(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記位置指令の二階微分値に前記モータの制御対象の総慣性モーメントを乗算した値に対し、前記位置指令の一階微分値に前記制御対象の粘性摩擦補償係数を乗算した値を加算してトルクフィードフォワード指令を生成し、これを前記トルク指令に加算するよう構成されたトルクフィードフォワード制御部を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモータ制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このように位置制御器と速度制御器のいずれか一方だけに積分制御(I制御)を行う場合には、少なくともモータの加減速制御時(もしくはモータ速度定常時も含めて)に位置偏差が大きく残ってしまう。このため、上記のモータ制御は、位置偏差低減の観点で改善する余地があった。
【0005】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、位置偏差の低減が可能なモータ制御装置及びモータ制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の一の観点によれば、モータを制御するためのモータ制御装置であって、位置指令とモータ位置の位置偏差に基づいて速度指令を生成するように構成された位置制御部と、前記速度指令とモータ速度の速度偏差に基づいて前記モータに入力するトルク指令を生成するように構成された速度制御部と、前記位置偏差に加算するための当該位置偏差の積分値を
不完全積分で算出するように構成された第1積分部と、前記速度偏差に加算するための当該速度偏差の積分値を
完全積分で算出するように構成された第2積分部と、を備えるモータ制御装置が適用される。
【0007】
また、本発明の別の観点によれば、モータを制御するためのモータ制御方法であって、位置指令とモータ位置の位置偏差に基づいて速度指令を生成することと、前記速度指令とモータ速度の速度偏差に基づいて前記モータに入力するトルク指令を生成することと、前記位置偏差に加算するための当該位置偏差の積分値を
不完全積分で算出することと、前記速度偏差に加算するための当該速度偏差の積分値を
完全積分で算出することと、を実行するモータ制御方法が適用される。
【0008】
また、本発明の別の観点によれば、モータを制御するためのモータ制御装置であって、
位置指令とモータ位置の位置偏差に基づいて速度指令を生成するように構成された位置制御部と、前記速度指令とモータ速度の速度偏差に基づいて前記モータに入力するトルク指令を生成するように構成された速度制御部と、前記位置偏差に加算するための当該位置偏差の積分値を算出する手段と、前記速度制御部は、前記速度偏差に加算するための当該速度偏差の積分値を算出する手段と、前記位置指令の一階微分値に速度フィードフォワードゲインを乗算して速度フィードフォワード指令を生成し、これを前記速度指令に加算する手段と、を備えるモータ制御装置が適用される。
【0009】
また、本発明の別の観点によれば、モータを制御するためのモータ制御装置であって、位置指令とモータ位置の位置偏差に基づいて速度指令を生成するように構成された位置制御部と、前記速度指令とモータ速度の速度偏差に基づいて前記モータに入力するトルク指令を生成するように構成された速度制御部と、前記位置偏差に加算するための当該位置偏差の積分値を算出するように構成された第1積分部と、前記速度偏差に加算するための当該速度偏差の積分値を算出するように構成された第2積分部と、を備えており、前記第1積分部は、前記位置偏差の積分値に不完全積分ゲインを乗算して当該第1積分部の入力に負帰還するように構成された不完全積分部であるモータ制御装置が適用される。
【0010】
また、本発明の別の観点によれば、モータを制御するためのモータ制御方法であって、位置指令とモータ位置の位置偏差に基づいて速度指令を生成するステップと、前記速度指令とモータ速度の速度偏差に基づいて前記モータに入力するトルク指令を生成するステップと、前記位置偏差に加算するための当該位置偏差の積分値を算出するステップと、前記速度偏差に加算するための当該速度偏差の積分値を算出するステップと、を実行するモータ制御方法が適用される。
【0011】
また、本発明の別の観点によれば、前記位置偏差の積分値を当該位置偏差に加算するステップでは、前記位置偏差の積分値に不完全積分ゲインを乗算して当該積分値を生成する前の前記位置偏差の入力に負帰還するモータ制御方法が適用される。
