特許第6020565号(P6020565)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6020565アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020565
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 11/02 20060101AFI20161020BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20161020BHJP
   C22B 26/10 20060101ALI20161020BHJP
   C22B 26/20 20060101ALI20161020BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20161020BHJP
   C22B 7/04 20060101ALN20161020BHJP
【FI】
   B01D11/02 AZAB
   B09B3/00 304G
   B09B3/00 304J
   B09B3/00 304Z
   B09B3/00 304C
   C22B26/10
   C22B26/20
   C22B3/44 101Z
   !C22B7/04 B
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-523786(P2014-523786)
(86)(22)【出願日】2013年7月4日
(86)【国際出願番号】JP2013068376
(87)【国際公開番号】WO2014007331
(87)【国際公開日】20140109
【審査請求日】2015年6月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-151746(P2012-151746)
(32)【優先日】2012年7月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】脇本 佳季
【審査官】 森井 隆信
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−072215(JP,A)
【文献】 特開平01−317531(JP,A)
【文献】 特開2003−027153(JP,A)
【文献】 特開2011−212534(JP,A)
【文献】 特開2007−314359(JP,A)
【文献】 特表2006−509787(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 11/00
B09B 3/00
C01F 11/00
C22B 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法であって、
アスパラギン酸を含むアミノ酸含有水溶液に前記固形物を添加して、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記アミノ酸含有水溶液に溶出させる溶出工程と、
前記溶出工程の後、前記アミノ酸含有水溶液に酸性ガスを接触させて前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として析出させる析出工程と、前記塩を回収する回収工程と、
前記回収工程後のアミノ酸含有水溶液にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む別の固形物を添加して、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記アミノ酸含有水溶液に溶出させる第2溶出工程とを含み、
前記析出工程において、前記酸性ガスを接触させる前又は接触させた後に、前記アミノ酸含有水溶液にpH調整剤を添加し、pHを7より大きくするpH調整工程を含む方法。
【請求項2】
前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、カルシウムである請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する従来の方法としては、例えば、以下の特許文献1に記載されるものが知られている。特許文献1には、ギ酸若しくはクエン酸を含む水溶液に鉄鋼スラグ等を添加してマグネシウム及びカルシウムを溶出させた後、当該水溶液に炭酸ガスを吹き込むことで炭酸塩(炭酸マグネシウム及び炭酸カルシウム)として析出させることによって、鉄鋼スラグ等からマグネシウム及びカルシウムを抽出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−222713号公報(特許請求の範囲参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されるギ酸若しくはクエン酸を含む水溶液では、マグネシウム及びカルシウムの溶解と、炭酸ガスの吹き込みとを繰り返した場合、マグネシウム及びカルシウムの抽出能力が大きく低下する。そのため、上記水溶液を繰り返して使用することができず、コストが嵩むという問題を抱えていた。
【0005】
