(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記帯域制限フィルタのセンタータップのタイミングが、前記入力信号において抑圧対象となったピーク検出点のタイミングと一致するように前記入力信号に遅延時間を付与する第2の遅延調整手段をさらに備え、
前記第2の減算手段は、
前記第2の遅延調整手段から出力された入力信号から前記第3のピーク信号を減算する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のピーク抑圧装置。
【背景技術】
【0002】
近年、移動通信の分野では、伝送効率向上を目的としてW−CDMAにおける高速ダウンリンクパケット伝送(HSDPA:High Speed Downlink Packet Access)、周波数利用効率向上の為のOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplex)変調方式等が用いられている。HSDPA及びOFDM変調方式等は、多値QAM(Quadrature Amplitude Modulation)方式を用いている。そのため、信号品質(変調精度:EVM 等)に対する要求が、従来のQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)方式の場合よりも厳しい規格となっている。
【0003】
一般的に、送信装置の小型、低消費電力化を図る目的から、電力増幅器の低バックオフ動作を実現させる必要がある。そのため、電力増幅器は、送信信号のピークファクタを低減するピーク抑圧回路を採用している。ピーク抑圧回路は、送信信号に対して若干の品質劣化を許容して、ピーク成分を抑圧する信号処理を行う。
【0004】
以下に、特許文献1に開示されているピーク抑圧回路について説明を行う。ピーク抑圧回路は、IQ信号を受け取る。IQ信号は、同相成分及び直交位相成分を有する信号であって、送信システム毎の各キャリア信号要件を満足するようにスペクトルが帯域制限された信号である。ピーク抑圧回路は、受け取ったIQ信号の振幅値を検出し、抑圧すべきピーク位置を決定する。さらに、ピーク抑圧回路は、入力されたIQ信号からピークを抑圧するために生成した信号(以下、ピーク抑圧用信号)を減算する。ピーク抑圧用信号は、IQ信号のスペクトル帯域とほぼ同じか、又はその範囲内に収まる周波数帯域の信号とするためにFIRフィルタを用いて帯域制限される。
【0005】
ここで、帯域制限を行うFIRフィルタに複数の連続したピークパルスが入力された場合に、その連続したピークパルス中の、ある点でのピークパルス入力に対する帯域制限フィルタの出力応答は、畳み込み影響(インパルス応答の重なり合い)により、元のピークパルスの振幅よりも大きくなる。
【0006】
そのため、ピーク抑圧回路は、ピークパルスの検出位置に応じて、ピークパルスに固定値の重み係数を乗算し、ピークパルスの振幅を軽減している。これにより、帯域制限フィルタにおける畳み込み影響を軽減している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されたピーク抑圧回路では、以下の通り、過剰なピーク抑圧を防ぐことができない場合が存在する。
【0009】
図7は帯域制限フィルタのタップ係数の一例を示す図で、
図8は、帯域制限フィルタの、
図7とは異なるタップ係数の例を示す図である。
【0010】
例えば、
図7に示した帯域制限フィルタのタップ係数は、比較的タップ数が少ない場合の例を示している。
図7に示した帯域制限フィルタは、ピーク検出点とタイミングを一致させたセンタータップの係数を1.0とすると、その前後の隣接タップ(サンプル点)のタップ係数は約0.5である。且つ、それ以外のタップ係数は小さい為、帯域制限フィルタの出力値における畳み込み影響は、センタータップに対してその前後の隣接タップが支配的である。従って、特許文献1のピーク抑圧回路における、あるピーク点に対して、その前後隣接点でのピーク検出有無判定によって固定値の重み係数を選択する処理であっても、帯域制限フィルタの出力値における畳み込み影響による過剰なピーク抑圧を、ある程度は防ぐことが可能である。
【0011】
