(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020345
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】溶接方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/20 20060101AFI20161020BHJP
B23K 11/24 20060101ALI20161020BHJP
B23K 103/20 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
B23K11/20
B23K11/24 315
B23K103:20
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-101014(P2013-101014)
(22)【出願日】2013年5月13日
(65)【公開番号】特開2014-221479(P2014-221479A)
(43)【公開日】2014年11月27日
【審査請求日】2015年3月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100176304
【弁理士】
【氏名又は名称】福成 勉
(72)【発明者】
【氏名】田中 耕二郎
(72)【発明者】
【氏名】西口 勝也
【審査官】
豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−168871(JP,A)
【文献】
特開2013−027890(JP,A)
【文献】
特開2010−247215(JP,A)
【文献】
特開2012−091203(JP,A)
【文献】
特開2006−198676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11 − 11/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軽金属材と鋼材とを互いに重ね合わせた状態で一対の電極により挟持するとともに、当該電極への通電によりこれら材料同士を抵抗スポット溶接する溶接方法であって、
複数のステップに分けて断続的に、かつ電流値が段階的に増加するように前記電極に電流を供給するとともに、前記複数のステップの一つとして、最終ステップの電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加する特定ステップを含み、
前記直前のステップの電流値は、最終ステップの電流値の略50〜60%の値であり、前記特定ステップの電流値は、最終ステップの電流値の略80〜90%の値であることを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接方法において、
前記複数のステップは3つ以上であり、かつ、前記特定ステップは第2番目のステップであることを特徴とする請求項2に記載の溶接方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶接方法において、
前記軽金属材は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム系材であることを特徴とする溶接方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか一項に記載の溶接方法において、
前記軽金属材および前記鋼材を各一枚重ね合わせた状態、又は前記軽金属一枚と前記鋼材二枚とを、当該鋼材同士が隣接するように重ね合わせた状態で一対の前記電極により挟持することを特徴とする溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムやアルミニウム合金等の軽金属材と鋼材との溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム系材と鋼材とを接合する一つの方法として、これらを重ね合わせて一対の電極により挟持し、前記電極に電流を供給することでこれらを溶接する抵抗スポット溶接の研究が進められている。
【0003】
ここで、アルミニウム系材と鋼材の溶接では、鋼材同士の抵抗スポット溶接に比べて、材料抵抗の低さから大電流が必要となる。しかし、これらを抵抗スポット溶接する際、大電流の長時間通電を行うと、アルミニウム系材が過剰に加熱されてチリとなって滅失してしまうという問題がある。そこで、このような問題の対策として、例えば、特許文献1には、電極に予め設定された規定の電流をそれぞれ所定時間ずつ断続的に(すなわち、複数のステップに分けて)供給して、電流が長時間にわたって連続して供給されないようにすることで、アルミニウム系材の過剰な加熱ひいてはチリの発生を抑制するようにした溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−224150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アルミニウム系材と鋼材との抵抗スポット溶接において接合強度を高めるには、これらの接合面積(ナゲット径)を大きくすることが重要であり、それには通電量を多くすることが必要となる。