【0012】
また、本発明の別の観点によれば、前記速度指令を生成するステップでは、前記位置偏差の積分値を当該位置偏差に加算した後に位置制御ゲインを乗算して前記速度指令を生成し、前記トルク指令を生成するステップでは、前記速度偏差の積分値を当該速度偏差に加算した後に速度制御ゲインを乗算して前記トルク指令を生成するモータ制御方法が適用される。
【0013】
また、本発明の別の観点によれば、前記位置制御ゲインと前記速度制御ゲインは略比例関係となり、前記位置偏差を積分する際の第1時定数は前記位置制御ゲインと略反比例関係となり、前記速度偏差を積分する際の第2時定数は前記速度制御ゲインと略反比例関係となるよう設定されているモータ制御方法が適用される。
【0014】
また、本発明の別の観点によれば、前記位置指令の二階微分値に前記モータの制御対象の総慣性モーメントを乗算した値に対し、前記位置指令の一階微分値に前記制御対象の粘性摩擦補償係数を乗算した値を加算してトルクフィードフォワード指令を生成し、これを前記トルク指令に加算するステップを実行するモータ制御方法が適用される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、位置偏差を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0018】
<モータ制御装置の概略構成>
まず、
図1を用いて、本実施形態に係るモータ制御装置の概略的な構成について説明する。
図1に示すように、モータ制御装置100は、特に図示しない上位制御装置から入力される位置指令に基づいて、モータMの回転位置(回転角度;図中ではモータ位置と記載)を制御する。なお、ここでは各部位間の関係のみを概略的に説明するものとし、各部位の内部構成についてはそれぞれ後に詳述する。また、以下における図示及び説明は全て伝達関数形式での説明とする。
図1において、本実施形態のモータ制御装置100は、位置制御部1と、速度制御部2と、速度フィードフォワード制御部4と、トルクフィードフォワード制御部5とを有している。
【0019】
位置制御部1は、入力された上記位置指令と、後述のモータMの回転位置との差である位置偏差(上記
図1中のA参照)に基づき、この位置偏差を少なくするように速度指令(上記
図1中のB参照)を出力する。そして本実施形態では、この位置制御部1が、上記位置偏差に加算するための当該位置偏差の積分値を算出するように構成された位置積分部11(第1積分部、不完全積分部)と、この位置積分部11の出力に位置偏差を加算した後に乗算する位置制御ゲインKpとを備えたいわゆるPI制御を行うよう構成されている。
【0020】
速度制御部2は、上記位置制御部1からの速度指令と、後述のモータMの回転速度(図中ではモータ速度と記載)との差である速度偏差(上記
図1中のC参照)に基づき、この速度偏差を少なくするようにトルク指令(上記
図1中のE参照)を出力する。そして本実施形態では、この速度制御部2が、上記速度偏差に加算するための当該速度偏差の積分値を算出するように構成された速度積分部12(第2積分部)と、この速度積分部12の出力に速度偏差を加算した後に乗算する速度制御ゲインKv(及び総慣性モーメントJo)とを備えたいわゆるPI制御を行うよう構成されている。
【0021】
速度フィードフォワード制御部4は、上記位置指令に基づいて上記位置偏差を少なくするための速度フィードフォワード指令を生成し、これを上記速度指令に加算する。
【0022】
トルクフィードフォワード制御部5は、上記位置指令に基づいて上記位置偏差を少なくするためのトルクフィードフォワード指令を生成し、これを上記トルク指令に加算する。
【0023】
モータMは、トルク指令に対応した駆動電流によりトルクを発生し、特に図示しない負荷機械を駆動する。
【0024】
以上の構成の本実施形態のモータ制御装置100は、位置制御系のフィードバックループと、速度制御系のフィードバックループの2重ループ構成となっている。つまり、図示しない上位制御装置から位置指令が入力されてから、位置制御部1、速度制御部2、モータMの順で制御信号が伝達されて、モータ位置の検出信号をフィードバックする位置制御系のフィードバックループ(以下、位置制御系ループという)を備えている。また、速度制御部2、モータMの順で制御信号が伝達されて、モータ速度の検出信号をフィードバックする速度制御系のフィードバックループ(以下、速度制御系ループという)も備えている。なお本実施形態では、トルク指令に基づいて例えばPWM制御による駆動電流をモータMに出力する電流制御部とその内部に備えられる電流制御系のフィードバックループについては説明を簡略化するために省略している。
