特許第6020107号(P6020107)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020107
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】フッ素ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20161020BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20161020BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20161020BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20161020BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20161020BHJP
   C08F 14/18 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   C08L27/16
   C08L27/18
   C08K5/13
   C08K3/22
   C08K3/26
   C08F14/18
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-268283(P2012-268283)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-114349(P2014-114349A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年11月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】横田 敦
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特許第4545686(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0217491(US,A1)
【文献】 特開2007−137977(JP,A)
【文献】 特許第5061905(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0163671(US,A1)
【文献】 特開2006−316120(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0082526(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0274861(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/026912(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0245423(US,A1)
【文献】 特開昭50−084650(JP,A)
【文献】 米国特許第03929934(US,A)
【文献】 特表2010−537023(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0263793(US,A1)
【文献】 特開2008−184496(JP,A)
【文献】 特開2007−092076(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/069320(WO,A1)
【文献】 特開2010−111789(JP,A)
【文献】 特開2010−241900(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C08L 1/00 − 101/14
C08K 3/00 − 13/08
C08F 251/00 − 283/00
C08F 283/02 − 289/00
C08F 291/02 − 297/08
C08C 19/00 − 19/44
C08F 6/00 − 246/00
C08F 301/00
DB名 CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度を有するとともに融点をも有するフッ化ビニリデン共重合含フッ素エラストマー共重合体100重量部に対し、補強性無機充填剤を含有せず、PTFE充填剤5〜100重量部、ポリオール架橋剤0.5〜10重量部、酸化マグネシウム1〜15重量部およびハイドロタルサイト0.1〜2重量部が配合されたフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