しかし、電流値を高くすると、特許文献1に記載の溶接方法のように、複数のステップに分けて通電を行う場合であってもチリの発生を抑えることが難しくなる。他方、これを回避するために、電流値を抑えてステップ数を増やすことも考えられるが、これではステップ数が多くなる分、生産性が悪くなる。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、アルミニウム系材などの軽金属材と鋼板との接合強度をより効果的にかつ効率良く高めることができる溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、出願人は、鋭意検討を重ねた結果、複数のステップに分けて断続的に、かつ電流値を段階的に増加させることで、チリの発生を抑制しながらナゲットを良好に拡大させることができることを見出した。そしてその場合、特に、電流値の増加量を特定の範囲にすることで、ナゲットの拡大を効果的に促進させ得ることを見出した。すなわち、本発明は、軽金属材と鋼材とを互いに重ね合わせた状態で一対の電極により挟持するとともに、当該電極への通電によりこれら材料同士を抵抗スポット溶接する溶接方法であって、複数のステップに分けて断続的に、かつ電流値が段階的に増加するように前記電極に電流を供給するとともに、前記複数のステップの一つとして、最終ステップの電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加する
特定ステップを含
み、前記直前のステップの電流値は、最終ステップの電流値の略50〜60%の値であり、前記特定ステップの電流値は、最終ステップの電流値の略80〜90%の値であるようにしたものである。
【0008】
この溶接方法によれば、複数のステップに分けて断続的に電流を供給するため、各材料が過剰に加熱されることを回避することが可能となる。また、段階的に電流値を増加させるので、先のステップのナゲット形成に伴う材料間の抵抗低下に対抗して各材料の加熱量を増大させることができ、電流の供給に伴ってナゲットを適切に拡大させることができる。特に、最終ステップの電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加するステップを含むことで、当該ステップにおいて、ナゲット拡大を効果的に促進させることが可能となり、軽金属材と鋼材との接合強度を効果的にかつ効率良く高めることが可能となる。すなわち、最終ステップの電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加するステップでは、その直前のステップに比して電流値の差が比較的大きい電流が供給されることとなり、これにより、直前のステップで形成されたナゲット周囲の溶融が促進されてナゲット径の拡大が促進される。
【0010】
また、前記直前のステップにおいて電極に供給する電流値を最終ステップの電流値の50〜60%の値とし、前記特定ステップにおいて電極に供給する電流値を最終ステップの電流値の略80〜90%の値と
しているので、前記直前のステップにおいて良好にナゲットを形成しながら、当該ナゲットを前記特定ステップにおいて効果的に拡大させることが可能となる。
【0011】
なお、上記溶接方法において、前記複数のステップは3つ以上であり、かつ、前記特定ステップは第2番目のステップであるのが好適である。
【0012】
この構成によれば、溶接作業の初期段階でナゲットを効果的に拡大させることが可能となる。そのため、溶接作業を通じてナゲット径の拡大が緩慢になることを防止して、軽金属材と鋼材との接合強度を効果的に高めることが可能となる。
【0013】
なお、上記のような各溶接方法は、例えば、前記軽金属材がアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム系材である場合に有用である。
【0014】
すなわち、上記の溶接方法によれば、材料間のナゲット形成が効果的に促進されるため、異種金属であるアルミニウム系材と鋼材との接合強度を良好に高めることが可能となる。
【0015】
なお、上記のような溶接方法は、前記軽金属材および前記鋼材を各一枚重ね合わせてスポット溶接を行う場合に加え、前記軽金属一枚と前記鋼材二枚とを、当該鋼材同士が隣接するように重ね合わせた状態で一対の前記電極により挟持してスポット溶接を行う場合にも有効である。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、アルミニウム系材などの軽金属材と鋼板との接合強度をより効果的にかつ効率良く高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】本発明の溶接方法における通電電流のタイムチャートである。
【
図3】比較例の通電電流を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の溶接方法の好ましい実施形態について説明する。