本発明の目的は、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する水溶液を繰り返して使用することができ、コスト面で優れるアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する際に、アミノ酸含有水溶液を使用した場合、これを繰り返し使用してもその抽出能力が低下し難いことを見出して本発明に到達した。
【0007】
本発明に係るアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法の特徴構成は、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物から、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出する方法であって、アスパラギン酸を含むアミノ酸含有水溶液に前記固形物を添加して、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記アミノ酸含有水溶液に溶出させる溶出工程と、前記溶出工程の後、前記アミノ酸含有水溶液に酸性ガスを接触させて前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として析出させる析出工程と、前記塩を回収する回収工程と、前記回収工程後のアミノ酸含有水溶液にアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む別の固形物を添加して、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を前記アミノ酸含有水溶液に溶出させる第2溶出工程とを含み、前記析出工程において、前記酸性ガスを接触させる前又は接触させた後に、前記アミノ酸含有水溶液にpH調整剤を添加し、pHを7より大きくするpH調整工程を含む点にある。また、前記アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属は、カルシウムであると好適である。
【0008】
本構成によれば、アミノ酸含有水溶液が、固形物中のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に対する高い抽出能力を備え、且つその高い抽出能力が繰り返し使用しても維持されるため、アミノ酸含有水溶液を繰り返して使用することができて、低コスト化が図れる。
【0009】
【0010】
本構成によれば、酸性ガスを接触させるという簡便な操作によって、溶出工程において溶出させたアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として効率良く回収することができる。
【0011】
【0012】
例えば、アスパラギン酸などの酸性アミノ酸を含むアミノ酸含有水溶液を使用した場合、溶出工程後の当該アミノ酸含有水溶液のpHが酸性になることがある。
この場合、酸性のアミノ酸含有水溶液に酸性ガスを接触させて、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属と反応させても、塩が析出し難くなる。
そこで、本構成のごとく、酸性ガスと接触させる前又は接触させた後に、アミノ酸含有水溶液のpHを7より大きくしてアルカリ性にすれば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の塩の析出が促進されるため効率が良い。
【0013】
【0014】
本構成によれば、一度使用したアミノ酸含有水溶液を再使用して、さらに別の固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出処理を実施することも可能であり、利便性が良い。
【0015】
【0016】
本構成によれば、アスパラギン酸含有水溶液は、高い抽出能力を備え、且つその抽出能力が比較的多くの回数で使用しても安定して維持されるため、より一層の低コスト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例で使用した装置の概略図である。
図2】実施例1に係るフロー図である。
図3】実施例1に用いた各種アミノ酸、及びセメント、スラグの使用量を示す表である。
図4】固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(セメント中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:0.1)。
図5】固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(セメント中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:1)
図6】固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(スラグ中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:0.1)
図7】固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(スラグ中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:1)