結晶融解熱量ΔHが1.0J/g以上である含フッ素エラストマー共重合体が用いられた請求項1記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1記載のフッ素ゴム組成物を製造するに際し、フッ化ビニリデン共重合含フッ素エラストマー共重合体が、重合反応開始前に全仕込みモノマーの20〜40重量%を仕込み、かつ重合反応開始前のフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの各モノマー仕込み組成を、それぞれ75〜85モル%および25〜15モル%として共重合反応を行った後、全仕込みモノマーの60〜80重量%の量となる重合反応中に追加するフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの各モノマー仕込み組成を、それぞれ65〜80モル%および35〜20モル%として共重合反応を続行することにより製造された共重合体であるフッ素ゴム組成物の製造法。
【請求項4】
請求項1記載のフッ素ゴム組成物を製造するに際し、フッ化ビニリデン共重合含フッ素エラストマー共重合体が、重合反応開始前に全仕込みモノマーのうちヘキサフルオロプロピレンの全量およびフッ化ビニリデン総仕込量の25重量%以下を仕込んで共重合反応を行った後、フッ化ビニリデンの総仕込量の75重量%以上を添加して共重合反応を続行することにより製造された共重合体であるフッ素ゴム組成物の製造法。
【請求項5】
重合反応開始前のフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの各モノマー仕込み組成が、それぞれ15〜35モル%および85〜65モル%であるモノマー混合物を仕込んで製造された含フッ素エラストマー共重合体が用いられる請求項4記載のフッ素ゴム組成物の製造法
【請求項6】
請求項1または2記載のフッ素ゴム組成物をポリオール架橋剤で架橋成形して得られた加硫成形物。
【請求項7】
ハードディスクドライブに内蔵されるストッパー成形材料として用いられる請求項6記載の架橋成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、ハードディスクドライブに内蔵されるストッパー成形材料として用いられるフッ素ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、フッ素ゴムはカーボンブラックシリカなどの補強性無機充填剤に加え、架橋剤や架橋促進剤が配合され、これが架橋成形されてシール材などとして使用される。ここで、ハードディスクドライブに内蔵されるストッパーの成形材料は、例えば特許文献1〜2に開示されているように補強性無機充填剤としてカーボンブラックを配合しているが、近年のハードディスクドライブ容量増加にともなって、ディスクとヘッドの間隔(隙間)が小さく(狭く)なり、ゴム組成物に配合されている充填剤がゴム組成物から脱離した場合、書き込みあるいは読みとりの不具合を起こしてしまうことが問題となっている。
【0003】
かかる問題に対しては、補強性無機充填剤を配合せずに架橋させるゴム組成物を用いることが考えられるが、補強性無機充填剤を配合しないゴム組成物はロール混練時の加工性が悪化してしまううえ、架橋成形した製品についても、求められる硬度が達成できないなどの問題が発生する。
【0004】
一方、硬度の微調整、強度の確保を可能とする充填剤として、PTFEを充填剤として用いることが考えられる。特許文献3にはPTFE、好ましくは微粉末状のPTFEをフッ素ゴム100重量部に対して1〜100重量部配合したフッ素ゴム組成物の架橋成形物は、耐圧縮永久歪特性、耐薬品性にすぐれ、ショアA硬さ55〜90程度の対応が可能であると記載されている。
【0005】
しかるに、ショアA硬さ70以上の硬度とすべくPTFE配合量を増やした場合には、ポリマーが硬すぎて混練加工性が悪くなってしまい、ポリマーを予熱するなどの工程の追加やハイパワー混練機による混練などのコストアップが生じてしまうこととなる。そのため、PTFEを配合することのみで硬度アップを図る場合には、ショアA硬さ70程度が限界であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO2004/094479
【特許文献2】WO2010/026912
【特許文献3】特開2011−42714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、カーボンブラックあるいはシリカなどの補強性無機充填剤を用いることなく、ロール混練時の加工性の悪化や架橋成形時の発泡を発生させずに、所望の硬度とシール性を示す架橋成形物を与えるフッ素ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる本発明の目的は、ガラス転移温度を有するとともに融点をも有するフッ化ビニリデン共重合含フッ素エラストマー共重合体100重量部に対し、補強性無機充填剤を含有せず、PTFE充填剤5〜100重量部、ポリオール架橋剤0.5〜10重量部、酸化マグネシウム1〜15重量部およびハイドロタルサイト0.1〜2重量部が配合されたフッ素ゴム組成物によって達成される。ここで、ガラス転移温度を有するとともに融点をも有するフッ化ビニリデン共重合含フッ素エラストマー共重合体は、
