特許第6020173号(P6020173)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020173
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】発光素子材料および発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20161020BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20161020BHJP
   C07D 213/22 20060101ALI20161020BHJP
   C07D 215/12 20060101ALI20161020BHJP
   C07D 401/14 20060101ALI20161020BHJP
   C07D 401/10 20060101ALI20161020BHJP
   C07D 209/82 20060101ALI20161020BHJP
   C07D 235/18 20060101ALI20161020BHJP
   C07D 487/04 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
   H05B33/22 B
   H05B33/22 D
   H05B33/14 A
   C09K11/06 690
   C07D213/22
   C07D215/12
   C07D401/14
   C07D401/10
   C07D209/82
   C07D235/18
   C07D487/04 137
【請求項の数】9
【全頁数】74
(21)【出願番号】特願2012-540610(P2012-540610)
(86)(22)【出願日】2012年9月4日
(86)【国際出願番号】JP2012072420
(87)【国際公開番号】WO2013038944
(87)【国際公開日】20130321
【審査請求日】2015年3月31日
(31)【優先権主張番号】特願2011-202764(P2011-202764)
(32)【優先日】2011年9月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 大作
(72)【発明者】
【氏名】長尾 和真
(72)【発明者】
【氏名】富永 剛
【審査官】 大竹 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−001475(JP,A)
【文献】 特開2011−173972(JP,A)
【文献】 特開2010−195708(JP,A)
【文献】 特表2009−516652(JP,A)
【文献】 特表2009−518342(JP,A)
【文献】 特開2007−066883(JP,A)
【文献】 特開平11−251063(JP,A)
【文献】 特開平08−003547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 51/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、または(2)で表される化合物を含むことを特徴とする発光素子材料。
【化1】
(R〜R16はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R1718からなる群より選ばれる。R17およびR18はアリール基またはヘテロアリール基である。R〜RおよびR〜R16は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Xは一般式(5)で表される基であり、Yは一般式(4)で表される基である。Lは単結合、置換もしくは無置換の核炭素数6〜40のアリーレン基、または置換もしくは無置換の核炭素数2〜40のヘテロアリーレン基を表す。Lは単結合、置換もしくは無置換の核炭素数6〜14のアリール基から導かれる残基、または置換もしくは無置換の核炭素数2〜14のヘテロアリール基から導かれる残基を表す。HArおよびHArは置換もしくは無置換の電子受容性窒素を有するヘテロアリール基を表す。R19〜R21は前記R〜R16と同義である。mはLが単結合の場合は1であり、それ以外の場合は1〜5の整数を表す。HArはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。mが2〜5の場合、HArはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。またXとYが同じ基になることはない。)
【請求項2】
HArが置換もしくは無置換のピリジル基、置換もしくは無置換のピリミジル基、置換もしくは無置換のピラジニル基、置換もしくは無置換のキノリニル基、または置換もしくは無置換のイソキノリニル基である請求項1記載の発光素子材料。
【請求項3】
が単結合であるか、フェニル基から導かれる残基である請求項1または2記載の発光素子材料。
【請求項4】
HArが、置換もしくは無置換のピリジル基、置換もしくは無置換のピリミジル基、置換もしくは無置換のピラジニル基、置換もしくは無置換のキノリニル基、置換もしくは無置換のイソキノリニル基である請求項1〜のいずれか記載の発光素子材料。
【請求項5】
陽極と陰極の間に有機層が存在し、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、前記有機層に請求項1〜のいずれか記載の発光素子材料を含有することを特徴とする発光素子。
【請求項6】
陽極と陰極の間に少なくとも発光層と電子輸送層が存在し、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、該電子輸送層が請求項1〜のいずれか記載の発光素子材料を含む発光素子。
【請求項7】
前記電子輸送層がさらにドナー性化合物を含有し、ドナー性化合物がアルカリ金属、アルカリ金属を含有する無機塩、アルカリ金属と有機物の錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩、またはアルカリ土類金属と有機物の錯体である請求項記載の発光素子。
【請求項8】
陽極と陰極の間にさらに正孔輸送層を含み、該正孔輸送層がカルバゾール骨格を有する材料を含有する請求項のいずれか記載の発光素子。
【請求項9】
陽極と陰極の間にさらに正孔輸送層を含み、該正孔輸送層がトリフェニレン骨格を有する材料を含有する請求項のいずれか記載の発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーを光に変換できる発光素子に関する。より詳しくは、表示素子、フラットパネルディスプレイ、バックライト、照明、インテリア、標識、看板、電子写真機および光信号発生器などの分野に利用可能な発光素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
陰極から注入された電子と陽極から注入された正孔が両極に挟まれた有機蛍光体内で再結合する際に発光するという有機薄膜発光素子の研究が、近年活発に行われている。この発光素子は、薄型でかつ低駆動電圧下での高輝度発光と、蛍光材料を選ぶことによる多色発光が特徴であり、注目を集めている。この研究は、コダック社のC.W.Tangらにより有機薄膜素子が高輝度に発光することが示されて以来、多くの研究機関により検討されている。
【0003】
また、有機薄膜発光素子は、発光層に種々の発光材料を用いることにより、多様な発光色を得ることが可能であることから、ディスプレイなどへの実用化研究が盛んである。三原色の発光材料の中では緑色発光材料の研究が最も進んでおり、現在は赤色発光材料と青色発光材料において、特性向上を目指して鋭意研究がなされている。
【0004】
有機薄膜発光素子は、発光効率の向上、駆動電圧の低下、耐久性の向上を満たす必要がある。中でも、発光効率と耐久寿命の両立が大きな課題となっている。例えば、発光効率、並びに耐久寿命を向上させるために、ピレンを基本骨格とした発光材料や電子輸送材料が開発されている(例えば、特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−131723号公報
【特許文献2】特開2007−15961号公報
【特許文献3】特開2011−14886号公報
【特許文献4】国際公開第2004/63159号
【特許文献5】欧州特許出願公開第1808912号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし上述のように、有機薄膜発光素子において、発光効率と耐久性の両立は長年の課題であり、上記特許文献に記載の材料群を電子輸送層に用いても、発光効率と耐久性との両立には不十分であった。
【0007】
本発明は、かかる従来技術の問題を解決し、高効率発光かつ耐久性に優れた有機薄膜発光素子を可能にする発光素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記一般式(1)、または(2)で表される化合物を含むことを特徴とする発光素子材料である。
【0009】
【化1】
【0010】
〜R16はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R1718からなる群より選ばれる。R17およびR18はアリール基またはヘテロアリール基である。R〜RおよびR〜R16は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Xは一般式()で表される基であり、Yは一般式(4)で表される基である。Lは単結合、置換もしくは無置換の核炭素数6〜40のアリーレン基、または置換もしくは無置換の核炭素数2〜40のヘテロアリーレン基を表す。Lは単結合、置換もしくは無置換の核炭素数6〜14のアリール基から導かれる残基、または置換もしくは無置換の核炭素数2〜14のヘテロアリール基から導かれる残基を表す。HArおよびHArは置換もしくは無置換の電子受容性窒素を有するヘテロアリール基を表す。19〜R21は前記R〜R16と同義である。mはLが単結合の場合は1であり、それ以外の場合は1〜5の整数を表す。HArはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。mが2〜5の場合、HArはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。またXとYが同じ基になることはない。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、高効率発光かつ耐久性に優れた有機電界発光素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般式(1)または(2)で表される化合物について詳細に説明する。