しかしながら、信号処理の高速化や広帯域化に伴って、帯域制限フィルタのタップ数を多くする場合がある。例えば、
図7に示す例の4倍のサンプリング周波数を想定すると、
図8に示すようなタップ係数が考えられる。この場合、帯域制限フィルタの出力において、センタータップの前後に隣接タップ以外に非常に広範囲のタップからの畳み込み影響が生じる。そのため、特許文献1のピーク抑圧回路による処理では過剰なピーク抑圧を防ぐことができないという問題が発生する。この問題について、以下に詳細に説明する。
【0012】
図9は、
図7に示した帯域制限フィルタのタップ係数の場合の、帯域制限フィルタの出力値における畳み込み影響(インパルス応答の重なり合い)を説明する図であり、
図10は、
図8に示した帯域制限フィルタのタップ係数の場合の、帯域制限フィルタの出力値における畳み込み影響(インパルス応答の重なり合い)を説明する図である。いずれも、閾値Thを越えるピーク振幅(図中の閾値超過ピーク振幅)が4サンプル連続した場合の例を示し、最も大きい3サンプル目の振幅を1.0として正規化して表現している。
【0013】
図9、
図10ともに、帯域制限フィルタに入力されるピークパルスに、仮に重み係数を乗算せず、それぞれ
図7、
図8に示したタップ係数を有する帯域制限フィルタに入力した場合の、帯域制限された各ピークパルス信号(図中の帯域制限後の各ピークパルス)が重なり合った帯域制限フィルタの出力信号(図中の帯域制限ピークパルスの合成信号)を示している。
【0014】
図7に示したタップ係数の例では、
図9を見ると理解されるように、3サンプル目の振幅1.0のピーク振幅に対して、帯域制限フィルタの出力値は約1.5倍に留まっている。これに対して、
図8に示したタップ係数の例では、
図10を見ると理解されるように、3サンプル目の振幅1.0のピーク振幅に対して、帯域制限フィルタの出力値は約2.8倍まで大きくなり、更に非常に広範囲のタップからの畳み込み影響が生じていることがわかる。従って、
図8に示したタップ係数の例では、あるピーク点の、その前後隣接点でのピーク検出有無判定によって固定値の重み係数を選択するという処理だけでは、広範囲のタップからの畳み込み影響によって発生する過剰なピーク抑圧を防ぐことはできない。
【0015】
次に、特許文献2を例に、別の技術について図面を参照しながら説明する。特許文献2に開示されている構成においては、事前に定義した期間の時間ウインドウにおいて振幅が閾値を超過するピークのうち、事前に定義した数やピーク信号間の位置(時間間隔)によって与えられた選択基準に合致したピーク信号のみを選択し、その情報に基づいてピーク抑圧用信号を生成する。選択されないピーク信号に対するパルス振幅は0(ゼロ)に設定される。すなわち、閾値を超えたピーク信号を全て抑圧するのではなく、例えば、事前に定義された期間の時間ウインドウ内の、上位のものから事前に定義した数や、事前に定義した時間間隔以上離れたピーク信号についてのみ、ピーク抑圧用信号を生成するのである。
【0016】
本技術では、全てのピークに対して抑圧用パルス信号を生成する構成ではないので、少なくとも、1回の処理手順に関しては、帯域制限フィルタの出力値における畳み込み影響(インパルス応答の重なり合い)によって元の入力パルスの振幅よりも大幅に大きくなるという課題は軽減される。
【0017】
しかしながら、この手法は、ピークとピークの発生する時間間隔が十分離れた条件でのみ成立し、閾値を越えるピークが短時間に複数発生したり、ピークが長時間連続する場合には、十分にピーク抑圧が行えず、閾値を越える信号が残る課題がある。この課題に対して、特許第3954341号公報の例では、ピーク抑圧回路を、複数段カスケードに接続し、同様の処理を複数回反復させることで回避しようとしている。従って、1回の処理手順においては、帯域制限フィルタの出力値における畳み込み影響が軽減されるものの、ピーク抑圧が不十分という課題を解決させる為に複数回反復処理を行うと、結局、帯域制限フィルタの出力における畳み込み影響が大きくなってしまう。そのため、特許文献2に開示されているピーク抑圧回路においても、特許文献1と同様に、広範囲のタップからの畳み込み影響によって発生する過剰なピーク抑圧を防ぐことができない。
【0018】