(A) 重合反応開始前に全仕込みモノマーの20〜40重量%を仕込み、かつ重合反応開始前のフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの各モノマー仕込み組成を、それぞれ75〜85モル%および25〜15モル%として共重合反応を行った後、全仕込みモノマーの60〜80重量%の量となる重合反応中に追加するフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの各モノマー仕込み組成を、それぞれ65〜80モル%および35〜20モル%として共重合反応を続行する方法
または
(B) 重合反応開始前に全仕込みモノマーのうちヘキサフルオロプロピレンの全量およびフッ化ビニリデン総仕込量の25重量%以下を仕込んで共重合反応を行った後、フッ化ビニリデンの総仕込量の75重量%以上を添加して共重合反応を続行する方法
好ましくは重合反応開始前のフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの各モノマー仕込み組成が、それぞれ15〜35モル%および85〜65モル%であるモノマー混合物を仕込んで共重合反応を続行する方法
のいずれかの方法により製造される。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るフッ素ゴム組成物は、充填剤としてPTFEを用い、これを特定の含フッ素エラストマー共重合体と混練してポリマーアロイ化(機械的なブレンド)をすることで、フッ化ビニリデンシーケンスの結晶化に伴う架橋ゴム生成物の硬度変化(硬度上昇)を抑制することが可能になるとともに、含フッ素共重合体として特定組成のものを用いることにより、フッ素ゴム組成物の混練性などを損なうことなく、架橋成形物の高硬度化を可能にするといったすぐれた効果を奏する。さらにポリオール架橋の架橋助剤として酸化マグネシウムおよびハイドロタルサイトを用いることで、PTFEのみを充填剤として用いてポリオール架橋した場合にみられる架橋成形時の発泡を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
フッ化ビニリデン共重合含フッ素エラストマー共重合体としては、少なくともフッ化ビニリデン(VdF)を共重合単位とするものであれば特に限定されず、例えばVdF/HFP共重合体、VdF/HFP/TFE3元共重合体などが挙げられる。ここで、HFPはヘキサフルオロプロピレンを、またTFEはテトラフルオロエチレンを指している。かかる含フッ素エラストマー共重合体としては、VdFのホモシークエンスを長く形成させて結晶化し易くし、ポリマーの分子鎖内に結晶質部分を分散形成させることにより、ガラス転移温度を有するとともに融点を有し、好ましくは結晶融解熱量ΔHが1.0J/g以上のものが用いられる。
【0011】
このような含フッ素エラストマー共重合体の製造方法としては、下記(A)または(B)の方法が挙げられる。
(A) 重合反応開始前に全仕込みモノマーの20〜40重量%を仕込み、かつ重合反応開始前のフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの各モノマー仕込み組成を、それぞれ75〜85モル%および25〜15モル%として共重合反応を行った後、全仕込みモノマーの60〜80重量%の量となる重合反応中に追加するフッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンの各モノマー仕込み組成を、それぞれ65〜80モル%および35〜20モル%として共重合反応を続行する
(B) 重合反応開始前に全仕込みモノマーのうちHFPの全量およびVdF総仕込量の25重量%以下、好ましくはHFPおよびVdFの各モノマー仕込み組成をそれぞれ15〜35モル%および85〜65モル%としたものを仕込んで共重合反応を行った後、フッ化ビニリデンの総仕込量の75重量%以上を添加して共重合反応を続行する
【0012】
上記いずれの製造法もVdFの長いホモシーケンスを形成するために、(A)の製造法では、重合反応の初期でVdFが優先的に反応する条件下、例えばVdF過剰濃度で反応を開始し、反応の中期〜終期でHFPを目標組成となるように過剰に添加するものであり、(B)の製造法では、反応開始前にHFPの全量を仕込んでおくようなHFPが優先的に反応する条件下、すなわち反応初期においてHFPリッチな濃度で反応を開始するために初期のVdF仕込量を極端に少なくし、反応の中期〜終期でVdFを目標のポリマー組成となるようにリッチに添加するものであるといえる。
【0013】
このように、反応初期にVdFおよびHFPの反応場濃度を調整する具体的な方法としては、VdF、HFPそれぞれの仕込量を増減させるほか、反応機内の空間を水によって小さくするか、あるいは大きくし、圧力を増減させることによっても調整することができる。また、各モノマーの水に対する溶解性が温度によって変化することを利用し、反応温度を変えることによっても、反応場濃度を調整することが可能である。
【0014】
共重合反応は、界面活性剤の存在下で水性媒体中で共重合反応せしめることにより行われる。水性媒体中での共重合反応は、けん濁重合法によっても行うことが可能であるが、生産性、経済性の観点から、乳化重合法であることが好ましい。
【0015】