【0013】
【化2】
【0014】
〜R16はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、シリル基および−P(=O)R1718からなる群より選ばれる。R17およびR18はアリール基またはヘテロアリール基である。R〜RおよびR〜R16は隣接する置換基同士で環を形成してもよい。Xは一般式(3)で表される基であり、Yは一般式(4)で表される基である。Lは単結合、置換もしくは無置換の核炭素数6〜40のアリーレン基、または置換もしくは無置換の核炭素数2〜40のヘテロアリーレン基を表す。Arは置換もしくは無置換の核炭素数6〜14のアリール基から導かれる残基、または置換もしくは無置換の核炭素数2〜14のヘテロアリール基から導かれる残基を表す。Lは単結合、置換もしくは無置換の核炭素数6〜14のアリール基から導かれる残基、または置換もしくは無置換の核炭素数2〜14のヘテロアリール基から導かれる残基を表す。HArおよびHArは置換もしくは無置換の電子受容性窒素を有するヘテロアリール基を表す。nは1〜5の整数である。mはLが単結合の場合は1であり、それ以外の場合は1〜5の整数を表す。nが2〜5の場合、HArはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、mが2〜5の場合、HArはそれぞれ同じでも異なっていてもよい。またXとYが同じ基になることはない。
【0015】
これらの置換基のうち、水素は重水素であってもよい。また、アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限は無く、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、入手の容易性やコストの点から、通常1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0016】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキル基部分の炭素数は特に限定されないが、通常、3以上20以下の範囲である。
【0017】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。複素環基の炭素数は特に限定されないが、通常、2以上20以下の範囲である。
【0018】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、通常、2以上20以下の範囲である。
【0019】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。
【0020】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、通常、2以上20以下の範囲である。
【0021】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、通常、1以上20以下の範囲である。
【0022】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、通常、1以上20以下の範囲である。
【0023】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常、6以上40以下の範囲である。
【0024】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールエーテル基における芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常、6以上40以下の範囲である。
【0025】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、フルオレニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ターフェニル基などの芳香族炭化水素基を示す。アリール基は、置換基を有していても有していなくてもよい。アリール基の核炭素数は特に限定されないが、通常、6以上40以下の範囲である。なお核炭素数には置換基の炭素は含まれない。これは以下の記載にも共通する。
【0026】
ヘテロアリール基とは、フラニル基、チオフェニル基、ピリジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ナフチリジル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチオフェニル基、カルバゾリル基などの炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。ヘテロアリール基の核炭素数は特に限定されないが、通常、2以上30以下の範囲である。
【0027】
ハロゲンとは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を示す。
【0028】
カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、またはホスフィンオキサイド基は、置換基を有していても有していなくてもよく、置換基としては例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられ、これら置換基はさらに置換されてもよい。
【0029】
シリル基とは、例えば、トリメチルシリル基などのケイ素原子への結合を有する官能基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、通常、3以上20以下の範囲である。また、ケイ素数は、通常、1以上6以下である。
【0030】
〜RおよびR〜R16は隣接する置換基同士で結合し共役または非共役の環を形成してもよい。環の構成元素として、炭素以外にも窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素原子を含んでいてもよいし、さらに別の環と縮合してもよい。
【0031】
上記の水素以外の置換基の置換位置としては、一般式(1)ではRもしくはRの位置が好ましく、一般式(2)ではRもしくはR12の位置が好ましい。より好ましくはR〜R、またはR〜R16はすべて水素または重水素である。
【0032】
アリーレン基とは、フェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基などの芳香族炭化水素基から導かれる2価の基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アリーレン基の核炭素数は特に制限されないが、通常、6以上40以下の範囲である。
【0033】
ヘテロアリーレン基とは、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジル基、トリアジル基、キノリニル基、ベンゾキノリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジル基、アクリジル基、フェナントロリニル基、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、インドリル基、カルバゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基などの炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基から導かれる2価の基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリーレン基の核炭素数は特に制限されないが、通常、2以上40以下の範囲である。
【0034】
電子受容性窒素を有するヘテロアリール基とは、ピリジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾキノリニル基、キノキサニル基、ナフチリジル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、フェナントロリニル基、イミダゾピリジル基、トリアジル基、アクリジル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基など、上記ヘテロアリール基のうち、炭素以外の原子として、少なくとも電子受容性の窒素原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基を示し、これは無置換でも置換されていてもかまわない。ここで言う電子受容性窒素とは、隣接原子との間に多重結合を形成している窒素原子を表す。窒素原子が高い電子陰性度を有することから、該多重結合は電子受容的な性質を有する。それゆえ、電子受容性窒素を含む芳香族複素環は、高い電子親和性を有する。電子受容性窒素を有するヘテロアリール基の核炭素数は特に限定されないが、通常2以上40以下である。
【0035】
一般式(1)または(2)で表される化合物は、ピレン骨格の1,6位、または1,8位が電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を含有する置換基で置換された化合物である。ピレン誘導体において、1,6位または1,8位が芳香族性の置換基で置換されるとピレン骨格の電子状態は大きく変化し、共役系が拡張する。よってこのような位置を電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を含有する置換基で置換することで、ピレン骨格に局在しているLUMO(最低非占有軌道)のエネルギー準位を大きく安定化させることができる。結果的に一般式(1)または(2)で表される化合物は陰極から電子を受け取りやすくなり、また一般式(1)または(2)で表される化合物を含む有機層の電子移動度も向上するので好ましい。さらに一般式(1)または(2)で表される化合物のHOMO(最高占有軌道)のエネルギー準位も大きく安定化され、酸化に対して安定となる。すなわち一般式(1)または(2)で表される化合物はラジカルカチオン化されにくくなり、正孔ブロック性が向上する。よって、一般式(1)または(2)で表される化合物を電子輸送層として用いた場合、発光効率の向上に寄与できる材料となる。
【0036】
