(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各図面において、同一または同等の要素には同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1に示すように、本実施形態に関する電子部品100は、基体70の上に信号伝達部10を備える。電子部品100としては、例えば、トランジスタ、集積回路、アンテナ等の能動部品や、コンデンサ、インダクタ、フィルタ等の受動部品や、プリント配線基板、モジュール基板等の回路部品等が挙げられる。
【0018】
信号伝達部10は、電子部品100に設けられて、接触やボンディングワイヤ、ハンダで他の部材に接続される接続端子、あるいは開放端子として電子部品100を作動させるための電気信号の伝達経路又は電源の伝達経路を構成する。また、信号伝達部10は、電子部品100に電源電位や接地電位の供給を行う接続端子や、信号の入力又は出力等を行ったりする信号端子であってもよい。このように、信号伝達部10は、耐食性及び接続信頼性が求められる様々な用途に適用することができる。
【0019】
図2に示すように、本実施形態に関する信号伝達部10は、導体50と該導体50を被覆する被覆体1とを有する。本実施形態の被覆体1は、導体50の腐食を防止するために設けられる被覆層である。被覆体1は、パラジウム層12からなる層構造を有する。
【0020】
本実施形態の被覆体1におけるパラジウム層12は、非晶質である。このように非晶質であるパラジウム層12は、腐食の起点となり易い結晶粒界が実質的に存在しないため、耐食性に優れた被覆体を形成することができる。
【0021】
パラジウム層12が非晶質であることは、例えばパラジウム層12のX線回折分析や、電子線回折分析などによって判断できる。より具体的には、パラジウム結晶面である(111)面、(200)面、(220)面、(311)面、(222)面、(400)面、(331)面、(420)面に帰属される回折ピークのいずれも実質的に確認出来ない場合、パラジウム層は非晶質であると判断できる。
【0022】
さらに本実施形態の被覆体1におけるパラジウム層12は、7.3質量%以上11.0質量%以下の濃度範囲でリン(P)を含む。パラジウム層12中のリン濃度をこのように調整することで、高い化学的安定性を有するパラジウム層が形成される。その結果、耐食性に優れ且つ高い接続信頼性を有する被覆体を形成することができる。
【0023】
パラジウム層12中のリン濃度は、例えばパラジウム層12の蛍光X線分析や、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による分析などによって確認できる。
【0024】
本発明者らは、本実施形態の被覆体1におけるパラジウム層12が高い化学的安定性を有する要因を次のように考えている。すなわち、パラジウム層12が7.3質量%以上11.0質量%以下の濃度範囲でリンを含むことにより、パラジウム−リン化合物相が形成される。パラジウム−リン化合物相としては、Pd
xP
yで表されるパラジウム−リン化合物を含有することが好ましいと考えられる。ここでx、yはそれぞれ0を超える数値である。具体的には、以下のパラジウム−リン化合物等が挙げられる。
【0025】
Pd
15P
2(リン濃度=3.7質量%)、
Pd
6P(リン濃度=4.6質量%)、
Pd
24P
5(リン濃度=5.7質量%)、
Pd
3P(リン濃度=8.8質量%)、
Pd
5P
2(リン濃度=10.4質量%)、
Pd
7P
3(リン濃度=11.1質量%)、
PdP
2(リン濃度=36.8質量%)、
PdP
3(リン濃度=46.6質量%)。
【0026】
パラジウム−リン化合物相は、耐食性をより一層向上する観点から、Pd
15P
2、Pd
6P、Pd
24P
5、Pd
3P、Pd
5P
2、Pd
7P
3の少なくとも一つを含有することが好ましく、Pd
24P
5、Pd
3P、Pd
5P
2、Pd
7P
3の少なくとも一つを含有することがより好ましいと考えられる。このようなパラジウム−リン化合物の少なくとも一つを含有するパラジウム−リン化合物相が形成される作用によって、高い化学的安定性を有するパラジウム層12が形成されると考えられる。ただし、上述の効果が得られる理由は、上述の要因に限定されるものではない。
【0027】
パラジウム層12の厚みは、好ましくは0.05μm以上0.5μm以下である。当該厚みが0.05μm未満であると、パラジウム層12による導体50の被覆が不十分となり、十分に優れた耐食性が得られない可能性が出てくる。一方、当該厚みを0.5μmを超えて大きくしても、製造コストが高くなる恐れがある反面、耐食性はあまり向上しない傾向にある。
【0028】
