特許第6020580号(P6020580)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6020580-リチウムイオン二次電池 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020580
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/136 20100101AFI20161020BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20161020BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20161020BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20161020BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20161020BHJP
【FI】
   H01M4/136
   H01M4/58
   H01M10/0568
   H01M2/02 K
   H01M10/052
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-538610(P2014-538610)
(86)(22)【出願日】2013年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2013076193
(87)【国際公開番号】WO2014051020
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2014年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2012-216655(P2012-216655)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(72)【発明者】
【氏名】佐野 篤史
(72)【発明者】
【氏名】大槻 佳太郎
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−218829(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/080519(WO,A1)
【文献】 特開2002−117907(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/147907(WO,A1)
【文献】 特表2007−522620(JP,A)
【文献】 特開2010−086778(JP,A)
【文献】 特開2009−231206(JP,A)
【文献】 特開2004−303527(JP,A)
【文献】 特開2010−86777(JP,A)
【文献】 特開2011−198629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/13−4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極および電解質溶液を有し、
前記正極はLiVOPOまたはLi(POで表される化合物を正極活物質として用い、前記正極は導電助剤を1〜10重量%含有し、前記正極の電極密度が1.8〜2.9g/cmであり、前記正極の電極としてのBET比表面積が5〜20m/gであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項2】
前記電解質溶液はリチウム塩を含有し、前記リチウム塩の塩濃度が1.〜1.65mol/Lであることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項3】
前記正極の正極活物質担持量が5〜20mg/cmであることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項4】
外装体としてアルミラミネートフィルムを用いたことを特徴とする請求項1からのいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウムイオン二次電池の正極材料(正極活物質)としてLiCoOやLiNi1/3Mn1/3Co1/3等の層状化合物やLiMn等のスピネル化合物が用いられてきた。近年では、LiFePOに代表されるオリビン型構造の化合物が注目されている。オリビン構造を有する正極材料は高温での熱安定性が高く、安全性が高いことが知られている。しかし、LiFePOを用いたリチウムイオン二次電池は、その充放電電圧が3.5V程度と低く、エネルギー密度が低くなるという欠点を有する。そのため、高い充放電電圧を実現し得るリン酸系正極材料として、LiCoPO4やLiNiPO等が提案されている。しかし、これらの正極材料を用いたリチウムイオン二次電池においても、十分な容量が得られていないのが現状である。リン酸系正極材料の中でも4V級の充放電電圧を実現し得る化合物として、LiVOPO(特許文献1)やLi(POなどLi(M)(PO(特許文献2)の構造を持つバナジウムホスフェートが知られている。しかし、バナジウムホスフェートはLiFePOなどの他の正極材料と比較して高レート放電特性が劣る課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−303527号公報