またXとYが同じ置換基であると、分子の対称性が良すぎて、結晶性が高くなってしまい安定なアモルファス膜を形成できなくなる。一般式(1)または(2)で表される化合物はXとYが必ず異なる置換基であるため上記懸念点が解消され、良好なアモルファス薄膜を形成できる。よって発光素子の耐久寿命向上の効果が得られる。ここでXとYが異なる置換基であることについて、詳細に述べる。例えばXとYがどちらもp−(ピリジル)フェニル基である場合でも、Xの末端のピリジル基が2−ピリジル基で、Yの末端のピリジル基が3−ピリジル基であれば、XとYは異なる置換基とみなす。またXとYがどちらもp−(2−ピリジル)フェニル基であっても、それぞれのピリジル基やフェニレン基の置換基の有無、もしくは置換基の種類で異なる点があれば、やはりXとYは異なる置換基であるとみなす。例えば、p−(2−(4−メチル)ピリジル)フェニル基とp−(2−(5−メチル)ピリジル)フェニル基は異なる置換基である。
【0037】
nは1〜5の整数であるが、nが3〜5の場合、HArが立体的に混み合って置換基Xがねじれを有する構造となり、電子移動度が低下する懸念がある。そのためnは1または2が好ましい。さらにガラス転移温度が高くなり安定なアモルファス薄膜が形成できるという点においてn=2がより好ましい。
【0038】
Arが核炭素数6〜14のアリール基から導かれる残基である場合の例としては、特に限定はされないが、具体的にはフェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基、フルオレニル基、アントラセニル基、またはフェナントレニル基等から導かれる残基があげられる。これらの中でもフェニル基、ナフチル基、ビフェニリル基またはフルオレニル基から導かれる残基がより好ましく、さらに、合成コストや蒸着時の熱負荷への耐性といった観点からフェニル基から導かれる残基がさらに好ましい。またArが核炭素数2〜14のヘテロアリール基から導かれる残基である場合の例としては、特に限定はされないが、具体的にはピリジル基、ピラジニル基、ピリミジル基、トリアジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾキノリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジル基、アクリジル基、フェナントロリニル基、チオフェニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、フラニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基、インドリル基、カルバゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基等から導かれる残基があげられる。これらの中でも電子受容性窒素を含有するものが好ましく、また化学的な安定性の観点から5員環を含まないものが好ましい。中でも、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジル基、トリアジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾキノリニル基、キノキサリニル基、ナフチリジル基、アクリジル基、またはフェナントロリニル基等から導かれる残基がより好ましい。さらに蒸着時の熱負荷への耐性、合成コストの観点から、ピリジル基、ピラジニル基、またはピリミジル基から導かれる残基が特に好ましい。
【0039】
の具体的な例としては、特に限定はされないが、単結合、フェニレン基、ナフタレニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基、フルオレニレン基、アントラセニレン基、ピリジレン基、ピリミジンから導かれる2価の残基、ピラジンから導かれる2価の残基、トリアジンから導かれる2価の残基、キノリンから導かれる2価の残基、イソキノリンから導かれる2価の残基、キノキサリンから導かれる2価の残基、チオフェンから導かれる2価の残基、フランから導かれる2価の残基、ピロールから導かれる2価の残基、カルバゾールから導かれる2価の残基、ジベンゾフランから導かれる2価の残基、ジベンゾチオフェンから導かれる2価の残基等が挙げられる。これらの中でも単結合、フェニレン基、ビフェニレン基、ナフタレニレン基、フルオレニレン基、ピリジレン基、ピリミジンから導かれる2価の残基、ピラジンから導かれる2価の残基、キノリンから導かれる2価の残基、またはイソキノリンから導かれる2価の残基がより好ましい。さらに好ましくは単結合、フェニレン基、ピリジレン基である。
【0040】
HArは電子受容性窒素を含むヘテロアリール基であり、特に限定はされないが、具体的には、ピリジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾキノリニル基、キノキサニル基、ナフチリジル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、フェナントロリニル基、イミダゾピリジル基、トリアジル基、アクリジル基、イミダゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、オキサゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、チアゾリル基、ベンゾチアゾリル基等が挙げられる。これらの中でも、化学的、もしくは蒸着時の熱安定性の観点から5員環を含まないものが好ましく、ピリジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾキノリニル基、キノキサニル基、ナフチリジル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、フェナントロリニル基、トリアジル基、またはアクリジル基がより好ましい。また合成が容易で強固な水素結合ネットワークを形成するという観点ではピリジル基、ピリミジル基、キノリニル基、イソキノリニル基がさらに好ましく、ピリジル基が特に好ましい。ピリジル基の中でも、3−ピリジル基または4−ピリジル基が好ましく、4−ピリジル基が最も好ましい。
【0041】
本発明者らが発光素子の耐久寿命について鋭意検討した結果、発光素子を構成する材料そのものの分解や変質といった本質的な劣化以外に、駆動中、電界によって電子輸送層に何らかの膜質変化が生じ、これが耐久寿命に悪影響を及ぼしていることが判ってきた。詳細は定かではないが、この膜質変化は、電界がかかることによる電子輸送層中の分子の運動に起因するものと考えられる。また分子間相互作用を積極的に利用し、分子運動を抑制できると思われる化合物を電子輸送層に用いると、耐久寿命が向上する傾向があることも判ってきた。以上の観点から、Xが一般式(3)で表される置換基であると分子間相互作用が強くなるので好ましい。またXが一般式(5)で表される置換基であると、より分子間相互作用が強くなり、分子の運動を抑えることができるので、より好ましい。
【0042】
【化3】
【0043】
、HArは上記説明の通りである。R19〜R21は上記R〜R16の説明と同様である。2つのHArは同じでも異なっていてもよい。
【0044】
一般的に電子受容性窒素を有するヘテロアリール基中の窒素原子は隣り合う分子が有する水素原子と水素結合することが知られている。一般式(5)で表される置換基は、ベンゼン環のメタ位とメタ’位に、それぞれ上記のような水素結合する性質を持つ電子受容性窒素を含むヘテロアリール基を有している。よって一般式(5)で表される置換基を有する化合物は隣接する分子間で強固な水素結合ネットワークを形成することができ、上述したような電界がかかることによる分子の運動を抑えることができる。さらに一般式(5)で表される置換基は立体的であるため、ガラス転移温度を向上させることもでき、これらの相乗効果により発光素子の耐久寿命を大きく向上させることができる。R19〜R21の好ましい例としては水素もしくは重水素、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基が挙げられるが、より好ましくは水素または重水素である。
【0045】
一般式(5)で表される置換基の具体的な例としては以下のようなものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
【化6】
【0049】
【化7】
【0050】
【化8】
【0051】
【化9】
【0052】
の具体的な例としては、特に限定はされないが単結合に加えて、Arと同様のものが挙げられる。これらのうち、好ましくは単結合、またはフェニル基、ビフェニリル基、フルオレニル基、ナフタレニル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリニル基もしくはイソキノリニル基から導かれる残基である。さらに好ましくは単結合、またはフェニル基、ビフェニリル基もしくはフルオレニル基から導かれる残基であり、単結合またはフェニル基から導かれる残基が特に好ましい。特に好ましい理由を以下に記載する。
【0053】
Yに含まれる電子受容性窒素を有するヘテロアリール基HArは、主にピレン骨格に局在しているLUMOの、エネルギー準位を調整する役割を果たす。LUMOのエネルギー準位は陰極からの電子の受け取り易さや、発光層への電子注入のし易さに密接に関わっており、発光素子の発光効率向上や寿命向上に関わる大きな要因のひとつである。LUMOのエネルギー準位の調整しやすさは、HArとピレン骨格間の距離やπ共役の広がり方の影響を受ける。HArとピレン骨格の距離が近ければ近いほど、またHArとピレン骨格がπ共役すればするほど、ピレン骨格に局在するLUMOのエネルギー準位はHArの有する電子受容性の影響を受けやすくなり、LUMOのエネルギー準位が変化しやすくなる。すなわち、Lが、ピレンとHArの距離が最も短くなる単結合や、比較的距離が短くπ共役しているフェニル基から導かれる残基の場合において、LUMOのエネルギー準位はHArの影響を受けやすくなる。発光素子においては、最適な電子輸送材料のLUMOのエネルギー準位は用いる陰極材料や発光材料によって様々であり、HArの種類を変えることでLUMOのエネルギー準位の微調整が可能となり、容易に最適なLUMOのエネルギー準位を有する化合物を見出すことができる。逆に、HArとピレン骨格間の距離が遠ければ遠いほど、また共役系が切断されれば切断されるほど、上記のようなLUMOのエネルギー準位の微調整がしにくくなる。したがって、Lとしては単結合、またはフェニル基から導かれる残基が特に好ましい。
【0054】
mはLが単結合以外の場合は1〜5の整数を表すが、mが4、5の場合は、分子量が大きくなりすぎ、蒸着時の熱分解の懸念もあるので、好ましくは、mは1〜3の整数であり、より好ましくは、mは1または2である。
