(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に開示の燃料噴射弁では、個体間バラツキや、噴射間バラツキ、経年変化が燃料噴射量に生じ易くなっている。これは、固定コアに固定されて弁部材を外周側から摺動支持するブッシュに対して、当該弁部材だけでなく、コイルスプリングも摺動し易くなっていることに起因する。以下、その具体的理由を説明する。
【0006】
特許文献1に開示の燃料噴射弁において、固定コアに形成される保持孔内では、同軸上に嵌入されたコイルスプリングが開弁側にて保持され、またブッシュに形成される摺動孔内では、保持孔よりも閉弁側にて弁部材が同軸上に摺動している。こうした構成下、保持孔及び摺動孔の間にて保持孔よりも大きな内径でブッシュ及び固定コアに形成される遊挿孔内には、コイルスプリングが同軸上に遊挿されているが、摺動孔と同一内径の当該遊挿孔とコイルスプリングとの間では、径方向の隙間が狭くなっている。故にコイルスプリングは、開弁側での保持状態にて閉弁側の弁部材により押圧されて胴曲がりする際に、外周側のブッシュと摺動する可能性が高くなる。ここでコイルスプリングは、ブッシュとの摺動により復原力の変動を招くことから、個体間バラツキや、噴射間バラツキ、経年変化を燃料噴射量に生じさせる懸念があった。
【0007】
本発明は、以上説明した問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、燃料噴射量の安定した燃料噴射弁を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、内燃機関へ燃料を噴射する噴孔(18)を、有する弁ハウジング(10)と、軸方向のうち開弁側と閉弁側とへ往復移動することにより、噴孔を開閉する弁部材(40)と、弁ハウジングに固定される固定コア(20,220)と、弁部材と共に往復移動可能に設けられ、固定コアとの間に磁力が発生することにより、開弁側へ移動する可動コア(30)と、固定コアに保持され、弁部材を閉弁側へ押圧駆動するコイルスプリング(50)と、固定コアに固定され、弁部材を外周側から摺動支持するブッシュ(70,270)とを、備える燃料噴射弁において、固定コアは、内部に同軸上に嵌入されたコイルスプリングを開弁側にて保持する保持孔(26)を、有し、ブッシュは、弁部材が内部を同軸上に摺動する摺動孔(72)を、保持孔よりも閉弁側に有し、ブッシュ及び固定コアの少なくとも一方は、保持孔及び摺動孔の双方よりも大きな内径によりコイルスプリングが内部に同軸上に遊挿される遊挿孔(74)を、保持孔及び摺動孔の間に跨って有し、
ブッシュは、弁部材と共に開弁側へ移動した可動コアを係止するストッパ面(70a)を、摺動孔の周囲に有し、弁部材は、軸方向に延伸する軸部(42)、並びに軸部から突出する突部(44)を、有し、可動コアは、軸部が内部を相対移動可能に貫通し、コイルスプリングと接触する突部が開弁側の軸方向端面(30a)に接触することにより、弁部材と共に移動可能となり、開弁側の移動端にてストッパ面に係止されることを特徴とする。
【0009】
本発明によると、固定コアの保持孔内では、同軸上に嵌入されたコイルスプリングが開弁側にて保持され、またブッシュの摺動孔内では、保持孔よりも閉弁側にて弁部材が同軸上に摺動することになる。こうした構成下、保持孔及び摺動孔の間に跨ることでコイルスプリングが内部に同軸上に遊挿される遊挿孔の内径は、保持孔及び摺動孔の双方よりも大きくされる。これにより、遊挿孔との間にて径方向隙間の広くなるコイルスプリングは、開弁側での保持状態にて閉弁側の弁部材により押圧されて胴曲がりしても、外周側のブッシュとは摺動し難くなる。これによれば、コイルスプリングがブッシュとの摺動により復原力を変動させることに起因して、個体間バラツキや、噴射間バラツキ、経年変化を燃料噴射量に生じさせる事態を、抑制できる。以上より本発明は、燃料噴射量の安定した燃料噴射弁を、提供可能である。
【0010】
ここで、本発明のさらなる特徴としては、弁部材は、開弁側の移動端と閉弁側の移動端との間にて、摺動孔内から遊挿孔内へ突入した状態を維持したまま、コイルスプリングの復原力を受けるスプリング受部(44)を、有する。
【0011】