乳化重合反応は、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等の水溶性無機過酸化物またはそれと亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等の還元剤とのレドックス系を触媒として、仕込み水総重量に対して約0.001〜0.2重量%の割合で一般に用いられる乳化剤としての界面活性剤の存在下に、一般に圧力約0〜10MPa、好ましくは約0.5〜4MPa、温度約0〜100℃、好ましくは約20〜80℃の条件下で行われる。その際、反応圧力が一定範囲に保たれるように、供給するフッ素化オレフィン(混合物)を分添方式で供給することが好ましい。また、重合系内のpHを調節するために、Na2HPO4、NaH2PO4、KH2PO4等の緩衝能を有する電解質物質あるいは水酸化ナトリウムを添加して用いてもよい。さらに、必要に応じて、マロン酸エチル、アセトン、イソプロパノール等の連鎖移動剤が適宜用いられる。
【0016】
乳化剤としては、公知のフッ素化カルボン酸塩やスルホン酸塩、リン酸塩が用いられる。金属塩またはアンモニウム塩として用いられるフッ素化カルボン酸としては、一般式Rf-COOHであらわされる、Rf基の炭素数4〜10のフッ素化アルキルカルボン酸のほか、一般式Rf′-COOH(Rf′は炭素数3〜12を有し、一つ以上の酸素原子を含むフルオロアルキルオキシアルキル基である)であらわされるフルオロ(ポリ)エーテルカルボン酸が挙げられ、好ましくはCF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4(2,3,3,3-テトラフルオロ-2-[1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロポキシ)プロポキシ]-1-プロパン酸アンモニウム)が用いられる。
【0017】
重合反応は、各種重合条件によっても左右されるが、一般には約1〜15時間程度で反応が完結し、反応終了後は、得られた水性乳濁液にカリミョウバン水溶液、塩化ナトリウム水溶液、塩化カルシウム水溶液等を添加して生成共重合体を凝析し、水洗、乾燥することにより、含フッ素共重合体を得ることができる。
【0018】
得られた含フッ素共重合体には、PTFE充填剤、好ましくは乾式レーザー法による測定で平均粒子径が20μm以下の粉末形状のPTFEが、含フッ素共重合体100重量部当り5〜100重量部、好ましくは5〜70重量部の割合で用いられる。PTFE充填剤がこれより少ない割合で用いられると、所望の硬度を得ることができず、一方これより多い割合で用いられるとフッ素ゴム組成物の混練加工性が悪くなってしまう。PTFE充填剤としては、平均粒子径0.1〜20μm程度のものが用いられ、市販品であるダイキン工業製品L-5F、旭硝子製L172Jなどをそのまま用いることができる。
【0019】
PTFE充填剤が配合された含フッ素共重合体には、ポリオール架橋剤およびこれの架橋助剤となる酸化マグネシウムおよびハイドロタルサイトが添加されて架橋が行われる。ポリオール架橋剤としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAF、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン、1,5-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、3,3’,5,5’-テトラクロロビスフェノールA、4,4-ジヒドロキシジフェニルなど、好ましくはビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールAFなどが挙げられる。これらのポリオール架橋剤はまた、これらの金属塩、好ましくはアルカリ金属塩としても用いられる。
【0020】
さらに、必要に応じて、4級アンモニウム塩(含窒素複素環式化合物を含む)または4級ホスホニウム塩である4級オニウム塩、例えば一般式
(R1R2R3R4N)+X- または (R1R2R3R4P)+X-
R1〜R4:炭素数1〜25のアルキル基、アルコキシル基、アリール
基、アルキルアリール基、アラルキル基またはポリオ
キシアルキレン基であり、あるいはこれらの内2〜3個
がNまたはPと共に複素環構造を形成することもできる
X-:Cl-、Br-、I-、HSO4-、H2PO4-、RCOO-、ROSO2-BF4-
CO3--等のアニオン
で示される化合物を架橋促進剤として用いることもできる。
【0021】
これらの各配合成分は、含フッ素エラストマー共重合体100重量部当り、ポリオール架橋剤が0.5〜10重量部、好ましくは2〜6重量部、架橋促進剤が0.1〜10重量部、好ましくは0.5〜2重量部、酸化マグネシウムが1〜15重量部、好ましくは2〜5重量部およびハイドロタルサイトが0.1〜2重量部、好ましくは0.5〜2重量部の割合で用いられる。酸化マグネシウムおよびハイドロタルサイトの少なくとも一方がこれより少ない割合で用いられると加硫速度が遅く工業的にみて実用性がなく、また架橋成形物が発泡してしまうようになり、一方これより多い割合で用いられると架橋が速くて流動性が悪くなり、成形性が悪化するようになる。また、PTFEのみを充填剤として用いる場合には、カーボンブラックやシリカなどの無機充填剤を添加した場合に比べてガス透過性が悪く、特許文献1で用いられているポリオール架橋の架橋助剤(水酸化カルシウム/酸化マグネシウム)や特許文献2で用いられるポリオール架橋の架橋助剤(水酸化カルシウム/ハイドロタルサイト)では架橋成形時の発泡が発生してしまうが、酸化マグネシウムおよびハイドロタルサイトを架橋剤として用いた場合には、架橋成形時の発泡を抑えることが可能となる。