本発明の目的は、閾値を超える入力信号が長時間連続しても、抑圧不足や過剰な抑圧を発生させることなく、最適なピーク抑圧を実現するピーク抑圧装置及びピーク抑圧方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の態様にかかるピーク抑圧装置は、入力信号の振幅値から予め定められた閾値を減算し第1のピーク信号を生成する第1の減算部と、前記第1のピーク信号に重み係数を乗算し第2のピーク信号を生成する乗算部と、前記第2のピーク信号に複数のタップ係数を有するフィルタを用いて帯域制限を行い第3のピーク信号を生成する帯域制限フィルタと、前記入力信号から前記第3のピーク信号を減算する第2の減算部と、前記第1のピーク信号の振幅値を、少なくとも前記帯域制限フィルタのセンタータップにおいて用いられるタップ係数及び前記センタータップの前後のタップにおいて用いられるタップ係数を用いて畳み込み演算を行った場合に生成される第4のピーク信号の振幅値を用いて除算した値に基づいて前記重み係数を生成する重み係数生成部とを備えるものである。
【0020】
本発明の第2の態様にかかるピーク抑圧方法は、入力信号の振幅値から予め定められた閾値を減算し第1のピーク信号を生成し、前記第1のピーク信号の振幅値を、少なくとも帯域制限フィルタのセンタータップにおいて用いられるタップ係数及び前記センタータップの前後のタップにおいて用いられるタップ係数を用いて畳み込み演算を行った場合に生成されるタップ係数乗算後ピーク信号の振幅値を用いて除算した値に基づいて前記重み係数を生成し、前記第1のピーク信号に重み係数を乗算し第2のピーク信号を生成し、前記第2のピーク信号に複数のタップ係数を有する前記帯域制限フィルタを用いて帯域制限を行い第3のピーク信号を生成し、前記入力信号から前記第3のピーク信号を減算するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、閾値を超える入力信号が長時間連続しても、抑圧不足や過剰な抑圧を発生させることなく、最適なピーク抑圧を実現するピーク抑圧方法と回路を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(実施の形態1)
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。はじめに
図1を用いて本発明の実施の形態1にかかるピーク抑圧装置10の構成例について説明する。ピーク抑圧装置10は、減算部11、乗算部12、帯域制限フィルタ13、減算部14及び重み係数生成部15を有している。
【0024】
減算部11は、他の回路もしくは他の装置等から送信された入力信号を受信する。さらに、減算部11は、入力信号の振幅値から予め定められた閾値を減算し、減算後の信号を乗算部12へ出力する。予め定められた閾値を減算した後の信号は、予め定められた閾値を超える振幅を示すことから、例えばピーク信号と称してもよい。もしくは、ピーク信号は、後段の回路もしくは機能ブロックにおいて入力信号のピーク値を抑圧するために用いられる信号であるため、ピーク抑圧用パルス信号と称されてもよい。
【0025】
乗算部12は、減算部11から出力されたピーク信号に重み係数を乗算し、重み係数を乗算したピーク信号を帯域制限フィルタ13へ出力する。乗算部12から出力されるピーク信号は、減算部11から出力されるピーク信号に重み係数が乗算されることにより、振幅値が小さくなる。
【0026】
帯域制限フィルタ13は、乗算部12から出力されたピーク信号に帯域制限を行い、帯域制限を行ったピーク信号を減算部14へ出力する。帯域制限フィルタ13は、複数のタップ係数を有するフィルタを用いて帯域制限を行う。タップ係数は、例えば外部装置等から出力されるキャリア信号の情報に基づいて定められてもよい。
【0027】
減算部14は、ピーク抑圧装置10が受信した入力信号から、帯域制限フィルタ13から出力されたピーク信号を減算する。これにより、ピーク抑圧装置10は、入力信号のピーク位置における振幅を抑圧し、振幅が抑圧された入力信号を外部装置等へ出力する。
【0028】