【特許文献2】特開2008−123823号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン二次電池の高レート放電特性を向上することが可能なリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極および電解質溶液を有し、正極は下記式(1)で表される化合物を正極活物質として用い、前記正極の電極密度が1.8〜2.9g/cmであることを特徴とする。
Li(M)(PO ・・・(1)
(MはVOまたはVであり、XはFであり、0.9≦a≦3.3、0.9≦b≦2.2、0.9≦c≦3.3、0≦d≦1.1である。)
【0006】
上記の手段により高レート放電特性に優れたリチウムイオン二次電池を得ることができる。
【0007】
本発明のリチウムイオン二次電池は、電解質溶液はリチウム塩を含有し、リチウム塩の塩濃度が1.1〜1.7mol/Lであることが好ましい。
【0008】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極の電極としてのBET比表面積が5〜20m/gであることが好ましい。
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極の細孔体積が0.01〜0.1cm/gであることが好ましい。
【0010】
本発明のリチウムイオン二次電池は、さらに正極の電極活物質担持量が5〜20mg/cmであることが好ましい。
【0011】
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極が、LiVOPOまたはL(POであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高レート放電特性に優れたリチウムイオン二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】リチウムイオン二次電池の模式断面図である
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。
【0015】
<正極>
以下、本実施形態に係る電極(図1の正極10を参照)について、詳細に説明する。
電極10は正極活物質としてLi(M)(PO(MはVOまたはVであり、XはFであり、0.9≦a≦3.3、0.9≦b≦2.2、0.9≦c≦3.3、0≦d≦1.1である)を用い、電極密度が1.8〜2.9g/cmである。
【0016】
ここで言う電極密度とは電極塗膜の面積当たりの重量を電極塗膜の厚みで割ることにより求められる。
具体的には電極密度[g/cm]=(電極塗膜の単位面積当り重量)[mg/cm]/(電極塗膜の厚み)[μm]×10の式で求められる。電極塗膜とは集電体の上に塗られた活物質、導電助剤、バインダー等を含む層のことである。
【0017】
この正極10を用いたリチウムイオン二次電池が高レート放電特性に優れる理由について下記のように推測される。電極密度が1.8〜2.9g/cmであることにより、正極活物質および導電助剤との接触が良好になり、電子伝導性に優れ、抵抗が減少して高レート放電容量が向上したものと考えられる。電極密度を調整するためにはロールプレス、熱ロールプレス、平板プレスなどを用いる。温度や圧力、ロール間ギャップを調整することにより密度を調整することができる。
【0018】
正極10の電極としてのBET比表面積は5〜20m/gであることが好ましい。正極の電極としてのBET比表面積が5〜20m/gであることにより電解質溶液との親和性が高く、十分なイオン伝導性を確保されているものと考えられる。
【0019】
BET比表面積は通常用いられる方法として圧力を変化させながら窒素の吸着脱離をおこない、BETの吸着等温式により求めることができる。電極のBET比表面積を測定するには電極の一部を切断してサンプル管に電極を挿入することによって測定することができる。
【0020】
正極10の細孔体積は0.01〜0.1cm/gであることが好ましい。これにより、より優れた高レート放電特性が得られる。その理由としては下記の現象が考えられる。正極10の細孔体積には電解質溶液が含浸されイオン伝導性を確保する。その際に必要十分な細孔が確保されることにより優れた高レート放電特性が得られるものと考えられる。
【0021】
細孔体積は窒素の吸着脱離により求めることができる。この方法より得られる細孔体積はおよそ1000Å以下の細孔が持つ細孔体積であると考えられる。
【0022】
正極10は電極活物質担持量が5〜20mg/cmであることがさらに好ましい。これにより、より優れた高レート放電特性が得られる。
【0023】
<正極の製造方法>
[スラリー作製工程]
(原料混合物)
スラリー作製工程において、まず、原料混合物を準備する。原料混合物は、正極活物質としてLi(M)(PO、導電助剤および結着剤とを含む。正極活物質のBET比表面積は1.0〜20.0の範囲であることが好ましい。この範囲にあるものは放電容量が高く、高レート放電特性に優れる。正極活物質の混合比率は80〜98重量%であることが好ましい。この範囲にあることによって高レート放電特性が優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0024】