【0055】
HArの具体的な例としては、HArと同様のものが挙げられる。これらのうち、ピリジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾキノリニル基、キノキサニル基、ナフチリジル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、フェナントロリニル基、トリアジル基、またはアクリジル基がより好ましく、さらに合成が容易で、LUMOのエネルギー準位のチューニングがしやすいという観点ではピリジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、トリアジル基、またはアクリジル基がより好ましい。またこれらの中でも、大きな電子移動度が得られ、発光素子の低電圧化が可能であるという観点から、ピリジル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、またはピリミジル基がさらに好ましい。
【0056】
特にピリジル基が好ましく、ピリジル基の中でも3−ピリジル基、または4−ピリジル基がより好ましい。
【0057】
一般式(1)または(2)で表される化合物は、ハロゲン化や鈴木カップリング反応など公知の反応を組み合わせて合成できる。その一例として以下に、合成スキームを示す。なお合成方法はこの限りでない。この合成経路において1段階目の反応に用いるボロン酸の種類を変更することでHArの置換位置、置換数nを調節することができ、3段階目の反応に用いるボロン酸の種類を変更することで、HArの種類を選択できる。すなわち様々なLUMOのエネルギー準位を有する化合物を容易に合成することができる。
【0058】
【化10】
【0059】
上記一般式(1)または(2)で表される化合物としては、特に限定されるものではないが、具体的には以下のような例が挙げられる。
【0060】
【化11】
【0061】
【化12】
【0062】
【化13】
【0063】
【化14】
【0064】
【化15】
【0065】
【化16】
【0066】
【化17】
【0067】
【化18】
【0068】
【化19】
【0069】
【化20】
【0070】
【化21】
【0071】
【化22】
【0072】
【化23】
【0073】
【化24】
【0074】
【化25】
【0075】
【化26】
【0076】
【化27】
【0077】
【化28】
【0078】
【化29】
【0079】
【化30】
【0080】
【化31】
【0081】
【化32】
【0082】
【化33】
【0083】
【化34】
【0084】
【化35】
【0085】
【化36】
【0086】
【化37】
【0087】
【化38】
【0088】
【化39】
【0089】
【化40】
【0090】
次に、本発明の発光素子の実施の形態について詳細に説明する。本発明の発光素子は、陽極と陰極、およびそれら陽極と陰極との間に介在する有機層を有し、該有機層は少なくとも発光層と電子輸送層を含み、該発光層が電気エネルギーにより発光する。
【0091】
有機層は、発光層/電子輸送層のみからなる構成の他に、1)正孔輸送層/発光層/電子輸送層および2)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、3)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層などの積層構成が挙げられる。また、上記各層は、それぞれ単一層、複数層のいずれでもよい。
【0092】
一般式(1)または(2)で表される化合物は、上記の素子構成において、いずれの層に用いられてもよいが、電子注入輸送特性に優れているため、電子輸送層、もしくは電子注入層に用いるのが好ましい。
【0093】
本発明の発光素子において、陽極と陰極は素子の発光のために十分な電流を供給するための役割を有するものであり、光を取り出すために少なくとも一方は透明または半透明であることが望ましい。通常、基板上に形成される陽極を透明電極とする。
【0094】
陽極に用いる材料は、正孔を有機層に効率よく注入できる材料、かつ光を取り出すために透明または半透明であれば、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物、あるいは、金、銀、クロムなどの金属、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなど特に限定されるものでないが、ITOガラスやネサガラスを用いることが特に望ましい。これらの電極材料は、単独で用いてもよいが、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。透明電極の抵抗は素子の発光に十分な電流が供給できればよいので限定されないが、素子の消費電力の観点からは低抵抗であることが望ましい。例えば300Ω/□以下のITO基板であれば素子電極として機能するが、現在では10Ω/□程度の基板の供給も可能になっていることから、20Ω/□以下の低抵抗の基板を使用することが特に望ましい。ITOの厚みは抵抗値に合わせて任意に選ぶ事ができるが、通常100〜300nmの間で用いられることが多い。
【0095】
また、発光素子の機械的強度を保つために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板は、ソーダガラスや無アルカリガラスなどのガラス基板が好適に用いられる。ガラス基板の厚みは、機械的強度を保つのに十分な厚みがあればよいので、0.5mm以上あれば十分である。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましい。または、SiOなどのバリアコートを施したソーダライムガラスも市販されているのでこれを使用することもできる。さらに、第一電極が安定に機能するのであれば、基板はガラスである必要はなく、例えば、プラスチック基板上に陽極を形成しても良い。ITO膜形成方法は、電子線ビーム法、スパッタリング法および化学反応法など特に制限を受けるものではない。
【0096】
陰極に用いる材料は、電子を効率よく発光層に注入できる物質であれば特に限定されない。一般的には白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、インジウムなどの金属、またはこれらの金属とリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属との合金や多層積層などが好ましい。中でも、主成分としてはアルミニウム、銀、マグネシウムが電気抵抗値や製膜しやすさ、膜の安定性、発光効率などの面から好ましい。特にマグネシウムと銀で構成されると、本発明における電子輸送層および電子注入層への電子注入が容易になり、低電圧駆動が可能になるため好ましい。
【0097】
さらに、陰極保護のために白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、またはこれら金属を用いた合金、シリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などの有機高分子化合物を、保護膜層として陰極上に積層することが好ましい例として挙げられる。また、一般式(1)または(2)で表される化合物もこの保護膜層として利用できる。ただし、陰極側から光を取り出す素子構造(トップエミッション構造)の場合は、保護膜層は可視光領域で光透過性のある材料から選択される。これらの電極の作製法は、抵抗加熱、電子線ビーム、スパッタリング、イオンプレーティングおよびコーティングなど特に制限されない。
【0098】
正孔輸送層は、正孔輸送材料の一種または二種以上を積層または混合する方法、もしくは、正孔輸送材料と高分子結着剤の混合物を用いる方法により形成される。また、正孔輸送材料は、電界を与えられた電極間において正極からの正孔を効率良く輸送することが必要で、正孔注入効率が高く、注入された正孔を効率良く輸送することが望ましい。そのためには適切なイオン化ポテンシャルを持ち、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質であることが要求される。このような条件を満たす物質として、特に限定されるものではないが、例えば、4,4’−ビス(N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル(TPD)、4,4’−ビス(N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル(NPD)、4,4’−ビス(N,N−ビス(4−ビフェニリル)アミノ)ビフェニル(TBDB),ビス(N,N’−ジフェニル−4−アミノフェニル)−N,N−ジフェニル−4,4’−ジアミノ−1,1’−ビフェニル(TPD232)といったベンジジン誘導体、4,4’,4”−トリス(3−メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、4,4’,4”−トリス(1−ナフチル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(1−TNATA)などのスターバーストアリールアミンと呼ばれる材料群、ビス(N−アリルカルバゾール)またはビス(N−アルキルカルバゾール)などのカルバゾール2量体の誘導体、カルバゾール3量体の誘導体、カルバゾール4量体の誘導体、トリフェニレン化合物、ピラゾリン誘導体、スチルベン系化合物、ヒドラゾン系化合物、ベンゾフラン誘導体やチオフェン誘導体、オキサジアゾール誘導体、フタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体などの複素環化合物、フラーレン誘導体、ポリマー系では前記単量体を側鎖に有するポリカーボネートやスチレン誘導体、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾールおよびポリシランなどが好ましい。さらにp型Si、p型SiC等の無機化合物も使用できる。
【0099】