ここで、乗算部12において用いる重み係数を生成する重み係数生成部15について説明を行う。重み係数生成部15は、減算部11から出力されたピーク信号を、少なくとも帯域制限フィルタ13のセンタータップにおいて用いられるタップ係数及びセンタータップ前後のタップにおいて用いられるタップ係数を用いて畳み込み演算を行う。重み係数生成部15は、帯域制限フィルタ13と同一のタップ数及びタップ係数を用いてピーク信号の畳み込み演算を行ってもよい。
【0029】
さらに、重み係数生成部15は、減算部11から出力されたピーク信号の振幅値を、畳み込み演算後の値を用いて除算した値を重み係数として乗算部12へ出力する。
【0030】
以上説明したように、本発明の実施の形態1にかかるピーク抑圧装置は、重み係数生成部15において生成された重み係数を乗算したピーク信号を帯域制限フィルタ13へ出力する。重み係数生成部15は、少なくとも帯域制限フィルタ13のセンタータップにおいて用いられるタップ係数及びセンタータップの前後のタップにおいて用いられるタップ係数を用いて畳み込み演算を行うことにより、帯域制限フィルタ13から出力されるピーク信号におけるパルスの重なりによる畳み込み影響を予め算出することができる。そのため、帯域制限フィルタ13は、帯域制限フィルタ13における畳み込み影響が予め考慮された重み係数が乗算されたピーク信号について帯域制限のためのフィルタ処理を行う。これにより、減算部14は、帯域制限フィルタ13における畳み込み影響が軽減されたピーク信号を入力信号から減算することができる。
【0031】
続いて、
図2を用いて本発明の実施の形態1にかかるピーク抑圧装置10の詳細な構成例について説明する。ピーク抑圧装置10は、乗算部12、帯域制限フィルタ13、減算部14、重み係数生成部15、振幅演算部21、閾値減算部22、パルス生成部23、遅延調整部24、タップ係数演算部25、遅延調整部26及び遅延調整部27を有している。
図2のピーク抑圧装置10において、
図1と同様の構成については同一の符号を付して説明する。また、振幅演算部21及び閾値減算部22は、
図1の減算部11に相当する。
【0032】
ピーク抑圧装置10は、入力信号として入力IQ信号を受信する。入力IQ信号は、送信システム毎の各キャリア信号要件を満足するようにスペクトルが帯域制限された信号である。入力IQ信号は、同相成分及び直交位相成分を有する。
【0033】
振幅演算部21は、入力IQ信号の振幅値Rを算出する。閾値減算部22は、振幅値Rから任意に設定可能な閾値Thを減算してR−Thを算出する。閾値減算部22は、減算結果としてR−Thをパルス生成部23及び遅延調整部24へ出力する。閾値減算部22は、R−Th<0となる信号点については、振幅値を0レベルとする処理を行い、減算結果を出力する。
【0034】
パルス生成部23は、ピーク抑圧用パルス信号を生成する。パルス生成部23は、閾値減算部22から、R−Thの演算結果を受け取る。さらに、パルス生成部23は、遅延調整部26によって所定の遅延が与えられた入力IQ信号を受け取る。所定の遅延は、例えば、振幅演算部21からパルス生成部23に至るまでの入力IQ信号の処理時間である。
【0035】
パルス生成部23は、遅延調整部26から出力される入力IQ信号の位相情報exp(jθ)と、閾値減算部22から出力されるR−Thを乗算し、(R−Th)exp(jθ)となるピーク抑圧用パルス信号を生成する。ここで、exp(jθ)=cosθ+jsinθ(jは虚数を表す添え字)である。このようにして、パルス生成部23は、複素平面上において、閾値Th以上の振幅を持つ信号点の位相を変えずに、振幅のみを閾値Thまで制限する為のピーク抑圧用パルス信号となるベクトル(パルス)を算出する。
【0036】
重み係数生成部15は、遅延調整部24によって所定の遅延が与えられた演算結果R−Thを受け取る。所定の遅延は、例えばパルス生成部23から乗算部12に至るまでのピーク抑圧用パルス信号を生成するための処理時間である。重み係数生成部15は、後段の帯域制限フィルタ13のタップ係数によって生じる帯域制限フィルタ13の出力信号におけるパルスの重なりを予め算出し、その結果によって帯域制限前のピーク抑圧用パルス信号振幅を適応的に調整するための重み係数を生成する。また、重み係数生成部15は、演算結果R−Thに基づいて重み係数を生成し、生成した重み係数を乗算部12へ出力する。重み係数生成部15における動作の詳細については後述する。
【0037】