かかる特徴によると、弁部材においてコイルスプリングの復原力を受けるスプリング受部は、開弁側の移動端と閉弁側の移動端との間では、摺動孔内から遊挿孔内への突入状態を維持したままとなる。これによりコイルスプリングは、遊挿孔より小さな内径の摺動孔内へ進入するのをスプリング受部により阻まれるので、当該摺動孔内にてブッシュと干渉するのを抑制され得る。これによれば、ブッシュと干渉したコイルスプリングの復原力変動に起因して燃料噴射量の安定性が下がる事態を、回避可能となる。
【0012】
また、本発明のさらなる特徴としては
、上述の如き弁部材及び可動コアと、コイルスプリングとして固定コア及び弁部材の間に介装される閉弁スプリング(50)と、弁ハウジング及び可動コアの間に介装されて、可動コアを開弁側へ押圧駆動する開弁スプリング(51)とを、備える。
【0013】
かかる特徴の弁部材によると、軸方向に延伸する軸部が可動コア内を相対移動可能に貫通する状態下、軸部から突出する突部が可動コアの軸方向端面に開弁側にて接触することで、弁部材と可動コアとが共に移動可能となる。故に、かかる接触状態下、可動コアが弁ハウジングとの間の開弁スプリングにより開弁側へと押圧駆動されるときには、弁部材が固定コアとの間の閉弁スプリングに抗して開弁側へ移動する。その結果、可動コアが開弁側の移動端にてブッシュのストッパ面に係止されると、慣性により弁部材は、開弁側への移動を継続してオーバーシュートしようとするが、閉弁スプリングの復原力により当該オーバーシュートが抑制され得る。ここで、遊挿孔との間にて径方向隙間の広いコイルスプリングとしての閉弁スプリングは、閉弁側の弁部材により押圧されることで胴曲がりしても、外周側のブッシュとは摺動し難い。これによれば、閉弁スプリングによるオーバーシュートの抑制作用を確実に発揮できるので、当該オーバーシュートに起因して燃料噴射量の安定性が下がる事態を、回避可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、各実施形態において対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部分のみを説明している場合、当該構成の他の部分については、先行して説明した他の実施形態の構成を適用することができる。また、各実施形態の説明において明示している構成の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても複数の実施形態の構成同士を部分的に組み合せることができる。
【0016】
(第一実施形態)
本発明の第一実施形態として
図1に示す燃料噴射弁1は、「内燃機関」であるガソリンエンジンに設置され、当該ガソリンエンジンの燃焼室(図示しない)へ燃料を噴射する。尚、かかる適用形態以外にも、例えば燃料噴射弁1は、ガソリンエンジンの燃焼室に連通する吸気通路へ燃料を噴射するものであってもよい。
【0017】
(構成)
まず、燃料噴射弁1の構成を説明する。燃料噴射弁1は、弁ハウジング10、固定コア20、ブッシュ70、可動コア30、弁部材40、スプリング50,51及びソレノイド部60を備えている。
【0018】
弁ハウジング10は、本体部材12、入口部材13及びノズル部材14等から構成されている。円筒状の本体部材12は、第一磁性部120、非磁性部121及び第二磁性部122を、軸方向の閉弁側から開弁側へ向かってこの順で、有している。金属磁性体からなる各磁性部120,122と、金属非磁性体からなる非磁性部121とは、例えばレーザ溶接等により結合されている。かかる結合構造により非磁性部121は、第一磁性部120と第二磁性部122の間にて磁束が短絡するのを、防止している。
【0019】
第二磁性部122において非磁性部121とは反対側部分には、円筒状の入口部材13が固定されている。入口部材13は、燃料ポンプ(図示しない)からの燃料供給を受ける燃料流入口15を、形成している。この燃料流入口15に流入する燃料を濾過するために入口部材13の内周側には、燃料フィルタ16が収容されている。
【0020】
第一磁性部120において非磁性部121とは反対側部分には、ノズル部材14が固定されている。有底円筒状のノズル部材14は、燃料を流通させる燃料通路17を、本体部材12と共同して形成している。ノズル部材14には、噴孔18及び弁座19が設けられている。燃料通路17と連通する噴孔18は、ノズル部材14の中心軸線周りに複数設けられ、それぞれ円筒孔状に形成されている。弁座19は、各噴孔18よりも上流側にて燃料通路17の周囲に、円錐面状に形成されている。