一般式(1)または(2)で表される化合物は電子注入輸送特性が優れているので、これを電子輸送層に用いた場合、電子が発光層で再結合せず、一部正孔輸送層までもれてしまう懸念がある。そのため正孔輸送層には電子ブロック性の優れた化合物を用いるのが好ましい。中でも、カルバゾール骨格を含有する化合物は電子ブロック性に優れ、発光素子の高発光効率化に寄与できるので好ましい。さらに上記カルバゾール骨格を含有する化合物が、カルバゾール2量体、カルバゾール3量体、またはカルバゾール4量体骨格を含有すると良好な電子ブロック性と、正孔注入輸送特性を併せ持っているためより好ましい。さらに、正孔輸送層にカルバゾール骨格を含有する化合物を用いた場合、組み合わせる発光層が後述するリン光発光材料を含んでいると、上記カルバゾール骨格を有する化合物は高い三重項励起子ブロック機能も有しているため、高発光効率化できるのでより好ましい。また高い正孔移動度を有する点で優れているトリフェニレン骨格を含有する化合物を正孔輸送層に用いると、キャリアバランスが向上し、発光効率向上、耐久寿命向上といった効果が得られるので好ましい。トリフェニレン骨格を含有する化合物が2つ以上のジアリールアミノ基を有していると、さらに好ましい。上記カルバゾール骨格を含有する化合物、またはトリフェニレン骨格を含有する化合物はそれぞれ単独で正孔輸送層として用いてもよいし、互いに混合して用いてもよい。また本発明の効果を損なわない範囲で他の材料が混合されていてもよい。また正孔輸送層が複数層で構成されている場合は、いずれか1層にカルバゾール骨格を含有する化合物、あるいは、トリフェニレン骨格を含有する化合物が含まれていればよい。
【0100】
陽極と正孔輸送層の間に正孔注入層を設けてもよい。正孔注入層を設けることで発光素子が低電圧化し、耐久寿命も向上する。正孔注入層には通常正孔輸送層に用いる材料よりもイオン化ポテンシャルの小さい材料が好ましく用いられる。具体的には、上記TPD232のようなベンジジン誘導体、スターバーストアリールアミン材料群が挙げられる他、フタロシアニン誘導体等も用いることができる。また正孔注入層がアクセプター性化合物単独で構成されているか、またはアクセプター性化合物が別の正孔輸送材料にドープして用いられていることも好ましい。アクセプター性化合物の例としては、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、塩化アンチモンのような金属塩化物、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ルテニウムのような金属酸化物、トリス(4−ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)のような電荷移動錯体が挙げられる。また分子内にニトロ基、シアノ基、ハロゲンまたはトリフルオロメチル基を有する有機化合物や、キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなども好適に用いられる。これらの化合物の具体的な例としては、ヘキサシアノブタジエン、ヘキサシアノベンゼン、テトラシアノエチレン、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)、2,3,6,7,10,11−ヘキサシアノ−1,4,5,8,9,12−ヘキサアザトリフェニレン(HAT−CN6)、p−フルオラニル、p−クロラニル、p−ブロマニル、p−ベンゾキノン、2,6−ジクロロベンゾキノン、2,5−ジクロロベンゾキノン、テトラメチルベンゾキノン、1,2,4,5−テトラシアノベンゼン、o−ジシアノベンゼン、p−ジシアノベンゼン、1,4−ジシアノテトラフルオロベンゼン、2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノベンゾキノン、p−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼン、o−ジニトロベンゼン、p−シアノニトロベンゼン、m−シアノニトロベンゼン、o−シアノニトロベンゼン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジクロロナフトキノン、1−ニトロナフタレン、2−ニトロナフタレン、1,3−ジニトロナフタレン、1,5−ジニトロナフタレン、9−シアノアントラセン、9−ニトロアントラセン、9,10−アントラキノン、1,3,6,8−テトラニトロカルバゾール、2,4,7−トリニトロ−9−フルオレノン、2,3,5,6−テトラシアノピリジン、マレイン酸無水物、フタル酸無水物、C60、およびC70などが挙げられる。
【0101】
これらの中でも、金属酸化物やシアノ基含有化合物が取り扱いやすく、蒸着もしやすいことから、容易に上述した効果が得られるので好ましい。好ましい金属酸化物の例としては酸化モリブデン、酸化バナジウム、または酸化ルテニウムがあげられる。シアノ基含有化合物の中では、(a)分子内に、シアノ基の窒素原子以外に少なくとも1つの電子受容性窒素を有し、さらにシアノ基を有する化合物、(b)分子内にハロゲンとシアノ基の両方を有している化合物、(c)分子内にカルボニル基とシアノ基の両方を有している化合物、または(d)シアノ基の窒素原子以外の電子受容性窒素、ハロゲンおよびシアノ基のすべてを有する化合物が強い電子アクセプターとなるためより好ましい。このような化合物として具体的には以下のような化合物があげられる。
【0102】
【化41】
【0103】
【化42】
【0104】
正孔注入層がアクセプター性化合物単独で構成される場合、または正孔注入層にアクセプター性化合物がドープされている場合のいずれの場合も、正孔注入層は1層であってもよいし、複数の層が積層されて構成されていてもよい。またアクセプター化合物がドープされている場合に組み合わせて用いる正孔注入材料は、正孔輸送層への正孔注入障壁が緩和できるという観点から、正孔輸送層に用いる化合物と同一の化合物であることがより好ましい。
【0105】
本発明において、発光層は単一層、複数層のどちらでもよく、それぞれ発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成され、これはホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であっても、いずれでもよい。すなわち、本発明の発光素子では、各発光層において、ホスト材料もしくはドーパント材料のみが発光してもよいし、ホスト材料とドーパント材料がともに発光してもよい。電気エネルギーを効率よく利用し、高色純度の発光を得るという観点からは、発光層はホスト材料とドーパント材料の混合からなることが好ましい。また、ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれでもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれでもよい。ドーパント材料は発光色の制御ができる。ドーパント材料の量は、多すぎると濃度消光現象が起きるため、ホスト材料に対して20重量%以下で用いることが好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。ドーピング方法は、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着してもよい。
【0106】
発光層は単一層、複数層のどちらでもよく、それぞれ発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成され、これはホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であっても、いずれでもよい。すなわち、本発明の発光素子では、各発光層において、ホスト材料もしくはドーパント材料のみが発光してもよいし、ホスト材料とドーパント材料がともに発光してもよい。電気エネルギーを効率よく利用し、高色純度の発光を得るという観点からは、発光層はホスト材料とドーパント材料の混合からなることが好ましい。また、ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれでもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれでもよい。ドーパント材料は発光色の制御ができる。ドーパント材料の量は、多すぎると濃度消光現象が起きるため、ホスト材料に対して20重量%以下で用いることが好ましく、さらに好ましくは10重量%以下である。ドーピング方法は、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着してもよい。
【0107】
発光材料は、具体的には、以前から発光体として知られていたアントラセンやピレンなどの縮合環誘導体、トリス(8−キノリノラト)アルミニウムを始めとする金属キレート化オキシノイド化合物、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、そして、ポリチオフェン誘導体などが使用できるが特に限定されるものではない。
【0108】
発光材料に含有されるホスト材料は、特に限定されないが、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミンなどの芳香族アミン誘導体、トリス(8−キノリナート)アルミニウム(III)をはじめとする金属キレート化オキシノイド化合物、ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体、ポリマー系では、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体などが使用できるが特に限定されるものではない。またドーパント材料には、特に限定されないが、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体(例えば2−(ベンゾチアゾール−2−イル)−9,10−ジフェニルアントラセンや5,6,11,12−テトラフェニルナフタセンなど)、フラン、ピロール、チオフェン、シロール、9−シラフルオレン、9,9’−スピロビシラフルオレン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、イミダゾピリジン、フェナントロリン、ピリジン、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン、チオキサンテンなどのヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体、ボラン誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、4,4’−ビス(2−(4−ジフェニルアミノフェニル)エテニル)ビフェニル、4,4’−ビス(N−(スチルベン−4−イル)−N−フェニルアミノ)スチルベンなどのアミノスチリル誘導体、芳香族アセチレン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4−c]ピロール誘導体、2,3,5,6−1H,4H−テトラヒドロ−9−(2’−ベンゾチアゾリル)キノリジノ[9,9a,1−gh]クマリンなどのクマリン誘導体、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体およびその金属錯体およびN,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミンに代表される芳香族アミン誘導体などを用いることができる。