導体50としては、例えば銅(Cu)、銀(Ag)及びこれらの合金から選ばれる少なくとも一種を含むものが挙げられる。信号伝達部10の製造コストを低減する観点から、導体50は銅を含むことが望ましい。導体50としては、信号伝達部10として機能する、導電性を有する端子が挙げられる。例えば、電子部品100に搭載される配線基板に設けられる銅端子や、アンテナ信号伝達部などが挙げられる。
【0029】
次に、本実施形態の被覆体1の製造方法を説明する。被覆体1の製造方法は、導体50の表面の前処理を行う導体前処理工程と、パラジウムめっき処理を施して、パラジウム層12となるパラジウムめっき膜を形成するパラジウムめっき工程を有する。
【0030】
導体前処理工程では、まず導体50のエッチング処理を行った後、活性化処理を行う。導体前処理方法は、特に限定されないが、エッチング液及び活性化処理液への浸漬による方法が挙げられる。導体50の表面の前処理は、のちに導体50上に形成されるパラジウム層12の被覆性又は結晶性に影響する場合があり得ると考えられる。このため、エッチング処理や活性化処理における液組成、温度、処理時間などの条件を適宜調整することにより、のちに形成されるパラジウム層12を非晶質とすることができる。
【0031】
パラジウムめっき工程では、パラジウムめっき処理を施して、導体前処理を行った導体50上にパラジウムめっき膜からなるパラジウム層12を形成する。パラジウムめっき処理としては特に限定されないが、還元パラジウムめっき処理や、置換パラジウムめっき処理などの無電解パラジウムめっき処理が挙げられる。所望のパラジウム層12を形成するために、双方のめっき処理のどちらかを適宜選択して行うことができ、非晶質とする観点から還元パラジウムめっき処理を選択することが好ましい。
【0032】
還元パラジウムめっき処理の用いるめっき液に含まれるパラジウム化合物としては、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、臭化パラジウム、水酸化パラジウム、シアン化パラジウム、ジアンミンジクロロパラジウム、ジアンミンジニトロパラジウム、テトラアンミンパラジウムジクロライド、テトラアンミンパラジウムジブロマイド、テトラクロロパラジウム酸塩、テトラシアノパラジウム酸塩、テトラチオシアナトパラジウム酸塩、テトラブロモパラジウム酸塩を含む水溶液などを用いることができる。ここで、塩として例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などが挙げられる。還元パラジウムめっき膜の形成に用いるめっき液のリン濃度を適宜調製することによって、還元パラジウムめっき膜を非晶質とし、且つ還元パラジウムめっき膜中のリン濃度を調整することができる。還元パラジウムめっき膜は、めっき液中にパラジウムイオンが、めっき液中の還元作用を持つ物質、すなわち還元剤の酸化反応に伴って放出される電子を得ることによって形成される。このため、めっき液は還元剤を含有する。
【0033】
めっき液に含まれる還元剤としては、例えば、次亜リン酸、亜リン酸及びこれらの塩(例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩)などのリン化合物、ホルマリン、ギ酸及びその塩などの炭素化合物、ホウフッ化物及びジメチルアミンボランなどのホウ素化合物、並びに、チオ硫酸、ペルオキソ硫酸及びこれらの塩などの硫黄化合物などが挙げられる。また、還元剤は、例えば二価のスズイオン、二価のコバルトイオン、二価の鉄イオンなどの多価金属イオンであってもよい。
【0034】
還元反応により得られる還元パラジウムめっき膜は、還元剤から放出される電子によって、前処理を施された導体50上に析出する。またこの過程において還元剤に含まれる元素が還元パラジウムめっき膜中に共析する。この双方の作用により、還元パラジウムめっき膜を非晶質とすることができる。さらに、めっき液に含まれるパラジウム化合物及びリンを有する還元剤や化合物の種類及びめっき液における含有量を変えることによって、還元パラジウムめっき膜を非晶質とし、また還元パラジウムめっき膜中におけるリン濃度を調整することができる。
【0035】
このように、還元反応によって得られるパラジウムめっき膜に、還元剤である化合物に含まれるリンを共析させることによって、パラジウムめっき膜の耐食性を向上することができる。なお、パラジウム層12の形成方法は、上述の製造方法に限定されるものではなく、例えばスパッタや蒸着であってもよい。
【0036】
次に、本発明に関する別の実施形態である被覆体を説明する。
【0037】
図3は、本実施形態の被覆体を有する信号伝達部を模式的に示す断面図である。
