(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020073
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】半導体試料における結晶欠陥解析方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20161020BHJP
G01N 23/04 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
H01L21/66 N
G01N23/04
【請求項の数】10
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-251451(P2012-251451)
(22)【出願日】2012年11月15日
(65)【公開番号】特開2014-99561(P2014-99561A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2015年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上東 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】内藤 正美
【審査官】
堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−220744(JP,A)
【文献】
特開2008−249478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 23/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板(1a)の上に該半導体基板よりも低不純物濃度とされたエピタキシャル層(1b)を形成した半導体試料(1)に存在する結晶欠陥(2)の深さ位置を解析する半導体試料における結晶欠陥解析方法であって、
前記半導体試料のうち結晶欠陥が含まれた部分を切り出すことで薄片化した観察試料(3)を作成する工程と、
前記観察試料に対して透過電子顕微鏡観察を行うことによって結晶欠陥を表した結晶欠陥像を取得する工程と、
前記観察試料に対して刺激を与えることで該観察試料から不純物濃度に応じた光を生じさせ、該光を検知して前記観察試料の光強度マッピング像を取得する工程と、
前記結晶欠陥像と前記光強度マッピング像とを重ね合わせた合成画像に基づいて、前記結晶欠陥の起点が前記半導体基板と前記エピタキシャル層のいずれに存在しているかを解析する工程とを含むことを特徴とする半導体試料における結晶欠陥解析方法。
【請求項2】
前記半導体試料の材料が炭化珪素、窒化ガリウム、ダイヤモンドのいずれか1つであることを特徴とする請求項1に記載の半導体試料における結晶欠陥解析方法。
【請求項3】
前記結晶欠陥が転位欠陥、積層欠陥、インクルージョンのいずれかを含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体試料における結晶欠陥解析方法。
【請求項4】
前記光強度マッピング像を取得する工程をラマン測定により行い、前記観察試料に与える前記刺激として光を用い、前記観察試料から散乱光を生じさせることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体試料における結晶欠陥解析方法。
【請求項5】
前記結晶欠陥像を取得する工程では、前記透過電子顕微鏡観察における電子の照射を加速電圧400kV以上で行っており、
前記光強度マッピング像を取得する工程を前記結晶欠陥像を取得する工程の前に行うことを特徴とする請求項4に記載の半導体試料における結晶欠陥解析方法。
【請求項6】
前記光強度マッピング像を取得する工程をフォトルミネッセンス測定により行い、前記観察試料に与える前記刺激として前記半導体試料を構成する半導体材料のバンドギャップよりも大きいエネルギーを有する光を用い、前記観察試料から蛍光を生じさせることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体試料における結晶欠陥解析方法。
【請求項7】
前記蛍光のうち、波長が不純物に起因する400〜1000nmの蛍光を用いて前記光強度マッピング像を取得することを特徴とする請求項6に記載の結晶欠陥解析方法。
【請求項8】
前記光強度マッピング像を取得する工程をカソードルミネッセンス測定により行い、前記観察試料に与える前記刺激として加速された電子を用い、前記観察試料から蛍光を生じさせることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の半導体試料における結晶欠陥解析方法。