【0019】
ここでは、
図1に示すように、板状のアルミニウム系材1と板状の鋼材2とを抵抗スポット溶接する場合について説明する。例えば、アルミニウム系材1としては、JIS6000系(Al−Mg−Si系合金)が用いられ、鋼材2としては、亜鉛メッキが施された鋼材(GA)が用いられる。なお、当例では、軽金属材としてアルミニウム系材を用いる場合について説明するが、本発明は、アルミニウム系材以外の軽金属材、例えばチタン等と鋼材との抵抗スポット溶接にも適用可能である。
【0020】
まず、アルミニウム系材1と鋼材2とを互いに重ね合わせて配置する。次に、これら板材1,2を一対の電極3a,3bにより挟持する。このとき、電極3a,3bを互いに近づく方向に押圧し、電極3a,3bを介して板材1,2を互いに近づく方向に加圧する。そして、板材1,2への加圧を維持した状態で、電極3a,3bに電流を供給する。
【0021】
電極3a,3bへ電流が供給されると、アルミニウム系材1と鋼材2とは、自身の材料抵抗および板材1,2同士の接触抵抗により発熱する。すなわち、電極3a,3bへの電流の供給に伴い、アルミニウム系材1と鋼材2とは加熱される。加熱されることで、同図に示すように、アルミニウム系材1が主に溶融して巨視的に鋼材2にはりつき、これら各板材1,2間にナゲット4が形成されて、アルミニウム系材1と鋼材10とが接合される。
【0022】
ここで、アルミニウム系材1と鋼材2との接合強度を高めるためには、アルミニウム系材1と鋼材2との間に形成される溶融凝固部分の径、つまりナゲット径R(ナゲット4の板面方向の直径)が大きい方が好ましい。そして、このナゲット径Rを大きくするためには、電極3a,3bに供給する電流量を大きくする必要がある。
【0023】
ところが、電極3a,3bに一定値の電流を連続して供給する方法を用い、この電流値を大きくした場合には、アルミニウム系材1が過剰に加熱されてチリとなって滅失するという問題が生じる。この問題に対しては、電極3a,3bに対して一定値の電流を供給する一方、これら電極3a,3bへの通電を瞬間的に停止させる方法がある(背景技術の特許文献1に開示される技術)。具体的には、一定値の電流を一定時間だけ供給するというステップを、一定の通電停止時間を隔てて複数回行う。しかし、この方法を用いた場合でも、アルミニウム系材1と鋼材2との接合強度を十分に高めようとすると、電流値をある程度大きくする必要があり、結局、各ステップの加熱量が過剰となることで、チリの発生やこれに伴うアルミニウム系材1の板厚の減少の問題を回避することが難しい。なお、電流値を抑えて上記ステップの数を増やせば、ナゲット径Rをある程度大きくして接合強度を高めることが可能となるが、この場合には、ステップ数が増える分、生産性が悪くなるという弊害を伴うことになる。
【0024】
本発明者らは、このような観点から鋭意検討を重ねた結果、複数のステップに分けて断続的に電極3a,3bに電流を供給し、かつ、各ステップの電流値を段階的に増加させることで、生産性と接合強度の向上との両立を実現した。具体的には、
図2に示すように、一定時間t1の間、電極3a,3bに連続的に電流(例えば矩形波の電流)を供給するというステップを、一定の通電停止時間t0を挟んで複数回実施するとともに、各ステップでの電流値I(すなわち溶接電流値)を段階的に増加させる。つまり、先のステップでのナゲット形成に伴う板材1,2間の抵抗減少に対抗して次のステップにおいてこれら板材1,2間の発熱量が増大するように電極3a,3bに電流を供給する。ここで、注目すべき点は、これらステップの一つに、最終ステップにおける電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加するステップ(以下、特定ステップと称す)を含み、かつ、当該特定ステップの電流値が、第4ステップ4の電流値の略80〜90%の値となるように、各ステップの電流値を設定することである。
【0025】
当例では、同図に示すように、電流供給ステップを4回実施しており、第1〜第4ステップS1〜S4における電流値I1〜I4を、I1<I2<I3<I4となるように設定している。そして、第4ステップS4の電流値を限界電流値、すなわちアルミニウム系材1が過剰過熱されることよるチリの発生やこれに伴う変形等を伴うことなく通電することが可能な値として試験等に基づき求められた電流値、又はこの限界電流値に近い値に設定した上で、第1ステップS1における電流値I1をこの第4ステップS4の電流値I4の50〜60%の値とし、第2ステップS2における電流値I2を、第4ステップS4の電流値I4の略80〜90%の値とすることにより、第2ステップS2にける電流値I2が、第4ステップI4の電流値の20〜40%分だけ第1ステップS1に対して増加するようにしている。具体的には、後述する実施例(実施例1/表1)に示すように、各ステップS1〜S4における電流値I1〜I4は、順に10.0kA、15.0kA、16.0kA、17.0kAに設定している。すなわち、第1ステップS1の電流値I1(10.0kA)は、第4ステップS4の電流値I4の58.8%の値である。そして、第2ステップS2が上記特定ステップであり、この第2ステップS2の電流値I2(15.0kA)は、第4ステップS4の電流値I4(17.0kA)の88.2%の値であり、第4ステップS4の電流値I4(17.0kA)の29.4%(5.0kA)分だけ第1ステップS1に対して増加する値となっている。
