(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のガラスは、カチオン%で、P
5+ 5〜70%、及び、S
6+ 1〜30%を含有し、かつ、アニオンとしてF
−を必須成分として含有することを特徴とする。このように、カチオン成分としてS
6+を必須成分として含有するフツリン酸ガラスであれば、CuO等の光吸収成分を含有させても安定にガラス化させることが可能となる。さらに、耐候性も向上させることが可能となる。
【0018】
以下に、本発明のガラスの組成を上記の通り限定した理由を詳細に説明する。なお、以下の各成分の説明において、特に断りのない限り、「%」は「カチオン%」または「アニオン%」を示す。
【0019】
P
5+はガラス骨格を形成するために欠かせない成分である。P
5+の含有量は5〜70%であり、好ましくは7〜60%、より好ましくは10〜50%、さらに好ましくは12〜40%である。P
5+の含有量が少なすぎると、ガラス化が不安定になる傾向がある。一方、P
5+の含有量が多すぎると、耐候性が低下しやすくなる。
【0020】
S
6+は光学特性を維持しつつ耐候性を向上させるのに有効な成分である。また、ガラス化を安定化する効果もある。S
6+の含有量は1〜30%であり、好ましくは5〜25%、より好ましくは5〜23%、さらに好ましくは8〜20%である。S
6+の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくい。一方、S
6+の含有量が多すぎると、溶融時における揮発量が多くなり、特性のばらつきの原因となる。また、ガラス化が不安定になる傾向がある。
【0021】
F
−は耐候性を向上させるとともに、ガラスを安定化させる効果のある成分である。本発明のガラスはF
−を必須成分として含有し、その含有量は2%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、8%以上であることがさらに好ましい。ただし、その含有量が多すぎると、溶融時における揮発量が多くなり、特性のばらつきの原因となる。また、環境面からもF
−の揮発量が多くなるのは好ましくない。よって、F
−の含有量は好ましくは70%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは50%以下である。
【0022】
本発明のガラスには、上記成分以外に下記の成分を含有させることができる。
【0023】
Al
3+は耐候性を向上させるのに有効な成分である。しかし、その含有量が多すぎると、溶融温度が上昇する傾向がある。その結果、光吸収成分としてCu成分を含有させた場合、Cuイオンの価数が還元側に偏り、近赤外の吸収が弱くなる傾向にある。以上に鑑み、Al
3+の含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜8%、さらに好ましくは0.1〜5%である。
【0024】
R
+(R
+はLi
+、Na
+及びK
+から選択される少なくとも1種)はガラス化を安定にする成分である。R
+の含有量は、好ましくは1〜50%、より好ましくは10〜40%、さらに好ましくは20〜35%である。R
+の含有量が少なすぎると、ガラス化が不安定になる傾向がある。一方、R
+の含有量が多すぎると、ガラス化が不安定になるとともに、耐候性が低下する傾向がある。
【0025】
なお、R
+の各成分の含有量は以下の通りとすることが好ましい。
【0026】
Li
+の含有量は好ましくは0〜5%、より好ましくは0.1〜10%である。Li
+の含有量が多すぎると、分相してガラス化が不安定になる傾向がある。
【0027】
Na
+はR
+成分の中で最も安定なガラス化領域を与える成分である。したがって、Na
+を積極的に含有させることにより、ガラス化を安定にさせる効果を享受しやすくなる。Na
+の含有量は、好ましくは1〜40%、より好ましくは10〜35%、さらに好ましくは15〜30%である。Na
+の含有量が少なすぎると、ガラス化が不安定になる傾向がある。一方、Na
+の含有量が多すぎると、ガラス化が不安定になるとともに、耐候性が低下する傾向がある。
【0028】
K
+は粘性の調整を目的に含有させることができる。ただし、その含有量が多すぎると、ガラス化が不安定になり、分相する傾向にある。したがって、K
+の含有量は、好ましくは0〜10%、より好ましくは0〜8%である。
【0029】
M
2+(M
2+はMg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+及びZn
2+から選択される少なくとも1種)も安定なガラス化に有効な成分である。また、耐候性を向上させる効果もある。M
2+含有量は、好ましくは1〜50%、より好ましくは10〜45%、さらに好ましくは15〜40%である。M
2+の含有量が少なすぎると、ガラス化が不安定になる傾向がある。また、耐候性に劣る傾向がある。一方、M
2+の含有量が多すぎると、かえってガラス化が不安定になる傾向がある。
【0030】
なお、M
2+の各成分の含有量は以下の通りとすることが好ましい。
【0031】
Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+及びMg
2+の含有量は、それぞれ好ましくは0〜20%、より好ましくは0.1〜10%である。
【0032】
Zn
2+は、M
2+の中でも特にガラス化の安定及び耐候性の向上の効果が高い成分である。Zn