【0025】
<本実施形態の特徴>
近年では、上述したような位置制御系ループを備えるモータ制御装置100の応答性能を向上させるために、位置指令とモータ位置の位置偏差を常時できるだけ0に抑える偏差レス制御の実現が要望されている。ここで位置偏差について詳細に説明すると、
図2の最上方に示すタイムチャートのように、経時的に変化する位置指令速度(位置指令を一階時間微分した速度相当値)に対して実際に出力されるモータ差分位置(制御サンプリング周期毎のモータ位置変化量で検出される速度相当値)との差が位置偏差であり、そのうちモータ速度が一定速度である定常域における位置偏差を定常偏差といい、モータ速度が加減速している間の加減速域における位置偏差を加減速時偏差という。
【0026】
一般的には、上記2重フィードバックループの構成において、位置制御部1と速度制御部2のいずれか一方に比例器(P)や積分器(I)を設けていわゆるPI制御(もしくはI−P制御)を行わせたり、さらに速度フィードフォワード制御を併用することで偏差レス制御に近づける手法がある。
【0027】
例えば、図示する構成例1のように、位置制御部1に比例器を備え、速度制御部2に比例器と積分器を備えたいわゆる位置P−速度PI制御を行わせる手法がある。この場合には、速度偏差を0に近づけることはできても、位置偏差に対しては加減速時偏差及び定常偏差のいずれも大きく生じさせてしまう。
【0028】
また例えば、図示する構成例2のように、位置制御部1に比例器と積分器を備え、速度制御部2に比例器を備えたいわゆる位置PI−速度P制御を行わせる手法がある。この場合には、定常偏差を0に近づけることはできても、加減速時偏差をまだ大きく残してしまう。
【0029】
また例えば、図示する構成例3のように、位置制御部1に比例器を備え、速度制御部2に比例器と積分器を備えたいわゆる位置P−速度PI制御を行わせ、さらに速度フィードフォワードゲインVffを1(=100%)とした速度フィードフォワード制御も併せて行わせる手法がある。この場合には、近似的には構成例2のような偏差になるが、外乱の影響で偏差が大きくなりやすい。
【0030】
以上のような位置偏差の発生を低減させるために、本実施形態では、位置制御部1と速度制御部2の両方で積分部を備えたいわゆる二重積分の構成としていることを特徴としている。また、特にモータ動作の終了時における振動を抑制するために、位置制御部1が備える積分器を不完全積分部で構成している。また、二重積分とした場合の振動の発生を抑制するための各ゲインのバランス調整についても検討している。また、さらなる位置偏差の低減を実現するためにモータMの粘性摩擦を考慮したトルクフィードフォワード制御も行う。これら本実施形態の特徴とその実現構成について、以下に順に説明する。
【0031】
<二重積分についての解析的検討>
ここで、上記構成例3のように位置P−速度PI制御の場合には、定常偏差(PosErr)は公知の最終値の定理より次式(1)で記述することができる。
この式(1)より、速度フィードフォワード係数Vff=100%とすれば、位置偏差は0に漸近する。しかし、あくまでも「漸近」であり、厳密に0とはならない。
【0032】
最も簡易な2重ループの構成で位置偏差を厳密に0にするためには位置制御系ループに位置積分部11を導入すればよい。たとえば、上記構成例2のような位置PI−速度P制御の構成においては、位置指令から位置偏差までの伝達関数は次式(2)となる。
入力する位置指令としてランプ指令を仮定し、最終値の定理を適用すると次のようになる。
この式(3)よりわかるように位置制御系ループに位置積分部11をPI制御の形で導入することで、定常偏差を厳密に0にすることができる。
【0033】
次に、過渡状態における最大位置偏差を検討する。
図3のL1およびL2の各線は、位置PI−速度P制御の2重ループ構成とした比較例(上記構成例2に相当)に対してステップ状の位置指令を入力した場合の位置偏差をプロットした波形である。その際の各線に対応するゲイン設定値は
図5に示す。
【0034】
上記の式(2)よりわかるように位置制御系ループにPI制御部を持つ場合、位置指令から位置偏差までの伝達関数にはゼロ点が存在するためオーバーシュートしやすい特性を持つ。実際、
図3のL1およびL2の各線でもオーバーシュートが観測できる。しかし、機械制御の観点ではオーバーシュート量は極力低減させることが望ましい。
【0035】