【0021】
円筒状の金属磁性体からなる固定コア20は、非磁性部121及び第二磁性部122の内周面に同軸上に固定されている。固定コア20の径方向中央部には、金属からなる円筒状のアジャスティングパイプ24が同軸上に圧入固定されている。固定コア20は、上流側の燃料流入口15と連通する連通通路22を、アジャスティングパイプ24及び後に詳述のブッシュ70と共同して形成している。連通通路22は、燃料流入口15から流入した燃料を下流側へと導く。
【0022】
円筒状の金属からなるブッシュ70は、固定コア20の径方向中央部においてアジャスティングパイプ24から閉弁側に離間した箇所に、同軸上に圧入固定されている。
図2に示すようにブッシュ70は、固定コア20よりも閉弁側に突出することで、当該閉弁側の軸方向端面70aにより円環面状のストッパ面70aを形成している。
【0023】
図1に示すように、円筒状の金属磁性体からなる可動コア30は、固定コア20よりも閉弁側にて本体部材12の内周側に同軸上に収容され、軸方向のうち開弁側と閉弁側とへ往復移動可能となっている。可動コア30は、開弁側の移動端にて
図2の軸方向端面30aをストッパ面70aに当接させることで、係止される。可動コア30は、軸方向に延伸する軸方向孔34を、径方向中央部にて円筒孔状に形成している。
【0024】
図1に示すように、細長円柱状(ニードル状)の金属非磁性体からなる弁部材40は、本体部材12及びノズル部材14の内周側に同軸上に収容され、開弁側と閉弁側とへ往復移動可能となっている。弁部材40は、軸方向に延伸する円柱状の軸部42を、有している。軸部42は、軸方向孔34に同軸上に嵌入されることで、可動コア30の内部を軸方向に相対移動可能に貫通している。
【0025】
弁部材40は、軸部42から外周側へ突出する円形鍔状(フランジ状)の突部44を、開弁側の基端に有している。
図2に示すように突部44は、ブッシュ70内に同軸上に嵌入されることで、当該ブッシュ70により外周側から摺動支持されている。軸方向孔34よりも大径の突部44において閉弁側を向く軸方向端面44aは、可動コア30において開弁側を向く軸方向端面30aと接触する。かかる接触状態にて弁部材40は、可動コア30と共に往復移動可能となっている。
【0026】
図1に示すように弁部材40は、軸部42及び突部44に跨って貫通する燃料孔46を、有している。燃料孔46は、可動コア30よりも開弁側にて突部44に開く開口を、連通通路22の下流側部分に連通させている。それと共に燃料孔46は、可動コア30よりも閉弁側にて軸部42に開く開口を、燃料通路17の上流側部分に連通させている。こうした連通構造により燃料孔46は、弁部材40の移動位置に拘らず、燃料を連通通路22から燃料通路17へと流通させる。
【0027】
弁部材40は、弁座19と対向するシート部48を、閉弁側の先端に有している。弁部材40は、開弁側への移動によりシート部48を弁座19から離座させることで、各噴孔18を燃料通路17に対して開放する。その結果、燃料通路17の燃料が各噴孔18から燃焼室へと噴射される。また一方で弁部材40は、閉弁側への移動によりシート部48を弁座19に着座させることで、各噴孔18を燃料通路17に対して閉塞する。その結果、各噴孔18からの噴射が停止する。このように弁部材40は、往復移動により各噴孔18を開閉することで、それら各噴孔18からの燃料噴射を断続可能となっている。
【0028】
閉弁スプリング50は、金属からなる圧縮コイルスプリングであり、固定コア20及びブッシュ70の内周側に同軸上に収容されている。
図2に示すように閉弁スプリング50は、アジャスティングパイプ24において閉弁側を向く軸方向端面24aと、突部44において開弁側を向く軸方向端面44bとの間に、挟持されている。かかる挟持構造により閉弁スプリング50は、要素24,44間での圧縮に応じて弾性復原力を発生することで、弁部材40を閉弁側へと押圧駆動する。
【0029】