図3における信号伝達部20は、導体50と該導体50を被覆する被覆体2とを有する。本実施形態の被覆体2は、導体50の腐食を防止するために設けられる被覆層である。被覆体2は、導体50側から、パラジウム層12と、金層14とが順次積層された積層構造を有する。すなわち、本実施形態の被覆体2は、パラジウム層12の導体50と反対側の面上に、金層14を有する点で、上記実施形態の被覆体1と異なっている。被覆体2の金層14以外の構成要素は、被覆体1と同様のものとすることができる。
【0038】
金層14は、好ましくは金めっき処理によって形成される金めっき膜である。このような金層14を設けることによって、十分に優れた耐食性を維持しつつ、被覆体2の表面における接触抵抗を一層低減することで、外部機器との電気的な接続信頼性を一層高い水準で有する被覆体とすることができる。
【0039】
接触抵抗を一層低減する観点から、金層14の厚みは、好ましくは0.1μm以下であり、より好ましくは0.01μm以上0.08μm以下である。当該厚みが0.01μm未満であると、接触抵抗を一層低減させる効果が十分得られない傾向にある。一方、当該厚みを0.1μmを超えて大きくしても、製造コストが高くなる恐れがある反面、接触抵抗を一層低減させる効果はあまり向上しない傾向にある。
【0040】
なお、本実施形態のパラジウム層12は非晶質であり、上述のように結晶粒界が実質的に存在しない。このため、金層14が設けられるパラジウム層12の表面の状態は高い均一性を有している。この結果、金層14の厚みが薄い場合においても金層14は均一に形成され、十分に優れた耐食性を維持しつつ、外部機器との電気的な接続信頼性を一層高い水準で有する被覆体とすることができる。
【0041】
本実施形態の被覆体2の製造方法を説明する。被覆体2の製造方法は、導体50の表面の前処理を行う導体前処理工程と、パラジウムめっき処理を施して、パラジウム層12を形成するパラジウムめっき工程と、パラジウム層12上に金めっき処理を施して、パラジウム層12上に金層14となる金めっき膜を形成する金めっき工程と、を有する。この製造方法における金めっき工程以外の工程は、上述の被覆体1の製造方法と同様にして行うことができる、したがって、ここでは金めっき工程について説明する。
【0042】
金めっき工程では、置換金めっき処理または還元金めっき処理などの無電解金めっき処理を施して、パラジウム層12上に金めっき膜からなる金層14を形成する。金めっき膜は、市販の無電解金めっき液を用い公知の方法によって形成することができる。また、金層14の形成方法は、上述の製造方法に限定されるものではなく、例えばスパッタや蒸着であってもよい。
【0043】
次に、本発明に関するさらに別の実施形態である被覆体を説明する。
【0044】
図4は、本実施形態の被覆体を有する信号伝達部を模式的に示す断面図である。
図4における信号伝達部30は、導体50と該導体50を被覆する被覆体3とを有する。本実施形態の被覆体3は、導体50の腐食を防止するために設けられる被覆層である。被覆体3は、導体50側から、金属下地層16と、パラジウム層12とが順次積層された積層構造を有する。すなわち、本実施形態の被覆体3は、導体50とパラジウム層12との間に金属下地層16を有する点で、上記実施形態の被覆体1と異なっている。被覆体3の金属下地層16以外の構成要素は、被覆体1と同様のものとすることができる。
【0045】
金属下地層16は、好ましくは無電解金属めっき処理によって形成される金属めっき膜である。このような金属としては、ニッケル(Ni)、錫(Sn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、ロジウム(Rh)、銀(Ag)、白金(Pt)、金(Au)、鉛(Pb)、及びビスマス(Bi)からなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有することとしても、その隔離機能を奏するものと考えられる。なお、金属下地層は、これらの金属元素の少なくとも1つ以上を含む合金からなることとしてもよい。
【0046】
金属下地層16は、更に、好ましくは無電解ニッケルめっき処理によって形成されるニッケルめっき膜である。このような金属下地層16を設けることでパラジウム層12の下地の状態が安定する。これにより、十分に優れた耐食性を維持しつつパラジウム層12の厚みを薄くことが出来る。この結果、パラジウムの量が低減され、被覆体3の製造コストをさらに低減することができる。十分に製造コストを低減する観点から、金属下地層16の厚みは、好ましくは1μm以上である。一方、信号伝達部30が高周波電波による信号伝達の機能を有する場合、その信号は、導体50の最表層において伝送される傾向にある。その場合、導体50に電気導電率が低い金属下地層16が隣接していると、損失が大きくなる傾向にある。このような観点から、金属下地層16の厚みは、好ましくは10μm以下である。金属下地層16の厚みは、導体50の厚み及び信号周波数によって適宜調整することが望ましい。なお、この金属として、Niの他、Snや他の金属(Fe、Co、Zn、Rh、Ag、Pt、Au、Pb、又は、Bi)を用いた場合も同様の効果を奏する。
