(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6020596
(24)【登録日】2016年10月14日
(45)【発行日】2016年11月2日
(54)【発明の名称】プレス部品の製造方法およびプレス部品の製造装置
(51)【国際特許分類】
B21D 22/26 20060101AFI20161020BHJP
B21D 22/20 20060101ALI20161020BHJP
B21D 24/00 20060101ALI20161020BHJP
B21D 24/04 20060101ALI20161020BHJP
【FI】
B21D22/26 D
B21D22/20 E
B21D24/00 H
B21D24/04 D
【請求項の数】10
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-555449(P2014-555449)
(86)(22)【出願日】2013年12月20日
(86)【国際出願番号】JP2013084299
(87)【国際公開番号】WO2014106932
(87)【国際公開日】20140710
【審査請求日】2015年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-547(P2013-547)
(32)【優先日】2013年1月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 康治
(72)【発明者】
【氏名】麻生 敏光
(72)【発明者】
【氏名】宮城 隆司
(72)【発明者】
【氏名】小川 操
(72)【発明者】
【氏名】河野 一之
(72)【発明者】
【氏名】大岡 数則
(72)【発明者】
【氏名】山本 忍
【審査官】
石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/145679(WO,A1)
【文献】
特開2010−115674(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/070623(WO,A1)
【文献】
特開2012−245536(JP,A)
【文献】
実開昭60−103518(JP,U)
【文献】
特開2006−015404(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/26
B21D 22/20
B21D 24/00
B21D 24/04
B21D 22/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材金属板にプレス加工を行うことにより、天板部と、該天板の両側につながる2つの縦壁と、該2つの縦壁それぞれにつながる2つのフランジとにより構成されるハット形状の断面を有するとともに平面視で長手方向へ湾曲する湾曲部を有することによりL字状ハット断面形状を有するプレス部品、もしくは、該L字状ハット断面形状をその一部に有するプレス部品に成形するプレス部品の製造方法であって、
パンチおよびブランクホルダーと、パッド、ダイおよび曲げ型との間に素材金属板を配置し、
該素材金属板における前記天板部に成形される部分を前記パッドにより前記パンチに押し付けて挟持し、さらに、前記素材金属板における前記天板部に成形される部分より前記湾曲部の外側になる部分を前記ブランクホルダーで該ダイに押し付けて挟持し、
前記曲げ型を前記パンチが配置されている方向へ相対的に移動して前記素材金属板を加工することにより、前記湾曲部の内周側の縦壁と、該縦壁につながるフランジ部とを成形した後に、
前記素材金属板を該ブランクホルダーで該ダイに押し付けて挟持する状態を維持しながら、前記ダイと前記ブランクホルダーを該素材金属板に対して該ブランクホルダーが配置されている方向へ相対的に移動して前記素材金属板を加工することにより、前記湾曲部の外周側の縦壁と該縦壁につながるフランジ部を成形することによって、前記プレス部分を成形すること
を特徴とするプレス部品の製造方法。
【請求項2】
前記パンチは、前記天板部、前記湾曲部の内周側に位置する縦壁および該縦壁につながる前記フランジ部それぞれの板厚裏面側の形状を含む形状を有し、前記ブランクホルダーは、前記湾曲部の外周側に位置する縦壁につながるフランジ部の板厚裏面側の形状を含む形状を有し、前記パッドは、該ブランクホルダーに対向するように前記天板部の板厚表面側の形状を含む形状を有し、前記ダイは、前記湾曲部の外周側に位置する縦壁、および該縦壁につながるフランジ部それぞれの板厚表面側の形状を含む形状を有するとともに、前記曲げ型は、前記湾曲部の内周側に位置する縦壁、および該縦壁につながるフランジ部それぞれの板厚表面側の形状を含む形状を有することを特徴とする請求項1に記載されたプレス部品の製造方法。
【請求項3】
前記素材金属板は、予加工された金属板である請求項1または請求項2に記載されたプレス部品の製造方法。
【請求項4】
前記プレス部品の成形後に、前記ブランクホルダーを前記パンチに対して相対的に動かないように固定して、前記ブランクホルダーが成形された該プレス部品を前記ダイに押し付け加圧しないようにして、前記ブランクホルダーと前記パンチに対し、前記パッドと前記ダイおよび前記曲げ型とを相対的に離すことにより前記プレス部品を金型の中から取り出すことを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたプレス部品の製造方法。
【請求項5】