図1に示すように開弁スプリング51は、金属からなる圧縮コイルスプリングであり、軸部42の外周側にて本体部材12の内周側に同軸上に収容されている。閉弁スプリング50は、可動コア30において閉弁側を向く凹面30bと、第一磁性部120において開弁側を向く段差面120aとの間に、挟持されている。かかる挟持構造により開弁スプリング51は、要素30,120間での圧縮に応じて弾性復原力を発生することで、可動コア30を開弁側へと押圧駆動する。
【0030】
ソレノイド部60は、ソレノイドコイル61、絶縁ボビン62、磁性ヨーク63、コネクタ64及びターミナル65等から構成されている。ソレノイドコイル61は、樹脂製の絶縁ボビン62に金属製の線材を巻回してなる。ソレノイドコイル61は、固定コア20の外周側にて磁性部120,122及び非磁性部121の外周面に、絶縁ボビン62を介して同軸上に固定されている。全体として円筒状の金属磁性体からなる磁性ヨーク63は、コア20,30の外周側にて磁性部120,122の外周面に同軸上に固定されることで、ソレノイドコイル61の周囲を覆っている。樹脂製のコネクタ64は、磁性ヨーク63の開口を通じて周方向の一箇所を外部に張り出させている。コネクタ64に埋設される金属製ターミナル65は、ソレノイドコイル61を外部の制御回路(図示しない)に電気接続する。かかる電気接続によりソレノイドコイル61への通電は、制御回路によって制御可能となっている。
【0031】
以上の如く構成される燃料噴射弁1の開弁作動では、制御回路によって通電されるソレノイドコイル61が励磁することで、磁性ヨーク63、第一磁性部120、可動コア30、固定コア20及び第二磁性部122に磁束が案内される。即ち、それら要素63,120,30,20,122を磁束が通過するように、磁気回路が形成される。すると、互いに対向するコア20,30間には、可動コア30を固定コア20側へと吸引するように、磁力(磁気吸引力)が発生する。かかる磁力と開弁スプリング51の復原力と燃圧閉弁力(=シート面積×燃圧)の和が閉弁スプリング50の復原力よりも大きくなると、可動コア30は、軸方向端面30aに接触している突部44を開弁側へと押圧する。その結果、弁部材40と共に可動コア30が開弁側へ移動するので、シート部48が弁座19から離座して各噴孔18から燃料が噴射される。
【0032】
開弁側への移動により可動コア30は、ストッパ面70aと衝突することで、係止される。このとき弁部材40は、慣性移動を継続するので、軸方向端面30aから突部44を離間させる。これにより、可動コア30がブッシュ70との衝突反力を受けて閉弁側にバウンドしても、軸方向端面30aからの離間により当該衝突反力の作用を抑制される弁部材40は、各噴孔18を誤閉じして燃料噴射量のバラツキを招くバウンスを、生じ難くなる。また、軸方向端面30aからの離間により弁部材40は、閉弁スプリング50の復原力を閉弁側へと受けることで、開弁側への過剰な移動であるオーバーシュートを、生じ難くなる。
【0033】
こうした開弁作動後の閉弁作動では、制御回路によって通電停止されるソレノイドコイル61が消磁するので、コア20,30間の磁力が消失する。かかる磁力の消失により弁部材40は、開弁スプリング51よりも大きな復原力を閉弁スプリング50から受けることで、軸方向端面44aに接触している可動コア30を閉弁側に押圧する。その結果、可動コア30と共に弁部材40が閉弁側へと移動するので、シート部48が弁座19に着座して各噴孔18からの燃料噴射が停止する。
【0034】
(特徴構成)
次に、燃料噴射弁1の特徴構成につき、詳細に説明する。
【0035】
図2に示すように固定コア20は、連通通路22を形成する保持孔26を、有している。保持孔26は、固定コア20の径方向中央部においてアジャスティングパイプ24の閉弁側及びブッシュ70の開弁側に隣接した中心孔部分をいう。保持孔26の内径は、アジャスティングパイプ24の内径よりも大きく設定されている。かかる内径設定によりアジャスティングパイプ24は、保持孔26内に軸方向端面24aを露出させている。
【0036】
図2に示すブッシュ70は、本実施形態では、金属非磁性体又は固定コア20よりも飽和磁束密度の低い金属磁性体からなり、固定コア20よりも高い剛性を、例えば焼入れ処理等によって付与されている。
図2,3に示すようにブッシュ70は、連通通路22を形成する摺動孔72及び遊挿孔74を、有している。
