【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。但し、本発明がこれらの実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
アミノ酸含有水溶液によって、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出できることを確認するため、
図1に示す装置を用いて、本発明に係る溶出工程を実施した。
図1に示すように、当該装置は、反応容器1、攪拌機2、反応容器1内の溶液の温度を調整する水浴槽3、流量調整器4,5、混合装置6、計測計7、ガスクロマトグラフ8、逆流防止装置9、計算機10を備えて構成される。
【0035】
図2に示すフローに従って、9種類のアミノ酸のそれぞれを含むアミノ酸含有水溶液(100mL)を調製し、固形物として、セメント(化学分析用ポルトランドセメント、(社)セメント協会、211R化学分析用標準試料)2.40g又はスラグ(高炉スラグ標準物質、(社)日本鉄鋼連盟標準化センター、高炉スラグ6号)3.66gを添加して混合水溶液を調製した。尚、上記セメント及びスラグのそれぞれに含まれるカルシウム量は、CaO換算で、64.2wt%及び42wt%であった。
【0036】
添加した9種類のアミノ酸とその重量、固形物の種類とその重量、及びモル比(固形物中のCaOの物質量(モル):添加したアミノ酸の物質量(モル))については
図3に示す。また、セメント及びスラグのそれぞれに含まれるCaOの物質量(モル)を1としたときの各種アミノ酸の物質量(モル)を1又は0.1とした。即ち、本実施例においては、添加したアミノ酸の種類、固形物の種類、及びモル比の違いによって、36種類の混合水溶液を調整した。
【0037】
反応容器1にアミノ酸含有水溶液100mLを投入し、次いで所定量の固形物を投入して混合水溶液を調製し、攪拌機2を用いて400rpmで10分間攪拌してカルシウムイオンを溶出させた(溶出工程)。この溶出工程の間、計測計7によって反応容器1内の混合水溶液のpH、酸化還元電位、温度を測定することによって、各混合水溶液のpH及びカルシウムイオンの溶出率(混合水溶液中のCaOの物質量(モル)/固形物(セメント又はスラグ)中のCaOの物質量(モル)×100(%))を調べた。
【0038】
図4〜
図7に固形物投入直後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示し、
図8〜
図11に固形物を投入してから10分経過後の混合水溶液のpHと、カルシウムイオンの溶出率との関係を示した。
【0039】
図4に示すように、セメント投入直後の各混合水溶液(モル比=1:0.1)のpHは、およそ3〜11となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、
図8に示すように、各混合水溶液のpHは、およそ11〜12となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0040】
図5に示すように、セメント投入直後の各混合水溶液(モル比=1:1)のpHは、およそ3〜11となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、
図9に示すように、各混合水溶液のpHは、およそ9〜12となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0041】
図6に示すように、スラグ投入直後の各混合水溶液(モル比=1:0.1)のpHは、およそ3〜11となり、幅広いpHとなるが、10分経過すると、
図10に示すように各混合水溶液のpHは、およそ9〜11となり、アルカリ側に偏るものとなった。
【0042】
図7に示すように、スラグ投入直後の各混合水溶液(モル比=1:1)のpHは、およそ3〜11となり、幅広いpHとなったが、10分経過すると、
図11に示すように各混合水溶液のpHは、およそ4〜11となり、pHの範囲がアルカリ側に若干シフトした。
【0043】
以上より、いずれの混合水溶液においても、固形物投入直後は、酸性からアルカリ性に亘る幅広いpHとなるが、時間が経つとpHがアルカリ側にシフトする傾向があることが分かった。
【0044】
この傾向について説明すると、アミノ酸含有水溶液に固形物を投入した直後の混合水溶液のpHは、各種アミノ酸の持つ等量点(pH)により決定されるため、例えば、酸性アミノ酸(L−グルタミン酸やL−アスパラギン酸等)を含む混合水溶液のpHは酸性側に、塩基性アミノ酸(L−アルギニン等)を含む混合水溶液のpHはアルカリ側となり、それぞれの混合水溶液に含まれるアミノ酸の種類に対応するpHとなり全体として広い範囲のpHを示す。しかし、時間が経過するにつれて、固形物中のCaOが混合水溶液中に溶け出してCa(OH)
2となり、これが解離して水酸化物イオン(OH
-)が増加するためpHが高くなり、混合水溶液のpHがアルカリ側にシフトすると考えられる。
【0045】
従って、これらの結果から判断して、アミノ酸含有水溶液を使用することによって、固形物からアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属を抽出できることが確認された。
【0046】
尚、固形物投入後10分経過した混合水溶液のpHは、固形物から溶出するカルシウムイオンの中和点(pH)と各種アミノ酸の等量点(pH)から決定されることとなる。即ち、
図8〜