図8】固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(セメント中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:0.1)。
図9】固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(セメント中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:1)
図10】固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(スラグ中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:0.1)
図11】固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示す図である(スラグ中のCaOの物質量(モル):添加した各種アミノ酸の物質量(モル)=1:1)
図12】実施例2に係るフロー図である。
図13】実施例2に係るアミノ酸含有水溶液を繰り返して使用したときのカルシウムイオンの溶出率(moL%)と析出率(moL%)とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[実施形態]
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明に係るアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出方法は、アミノ酸含有水溶液に、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物を添加して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属をアミノ酸含有水溶液に溶出させる溶出工程を含む。
【0019】
(固形物)
本発明における固形物とは、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属、及び、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウム等のアルカリ土類金属からなる群から選択される少なくとも一つを含むものを意味する。そのような固形物として、例えば、天然鉱物、廃材、製造工程で排出される副産物等が挙げられる。
【0020】
天然鉱物としては、例えば、アルカリ金属の炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、硫酸塩、水酸化物、塩化物等のそれぞれの単体や水和物等、並びに、アルカリ土類金属の炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、アルミン酸塩、硫酸塩、水酸化物、塩化物等のそれぞれの単体や水和物等が挙げられる。そのような天然鉱物の具体例としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、アルミン酸カルシウム、アルミン酸マグネシウム等からなる群から選択される少なくとも1つを主成分とする岩石、あるいは当該岩石の風化物ないし粉砕物等が挙げられる。
【0021】
また、廃材や製造工程で排出される副産物の具体例としては、セメント水和固形物で固化されたコンクリート、当該コンクリートを含む建築廃材、粉砕物や製鋼工程で排出される副産物の製鋼スラグ、キュポラスラグ、ソーダ石灰ガラス、カリ石灰ガラス、廃棄物焼却で発生するフライアッシュまたはこれらの溶融スラグ、製紙工程で発生するペーパスラッジ、都市ゴミ又は汚泥等が挙げられる。
【0022】
本発明に用いる固形物は、例えば、粒径がおよそ1μm〜100μm程度になるように粉砕したもの用いると、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属が溶出し易く好適である。
【0023】
(アミノ酸含有水溶液)
本発明におけるアミノ酸含有水溶液とは、少なくとも所定量のアミノ酸を含む水溶液を意味するが、アミノ酸の他にクエン酸などのカルボン酸を含むようにしても良い。
また本発明におけるアミノ酸とは、アミノ基と、カルボキシル基の両方の官能基を持つ有機化合物全般を意味するが、通常使用できる主なアミノ酸としては、生体のタンパク質を構成する20種類のアミノ酸(イソロイシン、ロイシン、バリン、リシン、スレオニン、トリプトファン、メチオニン、フェニルアラニン、ヒスチジン、アルギニン、アスパラギン酸、アスパラギン、システィン、チロシン、アラニン、グルコサミン、グルタミン酸、グリシン、プロリン、セリン)が挙げられる。また、アミノ酸含有水溶液をより多く安定して繰り返し使用するのに特に好ましいアミノ酸としては、アスパラギン酸が挙げられる。なお、上述したアミノ酸に限定されず、N−アセチル−DL−トリプトファンなどのN保護アミノ酸やC保護アミノ酸を使用しても良い。
【0024】
アミノ酸含有水溶液に含有させるアミノ酸の量は、当該アミノ酸含有水溶液に添加される上記固形物の量に依存するものであり、作業者が適宜調節して良いが、例えば、固形物中に含まれるアルカリ金属及びアルカリ土類金属の総モル数のおよそ0.01倍以上の量で添加すれば良い。
【0025】