乗算部12は、パルス生成部23から出力されたピーク抑圧用パルス信号に重み係数生成部15から出力された重み係数を乗算する。このようにして乗算部12は、重み係数を用いて振幅調整されたピーク抑圧用パルス信号を生成し、生成したピーク抑圧用パルス信号を帯域制限フィルタ13へ出力する。
【0038】
帯域制限フィルタ13は、入力IQ信号(送信キャリア信号)のスペクトル帯域とほぼ同じか、又はその範囲内に収まる周波数帯域を持つフィルタ特性を有する。例えば、帯域制限フィルタ13は、FIRフィルタを用いて構成されるフィルタ回路である。また、帯域制限フィルタ13は、外部から設定されるキャリア信号の情報を用いてタップ係数を算出するタップ係数演算部25において決定されたタップ係数を用いる。帯域制限フィルタ13は、帯域制限後のピーク抑圧用パルス信号を減算部14へ出力する。
【0039】
遅延調整部27は、帯域制限フィルタ13のセンタータップのタイミングが、入力IQ信号において検出されて抑圧対象となったピーク検出点のタイミングと一致するように遅延調整を行う。
【0040】
減算部14は、遅延調整部27において遅延調整された入力IQ信号から、帯域制限フィルタ13から出力されるピーク抑圧用パルス信号を減算してピーク値を閾値Thまで抑圧する。
【0041】
続いて、
図3を用いて本発明の実施の形態1にかかる重み係数生成部15の構成例について説明する。重み係数生成部15は、センタータップをmタップ目とし、タップ数が2m−1のFIRフィルタである。タップ数が2m−1とは、例えばタップ係数としてC
1〜C
2m−1を有することである。センタータップにおけるタップ係数は、C
mである。重み係数生成部15は、1サンプル遅延部31_1〜31_2m−2、タップ係数乗算部32_1〜32_2m−1、加算部33及び除算部34を有している。
【0042】
1サンプル遅延部31_1は、遅延調整部24を介して、閾値減算部22において算出されたR−Thを受け取る。さらに、1サンプル遅延部31_1は、予め定められた期間R−Thの値を保持し、1サンプル遅延部31_2へ出力する。つまり、1サンプル遅延部31_1〜31_2m−2は、重み係数生成部15に連続的に入力されたR−Thの値をシフト処理して次段の1サンプル遅延部へ出力する。1サンプル遅延部31_1〜31_2m−2は、シフト処理部と称されてもよい。
【0043】
また、閾値減算部22においては、R−Th<0の信号点については、0レベルとする処理を行い出力する。そのため、重み係数生成部15は、R−Th≧0となる演算結果R−Thを遅延調整部24から受け取る。つまり、閾値減算部22は、あるサンプリング点において閾値Thを超える振幅Rが存在しない場合、0を出力する。
【0044】
タップ係数乗算部32_1は、遅延調整部24を介して閾値減算部22から算出されたR−Thにタップ係数C
1を乗算し、C
1(R−Th)を加算部33へ出力する。同様に、k(k=1〜2m−1)タップ目における1サンプル遅延部の出力をRk−Thとすると、タップ係数乗算部32_kは、C
k(Rk−Th)を加算部33へ出力する。また、mタップ目のセンタータップにおいては、タップ係数乗算部32_mは、1サンプル遅延部31_m−1の出力値Rm−Thにタップ係数C
mを乗算し、C
m(Rm−Th)を加算部33及び除算部34へ出力する。
【0045】
加算部33は、タップ係数乗算部32_1〜32_2m−1から出力される値を加算し、加算した値(以下、出力値Bとする)を除算部34へ出力する。
【0046】
除算部34は、mタップ目のセンタータップの出力値C
m(Rm−Th)(以下、出力値Aとする)を、加算部33の出力値Bを用いて除算する。除算部34は、式1の除算結果を重み係数として乗算部12へ出力する。
【0048】
ここで、重み係数生成部15は、帯域制限フィルタ13の出力値における畳み込み影響(パルスの重なり)を予め算出して重み係数を決定するために設けられる。そのため、重み係数生成部15における2m−1なるタップ数は、帯域制限フィルタ13と同じタップ数か、もしくは回路規模削減の為、帯域制限フィルタ13におけるタップのうち、重なり影響が支配的となるセンタータップ前後の数タップ分を選択したタップ構成でもよい。また、タップ係数C
1、C
2、・・・、C