正極10の導電助剤としてはカーボンブラック類、黒鉛類、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)などの炭素が挙げられる。カーボンブラック類としてはアセチレンブラック、オイルファーネス、ケッチェンブラック、などがあるが、中でも導電性に優れるという点でケッチェンブラックを用いることが好ましい。ケッチェンブラックと正極活物質を混合する際に少量の水とアルゴンを加え、ビーズミル処理をしてもよい。ケッチェンブラックは比表面積が大きく嵩高いため、電極密度を上げるための妨げになることがある。上記のようなビーズミル処理をすることによりケッチェンブラックと正極活物質の密着性を高め、電極密度を上げることができる。またカーボンブラック類および黒鉛類、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)など含む1種類以上の炭素を含むことがより好ましい。これら導電助剤の種類および混合比により電極の比表面積を調整することができる。導電助剤の混合比率は1〜10重量%であることが好ましい。この範囲にあることによって高レート放電特性が優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0025】
正極10の結着剤としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、芳香族ポリアミド、セルロース、スチレン・ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等を用いてもよい。また、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体、その水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子を用いてもよい。更に、シンジオタクチック1、2−ポリブタジエン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン(炭素数2〜12)共重合体等を用いてもよい。電極密度を高くするという観点から結着剤として用いられる高分子の比重は1.2g/cmより大きいことが好ましい。また電極密度を高くし、且つ接着力を高める点から重量平均分子量が70万以上であることが好ましい。結着剤の混合比率は1〜10重量%であることが好ましい。この範囲にあることによって高レート放電特性が優れたリチウムイオン二次電池が得られる。
【0026】
上述の正極活物質及び結着材と、必要に応じた量の導電助剤とを、溶媒に添加してスラリーを調整する。溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド等を用いることができる。溶媒を混合する量を調整することによって混錬と呼ばれる固練りの工程を入れることができる。混錬をする際の固形分濃度と混錬時間を調整することによって細孔体積を調整することができる。混錬時の固形分濃度と混錬時間によって活物質と導電助剤および結着剤の複合のされ方に違いが出るためであると考えられる。
【0027】
[塗布及び乾燥工程]
混錬した後に粘度調整したスラリーはドクターブレード、スロットダイ、ノズル、グラビアロールなどの方法より適宜選択される方法によって、正極集電体12上に塗布することができる。塗布の量やライン速度の調整により正極活物質として5〜20mg/cmの担持量になるように正極担時量を調整することができる。塗布の後に乾燥をおこなう。乾燥の方法は特に限定されないが、乾燥の速度により電極の細孔体積を調整することができる。
【0028】
[圧延工程]
塗布、乾燥後の電極はロールプレスにより圧延をおこなう。ロールを加熱し結着剤を柔らかくすることにより、より高い電極密度を得ることができる。ロールの温度は100℃〜200℃の範囲が好ましい。ロールプレスの圧力、ロール間の隙間および、ロールの温度によりまた、ロール表面の表面粗さを調整することによって電極の比表面積を調整することができる。
【0029】
このようにして得られた正極10を、リチウムイオン二次電池の正極として用いると、高い高レート放電特性を得ることができる。
【0030】
(電解質溶液の製造方法)
以下では、本発明の一実施形態に係る電解質溶液の製造方法について説明する。
電解質溶液(電解質水溶液または有機溶媒を使用する電解質溶液)としては、リチウム塩を溶媒に溶解したものが使用される。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiAsF、LiCFSO、LiCF、CFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB等の塩が使用できる。なお、これらの塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
電解質溶液中のリチウム塩の塩濃度は1.1〜1.7mol/Lであることが好ましい。上記範囲の塩濃度を用いることによって正極10の細孔にリチウム塩が均一に分布し、高レート特性に優れるものと考えられる。リチウム塩の塩濃度が1.1mol/Lよりも低い場合にはリチウムイオンの泳動に必要な過電圧が大きくなり、定電流の場合には分極が大きくなって現れることにより高レート放電特性が劣るものと考えられる。リチウム塩濃度が1.7mol/Lよりも大きくなると電解質溶液の粘度が高くなり、正極10の細孔にリチウム塩が十分に浸透しないものと考えられる。
【0032】