【0047】
本実施形態の被覆体3の製造方法を説明する。本実施形態では、金属下地層16はニッケルであり、被覆体3の製造方法は、導体50の表面の前処理を行う導体前処理工程と、無電解ニッケルめっき処理を施して、金属下地層16となるニッケルめっき膜を形成するニッケルめっき工程と、金属下地層16上にパラジウムめっき処理を施して、パラジウム層12を形成するパラジウムめっき工程と、を有する。この製造方法におけるニッケルめっき工程以外の工程は、上述の被覆体1の製造方法と同様にして行うことができる。したがって、ここではニッケルめっき工程について説明する。
【0048】
ニッケルめっき工程では、無電解ニッケルめっき処理を施して、導体50上に無電解ニッケルめっき膜からなる金属下地層16を形成する。その後、被覆体1の製造方法と同様にして、パラジウムめっき処理を施してパラジウム層12を形成し、被覆体3を製造することができる。また、金属下地層16の形成方法は、上述の製造方法に限定されるものではなく、例えばスパッタや蒸着であってもよい。
【0049】
以上、本発明に関する好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上述の実施形態では、パラジウム層12の導体50と反対側の面上に、金層14を有するか、又は導体50とパラジウム層12との間に金属下地層16を有していたが、
図5に示すように、パラジウム層12の導体50と反対側の面上に、金層14を有し且つ導体50とパラジウム層12との間に金属下地層16を有してもよい。
【0050】
図5は、本実施形態の被覆体を有する信号伝達部を模式的に示す断面図である。
【0051】
図5における信号伝達部30は、導体50と該導体50を被覆する被覆体4とを有する。本実施形態の被覆体4は、導体50の腐食を防止するために設けられる被覆層である。被覆体4は、導体50側から、金属下地層16と、パラジウム層12と、金層14が、順次積層された積層構造を有する。すなわち、本実施形態の被覆体4は、パラジウム層12上に金層14を有する点で、
図4に示した実施形態の被覆体3と異なっている。被覆体4の構成要素及びその製法は、被覆体1〜3と同様のものとすることができる。
【0052】
これによって、パラジウム層12の厚みを低減することで被覆体の製造コストを低減しつつ、十分に優れた耐食性且つ接触抵抗を一層低減することによる高い接続信頼性を有する被覆体を得ることができる。このように、パラジウム層12の導体50と反対側の面上に、金層14を有し且つ導体50とパラジウム層12との間に金属下地層16を有する被覆体は、例えば、上述の無電解ニッケルめっき処理、パラジウムめっき処理、金めっき処理を導体50に対し順次施すことで形成することができる。
【0053】
また、例えば導体50の一部が、電子部品100に設けられる封止樹脂材料やレジスト材料などに接していてもよい。その場合、導体50のうち、前記封止樹脂材料やレジスト材料などと接する部分には、必ずしも本発明に関する被覆体を設ける必要はなく、導体50のうち、前記封止樹脂材料やレジスト材料などと接しない部分に、例えば導体50の基材70と反対側の面や側面の一部に、本発明に関する被覆体が設けられていればよい。
【実施例】
【0054】
本発明の内容を実施例と比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
[被覆体を有する信号伝達部の作製]
(実施例1)
【0056】
<エッチング工程>
【0057】
市販のガラスエポキシ基板(縦×横×厚さ=30mm×30mm×0.5mm)に、接着剤を用いて市販の銅箔(厚さ20μm)を貼り付けて銅箔付き基板(導体)を得た。また、これとは別に、表1に示す組成を有するエッチング液(温度:30℃)を調製した。このエッチング液は、過硫酸ナトリウム及び硫酸(98質量%)を含有している。このエッチング液に、導体を1分間浸漬して、導体表面のエッチング処理を行った。エッチング後、導体を水洗することで、エッチング処理を行った導体を得た。
【0058】
【表1】
【0059】
<活性化工程>
表2に示す組成を有する活性化処理液(温度:30℃)を調製した。上述の通りエッチング処理を行った導体を、硫酸(98%)30mlを水1Lで希釈した水溶液(温度:30℃)に30秒間浸漬し、次いで表2の活性化処理液に導体を1分間浸漬して、導体表面の活性化を行った。活性化後、導体を水洗することで、活性化処理を行った導体を得た。この活性化処理液は、塩化パラジウムと硫酸(98質量%)を含有している。
【0060】
【表2】
【0061】
<ニッケルめっき工程>