前記素材金属板は、板厚が0.8mm以上でかつ3.2mm以下で、さらに引張強度が590MPa以上で1800MPa以下の高張力鋼板であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載されたプレス部品の製造方法。
【請求項6】
平面視で前記天板部の幅は30mm以上400mm以下であり、側面視で前記縦壁の高さは300mm以下であるとともに、平面視で前記湾曲部の内周側の曲率は5mm以上であること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載されたプレス部品の製造方法。
【請求項7】
パンチおよびブランクホルダーと、該パンチおよびブランクホルダーに対向して配置されるパッド、ダイおよび曲げ型とを備え、素材金属板にプレス加工を行って、天板部と、該天板の両側につながる2つの縦壁と、該2つの縦壁それぞれにつながる2つのフランジとにより構成されるハット形状の断面を有するとともに平面視で長手方向へ湾曲する湾曲部を有することによりL字状ハット断面形状を有するプレス部品、もしくは、該L字状ハット断面形状をその一部に有するプレス部品に成形するプレス部品の製造装置であって、
前記パッドは、前記素材金属板における前記天板部に成形される部分を前記パンチに押し付けて挟持し、さらに、前記ブランクホルダーは、前記素材金属板における前記天板部に成形される部分より前記湾曲部の外側になる部分を前記ダイに押し付けて挟持し、前記曲げ型が前記パンチが配置されている方向へ相対的に移動して前記素材金属板を加工することにより、前記湾曲部の内周側の縦壁と、該縦壁につながるフランジ部とを成形する第1の成形を行うこと、および、
該第1の成形を行った後に、前記ブランクホルダーが前記素材金属板を前記ダイに押し付けて挟持する状態を維持しながら、前記ダイと前記ブランクホルダーが該素材金属板に対して該ブランクホルダーが配置されている方向へ相対的に移動して前記素材金属板を加工することにより、前記湾曲部の外周側の縦壁と該縦壁につながるフランジ部を成形する第2の成形を行うことによって、前記プレス部品を成形すること
を特徴とするプレス部品の製造装置。
【請求項8】
成形完了後の離型時に、前記ブランクホルダーを前記パンチに対して相対的に動かないように固定するロック機構を備えることを特徴とする請求項7に記載されたプレス部品の製造装置。
【請求項9】
前記パッドおよび前記ダイを昇降自在に支持するとともに前記曲げ型と一体に構成されるサブベースと、該サブベースを出入り自在に支持するダイベースとを有する請求項7または請求項8に記載されたプレス部品の製造装置。
【請求項10】
前記ダイを昇降自在に支持するとともに前記曲げ型と一体に構成されるサブベースと、前記パッドを昇降自在に支持するとともに前記サブベースを出入り自在に支持するダイベースとを有する請求項7または請求項8に記載されたプレス部品の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハット断面を有するとともに長手方向に平面視でL字状に湾曲したプレス部品とその製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体の骨格構造は、金属板(以降の説明では素材金属板が鋼板である場合を例にとる)をプレス成形した複数の骨格部材により構成される。これらの骨格部品は、自動車の衝突安全を確保するために極めて重要な部品である。骨格部材としてサイドシル、クロスメンバー、フロントピラー等が知られる。
【0003】
骨格部材は、天板部と、天板部の両側につながる2つの縦壁と、2つの縦壁にそれぞれつながる2つのフランジ部とからなるハット断面形状を有する。骨格部材の多くは、その一部または全部にこのハット断面形状を有する。骨格部材には、衝突安全性能の向上および車体の軽量化を図るため、高強度化が望まれる。
【0004】
図19は、ハット断面を有するとともに平面視および側面視で長手方向に真っ直ぐな形状を有する骨格部材0の一例の斜視図である。
図20は、ハット断面を有する骨格部材の一例であるフロントピラー0−1の説明図であり、
図20(a)は斜視図、
図20(b)は平面図である。さらに、
図21は、ハット断面を有するとともに長手方向に平面視でL字状に湾曲した形状を有する部品1を示す斜視図である。なお、本明細書において「平面視で」とは、部材における最も広い平面状の部分である天板部に直交する方向(
図20(a)においては白抜き矢印方向であり、
図20(b)においては紙面に直交する方向である)から骨格部材0−1を見ることを意味する。
【0005】
ハット断面を有する骨格部材のうちサイドシル等の骨格部材0は、
図19に例示するように、長手方向に略真っ直ぐな形状を有する。これに対し、フロントピラー0−1は、
図20(a)、
図20(b)に示すような形状を有する。すなわち、フロントピラー0−1は、その下部0−2側に、
図21に示す、ハット断面を有するとともに長手方向に平面視でL字状に湾曲した形状を含む。
【0006】
これらの部品のうち骨格部材0は、長手方向に略真っ直ぐな形状を有するため、主として曲げ成形により製造される。骨格部材0は、断面の周長が長手方向について大きく変化しないため、伸び性が低い高強度鋼板からなってもプレス加工時に割れやしわが発生し難く、成形が容易である。
【0007】
例えば特許文献1には、ハット断面を有するプレス部品を曲げ成形する方法が開示される。特許文献1により開示された方法は、ハット断面を有するものの長手方向に略真っ直ぐな形状を有するプレス部品を製造する。
【0008】
図22は、曲げ成形により製造された、ハット断面を有するとともに長手方向にL字状に湾曲した形状を有するプレス部品1を示す斜視図である。
【0009】