溶出工程では、水にアミノ酸を加えてアミノ酸含有水溶液を調製した後、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む固形物を添加して、例えば、しばらくの間静置するか、あるいは公知の攪拌装置を用いて攪拌・混合して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属をアミノ酸含有水溶液に溶出させても良い。尚、溶出工程における各種条件(アミノ酸含有水溶液の使用量、静置時間、攪拌装置の攪拌速度、攪拌する際の温度、及び攪拌時間など)に関しては作業者が適宜調節して良いが、例えば、攪拌装置を使用しておよそ2g〜4gの固形物に対して溶出工程を実施する場合、使用するアミノ酸含有水溶液は、およそ0.01L、攪拌装置の攪拌速度はおよそ300rpm〜500rpm、攪拌する際の温度はおよそ10℃〜70℃、攪拌時間はおよそ0.5分以上が好適である。
【0026】
さらに本発明は、溶出工程後のアミノ酸含有水溶液に酸性ガスを接触させてアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を塩として析出させる析出工程と、析出した塩を回収する回収工程とを含むものであっても良い。
【0027】
また本発明は、前記析出工程においてより効率的に塩を析出させるため、前記析出工程において、酸性ガスを接触させる前又は接触させた後に、前記アミノ酸含有水溶液にpH調整剤を添加し、pHを7より大きくするpH調整工程を実施するようにしても良い。このとき適用可能なpH調整剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)等を挙げることができる。
【0028】
(酸性ガス)
本発明に適用可能な酸性ガスとしては、例えば、CO2、NOx、SOx、硫化水素などを挙げることができる。特にCO2(炭酸ガス)は、純粋な炭酸ガスに限らず、炭酸ガスを含む気体であれば適用できる。例えば、液化天然ガス(LNG)・液化石油ガス(LP)等の気体燃料、ガソリン・軽油等の液体燃料、石炭等の固体燃料等を燃焼させて発生する燃焼排ガス等を炭酸ガスとして用いることができる。
【0029】
析出工程において酸性ガスをアミノ酸含有水溶液に接触させる方法は、公知の方法により行うことができ、特に制限はない。例えば、アミノ酸含有水溶液に酸性ガスをバブリングする(吹き込む)方法、アミノ酸含有水溶液と酸性ガスとを同一容器に封入して振とうする方法等が挙げられる。また、酸性ガスとして燃焼排ガス等を用いる場合には、アミノ酸含有水溶液と接触させる前に吸着フィルタ等を通過させて、塵埃等を除去しても良い。尚、析出工程は任意の温度で実施できるが、温度が高いほど酸性ガスが溶け込み難くなるため、70℃以下で使用することが好ましい。
【0030】
析出工程にて例えば炭酸ガスを使用した場合、固形物から溶出した例えば、アルカリ土類金属のカルシウムイオンやマグネシウムイオンと炭酸とが反応して、炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム等の炭酸塩が生成されて析出する。
【0031】
析出工程にて析出した塩は、その後の回収工程において、ろ過等の公知の方法によって回収することができる。回収された塩は、例えば、製紙、顔料、塗料、プラスチック、ゴム、織編物等の産業において充填材として利用することができる。
【0032】
また本発明は、回収工程後のアミノ酸含有水溶液に、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を含む別の固形物を添加して、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を当該アミノ酸含有水溶液に溶出させる第2溶出工程を実施しても良く、次いで第2の析出工程及び回収工程を実施しても良い。即ち本発明では、初めの溶出工程で使用したアミノ酸含有水溶液を用いて、第2の溶出工程、析出工程、及び回収工程を実施し、さらに第3の溶出工程、析出工程、及び回収工程を実施し、またさらに第4の・・・という具合に、同じアミノ酸含有水溶液に対して、溶出工程、析出工程、及び回収工程という一連のプロセスを繰り返して実施することができる。このとき、アミノ酸含有水溶液に添加する固形物としては、前の溶出工程で使用したものと同一種類のものでも、異なる種類のものでも良く、特に限定されない。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
アミノ酸含有水溶液によって、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出できることを確認するため、図1に示す装置を用いて、本発明に係る溶出工程を実施した。図1に示すように、当該装置は、反応容器1、攪拌機2、反応容器1内の溶液の温度を調整する水浴槽3、流量調整器4,5、混合装置6、計測計7、ガスクロマトグラフ8、逆流防止装置9、計算機10を備えて構成される。
【0035】
図2に示すフローに従って、9種類のアミノ酸のそれぞれを含むアミノ酸含有水溶液(100mL)を調製し、固形物として、セメント(化学分析用ポルトランドセメント、(社)セメント協会、211R化学分析用標準試料)2.40g又はスラグ(高炉スラグ標準物質、(社)日本鉄鋼連盟標準化センター、高炉スラグ6号)3.66gを添加して混合水溶液を調製した。尚、上記セメント及びスラグのそれぞれに含まれるカルシウム量は、CaO換算で、64.2wt%及び42wt%であった。
【0036】