表3に示す組成を有する無電解ニッケルめっき液(温度:85℃、pH:4.5)を調製した。活性化処理を行った導体を、表3の無電解ニッケルめっき液に30分間浸漬して、ニッケルめっき膜を形成した。ニッケルめっき処理後、導体を水洗することで、ニッケル下地層が形成された導体を得た。この無電解ニッケルめっき液は、硫酸ニッケル、次亜リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、及び塩化アンモニウムを含有している。
【0062】
【表3】
【0063】
<パラジウムめっき工程>
表4に示す組成を有する無電解パラジウムめっき液(温度:60℃、pH:6.5)を調製した。上述のようにニッケル下地層が形成された導体を、表4の無電解パラジウムめっき液に5分間浸漬し、パラジウムめっき膜を形成した。パラジウムめっき処理後、導体を水洗することで、ニッケル下地層と、パラジウム層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例1の信号伝達部とした。この無電解パラジウムめっき液は、テトラアンミンパラジウムジクロライド、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、及び次亜リン酸ナトリウムを含有している。
【0064】
【表4】
【0065】
(実施例2)
実施例1と同様の手順で、ニッケル下地層と、パラジウム層とが順次積層された導体を得た。
【0066】
<金めっき工程>
表5に示す組成を有する無電解金めっき液(温度:80℃、pH:5.0)を調製した。上述のように得られたニッケル下地層と、パラジウム層とが順次積層された導体を、表5の金めっき液に10分間浸漬し、パラジウム層上に、金(Au)めっき膜を形成した。金めっき処理後、導体を水洗することで、ニッケル下地層と、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例2の信号伝達部とした。この金めっき液は、シアン化金カリウム、シアン化ナトリウム、及び炭酸ナトリウムを含有している。
【0067】
【表5】
【0068】
(実施例3)
活性化処理工程において、表2の活性化処理液に変えて表6に示す組成を有する活性化処理液(温度:40℃)を用いたこと、及び活性化処理の後ニッケルめっき処理を施さずにパラジウムめっき処理を施したこと以外は、実施例1と同様にして、パラジウム層からなる層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例3の信号伝達部とした。表6の活性化処理液は、塩化パラジウム、及び、硝酸アンモニウムを含有している。
【0069】
【表6】
【0070】
(実施例4)
パラジウムめっき処理工程において、導体を浸漬する時間を5分間から20分間に変えたこと以外は、実施例3と同様にして、パラジウム層からなる層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例4の信号伝達部とした。
【0071】
(実施例5)
パラジウムめっき処理工程において、導体を浸漬する時間を5分間から40分間に変えたこと以外は、実施例3と同様にして、パラジウム層からなる層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例5の信号伝達部とした。
【0072】
(実施例6)
実施例4と同様にして得られたパラジウム層が形成された導体を、表5の金めっき液(温度:80℃、pH:5.0)に10分間浸漬し、金めっき膜を形成した。金めっき処理後、金めっき膜が形成された導体を水洗することで、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例6の信号伝達部とした。
【0073】
(実施例7)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表7に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:65℃、pH:6.0)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例7の信号伝達部とした。このパラジウムめっき液は、テトラアンミンパラジウムジクロライド、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、及び次亜リン酸ナトリウムを含有している。
【0074】
【表7】
【0075】
(実施例8)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表8に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:65℃、pH:6.3)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例8の信号伝達部とした。このパラジウムめっき液は、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン、及び、次亜リン酸ナトリウムを含有している。