特許文献1により開示された方法により
図21に示すハット断面を有するとともに長手方向にL字状に湾曲した部品1を曲げ成形すると、
図22に示すように、屈曲部1aの外側のフランジ部(A部)にしわが発生する。このため、部品1は、一般的に絞り成形のプレス加工により成形される。絞り成形では、素材金属板の流入量を制御してしわの発生を抑えるために、ダイ、パンチおよびブランクホルダーを用いて素材鋼板を成形する。
【0010】
図23は、成形しようとする長手方向にL字状に湾曲した部品2を示す説明図であり、
図23(a)は斜視図、
図23(b)は上面視図である。
図24は、絞り成形の場合の素材鋼板3の形状と素材鋼板3の中のしわ押さえ領域Bを示す平面図である。
図25(a)〜
図25(d)は、絞り成形のための金型構造と絞り成形の過程を示す断面図である。さらに、
図26は、絞り成形された絞りパネル5の斜視図である。
【0011】
例えば、
図23に示す、長手方向に平面視でL字状に湾曲した部品2を絞り成形により成形するためには、
図25(a)〜
図25(d)に示すように、ダイ41、パンチ42およびブランクホルダー43を用いて成形する。
【0012】
先ず、
図25(a)に示すように、
図24に示す素材鋼板3をパンチ42およびブランクホルダー43とダイ41との間に配置する。次に、
図25(b)に示すように、素材鋼板3の周囲のしわ押さえ領域B(
図24のハッチング部)をブランクホルダー43とダイ41により強く押さえる。次に、
図25(c)に示すように、ダイ41を相対的にパンチ42の方向へ移動させる。そして、
図25(d)に示すように、最終的にダイ41で素材鋼板3をパンチ42に押し付けて素材鋼板3を加工することにより、
図26に示す絞りパネル5に成形する。
【0013】
この際に、素材鋼板3の周囲のしわ押さえ領域Bは、ブランクホルダー43とダイ41により強く押さえられている。このため、成形の過程で素材鋼板3における、しわ押さえ領域の内側の領域には、張力が負荷された状態で素材鋼板3が伸ばされる。このため、しわの発生を抑制しながら成形することが可能になる。成形された絞りパネル5は、その周囲の不要な部分を切り落とされ、
図23(a)および
図23(b)に示す部品2が製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2006−015404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従来は、プレス部品1のこのような形状は、上述したように絞り成形によりプレス成形されて、素材鋼板を
図26に示す絞りパネル5に成形し、絞りパネル5の周囲の不要な部分をトリムして除去することにより、製造する。
【0016】
この絞り成形法では、長手方向に平面視でL字状に湾曲した部品2が有するような複雑な形状を成形できる。しかし、
図24に示すように、素材鋼板3の周囲に大きなしわ押さえ領域が必要となる。このため、素材鋼板3を絞りパネルに成形した後に、不要な部分としてトリムして除去する部分が多くなり、材料の歩留まりが低下して製造コストが上昇する。
【0017】
また、この絞りパネル5を成形する過程では、
図23(a)に示す縦壁22,24は同時に成形される。このため、成形の過程で天板部21に成形される部分の素材鋼板3があまり動かず、
図25(b)〜
図25(d)に示すように天板部21の両側から材料が流入して縦壁22,24が成形される。特に、絞りパネル5における平面視でL字状に湾曲する湾曲部5aの内側のフランジ部(
図26のD部)は、いわゆる伸びフランジ成形と呼ばれる成形状態になり、伸び性の低い高強度鋼板では割れが発生する。特に引張強度が590MPa以上の高強度鋼板は延びが少ないため、D部での割れを発生させずに加工することは困難である。
【0018】
一方、湾曲部2aの外側の縦壁22と天板部21とが会合する角部(
図26のC部)は、大きく張り出した形状であるので、素材鋼板3が大きく伸ばされるため、やはり伸び性の低い高強度鋼板では割れが発生する。
【0019】
より詳しく説明する。
図27は、絞り成形における材料の流れを説明する平面図である。
【0020】
絞りパネル5を成形する際には、湾曲部1aの外周側,内周側の縦壁12,14を同時に成形するため、天板部11に成形される部分の素材鋼板はあまり動かず、
図27に示すように、天板部11の両側から材料が流入することにより成形される。
【0021】
特に、湾曲部1aの内周側に成形される部分(
図26,27のD部)の素材鋼板3は、湾曲部1aの曲率の内側から外側に移動し、湾曲部1aの半径方向には大きく伸ばされ、いわゆる伸びフランジ成形と呼ばれる成形状態になる。このため、伸び性の低い高強度鋼板では割れが発生する。
【0022】
一方、
図26のC部は、湾曲部1aの外周側の角部で大きく張り出した形状を有するので、素材鋼板が大きく伸ばされ、D部と同様に、伸び性の低い高強度鋼板では割れが発生する。
【0023】
このため、従来は、長手方向のL字状に湾曲した部品には、伸び性の低い高強度鋼板、特に引張強度が590MPa以上の高強度鋼板からなる素材鋼板3を用いることは難しく、伸び性に優れた比較的低強度の鋼板を素材鋼板3として用いていた。このため、所定の強度を確保するために板厚を増加する必要があり、車体の軽量化の要請に反していた。
【0024】
本発明の目的は、引張強度が200〜1600MPaの素材金属板、特に引張強度が590MPa以上の高強度鋼板からなる素材金属板にプレス成形を行って、ハット断面を有するとともに平面視で長手方向へ湾曲する湾曲部を有することによりL字状ハット断面形状を有するプレス部品を、しわや割れを発生させることなくかつ歩留まり良く、製造することができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、以下に列記の通りである。