添加した9種類のアミノ酸とその重量、固形物の種類とその重量、及びモル比(固形物中のCaOの物質量(モル):添加したアミノ酸の物質量(モル))については図3に示す。また、セメント及びスラグのそれぞれに含まれるCaOの物質量(モル)を1としたときの各種アミノ酸の物質量(モル)を1又は0.1とした。即ち、本実施例においては、添加したアミノ酸の種類、固形物の種類、及びモル比の違いによって、36種類の混合水溶液を調整した。
【0037】
反応容器1にアミノ酸含有水溶液100mLを投入し、次いで所定量の固形物を投入して混合水溶液を調製し、攪拌機2を用いて400rpmで10分間攪拌してカルシウムイオンを溶出させた(溶出工程)。この溶出工程の間、計測計7によって反応容器1内の混合水溶液のpH、酸化還元電位、温度を測定することによって、各混合水溶液のpH及びカルシウムイオンの溶出率(混合水溶液中のCaOの物質量(モル)/固形物(セメント又はスラグ)中のCaOの物質量(モル)×100(%))を調べた。
【0038】
図4図7に固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示し、図8図11に固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示した。
【0039】
図4に示すように、セメント投入直後の各混合水溶液(モル比=1:0.1)のpHは、およそ3〜11となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、図8に示すように、各混合水溶液のpHは、およそ11〜12となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0040】
図5に示すように、セメント投入直後の各混合水溶液(モル比=1:1)のpHは、およそ3〜11となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、図9に示すように、各混合水溶液のpHは、およそ9〜12となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0041】
図6に示すように、スラグ投入直後の各混合水溶液(モル比=1:0.1)のpHは、およそ3〜11となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、図10に示すように各混合水溶液のpHは、およそ9〜11となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0042】
図7に示すように、スラグ投入直後の各混合水溶液(モル比=1:1)のpHは、およそ3〜11となり、幅広いpHとなったが、10分経過すると、図11に示すように各混合水溶液のpHは、およそ4〜11となり、pHの範囲がアルカリ側に若干シフトした。
【0043】
以上より、いずれの混合水溶液においても、固形物投入直後は、酸性からアルカリ性に亘る幅広いpHとなるが、時間が経つとpHがアルカリ側にシフトする傾向があることが分かった。
【0044】
この傾向について説明すると、アミノ酸含有水溶液に固形物を投入した直後の混合水溶液のpHは、各種アミノ酸の持つ等量点(pH)により決定されるため、例えば、酸性アミノ酸(L−グルタミン酸やL−アスパラギン酸等)を含む混合水溶液のpHは酸性側に、塩基性アミノ酸(L−アルギニン等)を含む混合水溶液のpHはアルカリ側となり、それぞれの混合水溶液に含まれるアミノ酸の種類に対応するpHとなり全体として広い範囲のpHを示す。しかし、時間が経過するにつれて、固形物中のCaOが混合水溶液中に溶け出してCa(OH)2となり、これが解離して水酸化物イオン(OH-)が増加するためpHが高くなり、混合水溶液のpHがアルカリ側にシフトすると考えられる。
【0045】
従って、これらの結果から判断して、アミノ酸含有水溶液を使用することによって、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出できることが確認された。
【0046】
尚、固形物投入後10分経過した混合水溶液のpHは、固形物から溶出するカルシウムイオンの中和点(pH)と各種アミノ酸の等量点(pH)から決定されることとなる。即ち、図8図10に示される各混合水溶液では、各種アミノ酸の物質量(モル)よりも、溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)が高くなり、pHが主にカルシウムイオンの中和点(pH)によって決定されていずれの混合水溶液もアルカリ性となったためpHの範囲が狭くなったものと考えられる。一方、図11に示される各混合水溶液では、各種アミノ酸の物質量(モル)が、溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)と略同じか、あるいは溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)よりも高くなり、pHが主に各種アミノ酸の等量点(pH)から決定されたため、pHの範囲が広くなったものと考えられる。
【0047】
また、図8及び図9に示されるように、混合水溶液中のアミノ酸濃度が高いほど、カルシウムイオンの溶出率が高くなる傾向がある。また図10及び図11に示されるように、混合水溶液中のアミノ酸濃度が高いほどカルシウムイオンの溶出率が高くなるという傾向は、固形物としてスラブを用いた場合でも同様である。即ち、同種の固形物におけるCa溶出率はアミノ酸濃度に比例することが分かる。