これに対し本実施形態では、オーバーシュートの低減手段の1つとして、さらに速度制御系ループにも速度積分部12を導入している。つまり本実施形態では、位置制御系ループと速度制御系ループの二重積分とし、速度積分部12の応答周波数を位置積分部11の応答周波数よりも十分に高くすることで、位置偏差よりも速度偏差を大きくできる。
【0036】
本実施形態と同様の位置PI−速度PI制御の2重ループ構成に対してステップ状の位置指令を入力した場合の位置偏差を
図3のL3とL4の各線に示す。その際の各線に対応するゲイン設定値は
図5に示す。
図3より速度積分部12が追加されたほうが、若干とはいえオーバーシュートが低減していることがわかる。
【0037】
図4に
図3の条件における位置指令から位置偏差までのボード線図を示す。L1〜L4の各線は
図3のものに対応する。
図4より速度積分を追加することでKv=40Hzにおいては10〜30Hzの位相が、Kv=200Hzにおいては60〜200Hzの位相が進んでおり、この特性がオーバーシュート低減に寄与している。
【0038】
以上の検討を踏まえ、本実施形態のモータ制御装置100においては、位置制御部1が備える位置積分部11は時定数Tpiを有する積分器(1/Tpi・s)で位置偏差の積分値を求め、これを当該位置偏差に加算するよう構成されている。また、速度制御部2が備える速度積分部12は、時定数Tiを有する積分器(1/Ti・s)で速度偏差の積分値を求め、これを当該速度偏差に加算するよう構成されている。なお、位置積分部11の時定数Tpiが各請求項記載の第1時定数に相当し、速度積分部12の時定数Tiが各請求項記載の第2時定数に相当する。
【0039】
<位置制御器における不完全積分の適用について>
また、さらなるオーバーシュートの低減手段も検討する。前述のとおり、オーバーシュートの原因は位置制御系ループにゼロ点を持つ積分器を追加したことが原因である。逆に言えば、ゼロ点の原因である積分器をなくせばオーバーシュートは発生しないといえる。具体的には、位置制御部1に積分制御を行わせた場合で、
図6に示すように、位置指令の入力終了時、特にモータMの減速を終了して停止させる際に、モータ位置が指令停止位置よりオーバーシュートして振動しやすくなり、この振動中に位置偏差が発生してしまう。これは、積分部自体の応答が遅いためであり、その入力値が0となった後もしばらくは積分部に出力値が残存してしまうためである。
【0040】
以上の点を踏まえて、本実施形態では、位置積分部11が不完全積分機能を備えている。不完全積分とは、積分部の出力に係数を乗算して当該積分部の入力に負帰還することで、結果的に出力される積分値を徐々に減少させる手法のことである。具体的に本実施形態では、位置積分部11が備える積分器(1/Tpi・s)の出力(位置偏差の積分値)に不完全積分ゲインDpを乗算して当該積分器の入力に負帰還させた不完全積分部として構成している(上記
図1参照)。
【0041】
図7のL5およびL6の各線は、本実施形態と同等の位置PI−速度PI制御における位置積分部11に対して不完全積分率90%を設定した場合に、ステップ状の位置指令を入力した場合の位置偏差をプロットした波形である。不完全積分ゲインDp以外のゲイン設定値は
図5のL3及びL4と同一である。また、
図7のL3およびL4の各線は、
図3のL3およびL4の各線と対応している。なお、不完全積分率90%とは、積分器からの出力の90%を積分値から引くということを意味している。
図7よりわかるように不完全積分によって位置偏差低減中の減衰曲線はほぼ同じであるが、オーバーシュートは低減している。
【0042】
図8に
図7の条件における位置指令から位置偏差までのボード線図を示す。各線は
図7と同じである。
図8より不完全積分を追加することで低周波帯域のゲインおよび位相に変化が現れており、周波数が低下するほど位置積分の効果がなくなっていることがわかる。
【0043】
<フィードフォワード制御について>
本実施形態におけるフィードフォワード制御としては、単純に位置指令の1階微分値に基づく速度フィードフォワード制御と2階微分値に基づくトルク(加速度)フィードフォワード制御を行う。まず、速度フィードフォワード制御については、上記
図1に示すように、位置指令を1階微分した速度相当値にフィードフォワードゲインVffを乗じて速度指令に加算する構成のままとしている。
【0044】
次にトルクフィードフォワード制御については、基本的には位置指令を2階微分したトルク相当値に総慣性モーメントJoとトルクフィードフォワードゲインTffを乗じてトルク指令に加算する。なお、特に図示しないが、機械的なガタや静止摩擦の影響を低減するために、正転方向と逆転方向でトルクフィードフォワードゲインTffを個別に設定できるようにしたほうが望ましい。