【請求項9】
前記結晶欠陥像を取得する工程では、前記透過電子顕微鏡観察を透過電子顕微鏡装置内において行い、
前記光強度マッピング像を取得する工程では、前記カソードルミネッセンス測定を前記透過電子顕微鏡装置内において、前記結晶欠陥像を取得する工程と同時に行うことを特徴とする請求項8に記載の半導体試料における結晶欠陥解析方法。
【請求項10】
前記蛍光のうち、波長が不純物に起因する400〜1000nmの蛍光を用いて前記光強度マッピング像を取得することを特徴とする請求項8に記載の結晶欠陥解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高不純物濃度の半導体基板の上にそれよりも低不純物濃度のエピタキシャル層を成長させた半導体試料における結晶欠陥解析方法に関し、特に、結晶欠陥が問題となる炭化珪素(以下、SiCという)などのワイドバンドギャップ半導体に適用すると好適である。
【背景技術】
【0002】
従来、SiC単結晶中に存在するデバイス特性への影響が懸念される結晶欠陥については、エピタキシャル層の表面をKOH(水酸化カリウム)によりエッチングすることで結晶欠陥を顕在化し、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)解析にて結晶欠陥の詳細を明らかにしていくという解析手法が主流となっている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−116732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、
図9に示すように、SiC単結晶からなるSiC基板上にエピタキシャル層を成長させたSiC半導体試料J1において、SiC基板とエピタキシャル層の界面近傍に、例えばインクルージョン(結晶成長中に導入され、結晶の乱れを誘起する母材またはその他の材料による微細な異物)などによる結晶欠陥J2の起点J2aが存在する場合がある。結晶欠陥J2の低減に向けて、欠陥がSiC基板の成長段階で形成されたのか、それともエピタキシャル層の成長段階で形成されたのかを同定する必要があるが、透過電子顕微鏡の画像ではSiC基板とエピタキシャル層の界面は特定することができない。また、エピタキシャル層の厚みが分かっていても、エッチングによりエピタキシャル層の厚みが減少すること、および元の表面位置が定まらないため、SiC基板とエピタキシャル層の界面の特定が困難であるため、欠陥がいずれにあるのかを同定できない。
【0005】
なお、ここでは半導体試料の一例としてSiCで構成されるものを例に挙げて説明したが、SiCに限らず、他の半導体材料で構成される半導体試料についても、結晶欠陥の位置を同定する際に上記と同様の問題が発生する。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、正確に結晶欠陥の深さ位置を解析することが可能な半導体試料における結晶欠陥解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、半導体試料(1)のうち結晶欠陥(2)の起点(2a)が含まれた部分を切り出すことで薄片化した観察試料(3)を作成する工程と、観察試料に対して透過電子顕微鏡観察を行うことによって結晶欠陥を表した結晶欠陥像を取得する工程と、観察試料に対して刺激を与えることで該観察試料から不純物濃度に応じた光を生じさせ、該光を検知して観察試料の光強度マッピング像を取得する工程と、結晶欠陥像と光強度マッピング像とを重ね合わせた合成画像に基づいて、結晶欠陥の起点が半導体基板(1a)とエピタキシャル層(1b)のいずれに存在しているかを解析する工程とを含むことを特徴としている。
【0008】
このように、結晶欠陥を表した結晶欠陥像および半導体基板とエピタキシャル層との境界位置が表された光強度マッピング像を取得している。これらを重ね合わせた合成画像を作成すれば、この合成画像から結晶欠陥が半導体基板とエピタキシャル層のいずれに位置しているかを同定することが可能となる。したがって、正確に結晶欠陥が存在する位置を特定することができる。
【0009】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】本発明の第1実施形態で説明する結晶欠陥解析を行う半導体試料1の斜視図である。
【
図2A】結晶欠陥2が存在する半導体試料1の斜視図である。
【
図2B】
図2Aにおける観察試料3の切り出し範囲を示した半導体試料1の部分拡大斜視図である。
【
図2C】切り出し後の観察試料3の拡大斜視図である。
【
図3】結晶欠陥解析を行う解析システムのブロック図である。