m−1、C
m、C
m+1、・・・、C
2m−1も、帯域制限フィルタ13のタップ係数と同一か、もしくは近似的な値としてもよい。
【0049】
重み係数生成部15の構成により、センタータップにタイミングが合うように調整された、あるピーク点における演算結果R−Thに対して、加算部33の出力値Bは、後段の帯域制限フィルタ13において畳み込み演算の影響(パルスの重なり)を受けている出力値に相当する。除算部34は、センタータップの出力値Aを加算部の出力値Bを用いて除算した結果を重み係数として出力する。乗算部12は、パルス生成部23から出力されたピーク抑圧用パルス信号に重み係数を乗算することによって、後段の帯域制限フィルタ13において発生する畳み込み影響(パルスの重なり)を抑圧することができる。
【0050】
図4は、
図8に示したタップ係数による帯域制限フィルタ部13の出力における畳み込み影響に対して、特許文献1に開示されている、あるピーク点に対して、その前後隣接点でのピーク検出有無判定によって固定値の重み係数を選択する処理を行った場合のピーク抑圧回路の入力振幅と、帯域制限フィルタ後のピークパルスと、ピーク抑圧回路の出力振幅の関係を示す図である。閾値を超えるピークが長時間、且つ連続的に発生した場合、目標とするピーク抑圧閾値に対して、抑圧不足や過剰な抑圧が生じており、最適なピーク抑圧が行われていないことがわかる。
【0051】
図5は、
図8に示したタップ係数による帯域制限フィルタ部13の出力における畳み込み影響に対して、本発明の重み係数生成部15による、重み係数を適応的に調整する処理を行った場合のピーク抑圧回路の入力振幅と、帯域制限フィルタ後のピークパルスと、ピーク抑圧回路の出力振幅の関係を示す図である。閾値を超えるピークが長時間、且つ連続的に発生した場合でも、目標とするピーク抑圧閾値に対して、抑圧不足や過剰な抑圧が生じることなくピーク抑圧が実現できており、タップ係数による帯域制限フィルタ部の出力における畳み込み影響が、
図4と比較して、本発明に係る方法と回路によって改善されることがわかる。
【0052】
以上、本発明によるピーク抑圧方法と回路とによれば、閾値を超える入力信号が長時間連続しても、抑圧不足や過剰な抑圧が発生することなく、最適なピーク抑圧を実現することが可能となる。これは、連続して発生するそれぞれのピークに対して、帯域制限フィルタ13における畳み込み演算の出力値に対するピークの振幅の割合を算出し、この算出結果に基づいて重み係数を生成していることから実現することができる。
【0053】
(実施の形態2)
続いて、
図6を用いて本発明の実施の形態2にかかる重み係数生成部40の構成例について説明する。本図の重み係数生成部40について、
図3の重み係数生成部15と同様の要素については同一の符号を付して、詳細な説明を省略する。重み係数生成部40は、
図1及び2において、重み係数生成部15の代わりに用いられる。
【0054】
重み係数生成部40は、1サンプル遅延部31_1〜31_2m−2、カウンタ41、加算部42、除算部43、係数演算部44及び乗算部45を有している。重み係数生成部40は、重み係数生成部15と比較して、回路規模低減のため、タップ係数用の乗算器を設けるかわりにカウンタ41を設けている。重み係数生成部40は、センタータップをmタップ目とし、タップ数が2m−1のFIRフィルタである。ここで、重み係数生成部40は、タップ係数用の乗算器を有していない。そのため、タップ係数がすべて1倍となるFIRフィルタとして動作する。
【0055】
カウンタ41は、閾値減算部22から出力されたR−Th及び1サンプル遅延部31_1〜31_2m−2のそれぞれから出力されたRk−Th(k=1〜2m−1)が、0でない数をカウントする。カウンタ41においてカウントされたRk−Thが0でない数を計数N(Nは、0以上の整数)とする。閾値減算部22は、R−Th<0の信号点については、0レベルとして処理する。そのため、閾値減算部22は、あるサンプリング点において閾値Thを超える振幅Rが存在しない場合、0を出力する。つまり、カウンタ41は、閾値Thを超える振幅Rkの数をカウントする。Rk―Thは、kタップ目における1サンプル遅延部の出力値である。
【0056】