また、有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、及び、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等が好ましく挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上を任意の割合で混合して使用してもよい。
【0033】
本実施形態に係る活物質であるLi(M)(PO(MはVOまたはVであり、XはFであり、0.9≦a≦3.3、0.9≦b≦2.2、0.9≦c≦3.3、0≦d≦1.1である)はLiVOPO、Li(PO、LiVPO4Fなどの構造式で表すことができる。高レート放電特性に優れる点からLiVOPOおよび/またはLi(POが特に好ましい。
【0034】
バナジウムホスフェート(LiVOPOまたはLi(PO)は固相合成、水熱合成、カーボサーマルリダクション法などにより合成できることが知られている。中でも水熱合成法で作製したバナジウムホスフェートは粒子径が小さく、レート特性に優れる傾向があり、水熱合成法で作製したバナジウムホスフェートは正極活物質として好ましい。
【0035】
(電極、並びにリチウムイオン二次電池及びその製造方法)
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、互いに対向する板状の負極20及び板状の正極10と、負極20と正極10との間に隣接して配置される板状のセパレータ18と、を備える発電要素30と、リチウムイオンを含む電解質溶液と、これらを密閉した状態で収容するケース50と、負極20に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケースの外部に突出される負極リード62と、正極10に一方の端部が電気的に接続されると共に他方の端部がケースの外部に突出される正極リード60とを備える。
【0036】
負極20は、負極集電体22と、負極集電体22上に積層された負極活物質層24と、を有する。また、正極10は、正極集電体12と、正極集電体12上に積層された正極活物質層14と、を有する。セパレータ18は、負極活物質層24と正極活物質層14との間に位置している。
【0037】
負極活物質層24が含む負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等の炭素材料、Al、Sn、Si等のリチウムと化合することのできる金属又は合金、SiO(1<x≦2)、SnO(1<x≦2)等の酸化物を主体とする非晶質の化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)、TiOが挙げられる。負極活物質はバインダーにより結着されていてもよい。負極活物質層24は、正極活物質層14の場合と同様に、負極活物質等を含む塗料を負極集電体22上に塗布する工程によって形成される。
【0038】
なお、本実施形態において、電解質溶液は液状以外にゲル化剤を添加することにより得られるゲル状電解質であってもよい。また、電解質溶液に代えて、固体電解質(固体高分子電解質又はイオン伝導性無機材料からなる電解質)が含有されていてもよい。
【0039】
また、セパレータ18も、電気絶縁性の多孔質構造から形成されていればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いは、セルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
【0040】
ケース50は、その内部に積層体30及び電解質溶液を密封するものである。ケース50は、電解質溶液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。例えば、ケース50として、図4に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。ケースは外装体とも呼ばれるが、外装体をして金属ラミネートフィルム用いると高レート放電特性に優れたリチウムイオン二次電池が得られる。その理由は定かでないが、電極にリチウムイオンが挿入される際に電極は膨張または収縮する。金属ラミネートフィルムは電極の膨張および収縮に追従し、リチウムイオンの移動を阻害しないため、高レート放電特性に優れるものと推測される。金属箔52としては例えばアルミ箔を、合成樹脂膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン、ポリプロピレン等が好ましい。
【0041】
リード60,62は、アルミ等の導電材料から形成されている。
【0042】
以上、本発明に係る活物質の製造方法の好適な一実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例1)
[評価用セルの作製]
とLiOHとHPOをモル比およそ1:2:2とし、密閉容器中において160℃で8時間加熱し、得られたペーストを空気中600℃4時間焼成した。このようにして得られた粒子はβ型LiVOPOであることがわかった。 LiVOPOとケッチェンブラックとポリフッ化ビニリデン(PVdF)(アルケマ社製HSV900)を重量比80:10:10で混合した。この際にLiVOPOとケッチェンブラックと水をポリエチレン容器に入れ、アルゴンを封入し、ビーズミルにて300rpmで混合した。その後にPVdFを加えた。溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を加えてスラリーを調製した。固練りを0.5時間行い、その後NMPを追加して粘度を3000cPsに調整した。ドクターブレード法により集電体であるアルミニウム箔上に塗布し、90℃で10分間乾燥を行った。その後90℃に加熱したロールプレスにより線圧1.5t cm−1で圧延をおこない、正極を作製した。