【0076】
【表8】
【0077】
(実施例9)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表9に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:70℃、pH:6.5)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例9の信号伝達部とした。このパラジウムめっき液は、テトラクロロパラジウム酸アンモニウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン、及び、次亜リン酸ナトリウムを含有している。
【0078】
【表9】
【0079】
(実施例10)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表10に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:70℃、pH:5.5)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例10の信号伝達部とした。このパラジウムめっき液は、テトラシアノパラジウム酸カリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、及び、次亜リン酸ナトリウムを含有している。
【0080】
【表10】
【0081】
(実施例11)
【0082】
<エッチング工程>
まず、実施例1と同様の処理を行い、エッチング処理を行った導体を得た。
【0083】
<錫めっき工程>
次に、後述の表14に示す組成を有する無電解錫めっき液(温度:30℃、pH:1.5)を調製した。上述のように得られたエッチング処理を行った導体を、表14の無電解錫めっき液に30分間浸漬して、錫めっき膜を形成した。錫めっき処理後、導体を水洗することで、錫(Sn)下地層が形成された導体を得た。この無電解錫めっき液は、メタンスルホン酸錫、メタンスルホン酸、チオ尿素、及び添加剤を含有している。
【0084】
<パラジウムめっき工程>
表4に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:60℃、pH:6.5)を調製した。上述のように得られた錫下地層が形成された導体を、表4の無電解パラジウムめっき液に5分間浸漬して、パラジウムめっき膜を形成した。パラジウムめっき処理後、導体を水洗することで、錫下地層と、パラジウム層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例11の信号伝達部とした。
【0085】
(実施例12)
実施例11と同様の手順で、錫下地層と、パラジウム層とが順次積層された導体を得た。
【0086】
<金めっき工程>
表5に示す組成を有する無電解金めっき液(温度:80℃、pH:5.0)を調製した。上述のように得られた錫下地層と、パラジウム層とが順次積層された導体を、表5の金めっき液に10分間浸漬し、パラジウム層上に、金めっき膜を形成した。金めっき処理後、金めっき膜が形成された導体を水洗することで、錫下地層と、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例12の信号伝達部とした。
【0087】
(実施例13)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表8に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:65℃、pH:6.3)を用いたこと以外は、実施例12と同様にして、錫下地層と、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例13の信号伝達部とした。
【0088】
(実施例14)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表10に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:70℃、pH:5.5)を用いたこと以外は、実施例12と同様にして、錫下地層と、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを実施例14の信号伝達部とした。
【0089】