【実施例】
【0022】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】
製造例1〔重合方法(A)〕
攪拌機を有する内容積10Lのステンレス鋼製圧力反応器に、
水 5550g
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4(乳化剤) 10g
リン酸水素二ナトリウム・12水和物(緩衝剤) 3g
アセトン(連鎖移動剤) 15g
を仕込み、内部空間を窒素ガスで置換した後、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 700g(77.0モル%)
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 490g(23.0モル%)
を初期仕込みガスとして仕込み、反応器内温を80℃に昇温した。この時の反応器内圧は約3.66MPa・Gであった。
【0024】
反応器内温度が安定していることを確認した後、過硫酸アンモニウム(反応開始剤)3.5gをイオン交換水100gに溶解させた重合開始剤水溶液として反応器内に圧入し、重合反応を開始させた。重合反応開始後は、内圧が3.40MPa・Gとなったところで、VdF/HFP=68.5/31.5(モル%)の混合ガスを追加分添し、反応器内圧力を3.50MPa・Gまで昇圧させた。重合反応中はVdF/HFP=68.5/31.5(モル%)の混合ガスを追加分添することで、反応圧力を3.40〜3.50MPa・Gに保った。追加分添したVdF/HFP混合ガスの合計量が2,120g(1,020g/1,100g)となったところで追加分添を終了し、その後反応器内の圧力が1.45MPa・Gとなった時点で反応器を冷却して重合反応を終了させた。反応開始剤投入から重合反応終了までに要した時間は278分であった。
【0025】
得られた含フッ素エラストマー共重合体の水性分散液8,425gを、同量の2重量%CaCl2水溶液で凝集させた後ろ過して得られたVdF/HFP共重合体を、10倍量のイオン交換水で5回洗浄した後、真空乾燥機を用いて乾燥させて、2,690gのVdF/HFPエラストマー共重合体Aを得た。ポリマー収率(添加モノマーに対して)は81.3%であり、またその共重合組成を19F-NMRにより測定すると、VdF/HFP=78.0/22.0(モル%)であった。
【0026】
得られた共重合体A 20mgについて、示差走査熱量測定装置(SII Nano Technology Inc.製品DSC6220 高感度DSC)を用い、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温速度で、ファーストステップとして200℃までの昇温を行い、次いでセカンドステップとして、10℃/分の降温速度でマイナス50℃まで降温を行い、最後にサードステップとして、再度10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温を行い、セカンドステップにおける結晶化ピークおよび転移熱量の測定、サードステップにおける結晶融点、結晶融解熱量ΔHおよびガラス転移温度Tgの確認を行った。その結果、結晶化ピークは30℃に確認され、転移熱量は1.7J/gであり、結晶融点は95℃に確認され、結晶融解熱量ΔHは1.7J/g、ガラス転移温度は-22℃であった。
【0027】
製造例2〔重合方法(B)〕
攪拌機を有する内容積10Lのステンレス鋼製圧力反応器に、
水 5600g
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4(乳化剤) 10g
リン酸水素二ナトリウム・12水和物(緩衝剤) 3g
アセトン(連鎖移動剤) 15g
を仕込み、内部空間を窒素ガスで置換した後、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 270g(33.6モル%)
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 1250g(66.4モル%)
を初期仕込みガスとして仕込み、反応器内温を80℃に昇温した。この時の反応器内圧は約3.07MPa・Gであった。
【0028】
反応器内温度が安定していることを確認した後、過硫酸アンモニウム(反応開始剤)5gをイオン交換水100gに溶解させた重合開始剤水溶液として反応器内に圧入し、重合反応を開始させた。重合反応開始後は、内圧が2.90MPa・Gとなったところで、VdF(100モル%)ガスを追加分添し、反応器内圧力を3.00MPa・Gまで昇圧させた。重合反応中はVdF(100モル%)ガスを追加分添することで、反応圧力を2.90〜3.00MPa・Gに保った。追加分添したVdFの合計量が1,460gとなったところで追加分添を終了し、その後反応器内の圧力が1.35MPa・Gとなった時点で反応器を冷却して重合反応を終了させた。反応開始剤投入から重合反応終了までに要した時間は277分であった。