2+の含有量は、好ましくは1〜50%、より好ましくは10〜50%、さらに好ましくは15〜48%、特に好ましくは20〜45%、最も好ましくは23〜35%である。
【0033】
本発明のガラスにおいて、所定の波長の光を吸収させる目的でCu
2+、Fe
3+、Co
2+及びCe
4+から選択される少なくとも1種を含有させることができる。Cu
2++Fe
3++Co
2++Ce
4+の含有量は、好ましくは0.001〜15%、より好ましくは0.1〜12%、さらに好ましくは1〜8%である。これらの成分の含有量が少なすぎると、上記効果が得られにくく、一方、多すぎると、ガラス化が不安定になる傾向がある。
【0034】
上記各光吸収成分の含有量は以下の通りとすることが好ましい。
【0035】
Cu
2+の含有量は、好ましくは0〜15%、より好ましくは0.001〜12%、さらに好ましくは0.1〜8%である。本発明の光学ガラスにCu
2+を含有させることにより、近赤外の光を効果的に吸収することができる。なお、S
6+の共存下では、Cuイオンの価数の平衡を酸化側にシフトしやすいため、近赤外域の吸収特性に優れたガラスが得られやすい。
【0036】
Fe
3+、Co
2+及びCe
4+の含有量は、それぞれ好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜3%、さらに好ましくは0〜2%、特に好ましくは0.1〜2%である。
【0037】
Cu
2+、Fe
3+、Co
2+またはCe
4+等の光吸収成分を通常のリン酸塩系ガラスに含有させると、ガラス化が不安定になる傾向にあるが、本発明の光学ガラスはガラス化を安定させるS
6+を所定量含有しているため、上記成分を含有させてもガラス化が不安定になりにくいという利点がある。
【0038】
W
6+はガラス化を安定にしたり、耐候性を向上させる効果を有する。W
6+の含有量は、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜2%である。W
6+の含有量が多すぎると、ガラス化が不安定になったり、可視域の透過率が低下する傾向がある。
【0039】
その他に、Bi
3+、La
3+、Y
3+、Gd
3+、Te
4+、Si
4+、Ta
5+、Nb
5+、Ti
4+、Zr
4+またはSb
3+等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有させても構わない。具体的には、これらの成分の含有量は、それぞれ好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。
【0040】
本発明のガラスの液相温度は、好ましくは700℃以下、より好ましくは690℃以下である。液相温度が高すぎると、ガラス化が不安定になり、量産が困難になる傾向がある。
【0041】
本発明のガラスはJOGIS耐水性試験において1〜4級であることが好ましい。これにより、長期間にわたって使用した場合でも、ヤケや風化作用による浸食等の劣化が少ないガラスとすることができる。
【0042】
次に、本発明のガラスを用いて光学レンズ等の光学素子を製造する方法を述べる。
【0043】
まず、所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、白金ルツボを用いてガラス溶融炉中において700〜1000℃で溶融する。次に、鋳造して一旦ガラスブロックを作製し、研削、研磨、洗浄することにより光学素子を得る。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の光学ガラスを実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0045】
(1)各試料の作製
表1は本発明の実施例(No.1〜8)、及び、比較例(No.9〜11)を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
各試料は、以下のようにして作製した。
【0048】
まず、表1に記載の組成となるように調合したガラス原料を白金ルツボに投入し、800〜900℃で均質なるように溶融した。次に、溶融ガラスをSUS板上に流し出し、冷却固化した後、300〜350℃でアニールを行って試料を作製した。
【0049】
(2)各試料の評価
得られた試料について、液相温度及び耐候性を以下の方法により測定または評価した。結果を表1に示す。なお、No.1の試料について、各波長における透過率を測定して得られた透過率曲線を
図1に示す。
【0050】
液相温度は、温度傾斜がついた溶融炉内に試料を3時間静置し、結晶が認められた最高温度を採用した。
【0051】
耐候性は次のようにして評価した。25×30×5mmのサイズに切り出した試料の表面を、ダイヤモンド粉末を用いて鏡面研磨し、耐候性試験用試料を作製した。耐候性試験用試料を温度60℃、湿度90%の環境下に3日間静置した後、表面状態を確認し、目視で変化が見られなかったものを「○」、目視で白濁箇所等が見られたものを「×」として評価した。また、別途JOGISに準ずる耐水性についても評価した。
【0052】
透過率は、両面を鏡面研磨した25×30×1mmの試料を作製し、島津製作所製UV3100PCを用いて測定した。
【0053】
表1から明らかなように、実施例であるNo.1〜8の試料は、液相温度が680℃以下と低く、ガラス化が安定していた。また、いずれも耐候性に優れていた。一方、比較例であるNo.9〜11の試料は、いずれも耐候性に劣っていた。また、No.9及び11の試料は液相温度が720℃以上と高く、ガラス化が不安定であった。