【0026】
第3、第4のステップS3、S4は、各々直前のステップ(第2、第3のステップS2、S3)に対して一定値だけ電流値が増加するように設定している。この電流値の変化量は、第1ステップS1に対する第2ステップS2の電流値I2の増加量(5.0kA)よりも小さい値であり、当例では、上記の通り1.0kAだけ増加するように設定している。
【0027】
なお、アルミニウム系材1の過剰な加熱を抑制するためには、通電停止時間t0を長くしてこの通電停止時間においてアルミニウム系材1の温度をより低下させるのが好ましい。そこで、
図2の例では、通電停止時間t0を通電時間t1と同じ時間に設定して長く確保し、アルミニウム系材1の過剰な加熱を確実に抑制している。例えば、後述する実施例(実施例1/表1)では、t1とt0とは同じ0.17secに設定される。
【0028】
以上のように、この溶接方法では、一定の通電停止時間t0を挟んで断続的に一定の通電時間t1だけ電極3a,3bに通電し、かつ、電極3a,3bへの通電電流値をステップの増加に伴って徐々に増加させている。このような方法によれば、断続的に電極3a,3bに通電されることでアルミニウム系材1が過剰に加熱されるのが回避され、チリの発生やこれに伴うアルミニウム系材1の板厚の減少を抑制することができる。
【0029】
また、段階的に電流値を増加させるので、先のステップのナゲット形成に伴う材料間の抵抗低下に対抗して各材料の加熱量を増大させることができ、電流の供給に伴ってナゲットを適切に拡大させることができる。特に、第1ステップS1における電流値I1を第4ステップS4の電流値I4の50〜60%の値(15.0kA)とした上で、第2ステップS2にける電流値I2が、第4ステップの電流値I4の20〜40%分(5.0kA)だけ第1ステップS1に対して増加するようにしているため、溶接作業の初期段階でナゲット径Rを効果的に拡大させることができる。これは、第1ステップS1の通電により良好な比較的小さなナゲット4が形成された状態で、第2ステップS2において電流値の差が比較的大きい電流が供給されることで、ナゲット4の周囲の溶融が促進されてナゲット径Rの拡大が飛躍的に進むためと考えられる。
【0030】
従って、上記のように、複数のステップに分けて断続的に、かつ電流値が段階的に増加するように前記電極3a,3bに対して電流を供給するとともに、これら複数のステップの一つに、上記特定ステップ(最終ステップにおける電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加するステップ)を含み、さらに、当該特定ステップの電流値が、第4ステップ4の電流値の略80〜90%の値となるように、各ステップの電流値を設定して溶接方法によれば、比較的少ないステップ数でアルミニウム系材1と鋼材2との接合強度を効果的に高めることができる。すなわち、アルミニウム系材1の過剰加熱によるチリの発生を回避する観点から、電極3a,3bに供給する電流の値(最も電流値が大きくなる最終ステップの電流値)にもある程度制約がある。そのため、この制約の中でステップ数と各ステップの電流値を設定する必要があるが、上記のように最終ステップの電流値を限界電流値又はこれに近い値にした上で、最終ステップの電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加する上記特定ステップを含む溶接方法によれば、上述した通り、特定ステップにおいて効果的にナゲット4を拡大させることが可能であり、アルミニウム系材1と鋼材2との接合強度を効果的にかつ効率良く高めることが可能となる。なお、特定ステップ(第2ステップS2)の電流値を、最終ステップ(第4ステップS4)の電流値の20〜40%分だけ直前のステップ(第1ステップS1)対して増加させているのは、20%未満ではナゲットRの拡大が緩慢になり、40%を超えると、アルミニウム系材1の過剰加熱によりチリが発生し易くなるためである。
【実施例】
【0031】
次に、上述した溶接方法(
図2)を用いてアルミニウム系材1と鋼材2とを抵抗スポット溶接した実施例1、2の溶接結果と、
図3に示すように、単に、各ステップの電流値を一定値ずつ段階的に増加させて抵抗スポット溶接した比較例1、2の溶接結果と、実施例1と同様の溶接方法(
図2)ではあるが、第1ステップS1に対する電流値の増加分が第4ステップS4の電流値の40%を超えるように第2ステップS2の電流値を設定して抵抗スポット溶接を行った比較例3の溶接結果について、表1を用いて説明する。
【0032】