【
図4】結晶欠陥像となる透過電子顕微鏡解析像を表した図である。
【
図6】透過電子顕微鏡解析像と光強度マッピング像とを重ね合わせた合成画像を表した図である。
【
図7】本発明の第2実施形態にかかる結晶欠陥解析を行う解析システムのブロック図である。
【
図8】本発明の第3実施形態にかかる結晶欠陥解析を行う解析システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0012】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態にかかる半導体試料における結晶欠陥解析方法について、
図1〜6を参照して説明する。
【0013】
まず、
図1Aおよび
図1Bに示すように、SiC単結晶等の半導体材料で構成されたn型の半導体基板1aの上に半導体基板1aよりも低不純物濃度とされたn型のエピタキシャル層1bを成長させることで構成された半導体試料1を用意する。例えば、半導体基板1aの面方位を(0001)とし、半導体基板1aのn型不純物濃度を1×10
18〜1×10
19cm
-3、エピタキシャル層1bの不純物濃度を1×10
15〜1×10
17cm
-3としている。
【0014】
このSiC半導体試料1には、
図2Aに示すような結晶欠陥2が存在しているため、KOH等の溶液エッチングにて結晶欠陥2を顕在化させる。このうち、
図2Bに示すように、例えばインクルージョンなどによる結晶欠陥2の起点2aを含む領域を選択し、FIB(集束イオンビーム)加工によって半導体試料1を部分的に切り出すことで結晶欠陥の断面構造が分かるように薄片化する。これにより、
図2Cに示す透過電子顕微鏡などによる解析を行う観察対象となる観察試料3を作成する。例えば、観察試料3のサイズを幅〜20μm、高さ〜20μm、奥行き〜1μmとしている。このようにして作成した観察試料3を用いて内部に存在する結晶欠陥2についての解析を行う。
【0015】
具体的には、
図3に示すように、透過電子顕微鏡装置10、第1解析コンピュータ11、ラマン分光装置12、第2解析コンピュータ13、第3解析コンピュータ14を有する解析システムを用意する。
【0016】
そして、透過電子顕微鏡装置10内に観察試料3を配置し、透過電子顕微鏡観察を行う。すなわち、所望の加速電圧(例えば200kV)で加速した電子を観察試料3に照射することで電子を透過させ、そのときの様子をCCDカメラなどによって撮像する。この撮像結果を第1解析コンピュータ11に入力し、第1解析コンピュータ11にて透過電子顕微鏡解析像、つまり結晶欠陥像を取得する。
図4は、この透過電子顕微鏡画像を表した図である。この図に示すインクルージョンなどの起点2aからの結晶欠陥2のうち、略基板垂直方向に延びているものが転位、略基板水平方向に延びているものが転位ないし積層欠陥である。
【0017】
また、ラマン分光装置12内に観察試料3を配置し、ラマン分光測定を行う。ラマン分光測定は、観察試料3に刺激を与えるために単色光(レーザー)を照射したときに、観察試料3の散乱体により変調された散乱光が出てくるため、これを分光器によって検知し、得られたスペクトルにより物質の評価を行うという測定方法である。ラマン分光における散乱体として取り扱われる代表はフォノンであるが、他にもプラズモンやマグノンなどが挙げられる。
【0018】
ここでは特にキャリア濃度に起因する散乱:LOPC(LOフォノン・プラズモン結合)モード散乱(SiCではラマンシフト量が970cm
-1程度の散乱スペクトル)に着目する。LOPCモード散乱のスペクトルは半導体材料中に含まれる不純物濃度に応じたスペクトルとなる。そのため、得られたLOPCモード散乱のスペクトルに基づいてマッピングを行うことで、観察試料3を不純物濃度が異なる領域ごと、つまり半導体基板1aとエピタキシャル層1bとに区画できる。
【0019】
したがって、ラマン分光装置12内で観察試料3に対して単色光を照射し、そのときの散乱光を分光器で観察したときの結果を第2解析コンピュータ13に入力する。そして、第2解析コンピュータ13にて光強度マッピング像を取得する。
図5は、この光強度マッピング像を表した図である。
【0020】
このようにして第1解析コンピュータ11で取得した透過電子顕微鏡画像および第2解析コンピュータ13で取得した光強度マッピング像を第3解析コンピュータ14に送り、第3解析コンピュータ14にて2つの像を重ね合わせることで、
図6に示す合成画像を作成する。このようにして作成した合成画像は、透過電子顕微鏡画像に映し出された結晶欠陥2およびその起点2aと、光強度マッピング像にて区画された半導体基板1aとエピタキシャル層1bとの境界位置とが明確に表された画像となる。したがって、この合成画像から結晶欠陥2の起点2aが半導体基板1aとエピタキシャル層1bのいずれに位置しているかを同定することが可能となる。