【0045】
また本実施形態では、粘性摩擦の影響を低減するために、上記
図1に示すように、位置指令に基づく速度相当値(1階微分値)に粘性摩擦補償係数Dcompを乗じてトルクフィードフォワード指令に加算している。これは、上述したように、比例器の比例制御によって低減できずに積分器の積分制御によって低減させる位置偏差の成分が、主に制御対象であるモータM固有の粘性摩擦などによる外乱トルクの影響が大きいことに対する対策である。例えば
図9に示すように、実際にモータ位置を位置指令に追従させるためには、位置指令に基づくトルク指令よりも常に粘性摩擦を起因とした外乱トルク分だけ高いトルク指令を入力すべきである。この粘性摩擦分の外乱トルクは、モータ速度に当該モータM固有の粘性摩擦係数Dを乗算した値と同等である。
【0046】
そこで本実施形態では、トルクフィードフォワード制御部5が、位置指令を二階微分したトルク相当値にモータMの総慣性モーメントJ
0を乗算した値に対し、位置指令を一階微分値した速度相当値にモータMの粘性摩擦補償係数Dcompを乗算した値(上記の外乱トルク分に相当)を加算し、さらにこれにトルクフィードフォワードゲインTffを乗算してトルクフィードフォワード指令を生成し、これをトルク指令に加算するトルクフィードフォワード制御を行う。
【0047】
<ゲインバランスについて>
次に
図1に示した本実施形態のモータ制御装置100におけるフィードバックゲインのゲインバランスについて検討し、検討したゲイン設定値に対する安定性を確認する。ゲインバランスの基本的な考え方は、速度ループゲインを基準とした2次系の減衰係数が1になるように定式化する。ただし、時定数Tiのみは、速度積分部12の導入経緯からできるだけ小さくなるように減衰係数が0.7程度になるようにする。
【0048】
具体的には、次式(4)〜(6)とする。
【0049】
次に上式に対する
図1の制御ブロックの安定性を検討する。
図1において簡単のため、モータMが有する粘性摩擦係数D=Dcomp=0、モータMの回転軸を含めた回転子モーメントJ=総慣性モーメントJo=1とした場合に、位置指令からモータ位置までの伝達関数は次式(7)のようになる。
ただし、
とする。
【0050】
上記の式(4)〜式(6)に対してKv=2π×40を代入した場合の式(7)の係数図を
図10に示す。また、Kv=2π×200を代入した場合の係数図を
図11に示す。このとき、不完全積分ゲインDp=10%とした。これら
図10および
図11より、公知のLipatovの安定判別を適用するといずれも安定十分条件を満足していることがわかる。なお、位置制御ゲインKpと速度制御ゲインKvが略比例する関係と、位置積分部11の時定数Tpiが位置制御ゲインKpと略反比例する関係と、速度積分部12の時定数Tiが速度制御ゲインKvと略反比例する関係を同時に満たすよう各パラメータを設定するだけでも、オーバーシュートの低減効果を得ることができる。
【0051】
<シミュレーションによる効果確認>
ここで、本実施形態のモータ制御装置100による応答をシミュレーションにより確認する。また、比較のために上記構成例3の位置P−速度PI制御+速度フィードフォワード制御(Vff=100%)の場合のシミュレーション結果も示す。なお、このシミュレーションで使用した制御対象モデルの周波数特性を
図12に示す。この
図12に示す周波数特性の制御対象モデルに対して構成例3を適用した場合の応答を
図13、
図15、
図17、
図19に示し、本実施形態のモータ制御装置100を適用した場合の応答を
図14、
図16、
図18、
図20に示す。なお、
図13及び
図14は位置指令とモータ位置を示し、
図15及び
図16は速度指令値とモータ速度を示し、
図17及び
図18は位置偏差を示し、
図19及び
図20はトルク指令を示している。また、各構成に適用したパラメータを
図21に示す。
【0052】
図17と比較して
図18は最大位置偏差が低減していることがわかる。また、
図17と同様に
図18でも、位置指令の払い出し完了時点(位置指令の入力終了時)で位置偏差のオーバーシュートがなくなっている。このことから、目標とした性能を得ることができていると判断できる。
【0053】
<本実施形態の効果>