(1)素材金属板にプレス加工を行うことにより、天板部と、該天板の両側につながる2つの縦壁と、該2つの縦壁それぞれにつながる2つのフランジとにより構成されるハット形状の断面を有するとともに平面視で長手方向へ湾曲する屈曲部を有することによりL字状ハット断面形状を有するプレス部品、もしくは、該L字状ハット断面形状をその一部に有するプレス部品に成形するプレス部品の製造方法であって、
パンチおよびブランクホルダーと、パッド、ダイおよび曲げ型との間に素材金属板を配置し、
該素材金属板における前記天板部に成形される部分を前記パッドにより前記パンチに押し付けて挟持し、さらに、前記素材金属板における前記天板部に成形される部分より前記湾曲部の外側になる部分を前記ブランクホルダーで該ダイに押し付けて挟持し、
前記曲げ型を前記パンチが配置されている方向へ相対的に移動して前記素材金属板を加工することにより、前記湾曲部の内周側の縦壁と、該縦壁につながるフランジ部とを成形した後に、
前記素材金属板を該ブランクホルダーで該ダイに押し付けて挟持する状態を維持しながら、前記ダイと前記ブランクホルダーを該素材金属板に対して該ブランクホルダーが配置されている方向へ相対的に移動して前記素材金属板を加工することにより、前記湾曲部の外周側の縦壁と該縦壁につながるフランジ部を成形することによって、前記プレス部品を成形すること
を特徴とするプレス部品の製造方法。
【0026】
すなわち、この本発明では、素材金属板における天板部に成形される部分をパッドによりパンチに押し付けて挟持し、さらに、素材金属板における天板部に成形される部分よりL字状の湾曲部の外側になる部分をブランクホルダーでダイに押し付けて挟持しながら、曲げ型をパンチが配置されている方向へ移動して湾曲部の内周側の縦壁およびフランジ部を成形した後に、素材金属板をブランクホルダーでダイに押し付けて挟持する状態を維持しながら、ダイとブランクホルダーを素材金属板に対してブランクホルダーが配置されている方向へ移動して湾曲部の外周側の縦壁およびフランジ部を成形する。
【0027】
この際、湾曲部の内周側の縦壁およびフランジ部を成形する過程では、湾曲部の外周側の縦壁およびフランジは成形されないため、成形中の素材金属板は湾曲部の内周側からのみ引っ張られることになり、素材金属板における天板部に成形される部分は湾曲部の内周側に流入する。そのため、絞り成形の場合と異なり、素材金属板における湾曲部の内周側に成形される部分は、成形の過程で湾曲部の曲率の内周側から外周側にあまり大きく移動しない。さらに、素材金属板における長手方向の先端が湾曲部の内周側に流入することにより素材金属板が全体が曲げられ、湾曲部の内周側のフランジ部では圧縮傾向になるため、成形時の湾曲部の内周側のフランジ部の伸び量は、絞り成形に比べて、大幅に低減される。
【0028】
また、湾曲部の内周側の縦壁部およびフランジ部の成形過程で、天板部と外周側のフランジ部も湾曲部の内側方向に流入するので、圧縮応力が残った状態になる。したがって、湾曲部の外周側の縦壁およびフランジ部を成形する過程で材料が大きく伸ばされる、湾曲部の外周側の縦壁と天板部との会合部である角部も、圧縮応力が残った状態から張り出した形状に成形されことになるため、圧縮応力のない状態から成形される絞り成形の場合に比べて、必要とされる材料の伸び性が小さくなる。
【0029】
このため、従来技術である絞り成形を行った場合に素材金属板が大きく伸ばされて、高強度の金属板(例えば引張強度が590MPa以上の高張力鋼板)を使用した場合に割れが発生する湾曲部の内周側のフランジ部、および湾曲部の外周側の縦壁と天板部との会合部である角部における素材金属板の伸びを小さくすることが可能になるので、伸び性の低い高強度の金属板を使用しても割れなく成形することが可能になる。
【0030】
さらに、湾曲部の内周側の縦壁およびフランジ部は、曲げ型により曲げ成形されるので、湾曲部の内周側の部分や長手方向の先端部分については、絞り成形持に必要であったしわ押さえ領域が不要になるのでその分素材金属板を小さくでき、成形後にトリムして除去する部分を減らすことができ、高い材料歩留まりでの成形も可能になる。
(2)前記パンチは、前記天板部、前記縦壁、および前記L字状の湾曲部の内周側に位置する縦壁につながる前記フランジ部それぞれの板厚裏面側の形状を含む形状を有し、前記ブランクホルダーは、前記湾曲部の外周側に位置する縦壁につながるフランジ部の板厚裏面側の形状を含む形状を有し、前記パッドは、該ブランクホルダーに対向するように前記天板部の板厚表面側の形状を含む形状を有し、前記ダイは、前記湾曲部の外周側に位置する縦壁、および該縦壁につながるフランジ部それぞれの板厚表面側の形状を含む形状を有するとともに、前記曲げ型は、前記湾曲部の内周側に位置する縦壁、および該縦壁につながるフランジ部それぞれの板厚表面側の形状を含む形状を有することを特徴とする(1)項に記載されたプレス部品の製造方法。
(3)前記素材金属板は、予加工された金属板である(1)項または(2)項に記載されたプレス部品の製造方法。
(4)前記プレス部品の成形後に、前記ブランクホルダーを前記パンチに対して相対的に動かないように固定して、前記ブランクホルダーが成形された該プレス部品を前記ダイに押し付け加圧しないようにして、前記ブランクホルダーと前記パンチに対し、前記パッドと前記ダイおよび前記曲げ型とを相対的に離すことにより前記プレス部品を金型の中から取り出すことを特徴とする(1)項から(3)項までのいずれか1項に記載されたプレス部品の製造方法。