(比較例1)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表11に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:70℃、pH:5.5)を用いたこと、及び導体を浸漬する時間を5分間から10分間に変えたこと以外は、実施例3と同様にして、パラジウム層からなる層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを比較例1の信号伝達部とした。このパラジウムめっき液は、塩化パラジウム、エチレンジアミン、及び次亜リン酸ナトリウムを含有している。
【0090】
【表11】
【0091】
(比較例2)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて市販の無電解パラジウムめっき液(上村工業株式会社製、商品名:TPD−30)を用いたこと、及び導体を浸漬する時間を5分間から15分間に変えたこと以外は、実施例3と同様にして、パラジウム層からなる層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを比較例2の信号伝達部とした。
【0092】
(比較例3)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表12に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:70℃、pH:5.5)を用いたこと、及び導体を浸漬する時間を5分間から10分間に変えたこと以外は、実施例3と同様にして、パラジウム層からなる層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを比較例3の信号伝達部とした。このパラジウムめっき液は、塩化パラジウム、エチレンジアミン、及び、次亜リン酸ナトリウムを含有している。
【0093】
【表12】
【0094】
(比較例4)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表11に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:70℃、pH:5.5)を用いたこと、及び導体を浸漬する時間を5分間から10分間に変えたこと以外は、実施例6と同様にして、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを比較例4の信号伝達部とした。
【0095】
(比較例5)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて市販の無電解パラジウムめっき液(上村工業株式会社製、商品名:TPD−30)を用いたこと、及び導体を浸漬する時間を5分間から15分間に変えたこと以外は、実施例6と同様にして、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを比較例5の信号伝達部とした。
【0096】
(比較例6)
パラジウムめっき工程において、表4のパラジウムめっき液に変えて表12に示す組成を有するパラジウムめっき液(温度:70℃、pH:5.5)を用いたこと、及び導体を浸漬する時間を5分間から10分間に変えたこと以外は、実施例6と同様にして、パラジウム層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを比較例6の信号伝達部とした。
【0097】
(比較例7)
実施例2と同様にエッチング処理、活性化処理及びニッケルめっき処理を施した後、パラジウムめっき処理を施さずに金めっき処理を施したこと以外は、実施例2と同様にして、ニッケル下地層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを比較例7の信号伝達部とした。
【0098】
(比較例8)
比較例7と同様にエッチング処理、活性化処理、ニッケルめっき処理及び金めっき処理を施した後、表13に示す組成を有する金めっき液(温度:90℃、pH:7.5)を用いて追加の金めっき処理を施した。このようにして、ニッケル下地層と、金層とが順次積層された積層構造を有する被覆体を、導体上に得た。これを比較例8の信号伝達部とした。この金めっき液は、シアン化金カリウム、次亜リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、及び、塩化アンモニウムを含有している。
【0099】
【表13】
【0100】
なお、実施例11〜14における錫(Sn)めっきに用いた無電解錫めっき液は、以下の通りである。
【0101】
【表14】
【0102】
[被覆体を有する信号伝達部の評価]
各実施例及び各比較例で得られた信号伝達部の被覆体が有するパラジウム層について、X線回折装置を用いて結晶性を評価した。パラジウム結晶面に由来する回折ピークが確認されたものを「結晶質」、実質的に確認されなかったものを「非晶質」として評価した。例えば、