【0045】
次に、負極として人造黒鉛(BTR社製FSN)とポリフッ化ビニリデン(PVdF)のNメチルピロリドン(NMP)5wt%溶液を人造黒鉛:ポリフッ化ビニリデン=93:7の割合になるように混合し、スラリー状の塗料を作製した。塗料を集電体である銅箔に塗布し、乾燥、圧延することによって負極を作製した。
正極と、負極とを、それらの間にポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを挟んで積層し、積層体(素体)を得た。この積層体を、アルミラミネートパックに入れた。
電解質溶液はエチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)を体積比3:7で混合し、支持塩としてLiPFを1.0mol/Lになるよう溶解した。
積層体を入れたアルミラミネートパックに、上記電解質溶液を注入した後、真空シールし、実施例1の評価用セルを作製した。
【0046】
(実施例2〜5、11、12、15、21〜26および比較例1〜2)
プレス条件を調整することにより電極密度、電極BET比表面積を変更し、電極の乾燥条件を調整することにより細孔体積を変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例2〜5、11、12、15、21〜26および比較例1〜2の評価用セルを作製した。
【0047】
(実施例9、10、17〜20)
塗布条件の変更により正極活物質担持量を変更し、プレス条件を調整することにより電極密度、電極BET比表面積を変更し、電極の乾燥条件を調整することにより細孔体積を変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、実施例9、10、17〜20の評価用セルを作製した。
【0048】
(実施例6〜8、27、28)
リチウム塩濃度を変更したこと以外は実施例4または実施例9と同様の方法で、実施例6〜8、27、28の評価用セルを作製した。
【0049】
(実施例13)
正極活物質としてLi(POを用い、電極BET比表面積、細孔体積を変更したこと以外は実施例4と同様の方法で、実施例13の評価用セルを作製した。
【0050】
(実施例14)
正極活物質としてLiVPOFを用い、電極BET比表面積、細孔体積を変更したこと以外は実施例4と同様の方法で、実施例14の評価用セルを作製した。
【0051】
(実施例29)
負極として人造黒鉛(BTR社製FSN)とシリコン粉末(アルドリッチ製)とポリフッ化ビニリデン(PVdF)のNメチルピロリドン(NMP)5wt%溶液を人造黒鉛:シリコン粉末:ポリフッ化ビニリデン=84:9:7の割合になるように混合し、スラリー状の塗料を作製した。塗料を集電体である銅箔に塗布し、乾燥、圧延することによって負極を作製した。上記方法により作製した負極を用いたこと以外は実施例4と同様の方法で、実施例29の評価用セルを作製した。
【0052】
(実施例30)
負極として人造黒鉛(BTR社製FSN)とシリコン粉末(アルドリッチ製)とポリフッ化ビニリデン(PVdF)のNメチルピロリドン(NMP)5wt%溶液を人造黒鉛:シリコン粉末:ポリフッ化ビニリデン=75:18:7の割合になるように混合し、スラリー状の塗料を作製した。塗料を集電体である銅箔に塗布し、乾燥、圧延することによって負極を作製した。上記方法により作製した負極を用いたこと以外は実施例4と同様の方法で、実施例30の評価用セルを作製した。
【0053】
(実施例31)
負極として酸化シリコン粉末SiOとポリアミドイミド(PAI)のNメチルピロリドン(NMP)20wt%溶液をSiO:PAI=85:15の割合になるように混合し、スラリー状の塗料を作製した。塗料を集電体である銅箔に塗布し、乾燥、圧延することによって負極を作製した。上記方法により作製した負極を用いたこと以外は実施例4と同様の方法で、実施例31の評価用セルを作製した。
【0054】
(実施例32〜35)
プレス条件を調整することにより電極密度、電極BET比表面積を変更し、電極の乾燥条件を調整することにより細孔体積を変更したこと以外は実施例13と同様の方法で、実施例32〜35の評価用セルを作製した。
【0055】
[レート特性の評価]
実施例1のレート特性(単位:%)をそれぞれ求めた。なお、レート特性とは、0.1Cでの放電容量を100%とした場合の1Cでの放電容量の比率である。結果を表1に示す。レート特性は大きいほど好ましい。
【0056】
表1の実施例1〜5、22〜26および比較例1、2の結果から正極の電極密度が1.8〜2.9g/cmであり、正極の電極としてのBET比表面積が5〜20m/gである場合にレート特性が優れていることがわかる。実施例6〜8、16、27、28、比較例3、4の結果から、リチウム塩の塩濃度が1.1〜1.7mol/Lである場合にさらに優れた特性を示すことがわかる。実施例9、10、17〜20の結果から電極活物質担持量が4〜21mg/cmの場合に優れたレート特性を示すことがわかる。
【0057】
【表1】


【符号の説明】
【0058】
10・・・正極,20・・・負極、12・・・正極集電体、14・・・正極活物質層、18・・・セパレータ、22・・・負極集電体、24・・・負極活物質層、30・・・積層体、50・・・ケース、60,62・・・リード、100・・・リチウムイオン二次電池。
図1