(5)前記素材金属板は、板厚が0.8mm以上でかつ3.2mm以下で、さらに引張強度が590MPa以上で1800MPa以下の高張力鋼板であることを特徴とする(1)項から(4)項までのいずれか1項に記載されたプレス部品の製造方法。
(6)平面視で前記天板部の幅は30mm以上400mm以下であり、側面視で前記縦壁の高さは300mm以下であるとともに、平面視で前記湾曲部の内周側の曲率は5mm以上であることを特徴とする(1)項から(5)項までのいずれか1項に記載されたプレス部品の製造方法。
(7)パンチおよびブランクホルダーと、該パンチおよびブランクホルダーに対向して配置されるパッド、ダイおよび曲げ型とを備え、素材金属板にプレス加工を行って、天板部と、該天板の両側につながる2つの縦壁と、該2つの縦壁それぞれにつながる2つのフランジとにより構成されるハット形状の断面を有するとともに平面視で長手方向へ湾曲する湾曲部を有することによりL字状ハット断面形状を有するプレス部品、もしくは、該L字状ハット断面形状をその一部に有するプレス部品に成形するプレス部品の製造装置であって、
前記パッドは、前記素材金属板における前記天板部に成形される部分を前記パンチに押し付けて挟持し、さらに、前記ブランクホルダーは、前記素材金属板における前記天板部に成形される部分より前記湾曲部の外側になる部分を前記ダイに押し付けて挟持し、前記曲げ型が前記パンチが配置されている方向へ相対的に移動して前記素材金属板を加工することにより、前記湾曲部の内周側の縦壁と、該縦壁につながるフランジ部とを成形する第1の成形を行うこと、および、
該第1の成形を行った後に、前記ブランクホルダーが前記素材金属板を前記ダイに押し付けて挟持する状態を維持しながら、前記ダイと前記ブランクホルダーが該素材金属板に対して該ブランクホルダーが配置されている方向へ相対的に移動して前記素材金属板を加工することにより、前記湾曲部の外周側の縦壁と該縦壁につながるフランジ部を成形する第2の成形を行うことによって、前記プレス部品を成形すること
を特徴とするプレス部品の製造装置。
(8)成形完了後の離型時に、前記ブランクホルダーを前記パンチに対して相対的に動かないように固定するロック機構を備えることを特徴とする(7)項に記載されたプレス部品の製造装置。
(9)前記パッドおよび前記ダイを昇降自在に支持するとともに前記曲げ型と一体に構成されるサブベースと、該サブベースを出入り自在に支持するダイベースとを有する(7)項または(8)項に記載されたプレス部品の製造装置。
(10)前記ダイを昇降自在に支持するとともに前記曲げ型と一体に構成されるサブベースと、前記パッドを昇降自在に支持するとともに前記サブベースを出入り自在に支持するダイベースとを有する(7)項または(8)項に記載されたプレス部品の製造装置
。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、引張強度が200〜1600MPaの素材金属板、特に引張強度が590MPa以上の高強度材からなる素材金属板にプレス成形を行って、ハット断面を有するとともに平面視で長手方向にL字状に湾曲したプレス部品を、しわや割れを発生させることなくかつ歩留まり良く、製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】
図1(a)〜
図1(e)は、本発明に係る金型構成と成形工程を示す断面図である。
【
図2】
図2(a)〜
図2(e)は、本発明に係る他の金型構成と成形工程を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は、素材金属板の成形前の形状を示す平面図であり、
図3(b)は素材金属板の成形過程での形状を示す平面図である。
【
図4】
図4は、本発明における材料の流れを示す平面図である。
【
図5】
図5(a)〜
図5(d)は、本発明で用いる金型の一例を示す説明図である。
【
図6】
図6(a)〜
図6(d)は、本発明で用いる金型の他の一例を示す説明図である。
【
図7】
図7(a)〜
図7(d)は、本発明で用いる金型の他の一例を示す説明図である。
【
図9】
図9(a)〜
図9(c)は、比較例1〜3と実施例1〜3において成形するプレス部品1を示す、それぞれ正面図、平面図、右側面図である。
【
図10】
図10は、比較例1〜3で用いた素材金属板の形状を示す平面図である。
【
図11】
図11は、実施例1〜3で用いた素材金属板の形状を示す平面図である。
【
図12】
図12は、実施例1〜3で用いた金型の構成を示す斜視図である。
【
図13】
図13(a)は、実施例4で用いた素材金属板の形状を示す平面図であり、
図13(b)は、プレス成形品の斜視図である。
【
図14】
図14(a)は、実施例5で用いた素材金属板の形状を示す平面図であり、
図14(b)は、プレス成形品の斜視図である。
【
図15】
図15は、実施例6で用いた素材金属板の形状を示す平面図である。
【
図16】
図16(a)〜
図16(c)は、実施例6で成形した中間形状を示す、それぞれ、正面図、平面図、右側面図である。
【
図17】
図17(a)〜
図17(c)は、実施例6で成形したプレス部品の形状を示す、それぞれ、正面図、平面図、右側面図である。
【
図18】
図18は、実施例6で本発明により成形を行うための金型構成を示す斜視図である。
【
図19】
図19は、ハット断面を有するとともに平面視および側面視で長手方向に真っ直ぐな形状を有する骨格部材の一例の斜視図である。
【
図20】
図20は、ハット断面を有する骨格部材であるフロントピラーの説明図であり、
図20(a)は斜視図、