【0109】
また発光層にリン光発光材料が含まれていてもよい。リン光発光材料とは、室温でもリン光発光を示す材料である。ドーパントしては基本的に室温でもリン光発光が得られる必要があるが、特に限定されるものではなく、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、及びレニウム(Re)からなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む有機金属錯体化合物であることが好ましい。中でも室温でも高いリン光発光収率を有するという観点から、イリジウム、もしくは白金を有する有機金属錯体がより好ましい。リン光発光材料のホストとしては、インドール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ピリジン、ピリミジン、トリアジン骨格を有する含窒素芳香族化合物誘導体、ポリアリールベンゼン誘導体、スピロフルオレン誘導体、トルキセン誘導体、トリフェニレン誘導体といった芳香族炭化水素化合物誘導体、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体といったカルコゲン元素を含有する化合物、ベリリウムキノリノール錯体といった有機金属錯体などが好適に用いられるが、基本的に用いるドーパントよりも三重項エネルギーが大きく、電子、正孔がそれぞれの輸送層から円滑に注入され、また輸送するものであればこれらに限定されるものではない。また2種以上の三重項発光ドーパントが含有されていてもよいし、2種以上のホスト材料が含有されていてもよい。さらに1種以上の三重項発光ドーパントと1種以上の蛍光発光ドーパントが含有されていてもよい。
【0110】
好ましいリン光発光性ホストまたはドーパントとしては、特に限定されるものではないが、具体的には以下のような例が挙げられる。
【0111】
【化43】
【0112】
【化44】
【0113】
本発明において、電子輸送層とは、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送する層である。電子輸送層には、電子注入効率が高く、注入された電子を効率良く輸送することが望まれる。そのため電子輸送層は、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時および使用時に発生しにくい物質で構成されることが望ましい。しかしながら、正孔と電子の輸送バランスを考えた場合に、電子輸送層が陽極からの正孔が再結合せずに陰極側へ流れるのを効率よく阻止できる役割を主に果たすならば、電子輸送能力がそれ程高くない材料で構成されていても、発光効率を向上させる効果は電子輸送能力が高い材料で構成されている場合と同等となる。したがって、本発明における電子輸送層には、正孔の移動を効率よく阻止できる正孔阻止層も同義のものとして含まれる。
【0114】
一般式(1)または(2)で表される化合物は、上記条件を満たす化合物であり、高い電子注入輸送能を有することから電子輸送材料として好適に用いられる。
【0115】
一般式(1)または(2)で表される化合物は、ピレン骨格の1,6位または1,8位に電子受容性窒素を有するヘテロアリール基を含有するため電子注入輸送性、電気化学的安定性に優れる。また、上記置換基の導入により、後述のドナー性化合物との薄膜状態における相溶性が向上し、より高い電子注入輸送能を発現する。この混合物層の働きにより、陰極から発光層への電子の輸送が促進され、高発光効率と低駆動電圧を両立することができる。
【0116】
本発明で用いられる電子輸送材料は、本発明の一般式(1)または(2)で表される化合物各一種のみに限る必要はなく、本発明の複数のピレン化合物を混合して用いたり、その他の電子輸送材料の一種類以上を本発明の効果を損なわない範囲で本発明のピレン化合物と混合して用いてもよい。混合しうる電子輸送材料としては、特に限定されないが、ナフタレン、アントラセン、ピレンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、4,4’−ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルに代表されるスチリル系芳香環誘導体、ペリレン誘導体、ペリノン誘導体、クマリン誘導体、ナフタルイミド誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、リンオキサイド誘導体、カルバゾール誘導体およびインドール誘導体、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体やヒドロキシフェニルオキサゾール錯体などのヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体が挙げられる。
【0117】
次に、ドナー性化合物について説明する。本発明におけるドナー性化合物は電子注入障壁の改善により、陰極または電子注入層からの電子輸送層への電子注入を容易にし、さらに電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。すなわち本発明の発光素子は、一般式(1)または(2)で表される化合物に加えて、電子輸送能力を向上させるために電子輸送層にドナー性化合物をドーピングしたものであることがより好ましい。
【0118】
本発明におけるドナー性化合物の好ましい例としては、アルカリ金属、アルカリ金属を含有する無機塩、アルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩またはアルカリ土類金属と有機物との錯体などが挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属の好ましい種類としては、低仕事関数で電子輸送能向上の効果が大きいリチウム、ナトリウム、セシウムといったアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウムといったアルカリ土類金属が挙げられる。
【0119】
また、真空中での蒸着が容易で取り扱いに優れることから、金属単体よりも無機塩、あるいは有機物との錯体の状態であることが好ましい。さらに、大気中での取扱を容易にし、添加濃度の制御のし易さの点で、有機物との錯体の状態にあることがより好ましい。無機塩の例としては、LiO、Li2O等の酸化物、窒化物、LiF、NaF、KF等のフッ化物、Li2CO3、Na2CO3、K2CO3、Rb2CO3、Cs2CO3等の炭酸塩などが挙げられる。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の好ましい例としては、原料が安価で合成が容易な点から、リチウムが挙げられる。また、有機物との錯体における有機物の好ましい例としては、キノリノール、ベンゾキノリノール、フラボノール、ヒドロキシイミダゾピリジン、ヒドロキシベンズアゾール、ヒドロキシトリアゾールなどが挙げられる。中でも、アルカリ金属と有機物との錯体が好ましく、リチウムと有機物との錯体がより好ましく、リチウムキノリノールが特に好ましい。これらのドナー性化合物を2種以上混合して用いてもよい。
【0120】
好適なドーピング濃度は材料やドーピング領域の膜厚によっても異なるが、例えばドナー性化合物がアルカリ金属、アルカリ土類金属といった無機材料の場合は、電子輸送材料とドナー性化合物の蒸着速度比が10000:1〜2:1の範囲となるようにして共蒸着して電子輸送層としたものが好ましい。蒸着速度比は100:1〜5:1がより好ましく、100:1〜10:1がさらに好ましい。またドナー性化合物が金属と有機物との錯体である場合は、電子輸送材料とドナー性化合物の蒸着速度比が100:1〜1:100の範囲となるようにして共蒸着して電子輸送層としたものが好ましい。蒸着速度比は10:1〜1:10がより好ましく、7:3〜3:7がより好ましい。
【0121】
また、上記のような一般式(1)または(2)で表される化合物にドナー性化合物がドープされた電子輸送層は、複数の発光素子を連結するタンデム構造型素子における電荷発生層として用いられていてもよい。
【0122】
電子輸送層にドナー性化合物をドーピングして電子輸送能を向上させる方法は、薄膜層の膜厚が厚い場合に特に効果を発揮するものである。電子輸送層および発光層の合計膜厚が50nm以上の場合に特に好ましく用いられる。例えば、発光効率を向上させるために干渉効果を利用する方法があるが、これは発光層から直接放射される光と、陰極で反射された光の位相を整合させて光の取り出し効率を向上させるものである。この最適条件は光の発光波長に応じて変化するが、電子輸送層および発光層の合計膜厚が50nm以上となり、赤色などの長波長発光の場合には100nm近くの厚膜になる場合がある。
【0123】
ドーピングする電子輸送層の膜厚は、電子輸送層の一部分または全部のどちらでも構わない。一部分にドーピングする場合、少なくとも電子輸送層/陰極界面にはドーピング領域を設けることが望ましく、陰極界面付近にドーピングするだけでも低電圧化の効果は得られる。一方、ドナー性化合物が発光層に直接接していると発光効率を低下させる悪影響を及ぼす場合があり、その場合には発光層/電子輸送層界面にノンドープ領域を設けることが望ましい。
【0124】