【0021】
以上説明したように、透過電子顕微鏡装置10とラマン分光装置12を用いて、結晶欠陥2を映し出した透過電子顕微鏡画像および半導体基板1aとエピタキシャル層1bとの境界位置が表された光強度マッピング像とを重ね合わせた合成画像を作成している。これにより、この合成画像から結晶欠陥2の起点2aが半導体基板1aとエピタキシャル層1bのいずれに位置しているかを同定することが可能となる。したがって、正確に結晶欠陥2の深さ位置を解析することができる。なお、2つの像を重ね合わせる工程は第3解析コンピューター14で行わず、第1解析コンピューター11または第2解析コンピューター13で行っても良い。
【0022】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してラマン分光測定をフォトルミネッセンス測定に変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0023】
図7に示すように、本実施形態では、第1実施形態で使用したラマン分光装置12に代えてフォトルミネッセンス装置15を備えた解析システムを用意する。そして、第1実施形態で説明した観察試料3を用意したのち、解析システムによって合成画像の作成を行う。すなわち、第1実施形態と同様に透過電子顕微鏡装置10にて透過電子顕微鏡観察を行い、第1解析コンピュータ11にて透過電子顕微鏡解析像を取得する。また、フォトルミネッセンス装置15にてフォトルミネッセンス測定を行い、第2解析コンピュータ13にて光強度マッピング像を取得する。
【0024】
フォトルミネッセンス測定は、物質に刺激を与えるために光を照射し、誘起された電子が基底状態に遷移する際に発する光(蛍光)を観察して、得られるスペクトルにより物質の評価を行うという測定方法である。照射する光としては、半導体のバンドギャップに対応するエネルギーよりも大きいエネルギーを有する光を用いている。
【0025】
ただし、結晶欠陥像を取得するための透過電子顕微鏡観察は高エネルギーの電子線を照射しているため、観察試料に空孔欠陥などを誘起し易い問題があり、キャリア濃度の低下を招く。すなわち、キャリア濃度に依る発光が弱まるため検知が難しくなる。このとき、半導体基板1aとエピタキシャル層1bの残留不純物濃度に着目する。エピタキシャル層1bは半導体基板1aに比べて高純度な結晶であるため残留不純物濃度が低い。すなわち、キャリア濃度に関わりなく発光する残留不純物起因の400〜1000nmの発光を用いることで、観察試料3を残留不純物濃度が異なる領域ごと、つまり半導体基板1aとエピタキシャル層1bとに区画でき、透過電子顕微鏡観察とフォトルミネッセンス測定のいずれを先に実施するかにかかわらず測定可能となる。
【0026】
そして、透過電子顕微鏡解析画像として
図4に示す画像が得られ、フォトルミネッセンス測定による光強度マッピング像として
図5と同様の画像が得られる。この後、第3解析コンピュータ14で第1解析コンピュータ11で取得した透過電子顕微鏡画像および第2解析コンピュータ13で取得した光強度マッピング像を重ね合わせることで、
図6と同様の合成画像を作成する。このようにして作成した合成画像は、透過電子顕微鏡画像に映し出された結晶欠陥2と、光強度マッピング像にて区画された半導体基板1aとエピタキシャル層1bとの境界位置とが明確に表された画像となる。したがって、この合成画像から結晶欠陥2の起点2aが半導体基板1aとエピタキシャル層1bのいずれに位置しているかを同定することが可能となる。
【0027】
以上説明したように、透過電子顕微鏡装置10とフォトルミネッセンス装置15を用いて、第1実施形態と同様の合成画像を作成している。このような合成画像を用いても、結晶欠陥2が半導体基板1aとエピタキシャル層1bのいずれに位置しているかを同定することが可能である。
【0028】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してラマン分光測定をカソードルミネッセンス測定に変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0029】
図8に示すように、本実施形態では、第1実施形態で使用したラマン分光装置12を無くし、透過電子顕微鏡装置10内においてカソードルミネッセンス測定を行う解析システムを用意する。そして、第1実施形態で説明した観察試料3を用意したのち、解析システムによって合成画像の作成を行う。すなわち、第1実施形態と同様に透過電子顕微鏡装置10にて透過電子顕微鏡観察を行い、第1解析コンピュータ11にて透過電子顕微鏡解析像を取得する。また、透過電子顕微鏡装置10内においてカソードルミネッセンス測定を行い、第2解析コンピュータ13にて光強度マッピング像を取得する。