【0037】
図2に示すように摺動孔72は、ブッシュ70の径方向中央部において保持孔26よりも閉弁側に位置する中心孔部分をいい、閉弁側のストッパ面70aから開弁側の保持孔26までは到らない軸方向長さを、有している。即ち摺動孔72は、その周囲のストッパ面70aと、保持孔26から閉弁側に離間した箇所との間を延伸している。摺動孔72の内径は、同孔72内での突部44の往復摺動を可能にするように、設定されている。
【0038】
遊挿孔74は、固定コア20の径方向中央部において保持孔26の閉弁側及び摺動孔72の開弁側に隣接する中心孔部分をいい、それら孔26,27の間に跨る軸方向長さを、有している。遊挿孔74の内径は、保持孔26の内径及び摺動孔72の内径の双方よりも、大きく設定されている。以上の構成下、摺動孔72内の突部44は、こうした遊挿孔74内へと突入した状態を、開弁側の移動端と閉弁側の移動端との間にて維持可能となっている。
【0039】
閉弁スプリング50には、本実施形態では、金属磁性体からなる研削エンド型の圧縮コイルスプリングが、採用されている。閉弁スプリング50は、開弁側の軸方向端と閉弁側の軸方向端とからそれぞれ所定巻数部分(本実施形態では、二巻部分)を、復原力の発生には実質寄与しない座巻52,54として、有している。
【0040】
閉弁スプリング50において開弁側の座巻52は、保持孔26内に同軸上に嵌入されることで、固定コア20により保持されている。ここで特に、保持孔26内へ露出したアジャスティングパイプ24の軸方向端面24aには、座巻52における軸方向端の研削面52aが接触している。それと共に座巻52の軸方向長さは、保持孔26の軸方向長さと実質等しく設定されている。こうした接触形態及び長さ設定により保持孔26は、閉弁スプリング50において座巻52のみを保持している。
【0041】
閉弁スプリング50において座巻52の閉弁側に隣接する箇所から座巻54まで延伸する部分は、
図2,3に示すように、遊挿孔74内に同軸上に径方向隙間74aをあけて遊挿されている。ここで特に、遊挿孔74内への突入状態が
図2の如く維持される突部44の軸方向端面44bには、座巻54における軸方向端の研削面54aが接触している。以上の構成により弁部材40は、開弁側にて固定コア20に保持された閉弁スプリング50の閉弁側の復原力を、「スプリング受部」としての突部44によって受けることとなる。
【0042】
(作用効果)
以上説明した燃料噴射弁1の作用効果を、以下に説明する。
【0043】
燃料噴射弁1によると、固定コア20の保持孔26内では、同軸上に嵌入された閉弁スプリング50が開弁側にて保持され、またブッシュ70の摺動孔72内では、保持孔26よりも閉弁側にて弁部材40が同軸上に摺動することになる。こうした構成下、保持孔26及び摺動孔72の間に跨ることで閉弁スプリング50が内部に同軸上に遊挿される遊挿孔74の内径は、保持孔26及び摺動孔の双方よりも大きくされる。これにより、遊挿孔74との間にて径方向隙間74aの広くなる閉弁スプリング50は、開弁側での保持状態にて閉弁側の弁部材40により押圧されて胴曲がりしても、外周側のブッシュ70とは摺動し難くなる。これによれば、閉弁スプリング50がブッシュ70との摺動により復原力を変動させることに起因して、個体間バラツキや、噴射間バラツキ、経年変化を燃料噴射量に生じさせる事態を、抑制できる。以上より、燃料噴射量の安定した燃料噴射弁1を、提供可能である。
【0044】
ここで、弁部材40において閉弁スプリング50の復原力を受ける突部44は、開弁側の移動端と閉弁側の移動端との間では、摺動孔72内から遊挿孔74内への突入状態を維持したままとなる。これにより閉弁スプリング50は、遊挿孔74より小さな内径の摺動孔72内へ進入するのを突部44により阻まれるので、当該摺動孔72内にてブッシュ70と干渉するのを抑制され得る。これによれば、ブッシュ70と干渉した閉弁スプリング50の復原力変動に起因して燃料噴射量の安定性が下がる事態を、回避可能となる。
【0045】
また、弁部材40と共に開弁側へと移動した可動コア30は、固定コア20よりも高硬度のブッシュ70において摺動孔72周囲のストッパ面70aに係止されることとなる。ここで、遊挿孔74よりも小さな内径となる摺動孔72の周囲では、ストッパ面70aの面積、即ちブッシュ70に対する可動コア30の衝突面積は、内周側へ向かって可及的に増大され得る。これによれば、ブッシュ70及び可動コア30の衝突摩耗に起因して燃料噴射量の安定性が下がる事態を、回避可能となる。