実施例1、2及び比較例1〜3では、アルミニウム系材1として、板厚0.9mmの板状のJIS6000系(Al−Mg−Si系合金)材を用い、鋼材2として、板厚0.8mmの亜鉛メッキが施された板状の鋼材(亜鉛めっき鋼板(GA))と板厚1.4mmの板状の非めっき鋼材を用いた。そして、実施例1及び比較例1、3では、アルミニウム系材1と亜鉛めっき鋼板(鋼板20)とを各一枚重ね合わせてこれらを溶接し、実施例2及び比較例2では、アルミニウム系材1、亜鉛めっき鋼板(鋼板20)及び非めっき鋼板(鋼板20)を、鋼材2同士が隣接するように重ね合わせてこれらを溶接し、各々の溶接結果として、各接合試験体のせん断方向の引張強度(試験速度10mm/min)と、アルミニウム系材1のチリの発生状況とを調べた。
【0033】
なお、各実施例1、2及び比較例1〜3の各ステップS1〜S4における電極3a,3bの挟持圧力は略4.9kNである。また、各ステップS1〜S4の各通電時間t1、および通電停止時間t0は同じであり、表1には、各ステップS1〜S4の電流値I1〜I4と、通電時間t1と、通電停止時間t0の具体的な値を示している。また、表1において、引張強度におけるN1〜N3は、それぞれ、異なる試験体の値である。
【0034】
表1に示されるように、各ステップS1〜S4の電流値I1〜I4を段階的に増加させて抵抗スポット溶接を行う実施例1及び比較例1の溶接方法では、チリの発生を伴うことなくアルミニウム系材1と鋼材2とを良好に接合することができた。しかし、本発明の溶接方法(
図2)に基づく実施例1によれば、単に、各ステップS1〜S4の電流値I1〜I4を一定値ずつ段階的に増加させて抵抗スポット溶接した比較例1のものに比べて高い引張強度を得ることができた。これは、実施例1と比較例1とは共にステップ数が4であるが、上述の通り、実施例1は、第2ステップS2の電流値が、第4ステップS4の電流値の20〜40%分だけ第1ステップS1に対して増加するように設定されていることで、当該第2ステップS2においてナゲット径Rの拡大が効果的に促進されたものと考察することができる。この点は、表1に示されるように、3枚の板材1,2を抵抗スポット溶接した実施例2および比較例2との関係においても同様である。
【0035】
一方、第2ステップS2の電流値が、第4ステップS4の電流値の58.8%(10kA)分だけ第1ステップS1に対して増加するようにした比較例3の場合には、表1に示されるように、チリが発生し、第1実施例や第1比較例に比して低い引張強度しか得ることができなかった。これは、第1ステップS1から第2ステップS2への電流値の増加が大きすぎ、第2ステップS2におけるアルミニウム系材1の加熱量が過剰となった結果、チリが発生し、これに伴いアルミニウム系材1と鋼材2との接合面積が減少したためと考えられる。
【0036】
【表1】
【0037】
以上のように、複数のステップに分けて断続的に、かつ電流値が段階的に増加するように前記電極3a,3bに対して電流を供給するとともに、これら複数のステップの一つに、最終ステップにおける電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加するステップ(特定ステップ)を含み、さらに、当該特定ステップの電流値が、第4ステップ4の電流値の略80〜90%の値となるように、各ステップの電流値を設定している本発明の溶接方法によれば、上記のように、ナゲット径Rの拡大を効果的に促進させることができ、従って、アルミニウム系材1と鋼材2との接合強度を効果的にかつ効率良く高めることができる。
【0038】
なお、上述した溶接方法は、本発明にかかる溶接方向の好ましい実施形態の例示であって、その具体的な方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
【0039】
例えば、上記溶接方法では、特定ステップ(最終ステップにおける電流値の20〜40%分だけ直前のステップに対して電流値が増加するステップ)は第2ステップS2であるが、他のステップ(例えば第3ステップ)を特定ステップとしてもよい。但し、第2ステップS2を特定ステップとすれば、溶接作業の初期段階でナゲット4を効果的に拡大させることが可能となるため、溶接作業を通じてナゲット4の拡大が緩慢になることを防止して、アルミニウム系材1と鋼材2との接合強度を効果的に高めることが可能となる。
【0040】
また、上記溶接方法における通電時間、通電停止時間、溶接電流値、電流供給ステップ数は上記実施形態の値に限らない。ただし、アルミニウム系材1の過剰な加熱を確実に抑制するためには、通電電流値をある程度低く抑えるのが好ましい。具体的には、通電電流値を20kA以下、より好ましくは17.5kA以下に抑えれば、アルミニウム系材1の過剰な加熱に伴うアルミニウム系材1の変形等を確実に抑えることができることが分かっている。また、接合強度を確保するためには、電流供給ステップ数を3以上とすることが好ましい。また、各ステップの通電時間(t1)やステップ間の通電停止時間(t0)を一定にすれば、電極3a,3bに対する簡単な通電制御で安定的にアルミニウム系材1と鋼材2との接合強度を高めることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 アルミニウム系材
2 鋼材
3a,3b 電極
4 ナゲット
R ナゲット径