図10に示される各混合水溶液では、各種アミノ酸の物質量(モル)よりも、溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)が高くなり、pHが主にカルシウムイオンの中和点(pH)によって決定されていずれの混合水溶液もアルカリ性となったためpHの範囲が狭くなったものと考えられる。一方、
図11に示される各混合水溶液では、各種アミノ酸の物質量(モル)が、溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)と略同じか、あるいは溶出したカルシウムイオンの物質量(モル)よりも高くなり、pHが主に各種アミノ酸の等量点(pH)から決定されたため、pHの範囲が広くなったものと考えられる。
【0047】
また、
図8及び
図9に示されるように、混合水溶液中のアミノ酸濃度が高いほど、カルシウムイオンの溶出率が高くなる傾向がある。また
図10及び
図11に示されるように、混合水溶液中のアミノ酸濃度が高いほどカルシウムイオンの溶出率が高くなるという傾向は、固形物としてスラブを用いた場合でも同様である。即ち、同種の固形物におけるCa溶出率はアミノ酸濃度に比例することが分かる。
【0048】
また、
図4及び
図8に示されるように、固形物がセメントの場合、pH範囲は、セメント投入直後でおよそ3〜11であったものが10分経過後におよそ11〜12となる。一方、
図6及び
図10に示されるように、固形物がスラグの場合、pH範囲は、スラグ投入直後でおよそ3〜11であったものが10分経過後におよそ9〜11となる。つまり、混合水溶液中のアミノ酸濃度が同じ場合、セメントを加えた場合の方が、投入直後から10分後までのpH変化が大きくなる。
【0049】
物質移動の駆動力はその物質の濃度に比例し、カルシウム移動の駆動力(F=−gradμ
Ca)はカルシウム濃度に比例する。即ち、固形物に含まれるカルシウム量が多いほど(本実施形態では、固形物中の初期CaO含量が高いほど)、混合水溶液中の初期のカルシウム濃度との差が大きくなるため、カルシウム移動に係る駆動力が大きくなる。
【0050】
セメントのカルシウム含量はスラグのカルシウム含量より高いため、カルシウム移動に関してより大きな駆動力が働く。その結果、スラグよりもセメントの方が、カルシウムが溶出し易く、セメントを投入した混合水溶液のpHがよりアルカリ側にシフトしたためpH変化が大きくなったと考えられる。
【0051】
また、
図9に示されるように、本実施例で使用した9種類のアミノ酸のうち、L−グルタミン酸やL−アスパラギン酸等の酸性アミノ酸が高い抽出能力を備えていることが分かった。
【0052】
(実施例2)
アミノ酸含有水溶液を繰り返して使用した場合に、そのアミノ酸含有水溶液のアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の抽出能力が維持されるか否かを確認するため、
図1に示す装置を用いて、同じアミノ酸含有水溶液に対して、本発明に係る溶出工程、析出工程、及び回収工程という一連のプロセスを繰り返し実施し、各プロセスにおけるカルシウムイオンの溶出率と析出率とを調べた。
【0053】
図12に示すフローに従い、アミノ酸としてL−アスパラギン酸2.40gを含有するアミノ酸含有水溶液(100mL)を調製し、固形物として、セメント(化学分析用ポルトランドセメント、(社)セメント協会、211R化学分析用標準試料)2.40gを添加して混合水溶液を調製し、実施例1と同様に10分間攪拌してカルシウムイオンを溶出させた(溶出工程)。尚、このときのセメント中のCaOのモル数:添加したL−アスパラギン酸のモル数=1:1とした。
【0054】
この溶出工程の間、計測計7によって反応容器1内の混合水溶液のpH、酸化還元電位、温度を測定することによって、カルシウムイオンの溶出率(Ca溶出率)を調べた。
【0055】
次いで、混合水溶液中の固形物残渣を吸引ろ過により除去してろ液を採取し、このろ液のpHを測定したところ、pHは2.77(L−アスパラギン酸の等電点)〜3であった。そのため、ろ液にpH調整剤として水酸化カリウムを加えて、pHを10〜13.5とした(pH調整工程)。
【0056】
そして、pH調整したろ液に対して、酸性ガスとして模擬燃焼排ガスを導入してバブリングして炭酸カルシウムを析出させた(析出工程)。
【0057】
模擬燃焼排ガスは、炭酸ガス(CO
2)と窒素(N
2)ガスとの混合ガスを用いた。模擬燃焼排ガスは、炭酸ガスと窒素ガスとを、それぞれ流量調整器4,5で流量を調整しつつ、混合装置6において所定の混合比で混合して供給した。本実施例では、模擬燃焼排ガスの組成を10vol%CO
2+90vol%N
2として、1リットル/分で90分間導入した。
【0058】
次いで、析出した炭酸カルシウムを吸引ろ過により回収してろ液(アミノ酸含有水溶液)を採取した(回収工程)。回収した炭酸カルシウムを乾燥して計量し、カルシウムイオンの析出率(Ca析出率:溶出工程で溶出したカルシウムイオンの量に対する炭酸カルシウム中のカルシウムの割合)を調べた。
【0059】
次いで、採取したろ液(アミノ酸含有水溶液)に対して、別の固形物としてセメント2.40gを再び添加して、上述と同様に第2の溶出工程、析出工程、回収工程という一連のプロセスを実施した。このようにして、本実施例では、同じアミノ酸含有水溶液に対して、溶出工程、析出工程、回収工程というこの一連のプロセスを5回繰り返して実施した。
【0060】
各プロセスにおけるカルシウムイオンの溶出率(Ca溶出率)と析出率(Ca析出率)の結果を
図13に示した。
図13に示すように、多少のばらつきはあるものの、同じアミノ酸含有水溶液を少なくとも5回繰り返して使用したとしても、60%以上の溶出率を維持することができた。