以上説明した実施形態によれば、次のような効果を得る。すなわち、本実施形態のモータ制御装置100では、位置制御部1に積分器としての位置積分部11を備え、速度制御部2に積分器としての速度積分部12を備え、つまり位置制御部1と速度制御部2の両方にそれぞれ積分部を備えている。このように2重フィードバックループの位置制御部1と速度制御部2の両方で2重の積分制御を行わせることで、外乱トルク等の影響があっても速度偏差とともに位置偏差を高い精度で0に近づけることができる。この結果、位置偏差の低減が可能なモータ制御装置100を実現できる。特に本実施形態では、フィードバック系に重きをおいた制御系の構成となっているため、機械の経年変化や個体差の影響を受けにくいという利点がある。
【0054】
また、本実施形態では特に、位置制御部1が備える位置積分部11が、位置偏差の積分値に不完全積分ゲインDcomp(<1)を乗算して当該位置積分部11の入力に負帰還するように構成された不完全積分部としている。これにより、位置指令の入力が終了して上記入力値(この場合は位置偏差)が一旦0に近づいた後には、不完全積分部の出力値が時間経過とともに自発的に漸減し、上記オーバーシュートによる振動を低減させて位置偏差を抑えることができる。
【0055】
なお、このように位置制御部1の位置積分部11を不完全積分部で構成した場合でも、速度制御部2の速度積分部12が加減速時の速度偏差を0に近づけるため、2重フィードバックループ構成の全体で見れば応答特性を劣化させることはない。つまり、位置制御部1に不完全積分部を備え、速度制御部2に完全積分部を備える組み合わせは、2重フィードバックループ構成における偏差レス制御の実現に対し機能上特に好適な組み合わせであると言える。
【0056】
また、本実施形態では特に、位置制御部1は、位置積分部11の出力を位置偏差に加算した後に位置制御ゲインKpを乗算して速度指令を生成するように構成され、速度制御部2は、速度積分部12の出力を速度偏差に加算した後に速度制御ゲインKvを乗算してトルク指令を生成するように構成されている。このように、位置制御部1と速度制御部2の両方に比例器と積分器を備えた位置PI−速度PI制御とすることで、さらに位置偏差を低減させることができ、高い精度での偏差レス制御を実現できる。
【0057】
また、本実施形態では特に、位置制御ゲインKpと速度制御ゲインKvは略比例関係となり、位置積分部11の時定数Tpiは位置制御ゲインKpと略反比例関係となり、速度積分部12の時定数Tiは速度制御ゲインKvと略反比例関係となるよう設定されている。これまで2重フィードバックループ構成において位置制御部1と速度制御部2の両方に積分器を備えた場合には、それらの相互バランスが均衡せず結果的にオーバーシュートによる振動が生じやすくなり、それを低減させるための各ゲインの調整が複雑なため困難とされていた。しかし今回、発明者の検討によれば、以上のような関係を同時に満たすよう位置制御ゲインKp、速度制御ゲインKv、時定数Tpi、及び時定数Tiを設定することで、上記オーバーシュートの発生を低減できることがあらたに知見された。これにより、位置制御部1と速度制御部2の2重積分制御による偏差レス制御の実現が容易となる。
【0058】
また、本実施形態では特に、位置制御ゲインKp、速度制御ゲインKv、第1時定数Tpi、第2時定数Tiについて具体的に
Kp≒Kv/2π
Tpi≒4/Kp
Ti≒2/Kv
の関係を満たすようそれぞれ設定されている(上記式(4)、式(5)、式(6)参照)。これにより、位置制御部1と速度制御部2の2重積分制御による高精度な偏差レス制御が具体的に可能となる。
【0059】
また、本実施形態では特に、トルクフィードフォワード制御部5が、位置指令を二階微分したトルク相当値にモータMの制御対象の総慣性モーメントJ
0を乗算した値に対し、位置指令を一階微分した速度相当値に制御対象の粘性摩擦補償係数Dcompを乗算した値を加算してトルクフィードフォワード指令を生成し、これをトルク指令に加算するトルクフィードフォワード制御を行う。これにより、各積分器における積分制御の負担を低減させて精度の高い安定した偏差レス制御を実現できる。なお、このトルクフィードフォワード制御部5は、単純な指令微分によるフィードフォワード補償器をベースとしており、その一方で2重フィードバックループ自体に偏差レス特性を持たせているので、フィードフォワード制御器は補助的な位置づけ(加減速時の偏差量の低減)としてよい。
【0060】
また、以上既に述べた以外にも、上記実施形態や各変形例による手法を適宜組み合わせて利用しても良い。
【0061】
その他、一々例示はしないが、上記実施形態や各変形例は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。