本発明において、陰極と電子輸送層の間に電子注入層を設けてもよい。一般的に電子注入層は陰極から電子輸送層への電子の注入を助ける目的で挿入されるが、挿入する場合は、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物を用いてもよいし、上記のドナー性化合物を含有する層を用いてもよい。一般式(1)または(2)で表される化合物が電子注入層に含まれていてもよい。また電子注入層に絶縁体や半導体の無機物を用いることもできる。これらの材料を用いることで発光素子の短絡を有効に防止して、かつ電子注入性を向上させることができるので好ましい。このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物及びアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物を使用するのが好ましい。電子注入層がこれらのアルカリ金属カルコゲナイド等で構成されていれば、電子注入性をさらに向上させることができる点でより好ましい。具体的に、好ましいアルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、NaS及びNaSeが挙げられ、好ましいアルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaS及びCaSeが挙げられる。また、好ましいアルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、LiF、NaF、KF、LiCl、KCl及びNaCl等が挙げられる。また、好ましいアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgF及びBeF等のフッ化物や、フッ化物以外のハロゲン化物が挙げられる。さらに有機物と金属の錯体も好適に用いられる。電子注入層に絶縁体、半導体の無機物を使用する場合は、膜厚を厚くしすぎると、発光素子が絶縁化してしまう、あるいは駆動電圧が高くなってしまうといった問題が生じることがある。すなわち、電子注入層の膜厚マージンがせまく発光素子作製時の歩留まり低下を招く恐れがあるが、電子注入層に有機物と金属の錯体を用いる場合は膜厚調整が容易であるのでより好ましい。このような有機金属錯体の例としては有機物との錯体における有機物の好ましい例としては、キノリノール、ベンゾキノリノール、ピリジルフェノール、フラボノール、ヒドロキシイミダゾピリジン、ヒドロキシベンズアゾール、ヒドロキシトリアゾールなどが挙げられる。中でも、アルカリ金属と有機物との錯体が好ましく、リチウムと有機物との錯体がより好ましく、リチウムキノリノールが特に好ましい。
【0125】
発光素子を構成する上記各層の形成方法は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法など特に限定されないが、通常は、素子特性の点から抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好ましい。
【0126】
有機層の厚みは、発光物質の抵抗値にもよるので限定することはできないが、1〜1000nmであることが好ましい。発光層、電子輸送層、正孔輸送層の膜厚はそれぞれ、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0127】
本発明の発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる機能を有する。ここで電気エネルギーとしては主に直流電流が使用されるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、できるだけ低いエネルギーで最大の輝度が得られるよう選ばれるべきである。
【0128】
本発明の発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイとして好適に用いられる。
【0129】
マトリクス方式とは、表示のための画素が格子状やモザイク状など二次元的に配置され、画素の集合で文字や画像を表示する。画素の形状やサイズは用途によって決まる。例えば、パソコン、モニター、テレビの画像および文字表示には、通常一辺が300μm以下の四角形の画素が用いられ、また、表示パネルのような大型ディスプレイの場合は、一辺がmmオーダーの画素を用いることになる。モノクロ表示の場合は、同じ色の画素を配列すればよいが、カラー表示の場合には、赤、緑、青の画素を並べて表示させる。この場合、典型的にはデルタタイプとストライプタイプがある。そして、このマトリクスの駆動方法は、線順次駆動方法やアクティブマトリクスのどちらでもよい。線順次駆動はその構造が簡単であるが、動作特性を考慮した場合、アクティブマトリクスの方が優れる場合があるので、これも用途によって使い分けることが必要である。
【0130】
本発明におけるセグメント方式とは、予め決められた情報を表示するようにパターンを形成し、このパターンの配置によって決められた領域を発光させる方式である。例えば、デジタル時計や温度計における時刻や温度表示、オーディオ機器や電磁調理器などの動作状態表示および自動車のパネル表示などが挙げられる。そして、前記マトリクス表示とセグメント表示は同じパネルの中に共存していてもよい。
本発明の発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しない表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶表示装置、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などに使用される。特に、液晶表示装置、中でも薄型化が検討されているパソコン用途のバックライトに本発明の発光素子は好ましく用いられ、従来のものより薄型で軽量なバックライトを提供できる。
【実施例】
【0131】
以下、実施例をあげて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0132】
合成例1(化合物D(E−5)、E(E−12)の合成)
化合物Aの合成
1−ブロモピレン18.4g、3,5−ジクロロフェニルボロン酸15g、PdCl(PPh0.92gを窒素置換した1L四つ口フラスコに投入した。さらにDME400ml、1M NaCO水溶液200mlを投入し、77℃に加熱して3時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却し、水200mlを投入し、析出した固体をろ取した。さらにこの固体を水300mlで30分分散洗浄し、ろ取した。この固体を乾燥した後、シリカゲルカラムで精製し、化合物A18.9gを得た。反応式を以下に示す。
【0133】
【化45】
【0134】
化合物Bの合成
化合物A18.9g、NBS9.7g、DMF400mlを窒素置換した1L四つ口フラスコに投入し、55℃に加熱し、4時間反応させた。室温に冷却後、水400mlを投入し、析出固体をろ取した。この固体をさらに水500ml分散洗浄30分行い、ろ取し、次いでメタノール300ml分散洗浄30分行い、ろ取した。これを乾燥して化合物B(1,6体、1,8−体の混合物)23.0gを得た。反応式を以下に示す。
【0135】
【化46】
【0136】
化合物Cの合成
化合物B11.5g、3−ピリジンボロン酸4.0g、PdCl(PPh0.38g、DME200ml、1M NaCO水溶液100mlを窒素置換した500ml四つ口フラスコに投入し、77℃に加熱して、3時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却し水100mlを投入し、析出固体をろ取した。さらにこの固体を水300mlで30分分散洗浄後、ろ取し、次いでメタノール300mlで30分分散洗浄後、ろ取した。これを乾燥後、シリカゲルカラムで異性体分離を行い、化合物16C 3.1gを得た。反応式を以下に示す。
【0137】
【化47】
【0138】
化合物D(E−5)の合成
化合物16Cを3.1g、4−ピリジンボロン酸2.7g、Pd(dba)0.17g、トリシクロヘキシルホスフィンテトラフルオロボレート0.13g、リン酸カリウム6.2g、ジオキサン100ml、水15mlを窒素置換した300ml三つ口フラスコに投入し、85℃で3時間撹拌した。反応終了後室温まで冷却後、水100mlを投入し、析出した固体をろ取した。さらにこの固体を水300mlで30分分散洗浄後、ろ取し、次いでメタノール300mlで30分分散洗浄後、ろ取して乾燥し、クルード固体3.4gを得た。この固体をさらに2回再結晶し、2.5gの固体を得た。さらにこの固体を昇華精製して化合物D2.0gを得た。得られた固体のH−NMR分析結果は次の通りである。
H−NMR(CDCl)δ 7.51−7.56 (1H, m), 7.67 (4H, dd), 7.97−8.02 (5H, m), 8.08−8.14 (4H, m), 8.23−8.31 (3H, m), 8.73−8.78(5H,m), 8.91−8.92 (1H, m)。
反応式を以下に示す。
【0139】
【化48】
【0140】
化合物E(E−12)の合成
化合物16Cを3.1g、3−ピリジンボロン酸2.7g、Pd(dba)0.17g、トリシクロヘキシルホスフィンテトラフルオロボレート0.13g、リン酸カリウム6.2g、ジオキサン100ml、水15mlを窒素置換した300ml三つ口フラスコに投入し、85℃で3時間撹拌した。反応終了後室温まで冷却後、水100mlを投入し、析出した固体をろ取した。さらにこの固体を水300mlで30分分散洗浄後、ろ取し、次いでメタノール300mlで30分分散洗浄後、ろ取して乾燥し、クルード固体3.3gを得た。この固体をさらに2回再結晶し、2.4gの固体を得た。さらにこの固体を昇華精製して化合物E1.9gを得た。得られた固体のH−NMR分析結果は次の通りである。
H−NMR(CDCl)δ 7.42−7.46 (2H, m), 7.51−7.55 (1H, m),7.91 (3H, s), 7.98−8.13 (8H, m), 8.26−8.32 (3H, m), 8.67 (2H, d), 8.76(1H,d), 8.92 (1H, s),9.03(2H,s)。
反応式を以下に示す。
【0141】
【化49】
【0142】
参考例1
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を5nm、正孔輸送層として、HT−1を60nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料化合物H−1、ドーパント材料化合物D−1をドープ濃度が5重量%になるようにして40nmの厚さに蒸着した。次に、電子輸送層として化合物E−1を25nmの厚さに蒸着して積層した。次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子の1000cd/m時の特性は、駆動電圧4.2V、外部量子効率4.9%であった。また初期輝度を1000cd/mに設定し、定電流駆動させたところ輝度20%低下の時間は330時間であった。なおHAT−CN6、HT−1、H−1、D−1、E−1は以下に示す化合物である。
【0143】
【化50】
【0144】
実施例または参考例2〜23
電子輸送層および正孔輸送層に表1に記載した化合物を用いた以外は参考例1と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表1に示す。なお、E−2〜E−15、HT−2、3は以下に示す化合物である。