図6のチャートは、X線源をCuKαとしたときの実施例1の信号伝達部のX線回折チャートである。X線回折分析の結果、導体(銅箔)またはニッケル下地層の結晶面に由来する回折ピークのみが確認され、信号伝達部の被覆体が有するパラジウム層におけるパラジウム結晶面に由来する回折ピークは、いずれも実質的に確認されなかった。したがって、実施例1の被覆体が有するパラジウム層において「非晶質」と評価した。各実施例及び各比較例における結果を表15にまとめて示す。
【0103】
各実施例及び各比較例で得られた信号伝達部を、被覆体の層形成方向に沿って切断して、切断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、被覆体を形成するそれぞれの層構造の厚みを求めた。また、同じ切断面において、エネルギー分散型X線分光法(EDS)による分析を行い、パラジウム層におけるリン濃度を測定した。これらの結果を表15にまとめて示す。
【0104】
以下の手順で接触抵抗測定を行い、各実施例及び各比較例で得られた信号伝達部の接続信頼性を評価した。まず、接触先端部として球形先端形状(R=0.6mm)を有するニッケル下地金めっき仕上げ仕様の市販のコンタクトプローブを準備する。準備したコンタクトプローブ自体の抵抗値を、ケルビンプローブの一方を接触先端部に、もう一方をコンタクトプローブの接触先端部と反対側の端部に接続し、四端子法により測定したところ、11.0mΩであった。次いで、ケルビンプローブの一方を信号伝達部に、もう一方をコンタクトプローブの接触先端部と反対側の端部に接続し、冶具を用いて1Nの押込み力でコンタクトプローブの接触先端部を信号伝達部の表面に接触させた。この状態で、10mAの電流印加により直列抵抗回路として、コンタクトプローブ自身の抵抗値、接触抵抗値及び信号伝達部の抵抗値の合算値を四端子法により求めた。これとは別に、信号伝達部の抵抗値を四端子法で測定したところ、各実施例及び各比較例いずれにおいても十分に低い(0.1mΩ未満)であることを確認した。
【0105】
以上より、接触抵抗値を上述の合算値からコンタクトプローブ自身の抵抗値(11.0mΩ)を減じた値として求めた。接続信頼性評価として、接触抵抗が10.0mΩ未満のものを「S」、10.0mΩ以上20.0mΩ未満のものを「A」、20.0mΩ以上50.0mΩ未満のものを「B」、50.0mΩ以上のものを「C」評価とした。その結果を表15にまとめて示す。
【0106】
JIS C 5402−11−14に準拠して、以下の手順で単一ガス流腐食試験を行い、各実施例及び各比較例で得られた信号伝達部の耐食性を評価した。まず、得られた信号伝達部を、H
2Sガスを体積基準で1ppm含む汚染ガス雰囲気(温度:30℃、相対湿度:75%)に暴露した。暴露期間は10日間とした。暴露後の信号伝達部に対し、上述の手順でその接触抵抗を測定した。耐食性評価として、暴露後の接触抵抗が10.0mΩ未満のものを「S」、10.0mΩ以上20.0mΩ未満のものを「A」、20.0mΩ以上50.0mΩ未満のものを「B」、50.0mΩ以上のものを「C」評価とした。その結果を表15にまとめて示す。
【0107】
【表15】
【0108】
実施例3乃至10における被覆体は、パラジウム層の厚みが0.05μm〜0.4μm、金層の厚みが0μm〜0.03μmと、薄い厚みを有していた。このように薄い被覆体においては製造コストを低くすることができる。また、被覆体が非晶質であり且つ7.3質量%以上11.0質量%以下の濃度範囲でリンを含むパラジウム層を有することで、十分に優れた耐食性及び接続信頼性を有することが確認された。さらに、実施例1及び2における被覆体は、安価なニッケル下地層を備えることでパラジウム層がより薄い場合においても、十分に優れた耐食性及び接続信頼性を有することが確認された。
【0109】
また、実施例2、実施例6〜10のように、金(Au)層を備える場合には、接触抵抗と耐食性が著しく向上した。また、パラジウム層の下地として、Ni又はSnからなる金属下地層を有する場合、すなわち、実施例1、2、11〜14の場合には、全体の評価値セットは、比較例の評価値セットよりも優れた値となっているが、この金属下地層は、パラジウム層と導体(Cu)とを物理的に隔離する機能を有しているため、Ni又はSnのみならず、他の金属、特に、Fe、Co、Zn、Rh、Ag、Pt、Au、Pb、及びBiからなる群から選択される少なくとも1つの金属を含有することとしても、その隔離機能を奏するものと考えられる。なお、金属下地層は、これらの金属元素の少なくとも1つ以上を含む合金からなることとしてもよい。なお、金属下地層は、これに隣接する上下の層(パラジウム層、導体)とは異なる材料からなる。
【0110】
なお、各層の厚みは、それぞれ±10%の誤差を含むことができる。