【0048】
また、図4及び図8に示されるように、固形物がセメントの場合、pH範囲は、セメント投入直後でおよそ3〜11であったものが10分経過後におよそ11〜12となる。一方、図6及び図10に示されるように、固形物がスラグの場合、pH範囲は、スラグ投入直後でおよそ3〜11であったものが10分経過後におよそ9〜11となる。つまり、混合水溶液中のアミノ酸濃度が同じ場合、セメントを加えた場合の方が、投入直後から10分後までのpH変化が大きくなる。
【0049】
物質移動の駆動力はその物質の濃度に比例し、カルシウム移動の駆動力(F=−gradμCa)はカルシウム濃度に比例する。即ち、固形物に含まれるカルシウム量が多いほど(本実施形態では、固形物中の初期CaO含量が高いほど)、混合水溶液中の初期のカルシウム濃度との差が大きくなるため、カルシウム移動に係る駆動力が大きくなる。
【0050】
セメントのカルシウム含量はスラグのカルシウム含量より高いため、カルシウム移動に関してより大きな駆動力が働く。その結果、スラグよりもセメントの方が、カルシウムが溶出し易く、セメントを投入した混合水溶液のpHがよりアルカリ側にシフトしたためpH変化が大きくなったと考えられる。
【0051】
また、図9に示されるように、本実施例で使用した9種類のアミノ酸のうち、L−グルタミン酸やL−アスパラギン酸等の酸性アミノ酸が高い抽出能力を備えていることが分かった。
【0052】
(実施例2)
アミノ酸含有水溶液を繰り返して使用した場合に、そのアミノ酸含有水溶液のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出能力が維持されるか否かを確認するため、図1に示す装置を用いて、同じアミノ酸含有水溶液に対して、本発明に係る溶出工程、析出工程、及び回収工程という一連のプロセスを繰り返し実施し、各プロセスにおけるカルシウムイオンの溶出率と析出率とを調べた。
【0053】
図12に示すフローに従い、アミノ酸としてL−アスパラギン酸2.40gを含有するアミノ酸含有水溶液(100mL)を調製し、固形物として、セメント(化学分析用ポルトランドセメント、(社)セメント協会、211R化学分析用標準試料)2.40gを添加して混合水溶液を調製し、実施例1と同様に10分間攪拌してカルシウムイオンを溶出させた(溶出工程)。尚、このときのセメント中のCaOのモル数:添加したL−アスパラギン酸のモル数=1:1とした。
【0054】
この溶出工程の間、計測計7によって反応容器1内の混合水溶液のpH、酸化還元電位、温度を測定することによって、カルシウムイオンの溶出率(Ca溶出率)を調べた。
【0055】
次いで、混合水溶液中の固形物残渣を吸引ろ過により除去してろ液を採取し、このろ液のpHを測定したところ、pHは2.77(L−アスパラギン酸の等電点)〜3であった。そのため、ろ液にpH調整剤として水酸化カリウムを加えて、pHを10〜13.5とした(pH調整工程)。
【0056】
そして、pH調整したろ液に対して、酸性ガスとして模擬燃焼排ガスを導入してバブリングして炭酸カルシウムを析出させた(析出工程)。
【0057】
模擬燃焼排ガスは、炭酸ガス(CO2)と窒素(N2)ガスとの混合ガスを用いた。模擬燃焼排ガスは、炭酸ガスと窒素ガスとを、それぞれ流量調整器4,5で流量を調整しつつ、混合装置6において所定の混合比で混合して供給した。本実施例では、模擬燃焼排ガスの組成を10vol%CO2+90vol%N2として、1リットル/分で90分間導入した。
【0058】
次いで、析出した炭酸カルシウムを吸引ろ過により回収してろ液(アミノ酸含有水溶液)を採取した(回収工程)。回収した炭酸カルシウムを乾燥して計量し、カルシウムイオンの析出率(Ca析出率:溶出工程で溶出したカルシウムイオンの量に対する炭酸カルシウム中のカルシウムの割合)を調べた。
【0059】
次いで、採取したろ液(アミノ酸含有水溶液)に対して、別の固形物としてセメント2.40gを再び添加して、上述と同様に第2の溶出工程、析出工程、回収工程という一連のプロセスを実施した。このようにして、本実施例では、同じアミノ酸含有水溶液に対して、溶出工程、析出工程、回収工程というこの一連のプロセスを5回繰り返して実施した。
【0060】
各プロセスにおけるカルシウムイオンの溶出率(Ca溶出率)と析出率(Ca析出率)の結果を図13に示した。図13に示すように、多少のばらつきはあるものの、同じアミノ酸含有水溶液を少なくとも5回繰り返して使用したとしても、60%以上の溶出率を維持することができた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、コンクリートを含む建築廃材や製鋼スラグ等の産業廃棄物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を回収するのに好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 反応容器
2 攪拌機
3 水浴槽
4,5 流量調整器
6 混合装置
7 計測計
8 ガスクロマトグラフ
9 逆流防止装置
10 計算機
図1
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図13