【0145】
【化51】
【0146】
比較例1〜18
電子輸送層および正孔輸送層に表2に記載した化合物を用いた以外は参考例1と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表2に示す。なお、E−16〜E−21は以下に示す化合物である。
【0147】
【化52】
【0148】
参考例24
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を5nm、正孔輸送層として、HT−1を60nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料に化合物H−1、ドーパント材料に化合物D−1を用いてドープ濃度が5重量%になるようにして40nmの厚さに蒸着した。次に、第1電子輸送層として化合物E−1を10nmの厚さに蒸着して積層した。さらに第2電子輸送層として電子輸送材料にE−1を、ドナー性化合物としてセシウムを用い、E−1とセシウムの蒸着速度比が20:1になるようにして15nmの厚さに積層した。次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子の1000cd/m時の特性は、駆動電圧3.9V、外部量子効率5.2%であった。また初期輝度を1000cd/mに設定し、定電流駆動させたところ輝度20%低下の時間は420時間であった。
【0149】
実施例または参考例25〜29
第1電子輸送層、第2電子輸送層に表3に記載した化合物を用いた以外は参考4と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0150】
参考例30
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を5nm、正孔輸送層として、HT−1を60nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料に化合物H−1、ドーパント材料に化合物D−1を用いてドープ濃度が5重量%になるようにして40nmの厚さに蒸着した。次に、第1電子輸送層として化合物E−1を10nmの厚さに蒸着して積層した。さらに第2電子輸送層として電子輸送材料にE−1を、ドナー性化合物としてリチウムを用い、E−1とリチウムの蒸着速度比が100:1になるようにして15nmの厚さに積層した。次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子の1000cd/m時の特性は、駆動電圧3.9V、外部量子効率5.1%であった。また初期輝度を1000cd/mに設定し、定電流駆動させたところ輝度20%低下の時間は420時間であった。
【0151】
実施例または参考例31〜35
第1電子輸送層、第2電子輸送層に表3に記載した化合物を用いた以外は参考例30と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0152】
実施例36
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を5nm、正孔輸送層として、HT−1を60nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料に化合物H−1、ドーパント材料に化合物D−1を用い、ドープ濃度が5重量%になるようにして40nmの厚さに蒸着した。さらに電子輸送層として電子輸送材料にE−1を、ドナー性化合物としてLiqを用い、E−1とLiqの蒸着速度比が1:1になるようにして25nmの厚さに積層した。この電子輸送層は表2では第2電子輸送層として示す。次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子の1000cd/m時の特性は、駆動電圧4.0V、外部量子効率5.3%であった。また初期輝度を1000cd/mに設定し、定電流駆動させたところ輝度20%低下の時間は440時間であった。なおLiqは以下に示す化合物である。
【0153】
【化53】
【0154】
実施例37〜41
電子輸送層に表3に記載した化合物を用いた以外は実施例36と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0155】
比較例19〜23
第1電子輸送層、第2電子輸送層に表4に記載した化合物を用いた以外は参考例24と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表4に示す。
【0156】
比較例24〜28
第1電子輸送層、第2電子輸送層に表4に記載した化合物を用いた以外は参考例30と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表4に示す。
【0157】
比較例29〜33
電子輸送層に表4に記載した化合物を用いた以外は実施例36と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表4に示す。
【0158】
参考例42
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を5nm、正孔輸送層として、HT−1を60nm蒸着した。この正孔輸送層は表3では第1正孔輸送層として示す。次に、発光層として、ホスト材料化合物H−2、ドーパント材料化合物D−2をドープ濃度が10重量%になるようにして40nmの厚さに蒸着した。次に、電子輸送層として化合物E−1を25nmの厚さに蒸着して積層した。
【0159】
次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子の4000cd/m時の特性は、駆動電圧4.2V、外部量子効率12.0%であった。また初期輝度を4000cd/mに設定し、定電流駆動させたところ輝度20%低下の時間は300時間であった。なおH−2、D−2は以下に示す化合物である。
【0160】
【化54】
【0161】
参考例43
ITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を38×46mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を“セミコクリーン56”(商品名、フルウチ化学(株)製)で15分間超音波洗浄してから、超純水で洗浄した。この基板を素子を作製する直前に1時間UV−オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10−4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず正孔注入層として、HAT−CN6を5nm、第1正孔輸送層として、HT−1を50nm蒸着した。さらに第2正孔輸送層としてHT−4を10nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料化合物H−2、ドーパント材料化合物D−2をドープ濃度が10重量%になるようにして40nmの厚さに蒸着した。次に、電子輸送層として化合物E−1を25nmの厚さに蒸着して積層した。
【0162】
次に、フッ化リチウムを0.5nm蒸着した後、アルミニウムを1000nm蒸着して陰極とし、5×5mm角の素子を作製した。ここで言う膜厚は、水晶発振式膜厚モニター表示値である。この発光素子の4000cd/m時の特性は、駆動電圧4.3V、外部量子効率13.9%であった。また初期輝度を4000cd/mに設定し、定電流駆動させたところ輝度20%低下の時間は350時間であった。なおHT−4は以下に示す化合物である。
【0163】
【化55】
【0164】
参考例44、45
第2正孔輸送層として表5に記載した化合物を用いた以外は、参考例43と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表5に示す。なおHT−5、HT−6は以下に示す化合物である。
【0165】
【化56】
【0166】
実施例46
電子輸送層としてE−5を用いた以外は参考例42と同様に発光素子を作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0167】
実施例47〜49
第2正孔輸送層として表5記載の化合物を用い、電子輸送層としてE−5を用いた以外は、参考例43と同様にして素子を作成し、評価した。結果を表5に示す。
【0168】
実施例50
電子輸送層としてE−12を用いた以外は参考例42と同様に発光素子を作成し、評価した。結果を表3に示す。
【0169】
実施例51〜53
第2正孔輸送層として表5記載の化合物を用い、電子輸送層としてE−12を用いた以外は、参考例43と同様にして素子を作成し、評価した。結果を表5に示す。
【0170】
比較例34
電子輸送層にE−16を用いた以外は参考例42と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表6に示す。
【0171】
比較例35〜37
第2正孔輸送層として表6に記載した化合物を用い、電子輸送層としてE−16を用いた以外は、参考例43と同様にして素子を作成し、評価した。結果を表6に示す。
【0172】
比較例38
電子輸送層にE−17を用いた以外は参考例42と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表6に示す
比較例39〜41
第2正孔輸送層として表6に記載した化合物を用い、電子輸送層としてE−17を用いた以外は、参考例43と同様にして素子を作成し、評価した。結果を表6に示す。
【0173】
比較例42
電子輸送層にE−18を用いた以外は参考例42と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表6に示す。
【0174】
比較例43〜45
第2正孔輸送層として表6記載の化合物、電子輸送層としてE−18を用いた以外は、参考例43と同様にして素子を作成し、評価した。結果を表6に示す。
【0175】
比較例46
電子輸送層にE−19を用いた以外は参考例42と同様にして発光素子を作成し、評価した。結果を表6に示す。
【0176】
比較例47〜49
第2正孔輸送層として表6に記載した化合物を用い、電子輸送層としてE−19を用いた以外は、参考例43と同様にして素子を作成し、評価した。結果を表6に示す。
【0177】
【表1】
【0178】
【表2】
【0179】
【表3】
【0180】
【表4】
【0181】
【表5】
【0182】
【表6】