【0029】
得られた含フッ素エラストマー共重合体の水性分散液8,112gについて、実施例1と同様に洗浄および乾燥を行い、2,480gのVdF/HFPエラストマー共重合体Bを得た。ポリマー収率は83.2%であり、その共重合組成は、VdF/HFP=78.1/21.9(モル%)であった。実施例1と同様に、DSC測定が行われたところ、結晶化ピークは21℃に確認され、転移熱量は3.1J/gであり、結晶融点と思われるゆるやかな転移が83℃付近で確認され、結晶融解熱量ΔHは4.6J/gであり、ガラス転移温度は-21℃であった。
【0030】
製造例3〔重合方法(A)〕
攪拌機を有する内容積10Lのステンレス鋼製圧力反応器に、
水 5550g
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4(乳化剤) 10g
リン酸水素二ナトリウム・12水和物(緩衝剤) 3g
アセトン(連鎖移動剤) 18g
を仕込み、内部空間を窒素ガスで置換した後、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 660g(81.5モル%)
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 350g(18.5モル%)
を初期仕込みガスとして仕込み、反応器内温を80℃に昇温した。この時の反応器内圧は約3.69MPa・Gであった。
【0031】
反応器内温度が安定していることを確認した後、過硫酸アンモニウム(反応開始剤)3.5gをイオン交換水100gに溶解させた重合開始剤水溶液として反応器内に圧入し、重合反応を開始させた。重合反応開始後は、内圧が3.40MPa・Gとなったところで、VdF/HFP=78.2/21.8(モル%)の混合ガスを追加分添し、反応器内圧力を3.50MPa・Gまで昇圧させた。重合反応中はVdF/HFP=78.2/21.8(モル%)の混合ガスを追加分添することで、反応圧力を3.40〜3.50MPa・Gに保った。追加分添したVdF/HFP混合ガスの合計量が2,250g(1,360g/890g)となったところで追加分添を終了し、その後反応器内の圧力が1.71MPa・Gとなった時点で反応器を冷却して重合反応を終了させた。反応開始剤投入から重合反応終了までに要した時間は316分であった。
【0032】
得られた含フッ素エラストマー共重合体の水性分散液7,815gについて、実施例1と同様に洗浄および乾燥を行い、2,550gのVdF/HFPエラストマー共重合体Cを得た。ポリマー収率は78.2%であり、またその共重合組成は、VdF/HFP=84.2/15.8(モル%)であった。実施例1と同様に、DSC測定が行われたところ、結晶化ピークは72℃に確認され、転移熱量は5.6J/gであり、結晶融点は124℃で確認され、結晶融解熱量ΔHは3.7J/gであり、ガラス転移温度は-26℃であった。
【0033】
比較製造例〔重合方法(A)に準ずる〕
攪拌機を有する内容積10Lのステンレス鋼製圧力反応器に、
水 5100g
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4(乳化剤) 10g
リン酸水素二ナトリウム・12水和物(緩衝剤) 3g
アセトン(連鎖移動剤) 18g
を仕込み、内部空間を窒素ガスで置換した後、
フッ化ビニリデン〔VdF〕 260g(47.2モル%)
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 680g(52.8モル%)
を初期仕込みガスとして仕込み、反応器内温を80℃に昇温した。この時の反応器内圧は約3.11MPa・Gであった。
【0034】
反応器内温度が安定していることを確認した後、過硫酸アンモニウム(反応開始剤)3.5gをイオン交換水100gに溶解させた重合開始剤水溶液として反応器内に圧入し、重合反応を開始させた。重合反応開始後は、内圧が3.00MPa・Gとなったところで、VdF/HFP=79.9/20.1(モル%)の混合ガスを追加分添し、反応器内圧力を3.10MPa・Gまで昇圧させた。重合反応中はVdF/HFP=79.9/20.1(モル%)の混合ガスを追加分添することで、反応圧力を3.00〜3.10MPa・Gに保った。追加分添したVdF/HFP混合ガスの合計量が2,100g(1,320g/780g)となったところで追加分添を終了し、その後反応器内の圧力が1.10MPa・Gとなった時点で反応器を冷却して重合反応を終了させた。反応開始剤投入から重合反応終了までに要した時間は251分であった。
【0035】
得られた含フッ素エラストマー共重合体の水性分散液7,760gについて、実施例1と同様に洗浄および乾燥を行い、2,460gのVdF/HFP共重合体Dを得た。ポリマー収率は80.9%であり、またその共重合組成は、VdF/HFP=78.0/22.0(モル%)であった。実施例1と同様にDSC測定が行われたが、結晶化ピークおよび結晶融点は確認されなかった。ガラス転移温度は-22℃であった。
【0036】
