処理が実行されて旋回アシストトルクTrqが算出される。すると、その旋回アシストトルクTrqの分だけ、規範加速度Gcは低く設定されることになるから、実車速νも低くなる。
その結果、
図16に示すように、旋回アシストトルクTrqを規範車両モデル10に用いなかった場合には、実車速νは破線で示すような徐々に減少するという傾向を示すのに対し、本実施形態にあっては、時刻t31移行は、実車速νは旋回中目標車速ν*に一致するようになる。
【0061】
ここで、本実施形態では、ハンドル操作検出装置31が操舵角検出部に対応し、旋回アシストトルク演算部32内で上記(1)式に従って目標ヨーレートφ*を演算する処理が目標ヨーレート演算部に対応し、旋回アシストトルク演算部32内で上記(2)式に従って横加速度推定値Yg*を演算する処理が横加速度検出部に対応し、旋回アシストトルク演算部32内で上記(3)式に従って旋回中目標車速ν*を演算する処理が旋回中目標車速演算部に対応し、旋回アシストトルク演算部32内で上記(4)式に従って旋回アシストトルクTrqを演算する処理が旋回アシストトルク演算部に対応する。
【0062】
(第3実施形態の効果)
(1)規範車両モデル10において、上記第1実施形態の処理を実行する他に、旋回時における車速の上限値である旋回中目標車速ν*を超えないように旋回アシストトルクTrqを求め、その旋回アシストトルクTrqの分だけ規範加速度Gcを減少させるようにしているため、定速走行制御にさらに旋回時の走行を安定させる制御を加味した構成にすることができる。
【0063】
(変形例)
上記各実施形態では、本発明に係る車両用走行支援装置及び自動車を、電動モータ2を動力源とするいわゆる電気自動車に適用した場合について説明しているが、これに限定されるものではなく、内燃機関を動力源とする自動車や、内燃機関と電動モータとを備えたハイブリッド車両であっても、本願発明は適用可能である。
また、上記各実施形態では、フラグFaがセットされた状態では、転がり抵抗成分R1及び空気抵抗成分R2を0にするようにしているが、これに限定されるものではなく、例えば、0よりも若干大きな値に設定するような制御でも構わない。
【0064】
また、上記第3実施形態では、横加速度推定値を演算により求めるようにしているが、これに限定されるものではなく、横加速度を直に検出する横加速度センサを設け、その出力を横加速度検出値として演算に用いるようにしてもよい。
また、上記各実施形態では、車両の実加速度を実車速に基づいて演算により求めるようにしているが、これに限定されるものではなく、車両の前後方向の加速度を直に検出する加速度センサを設け、その出力を実加速度検出値として演算に用いるようにしてもよい。