図20(b)は平面図である。
【
図21】
図21は、ハット断面を有するとともに平面視で長手方向にL字状に湾曲した形状である部品を示す斜視図である。
【
図22】
図22は、ハット断面を有するとともに長手方向にL字状に湾曲した形状を有するプレス部品を曲げ成形により製造した状態を示す斜視図である。
【
図23】
図23は、成形しようとする長手方向にL字状に湾曲した部品を示す説明図であり、
図23(a)は斜視図、
図23(b)は上面視図である。
【
図24】
図24は、絞り成形の場合の素材金属板の形状と素材金属板の中のしわ押さえ領域を示す平面図である。
【
図25】
図25(a)〜
図25(d)は、絞り成形のための金型構造と絞り成形の過程を示す断面図である。
【
図26】
図26は、絞り成形された絞りパネルの斜視図である。
【
図27】
図27は、絞り成形における材料の流れを説明する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係るプレス部品とその製造方法および製造装置を、順次説明する。
1.プレス部品1
上述した
図21にその形状を例示するように、プレス部品1は、ハット断面を有するとともに平面視で長手方向へL字状に湾曲した湾曲部1aを有する。
【0034】
プレス部品1は、天板部11と、天板部11の両側につながる縦壁12,14と、縦壁12,14にそれぞれつながるフランジ部13,15とにより構成されるハット形状の断面を有するとともに、長手方向(
図3における両矢印方向)へ湾曲部1aにより湾曲することにより平面視でL字状の形状を有する。
【0035】
また、プレス部品1は、自動車用の骨格部材で一般的に使われる、板厚が0.8mm以上でかつ3.2mm以下で、さらに引張強度が590MPa以上で1800MPa以下の高張力鋼板からなる素材金属板により、構成される。自動車用の骨格部材としての強度などの性能を確保するためには、素材金属板は引張強度が200MPa以上で1800MPa以下であることが好ましいが、引張強度が500MPa以上、さらには590MPa以上であると板厚を薄くすることができ、部品を軽量化できるのでより好ましく、さらに、700MPa以上であることが最も好ましい。
【0036】
この高張力鋼板を用いる場合、平面視で天板部11の幅が広過ぎると、湾曲部1aの内周側の縦壁14およびフランジ部15を成形する際に、素材金属板の流入抵抗が大きくなり、素材金属板の湾曲部1aの内周側への流入が不十分になる。このため、天板部11の幅は400mm以下にすることが望ましい。一方、天板部11の幅が狭過ぎると、ガスクッション等のパッドの加圧装置を小さくしなければならないために十分なパッドの加圧力を確保できなくなる。このため、天板部11の幅は30mm以上であることが望ましい。
【0037】
さらに、側面視で縦壁12,14の高さが高過ぎると、湾曲部1aの内周側の縦壁14およびフランジ部15を成形する際に、素材金属板の流入抵抗が大きくなり、素材金属板の湾曲部1aの内周側への流入が不十分になる。このため、縦壁12,14の高さが300mm以下であることが望ましい。
【0038】
また、平面視で湾曲部1aの内周側の曲率が小さ過ぎると、湾曲部1aの内周側のフランジ部15を成形する際に、素材金属板の湾曲部1aの内周側への流入が不十分になるので、平面視で湾曲部1aの内周側の縦壁14の曲率は5mm以上であることが望ましい。
【0039】
このように、平面視で天板部11の幅は30mm以上400mm以下であり、側面視で縦壁12,14の高さは300mm以下であるとともに、平面視で湾曲部1aの内周側の曲率は5mm以上であることが、それぞれ好ましい。
【0040】
さらに、プレス部品1の板厚の減少率:{(板厚最大値−板厚最小値)/板厚最大値}×100は、15%以下である。このように低い板厚減少率を有するプレス部品1は、これまで存在しない。自動車車体の構造部材であるプレス部品1の板厚減少率がこのように低いことから、優れた衝突安全性能を有するとともに、引張強度が590MPa以上で1800MPa以下の高張力鋼板により構成されるために車体の軽量化を図ることができる。
【0041】
2.プレス部品の製造方法および製造装置
図1(a)〜
図1(e)は、本発明に係る金型構成と成形工程を示す断面図である。
【0042】
本発明では、素材金属板にプレス成形を行ってプレス部品1を成形するために、
図1(a)〜
図1(e)に示す金型を用いる。
【0043】
この金型は、パンチ72およびブランクホルダー73と、パンチ72およびブランクホルダー73に対向して配置されるパッド74、ダイ71および曲げ型75と備える。
【0044】
パンチ72は、プレス部品1の天板部11、湾曲部1aの内周側に位置する縦壁14およびフランジ部15それぞれの板厚裏面側の形状を含む形状を有する。
【0045】
ブランクホルダー73は、湾曲部1aの外周側に位置する縦壁12につながるフランジ部13の板厚裏面側の形状を含む形状を有する。
【0046】
パッド74は、ブランクホルダー73に対向するように天板部11の板厚表面側の形状を含む形状を有する。
【0047】
ダイ71は、湾曲部1aの外周側に位置する縦壁12およびフランジ部13それぞれの板厚表面側の形状を含む形状を有する。
【0048】
さらに、曲げ型75は、湾曲部1aの内周側に位置する縦壁14およびフランジ部15それぞれの板厚表面側の形状を含む形状を有する。
【0049】
図2(a)〜
図2(e)は、本発明に係る他の金型構成と成形工程を示す断面図である。
【0050】
図1に示す金型との違いは、パンチ72に後述するロック機構76が装着されている点と、曲げ型75がサブベース(図示しない)に装着されている点である。