【0030】
カソードルミネッセンス測定は、物質に刺激を与えるために加速された電子線を照射すると共にそれにより試料から発する光(蛍光)を観察し、得られるスペクトルにより物質の評価を行うという測定方法である。このときの発光は、キャリア濃度に関わり無く発光する波長400〜1000nmの残留不純物起因の発光を用いるため、透過電子顕微鏡観察とフォトルミネッセンス測定のいずれを先に実施するかにかかわらず、容易に測定可能である。
【0031】
そして、透過電子顕微鏡解析画像として
図4に示す画像が得られ、カソードルミネッセンス測定による光強度マッピング像として
図5と同様の画像が得られる。この後、第3解析コンピュータ14で第1解析コンピュータ11で取得した透過電子顕微鏡画像および第2解析コンピュータ13で取得した光強度マッピング像を重ね合わせることで、
図6と同様の合成画像を作成する。このようにして作成した合成画像は、透過電子顕微鏡画像に映し出された結晶欠陥2と、光強度マッピング像にて区画された半導体基板1aとエピタキシャル層1bとの境界位置とが明確に表された画像となる。したがって、この合成画像から結晶欠陥2の起点2aが半導体基板1aとエピタキシャル層1bのいずれに位置しているかを同定することが可能となる。
【0032】
以上説明したように、透過電子顕微鏡装置10を用いつつ、透過電子顕微鏡装置10内において透過電子顕微鏡観察とカソードルミネッセンス測定を行って第1実施形態と同様の合成画像を作成している。このような合成画像を用いても、結晶欠陥2が半導体基板1aとエピタキシャル層1bのいずれに位置しているかを同定することが可能である。
【0033】
また、透過電子顕微鏡10内において、透過電子顕微鏡観察とカソードルミネッセンス測定の両方を同時に行うことができるため、解析の簡略化を図ることもできる。
【0034】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0035】
また、例えば、半導体試料を構成する半導体材料としてSiCを例に挙げて説明したが、SiCの他、シリコン、窒化ガリウム、ダイヤモンドなどの半導体材料についても本発明を適用できる。ただし、SiC、窒化ガリウム、ダイヤモンドのようなワイドバンドギャップ半導体に対して本発明を適用すると特に好ましい。主にパワーデバイス用途となるワイドバンドギャップ半導体では、耐圧に応じて素子構造が異なり、半導体基板1aとエピタキシャル層1bの不純物濃度差が小さく、かつ、ホモエピ成長となる半導体試料を用いる場合がある。このような半導体試料の場合、半導体基板1aとエピタキシャル層1bとは材料として殆ど同一のものとなるため、その境界を区画することが難しくなる。したがって、このように半導体基板1aとエピタキシャル層1bとの境界を区画し難いワイドバンドギャップ半導体に対して本発明を適用すると好ましい。また、デバイス特性に影響を与える結晶欠陥は、主に、転位欠陥、積層欠陥、およびインクルージョンのような微細な結晶欠陥2である。このため、これらの微細な結晶欠陥2が含まれるものについて、本発明を適用して、結晶欠陥2の起点2aを特定し、対処することが好ましい。
【0036】
また、上記各実施形態では、透過電子顕微鏡観察と光強度マッピング像を取得する為の測定(ラマン分光測定、フォトルミネッセンス測定、カソードルミネッセンス測定)の順番については、いずれを先に行っても良い。ただし、光強度マッピング像をラマン分光測定によって取得する場合、透過電子顕微鏡観察における電子照射時の加速電圧を比較的高い電圧(具体的には400kV以上、例えば1000kV)にすると、ラマン分光測定においてキャリアの可視化が不可能となる。このため、加速度電圧を比較的低い電圧(例えば200kV)とする場合には透過電子顕微鏡観察とラマン分光測定のいずれを先に行っても良いが、比較的高い電圧とする場合にはラマン分光測定を透過電子顕微鏡観察よりも先に行う必要がある。
【0037】
また、上記各実施形態では、n型の半導体基板1aの上にn型のエピタキシャル層1bを形成する場合について説明した。しかしながら、これに限らず、高不純物濃度となる半導体基板1aの上にそれよりも低不純物濃度となるエピタキシャル層1bを形成する場合に本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 半導体試料
1a 半導体基板
1b エピタキシャル層
2 結晶欠陥
2a 起点
3 観察試料
10 透過電子顕微鏡装置
11、13、14 第1〜第3解析コンピュータ
12 ラマン分光装置
15 フォトルミネッセンス装置