加算部42は、閾値減算部22から出力されたR−Th及び1サンプル遅延部31_1〜31_2m−2のそれぞれから出力されたRk−Thを加算し、加算した値(以下、出力値Dとする)を除算部43へ出力する。
【0057】
1サンプル遅延部31_m−1は、mタップ目のセンタータップの出力値Rm−Th(以下、出力値Cとする)を、除算部43へ出力する。除算部43は、mタップ目のセンタータップの出力値Rm−Th(出力値C)を、加算部42の出力値Dを用いて除算する。
【0058】
係数演算部44は、カウンタ41から出力された計数Nと、事前に設定された任意の設定値Dとを用いて補正係数を算出する。例えば、補正係数は、計数Nの関数としてf(N)として示される。係数演算部44は、計数Nを変数とする関数g(N)とすると、事前に設定された任意の設定値Dとを用いて、f(N)=g(N)×Dとして、補正係数を算出する。関数g(N)は、タップ数もしくは帯域制限フィルタ13において用いられるタップ係数等に応じて定められる。
【0059】
乗算部45は、除算部43から出力された除算結果C/Dに、係数演算部44から出力された補正係数f(N)を乗算する。乗算部45は、乗算結果を重み係数として出力する。
【0060】
図6に示す重み係数生成部40の構成は、例えば、
図8に示したタップ係数のように、帯域制限フィルタ13のタップ係数において、センタータップ前後の数タップが、ほぼ1倍に近い値の場合に有効である。2m−1なるタップ数は、回路規模削減の為、帯域制限フィルタ13におけるタップのうち、重なり影響が支配的となるセンタータップ前後の数タップ分を選択したタップ構成とすればよい。
【0061】
ここで、
図6に示す重み係数生成部40の構成例では、簡略化の目的から、タップ係数用乗算器を削除し、タップ係数が全て1倍となるFIRフィルタを使用している。従って、帯域制限フィルタ13におけるタップ影響を近似し、
図3に示した重み係数生成部15の構成例と同等の特性を得る必要がある。以下に、重み係数生成部40における重み係数の算出方法について説明する。
【0062】
重み係数を算出する際に、k(=1〜2m−1)タップ目における閾値減算部22の出力を(Rk−Th)とすると、除算部43における除算結果C/Dは以下の式2となる。
【0064】
重み係数生成部40は、式2と、
図3に示した重み係数生成部15における除算結果A/Bである式1との差分を補正する必要がある。ここで、式1は、全タップ係数をCmで正規化した以下に示す式3と等しい。
【0066】
式3の分母における、2m−1タップのFIRフィルタ出力(総和)に対するセンタータップのタップ係数C
mの影響は、パルスの数に依存する。つまり、Rk−Th≧0となるパルスの数が多ければ、FIRフィルタ出力の総和は大きくなり、Rk−Th≧0となるパルスの数が少なければ、FIRフィルタ出力の総和は小さくなる。その為、式2と式3との差分を補正係数を用いて近似的に補正するには、パルスの数に応じた補正係数を用いる方法が考えられる。このような補正処理を実現する為、重み係数生成部40は、入力されるRk−Thが0(ゼロ)でない数、すなわちパルスの数を計数カウントするカウンタ41と、カウンタ41による計数Nと事前に設定された任意の設定値Dと計数Nによって定まる関数g(N)とを用いて補正係数を算出する係数演算部44とを有している。
【0067】
以上説明したように、重み係数生成部40を用いることにより、
図6に示す重み係数生成部40の実施例でも、後段の帯域制限フィルタ13のタップ影響を近似することができる。重み係数生成部40は、
図3の重み係数生成部15と同様に、前述までの処理で算出した重み係数をパルス生成部23からのピーク抑圧用パルス信号に乗算することで、帯域制限フィルタ13の出力で発生する畳み込み影響(パルスの重なり)を抑圧することが可能となる。
【0068】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0069】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0070】
この出願は、2013年1月21日に出願された日本出願特願2013−008592を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。