【0051】
ロック機構76は、パンチ72に対して出入り自在に配置されたピンにより構成される。ロック機構76は、成形開始から成形下死点まで(
図2(a)〜
図2(d))はパンチ72に完全に収容されており、成形下死点においてブランクホルダー73側へ出てブランクホルダー73をパンチ72に固定する。ロック機構76は、離型時にブランクホルダー73をパンチ72に固定した状態でダイ75、パッド74およびサブベースを上昇させて離型することにより、成形されたプレス部品1がパット圧により損傷することを防ぐ。
【0052】
ロック機構76として、パッド74とサブベース(曲げ型75)およびダイ75(絞り型)との位置関係を固定(保持)して離型する機構を用いてもよい。例えば、(a)パッド74をサブベースと固定し、また同時にダイ75(絞り型)をパッド74またはサブベースと固定して離型するようにしてもよいし、(b)スぺーサーを挿入することによりブランクホルダー73とパッド74との間隔を固定して離型してもよいし、(c)パッド74と曲げ型75の位置関係を固定(保持)して離型するようにしてもよい。サブベースは後述する。
【0053】
これらの金型を用いて素材金属板をプレス部品1に成形する。
図3(a)は、素材金属板8の成形前の形状を示す平面図であり、
図3(b)は素材金属板8の成形過程での形状を示す平面図である。さらに、
図4は、本発明における材料の流れを示す平面図である。
【0054】
まず、
図1(a)に示すように、
図3(a)に示す形状を有する素材金属板8を、パンチ72およびブランクホルダー73と、パッド74およびダイ71および曲げ型75との間に配置する。
【0055】
次に、
図1(b)に示すように、素材金属板8における天板部11に成形される部分をパッド74によりパンチ72に押し付けて加圧、挟持するとともに、素材金属板8における天板部11に成形される部分より湾曲部1aの外側になる部分をブランクホルダー73によりダイ71に押し付けて加圧、挟持する。
【0056】
次に、そして
図1(c)に示すように、曲げ型75をパンチ72が配置されている方向に相対的に動かして、素材金属板8を加工して湾曲部1aの内周側の縦壁部14およびフランジ部15を成形することにより、素材金属板8を
図3(b)に示す形状に成形する。
【0057】
このとき、素材金属板8は湾曲部1aの内側のみから引っ張れるため、パンチ72およびブランクホルダー73とパッド74およびダイ71に挟持される部分も湾曲部1aの内周側に流入して成形される。
【0058】
このため、湾曲部1aの外側と内側の両方から引っ張られる絞り成形の場合(
図27参照)とは異なり、
図4に示すように、湾曲部1aの内周側のフランジ部(D部)では、素材金属板8は、成形の過程で湾曲部1aの曲率の内側から外側にあまり大きく移動せず、さらに、素材金属板8の長手方向の先端が湾曲部1aの内周側に流入することにより素材金属板8の全体が曲げられる。そして、その曲げの内側になる湾曲部1aの内側のフランジ部15(D部)は圧縮傾向になる。このため、成形時における湾曲部1aの内周側のフランジ部15(D部)の伸び量は、絞り成形に比べて大幅に低減する。
【0059】
さらに、
図1(d)に示すように、湾曲部1aの内側の縦壁部14とフランジ部15の成形が終わった後に、素材金属板8をブランクホルダー73でダイ71に押し付けて加圧、挟持する状態を維持しながら、ダイ71およびブランクホルダー73を素材金属板8に対してブランクホルダー73が配置されている方向に相対的に動かして、素材金属板8を加工して湾曲部1aの外周側の縦壁12およびフランジ部13を成形する。このようにして、
図3に示すプレス部品1を成形する。
【0060】
このとき、湾曲部1aの内周側の縦壁部14およびフランジ部15の成形過程では、天板部11に成形される部分とフランジ部15も湾曲部1aの内周側に流入して長手方向に縮んで圧縮応力が残った状態になっているので、成形の過程で大きく伸ばされる湾曲部1aの外周側の縦壁12と天板11との会合部である角部(
図4のC部)も、圧縮応力が残った状態から張り出した形状に成形されることになる。このため、圧縮応力のない状態から成形される絞り成形の場合に比べて、必要とされる材料の伸び性が小さくなる。その結果、伸び特性の低い高強度材(例えば590MPa以上の高張力鋼板)を素材金属板8として用いても、割れの発生を抑制して良好に成形することが可能になる。
【0061】
また、湾曲部1aの内周側の縦壁部14およびフランジ部15の成形時には、曲げ型75により曲げ成形されるので、湾曲部1aの内周側の部分や長手方向の先端部分については、絞り成形持に必要であったしわ押さえ領域が不要になるので、素材金属板8を小さくすることができ、高い材料歩留まりでの成形が可能になる。
【0062】
最後に、
図1(e)に示すように、プレス部品1の成形が完了した後に、金型の中から成形後のプレス部品1を取り出す際には、例えばロック機構76により、ブランクホルダー73をパンチ72に対して相対的に動かないように固定して、ブランクホルダー73が成形後のプレス成形品1をダイ71に押し付けて加圧しないようにして、ブランクホルダー73とパンチ72に対して、パッド74とダイ71および曲げ型75とを相対的に離してから取り出す。これにより、成形後のプレス部品1を、加圧されたパッド74とブランクホルダー73とにより変形して損傷することなく、取り出すことができる。
【0063】
以上がプレス部品の製造装置の概要であるが、金型の構造についてさらに詳しく説明する。
【0064】
図5(a)〜
図5(d)は、本発明で用いる金型の一例を示す説明図である。ロック機構76は