【0046】
さらに、閉弁スプリング50において開弁側の軸方向端から所定巻数部分は、座巻52として、復原力の発生に実質寄与しない。故に、座巻52としての所定巻数部分が保持孔26内に嵌入保持されても、閉弁スプリング50において当該所定巻数部分の閉弁側に隣接する部分は、保持孔26の閉弁側に隣接する遊挿孔74内に遊挿されることで、ブッシュ70との摺動なく所望の復原力を安定的に発生できる。したがって、ブッシュ70と摺動した閉弁スプリング50の復原力変動に起因して燃料噴射量の安定性が下がる事態を、回避可能となる。
【0047】
加えて、弁部材40によると、軸方向に延伸する軸部42が可動コア30内を相対移動可能に貫通する状態下、軸部42から突出する突部44が可動コア30の軸方向端面30aに開弁側にて接触することで、弁部材40と可動コア30とが共に移動可能となる。故に、かかる接触状態下、可動コア30が弁ハウジング10との間の開弁スプリング51により開弁側へと押圧駆動されるときには、弁部材40が固定コア20との間の閉弁スプリング50に抗して開弁側へ移動する。その結果、可動コア30が開弁側の移動端にてブッシュ70のストッパ面70aに係止されると、慣性により弁部材40は、開弁側への移動を継続してオーバーシュートしようとするが、閉弁スプリング50により当該オーバーシュートが抑制され得る。ここで、遊挿孔74との間にて径方向隙間74aの広い閉弁スプリング50は、閉弁側の弁部材40により押圧されることで胴曲がりしても、外周側のブッシュ70とは摺動し難い。これによれば、閉弁スプリング50によるオーバーシュートの抑制作用を確実に発揮できるので、当該オーバーシュートに起因して燃料噴射量の安定性が下がる事態を、回避可能となる。
【0048】
(第二実施形態)
図4に示すように、本発明の第二実施形態は第一実施形態の変形例である。第二実施形態のブッシュ270は、摺動孔72のみを形成する軸方向長さを、有している。これに応じて固定コア220は、径方向中央部において保持孔26の閉弁側及び摺動孔72(ブッシュ270)の開弁側に隣接した中心孔部分により、それら孔26,72間に跨る遊挿孔74を、形成している。
【0049】
ここで第二実施形態の遊挿孔74も、保持孔26の内径及び摺動孔72の内径の双方より大きな内径を有していることから、第一実施形態と同様の作用効果を発揮することができる。
【0050】
(他の実施形態)
以上、本発明の複数の実施形態について説明したが、本発明は、それらの実施形態に限定して解釈されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の実施形態及び組み合わせに適用することができる。
【0051】
具体的に変形例1では、
図5(同図は第一実施形態の変形例)に示すように、ブッシュ70,270を固定コア20,220よりも閉弁側には突出させない代わりに、開弁側への突出によりストッパ面70aと当接可能な突部32を、可動コア30に設けてもよい。
【0052】
変形例2では、閉弁スプリング50の座巻52を、保持孔26内から遊挿孔74内へと遊挿状態にて突入させてもよい。あるいは変形例3では、閉弁スプリング50において座巻52の閉弁側に隣接する部分を、保持孔26内に嵌入保持させてもよい。
【0053】
弁部材40に関して変形例4では、開弁側の移動端と閉弁側の移動端との間のうち一部の移動範囲にて、突部44が摺動孔72内から遊挿孔74内へは突入しない構成を、採用してもよい。また、変形例5では、摺動孔72よりも大きな内径により弁部材40(突部44)が遊挿される孔を、ブッシュ70,270において摺動孔72の閉弁側に隣接形成し、その周囲にストッパ面70aを形成してもよい。
【0054】
変形例6では、可動コア30に対して弁部材40を相対移動不能に固定して、開弁スプリング51を設けなくてもよく、さらにこの場合には、突部44を設けないで、軸部42の開弁側の基端をブッシュ70,270により摺動支持してもよい。また、変形例7では、遊挿孔74をブッシュ及び固定コアの双方に跨って形成してもよい。