実施例1
製造例1で得られたVdF/HFPエラストマー共重合体A 100重量部
PTFE充填剤(ダイキン工業製品L-5F) 35 〃
酸化マグネシウム(協和化学製品キョーワマグ♯150) 3 〃
ハイドロタルサイト(同社製品DHT-4A) 1 〃
ビスフェノールAF(キュラティブ♯30:有効成分50重量%) 3.5 〃
5-ベンジル-1,5-ジアザビシクロ〔4,3,0〕 0.875 〃
-5-ノネニウムテトラフルオロボレート
以上の各成分を、加圧式ニーダおよびオープンロールで混練し、180℃、6分間の一次架橋(加圧プレス)および260℃、10時間の二次架橋(オーブン架橋)を行い、架橋成形した架橋シート(100×200×2mm)およびストッパー成形品を用いて、硬さ試験、脱離試験、粘着試験および反発弾性率の測定を行った。
硬さ試験:JIS K6253(1997)準拠。初期および25℃で14日間保管した後の架橋シートに
ついてタイプAデュロメータを用いて瞬時の硬さを測定した
脱離試験:フィルターろ過された純水を入れたガラスビーカーにストッパー成形品を入
れて1分間超音波を加え洗浄を行った後、純水中に抽出された0.5μm以上の
パーティクルをリキッドパーティクルカウンター(残渣塵埃測定機:リオン
社製KS-28)を用いて測定した
パーティクル量が少ない程クリーンな材料といえる
粘着試験:マグネットホールドタイプのストッパー成形品をHDD実機に装着し、(1)初期
および(2)磁力によってストッパーとアームを接触させ、80℃、相対湿度
80%RHといった環境負荷を10時間与えた後、アームを回転させてストッパー
からアームが離れる際の引剥力を環境負荷前後で測定し、ホールディングト
ルク増加率を算出した
ホールディングトルク増加率(%)=
〔(環境負荷後の引剥力−初期の引剥力)/初期の引剥力〕×100
反発弾性率の測定:JIS K6255準拠
厚さ2mm、直径29mmのゴムシートを6枚重ねて試験片とし、リュプケ
法により-20℃、25℃、80℃での反発弾性率を測定した
HDD用ストッパーとしては、反発弾性率が低いほどアームの振動を
よく吸収することとなる
【0037】
実施例2
実施例1において、PTFE充填剤量が5重量部に変更されて用いられた。
【0038】
実施例3
実施例1において、PTFE充填剤量が70重量部に変更されて用いられた。
【0039】
実施例4
実施例1において、ハイドロタルサイト量が0.5重量部に変更されて用いられた。
【0040】
実施例5
実施例1において、ハイドロタルサイト量が2重量部に変更されて用いられた。
【0041】
実施例6
実施例1において、5-ベンジル-1,5-ジアザビシクロ〔4,3,0〕-5-ノネニウムテトラフルオロボレートの代わりにベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド(キュラティブ♯20:有効成分33重量%)7.5重量部が用いられた。
【0042】
実施例7
実施例1において、製造例1で得られたVdF/HFPエラストマー共重合体Aの代わりに、製造例2で得られたVdF/HFPエラストマー共重合体Bが同量用いられた。
【0043】
実施例8
実施例1において、製造例1で得られたVdF/HFPエラストマー共重合体Aの代わりに、製造例3で得られたVdF/HFPエラストマー共重合体Cが同量用いられた。
【0044】
比較例1
実施例1において、さらにFEFカーボンブラック(東海カーボン製シーストG-SO)5重量部が用いられた。
【0045】
比較例2
実施例1において、PTFE充填剤の代わりにMTカーボンブラック(Huber製品N990)35重量部が用いられた。
【0046】
比較例3
実施例1において、ハイドロタルサイト量が3重量部に変更されて用いられた。
【0047】
比較例4
実施例1において、ハイドロタルサイトの代わりに、酸化カルシウム(近江化学工業製品カルディック♯2000)3重量部が用いられた。
【0048】
比較例5
実施例1において、PTFE充填剤量が105重量部に変更されて用いられた。
【0049】
参考例
実施例1において、フッ素ゴムとして比較製造例で得られた含フッ素エラストマー共重合体Dが同量用いられた。
【0050】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。なお、比較例3〜4は架橋成形物の発泡により、また比較例5は混練加工性が悪く分散不良により、いずれも評価ができなかった。


実施例 比較例
項目 参考例
硬さ試験
初期硬さ(Duro A) 81 72 90 81 82 84 88 86 82 78 72
硬さ変化(Point) 0 +1 0 0 0 0 +1 +2 0 +3 0
脱離試験
パーティクル数(count/cm2) 1 1 1 1 1 1 1 1 10 10 1
粘着試験
ホールディングトルク増加率(%) 13 15 11 17 12 15 13 13 12 15 12
反発弾性率
-20℃(%) 31 28 32 30 32 30 29 29 30 25 28
+25℃(%) 12 13 11 11 13 13 11 11 13 13 11
+80℃(%) 41 46 40 40 42 40 43 45 43 46 40