図5〜7では省略してある。
【0065】
この金型は、曲げ型75とダイ(絞り型)71とパッド74とをそれぞれダイベース77に直接支持させるとともに、それぞれがダイベース77に対して単独で駆動するものである。この金型は、曲げ型75や絞り型73を支持するフレーム等を用いないために全体を小型化できる。
【0066】
図6(a)〜
図6(d)は、本発明で用いる金型の他の一例を示す説明図である。
この金型は、サブベース75でパッド74とダイ71(絞り型)を抱える構造とし、パッド74とダイ71(絞り型)の偏芯荷重を、曲げ型と一体のサブベース75で受けることにより、上記
図5に示す金型例より金型変形への改善が図れる。
【0067】
図7(a)〜
図7(d)は、本発明で用いる金型の他の一例を示す説明図であり、
図8は、この金型の分解斜視図である。
【0068】
この金型は、サブベース75ではなくダイベース77にパッド74を組み込むことにより、サブベース75に掛かるパット74の荷重負担を回避できる。サブベースに掛かる垂直方向の荷重は一体の曲げ型から受けるのみになるため、上記
図6に示す金型例よりサブベースの金型変形の改善が図れる。
【0069】
図5(a)〜
図5(d)、
図6(a)〜
図6(d)、
図7(a)〜
図7(d)に例示する金型は、いずれも、本開発に係る製造方法を実施するのに特に有効な構造を有する金型であるが、金型の変形を抑制する構造は金型のコストやサイズに影響するため、製造する部品の大きさや形状、さらには使用する素材鋼板の強度などを勘案して金型に必要な剛性を考慮して、どの構造を有する金型を用いればよいかを、適宜決定すればよい。
【実施例】
【0070】
図9(a)〜
図9(c)は、比較例1〜3と実施例1〜3において成形するプレス部品1を示す、それぞれ正面図、平面図、右側面図である。
図10は、比較例1〜3で用いた素材金属板8の形状を示す平面図である。
図11は、実施例1〜3で用いた素材金属板8の形状を示す平面図である。さらに、
図12は、実施例1〜3で用いた金型の構成を示す斜視図である。
【0071】
表1に、比較例1〜3および実施例1〜6の結果をまとめて示す。
比較例1〜3および実施例1〜3では、
図9(a)〜
図9(c)に示す形状のプレス部品1を、素材金属板として破断強度が270,590,980MPaで板厚が1.2mmの鋼板を用い、製造方法として従来技術である絞り成形法,本発明法により、それぞれ製造した。
【0072】
なお、
図9〜11中の数値の単位はmmである。なお、表1における材料歩留まりは、素材金属板に対し部品となった材料の割合である。
【0073】
【表1】
【0074】
比較例1および実施例1は、破断強度が270MPa伸び性に優れた低強度の鋼板を素材金属板として用いてプレスを行った例であり、どちらも割れなく成形できたが、材料歩留まりは、比較例1に比べて実施例1の方が非常に高く有利であることが確認できた。
【0075】
比較例2,3と実施例2,3は、伸び性の低い高強度鋼板を素材金属板として用いてプレスを行った例であり、比較例2,3では割れが発生し成形できなかったが、実施例2,3によれば割れなく良好に成形できた。
【0076】
図13(a)は、実施例4で用いた素材金属板8の形状を示す平面図であり、
図13(b)は、プレス成形品1の斜視図である。
【0077】
実施例4では、
図13(b)に示す形状のプレス部品1を、
図13(a)に示す形状の予加工した破断強度590MPaで板厚1.2mmの鋼板を素材金属板として用いて成形した例である。このような平板状でない素材金属板を用いても良好に成形が可能であることが確認できた。
【0078】
図14(a)は、実施例5で用いた素材金属板8の形状を示す平面図であり、
図14(b)は、プレス成形品1の斜視図である。
【0079】
実施例5は、
図14(b)に示す形状を
図14(a)に示す平板状の破断強度590MPaで板厚が1.2mmの鋼板を素材金属板として用いて成形した例である。天板部は平坦ではないが、パッドによる加工により天板部が加工されることにより良好に成形できた。
【0080】
図15は、実施例6で用いた素材金属板の形状を示す平面図であり、
図16(a)〜
図16(c)は、実施例6で成形した中間形状を示す、それぞれ、正面図、平面図、右側面図であり、
図17(a)〜
図17(c)は、実施例6で成形したプレス部品1の形状を示す、それぞれ、正面図、平面図、右側面図であり、
図18は、実施例6で本発明により成形を行うための金型構成を示す斜視図である。
【0081】
実施例6は、
図17(a)〜
図17(c)に示す複雑な形状を、伸び性の低い引張強度が980MPa,板厚1.2mmの高強度鋼板を素材金属板として用いて成形した例である。素材金属板として、
図15に示す形状の素材金属板を、
図18に示す構成の金型を用いて、本発明により
図16(a)〜
図16(c)に示す中間形状に成形し、さらに後加工することにより
図17(a)〜
図17(c)に示す形状のプレス部品1を、割れおよびしわの発生無く良好に成形できた。
【符号の説明】
【0082】
1 プレス部品
1a 湾曲部
8 素材金属板
11 天板部
12 湾曲部の外周側の縦壁
13 湾曲部の外周側のフランジ部
14 湾曲部の内周側の縦壁
15 湾曲部の内周側のフランジ部
2 部品
21 天板
22 L字状湾曲の外側の縦壁
23 L字状湾曲の外側の縦壁につながるフランジ
24 L字状湾曲の内側の縦壁
25 L字状湾曲の内側の縦壁につながるフランジ
3 素材金属板
41 ダイ
42 パンチ
43 ブランクホルダー
5 絞りパネル
6 絞りパネル
71 ダイ
72 パンチ
73 ブランクホルダー
74 パッド
75 曲げ型